説明

導電性樹脂

【課題】高い引張強度を有すると共に破断伸度および衝撃強度の低下が少ない導電性樹脂を提供する。
【解決手段】カーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性樹脂であって、第一族及び第ニ族元素の残量が100ppm以下、好ましくは10ppm以下のカーボンナノファイバーを用い、原熱可塑性樹脂に対する衝撃強度の強度比が70%以上であることを特徴とする導電性樹脂であり、好ましくは、DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを用い、破断伸度40%以上、原熱可塑性樹脂に対する引張強度比100%以上であるの導電性樹脂とその製品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度に優れると共に、破断伸度および衝撃強度の低下が少ない導電性樹脂に関する。本発明の導電性樹脂はキャリアーテープやトレイ、さらには複写機、ファクシミリ、ブリンター等の電子写真装置に用いられる導電性樹脂として好適である。
【背景技術】
【0002】
従来から、導電性カーボン粉末を多量に含有した樹脂によって形成した導電性樹脂が知られている。例えば、カーボンブラックなどの炭素粉末や炭素繊維、これらを混合した導電性樹脂組成物が知られており(特許文献1、2)、また、炭素粉末や炭素繊維に代えてカーボンナノチューブを用いたものや、炭素繊維と共にカーボンナノチューブを配合した導電性樹脂組成物が知られており(特許文献3、4)、これらの樹脂組成物によって導電性シートが形成されている。
【0003】
しかし、従来の導電フィラー含有樹脂組成物によって形成された導電性シートは、フィラーの含有量が多いために機械的強度に劣り、しかも伸びが殆どないので二次加工が困難であり、実用性に限界がある。この欠点を解消するため、親油性の高いカーボンナノファイバーを用いることによって機械的強度を高め、破断伸度の劣化を抑制した導電性樹脂シートが提案されている(特許文献5)。
【特許文献1】特許第3177606号公報
【特許文献2】特開2004−225003号公報
【特許文献3】特開2004−182842号公報
【特許文献4】特開2002−97375号公報
【特許文献5】特開2006−152132号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
親油性の高いカーボンナノファイバーを用いた導電性樹脂シート(特許文献5)は、導電性に優れており、高い引張強度を有し、破断伸度の低下も少ないが、衝撃強度については改善の余地がある。本発明は高い引張強度を有すると共に破断伸度および衝撃強度の低下が少ない導電性樹脂を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は以下に示す構成を有することによって上記課題を解決した導電性樹脂とその用途に関する。
(1)カーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性樹脂であって、第一族及び第ニ族元素残量が100ppm以下のカーボンナノファイバーを用い、原熱可塑性樹脂に対する衝撃強度の強度比が70%以上であることを特徴とする導電性樹脂。
(2)DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性樹脂であって、成型品破断伸度が40%以上、原熱可塑性樹脂に対する引張強度比100%以上である上記(1)の導電性樹脂。
(3) 表面抵抗値が103Ω/□以下、引張強度55MPa以上である上記(1)または上記(2)の導電性樹脂シート。
(4)上記(1)〜上記(3)の何れかに記載する導電性を用いた電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シート。
【発明の効果】
【0006】
本発明の導電性樹脂は、第一族及び第ニ族元素残量を100ppm以下に低減したカーボンナノファイバーを用いることによって、原熱可塑性樹脂に対する衝撃強度の強度比を70%以上に高めたものであり、本発明の導電性樹脂シートによれば衝撃に強い導電性樹脂製品を得ることができる。
【0007】
また、第一族及び第ニ族元素残量を低減すると共に、DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを用いることによって、衝撃強度および破断伸度の低下が少なく、かつ原熱可塑性樹脂に対する引張強度比の高い導電性樹脂を得ることができる。具体的には、原熱可塑性樹脂に対する衝撃強度の強度比を70%以上、および破断伸度40%以上、引張強度比100%以上の導電性樹脂を得ることができる。さらに、体積抵抗値1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーを用い、表面抵抗値が103Ω/□以下の導電性樹脂を得ることができる。
【0008】
本発明の導電性樹脂は高い導電性と共に優れた加工性を有するので、本発明の導電性樹脂を用いることによって、電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シートなどの製品について、高品質の導電性製品を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の導電性樹脂は、カーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成したものである。このカーボンナノファイバーは、例えば、直径が数十ナノメータ以下、長さが数百ミクロンメータ以下であるナノサイズの極微細炭素繊維であって、内部が中空構造のカーボンナノチューブに限らず、内部が充填された構造のものを含む。
【0010】
熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン系、ポリプロピレン系、ポリスチレン系、ポリ塩化ビニル、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン(ポリアミド)系、ポリエステル系、ポリカーボネート系、ポリアセタール系、酢酸セルロース、ABS系の樹脂やそれらの混合物などを用いることができる。
【0011】
本発明の導電性樹脂は、第一族及び第ニ族元素残量が100ppm以下のカーボンナノファイバーを用いる。一般にカーボンナノファイバーの製造工程において、マグネシウムなどの第ニ族元素を含む触媒が使用されるが、不純物の第一族元素やカーボンナノファイバーに残る触媒量が多いと衝撃強度が低下する傾向がみられる。触媒成分である第ニ族元素の残量は100ppm以下が良く、10ppm以下がさらに好ましい。
【0012】
不純物の第一族元素や触媒成分の第ニ族元素を除去するには塩化水素や希硫酸などで洗浄すれば良い。具体的には、例えば、希硫酸にカーボンナノファイバーを投入し、加温下で攪拌して第一族及び第ニ族元素の不純物を溶解させる。その後、濾過洗浄して上記不純物を除去する。処理条件としては、例えば、濃度0.5〜10.0重量%の希硫酸を使用し、処理温度室温〜80℃、処理時間0.5〜6.0時間程度で良い。
【0013】
第一族及び第ニ族元素残量を100ppm以下に低減したカーボンナノファイバーを用いることによって、原熱可塑性樹脂によって形成した樹脂の衝撃強度(SO)に対して、樹脂の衝撃強度(SH)の強度比(SH/SO)が70%以上の導電性樹脂を得ることができる。この衝撃強度の比(SH/SO)は、同一条件で作成した樹脂について、カーボンナノファイバーを含有しない熱可塑性樹脂によって形成した樹脂の衝撃強度SOに対して、同一の熱可塑性樹脂にカーボンナノファイバーを配合した本発明の熱可塑性樹脂組成物によって形成した樹脂の衝撃強度SHの比(SH/SO)を%値で示したものである。なお、衝撃強度は例えばシャルピー衝撃強度である。
【0014】
また、上記カーボンナノファイバーは、DBP吸油量150ml/100g以上である親油性の高いカーボンナノファイバーを用いることが好ましい。DBP吸油量が上記範囲よりも少ないカーボンナノファイバーは樹脂中の分散性が劣り、凝集しやすいので樹脂組成物の導電性が不均一になり、さらに樹脂組成物の加工性が低下する。DBP吸油量が上記範囲のカーボンナノファイバーは樹脂中で分散性が良く、樹脂に配合したときに樹脂の機械的強度や粘性等を損なうことなく、導電性と共に強度および破断伸度に優れた導電性樹脂を得ることができる。具体的には、例えば、破断伸度が40%以上、原熱可塑性樹脂に対する引張強度比100%以上の導電性樹脂を得ることができる。
【0015】
原熱可塑性樹脂に対する引張強度比とは、同一条件で作成した樹脂試験片について、カーボンナノファイバーを含有しない熱可塑性樹脂によって形成した樹脂試験片の引張強度POに対して、同一の熱可塑性樹脂にカーボンナノファイバーを配合した熱可塑性樹脂組成物によって形成した樹脂試験片の引張強度PXの比(PX/PO)を%値で示したものである。破断伸度は、試験前の長さL0に対して、破断時の長さLXの比(LX/LO)を%値で示したものである。
【0016】
また、表面抵抗値が103Ω/□以下の導電性の高い樹脂を得るには体積抵抗値1.0Ωcm以下のカーボンナノファイバーを用いると良い。
【0017】
体積抵抗値が低く、かつDBP吸油量が高いカーボンナノチューブは、触媒を用いた気相成長法において、触媒および原料の混合ガス組成を調整することによって製造することができる。具体的には、例えば、触媒粒子としてFe、Ni、Co、Mn、Cuの酸化物から選ばれた1種または2種以上と、Mg、Ca、Al、Siの酸化物から選ばれた1種または2種以上の混合酸化物粉末を用い、400℃〜800℃の温度で、一酸化炭素または二酸化炭素と水素の混合ガスを上記触媒粒子に接触させて、カーボンナノファイバーを製造する気相成長法において、触媒としてCo酸化物とMg酸化物の混合酸化物あるいは、Mg酸化物にCo酸化物が被覆された複合酸化物を用い、原料混合ガスを一酸化炭素および/または二酸化炭素と水素とし、その混合比をCO/H2=50/50〜99/1に調整することによって、体積抵抗値が低く、DBP吸油量が高いカーボンナノチューブを製造することができる。
【0018】
本発明の導電性樹脂において、カーボンナノファイバーの含有量は、熱可塑性樹脂100重量部に対する該カーボンナノファイバーの表面積換算値(カーボン含有量×比表面積の値)で2500m2以下が好ましい。カーボンナノファイバーの含有量がこれより多いと引張強度や伸度などの樹脂物性が大きく低下するので好ましくない。
【0019】
本発明の導電性樹脂を形成するカーボンナノファイバー分散樹脂組成物は、機械的強度等を大きく損なわない範囲内で、他の導電性微粒子や難燃剤、分散安定剤などを含有してもよい。
【実施例】
【0020】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示す。なお、PC樹脂の作成方法および評価方法は下記のとおりである。また、本発明の導電性樹脂において、引張強度および破断伸度は引張試験機を用いて測定した。試験片は、JIS K7113準拠の1号形試験片を作成し測定に用いた。引張強度は、断面積あたりの強度に換算して計算した。
〔PC樹脂試験片の作成方法〕:予め所定量のカーボンナノファイバーを分散させたポリカーボネート樹脂(PC樹脂)コンパウンドを作成し、それを射出圧縮成型及び、熱プレス加工で所定の形に成形することにより各種試験片得た。
〔体積抵抗値〕:抵抗率計(デジタルマルチメーター)を用い、試料に対して100kg/cm2の加圧時の抵抗を測定する。
〔表面抵抗値〕:市販の測定装置(油化電子社製:ロレスタ−AP)を用い、4端子法により体積抵抗を求めた。
〔衝撃強度〕:JIS K7110準拠の試験片を作成し、シャルピー衝撃試験法により測定した。
【0021】
〔実施例1〜2〕
第一族及び第ニ族元素残量2ppmのカーボンナノファイバー(CNF:DBP吸油量250ml/100g)をポリカーボネート樹脂(二種I,II)に分散させた樹脂組成物(CNF量5重量%)を用い、射出圧縮成型及び、熱プレス成型により試験片を調製した。この試験片の、表面抵抗値、引張強度、破断伸度、衝撃強度を測定した。この結果を表1に示した。カーボンナノファイバーを含有しない以外は同様にして調製した試験片について表面抵抗値等を測定した。この結果を比較対象(NA)として表1に示した。
【0022】
〔比較例1〜3〕
触媒除去を行わないカーボンナノファイバー(アルカリ土類残量5000ppm)を用いた以外は実施例1〜2と同様にして樹脂シートを調製し、この樹脂シートについて表面抵抗値等を測定した。この結果を比較例1〜2として表1に示した。また、カーボンナノファイバーに代えてカーボンブラックを同量用いた以外は実施例1〜2と同様にして樹脂シートを調製し、この樹脂シートについて表面抵抗値等を測定した。この結果を比較例3として表1に示した。
【0023】
表1に示すように、本発明に係る樹脂(実施例1〜2)は、カーボンナノファイバーを含まない樹脂シート(NA)に対してシャルピー衝撃強度が約20%程度しか低下せず、樹脂の有する衝撃強度を大きく損なわずに維持することができる。また、本発明のカーボンナノファイバーを含む樹脂試験片の破断伸度HSは40%以上であり、カーボンナノファイバーを含まない樹脂試験片の破断伸度H0に対する伸度比(HS/H0)は70%以上であり、破断伸度の低下も小さい。一方、引張強度比(PX/PO)は何れも100%以上であり、優れた機械的強度を有する。また、比較例3より、同量のカーボンブラックを入れた時は、破断伸度、衝撃強度が著しく低下し、表面抵抗に関しても、6×1015Ω/□以上で導電性は得られなかった。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性樹脂であって、第一族及び第ニ族元素残量が100ppm以下のカーボンナノファイバーを用い、原熱可塑性樹脂に対する衝撃強度の強度比が70%以上であることを特徴とする導電性樹脂。
【請求項2】
DBP吸油量150ml/100g以上のカーボンナノファイバーを分散させた熱可塑性樹脂組成物によって形成した導電性樹脂であって、成型品破断伸度が40%以上、原熱可塑性樹脂に対する引張強度比100%以上である請求項1の導電性樹脂。
【請求項3】
表面抵抗値が103Ω/□以下、引張強度55MPa以上である請求項1または2の導電性樹脂。
【請求項4】
請求項1〜3の何れかに記載する導電性樹脂を用いた電子部品包装体、電子部品搬送容器、または複写機、印刷機、ないしファクシミリに使用される帯電、除電、転写、または定着シート。

【公開番号】特開2008−138040(P2008−138040A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−323889(P2006−323889)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)株式会社ジェムコ (151)
【Fターム(参考)】