説明

導電性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品

【課題】
物性バランスに優れ、少量の導電性物質の使用で優れた導電性を付与することができることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供すること。
【解決手段】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、金属被覆有機繊維(B)及びエポキシ基又は不飽和カルボン酸基を有する共重合体(C)から構成される導電性熱可塑性樹脂組成物であって、該導電性熱可塑性樹脂組成物100重量部中に金属被覆有機繊維(B)が3〜15重量部、共重合体(C)が1〜20重量部含まれることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物性バランスに優れるだけでなく、金属被覆有機繊維を含有し、優れた導電性を有する導電性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基体となる樹脂に導電性充填材を混合した導電性熱可塑性樹脂組成物が製造されている。この導電性充填材として、導電性金属やその合金、金属酸化物等の導電性化合物からなる粉体や繊維などが用いられている。これらは基質が導電性であることから電磁波シールド性や制電性が要求されるICトレー、パソコンや液晶パネル等においても幅広く使用され、また、昨今の健康志向による電磁波や磁界の人体への影響に対する懸念から、近年多く使用されるようになってきている。
【0003】
導電性を付与したプラスチック成形品を製造する場合、熱可塑性樹脂と金属被覆繊維とを含有したペレット状等の樹脂組成物が用いられている。導電性熱可塑性樹脂組成物として用いられる繊維としてはステンレス繊維、炭素繊維、金属コートガラス繊維、金属コート炭素繊維、はんだを被覆した銅繊維等が用いられている。これらの中でステンレス繊維、炭素繊維及び金属被覆炭素繊維が一般的である。
【0004】
金属被覆炭素繊維は、優れた導電特性を有するものの、成形加工の際に繊維が折損してしまい所要の導電特性を有するものとするためには、成形品全体量での含有率として15〜30重量%も必要であるため、添加量が多くなり樹脂組成物の持つ機械的特性が低下する場合や成形性が低下してしまう場合がある。
【0005】
近年、導電性を付与する新たな素材として、金属被覆有機繊維が開発されている。有機繊維は上記繊維と比べて溶融混練の際に折損しにくく好ましく用いられている。この金属被覆有機繊維は、繊維を一方向に揃えた状態で熱可塑性樹脂が含浸されたものであり、特に射出成形品の材料として用いられている。
【0006】
例えば、特許文献1にはパラ系アラミド繊維に金、銀、銅、錫、アルミニウム又はこれらの合金でメッキ処理を行い、2〜30mmの長さにカットした金属被覆有機繊維を編物、織物、あるいは抄紙して不織布を作成し、これに樹脂を含浸し熱プレスで成形板にする技術が開示されている。しかし、この成形方法では板状や曲面状等の単純な形状しか作成できず、射出成形で得られるような複雑な形状のものは作成できなかった。よってOA機器、光学系電子機器等のエレクトロニクス関連の成形筐体或いは精密な箱状の部品等への成形品展開は困難であった。
【0007】
特許文献2では、金属被覆有機繊維を樹脂に混合して導電性を有するようにした樹脂組成物において、基体繊維に被覆した金属表面と基体繊維の接触面との密着強度を上げるために、基体繊維の結晶化温度以上かつ融解温度未満の温度で加熱処理することを特徴としている技術である。しかし、金属被覆有機繊維を基体繊維の結晶化温度以上かつ融解温度未満の温度で加熱処理した場合でも、被覆金属と基体繊維表面との密着強度が不足しており、金属被覆有機繊維を樹脂に混合して射出成形する場合、成形機のバレルとスクリュー回転で受けるせん断力に耐えることが困難となり、金属被覆膜が基体繊維から剥離してしまい導電性を発現しにくかった。また、成形品間におけるバラツキも大きいという問題があった。
【0008】
そこで、特許文献3では近年になって、金属被覆有機繊維もしくは繊維束に熱可塑性樹脂を含浸させてペレットとし、これをマスターバッチとして用いることが提案されている。具体的には、例えばアラミド繊維の表面を銅等の金属で被覆し、これに熱可塑性樹脂を含浸させて長さ6mmのペレットとして使用し、これによって成形性を改善し導電特性を高める方法が用いられている。
【0009】
しかし、この場合においても、単軸及び二軸押出機を用いて、溶融混練を行うとスクリューのミキシングエレメントによるせん断力により被覆金属の剥離及び金属被覆有機繊維の折損が起こりうるため、金属被覆有機繊維の折損が避けられず、その均一分散性には依然として難点があり、導電性の向上に制約があった。そのため、溶融混錬における金属被覆有機繊維の折損が抑制できる導電性熱可塑性樹脂組成物が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−152389号公報
【0011】
【特許文献2】特開2002−358826号公報
【0012】
【特許文献3】特開2005−290086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、物性バランスに優れ、少量の導電性物質の使用で優れた導電性を付与することができることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、かかる課題を解決するため鋭意検討した結果、金属被覆有機繊維と共にエポキシ基又は不飽和カルボン酸基を含有する共重合体を用いることにより、単軸及び二軸押出機を用いて溶融混練を行うとスクリューのミキシングエレメントによるせん断力により、被覆金属の剥離及び金属被覆有機繊維の折損を抑止することが出来ることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
すなわち、本発明は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、金属被覆有機繊維(B)及び、エポキシ基又は不飽和カルボン酸基を有する共重合体(C)から構成される導電性熱可塑性樹脂組成物であって、該導電性熱可塑性樹脂組成物100重量部中に金属被覆有機繊維(B)が3〜15重量部、共重合体(C)が1〜20重量部含まれることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物、及び該樹脂組成物を成形して得られる成形品に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、物性バランスに優れ、少量の導電性物質の使用で優れた導電性を付与することができることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物及びその成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化スチレン系樹脂(A)、金属被覆有機繊維(B)及び、エポキシ基又は不飽和カルボン酸基を有する共重合体(C)から構成される導電性熱可塑性樹脂組成物であって、該導電性熱可塑性樹脂組成物100重量部中に金属被覆有機繊維(B)が3〜15重量部、共重合体(C)が1〜20重量部含まれることを特徴とする。
【0018】
−ゴム強化スチレン系樹脂(A)−
本発明で使用されるゴム強化スチレン系樹脂(A)とは、ゴム状重合体の存在下に芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びその他の共重合可能な単量体から構成される群より選ばれる、少なくとも一種の単量体をグラフト重合して得られるグラフト共重合体、又は該グラフト共重合体と上記単量体を(共)重合して得られる(共)重合体から構成される樹脂組成物である。
【0019】
本発明で使用されるゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられるゴム状重合体としては、特に制限はないが、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム、エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−非共役ジエン(エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等)ゴム等のエチレン−プロピレン系ゴム、ポリブチルアクリレート等のアクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、更にはこれらのゴムから選ばれた一種以上の複合ゴムなどが挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特に、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、アクリル酸ブチルゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム、シリコーン系ゴムが好ましい。
【0020】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられるゴム状重合体の重量平均粒子径は、物性バランスの観点から、好ましくは0.05〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmである。
【0021】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられる芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、クロロスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
【0022】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられるシアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にアクリロニトリルが好ましい。
【0023】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられる(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸4−t−ブチルフェニル、(メタ)アクリル酸(ジ)ブロモフェニル、(メタ)アクリル酸クロルフェニル等を例示でき、一種又は二種以上用いることができる。
【0024】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)で用いられるその他の共重合可能なビニル系単量体としては、マレイミド系単量体(例えば、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等)、及びアミド系単量体(例えば、アクリルアミド及びメタクリルアミド等)等を使用することができ、それぞれ一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる(ただし、エポキシ基又は不飽和カルボン酸基を有する単量体を除く)。
【0025】
ゴム状重合体とグラフト重合する、上記のビニル系単量体の組成比率に、特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体60〜90重量%とシアン化ビニル系単量体10〜40重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体30〜80重量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体20〜70重量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体20〜70重量%とシアン化ビニル系単量体10〜60重量%の組成比率であることがより好ましい。
【0026】
グラフト共重合体と共に用いられる、(共)重合体とは、グラフト重合に用いられるビニル系単量体を(共)重合して得られる(共)重合体である。(共)重合体に用いられる単量体の組成比率に特に制限はないが、芳香族ビニル系単量体60〜90重量%とシアン化ビニル系単量体10〜40重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体30〜70重量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体30〜70重量%の組成比率、芳香族ビニル系単量体25〜70重量%と(メタ)アクリル酸エステル系単量体25〜70重量%、シアン化ビニル系単量体5〜50重量%の組成比率、及び芳香族ビニル系単量体60〜100重量%とその他の共重合可能なビニル系単量体0〜40重量%の組成比率であることが、物性バランスの観点から好ましい。また、本発明の(共)重合体は組成比率の異なる複数の(共)重合体を目的に応じて適宜組み合わせて用いても良い。
【0027】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)中に占めるゴム状重合体成分と、単量体成分(重合に用いられるビニル系単量体成分)との構成比率には特に制限はないが、物性バランスの観点から、好ましくはゴム状重合体成分3〜80重量%、及び単量体成分97〜20重量%である。ゴム強化スチレン系樹脂(A)中に占めるゴム状重合体の含有量は、グラフト共重合体製造時のゴム状重合体と単量体成分との比率、又はグラフト共重合体と(共)重合体の配合比率を適宜変更することにより可能である。
【0028】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)を構成するグラフト共重合体及び(共)重合体は、従来より公知の重合方法、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法並びにそれらの組合せによって製造することができる。
【0029】
−金属被覆有機繊維(B)−
本発明で使用される金属被覆有機繊維(B)とは、金属が被覆された有機繊維である。
金属被覆有機繊維(B)を構成する有機繊維としては、炭素繊維、メタ系アラミド繊維、パラ系アラミド繊維等の有機繊維が挙げられ、単軸及び二軸押出機での溶融混練の際に生じるスクリューのせん断力による折損を抑制する観点から、メタ系アラミド繊維を用いることが好ましい。
【0030】
金属被覆有機繊維(B)として有機繊維を被覆する金属としては、金、銀、銅、錫、アルミニウム又はこれらの合金が挙げられ、これらから選ばれた一種類以上を用いることができる。特に導電性が良好で、酸化しにくく、展性が優れるという観点から金、銀が好ましく、コストの観点からは銅を用いることが好ましい。また、金属の被覆量は使用する繊維や金属の種類、必要な体積固有抵抗値によって適宜決められるが、繊維表面上に厚さ0.1〜1.0μmで被覆されることが好ましい。
【0031】
金属を有機繊維へ被覆する方法に特に制限はないが、公知の無電解メッキによる方法が一般的である。この他真空蒸着、スパッタリング等の方法でも可能である。
【0032】
金属被覆有機繊維(B)の長さは3〜8mmであることが好ましい。金属被覆有機繊維(B)の長さが3mm未満であると、導電性能の発揮が不十分となる場合がある。金属被覆有機繊維(B)の長さが8mmを超えると、射出成形の際に金属被覆有機繊維が射出口で目詰まりを起こしやすくなる。また、金属被覆有機繊維(B)の繊維径は特に限定されないが、取り扱いの観点から1本あたりの繊維径が6〜20μmの範囲が好ましい。
【0033】
本願発明の導電性熱可塑性樹脂組成物はゴム強化スチレン系樹脂(A)と共に金属被覆有機繊維(B)を溶融混練することで得られるが、押し出し機などでこれらを溶融混連する際の、金属被覆有機繊維(B)の分散性や取り扱い性の観点から、金属被覆有機繊維(B)は熱可塑性樹脂で含浸もしくはコーティングされたマスターバッチとして用いる事が好ましい。
【0034】
金属被覆有機繊維マスターバッチに用いられる熱可塑性樹脂に特に制限はないが、ゴム強化スチレン系樹脂との相溶性の観点から、ポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、並びにABS樹脂のうち、少なくともこれらのうち一種又は二種以上を用いるのが好ましく、マスターバッチへの加工性の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂を用いることがより好ましい。
【0035】
金属被覆有機繊維(B)に熱可塑性樹脂を含浸する方法に制限はないが、金属被覆有機繊維(B)に良好に含浸されるための条件として、含浸時の温度条件下においてJIS K6862に規定された方法で測定された熱可塑性樹脂の溶融粘度の値が、4000mPa・s以下であることが好ましい。また、金属被覆有機繊維(B)に熱可塑性樹脂をコーティングする方法に特に制限はなく、公知の技術を用いる事が出来る。
【0036】
金属被覆有機繊維(B)は、熱可塑性樹脂の含浸もしくはコーティングの工程を行いマスターバッチとすることで、繊維の束をコンパクトにして取り扱いを容易にし、成形品とした際の繊維の分散を良好にする事ができる。また、樹脂を含浸もしくはコーティングすることで、繊維が樹脂に濡れているため繊維中に空気が入っていない状態になり、この状態の繊維を用いて成形品を製造することで、気泡が成形品中に入りにくくなり、機械物性や外観が良好となりやすい状態となる。
【0037】
金属被覆有機繊維マスターバッチに含まれる金属被覆有機繊維の量は、マスターバッチとしての取り扱い性などの観点からマスターバッチ100重量部中に30〜70重量部含まれていることが好ましい。
【0038】
本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は該組成物100重量中に金属被覆有機繊維が3〜15重量部含まれている事が必要である。3重量部未満では必要な導電性を得ることが出来ず、15重量部を超えるとコストがかかるだけでなく、樹脂組成物の物性が低下する問題が生じる。4〜12重量部含まれていることが好ましく、5〜10重量部含まれていることがより好ましい。
【0039】
−共重合体(C)−
本発明で使用される共重合体(C)は、エポキシ基又は不飽和カルボン酸基を含有する共重合体であり、ゴム強化スチレン系樹脂と金属被覆有機繊維マスターバッチとの相溶性を高める相溶化剤としての役割を持つ。
【0040】
エポキシ基含有共重合体としては、不飽和エポキシ化合物とオレフィン又はこれらとエチレン系不飽和化合物との共重合体が挙げられ、不飽和エポキシ化合物とオレフィン及び必要に応じてエチレン系不飽和化合物を共重合するか、オレフィン重合体又はオレフィンとエチレン系不飽和化合物との共重合体の存在下に不飽和エポキシ化合物との共重合体の存在下に不飽和化合物をグラフト共重合するか、オレフィン重合又はオレフィンとエチレン系不飽和化合物との共重合体の存在下に不飽和エポキシ化合物をグラフト共重合することにより製造することができる。
【0041】
エポキシ基含有共重合体に使用される不飽和エポキシ化合物としては、例えば不飽和グリシジルエステル類、不飽和グリシジルエーテル類、エポキシエーテル類、P−グリシジルスチレン類などが挙げられる。具体的にはグリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、イタコン酸グリシジルエステル類、ブテンカルボン酸エステル類、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、スチレン−P−グリシジルエーテル、3,4−エポキシブテン、3,4−エポキシ−3−メチル−1−ブテン、3,4−エポキシ−1−ペンテン、3,4−エポキシ−3−メチルペンテン、5,6−エポキシ−1−ヘキセン、ビニルシクロヘキセンモノオキシド、P−グリシジルスチレン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にグリシジルアクリレート又はグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0042】
エポキシ基含有共重合体に使用されるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にエチレン、プロピレンが好ましい。
【0043】
エポキシ基含有共重合体に使用されるエチレン系不飽和化合物としては、飽和カルボン酸成分にC〜Cを含むビニルエステル類、飽和アルコール成分にC〜Cを含むアクリル酸及びメタクリル酸エステル類及びマレイン酸エステル類、ハロゲン化ビニル類などが挙げられる。
【0044】
エポキシ基含有共重合体の好ましい例としては、エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル−グリシジルメタクリレート共重合体、エチレン−メタクリレート−グリシジルメタクリレート共重合体、及びポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ−1−ブテン、ポリ−4−メチル−ペンテン−1、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体等のオレフィン重合体の存在下にグリシジルメタクリレートをグラフト反応させた共重合体が挙げられる。
【0045】
不飽和カルボン酸基含有共重合体としては、不飽和カルボン酸系単量体と、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びその他の共重合可能な単量体から構成される群より選ばれる、少なくとも一種の単量体を重合して得られる共重合体が挙げられ、公知の乳化重合法、塊状重合法、懸濁重合法、溶液重合法により製造することができる。
【0046】
不飽和カルボン酸基含有共重合体を構成する不飽和カルボン酸系単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、一種又は二種以上用いることができる。特にメタクリル酸が好ましい。
【0047】
不飽和カルボン酸基含有共重合体を構成する、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル系単量体及びその他の共重合可能な単量体から構成される群より選ばれる少なくとも一種の単量体は、ゴム強化スチレン系樹脂で例として述べられている各単量体と同様の物を用いる事ができる。
【0048】
不飽和カルボン酸基含有共重合体の還元粘度については特に制限はないが、0.2〜1.2dl/gであることが好ましい。なお、還元粘度は、重合温度、単量体の添加方法、使用する開始剤及び例えばt−ドデシルメルカプタン等の重合連鎖移動剤の種類及び量により適宜調整することができる。
【0049】
本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は該組成物100重量中に共重合体(C)が1〜20重量部含まれている事が必要である。1重量部未満ではゴム強化スチレン系樹脂と金属被覆有機繊維マスターバッチとの相溶性が不十分であり、金属被覆有機繊維の折損を低減させることが出来ず、結果として体積固有抵抗を低減させることが出来ない。また、20重量部を超えると樹脂組成物の物性が低下する問題が生じる。3〜17重量部含まれていることが好ましく、5〜15重量部含まれていることがより好ましい。
【0050】
本発明における各成分の混合方法に特に制限はなく、これらの構成成分の混合物を、一軸押出機、二軸押出機などの押出機、バンバリーミキサー、ニーダー・ルーダー、加圧ニーダー、加熱ロールなどを用いて混合することができる。
【0051】
本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は、その目的を損なわない範囲内において、ゴム強化スチレン系樹脂と共に、他の熱可塑性樹脂を混合して使用することもできる。このような他の熱可塑性樹脂として、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリメチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ乳酸樹脂等を使用することができる。
【0052】
また、本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は、その目的を損なわない範囲内においてヒンダードフェノール系、含硫黄有機化合物系、含リン有機化合物系等の酸化防止剤、フェノール系、アクリレート系等の熱安定剤、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系の紫外線吸収剤、有機ニッケル系、高級脂肪酸アミド類等の滑剤、リン酸エステル類等の可塑剤、ポリブロモフェニルエーテル、テトラブロモビスフェノール−A、臭素化エポキシオリゴマー、臭素化等の含ハロゲン系化合物、リン系化合物、三酸化アンチモン等の難燃剤・難燃助剤、臭気マスキング剤、カーボンブラック、酸化チタン、顔料、及び染料等を添加することもできる。更に、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、炭素繊維、金属繊維等の補強剤や充填剤を添加することもできる。
【実施例】
【0053】
本発明をさらに具体的に説明するため、以下に実施例及び比較例を挙げて説明するが、これらは本発明を制限するものではない。なお、実施例中にて示す「部」及び「%」は重量に基づくものである。
【0054】
−ゴム強化スチレン系樹脂(A)−
ABS樹脂(日本エイアンドエル(株)製 クララスチック GA−501)
【0055】
−金属被覆有機繊維(B)−
アラミド繊維に銅が被覆され、ポリエチレンテレフタレート樹脂が含浸された、金属被覆有機繊維の含有量が50重量%であるマスターバッチ(ダイワボウノイ(株)製 A6G-1A2)。
【0056】
−共重合体(C)−
(C−1):エチレン−グリシジルメタクリレート−酢酸ビニル共重合体(住友化学(株)製 ボンドファスト−2B)
(C−2):メタアクリル酸−スチレン−アクリロニトリル共重合体
窒素置換したガラスリアクターに、脱イオン水100重量部を添加した後、昇温を行い、60℃に達した時点で過硫酸カリウム0.3部、メタアクリル酸5部、スチレン70部、アクリロニトリル25部、ターシャリードデシルメルカプタン1.6部からなるモノマー混合溶液の6%及びドデシルベンゼンスルホン酸Na1部を脱イオン水20部に溶解させた乳化剤水溶液10%を添加した。その後65℃まで昇温し残りのモノマー混合液及び乳化剤水溶液を連続添加した。その後70℃に昇温し重合を完了した。塩化カルシウムを用いて塩析したのち脱水、乾燥し、メタアクリル酸−スチレン−アクリロニトリル共重合体(C−2)を得た。
【0057】
表1に示す組成割合のゴム強化スチレン系樹脂(A)、金属被覆有機繊維マスターバッチ(B)、共重合体(C)を混合した後、(株)オーエヌ機械製「NVC−50押出機」の単軸押出機を用いて160℃、スクリュー回転数:200rpmにて溶融混練してペレット化することで導電性熱可塑性樹脂組成物を得た。
【0058】
<試験例>
各実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、以下の評価に供した。その結果を表1に示す。
【0059】
−耐衝撃性−
得られたペレットを用い、ISO試験方法294に準拠して試験片を成形し、耐衝撃性を測定した。耐衝撃性はISO179に準拠し、4mm厚みで、ノッチ付きシャルピー衝撃値を測定した。単位:kJ/m
【0060】
−流動性−
得られたペレットを用い、ISO1133に準拠してメルトボリュームフローレイトを測定した。単位;cm/10分
【0061】
得られたペレットを、山城精機製「SAV−100」の射出成形機に投入し、シリンダー温度:235℃ 、金型温度:60℃の条件で成形を行うことで、60mm×60mm×2mmの板状の成形品を作製した。得られた成形品をカッターを用いて加工を行うことで、50mm×60mm×2mmの試験板を作製した。
【0062】
−体積固有抵抗率−
試験板の端面2mm×50mmの両側面に導電性ペーストを塗布し乾燥を行った。
導電性ペースト:銀(ELECTRONDUCTIVEドータイト:藤倉化成(株)製)
デジタルマルチメーターを用いて、導電性ペーストを塗布した両側面から電気抵抗を測定し、下記の計算式を用いて体積固有抵抗率を算出した。
測定機:デジタルマルチメーター(73303:横河M&C(株)製)
体積固有抵抗率δ(Ω・cm)=R×S/L(R:電気抵抗測定値(Ω)、S:試験片の断面積(cm)、L:電極間の長さ(cm))
【0063】
【表1】

【0064】
表1に示すように、本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は、物性バランスを保ちつつ導電性に優れていることが分かる。
【0065】
表1に示すように、共重合体(C)を用いない比較例1は体積固有抵抗に劣った。また、共重合体(C)の含有量が1重量部未満であった比較例2及び3は、体積固有抵抗が劣った。共重合体(C)の含有量が20重量部を超えた比較例4及び5は、体積固有抵抗は優れていたが耐衝撃性が劣った。金属被覆有機繊維の含有量が3重量部未満であった比較例6は、物性バランスに優れるが体積固有抵抗が劣った。金属被覆有機繊維の含有量が15重量部を超えた比較例7は、体積固有抵抗に優れるが物性バランスに劣る結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0066】
以上のとおり、本発明の導電性熱可塑性樹脂組成物は、物性バランス及び導電性に優れており、電子機器部品筐体及び自動車用部品としての利用価値が高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム強化スチレン系樹脂(A)、金属被覆有機繊維(B)及びエポキシ基又は不飽和カルボン酸基を有する共重合体(C)から構成される導電性熱可塑性樹脂組成物であって、該導電性熱可塑性樹脂組成物100重量部中に金属被覆有機繊維(B)が3〜15重量部、共重合体(C)が1〜20重量部含まれることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
金属被覆有機繊維(B)として、金属被覆有機繊維(B)を熱可塑性樹脂で含浸もしくはコーティングしたマスターバッチであり、金属被覆有機繊維の含有量がマスターバッチ100重量部中に30〜70重量部含まれていることを特徴とする請求項1に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の導電性熱可塑性樹脂組成物を成形して得られた成形品。

【公開番号】特開2012−219227(P2012−219227A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88578(P2011−88578)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】