説明

導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法

【課題】導電性に優れる導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法であって、導電性繊維(A)、前記導電性繊維(A)よりも融点が低い棒状の低融点金属(B)および熱可塑性樹脂(C)からなり、特定の要件(1)および(2)を満たす熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)5〜60重量%と、特定の要件(3)を満たす熱可塑性樹脂(D)95〜40重量%とを混合して、射出成形する導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に種々の導電性フィラーを添加した導電性樹脂組成物が様々な分野で使用されている。このような導電性樹脂組成物としては、ポリカーボネート樹脂とメタアクリレート樹脂に炭素繊維を配合した樹脂組成物が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−265768号公報
【0004】
しかしながら従来の導電性樹脂組成物を用いて得られる成形品は、導電性が不十分であった。特に厳しい環境下で使用した場合、例えば低温雰囲気下での使用と高温雰囲気下での使用を繰り返した場合に、導電性が損なわれることが多かった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、導電性に優れる導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明は、導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法であって、導電性繊維(A)、前記導電性繊維(A)よりも融点が低い棒状の低融点金属(B)および熱可塑性樹脂(C)からなり、下記の要件(1)および(2)を満たす熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)5〜60重量%と、下記の要件(3)を満たす熱可塑性樹脂(D)95〜40重量%とを混合して、射出成形する導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法である。
(1)導電性繊維(A)と低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる
(2)熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)の重量を100%としたときの導電性繊維(A)の含有量が35〜95重量%、低融点金属(B)の含有量が4〜45重量%、熱可塑性樹脂(C)の含有量が1〜20重量%である
(3)熱可塑性樹脂(C)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pc)と、熱可塑性樹脂(D)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pd)とが、Pc+20≦Pd(℃)である
【発明の効果】
【0007】
本発明の導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法によれば、導電性に優れる熱可塑性樹脂製成形品を得ることができる。本発明により得られる導電性熱可塑性樹脂製成形品は、特に厳しい環境下で使用した場合、例えば低温雰囲気下での使用と高温雰囲気下での使用を繰り返した場合であっても、優れた導電性を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明では、導電性繊維(A)と、前記導電性繊維(A)よりも融点が低い棒状の低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)を用いる。
【0009】
本発明における導電性繊維(A)は、長繊維状の金属繊維であることが好ましい。導電性繊維に用いられる繊維種としては、例えば、ステンレス、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタン、錫、亜鉛、マグネシウム、白金、ベリリウム、これらの金属種の合金、これらの金属種とリンとの化合物などが挙げられる。これらの金属種の中で、黄銅、銅、アルミニウム、鉄、金、銀、ニッケル、チタンが好ましく使用され、銅がより好ましく使用される。金属繊維は、上記した金属種を原材料として、伸線引き抜き法、溶融紡糸法、コイル材切削法、ワイヤ切削法等の方法により製造することができる。金属繊維は、シランカップリング剤やチタネートカップリング剤等のカップリング剤またはトリアジンチオール化合物等の表面処理剤で表面処理されていてもよい。
【0010】
また、本発明で用いられる導電性繊維(A)としては、カーボン繊維のように導電性を有する有機繊維や無機繊維、ポリエステル繊維やポリアミド繊維などの有機繊維の表面に金属層を設けたものや、ガラス繊維などの無機繊維の表面に金属層を設けたもの等が挙げられる。有機繊維または無機繊維に金属層を付与する方法は、繊維の種類に応じて適宜選択すればよいが、例えば、蒸着、メッキ、スパッタリング、イオンプレーティング等の方法が挙げられる。本発明における導電性繊維(A)は、銅繊維であることが好ましい。本発明で用いられる導電性繊維(A)は、体積抵抗値が50μΩcm以下であることが導電性の観点から好ましい。
【0011】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)中の導電性繊維(A)の含有量は、熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)の重量を100%としたとき、35〜95重量%であり、50〜80重量%であることがより好ましい。導電性繊維(A)の含有量が少なすぎると導電性が不十分となる傾向があり、多すぎると導電性繊維(A)の分散不良がおこりやすくなり、該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を用いて得られる成形品の導電性が低下する傾向がある。
【0012】
導電性繊維(A)の断面形状は、特に限定されないが、略円形であることが好ましい。導電性繊維(A)の繊維径は、5〜100μmであることが好ましく、10〜80μmであることがより好ましく、40〜60μmであることが更に好ましい。ここで、導電性繊維(A)の繊維径とは、通常、同じ断面積を有する円に換算した時の繊維径をいう。繊維径が5〜100μmの範囲にあると、導電性繊維同士の接触が効率的に起こるため、少ない含有量で充分な導電性が得られるため好ましい。繊維径が小さすぎると繊維が切れやすくなるため、成形時に繊維長が短くなり、十分な導電性が得られないことがある。一方、繊維径が長すぎると、繊維の絡み合いが起こりにくくなり、十分な導電性が得られないことがある。
【0013】
導電性繊維(A)の長さは、3〜15mmであることが好ましく、より好ましくは4〜10mmである。高い導電性、電磁波シールド効果を効率よく得るためには、繊維の長さが長いほど好ましいが、繊維の長さが長すぎると成形品の外観、成形性、分散性などがよくないことがある。一方、繊維の長さが短すぎると、導電性繊維同士の接触が起こりにくくなり、導電性が低下することがある。
【0014】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)に含まれる導電性繊維(A)は100本以上300本以下であることが好ましく、150〜250本であることがより好ましく、180〜240本であることがさらに好ましい。導電性繊維数がこの範囲にあると、成形品中の導電性繊維の分散性が良好となり、十分な導電性繊維の接点が形成されるため、導電性が良好となり、かつ、未開繊による外観不良もなく、繊維が成形機のスクリュー等に詰まるなどの不具合が発生しにくい。導電性繊維数が多すぎると、低温雰囲気下と高温雰囲気下で繰り返し使用されることを想定した試験、いわゆるヒートショック試験を実施すると、導電性が低下したり、成形加工性の悪化、外観不良を生じることがある。
【0015】
導電性繊維(A)は、耐腐食性の観点から、スズまたはスズ合金によって被覆されていてもよい。スズ合金としては、例えば、スズ−鉛合金、スズ−鉛−銀合金、スズ−鉛−ビスマス合金などが挙げられる。
【0016】
本発明で用いる低融点金属(B)は、上記の導電性繊維(A)よりも融点が低く、導電性繊維(A)と良好な融着性を示すものであることが好ましい。低融点金属(B)の融点は、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましい。低融点金属(B)は鉛を含有しない金属であり、例えば、スズを主成分とし、スズと、銀、亜鉛および銅からなる群から選ばれる少なくとも1種の金属種との合金などが挙げられる。
【0017】
本発明で用いられる棒状の低融点金属(B)の断面形状は、特に限定されないが、略円形であることが好ましい。低融点金属(B)の径は、0.01〜5mmの範囲にあることが好ましく、0.05〜4mmであることがより好ましい。0.1〜3mmであることが更に好ましい。ここで、低融点金属(B)の径は、通常、同じ断面積を有する円に換算した時の径をいう。低融点金属(B)の径が0.01〜5mmの範囲にあると、導電性繊維同士の接触を効率的に起こすことができ、充分な電磁波シールド特性が得られるため好ましい。低融点金属(B)の径が小さすぎると、成形品の製造時に切断されやすく、製造が困難となることがある。一方、低融点金属(B)の径が大きすぎると、成形加工時に溶融しにくくなったり、成形機のスクリューやノズルに詰まるなどの成形トラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0018】
本発明における低融点金属(B)の長さは、上述した導電性繊維(A)と同じ長さであることが好ましく、3〜15mmであることが好ましく、より好ましくは5〜10mmである。高い電磁波シールド効果を効率よく得るためには、長さが長いほど好ましいが、長すぎると成形品の外観、成形性、分散性などがよくないことがある。一方、長さが短すぎると、成形時に絡まる導電性繊維同士の接触促進効果が小さくなり、電磁波シールド効果が低下する傾向がある。
【0019】
低融点金属(B)中には、導電性繊維(A)との融着性を改善する目的で、フラックスが含有されていてもよい。フラックスが含有されている場合、その含有量は、低融点金属(B)に対して0.1〜5重量%であることが好ましい。フラックスは低融点金属(B)中に含有されていることが好ましい。フラックスとしては、例えば、ステアリン酸、乳酸、オレイン酸、グルタミン酸、ロジン、活性ロジンなどが挙げられる。
【0020】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)中の低融点金属(B)の含有量は、ヒートショック試験後の導電性を維持する観点から、4〜45重量%であり、好ましくは10〜35重量%である。低融点金属(B)の含有量が少なすぎると、ヒートショック試験後の電磁波シールド性が低下する傾向があり、多すぎると熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の流動性が低下し、成形加工性が劣る傾向がある。
【0021】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)中の導電性繊維(A)と低融点金属(B)との重量比、すなわち(B)/(A)は、0.3〜0.8であることが好ましい。該重量比がこの範囲にあると、ヒートショック試験後も導電性が維持されるという観点で好ましい。より好ましくは、0.31〜0.7である。該重量比(B)/(A)が0.3未満であると、ヒートショック試験後に導電性が低下する傾向があり、0.8を超えると、熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の流動性が低下し、成形加工性が劣る傾向がある。
【0022】
本発明で用いる熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)は、前記導電性繊維(A)と低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる。熱可塑性樹脂(C)としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂等、あるいは、これら樹脂を2種類以上からなるブレンド、アロイを挙げる事ができる。なかでも、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0023】
ポリプロピレン樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン−α−オレフィンランダム共重合体、プロピレン−エチレンブロック共重合体等が挙げられ、これらを単独または混合して用いることができる。ここで、α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1等の炭素原子数2または4〜8のα−オレフィンなどが挙げられる。
【0024】
また、本発明で用いられる熱可塑性樹脂(C)は、MFRが10g/10min以上400g/10min以下であることが好ましい。MFRが10g/10min未満であると、成形時、導電性繊維の分散性が低下し、得られる成形品の導電性が十分得られない傾向がある。またMFRが400g/10minを超えると、得られる成形品の強度が低下する傾向がある。
【0025】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)における熱可塑性樹脂(C)の含有量は、該組成物(E)の重量を100%としたとき、1〜20重量%であり、5〜15重量%であることが好ましい。熱可塑性樹脂(C)の含有量が1重量%未満では、導電性繊維の分散が損なわれるために導電性を損なう傾向があり、20重量%を超えると、成形時に導電性繊維同士の接触を妨げるために、該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を用いて得られる成形品の導電性が低下する傾向がある。
【0026】
本発明における熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)は、導電性繊維(A)と低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる。導電性繊維(A)と低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる状態としては、導電性繊維(A)の束と低融点金属(B)が並んで熱可塑性樹脂(C)に被覆された状態や、低融点金属(B)の中に導電性繊維(A)が収束された状態で熱可塑性樹脂(C)に被覆されている状態であってもよいが、成形時、導電性繊維(A)と低融点金属(B)の接触が効率的に行われ、ヒートショック試験後も優れた導電性を維持することができることから、導電性繊維(A)の繊維束中に低融点金属(B)を収束した複合繊維束が熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる形態であることが好ましい。導電性繊維(A)の繊維束中に低融点金属(B)が収束されている状態としては、低融点金属(B)が導電性繊維(A)の束の中に完全に包まれている状態、あるいは、低融点金属(B)が導電性繊維(A)の束の中に一部入り込んでいるが、一部露出している部分も有する状態のいずれの状態であってもよい。熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の形態が上記のようであると、成形時、導電性繊維(A)と低融点金属(B)の接触が効率的に行われ、ヒートショック試験後も優れた導電性を維持することができる。
【0027】
熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)の製造方法は、特に限定されるものではなく、溶融した熱可塑性樹脂(C)中に複合繊維束を浸漬する方法や、複合繊維束と熱可塑性樹脂とを押出機に投入して熱可塑性樹脂(C)を溶融した後ダイスより押出す方法が例示される。生産性の観点から、通常後者の方法が選択される。被覆する際の溶融熱可塑性樹脂(C)の温度は、低融点金属(B)の融点よりも20〜80℃高い温度であることが好ましく、30〜70℃高い温度であることが導電性の観点からより好ましい。
【0028】
複合繊維束と熱可塑性樹脂(C)とを押出機に投入し、複合繊維束を溶融熱可塑性樹脂で被覆する場合、複合繊維束の表面温度は50〜200℃であることが好ましく、100〜200℃であることがより好ましく、150〜200℃であることがさらに好ましい。表面温度が上記範囲の温度である複合繊維束を用いることにより、導電性繊維同士の接点への低融点金属の付着がより効率的に起こるために、導電性がより良好となる。
【0029】
熱可塑性樹脂で被覆された複合繊維束は、通常は続いて適当な大きさに切断してペレットとする。ペレットの断面形状は特に限定されるものではなく、通常円形または扁平である。
【0030】
本発明では、前記熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)5〜60重量%と、熱可塑性樹脂(D)95〜40重量%とを混合して、射出成形することにより熱可塑性樹脂製成形品を製造する。該熱可塑性樹脂(D)は、前記熱可塑性樹脂(C)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pc)と、熱可塑性樹脂(D)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pd)とが、Pc+20≦Pd(℃)である熱可塑性樹脂である。各樹脂について測定した結果、50〜300℃の範囲に複数のピークが観測される場合には、最も高温を示すピークをPc、Pdとする。
【0031】
前記条件で観測されるピークは、ガラス転移温度を示すピークであっても、融点を示すピークであってもよい。すなわち熱可塑性樹脂(C)、(D)は、いずれも非晶性樹脂であってもよく、結晶性樹脂であってもよい。たとえば熱可塑性樹脂(C)、(D)ともに結晶性樹脂または非晶性樹脂であってもよいし、いずれか一方が結晶性樹脂であり、他方が非晶性樹脂であってもよい。
【0032】
熱可塑性樹脂(C)としては、例えば、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ABS、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル樹脂等、あるいは、これら樹脂を2種類以上からなるブレンド、アロイを挙げる事ができる。なかでも、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド/ポリプロピレンアロイが好ましい。
【0033】
射出成形する際には、必要な物性に応じて、フィラー、酸化防止剤、銅害防止剤、紫外線吸収剤、ラジカル補足剤などの各種添加剤や、熱可塑性エラストマー、金属粉末等を添加してもよい。またこれらの添加剤を、予め熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)および/または熱可塑性樹脂(D)に含有させておいてもよい。
金属粉末を添加する場合は、例えば、銅粉末、黄銅粉末、ニッケル粉末、アルミニウム粉末、亜鉛粉末、錫粉末などを用いることができる。これらは2種以上を混合して用いてもよい。これらの中で、アルミニウム粉末が好ましく使用される。金属粉末の含有量は、導電性の観点から、成形品中0.5〜10重量%となるように配合することが好ましい。金属粉末は、粉末状でそのまま用いてもよいが、燐片状やフレーク状、またはポリプロピレン、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂とのマスターペレットとして使用してもよい。
【0034】
射出成形時の温度は、低融点金属の融点以上とすることが好ましい。また、成形時に化学発泡剤あるいは物理発泡剤を配合し、発泡成形してもよい。
【0035】
本発明の製造方法により得られる成形品の形状は特に問わない。また、得られる成形品に他の層を積層してもよい。
【0036】
本発明の製造方法により得られる熱可塑性樹脂製成形品は、開繊が十分であることから、外観不良が少ない。また、該成形品は、電磁波シールド性を評価する方法の一つであるアドバンテスト法による磁界波2〜30MHzにおいて、30dBを越える電磁波シールド性を備えた電磁波シールド性にも優れたものである。さらに、−30℃と80℃の雰囲気下に300回以上繰り返し曝されるヒートショック試験を実施した後も、導電性を維持することができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例を用いて説明するが、本発明が実施例により限定されるものではないことは言うまでもない。
なお、実施例で使用した射出成形機、金型、成形品形状及び評価法は、以下のとおりである。
【0038】
熱可塑性樹脂(C)および(D)の融点は、以下のようにして測定した。
装置:示差走査熱量系(DSC)(セイコー電子社製)
測定条件:測定温度 20℃から300℃
昇温速度 10℃/分
【0039】
導電性を評価するための試験片の成形、導電性の評価は以下のようにして実施した。
(1)射出成形機および金型、成形条件
射出成形機:日本製鋼所製 J150E 型締力 150トン
成形温度:270℃
金型:縦150×横150×厚み2mm
金型温度:40℃
(2)導電性の測定
<内部抵抗値の測定>
上記(1)で得られた成形品の4隅に銅製のねじをそれぞれ約100mm間隔になるように打ち込んだ後、2箇所のねじの間の抵抗値を、ミリオームテスターを用いて測定して内部抵抗値の測定を行った。内部抵抗値が小さいほど導電性良好である。
(3)ヒートショック試験(冷熱試験)
冷熱衝撃試験機(タバイエスペック社製)を使用。
試験条件:低温槽温度−30℃、低温さらし時間30分、高温槽温度80℃、高温さらし時間25分とし、低温槽から高温槽へ、さらに低温槽へとサンプルを移動させるサイクルを300回実施した。
【0040】
[実施例1]
導電性繊維(A)として、繊維径50μmの銅繊維216本を、低融点金属(B)として、直径500μmの鉛フリーはんだ1本を用いた。導電性繊維(A)の繊維収束中に低融点金属(B)を収束した複合繊維束を、熱可塑性樹脂(C)として、プロピレン単独重合体(MFR100g/10min、住友化学工業製、登録商標住友ノーブレンU501E1)とともに40mmφの押出機のダイスを通して押し出し、複合繊維束の表面にプロピレン単独重合体を被覆した後、ペレット長6mmの大きさに切断して熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を製造した。得られた熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の組成は、銅繊維67.5重量%、鉛フリーはんだ22.5重量%、プロピレン単独重合体10重量%であった。
該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)26重量%と、熱可塑性樹脂(D)として、ポリアミド/ポリプロピレン系ポリマーアロイ(住友化学製、登録商標プロパロイA14M25、MFR g/10min)74重量%、さらに前記組成物(E)および熱可塑性樹脂(D)の合計重量100重量部に対し銅害防止剤マスターバッチ(住友化学製、登録商標住友ノーブレンMB109)11重量部をドライブレンドした後、成形温度270℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、150×150×2mm厚みの成形品を作製した。得られた成形品の内部抵抗値をヒートショック試験の前後に測定した。結果を表1に示した。
【0041】
[比較例1]
導電性繊維(A)として、繊維径50μmの銅繊維216本を、低融点金属(B)として、直径500μmの鉛フリーはんだ1本を用いた。導電性繊維(A)の繊維収束中に低融点金属(B)を収束した複合繊維束を、熱可塑性樹脂(C)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(C)(MFR30g/10min、住友化学製、登録商標住友ノーブレンZ144A)とともに40mmφの押出機のダイスを通して押し出し、複合繊維束の表面にプロピレン単独重合体を被覆した後、ペレット長6mmの大きさに切断して熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を製造した。得られた熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の組成は、銅繊維67.5重量%、鉛フリーはんだ22.5重量%、プロピレン−エチレンランダム共重合体10重量%であった。
該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)26重量%と、熱可塑性樹脂(D)として、プロピレン−エチレン共重合体(住友化学製、登録商標住友ノーブレンAZ161T、MFR30g/10min)74重量%、さらに前記組成物(E)および熱可塑性樹脂(D)の合計重量100重量部に対し銅害防止剤マスターバッチ(住友化学製、登録商標住友ノーブレンMB109)11重量部をドライブレンドした後、成形温度270℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、150×150×2mm厚みの成形品を作製した。得られた成形品の内部抵抗値をヒートショック試験の前後に測定した。結果を表1に示した。
【0042】
[比較例2]
導電性繊維(A)として、繊維径50μmの銅繊維216本を、低融点金属(B)として、直径500μmの鉛フリーはんだ1本を用いた。導電性繊維(A)の繊維収束中に低融点金属(B)を収束した複合繊維束を、熱可塑性樹脂(C)として、プロピレン単独重合体(MFR100g/10min、住友化学工業製、登録商標住友ノーブレンU501E1)ともに40mmφの押出機のダイスを通して押し出し、複合繊維束の表面にプロピレン単独重合体を被覆した後、ペレット長6mmの大きさに切断して熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を製造した。得られた熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の組成は、銅繊維67.5重量%、鉛フリーはんだ22.5重量%、プロピレン単独重合体10重量%であった。
該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)26重量%と、熱可塑性樹脂(D)として、プロピレン−エチレン共重合体(住友化学製、登録商標住友ノーブレンAZ161T、MFR30g/10min)74重量%、さらに前記組成物(E)および熱可塑性樹脂(D)の合計重量100重量部に対し銅害防止剤マスターバッチ(住友化学製、登録商標住友ノーブレンMB109)11重量部をドライブレンドした後、成形温度270℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、150×150×2mm厚みの成形品を作製した。得られた成形品の内部抵抗値をヒートショック試験の前後に測定した。結果を表1に示した。
【0043】
[比較例3]
導電性繊維(A)として、繊維径50μmの銅繊維216本を、低融点金属(B)として、直径500μmの鉛フリーはんだ1本を用いた。導電性繊維(A)の繊維収束中に低融点金属(B)を収束した複合繊維束を、熱可塑性樹脂(C)として、プロピレン単独重合体(MFR100g/10min、住友化学工業製、登録商標住友ノーブレンU501E1)ともに40mmφの押出機のダイスを通して押し出し、複合繊維束の表面にプロピレン単独重合体を被覆した後、ペレット長6mmの大きさに切断して熱可塑性樹脂被覆導電性組成物を製造した。得られた熱可塑性樹脂被覆導電性組成物の組成は、銅繊維67.5重量%、鉛フリーはんだ22.5重量%、プロピレン単独重合体10重量%であった。
該熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)26重量%と、熱可塑性樹脂(D)として、プロピレン−エチレンランダム共重合体(C)(MFR30g/10min、住友化学製、登録商標住友ノーブレンZ144A)74重量%、さらに前記組成物(E)および熱可塑性樹脂(D)の合計重量100重量部に対し銅害防止剤マスターバッチ(住友化学製、登録商標住友ノーブレンMB109)11重量部をドライブレンドした後、成形温度270℃、金型温度40℃の条件で射出成形し、150×150×2mm厚みの成形品を作製した。得られた成形品の内部抵抗値をヒートショック試験の前後に測定した。結果を表1に示した。
【0044】
【表1】

※DSC測定では、167℃と224℃にピークが観測された

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法であって、導電性繊維(A)、前記導電性繊維(A)よりも融点が低い棒状の低融点金属(B)および熱可塑性樹脂(C)からなり、下記の要件(1)および(2)を満たす熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)5〜60重量%と、下記の要件(3)を満たす熱可塑性樹脂(D)95〜40重量%とを混合して、射出成形する導電性熱可塑性樹脂製成形品の製造方法。
(1)導電性繊維(A)と低融点金属(B)とが、熱可塑性樹脂(C)に被覆されてなる
(2)熱可塑性樹脂被覆導電性組成物(E)の重量を100%としたときの導電性繊維(A)の含有量が35〜95重量%、低融点金属(B)の含有量が4〜45重量%、熱可塑性樹脂(C)の含有量が1〜20重量%である
(3)熱可塑性樹脂(C)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pc)と、熱可塑性樹脂(D)について、示差走査熱量計(DSC)を用い、昇温速度10℃/分で測定して得られる吸熱曲線において、50〜300℃の範囲に観測されるピークのうち、最高温度を示すピーク(Pd)とが、Pc+20≦Pd(℃)である

【公開番号】特開2007−154015(P2007−154015A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−350310(P2005−350310)
【出願日】平成17年12月5日(2005.12.5)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】