説明

導電性高分子とそれを用い固体電解コンデンサ及びその製造方法

【課題】本発明の目的は、高導電性かつ高耐熱性の導電性高分子を与える導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、また、上記電解重合液を用い、ESRが低く、高い耐熱性を有する固体電解コンデンサとその製造方法を提供すること。
【解決手段】下記一般式(1)、


(式中、Xはカチオンを示す。)
で示される化合物であることを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液。また、導電性高分子形成用電解重合液中にて電解酸化反応により形成されたことを特徴とする導電性高分子とそれを用いた固体電解コンデンサとその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性高分子形成用の電解重合液を使用し形成した導電性高分子並びに、該導電性高分子からなる固体電解質層を形成させてなる固体電解コンデンサとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムやタンタル等の弁作用金属表面に誘電体酸化皮膜を形成し、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質として電気伝導度の高い導電性高分子を形成させてなる固体電解コンデンサは、静電容量が高く、等価直列抵抗(以下、「ESR」と略記する。)が低い優れた特性を有することが知られている。
【0003】
上記固体電解コンデンサは一般的に、エッチング処理により表面積を拡大した弁作用金属箔、あるいは弁作用金属の粒子を焼結させることにより表面積を拡大した焼結体を、化成処理により該表面に誘電体酸化皮膜を形成させ、次いで、該誘電体酸化皮膜上に固体電解質層を形成し、カーボン及び銀ペーストからなる導電層を順次形成した後、リードフレームなどの外部端子に接続し、トランスファーモールド等による外装を施して製品化される。
【0004】
固体電解コンデンサのESRは、コンデンサを形成する各部材の固有抵抗と、コンデンサを形成する各部材間に発生する接触抵抗からなる、合成抵抗が主要な因子となっており、それらの改善によるESRのより一層の低減が望まれている。
【0005】
固体電解コンデンサの劣化は、偶発的に発生する不具合の他は一般的に、コンデンサを形成する各部材の熱劣化と、コンデンサの外装部を介して浸入する水分等の酸素源に起因する各部材の酸化劣化が主要な因子となっており、これらの劣化要因に対し、コンデンサを形成する各部材、特に固体電解質層の耐熱性能の向上と、外装部材を中心としたガスバリア性の向上等の対策が行われている。
【0006】
固体電解コンデンサに用いられる一般的な固体電解質としては、ポリピロールとポリエチレンジオキシチオフェンが挙げられ、さらに詳しくは、電解酸化重合によって形成されるポリピロールと、化学酸化重合によって形成されるポリエチレンジオキシチオフェンに大別される。
【0007】
電解酸化重合によって形成される固体電解質は、緻密な膜を形成することができるため、導電性が優れる傾向があり、積層型のコンデンサの製造に用いられている。一方、化学酸化重合は、複雑な形状の素子にも対応できるため、巻回型のコンデンサの製造に多く用いられている。
【0008】
固体電解コンデンサを形成する固体電解質の固有の性能については、ポリピロールや、ポリエチレンジオキシチオフェン等の固体電解質の種類のみではなく、固体電解質形成時に使用する支持電解質によっても固体電解質の導電性や、耐熱性等の性能が変化することが知られている。
【0009】
特許文献1、特許文献2に開示されているように、積層型の固体電解コンデンサに用いられるポリピロールからなる固体電解質では、代表的な支持電解質として、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸が挙げられるが、前記p−トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、アルキルナフタレンスルホン酸を支持電解質として用いたポリピロールからなる固体電解質では、電気伝導度や耐熱性が十分ではなく、得られた固体電解コンデンサのESRが高く、耐熱性が低いという欠点があった。
【0010】
また、特許文献3にはニトロベンゼンスルホン酸、3−ニトロベンゼンスルホン酸を化学重合により製造した固体電解コンデンサとその製造方法が記載されている。しかしながら、化学重合法では何度も重合させる必要があるため表面が弱く、耐熱性が劣り、かつ、製造工程が煩雑となる欠点があった。
【0011】
特許文献4にはポリアニリン系粒子とドーパントとして有機スルホン酸からなるポリアニリン系ペーストを含有する溶液を含浸させて電解質を形成し、固体電解コンデンサを製造する方法が記載されているが、塗布するため表面が弱く、十分な電気特性が得られない欠点がある。
【0012】
【特許文献1】特開平06−77093号公報
【特許文献2】特開2001−110682号公報
【特許文献3】特開2001−52963号公報
【特許文献4】特開2001−23437号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、高い電気伝導度かつ高い耐熱性の導電性高分子を与える導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、また、上記電解重合液を用い、ESRが低く、高い耐熱性を有する固体電解コンデンサとその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記問題を解決しうる導電性高分子形成用電解重合液、導電性高分子、固体電解コンデンサとその製造方法を完成するに至った。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
第一の発明は、導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解重合液において、
該支持電解質が下記一般式(1)で示される3−ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩であることを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液である。
【0017】
【化1】

(式中、Xはカチオンを示す。)
【0018】
第二の発明は、導電性高分子単量体がピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体であることを特徴とする第一の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液である。
【0019】
第三の発明は、第一又は第二の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液中にて電解酸化反応により形成されたことを特徴とする導電性高分子である。
【0020】
第四の発明は、弁作用金属に誘電体酸化被膜が形成され、該誘電体酸化被膜上に固体電解質を有する固体電解コンデンサにおいて、
支持電解質に少なくとも第三の発明に記載の導電性高分子が含有されていることを特徴とする固体電解コンデンサである。
【0021】
第五の発明は、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、第一又は第二の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【0022】
第六の発明は、誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に第一又は第二の発明に記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、従来よりも高い電気伝導度かつ高い耐熱性の導電性高分子を与える導電性高分子形成用電解重合液を提供すること、並びに、従来の固体電解コンデンサと比較して著しく優れたESR特性、高い耐熱性を示す固体電解コンデンサとその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
最初に、本発明の導電性高分子形成用電解重合液について説明する。本発明の導電性高分子形成用電解重合液は、ドーパントを放出できる支持電解質及び導電性高分子単量体であるモノマーが、溶媒中に溶解されたものである。
【0025】
本発明のドーパントを放出できる支持電解質は下記一般式(1)で示される化合物である。
【0026】
【化2】

【0027】
上記一般式(1)中のXはカチオンを示す。
【0028】
上記一般式(1)の3位に電子吸引基であるニトロ基を有するニトロベンゼンスルホン酸又は塩より生じるドーパントは、2位、4位にニトロ基を有するニトロベンゼンスルホン酸又は塩より生じるドーパントと比較し、格段にスルホン酸基の電荷密度が向上するため、ポリマー鎖からの脱離が生じにくく、極めて耐熱性に優れたものとなる。
【0029】
上記一般式(1)中のカチオンとしては、プロトン、アンモニウムカチオン、アルカリ金属カチオンが挙げられる。
前記アンモニウムカチオンとしては、NH、NH、NH、NHR等が挙げられる。Rは炭素数1〜6のアルキル基を示す。
前記アルカリ金属カチオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
これらカチオンは、1種又は2種以上を混合して用いることが出来る。
【0030】
従って、上記一般式(1)により表される化合物の具体例としては、例えば、3−ニトロベンゼンスルホン酸、3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、3−ニトロベンゼンスルホン酸カリウムが挙げられ、より好ましくは3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムが挙げられる。
上記一般式(1)により表される化合物は、1種類又は2種類以上を使用することができる。
【0031】
上記ドーパントを放出できる支持電解質の含有量は0.001〜2.0mol/Lが好ましく挙げられ、0.01〜1.0mol/Lがより好ましく挙げられ、0.05〜0.3mol/Lが特に好ましく挙げられる。0.001mol/L未満の場合では、十分な電気伝導度、電気特性が得られないことがあり、2.0mol/Lを超えた場合、完全に溶解せず経済性にも劣る欠点がある。
【0032】
次いで本発明に使用できる導電性高分子単量体について説明する。
【0033】
本発明に使用される導電性高分子単量体であるモノマーとしては、ピロール、アニリン、チオフェン又はこれらの誘導体を用いることができる。該誘導体としては、1−アルキル−3−アルキルピロール、3−アルキルチオフェン、1−アルキル−3,4−アルキレンジオキシピロール、3,4−アルキレンジオキシチオフェンなどが挙げられる。前記モノマーは1種もしくは2種以上を同時に含有することができる。これらの中でも、得られる導電性高分子の電気伝導度及び耐熱性の面からピロール又は3,4−エチレンジオキシチオフェン、アニリンが好ましい。
【0034】
上記導電性高分子単量体であるモノマーの含有量は0.001〜3.0mol/Lが好ましく挙げられ、0.01〜1.0mol/Lがより好ましく挙げられ、0.1〜0.5mol/Lが特に好ましく挙げられる。0.001mol/L未満の場合では、十分な電気伝導度、耐熱性が得られないことがあり、3.0mol/Lを超えた場合、完全に溶解せず経済性にも劣る欠点がある。
【0035】
本発明に使用する電解重合電解液の溶媒は、水、又はテトラヒドロフラン(THF)やジオキサン、ジエチルエーテル等のエーテル類、又はアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルホルムアミド(DMF)やアセトニトリル、ベンゾニトリル、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等の非プロトン性極性溶媒、酢酸エチルや酢酸ブチル等のエステル類、クロロホルムや塩化メチレン等の非芳香族性の塩素系溶媒、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物、メタノールやエタノール、プロパノール等のアルコール類、ギ酸や酢酸、プロピオン酸等の有機酸又は該有機酸の酸無水物(無水酢酸等)を0〜30%以下の割合で水と混合した混合溶媒を挙げることができる。これらの中でも、環境負荷、安全性の面から、水を単独で使用したものが好ましい。
【0036】
さらに、前記支持電解質及び添加剤を含有する導電性高分子形成用電解重合液を用いて電解重合を実施することで、耐熱性に著しく優れた導電性高分子が得られる。
【0037】
本発明の導電性高分子形成用電解重合液を用い、固体電解コンデンサを製造する方法について説明する。弁作用金属表面の誘電体酸化皮膜上にプレコート層として導電性高分子層を予め形成しておき、次に前記プレコート層上に新たな導電性高分子層を本発明の電解重合液を用いて電解重合により形成することで固体電解質層を形成した後、該固体電解質層にカーボンペースト、銀ペースト等の導電ペーストを塗布乾燥することによって陰極層を形成する。
プレコート層の導電性高分子の形成方法としては(1)化学重合による導電性高分子層を形成する方法、(2)導電性高分子溶液を塗布乾燥して導電性高分子層を形成する方法が挙げられる。
次に弁作用金属から陽極リード端子、陰極層から陰極リード端子を接続して電極を取り出して素子を形成し、この素子全体をエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂、あるいはセラミック製や金属製の外装ケース等により封止することで固体電解コンデンサを得ることができる。
【0038】
前記導電性高分子形成用電解重合液を用いることによって、電気伝導度に優れ、かつ高温に暴露された際に特定の安定構造をとる導電性高分子が得られ、さらに前記導電性高分子を固体電解質とすることにより、従来よりも格段に優れたインピーダンス特性、ESR特性、耐熱性を有する固体電解コンデンサを得ることができる。
【0039】
本発明に用いられる陽極弁作用金属としては、アルミニウム、タンタル、ニオブまたはチタンからなる群から選ばれた1種が挙げられ、焼結体または箔の形状で用いられる。
【0040】
本発明の固体電解コンデンサは、用いられる陽極弁作用金属の種類、形状により、チップ型または巻回型のいずれとすることができる。
【0041】
本発明の固体電解コンデンサは、以下の方法により製造される。なお、本発明は、以下の製造方法により、なんら限定されない。
【実施例】
【0042】
以下、本発明について実施例を挙げより詳細に説明する。なお、実施例中、「%」は、「重量%」を表し、静電容量(C)及び誘電損失(tanδ)は周波数120Hzで、ESRは周波数100kHzで測定した。
【0043】
(実施例1)
ITOガラス基板を、ピロール0.2mol/L及び3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1mol/Lを含有する水溶液を電解液として、ステンレススチール製補助電極をITOガラス基板に接触させて、外部陰極との間で定電流電解重合(0.5mA,60分)を行い、ITOガラス基板上に電解重合によるポリピロール膜を形成させた。補助電極を取り外した後、ITOガラス基板から電解重合ポリピロール膜を取り出し、水及びメタノールで洗浄・乾燥させ、電解重合ポリピロール膜を得た。
【0044】
(実施例2)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を得た。
【0045】
(実施例3)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、3−ニトロベンゼンスルホン酸を用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリピロール膜を得た。
【0046】
(実施例4)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、3−ニトロベンゼンスルホン酸アンモニウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を得た。
【0047】
(比較例1)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、n−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリピロール層を得た。
【0048】
(比較例2)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、p−トルエンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリピロール層を得た。
【0049】
(比較例3)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリピロール膜を得た。
【0050】
(比較例4)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を得た。
【0051】
(比較例5)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリピロール膜を得た。
【0052】
(比較例6)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例1に準じて電解重合ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を得た。
【0053】
実施例1〜4及び比較例1〜6より得られた電解重合導電性高分子膜の初期電気伝導度と耐熱性試験(125℃恒温槽中、100時間保存)後の電気伝導度について評価した。なお、電気伝導度は、電導度測定器(三菱化学社製ロレスタGP)を用いて、4端子4探針法により測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
表1に示すように支持電解質として、3−ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩を用いた電解重合導電性高分子膜(実施例1〜4)は、従来用いられているn−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムやp−トルエンスルホン酸ナトリウムを支持電解質とした電解重合導電性高分子膜(比較例1、2)と比較して、初期電気伝導度が高く、かつ耐熱性に優れていることが分かる。
【0056】
さらに2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを支持電解質として用いて形成された電解重合導電性高分子膜(比較例3〜6)と比較しても、3−ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩を支持電解質として用いて形成された電解重合導電性高分子膜の方が、初期電気伝導度が高く、かつ耐熱性に優れていることが分かる。
【0057】
(実施例5)
表面にエッチングを施した5mm×5mmのアルミニウム箔に、コンデンサの陽極リードとなるアルミニウムワイヤを溶接し、この陽極アルミニウム箔に、アジピン酸アンモニウム水溶液中、4Vの電圧を印加させて、化成処理し、誘電体酸化皮膜を形成させた。アルミニウム箔素子の液中での静電容量は225μFであった。
【0058】
作製したアルミニウム箔素子を室温でピロール中に5分間浸漬した後、過剰のピロールを不織布で軽く拭い取った。
上記素子を、過硫酸アンモニウム及び2−ナフタレンスルホン酸ナトリウムをそれぞれ5%含有した水溶液に、上記素子を10分間浸漬して化学重合させ、洗浄・乾燥させた後に、アジピン酸アンモニウム水溶液中で再化成させ、この操作を2回繰り返して、ポリピロールからなる第1のポリピロール層を形成させた。
得られた素子を、ピロール0.2mol/L及び3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム0.1mol/Lを含有する水溶液を電解液として、ステンレススチール製補助電極を化学重合層に接触させて、外部陰極との間で定電流電解重合(0.5mA,60分)を行い、電解重合によるポリピロール層を形成させた。補助電極を取り外した後、水及びメタノールで洗浄・乾燥させた。
上記素子の陰極層に、カーボンペースト及び銀ペーストを塗布して導電性塗膜を形成し、その一部から対極を取り出した後、エポキシ樹脂でモールドさせ、その後、4Vの電圧を印加させてエージングを行い、定格電圧2V、定格静電容量220μFの固体電解コンデンサを得た。
【0059】
(実施例6)
電解重合において導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0060】
(実施例7)
電解重合において導電性高分子単量体としてピロールに代わり、アニリンを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0061】
(実施例8)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、3−ニトロベンゼンスルホン酸を用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0062】
(実施例9)
電解重合において導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、3−ニトロベンゼンスルホン酸を用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0063】
(実施例10)
電解重合において導電性高分子単量体としてピロールに代わり、アニリンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、3−ニトロベンゼンスルホン酸を用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0064】
(比較例7)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、n−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0065】
(比較例8)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、p−トルエンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0066】
(比較例9)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0067】
(比較例10)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0068】
(比較例11)
支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0069】
(比較例12)
導電性高分子単量体としてピロールに代わり、3,4−エチレンジオキシチオフェンを用い、また、支持電解質として3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムに代わり、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いた以外は実施例5に準じて固体電解コンデンサを得た。
【0070】
(比較例13)
実施例5と同様にしてアルミニウム箔素子を作製し、次にピロールと酸化剤兼ドーパントとしてp−トルエンスルホン酸第二鉄を40%含有するエタノール溶液を各々別容器に準備した。
上記ピロールに、先に作製したアルミニウム箔素子を室温で1分間浸漬してピロールモノマーを含浸させた。
上記素子を酸化剤溶液に30秒浸漬させた後、50℃のオーブン中で1時間加熱して化学重合させ、洗浄、乾燥後、アジピン酸アンモニウム溶液中で再化成を行い、この操作を5回繰り返してp−トルエンスルホン酸を支持電解質塩としたポリピロールからなる陰極層を形成させた。
上記素子の陰極層にカーボンペースト及び銀ペーストを塗布して導電性塗膜を形成させ、その一部から対極を取り出した後、エポキシ樹脂でモールドさせ、その後、4Vの電圧を印加させてエージングを行い、定格2V、定格静電容量220μFの固体電解コンデンサを完成させた。
【0071】
(比較例14)
酸化剤兼ドーパントであるp−トルエンスルホン酸第二鉄を40%含有するエタノール溶液に代えて、3−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを10%含有するエタノール溶液と酸化剤となるペルオキソ二硫酸アンモニウムを40%含有する水溶液を用いた以外は比較例13に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0072】
(比較例15)
酸化剤兼ドーパントであるp−トルエンスルホン酸第二鉄を40%含有するエタノール溶液に代えて、n−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムを30%含有するエタノール溶液と酸化剤となるペルオキソ二硫酸アンモニウムを40%含有する水溶液を用いた以外は実施例13に準じて固体電解コンデンサを完成させた。
【0073】
実施例5〜10及び比較例7〜15より得られた固体電解コンデンサの初期電気特性、高温負荷(温度260℃の雰囲気に3分間保持)後の電気特性の測定結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩を支持電解質とした導電性高分子を電解重合法により形成し、陰極電解質とした固体電解コンデンサ(実施例5〜10)は、支持電解質として用いられているn−ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウム、p−トルエンスルホン酸ナトリウムから形成される固体電解コンデンサ(比較例7、8)及び化学重合法のみで形成された固体電解コンデンサ(比較例13〜15)と比較して、ESRが低く、かつ耐熱性に優れていることがわかる。
【0076】
さらに2−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム、4−ニトロベンゼンスルホン酸ナトリウムを支持電解質として用いて形成された固体電解コンデンサ(比較例9〜12)と比較しても、3−ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩を支持電解質として用いて形成された固体電解コンデンサの方が、ESRが低く、かつ、耐熱性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明の電解重合液により得られる導電性高分子は、固体電解コンデンサはもとより、有機ELディスプレイ、有機トランジスタ、ポリマー電池、太陽電池、各種センサー材料、電磁波シールド材料、帯電防止材料、エレクトロクロミック材料、人工筋肉などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子単量体と支持電解質とが、溶媒に溶解されてなる導電性高分子形成用電解重合液において、
該支持電解質が下記一般式(1)で示される3−ニトロベンゼンスルホン酸又はその塩であることを特徴とする導電性高分子形成用電解重合液。
【化1】

(式中、Xはカチオンを示す。)
【請求項2】
導電性高分子単量体がピロール、チオフェン、アニリン又はそれらの誘導体であることを特徴とする請求項1に記載の導電性高分子形成用電解重合液。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の導電性高分子形成用電解重合液中にて電解酸化反応により形成されたことを特徴とする導電性高分子。
【請求項4】
弁作用金属に誘電体酸化被膜が形成され、該誘電体酸化被膜上に固体電解質を有する固体電解コンデンサにおいて、
固体電解質に少なくとも請求項3に記載の導電性高分子が含有されていることを特徴とする固体電解コンデンサ。
【請求項5】
誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、請求項1又は2に記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層を電解重合により形成する工程を少なくとも有する固体電解コンデンサの製造方法。
【請求項6】
誘電体酸化被膜が形成された弁作用金属上に、導電性高分子層(A)を形成する工程と、前記導電性高分子層(A)上に請求項1又は2に記載の導電性高分子形成用電解重合液中で導電性高分子層(B)を電解重合により形成する工程とを有する固体電解コンデンサの製造方法。

【公開番号】特開2010−143996(P2010−143996A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−320789(P2008−320789)
【出願日】平成20年12月17日(2008.12.17)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】