説明

導電性高分子組成物およびその製造方法

【課題】製造工程において環境負荷が少なく、成膜性、導電性に優れた新規な導電性高分子組成物を提供する。
【解決手段】下記の化学式(式中、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。)で表され


る構造単位を有し重量平均分子量が500〜1,000,000である可溶性ポリピロール誘導体とイオン性液体とから導電性高分子組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工性に優れた導電性高分子組成物およびその製造方法に関し、より詳しくは、各種溶媒に可溶で加工性に優れ、電気的、機械的特性に優れた導電性物質、成形体の製法に適用可能である導電性高分子組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性高分子は、共役系有機高分子として、そのπ電子の電気的、化学的、さらには光学的な特性を利用し、多くの機能を有する材料として注目されている。ところが、導電性高分子は、不溶不融のため高分子特有の成型性に欠け、その応用範囲が限られていた。最近では、共役系主鎖に置換基を導入して可溶化することが提案され、同時に、溶解した高分子を溶液状態のまま酸化ドープする試みもなされている。
【0003】
電子伝導性を有する有機高分子材料は、近年、帯電防止材料、電磁波シールド材料、二次電池、コンデンサ、エレクトロクロミック表示素子などへの広範囲な応用が検討されている。電子伝導性高分子としては、ポリアセチレン、ポリアニリン、ポリフェニレンビニレン、ポリピロール、ポリチオフェン等が知られている。中でも溶媒に可溶な材料として、N−メチル−2−ピロリドンに可溶なポリアニリン(M. Abe et al. ; J. Chm. Soc., Chem. Commun.,
1989, p. 1736参照)、アルキル基などの置換基を導入したポリピロール、ポリチオフェン(M. -A. Sato, S. Tanaka, K. Kaeriyama: Synth. Met.,
1987, 18, p. 229参照)がある。また、ポリフェニレンビニレン等の高分子は、その前駆体の高分子が可溶性であることが知られている。これらの高分子は、キャスティングによって製膜することが可能であることから、各種高分子フィルムの帯電防止材料などへの応用が検討されている。しかしながら、導電性高分子に導電性を付与するためには、成形後に電子受容性あるいは電子供与性の化合物で処理(ドーピング)する必要があり、酸性溶液に浸す、ドーパント蒸気に曝す等の操作を伴うため、加工面での問題があった。
【0004】
上記した導電性ポリマーの問題点を解決する手段として、ドーパントとなる対イオンを重合体に共有結合させた自己ドープ性を有する導電性ポリマーが提案されている(例えば、非特許文献1参照。)。しかしながら、この種の導電性高分子は、高分子鎖中にスルホン酸基などを有するために、高分子自体が強酸性で、腐食や酸による分解を伴う材料と接触するような用途には適用することができなかった。また、有機電子受容体とポリピロール誘導体との均一溶液を用いる導電性高分子フィルムの製法が提案されている。しかしながら、高濃度の高分子溶液においては、混合溶液がゲル状態になり易いといった問題点がある。
【0005】
そこで、可溶性導電性高分子とドーパントとの組み合わせを検討することにより、高濃度の溶液においても安定な均一混合液が得られるようにする試みが種々行われている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリピロール誘導体の溶液と有機電子受容体との均一溶液を調製するのに当たり、ピロール環上の置換基を限定し、有機電子受容体として2,3,7,8−テトラシアノ−1,4,6,9−テトラアザナフタレンを用いることにより、成膜性に優れた導電性高分子フィルム形成用溶液を調製することが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平08−157574号公報(第3−4頁)
【特許文献2】特開平05−287088号公報(第2頁)
【非特許文献1】エー.オー.パチル他(A. O. Patil et al.), 「米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)」,1987,109,p.1858−1859
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載された方法では、目的とする導電性高分子を作成するために大量の有機溶剤が必要であり、近年の環境問題への対応が望まれている、といった現況からみて問題がある。また、有機電子受容体として2,3,7,8−テトラシアノ−1,4,6,9−テトラアザナフタレンを用いることが必須である、といった問題点がある。このため、新たな導電性高分子組成物の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、製造工程において環境負荷が少なく、成膜性、導電性に優れた新規な導電性高分子組成物を提供すること、および、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した。その結果、ポリピロール誘導体とイオン性液体とが共存することにより、上記目的を達成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、請求項1に係る発明の導電性高分子組成物は、化1に示す化学式で表される構造単位を有し重量平均分子量が500〜1,000,000である可溶性ポリピロール誘導体と、イオン性液体とから構成される。
【化1】

但し、化1に示す式中において、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の導電性高分子組成物において、前記イオン性液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、脂肪族四級アンモニウム塩および脂環式四級アンモニウム塩からなる群より選ばれた1種もしく2種以上の組合せであることを特徴とする。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載の導電性高分子組成物を製造する方法において、化2に示す化学式で表されるモノマーの重合をイオン性液体中で行うことを特徴とする。
【化2】

但し、化2に示す式中において、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。
上記した構成によれば、過剰の有機溶剤を用いることなく目的とする導電性高分子組成物を得ることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の導電性高分子組成物は、上記したように、可溶性ポリピロール誘導体とイオン性液体とを含む構成である。したがって、この導電性高分子組成物は、導電性発現のために必ずしも、通常用いられる有機電子受容体を共存させる必要の無い新規な組成物である。また、製造工程において、共存すべきイオン性液体中で重合反応を行うため、必要以上に大過剰の有機溶剤を使用する必要が無い、といった利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
この発明に係る導電性高分子組成物は、化1に示す化学式で表される構造単位を有し重量平均分子量が500〜1,000,000である可溶性ポリピロール誘導体とイオン性液体とから構成される。
【化1】

但し、化1に示す式中において、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。
【0013】
化1に示す化学式で表されるポリピロール誘導体の好ましい具体例としては、R が直鎖アルキル基で、より好ましくはメチル基、Rが直鎖アルキル基で、より好ましくは炭素数2〜18のアルキル基である。本発明で言うところのポリピロール誘導体には、化1に示す化学式で表される構造単位同士のコポリマー、および、化1に示す化学式で表される構造単位を形成するモノマーとそれ以外のモノマー、例えばピロール、N−メチルピロール、3−メチルピロール、チオフェン、3−メチルチオフェン等のモノマーとから得られるコポリマーも含まれる。代表的な分子量は、重量平均分子量で10,000から200,000であり、高い溶解性を得るためには200,000以下とすることが好ましく、高い導電性と強靱性を得るためには20,000以上とすることが好ましい。
【0014】
本発明の導電性高分子組成物は、例えば化2に示す化学式(式中、R、Rは、前記と同じ意味を示す。)で表される1種もしくは2種以上の化合物を、イオン性液体を溶剤として、酸化性遷移金属ハロゲン化物の存在下で、化1に示すポリピロール誘導体を化学重合し、中和洗浄などの後処理を行うなどの方法により製造することができる。また、それ以外のモノマー単位を含むコポリマーも同様にして製造することができる。
【化2】

【0015】
化1に示す化学式で表されるポリピロール誘導体の製造方法は、公知の反応または類似の反応を適宜選択することにより製造することができる。
【0016】
本発明で用いられるイオン性液体は、ポリピロール誘導体の重合反応を行う温度域において液体であれば特に限定されるものではないが、好ましくは、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、脂肪族四級アンモニウム塩および脂環式四級アンモニウム塩からなる群より選ばれた1種もしく2種以上の組合せより選定される。
【0017】
イミダゾリウム塩としては、例えば、化3、化4および化5に示す各化学式(化5に示す式中、RはHまたはアルキルを表し、Rはアルキルを表す。)でそれぞれ表される化合物が使用される。
【化3】

【化4】

【化5】

【0018】
ピリジウム塩としては、例えば、化6に示す化学式(式中、Rはアルキルを表す。)で表される化合物が使用される。
【化6】

【0019】
脂肪族四級アンモニウム塩としては、例えば、化7に示す化学式(式中、Rはアルキルを表す。)で表される化合物が使用される。
【化7】

【0020】
また、脂環式四級アンモニウム塩としては、例えば、化8および化9に示す各化学式(各式中、RおよびRは、それぞれアルキルを表す。)でそれぞれ表される化合物が使用される。
【化8】

【化9】

但し、化3ないし化9に示す各式中において、Xは、Br、PF、BFまたは(CFSO)を表す。
【0021】
本発明に係る方法で得られる導電性高分子組成物は、適当な溶媒に溶解し、有機電子受容体を加えることも可能である。
【0022】
そして、本発明の導電性高分子組成物は、例えば帯電防止膜、透明導電膜、各種電子デバイス用電極等への応用が挙げられる。
【実施例1】
【0023】
エトキシメチルピロール0.5g(3.2mmol)を1−エチル−3−メチル−イミダゾール四フッ化ホウ素塩2.0gに溶解させて室温で撹拌した。無水塩化第二鉄3.13g(9.65mmol)の1−エチル−3−メチル−イミダゾール四フッ化ホウ素塩10.35g溶液を、エトキシメチルピロール溶液中に乾燥空気を吹き込みながら、溶液温度が25℃±2℃を保つようにして滴下した。滴下終了後から4時間、溶液中に乾燥空気を吹き込みながら室温で撹拌することにより、エトキシメチルピロールの重合反応を行わせた。溶液中への乾燥空気の吹込みを止めて、溶液中に乾燥メタノール2.5gを添加することにより反応を終了させた。さらに、溶液中に15gの乾燥メタノールを添加して15分撹拌した後、反応溶液を減圧濾過して、黒色粉末を得た。この黒色粉末をメタノール15g中に投入して撹拌した後、濾過することにより、過剰な1−エチル−3−メチル−イミダゾール四フッ化ホウ素塩および塩化第二鉄残渣を洗浄して除去した。
【0024】
得られた黒色粉末をテトラヒドロフラン6ml中に分散させて撹拌し、80%ヒドラジン水和物をpH9になるまで滴下した後、1時間撹拌した。次に、10%硫酸−テトラヒドロフラン溶液をpH7になるまで滴下した後、1時間撹拌した。さらに、トルエン5mlおよび蒸留水0.1mlを添加し、1時間撹拌してから静置し、セライトを敷き詰めたロートで沈殿物を濾過した。ろ液を10mlの蒸留水で2回洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、エトキシメチルポリピロールのテトラヒドロフラン−トルエン混合溶液を得た。ここで得られたエトキシメチルポリピロールの分子量は、18,000(スチレン換算重量平均分子量)であった。この導電性高分子組成物溶液を成膜して得られた導電性高分子組成物膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表1に示す。また、得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトル(IRスペクトル)の測定を行った。この測定結果を図1に示す。
【0025】
【表1】

【実施例2】
【0026】
実施例1と同様の方法により、イオン性液体のみをN−メチル−N−プロピルピペリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミドに変更して、ポリピロールの合成を行った。得られた導電性高分子組成物溶液を成膜して得られた導電性高分子組成物膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表1に示す。
【0027】
[比較例1]
上記した実施例1での1−エチル−3−メチル−イミダゾール四フッ化ホウ素塩を酢酸ブチルに変更して、同様の方法によりエトキシメチルポリピロールのテトラヒドロフラン−トルエン混合溶液を得た。ここで得られたエトキシメチルポリピロールの分子量は、52,000(スチレン換算重量平均分子量)であった。この導電性高分子組成物溶液を成膜して得られた導電性高分子組成物膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表1に示す。なお、表1には、PETフィルムの電気伝導度も併せて示す。また、得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルの測定を行った。この測定結果を図3に示す。
【実施例3】
【0028】
上記実施例1で得られた導電性高分子組成物溶液に、2,3,7,8−テトラシアノ−1,4,6,9−テトラアザナフタレン(TCNA)を、導電性高分子組成物に対して25重量パーセント添加して得られた膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表2に示す。また、得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルの測定を行った。この測定結果を図2に示す。
【0029】
【表2】

【実施例4】
【0030】
上記実施例2で得られた導電性高分子組成物溶液に、2,3,7,8−テトラシアノ−1,4,6,9−テトラアザナフタレン(TCNA)を、導電性高分子組成物に対して25重量パーセント添加して得られた膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表2に示す。
【0031】
[比較例2]
上記比較例1で得られた導電性高分子組成物溶液に、2,3,7,8−テトラシアノ−1,4,6,9−テトラアザナフタレン(TCNA)を、導電性高分子組成物に対して25重量パーセント添加して得られた膜の電気伝導度の測定(三菱化学製、ハイレスタまたはロレスタ)、および、鉛筆硬度の測定を行った。この測定結果を表2に示す。また、導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルの測定を行った。この測定結果を図4に示す。
【0032】
本発明の上記実施例で得られた導電性高分子組成物は、その明確な構造を特定することができていないが、比較例で得られた導電性高分子組成物とのIRスペクトルの比較より、ポリピロールとイオン性液体との単純な混合物ではなく、ポリピロールとイオン性液体との間での何らかの相互作用を呈し、その結果として、導電性発現のために通常必要とされるドーパントの存在が無くても導電性の発現が確認されたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の導電性組成物は、例えば、帯電防止膜、透明導電膜、各種電子デバイス用電極などを製造するために利用される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の実施例1で得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図2】本発明の実施例3で得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図3】比較例1で得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示す図である。
【図4】比較例2で得られた導電性高分子組成物の赤外吸収スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1に示す化学式(式中、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。)で表される構造単位を有し重量平均分子量が500〜1,000,000である可溶性ポリピロール誘導体と、イオン性液体とから構成されることを特徴とする導電性高分子組成物。
【化1】

【請求項2】
請求項1に記載の導電性高分子組成物において、
前記イオン性液体が、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、脂肪族四級アンモニウム塩および脂環式四級アンモニウム塩からなる群より選ばれた1種もしく2種以上の組合せであることを特徴とする導電性高分子組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の導電性高分子組成物を製造する方法において、
化2に示す化学式(式中、R は、置換もしくは未置換のアルキル、置換もしくは未置換のアルコキシ、ハロゲンまたは置換もしくは未置換のフェニルを表し、Rは、置換もしくは未置換のアルキルまたは置換もしくは未置換のフェニルを表す。)で表されるモノマーの重合をイオン性液体中で行うことを特徴とする導電性高分子組成物の製造方法。
【化2】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−214446(P2008−214446A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52285(P2007−52285)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年9月5日 社団法人 高分子学会発行の「高分子学会予稿集 55巻2号[2006]」に発表
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】