説明

導電性高分子繊維、及びその製造方法

【課題】強度、弾性率等の力学的特性などの繊維の性能を損なうことがなく、優れた導電性が付与された導電性高分子繊維、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】導電性高分子が少なくともPEDOTを含み、導電性高分子のドーパントが少なくともPSSを含み、水酸基を含んでなる高分子が少なくともビニルアルコールユニットを主成分とし、重量平均分子量が、10,000以上1,000,000以下である高分子を含む、導電性高分子繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強度、弾性率等の力学的特性、および導電性能を兼ね備えた導電性高分子繊維、およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性を有する高分子繊維(以下、導電性高分子繊維とも言う)として、カーボンブラック粒子などの導電性フィラーを高分子繊維に混ぜ込んだ、いわゆる練り込み型のタイプがある。このような練り込み型の導電性高分子繊維は、コストが比較的安く、しかも量産化にも適しているため、多くの産業分野で広く使用されている。例えば、帯電防止用途には、かかる導電性高分子繊維が広く使われている。しかしながら、導線としての用途に用いる場合には抵抗率が高く、印加電圧が高くなったり、またそれにより発熱がおきる場合があり、導線としての用途には使いにくいという問題点がある。
【0003】
また、他の導電性高分子繊維の形態として、金属を高分子繊維に蒸着やスパッタした導電性高分子繊維がある。かかる導電性高分子繊維は、金属を使うので、導電性は得られるものの、金属が高分子から剥がれやすく、耐久性に問題が残る。
【0004】
一方、非特許文献1では、チオフェン系の導電性高分子であるポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)にポリスチレンスルホン酸(PSS)をドープしたPEDOT/PSS水分散液を用いて繊維化したものが導電性高分子繊維として開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】H.Okazaki et al.,Macromol.Rapid commun.,24,p.261(2003)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、導電性高分子を使った導電性高分子繊維では、導電率は高いものの、引張り強度が弱く、実用には適さないという問題点がある。
【0007】
そこで本発明は、強度、弾性率等の力学的特性などの繊維の性能を損なうことがなく、優れた導電性が付与された導電性高分子繊維、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高強度の導電性高分子繊維を得るべく鋭意検討を重ねた結果、導電性高分子繊維が、導電性高分子、そのドーパント、および水酸基を含んでなる高分子を構成材料として含んでなることにより、上記目的が達成されることを見出した。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、優れた導電性と共に、強度、弾性率などの力学的特性を兼備した導電性高分子繊維を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1の導電性高分子繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】比較例1の導電性高分子繊維表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】本発明の導電性高分子繊維の製造に用いられる湿式紡糸装置の一実施形態を示す概略模式図である。
【図4】本発明の導電性高分子繊維の構造の一実施形態を示す概略模式図である。
【図5】本発明の導電性高分子繊維の構造の一実施形態を示す概略模式図である。
【図6】本発明の導電性高分子繊維の構造の一実施形態を示す概略模式図である。
【図7】本発明の導電性高分子繊維の構造の一実施形態を示す概略模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0012】
本発明の第一は、導電性高分子、導電性高分子のドーパント、および水酸基を含んでなる高分子(以下、水酸基含有高分子とも称する)を含む、導電性高分子繊維である。
【0013】
繊維に導電性を付与する方法としては、前述のように、導電性高分子を配合する方法や、導電性フィラーを配合する方法などがある。
【0014】
導電性高分子を含む従来の導電性高分子繊維は、優れた導電率を有するものの、強度や弾性率などの力学的特性、特に強度に問題があった。また、導電性フィラーを配合した導電性高分子繊維の場合にも、導電性フィラー量を多くすると一般に導電性は上がるが、繊維の力学的物性は低下するという問題点があった。導電性繊維に一定程度の強度がないと、操業時に糸切れが生じ、繊維を布帛製品等へ加工できない場合があり、力学的特性の中でも特に強度が高い導電性高分子繊維の開発が求められている。もちろん、ナイロン繊維、ポリエステル繊維等の化学繊維に限らず、綿、麻等の天然繊維は、強度はあるものの導電性があるとは言えない。
【0015】
導電性高分子に、強度を有する他の樹脂を混合させて導電性高分子繊維を製造すると、他の樹脂の存在により強度は向上すると考えられる。しかしながら、強度向上を目的として他の樹脂の配合量を増加させると、導電性高分子の繊維中の含有量が減少し、その結果、繊維の導電性は低下するものと考えられていた。すなわち、これまで、導電性の付与と強度の向上とは相反する現象と捉えられ、両者の両立は非常に困難な課題であった。このような状況下、驚くべきことに、水酸基含有高分子を導電性高分子に組み合わせると、繊維の導電性が、導電性高分子から構成される繊維と同程度または向上する一方、強度や弾性率などの力学的特性が向上するという知見を本願発明者らは見出した。
【0016】
水酸基含有高分子を配合すると、導電性高分子を含有する導電性高分子繊維の導電性および力学的特性が良好となる理由は、詳細は不明であるが、以下のメカニズムが推定される。水酸基含有高分子の水酸基の部分が、導電性高分子の結晶構造化を促進し、導電性高分子のネットーワークが効率的に働く構造となる。このため、水酸基含有高分子の存在により導電性高分子の繊維中の含有量が減少したとしても、導電効率の向上により、導電性高分子のみを含む繊維と同程度またはそれ以上の導電性を有すると考えられる。一方、水酸基を含有する化合物の力学的特性を向上させるためには、高分子化することが必要であることも本願発明者らは見出した。これは、水酸基含有高分子は、力学的特性が導電性高分子よりも優れるため、水酸基含有高分子の配合により繊維の力学的特性が向上するものと考えられる。力学的特性を向上させるためには、最終的な繊維の形態において、水酸基含有化合物そのものが含有される必要がある。つまり、水酸基含有化合物であっても、低分子量である場合、それ自身が強度を有さず、また製造過程の加熱により、最終的に導電性高分子中に残存しない場合もあるため、本願においては水酸基を含む高分子を用いたものである。なお、導電性高分子を含有する導電性高分子繊維の導電性および強度が良好となる理由は、上記推定に限定されるものではない。
【0017】
本発明によれば、優れた導電性と共に、強度、弾性率などの力学的特性を兼備した導電性高分子繊維を提供することが可能である。また、本発明の導電性高分子繊維は、特別な工程を必要とせず、通常の繊維製造工程で達成可能であり、安価に製造することができる。本発明の導電性高分子繊維は、紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、アクチュエータ、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【0018】
(導電性高分子)
本発明に用いられる導電性高分子は、導電性を示す高分子であれば特に制限されることはないが、例えば、アセチレン系、複素5員環系、フェニレン系、アニリン系の各導電性高分子やこれらの共重合体、誘導体;ポリフェニレンビニレン;ポリチオフェンビニレン;ポリペリナフタレン;ポリアントラセン;ポリナフタレン;ポリピレン;ポリアズレンなどが挙げられる。
【0019】
アセチレン系導電性高分子としては、例えば、下記化学式のものが挙げられる。
【0020】
なお、以下列挙する化学式において、nは重合数を表す。
【0021】
【化1】

【0022】
上記式中、R、R’およびR’’は、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状アルキル基、または炭素数6〜18、好ましくは炭素数6〜12のアリール基を示す。具体的には、ポリアセチレン、ポリメチルアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフルオロアセチレン、ポリブチルアセチレン、ポリメチルフェニルアセチレンなどが挙げられる。
【0023】
複素5員環系としては、ピロール系高分子、チオフェン系高分子、イソチアナフテン系高分子が挙げられる。ピロール系高分子としては、例えば、モノマーとして、ピロール、3−メチルピロール、3−エチルピロール、3−ドデシルピロールなどの3−アルキルピロール;3,4−ジメチルピロール、3−メチル−4−ドデシルピロールなどの3,4−ジアルキルピロール;N−メチルピロール、N−ドデシルピロールなどのN−アルキルピロール;N−メチル−3−メチルピロール、N−エチル−3−ドデシルピロールなどのN−アルキル−3−アルキルピロール;3−カルボキシピロールなどを重合して得られたピロール系高分子が挙げられる。
【0024】
ピロール系導電性高分子としては、具体的には、下記化学式のものが挙げられる。
【0025】
【化2】

【0026】
上記式中、R、R、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状アルキル基を示す。
【0027】
チオフェン系導電性高分子としては、具体的には、下記式のものが挙げられる。
【0028】
【化3】

【0029】
上記式中、R、R、およびRは、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状アルキル基を示す。
【0030】
フェニレン系導電性高分子としては、例えば、下記式のものが挙げられる。
【0031】
【化4】

【0032】
アニリン系導電性高分子としては、例えば、下記式のものが挙げられる。
【0033】
【化5】

【0034】
上記式中、R10、R11およびR12は、それぞれ独立して、炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12の直鎖、分岐または環状アルキル基を示す。
【0035】
上記炭素数1〜20のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、2−エチルヘキシル基、テトラデシル基、オクタデシル基、イコシル基、およびシクロヘキシル基等の直鎖状、分枝鎖状または環状アルキル基などが挙げられる。炭素数6〜18のアリール基としては、フェニル基、ベンジル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基などが挙げられる。
【0036】
導電性高分子のより具体的な例としては、ポリアセチレン、ポリメチルアセチレン、ポリフェニルアセチレン、ポリフルオロアセチレン、ポリブチルアセチレン、ポリメチルフェニルアセチレンなどのポリアセチレン系高分子;ポリオルソフェニレン、ポリメタフェニレン、ポリパラフェニレンなどのポリフェニレン系高分子;ポリピロール、ポリ(3−メチルピロール)、ポリ(3−エチルピロール)、ポリ(3−ドデシルピロール)、ポリ(3,4−ジメチルピロール)、ポリ(3−メチル−4−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチルピロール)、ポリ(N−ドデシルピロール)、ポリ(N−メチル−3−メチルピロール)、ポリ(N−エチル−3−ドデシルピロール)、ポリ(3−カルボキシピロール)などのポリピロール系高分子;ポリチオフェン、ポリ(3−メチルチオフェン)、ポリ(3−エチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジメチルチオフェン)、ポリ(3,4−ジエチルチオフェン)、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)などのポリチオフェン系高分子;ポリフラン;ポリセレノフェン;ポリイソチアナフテン;ポリフェニレンスルフィド;ポリアニリン、ポリ(2−メチルアニリン)、ポリ(2−エチルアニリン)、ポリ(2,6−ジメチルアニリン)などのポリアニリン系高分子;ポリパラフェニレンビニレンなどのポリフェニレンビニレン;ポリチオフェンビニレン;ポリペリナフタレン;ポリアントラセン;ポリナフタレン;ポリピレン;ポリアズレン;またはこれらの誘導体が好ましく挙げられる。
【0037】
なかでも、安定性や信頼性が高く、入手も容易であることから、ポリピロールなどのピロール系高分子、ポリアニリンなどのアニリン系高分子、ポリ3,4−エチレンジオキシチオフェンなどのチオフェン系高分子またはポリパラフェニレンビニレンなどのポリフェニレンビニレンが好適に用いられる。
【0038】
導電性高分子は単独でもまたは2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0039】
導電性高分子の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、導電性高分子の重量平均分子量は通常、1万〜100万程度である。なお、重量平均分子量は後述する測定方法により測定された値を採用する。
【0040】
本発明において、導電性高分子の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を採用することができる。製造方法の具体的な例としては、例えば、化学重合法、電解重合法、可溶性前駆体法、マトリックス(鋳型)重合法、またはCVDなどの蒸着法が挙げられる。また、前記導電性高分子は、市販品を用いてもよい。上記重合は、下記ドーパント存在下で行われてもよい。
【0041】
(導電性高分子のドーパント)
導電性高分子のドーパントは、導電性高分子の導電性を向上するための添加剤を指し、特に限定されるものではない。
【0042】
本発明に用いられる、導電性高分子のドーパントとしては、塩化物イオン、臭化物イオンなどのハロゲン化物イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロ硼酸イオン、六フッ化ヒ酸イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、チオシアン酸イオン、六フッ化ケイ酸イオン、燐酸イオン、フェニル燐酸イオン、六フッ化燐酸イオンなどの燐酸系イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トシレートイオン、エチルベンゼンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオンなどのアルキルベンゼンスルホン酸イオン、メチルスルホン酸イオン、エチルスルホン酸イオンなどのアルキルスルホン酸イオン、ポリアクリル酸イオン、ポリビニルスルホン酸イオン、ポリスチレンスルホン酸イオン、ポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)イオンなどの高分子イオンが挙げられる。これらは単独でも、または2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、高い導電性を容易に調整できることから、ポリスチレンスルホン酸イオンが好ましい。
【0043】
ドーパントの添加量は、導電性に効果を与える量であれば特に制限はされないが、通常、導電性高分子に対し、ドーパントが10〜500質量%であることが好ましく、50〜300質量%であることがより好ましい。
【0044】
導電性高分子と、そのドーパントとの組み合わせは特に限定されるものではない。特に繊維として得やすい材料の組み合わせとしては、チオフェン系高分子のポリ3,4−エチレンジオキシチオフェン(PEDOT)にポリ4−スチレンサルフォネート(PSS)をドープしたPEDOT/PSSが好適に挙げられる。PEDOT/PSSは、Baytron P(Bayer社、登録商標、3,4−エチレンジオキシチオフェンをPSS中で重合してなる導電性ポリマー(水分散物))のような市販品を用いてもよい。
【0045】
(水酸基を含んでなる高分子)
本発明の導電性高分子繊維は、水酸基を含んでなる高分子を含む。上述したように、本願において、高分子中に水酸基が存在するために導電性高分子を含有する導電性高分子繊維の導電性が良好となると推定される。また、水酸基を含有する化合物の分子量が高く、導電性高分子よりも力学的強度等が良好であるために、導電性高分子繊維の強度等の力学的特性が向上すると推定される。なお、上記推定に限定されるものではない。
【0046】
水酸基含有高分子は、高分子中に水酸基を含有するものであれば、特に限定されるものではない。
【0047】
水酸基含有高分子としては、例えば、下記式(1)のアルコールユニットを有する形態、下記式(2)で表される多価アルコールユニットを有する形態、下記式(3)で表されるフェノール性水酸基ユニットを有する形態、下記式(4)で表される芳香族アルコールユニットを有する形態、(5)ビスフェノールユニットを有する形態等を挙げることができる。ここで、式(2)において、yが0であって、yが0の式(2)で表されるユニットのみから高分子が形成されている場合、高分子末端の炭素に結合する基は、水酸基である。これらのユニットは、1種単独で高分子を形成してもよいし、2種以上組み合わせて高分子を形成してもよい。全モノマーユニット中、式(1)〜(5)で表されるユニットが好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは100モル%以上である。
【0048】
【化6】

【0049】
式中、pは、1〜8、好ましくは1〜4の整数を示し、xは1または2を示す、直鎖または分岐のアルキレン基である;
【0050】
【化7】

【0051】
式中、qは、1〜8、好ましくは1〜4の整数を示し、yは0、1または2を示す;
【0052】
【化8】

【0053】
式中、rは、炭素数1〜8、好ましくは1〜4の整数を示す、直鎖または分岐のアルキリデン基である;
【0054】
【化9】

【0055】
式中、Sは、1〜8、好ましくは1〜4の整数を示し、zは、1または2を示す、直鎖または分岐のアルキリデン基である;
中でも、水酸基含有高分子が、モノマー単位として下記構造式(I)のビニルアルコールユニットを主成分として含む高分子(以下、PVA系高分子とも称する)を含むことが好ましい。
【0056】
【化10】

【0057】
ここで、主成分とは、全モノマーユニット中、式(I)のモノマーユニットが70モル%以上であることを指し、好ましくは80モル%以上であり、より好ましくは88モル%以上であり、さらに好ましくは100モル%であることを指す。なお、ビニルアルコールユニットを主成分として含む高分子の製造方法の一実施形態として、酢酸ビニルモノマーをモノマーとして用い、重合体を形成させた後、該重合体ケン化して高分子を得る方法がある。この場合、ケン化されずに重合体中に酢酸ビニルモノマーが残存している場合も、式(I)のモノマーユニットに含むものとする。
【0058】
PVA系高分子の、構造式(I)以外の他の構成単位としては、例えば、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン類、アクリル酸及びその塩とアクリル酸メチルなどのアクリル酸エステル、メタクリル酸およびその塩、メタクリル酸メチル等のメタクリル酸エステル類、アクリルアミド、N−メチルアクリルアミド等のアクリルアミド誘導体、メタクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のメタクリルアミド誘導体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド等のN−ビニルアミド類、ポリアルキレンオキシドを側鎖に有するアリルエーテル類、メチルビニルエーテル等のビニルエーテル類、アクリロニトリル等のニトリル類、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル、マレイン酸およびその塩またはその無水物やそのエステル等の不飽和ジカルボン酸等がある。このような変性ユニットの導入方法は、共重合による方法でも、後反応による方法でもよい。
【0059】
PVA系高分子のケン化度は特に限定されるものではないが、得られる繊維の機械的特性の点から、80モル%以上であることが好ましい。PVA系高分子のケン化度が80モル%以上であると、得られる繊維の機械的特性や工程通過性、製造コストなどの点で好ましい。さらに好ましくは85〜100モル%のものが好ましい。
【0060】
水酸基含有高分子中、PVA系高分子は、50質量%以上含まれることが好ましく、75質量%以上含まれることがより好ましく、85質量%以上含まれることがさらに好ましく、PVA系高分子が100質量%であることが最も好ましい。
【0061】
水酸基含有高分子としては、具体的には、ポリビニルアルコール;エチレン−ビニルアルコール共重合体;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびポリグリセリンのようなポリオール;ポリ酢酸ビニルや塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体等の部分的加水分解物:ポリスチレンのヒドロキシル化物;セルロースのような多糖、あるいはこれらの誘導体;などが挙げられる。
【0062】
水酸基含有高分子の分子量は、得られる繊維の機械的特性や寸法安定性等を考慮すると重量平均分子量が10,000〜1,000,000程度、30℃水溶液の粘度から求めた粘度平均重合度では500〜20,000のものが望ましい。上記下限以上のものを用いると、力学的特性、特に強度の点で優れる。また、上記上限以下のものを用いると、紡糸時に吐出圧力が適当となり、出来上がった繊維の風合いが良好となり好ましい。ポリマー製造コストや繊維化コストなどの観点から、より好ましくは、重量平均分子量で50,000〜100,000程度、粘度平均重合度が1000〜3000である。
【0063】
重量平均分子量は、下記方法でゲルカラムクロマトグラフィー(GPC)により測定された値を採用する。
【0064】
【表1】

【0065】
水酸基含有高分子の導電性高分子繊維中の含有比は、特に限定されるものではないが、導電性高分子繊維に対して、20質量%を超えることが好ましく、25質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。下限が上記範囲であると、導電性高分子繊維の力学的特性が向上するため、好ましい。また、導電性の観点からは、導電性高分子繊維に対して、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0066】
(導電性高分子繊維)
導電性高分子繊維の構造としては、図4に示すような、繊維を構成する構成材料が混合一体化しているものや、断面で見て芯鞘構造のようなもの(図5)、サイドバイサイド構造のようなもの(図6)、海島(多芯)構造のようなもの(図7)などがある。これらは、繊維の機能化の一つの手段として、繊維自体が自然によじれた形状になり、風合いを変え、繊維の表面積を大きくして軽量化・断熱性を狙うなどに用いられる。なお、図4〜図7において、1は導電性高分子繊維を示す。図5において、2aは芯鞘繊維の鞘成分を、2bは芯鞘繊維の芯成分を示す。図6において、3aはサイドバイサイド型繊維の1成分を、3bはサイドバイサイド型繊維の3aと異なる材料からなる成分を示す。図7において、4aは海島型繊維の海成分を、4bは海島型繊維の島成分を示す。
【0067】
導電性高分子繊維を構成する、導電性高分子、そのドーパントおよび水酸基含有高分子は、混合一体化して繊維中に存在していることが好ましい。
【0068】
例えば、導電性高分子、そのドーパントと、水酸基含有高分子とを、サイドバイサイド構造、芯鞘構造、海島構造等のように、相分離した構成とすると、導電性高分子を含む層と、水酸基含有高分子とを含む層との間で剥離が起きやすくなり、強度が低下する場合がある。また、水酸基含有高分子と独立で導電性高分子およびそのドーパントが存在することで、水酸基含有高分子の導電性高分子に対する導電性向上効果が期待されず、導電性が低下する場合がある。したがって、導電性高分子、そのドーパントおよび水酸基含有高分子が混合一体化して存在することにより、より強度を向上しつつ、より導電性も向上させうる。なお、導電性高分子、そのドーパントおよび水酸基含有高分子が混合一体化されてなる形態には、繊維が複数の層から構成される場合に、一つの層が、導電性高分子、そのドーパントおよび水酸基含有高分子の混合一体化物を含み、他の層が他の構成材料からなる形態も含む。例えば、芯鞘構造の芯が導電性高分子、そのドーパントおよび水酸基含有高分子の混合一体化物を含み、鞘が他の構成材料からなる形態等も含む。ここで、混合一体化とは、構成材料が相分離した構成ではなく、導電性高分子および水酸基含有高分子が互いに絡み合い、SEM等で観察した際にも、ほぼ均質に混合されているものを言う。
【0069】
より好ましい形態は、導電性高分子繊維を構成する構成材料が混合一体化している図4の形態である。この形態であれば、強度、導電性に優れた繊維であるとともに、繊維の生産効率に優れるため、好ましい。
【0070】
本発明の導電性高分子繊維において、導電性高分子およびそのドーパント:水酸基含有高分子の配合質量比率は、1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましく、5:5〜7:3であることがさらに好ましく、5:5〜6:4であることが特に好ましく、6:4が最も好ましい。水酸基含有高分子の配合比率が低い場合には、強度などの力学的特性が劣る場合があり、逆に、導電性高分子およびそのドーパントの配合比率が低い場合には、導電性が劣る場合がある。しかしながら、導電性高分子およびそのドーパントと、水酸基含有高分子との配合質量比率は、上記に限定されるものではなく、アプリケーションに必要な導電性に対して、配合量はコストを勘案して、適宜設定することが出来る。
【0071】
本発明の導電性高分子繊維の体積固有抵抗値は1×10−3〜1×10Ω・cm、導電率は0.1〜1000S/cm程度となる。固有抵抗値や導電率が上記範囲であれば、実用に適した繊維となる。本発明の導電性高分子繊維の固有抵抗値は、導電性高分子およびそのドーパントと水酸基含有高分子との配合量や、紡糸・延伸条件などの紡糸に係わる条件によって適宜コントロールできる。
【0072】
本発明により得られる高強度導電性高分子繊維の繊維径は特に限定されず、例えば1〜1000μm、好ましくは20〜200μmの繊維が広く使用できる。繊維径は紡糸ノズル径や延伸倍率により適宜調整すればよい。
【0073】
本発明の導電性高分子繊維の引張り強度は、50MPa以上であることが好ましく、60MPa以上であることが好ましい。上記下限以上であれば、操業中の糸切れが防止されうる。なお、上限は特に限定されるものではないが、150MPa程度である。引張り強度は、後述する実施例に記載の方法により測定された値を採用する。
【0074】
導電性高分子繊維は、その特性を損なわない範囲内で、カーボンナノチューブなどの炭素材料、顔料、着色剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、難燃剤、特殊機能剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0075】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、導電性高分子、水酸基含有高分子以外の他の樹脂が含まれていてもよい。他の樹脂としては、ナイロン66などの脂肪族ポリアミド(PA)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維などのポリエステル繊維、ポリフェニレンサルファイド(PPS)繊維、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)繊維およびそれらの繊維を組み合わせたものなどがある。
【0076】
ポリエステル繊維としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンイソフタレート(PBI)、ポリεカプロラクトン(PCL)等のほか、PETのエチレンブリコール成分を他の異なるグルコール成分で置換したもの(例えば、ポリヘキサメチレンテレフタレート(PHT))、または、テレフタル酸成分を他の異なる2塩基酸成分で置換したもの(ポリヘキサメチレンイソフタレート(PHI)、ポリヘキサメチレンナフタレート(PHN))等である。また、これらポリエステルを構成ユニットとした共重合ポリエステル、例えば、PBTとポリテトラメチレングリコール(PTMG)のブロック共重合体、PETとPEIの共重合体、PBTとPBIの共重合体、PBTとPCLの共重合体など主たる繰返し単位がポリエステルからなる共重合体であっても構わない。この他、ポリアクリロニトリルなどを単独あるいは混合したものや、塩化ビニル、酢酸ビニルなどの単独の成分およびこれらの重合体、共重合体や、置換体としてのポリビニルアルコール系ポリマー(後述)等を用いることもできる。
【0077】
上記添加剤や他の樹脂は、本発明の特性を損なわない限り適宜配合され、特に限定されるものではないが、繊維中、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
得られた高強度導電性繊維の導電性をさらに向上するには、S.Ashizawa et al./Synthetic Metals 153(2005)5−8やS.K.M.Jonsson et al./Synthetic Metals 139(2003)1〜10に示されるようなエチレングリコール、多価アルコール等による処理を行うことも好ましい。これにより、導電率を1.5〜10倍程度に向上させることが出来る。
【0079】
(導電性高分子繊維の製造方法)
本発明の第二は、第一の導電性高分子繊維の製造方法に関する。導電性高分子繊維の製造方法は特に限定されるものではないが、好適には、導電性高分子、導電性高分子のドーパント、水酸基を含んでなる高分子、および溶媒を混合して混合溶液を得る工程と、前記混合溶液から溶媒を除去することで導電性高分子繊維を得る工程と、を含む。以下、各工程について詳細に述べる。
【0080】
(1)導電性高分子、導電性高分子のドーパント、水酸基を含んでなる高分子、および溶媒を混合して混合溶液を得る工程
本工程においては、混合順序は特に限定されるものではない。混合の形態としては、特に限定されるものではないが、例えば、導電性高分子およびそのドーパントと、溶媒とを混合し、該混合物に水酸基含有高分子を添加して混合溶液を得る形態;水酸基含有高分子および溶媒を混合し、該混合物に導電性高分子およびそのドーパントを添加して混合溶液を得る形態;導電性高分子、導電性高分子のドーパント、および水酸基を含んでなる高分子に溶媒を添加して混合溶液を得る形態;導電性高分子および導電性高分子のドーパントを溶媒に分散させて、導電性組成物分散液を得、水酸基を含んでなる高分子を溶媒に分散させて、高分子分散液を得、導電性組成物分散液と高分子分散液とを混合して混合溶液を得る形態等が挙げられる。中でも、繊維を簡便に得られることから、導電性高分子および導電性高分子のドーパントを溶媒に分散させて、導電性組成物分散液を得、水酸基を含んでなる高分子を溶媒に分散させて、高分子分散液を得、導電性組成物分散液と高分子分散液とを混合して混合溶液を得る形態が好ましい。
【0081】
なお、ここでいう混合溶液とは、溶媒に各成分が溶解している形態や、一部溶解している形態、分散形態等を包含する概念を指し、固形分が溶液中に存在していてもよい。
【0082】
混合溶液を構成する溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば水;ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記)、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒;グリセリン、エチレングリコールなどの多価アルコール類;およびこれらとロダン塩、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛などの膨潤性金属塩の混合物などが挙げられる。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらの中でも、コスト、回収性等の工程通過性の点から、主成分が水および/またはDMSOであることが好ましく、水であることが最も好適である。ここでいう、「主成分」とは、混合溶液を構成する溶媒に対して、95体積%以上が水またはDMSOであることを指し、好ましくは99体積%以上が水またはDMSOであり、より好ましくは99.5体積%以上が水またはDMSOである。
【0083】
後述する脱溶媒時に、容易に繊維を得るには混合溶液の粘度が重要となる。混合溶液の粘度の下限は、500mPa・s以上であることが好ましく、1,000mPa・s以上であることがより好ましい。また、混合溶液の粘度の上限は、10,000mPa・s以下であることが好ましく、5,000mPa・s以下であることがより好ましい。前記粘度下限以上であると、より強度の強い繊維となる。前記粘度上限以下であると、吐出に必要な圧力が過度に高いものとならず、また、湿式紡糸で繊維を得た場合であっても、安定した断面の繊維を得ることができ、強度が確保できるため好ましい。
【0084】
混合溶液中の導電性高分子および水酸基含有高分子の固形分濃度(合計)は組成、重合度、溶媒によって異なるが、3〜60質量部程度であることが好ましい。
【0085】
なお、上記適切な粘度とするために、必要により混合溶液を溶媒にて希釈する、または濃縮してもよい。希釈する場合の希釈溶媒は上記混合溶液を構成する溶媒で例示したものが挙げられる。希釈溶媒は、分散溶媒と異なる溶媒種を用いてもよいが、混合性の観点からは、同一の溶媒種を用いることが好ましい。
【0086】
混合溶液を濃縮する場合、その濃縮方法は、特に制限されない。例えば、ガラス製やテフロン(登録商標)製のシャーレ、ガラス製のフラスコなどの容器に混合溶液を入れ、オーブン、ホットプレート、ホットスターラー、ドライヤー、減圧乾燥器、またはエバポレータなどを用いて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この際、濃縮の条件は、溶媒の種類、混合溶液の所望の粘度などに応じて適宜選択されうる。濃縮する際の加熱温度は、特に限定されず、適宜設定される。
【0087】
必要により濃縮または希釈した後の、混合溶液の濃度は、総固形分が、分散液全体に対して3〜60質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがより好ましい。分散液を適宜、濃縮または希釈して分散液の濃度がこの範囲となるように調整することが好ましい。
【0088】
混合溶液の吐出時の液温は、混合溶液が分解しない範囲であり、また紡糸可能な温度であることが好ましく、具体的には−20〜0℃とすることが好ましい。
【0089】
また、本発明の効果を損なわない範囲であれば、混合溶液には上記原材料以外にも、目的に応じて、難燃剤、酸化防止剤、凍結防止剤、pH調整剤、隠蔽剤、着色剤、油剤、特殊機能剤などの添加剤などが含まれていてもよい。更にこれらは、一種類または二種類以上のものを併用して使用してもかまわない。
【0090】
次に、本発明の導電性高分子繊維の好適な実施形態である、導電性高分子および導電性高分子のドーパントを溶媒に分散させて、導電性組成物分散液を得、水酸基を含んでなる高分子を溶媒に分散させて、高分子分散液を得、導電性組成物分散液と高分子分散液とを混合して混合溶液を得る形態について述べる。該実施形態は、2つの分散液を混合して、混合溶液を得る形態である。2つの分散液を混合する以外は、他の形態で混合液を得る形態と変更ない。なお、ここでいう「分散」および「分散液」なる用語には、高分子等が溶媒に分散している形態のみならず、溶媒に溶解している場合も含まれる。
【0091】
導電性組成物分散液に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではないが、上記混合溶液に用いられる溶媒として例示した溶媒が挙げられる。
【0092】
導電性組成物分散液は、適当な量の溶媒で導電性高分子およびドーパントを分散(溶解)させた後、操業中の糸切れ防止、脱溶媒時間の短縮等による操業性の確保のため、必要により、濃縮または希釈してもよい。希釈溶媒は、分散溶媒と異なる溶媒種を用いてもよいが、混合性の観点からは、同一の溶媒種を用いることが好ましい。
【0093】
前記導電性組成物分散液を濃縮する場合、その濃縮方法は、特に制限されない。例えば、ガラス製やテフロン(登録商標)製のシャーレ、ガラス製のフラスコなどの容器に導電性組成物分散液を入れ、オーブン、ホットプレート、ホットスターラー、ドライヤー、減圧乾燥器、またはエバポレータなどを用いて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この際、濃縮の条件は、溶媒の種類、導電性高分子分散液の所望の粘度などに応じて適宜選択されうる。濃縮する際の加熱温度は、特に限定されず、適宜設定される。
【0094】
必要により濃縮または希釈した後の、導電性組成物分散液の濃度は、固形分濃度が、分散液全体に対して2〜5質量%(固形分)であることが好ましく、2.5〜4質量%であることがより好ましい。分散液を適宜、濃縮または希釈して分散液の濃度がこの範囲となるように調整することが好ましい。
【0095】
高分子分散液に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではないが、上記混合溶液に用いられる溶媒として例示した溶媒が挙げられる。また、水酸基含有高分子を溶媒に分散させる際に用いられる溶媒は、上記導電性組成物分散液を製造する際に用いた溶媒と同一種であっても異なる種であってもよいが、混合性の観点からは、同一種であることが好ましい。
【0096】
高分子分散液は、適当な量の溶媒で水酸基含有高分子を分散させた後、必要により、濃縮または希釈してもよい。希釈溶媒は、分散溶媒と異なる溶媒種を用いてもよいが、混合性の観点からは、同一の溶媒種を用いることが好ましい。
【0097】
高分子分散液を濃縮する場合、その濃縮方法は、特に制限されない。例えば、ガラス製やテフロン(登録商標)製のシャーレ、ガラス製のフラスコなどの容器に高分子分散液を入れ、オーブン、ホットプレート、ホットスターラー、ドライヤー、減圧乾燥器、またはエバポレータなどを用いて溶媒を蒸発させる方法が挙げられる。この際、濃縮の条件は、溶媒の種類、高分子分散液の所望の粘度などに応じて適宜選択されうる。濃縮する際の加熱温度は、特に限定されず、適宜設定される。
【0098】
必要により濃縮または希釈した後の、高分子分散液の濃度は、特に限定されるものではないが、固形分濃度が、分散液全体に対して2〜10質量%(固形分)であることが、操業中の糸切れ防止、脱溶媒時間の短縮等による操業性の確保の観点から好ましい。分散液を適宜、濃縮または希釈して分散液の濃度がこの範囲となるように調整することが好ましい。
【0099】
(2)混合溶液から溶媒を除去することで導電性高分子繊維を得る工程
混合溶液から繊維を得る方法は、特に限定されるものではない。例えば、混合溶液をノズルから吐出して湿式紡糸、乾湿式紡糸あるいは乾式紡糸を行えばよく、ポリマーに対して固化能を有する固化液中あるいは、気体中に吐出し、脱溶媒すればよい。
【0100】
なお、湿式紡糸とは、紡糸ノズルから直接固化浴に紡糸原液を吐出する方法のことであり、乾湿式紡糸とは、紡糸ノズルから一旦任意の距離の空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出し、その後に固化浴に導入する方法のことである。また、乾式紡糸とは、空気中あるいは不活性ガス中に紡糸原液を吐出する方法のことである。
【0101】
図3は、本発明の導電性高分子繊維の製造に用いられる湿式紡糸装置の一実施形態を示す概略模式図である。図3に示す湿式紡糸装置10は、ノズル(口金)11を備えたシリンジ12、およびシリンジポンプ13を備える。導電性高分子溶液または分散液は、シリンジ12内に入れられ、シリンジポンプ13を用いて口金11を通して、固化液が入った固化浴14中に押し出される。固化浴14は、チラーおよび金属パイプ(図示せず)によって所定の温度に保たれている。固化浴14に押し出された混合溶液中の導電性高分子および水酸基含有高分子は、繊維状に凝固する。凝固した繊維は、固化浴から引き出され、繊維送り機、熱処理炉15を経て、繊維巻取り機16で巻き取られ、所望の結晶性を有する導電性高分子繊維を得ることができる。湿式紡糸装置は、上記のような構成に限られるものではなく、例えば、市販の湿式紡糸装置を使用することができる。
【0102】
口金11の口径(シリンジ径)は、特に限定されるものではないが、通常、0.05〜2mmのものを用いることが出来る。口径を適宜選択することによって、最終的に得られる導電性高分子繊維の繊維径を調節することができる。口金11の形状は特に制限されず、その例としては、例えば、円形状、三角形状、正方形状、矩形状、五角形状、六角形状、楕円形状、星形状、中空形状などが挙げられる。
【0103】
混合溶液を、口金11を通じて固化浴14中に押し出す際の押し出し速度は、好ましくは0.1〜100ml/hの範囲である。押出速度を適宜選択することによって、繊維表面の均一性を制御することができる。
【0104】
固化浴に用いられる固化液は、混合溶液に用いられている溶媒と混和性があり、かつ混合溶液に用いられている溶媒の凝固点以下の凝固点を有する固化液であることが好ましい。このような固化液を選択することによって、高分子の繊維化が可能となり、かつ固化浴の温度を混合液に用いられている溶媒の凝固点以下の温度に設定することができる。
【0105】
固化液としては特に制限はないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノ−ル、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類等の有機溶媒を用いることができる。混合溶液の溶媒として水を用いた場合、これらの中でも紡糸時の操業性すなわち脱水速度、吐出速度の点でアセトンを主成分とする固化液であることが好ましい。ここで、「主成分とする」とは、固化溶媒に対して、95体積%以上がアセトンであることを指し、好ましくは99体積%以上がアセトンであり、より好ましくは99.5体積%以上がアセトンである。
【0106】
この他、芒硝、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム等の固化能を有する無機塩類や苛性ソーダの水溶液を用いることができる。また、ポリマーと共に、ホウ酸などを加えた水溶液をアルカリ性固化浴中にゲル化紡糸することもできる。
【0107】
また、導電性高分子の繊維化が可能であれば、混合溶液に用いられている溶媒と、上記固化液とを混合した混合溶媒を固化液として用いてもよい。
【0108】
固化浴の温度は、混合溶液に用いられている溶媒の凝固点以下であることが好ましい。固化浴中の凝固液は、混合溶液から脱溶媒を引き起こし、導電性高分子を繊維化させていく、すなわち導電性高分子を結晶化させていく役割を果たす。そのため、固化浴の温度を、好ましくは混合溶液に用いられている溶媒の凝固点以下の温度とすることで、導電性高分子内部からゆっくりと脱溶媒され、導電性高分子の結晶化がゆっくりと進行する。これにより、得られる導電性高分子繊維の結晶性が高くなりうる。結晶性を高めることによって、導電性高分子繊維の強度をより向上させることができ、また、得られる繊維の表面もより均一になりうる。
【0109】
さらに具体的には、例えば、混合溶液に用いられている溶媒が水である場合、固化浴の温度は、好ましくは−20〜0℃、より好ましくは−10〜0℃である。
【0110】
なお、混合溶液に用いられている溶媒が、2種以上の溶媒を混合した混合溶媒である場合、その混合溶媒の凝固点は、凝固点が最も低い溶媒の凝固点を採用するものとする。
【0111】
上述のような固化浴の温度設定を行うことにより、本発明の導電性高分子繊維は良好な結晶性を有することとなる。
【0112】
次に必ずしも必要ではないが、固化された原糸から混合溶液の溶媒を抽出除去するために、抽出浴を通過させることも好適である。この抽出時に同時に原糸を湿延伸することが、乾燥時の繊維間膠着抑制及び得られる繊維の機械的特性を向上させるうえで好ましい。その際の湿延伸倍率としては1.1〜10倍であることが工程性、生産性の点で好ましい。抽出溶媒としては固化液単独あるいは混合溶液溶媒と固化液の混合液を用いることができる。
【0113】
導電性を損なわない範囲で適宜、延伸を行うことも可能である。
【0114】
湿延伸後に乾燥した糸篠、或いは乾式紡糸後の巻き取りした糸篠に、熱延伸または熱処理を施す。本発明の繊維表面の凹凸構造を発現させるには、この延伸過程での、延伸速度と延伸温度のバランスが重要である。延伸温度としては、一般的には100℃〜250℃の温度で行われるが、特に220℃以上の高温で延伸する場合は、早い延伸速度で延伸した方がよく、例えば30m/分以上の延伸速度であることが好ましく、100m/分以上の高速延伸であることがより好ましい。またその時の延伸倍率は1.5倍以上であることが好ましい。温度が100℃未満の場合や、延伸倍率が1.5倍未満の場合は力学物性が低いものしか得られない場合があり好ましくない。また延伸温度が250℃を越える場合や、250℃未満であっても延伸速度が遅い場合は、繊維表面の部分的な融解、導電性高分子の分解が生じ、本発明の特徴である導電性を発現することができない場合がある。
【0115】
このようにして得られた、導電性高分子繊維に、熱処理を施し繊維物性を向上させることで、本発明の高強度導電性高分子繊維を製造することができる。このための熱処理条件は、一般的には100℃以上の温度、好ましくは110℃〜250℃の温度で行うのがよい。温度が100℃未満の場合、繊維物性の向上効果が不十分である場合がある。また250℃を越えると繊維表面の部分的な融解が生じ、力学物性の低下をもたらす場合があり、好ましくない。
【0116】
本発明の導電性高分子繊維は、例えばステープルファイバー、ショートカットファイバー、フィラメントヤーン、紡績糸、紐状物、ロープ、布帛などのあらゆる繊維形態において優れた導電性を示すので、センサーや電磁波シールド材などの用途に用いることができる。その際の繊維の断面形状に関しても特に制限はなく、円形、中空、あるいは星型等異型断面であってもかまわない。なかでも、本発明による導電性高分子繊維は、導電性、柔軟性にすぐれているので、布帛として有利に用いることができる。例えば、本発明による導電性高分子繊維を50質量%以上、好ましくは、80質量%以上、特に、90質量%以上含む布帛とすることによって、高強度で且つ高度に導電性を示す繊維を用いた布帛製品を得ることができる。この時、併用しうる繊維として特に限定はないが、ポリエステル系繊維、ポリアミド系繊維、セルロース系繊維等を挙げることができる。
【0117】
本発明の繊維は、力学物性、耐熱性に加えて、柔軟性、導電性に優れることから、フィラメントや紡績糸、更には紙、不織布、織物、編物などの布帛とすることが可能であり、産業資材用、衣料用、医療用等あらゆる用途に好適に使用でき、例えば、帯電材、除電材、ブラシ、センサー、電磁波シールド材、電子材料をはじめとして多くの用途に極めて有用である。
【0118】
本発明により得られる導電性高分子繊維を車両用部品に用いることは好ましい。車両用部品として用いることで、通常のフィルム状の材料で設置が困難な位置にも繊維状のセンサーとして配置を可能にすることが出来、また、省スペースでの設置も可能になる。より具体的には、車両の座席に用いられる織物や編物中に設置することができる。導電性高分子繊維を含む布帛は、乗員の姿勢や体重などを検知する手段となり得、アクチュエータにフィードバックをかけることで乗り心地を改善したり、エアバックなどの作動位置を設定したりすることができる。また、導電性高分子繊維を含む布帛を車室外に設置する用途としては、バンパー等の車両外周部に設置される接触センサ等が挙げられる。
【0119】
これら車両への適用の他にも、導電性高分子繊維を含む布帛は、病院や介護施設などで用いられているベッドのシーツ中に設置することができる。これにより、応力の掛かっている位置の検知手段や寝返り補助などに使用することができる。さらに、導電性高分子繊維を衣類状として、着用した際に応力がかかっているところを検出し、通気量を変化させるための信号を発生させる手段としても用いることができる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明は本実施例により何等限定されるものではない。なお以下の実施例において、繊維の引張強度および弾性率、導電率、混合溶液の粘度は下記の試験方法により測定したものを示す。
【0121】
(試験1:引張強度および弾性率の測定)
JIS L1015(1999)化学繊維ステープル試験方法に準じ、島津製作所製AG−50NISを用いて測定した。1仕様につき、10回の評価を行い、平均値を力学物性値とした。
【0122】
(試験2:繊維の導電率測定)
導電性繊維を温度110℃で1時間かけて乾燥させ、その後、温度20℃、湿度30%の条件下で24時間以上放置させて調湿した。この繊維に対して、評線間長さ2cmの単繊維試験片を採取した。該試験片の両端間に、エー・アンド・デイ社製「AD−8735 DC POWER SUPPLY」を使用し電圧を印加、KEITHLEY社製の電流値測定機「2700MULTIMETER」を使用して、電流値を測定した。0〜10Vの電圧を0.5V刻みで印加し、それにより得られたI−V曲線から、抵抗値(Ω)を算出した。そして、導電率(1/ρ)(S/cm)=(1/R)×(L/S)により、各試験片の導電率を求め、これを10試料片について行い、その平均値を試料の導電率とした。なお、Rは試験片の抵抗値(Ω)、Sは断面積(cm)、及びLは長さ(2cm)を示す。ここで、試験片の断面積は、繊維を電子顕微鏡下で観察することにより算出した。
【0123】
(混合溶液の粘度測定)
JIS Z8803(1991)液体の粘度−測定方法に準じ、アズワン製振動式粘度計VM−10A−MHを用いて測定した。1仕様につき、10回の評価を行い、平均値を粘度とした。
【0124】
(実施例1)
重量平均分子量75,000、ケン化度99.3モル%のPVA(クラレ製ポバールPVA−117H)をPVA濃度7質量%(固形分)となるように水を含水させ水酸基含有高分子の高分子分散液を得た。
【0125】
導電性高分子およびそのドーパントからなる導電性組成物としてPEDOT/PSSを用いた1.3質量%の水分散液(エイチ・シー・スタルク製CLEVIOS P AG;PEDOT:PSS=1:2.5(質量比))を3質量%となるまで70℃のホットスターラー上で濃縮し、導電性組成物分散液を得た。
【0126】
さらにこれらの溶液を導電性組成物:水酸基含有高分子の質量比が6:4となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。得られた混合溶液の粘度は、1500mPa・sであった。
【0127】
シリンジポンプを用いて、ノズル径820μm、吐出速度30ml/hで、−10℃のアセトン槽(脱溶媒槽)中に押し出し、湿式紡糸した。110℃の熱処理炉中を3分間で通過させ、巻取り機により1.5m/min.の速度で巻き取り、高強度導電性高分子繊維を得た。得られた繊維の表面SEM写真を図1に示す。
【0128】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度105MPa、弾性率3.8GPaとなった。導電率は50S/cmとなり、導電性、力学物性とも優れるものであった。
【0129】
[実施例2]
導電性組成物:水酸基含有高分子の質量比が7:3となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。得られた混合溶液の粘度は、1050mPa・sであった。
【0130】
これ以外は実施例1と同様にして、導電性高分子繊維を得た。
【0131】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度97MPa、弾性率3.0GPaとなった。導電率は20S/cmとなり、導電性、力学物性とも優れるものであった。
【0132】
[実施例3]
導電性組成物:水酸基含有高分子の質量比が5:5となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。この混合溶液の粘度は、1700mPa・sであった。
【0133】
これ以外は実施例1と同様にして、導電性高分子繊維を得た。
【0134】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度72MPa、弾性率2.1GPaとなった。導電率は13S/cmとなり、導電性、力学物性とも優れるものであった。
【0135】
[実施例4]
導電性組成物:水酸基含有高分子の質量比が4:6となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。この混合溶液の粘度は、2300mPa・sであった。
【0136】
これ以外は実施例1と同様にして、導電性高分子繊維を得た。
【0137】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度61MPa、弾性率2.0GPaとなった。導電率は5S/cmとなり、導電性、力学物性に優れるものであった。
【0138】
[実施例5]
重量平均分子量88,000、ケン化度88.0モル%のPVA(クラレ製ポバールPVA−220)をPVA濃度7質量%(固形分)となるように水を含水させ、水酸基含有高分子の高分子分散液を得た。
【0139】
導電性高分子およびそのドーパントからなる導電性組成物としてPEDOT/PSSを用いた1.3質量%の水分散液(エイチ・シー・スタルク製CLEVIOS P AG;PEDOT:PSS=1:2.5(質量比))を3質量%となるまで70℃のホットスターラー上で濃縮し、導電性組成物分散液を得た。
【0140】
さらにこれらの溶液を導電性組成物:水酸基含有高分子の質量比が6:4となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。この混合溶液の粘度は、1900mPa・sであった。
【0141】
これ以外は実施例1と同様にして、導電性高分子繊維を得た。
【0142】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度67MPa、弾性率1.1GPaとなった。
【0143】
導電率は29S/cmとなり、導電性、力学物性とも優れるものであった。
【0144】
[実施例6]
重量平均分子量75,000、ケン化度88.0モル%のPVA(クラレ製ポバールPVA−217)をPVA濃度7質量%(固形分)となるように水を含水させ第2の高分子の分散液を得た。
【0145】
導電性高分子およびそのドーパントからなる導電性組成物としてPEDOT/PSSを用いた1.3質量%の水分散液(エイチ・シー・スタルク製CLEVIOS P AG;PEDOT:PSS=1:2.5(質量比))を3質量%となるまで70℃のホットスターラー上で濃縮し、導電性組成物分散液を得た。
【0146】
さらにこれらの溶液を導電性組成物:水酸基含有高分子の比が6:4となるように混合し、総固形分が6質量%となるまで濃縮した。この混合溶液の粘度は、950mPa・sであった。
【0147】
これ以外は実施例1と同様にして、導電性高分子繊維を得た。
【0148】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度50MPa、弾性率1.0GPaとなった。
【0149】
導電率は15S/cmとなり、導電性、力学物性とも優れるものであった。
【0150】
[比較例1]
水酸基含有高分子の高分子分散液を用いず、導電性高分子とそのドーパントからなる導電性組成物としてPEDOT/PSSを用いた1.3質量%の水分散液(エイチ・シー・スタルク製CLEVIOS P AG)を3質量%となるまで70℃のホットスターラー上で濃縮し、導電性組成物分散液のみを混合溶液として得た。
【0151】
この混合溶液の粘度は、300mPa・sであった。
【0152】
シリンジポンプを用いて、シリンジ径820μm、吐出速度0.3ml/hで、−10℃のアセトン槽(固化浴)中に押し出し、湿式紡糸した。110℃の乾燥炉中を3分間で通過させ、巻取り機により0.01m/min.の速度で巻き取り、導電性高分子繊維を得た。得られた繊維の表面SEM写真を図2に示す。
【0153】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度46MPa、弾性率1.0GPaとなった。
導電率は10S/cmとなった。
【0154】
[比較例2]
高分子とそのドーパントからなる導電性組成物を用いず、重量平均分子量75,000、ケン化度99.3モル%のPVA(クラレ製ポバールPVA−117H)をPVA濃度3質量%となるように水を含水させ、水酸基含有高分子の高分子分散液を混合溶液として得た。
【0155】
この混合溶液の粘度は、2,500mPa・sであった。
【0156】
シリンジポンプを用いて、シリンジ径820μm、吐出速度30ml/hで、−10℃のアセトン槽(固化浴)中に押し出し、湿式紡糸した。110℃の乾燥炉中を3分間で通過させ、巻取り機により1.5m/min.の速度で巻き取り、高分子繊維を得た。
【0157】
得られた繊維の力学物性値は、引張り強度200MPa、弾性率2.2GPaとなった。
【0158】
導電率は0S/cmとなり、全く導電性を示さなかった。
【0159】
【表2】

【0160】
表1の結果から明らかなように、水酸基含有高分子をその繊維中に含有しているので、繊維中の導電性高分子配合比率が低いにもかかわらず、従来の導電性繊維(比較例1)に比較して、同程度の導電性または向上した導電性を有する。これとともに、力学的特性も向上し、良好な導電性および良好な力学的特性の双方が達成された導電性繊維となっている。また、従来の高分子繊維(比較例2)と比較すると、非常に優れた導電性を持っている。上記導電性高分子繊維の導電率は、カーボン等の導電性フィラーを含む導電性高分子繊維の導電性能(1×10−3S/cm以下)よりも大きくなっている。
【0161】
また、繊維の外観はSEM写真から見る限り、ほとんど差異は見られない。
【0162】
さらにまた、副次的効果として、導電性高分子繊維の紡糸速度を大幅に上げることが出来た。
【符号の説明】
【0163】
1 導電性高分子繊維、
2a 芯鞘繊維の鞘成分、
2b 芯鞘繊維の芯成分、
3a サイドバイサイド型繊維の1成分、
3b サイドバイサイド型繊維の3aと異なる材料からなる成分、
4a 海島型繊維の海成分、
4b 海島型繊維の島成分、
10 湿式紡糸装置、
11 ノズル、
12 シリンジ、
13 シリンジポンプ、
14 固化浴、
15 熱処理炉、
16 巻取り機。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子、導電性高分子のドーパント、および水酸基を含んでなる高分子を含む、導電性高分子繊維。
【請求項2】
前記水酸基を含んでなる高分子が、少なくともビニルアルコールユニットを主成分とする高分子を含む、請求項1に記載の導電性高分子繊維。
【請求項3】
前記水酸基を含んでなる高分子の重量平均分子量が、10,000以上1,000,000以下である、請求項1または2に記載の導電性高分子繊維。
【請求項4】
前記導電性高分子が少なくともPEDOTを含み、前記ドーパントが少なくともPSSを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維。
【請求項5】
導電性高分子、導電性高分子のドーパント、および水酸基を含んでなる高分子が導電性高分子繊維中、混合一体化している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維の製造方法であって、
導電性高分子、導電性高分子のドーパント、水酸基を含んでなる高分子、および溶媒を混合して混合溶液を得る工程と、
前記混合溶液から溶媒を除去することで導電性高分子繊維を得る工程と、
を含む、導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項7】
前記混合溶液の粘度を、500mPa・s以上10,000mPa・s以下とする、請求項6に記載の導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項8】
前記混合溶液を得る工程が、
導電性高分子および導電性高分子のドーパントを溶媒に分散させて、導電性組成物分散液を得る工程と、
水酸基を含んでなる高分子を溶媒に分散させて、高分子分散液を得る工程と、
前記導電性組成物分散液と前記高分子分散液とを混合して混合溶液を得る工程と、
を含む、請求項6または7に記載の導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項9】
前記混合溶液からの溶媒の除去が、前記混合溶液を脱溶媒中に押出すことで行われる、請求項6〜8のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項10】
前記導電性高分子繊維が少なくともPEDOTを含み、前記導電性高分子のドーパントが少なくともPSSを含み、前記溶媒が主成分として水を含み、前記脱溶媒が、主成分としてアセトンを含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載の導電性高分子繊維の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜5に記載の導電性高分子繊維、または請求項6〜10に記載の製造方法によって得られた導電性高分子繊維を素材として用いた、車両用部品。

【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−196190(P2010−196190A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−41175(P2009−41175)
【出願日】平成21年2月24日(2009.2.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【Fターム(参考)】