説明

導電端子の溶接方法、および導電端子構造

【課題】銅を材料とした2つの導電端子同士の溶着強度を十分に大きくすることのできる抵抗溶接による溶接方法及び導電端子構造を提供する。
【解決手段】すずメッキされた平板状の銅を材料とした第1の導電端子1を、その先端位置から離れた位置に段差10を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成されるように成型する。また、上記と同じ銅を材料とした第2の導電端子と前記第1の導電端子とを、前記第2の導電端子2の溶接面が前記第1の導電端子のプロジェクションの溶接面全体を覆う大きさとなるように成型する。同時に、各導電端子を、前記第1の導電端子の先端部分の断面積と、前記第2の導電端子の溶接部の断面積とが略同じとなるように成型する。これらの導電端子に同じ電気的特性の電極を圧接して電流を流し、前記プロジェクションを前記第2の導電端子の溶接面の内部に入り込ませて溶着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、銅を材料とする導電端子同士を抵抗溶接する溶接方法、及びその導電端子構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内の導電端子同士を溶着するには、通常、抵抗溶接法が使用される。アーク溶接法や他の溶接法は、溶接時に流れる電流が大きすぎて電子部品を破壊する可能性があるため殆ど使用されることはない。
【0003】
抵抗溶接は、電気抵抗を持つ溶接対象物同士を当接させた状態で電流を流すと、電気抵抗のために発熱して溶融に至る原理を利用するものである。
【0004】
抵抗溶接法には、平板状の導電端子同士を突き合わせて左右から先端形状が球形又は凸状の電極を圧接して電流を流すスポット溶接法が知られている(特許文献1の図4、特許文献2の図2)。このスポット溶接法では、導電端子同士の接触部にスポット状のナゲット(溶融部分)が形成される。また、別の抵抗溶接法として、球形又は凸状の突起部であるプロジェクションを形成した一方の導電端子と他方の導電端子とを突き合わせて左右から平板状の電極を圧接して電流を流すプロジェクション溶接法が知られている(特許文献1の図3、特許文献3の図1)。このプロジェクション溶接法では、プロジェクション自身がナゲットを形成する。
【0005】
前者のスポット溶接法では、導電端子材料が鉄等の場合には比較的付きやすく、また、後者のプロジェクション溶接法では、プロジェクションそのものがナゲットとなるために溶接部分の溶融状態を比較的安定したものにすることができる。
【特許文献1】特開2002−95134号公報
【特許文献2】特開2002−281644号公報
【特許文献3】特開平5−283139号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしなから、スポット溶接法では、導電端子材料が抵抗比率の非常に小さい銅、とりわけ純度の高い無酸素銅の場合には殆ど付かない。何故なら、電気抵抗による発熱ならびにそれに伴う溶融が少ないため溶接が困難だからである。表面をすずメッキして、ある程度の抵抗値を確保した場合でも、安定したナゲット形状を得ることが困難であった。また、従来のプロジェクション溶接法では、特許文献1の図3や特許文献3の図1に示されるように、導電端子先端部の中央部分等を盛り上げて球形又は凸状のプロジェクション形成している。このため、このプロジェクションが、対向している導電端子内部に飛び込んでナゲットを形成するときに、その飛び込み量(入り込み量)の精度を高くすることが極めて困難である。それ故、ナゲットの形成具合が安定せず、ナゲットの強度(溶着強度)も安定しない。さらに、特許文献1の図3に示されるように、プロジェクションは導電端子先端部の中央部分を盛り上げて形成されるため、その面積を大きくすることが困難である。このため、十分に大きな強度を確保できず、また、ナゲットの電流容量も小さいという問題がある。さらに、プロジェクション溶接法であっても、抵抗比率が非常に小さい銅を材料にした導電端子は電気抵抗による発熱ならびにそれに伴う溶融が少ないため、その導電端子同士の溶接は極めて困難であった。
【0007】
この発明の目的は、銅を材料とした2つの導電端子同士の溶着強度を十分に大きくすることのできる、抵抗溶接による溶接方法及びその溶接方法により溶接した導電端子構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の導電端子の溶接方法は、すずメッキされた平板状の銅を材料として第1の導電端子と第2の導電端子とをプロジェクション溶接する方法である。
【0009】
前記第1の導電端子は、すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成される。
【0010】
前記第2の導電端子は、すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、溶接面が前記第1の導電端子の先端部分の全体を覆う大きさであって、溶接部の断面積が前記第1の導電端子の先端部分の断面積と略同じである。
【0011】
前記第1の導電端子に前記第2の導電端子を当接する。
【0012】
さらに、これらの導電端子に同じ電気的特性の電極を圧接して電流を流す。これにより前記プロジェクションが前記第2の導電端子の溶接面の内部に入り込んで溶着する。
【0013】
第1の導電端子においては、先端位置から離れた位置に段差が設けられ、該先端位置から段差までの範囲の先端部分の全体がプロジェクションとなる。このため、この大きな面積のプロジェクションが第2の導電端子内に入り込んで(飛び込んで)ナゲットが形成される。このため、ナゲットの面積が非常に大きくなり、ナゲットの電流容量を大きくすることができるとともに、引っ張り強度も大きくすることができる。
【0014】
第2の導電端子は、その溶接面が前記プロジェクションの溶接面全体をカバーする大きさである。これにより、溶接時にはプロジェクションの周囲と前記溶接面とが接する界面全体で電流集中が生じる。このことは、プロジェクションによるナゲットが形成しやすいことを意味する。
【0015】
各導電端子(第1の導電端子と第2の導電端子)は、第1の導電端子の先端部分の断面積と、第2の導電端子の溶接部の断面積とが略同じとなるように成型される。このことは、溶接時に各導電端子を流れる電流分布の均一化につながり、発熱量のバランス、すなわちヒートバランスを良好な状態にできることになる。ヒートバランスは、ナゲットの形成を安定化するために重要なファクターである。
【0016】
なお、第1の導電端子と第2の導電端子を成型するには、すずメッキされた銅板に対して切断と折り曲げ工程を繰り返すことで可能である。
【0017】
次に、上記のようにして成型した第1の導電端子のプロジェクションを第2の導電端子の溶接部に重ね、両導電端子に電極を圧接して溶接電流を流す。このとき,上記ヒートバランスを確実なものにするために、2つの電極は同じ電気的特性を有するもの、例えば、タングステン電極で構成する。
【0018】
溶接電流を流すことにより、前記プロジェクションが前記第2の導電端子の溶接面の内部に入り込んで溶着する。すなわち、プロジェクションの周囲と前記第2の導電端子の溶接面とが接する界面全体で電流集中が生じ、その結果、プロジェクション全体が第2の導電端子の溶接面に入り込み(飛び込み)、プロジェクション全体の面積に相当するナゲットが形成される。このとき、プロジェクションの入り込み量(飛び込み量)は、段差で規制される。つまり、段差に相当する長さだけ、プロジェクションが第2の導電端子の溶接部に入り込むから、ナゲットの大きさは安定し、その結果、溶接部の電流容量も安定する。
【0019】
なお、第1の導電端子の幅L1、厚さT1と、第2の導電端子の幅L2、厚さT2との関係は、L1<L2、T1>T2となるように各導電端子を成型する。このように各導電端子の形状を設定することで、第1の導電端子のプロジェクションの全体を第2の導電端子の溶接部全体でカバーすることができ、且つ、各導電端子の電流分布が均一化するために良好なヒートバランスを実現できる。
【0020】
この発明の変形例では、第2の導電端子を、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成される様に成型される。すなわち、プロジェクションは第2の導電端子に形成される。第1の導電端子は平板状に設定される。この構成では、第1の導電端子の溶接面が前記プロジェクションの内部に入り込んで溶着する。
【0021】
このような構成においても、前記第1の導電端子の溶接面の周囲とプロジェクションとが接する界面全体で電流集中が生じ、その結果、第1の導電端子の全体がプロジェクションの溶接面に入り込み(飛び込み)、第1の導電端子全体の面積に相当するナゲットが形成される。このとき、第1の導電端子の入り込み量(飛び込み量)は、段差で規制される。つまり、段差に相当する長さだけ、第1の導電端子がプロジェクションの溶接部に入り込むから、ナゲットの大きさは安定し、その結果、溶接部の電流容量も安定する。
【発明の効果】
【0022】
この発明によれば、銅を材料とした2つの導電端子同士を確実に付けることができ、且つ大きな面積のナゲットが形成されるために十分な溶着強度を確保できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、この発明の実施形態の導電端子を示す図である。
【0024】
第1の導電端子1と第2の導電端子2は、それぞれ、厚さが約0.4mm〜0.9mm程度の範囲から選ばれた厚さの異なる2種類のすずメッキされた平板状の銅板に対して、切断工程と折り曲げ工程を繰り返すことにより成型される。例えば、第1の導電端子1は、厚さが0.64mmの銅板から成型され、第2の導電端子2は、厚さが0.4mmの銅板から成型される。
【0025】
まず、上記銅板を出発基材として、4.5mm幅と5mm幅の板状に切断した2枚の導電端子を得る。5mm幅の板状のものは厚さが厚い(0.64mm)銅板であり、この銅板から切断した導電端子を第1の導電端子1とする。4.5mm幅の板状のものは厚さが薄い(0.4mm)銅板であり、この銅板から切断した導電端子を第2の導電端子2とする。これらの2つの導電端子1、2を、さらに次の手順で切断したり又は折り曲げたりする。
【0026】
(1)第1の導電端子1を、その先端位置から離れた位置に段差10を設けることにより該先端位置から段差10までの範囲の先端部分11にプロジェクション12が形成されるように成型する。すなわち、段差10を設けることにより、図1において第2の導電端子2の方向へ飛び出したプロジェクション12が形成される。これにより、プロジェクション12の溶接面(図1において第2の導電端子2に対向する面)13の面積は、先端部分11の全体の大きさとなる。この成型は折り曲げ工程で行う。
【0027】
(2)各導電端子を、第2の導電端子2の溶接面(図1において第1の導電端子1に対向する面)20が第1の導電端子1のプロジェクション12の溶接面13全体を覆う大きさとなるように成型する。すなわち、第1の導電端子1の上部両側を切断して、第2の導電端子の溶接面20が第1の導電端子1のプロジェクション12の溶接面13全体を覆う大きさとなるように成型している。なお、図示の例では、第2の導電端子2は、既に板状に切断されているが、この段階で板状に切断しても良いし、また、必要に応じて適当量が切断される。
【0028】
図2は、プロジェクション12の大きさと第2の導電端子2の溶接面20の大きさを比較する図である。図示のように、第2の導電端子2の溶接面20は、ハッチングで示す領域がプロジェクション12の周囲に設けられる。後述のように、このようにすることで、プロジェクション12の周囲と溶接面20とが接する界面21全体で、溶接時に電流集中が生じ、これにより、プロジェクション12全体とそれに対向する溶接面20の部分が溶融して、ナゲット(溶融部分)が形成される。
【0029】
(3)上記(2)の成型時においては、各導電端子を、第1の導電端子1の先端部分の断面積S1と、前記第2の導電端子の溶接部の断面積S2とが略同じとなるように成型する。
【0030】
上記(2)の工程で、第1の導電端子1の上部両側が切断されるが、この切断量は、断面積S1とS2とが略同じとなる大きさに設定される。なお、図示の例では、第2の導電端子2は、既に板状に切断されているが、この段階で板状に切断しても良いし、また、必要に応じて適当量が切断される。
【0031】
このように、断面積S1とS2とを略同じにすることにより、溶接時に各導電端子1、2を流れる電流分布の均一化につながり、各導電端子1、2の発熱量がほぼ同じになる。すなわち、ヒートバランスが良好なものとなる。良好なヒートバランスの実現は、ナゲットの形成を安定化することができる。
【0032】
以上のようにして成型した第1の導電端子1のプロジェクション面と第2の導電端子2の溶接面20とを接触させ、さらに両端間を電極で圧接した状態で電流を流して溶接を行う。図3は、電極3、4の間に第1の導電端子1および第2の導電端子2を挟んだ状態を示している。電極3、4に圧力を加え、第1の導電端子1および第2の導電端子2同士を圧接させている。図4(A)、(B)、(C)は、電極の取付状態を示す上面図、正面図、右側面図である。電極3、4は、タングステン製の矩形状電極で構成され、それぞれ同じ大きさである。電極3、4を同じ材料のタングステンで構成し、且つ同じ大きさにしたことにより、ヒートバランスをさらに良好なものにできる。
【0033】
図4のように、電極3は、第1の導電端子1の上端部11の全体を覆う大きさである。圧接力F(図3参照)は、導電端子1、2の厚さ、大きさ、電流の大きさ等により適当な大きさが選択されるが、通常は、15kg〜25kgの範囲から選ばれる。例えば16kgが選ばれる。また、電流の大きさは10kA〜20kAの範囲から選ばれ、電流を流す時間は20mm/s〜40mm/sの範囲から選ばれる。例えば、電流の大きさは10kA、流す時間は20mm/sとされる。
【0034】
以上のようにして両電極3、4間に電流を所定の時間流すと、第1の導電端子1の先端部分にある矩形状のプロジェクション12と第2の導電端子2の溶接面20の内部とが互いに溶融し合い該プロジェクション12の大きさのナゲットが形成される。図5は、ナゲット5が形成されるときの時間変化を示している。図5(A)は溶接時(電流流入時)の初期状態、図5(B)は中期状態、図5(C)は最終状態をそれぞれ示している。電流を流し始める初期状態では、すずメッキ層による抵抗のためにプロジェクション12の周囲と第2の導電端子2の溶接面20とが接する界面全体で電流集中が生じ始め、プロジェクション12及び溶接面20が溶融し始める。その結果、ナゲット5が成長する(図5(A))。さらに電流を流していって中期状態になると、プロジェクション12が溶接面20にさらに入り込んでいき、ナゲット5が大きくなっていく(図5(B))。さらに電流を流していって最終状態になると、プロジェクション12は溶接面20内に完全に入り込み、ナゲット5は最大に成長する(図5(C))。
【0035】
最終状態は、段差10の高さtがゼロになったとき、すなわち、段差10の下方において、第1の導電端子1と第2の導電端子2とが当接した状態であり、プロジェクション12はこれ以上に溶接面20内に入り込むことはない。したがって、プロジェクション12の入り込み量、すなわちナゲット5が最大限成長する大きさは、段差10の高さtにより概ね決まることになる。
【0036】
このような挙動により、溶接面20内にナゲット5が形成される。ナゲット5は、段差10の上方にある上端部11の面積を有しているから、その大きさは極めて大きい。このため、2つの導電端子1、2の溶着強度を十分に大きくすることができる。また、プロジェクション12の入り込み量は段差10により規制されるため、溶接終了時では、第1の導電端子1と第2の導電端子2との間隔は図5(C)のように常に略一定である。
【0037】
なお、図5(A)〜(C)において、ナゲット5の形状を模式的に直方体の形状で示した。実際のナゲットの形状の界面は不明瞭で、凹凸が生じうる。
【0038】
(実験例)
第1、第2の導電端子1、2の材料として、次の電気的特性を持つ、すずメッキ層を形成した銅を用いた。
【0039】
銅(抵抗率:1.72μΩ・cm 導電率:100)
すず(抵抗率:11.4μΩ・cm 導電率:15.1)
第1、第2の導電端子1、2を、その形状及び寸法が図6のようになるように成型した。図において、数値の単位はmmである。すなわち、第1の導電端子1は、幅L1が3mm、厚さT1が0.64mmであり、第2の導電端子2は、幅L2が4.5mm、厚さT2が0.4mmである。これらの関係は、L1<L2、T1>T2となっている。また、残差10の高さtは、0.1mmである。
【0040】
このとき、第1の導電端子1の先端の断面積は、1.92mm x mmである。第2の導電端子2の先端の断面積は、1.8mm x mmである。よって、両者の断面積は略同じである。
【0041】
上記の導電端子1、2を突き合わせて、その両外側をタングステン電極で圧接する(図3参照)。このときの加圧力は16kgとした。また、電極間に流す電流値を10A、電圧を10Vとした。
【0042】
上記の条件で電流の流入時間を、20ms〜40msの範囲で変化させて溶接したときの、「プロジェクション12の入り込み量」と「導電端子間の強度(溶接強度)」を測定すると、図7のようになった。なお、前者の入り込み量は、溶接により相互に付いた状態の第1、第2の導電端子1、2を剥がして測定した。また、後者の強度は、その剥がすときの引っ張り力で測定した。
【0043】
同図に示すように、電流の流入時間にかかわらず、プロジェクション12の入り込み量は、段差10の高さt(=0.1mm)と略同一となった。また、導電端子間の強度は、電流の流入時間に応じて13.7kg〜15.94kgに変化したが、いずれも、10kgを大きく超える値となった。
【0044】
導電端子間の強度が10kgを超えている状態で導電端子同士を引き剥がしたときには、導電端子に母材破壊が生じている。したがって、導電端子同士が十分に溶接できているということができる。
【0045】
図8は、この発明の他の実施形態の導電端子を示す図である。
【0046】
この実施形態では、第1の導電端子1と第2の導電端子2の形状が段差の部分において異なっている。第1の導電端子1には段差10が形成されず、代わって第2の導電端子2に段差21が形成されている。すなわち、各導電端子は、次の(4)〜(7)の構造を有している。
【0047】
(4)第2の導電端子2は、その先端位置から離れた位置に段差21を設けることにより該先端位置から段差21までの範囲の先端部分にプロジェクション23が形成されるように成型されており、
(5)各導電端子1、2は、第1の導電端子1の溶接面13が第2の導電端子2のプロジェクション23の全体で覆われる大きさとなるように成型されており、
(6)各導電端子1、2は、第2の導電端子2の先端部分22の断面積S2と、第1の導電端子1の溶接部の断面積S1とが略同じとなるように成型されており、
(7)第1の導電端子1の溶接面13がプロジェクション23の内部に入り込んで溶着している。
【0048】
なお、図1に示す実施形態と同様に、この実施形態でも、第1の導電端子1は、厚さが0.64mmの銅板から成型され、第2の導電端子2は、厚さが0.4mmの銅板から成型される。
【0049】
上記導電端子1、2の溶接は、上記実施形態と同様に行われる。図9は、ナゲット5が形成されるときの時間変化を示している。図9(A)は溶接時(電流流入時)の初期状態、図9(B)は中期状態、図9(C)は最終状態をそれぞれ示している。電流を流し始める初期状態では、すずメッキ層による抵抗のためにプロジェクション23と第1の導電端子1の溶接面13とが接する界面全体で電流集中が生じ始め、プロジェクション23及び溶接面13が溶融し始める。その結果、ナゲット5が成長する(図9(A))。さらに電流を流していって中期状態になると、溶接面13がプロジェクション23内にさらに入り込んでいき、ナゲット5が大きくなっていく(図9(B))。さらに電流を流していって最終状態になると、溶接面13はプロジェクション23内に完全に入り込み、ナゲット5は最大に成長する(図9(C))。
【0050】
最終状態は、段差210の高さtがゼロになったとき、すなわち、段差21の下方において、第1の導電端子1と第2の導電端子2とが当接した状態であり、溶接面13はこれ以上プロジェクション23内に入り込むことはない。したがって、溶接面13のプロジェクション23内への入り込み量、すなわちナゲット5が最大限成長する大きさは、段差21の高さtにより概ね決まることになる。
【0051】
このような挙動により、プロジェクション23内にナゲット5が形成される。ナゲット5は、第1の導電端子1の上方の面積を有しているから、その大きさは極めて大きい。このため、2つの導電端子1、2の溶着強度を十分に大きくすることができる。また、第1の導電端子1の溶接面13のプロジェクション23内への入り込み量は段差21により規制されるため、溶接終了時では、第1の導電端子1と第2の導電端子2との間隔は図9(C)のように常に略一定である。
【0052】
図1及び図8に示す実施形態では、第1の導電端子1又は第2の導電端子2のいずれかに段差を設け、いずれかの導電端子にプロジェクションを形成しているが、これらの2つ導電端子それぞれに段差を設けても良い。このような構成であっても、2つの導電端子が当接する部分において、上記と同様なナゲットが形成される。
【0053】
なお、加圧力、電流値、電流の流入時間等のパラメータを変えることで強度が変わってくるが、いずれの場合であっても、「銅が付く」現象が観察される。
【0054】
この発明は、例えば、電動パワーステアリングシステム(EPS)の制御装置等に適用することができる。この制御装置では、第1の導電端子と第2の導電端子が、それぞれ異なった基板やケースに取り付けられており、それらの基板やケースの組み込み後に、各導電端子が溶接される。この発明は、このような性質を持つ装置に特に好適である。
【0055】
図10は、上記EPS制御装置の構成を示している。このEPS制御装置は、大きな電流を扱うために、高い放熱性能を得る見地からケースとしてアルミケース6を用いている。そして、アルミケース6に対して嵌合部60等により樹脂製の基板7を取り付けることにより制御装置を構成している。さらに、図示していないが、樹脂製の基板7とアルミケースとの間に、スイッチング素子など動作時に高温になる電子部品が搭載されたアルミ基板が取り付けられている。
【0056】
上記の制御装置において、符号Aで示す部分で、銅を材料とした第1の導電端子1と第2の導電端子2とが溶接される。第1の導電端子1と第2の導電端子2は、それぞれ、図1〜3に示すものと同一である。第2の導電端子2の他端が、アルミ基板にハンダ付けされている。また、樹脂製の基板7に第1の導電端子1の下端部が折り曲げられた状態でインサート成型により取り付けられている。樹脂製の基板7をアルミケース6に取り付けると、図の符号Aで示す部分で、樹脂製の基板7にインサート成型により取り付けられている第1の導電端子1と、アルミケース6の中に設けられているアルミ基板にハンダ付けされている第2の導電端子2とが接する。この状態で、2つの導電端子間の抵抗溶接を行う。
【0057】
なお、この実施例では、第2の導電端子2はアルミケース6の中に設けられているアルミ基板にハンダ付けされ、第1の導電端子1は基板7にインサート成型により取り付けられているため、取付強度においては後者よりも前者が弱い(ハンダ付けの方が弱い)。そこで、第2の導電端子2の厚さを第1の導電端子1の厚さよりも薄くしている。このようにすれば、第2の導電端子2に外力が加わっても、端子全体が塑性変形または弾性変形して外力が緩和される。これにより、ハンダ付け部分に外力が加わるのを防ぐことができる。一方、第1の導電端子1は取付強度の大きいインサート成型により取り付けられているために、外力が加わってもその電気的接続部に影響を及ぼすことがない。
【0058】
このように、この発明は、特に、基板やケースの組付け後に導電端子の溶接を行う必要があって、且つ、その導電端子が銅製である電子機器への適用が有用である。
【0059】
以上のように、この発明によれば、銅を材料とした2つの導電端子同士を抵抗溶接によって確実に付けることができ、且つ大きな面積のナゲットが形成されるために十分な引っ張り強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】この発明の実施形態の導電端子を示す図である。
【図2】プロジェクション12の大きさと第2の導電端子2の溶接面20の大きさを比較する図である。
【図3】第1、第2の導電端子1、2間に電極3を当てて圧接した状態を示す図である。
【図4】電極の取付状態を示す上面図、正面図、右側面図である。
【図5】ナゲットが形成されるまでの時間変化を示す図である。
【図6】この発明の溶接方法の実験例に使用した導電端子1、2の形状と寸法を示す図である。
【図7】実験結果を示す表である。
【図8】この発明の他の実施形態の導電端子を示す図である。
【図9】ナゲットが形成されるまでの時間変化を示す図である。
【図10】この発明の実施形態を電動パワーステアリング装置に適用したときの同壮途の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1−第1の導電端子
2−第2の導電端子
3−第1の電極
4−第2の電極
5−ナゲット
10−段差
11−先端部分
12−プロジェクション
20−第2の導電端子の溶接面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロジェクションの形成された第1の導電端子と平板状の第2の導電端子とを抵抗溶接する導電端子の溶接方法において、
すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成された第1の導電端子を、
すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、溶接面が前記第1の導電端子の先端部分の全体を覆う大きさであって、溶接部の断面積が前記第1の導電端子の先端部分の断面積と略同じである第2の導電端子に当接させ、
さらに、これらの導電端子に同じ電気的特性の電極を圧接して電流を流すことにより、前記プロジェクションが前記第2の導電端子の溶接面の内部に入り込んで溶着することを特徴とする導電端子の溶接方法。
【請求項2】
前記第1の導電端子の幅L1、厚さT1と、前記第2の導電端子の幅L2、厚さT2との関係は、L1<L2、T1>T2である請求項1記載の導電端子の溶接方法。
【請求項3】
前記電極はタングステン電極である請求項1記載の導電端子の溶接方法。
【請求項4】
プロジェクションの形成された第1の導電端子と第2の導電端子とを抵抗溶接して形成した導電端子構造において、前記第1の導電端子と第2の導電端子は、すずメッキされた平板状の銅を材料として成型されており、さらに、次の(1)〜(4)の構造を有することを特徴とする導電端子構造。
(1)前記第1の導電端子は、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成されるように成型されており、
(2)各導電端子は、前記第2の導電端子の溶接面が前記第1の導電端子の先端部分の全体を覆う大きさとなるように成型されており、
(3)各導電端子は、前記第1の導電端子の先端部分の断面積と、前記第2の導電端子の溶接部の断面積とが略同じとなるように成型されており、
(4)前記プロジェクションが前記第2の導電端子の溶接面の内部に入り込んで溶着している。
【請求項5】
前記(2)及び(3)において、前記第1の導電端子の幅L1、厚さT1と、前記第2の導電端子の幅L2、厚さT2との関係は、L1<L2、T1>T2となるように各導電端子が成型されている請求項4記載の導電端子構造。
【請求項6】
平板状の第1の導電端子とプロジェクションの形成された第2の導電端子とを抵抗溶接する導電端子の溶接方法において、
すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成された第2の導電端子を、
すずメッキされた平板状の銅を材料として形成され、溶接面が前記第2の導電端子の先端部分の全体に覆われる大きさであって、溶接部の断面積が前記第2の導電端子の先端部分の断面積と略同じである第1の導電端子に当接させ、
さらに、これらの導電端子に同じ電気的特性の電極を圧接して電流を流すことにより、前記第1の導電端子の溶接面が前記プロジェクションの内部に入り込んで溶着することを特徴とする導電端子の溶接方法。
【請求項7】
前記第1の導電端子の幅L1、厚さT1と、前記第2の導電端子の幅L2、厚さT2との関係は、L1<L2、T1>T2である請求項6記載の導電端子の溶接方法。
【請求項8】
前記電極はタングステン電極である請求項6記載の導電端子の溶接方法。
【請求項9】
第1の導電端子とプロジェクションの形成された第2の導電端子とを抵抗溶接して形成した導電端子構造において、前記第1の導電端子と第2の導電端子は、すずメッキされた平板状の銅を材料として成型されており、さらに、次の(1)〜(4)の構造を有することを特徴とする導電端子構造。
(1)前記第2の導電端子は、その先端位置から離れた位置に段差を設けることにより該先端位置から段差までの範囲の先端部分にプロジェクションが形成されるように成型されており、
(2)各導電端子は、前記第1の導電端子の溶接面が前記第2の導電端子のプロジェクションの全体で覆われる大きさとなるように成型されており、
(3)各導電端子は、前記第2の導電端子の先端部分の断面積と、前記第1の導電端子の溶接部の断面積とが略同じとなるように成型されており、
(4)前記第1の導電端子の溶接面が前記プロジェクションの内部に入り込んで溶着している。
【請求項10】
前記(2)及び(3)において、前記第1の導電端子の幅L1、厚さT1と、前記第2の導電端子の幅L2、厚さT2との関係は、L1<L2、T1>T2となるように各導電端子が成型されている請求項9記載の導電端子構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−110357(P2008−110357A)
【公開日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−293682(P2006−293682)
【出願日】平成18年10月30日(2006.10.30)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】