説明

小口径ノズル試験体へのSCC付与装置

【課題】荷重を効果的且つ安定的にSCC付与用に供給することができるとともに構造の簡素化及びコストの低減が図れる小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を提供する。
【解決手段】小口径ノズル2の溶接部4に応力腐食割れであるSCCが発生した円筒状の試験体6を作成する際に予め試験体6を周方向に分割した分割試験体6aの溶接部4にSCCを付与する装置であって、上記分割試験体6aの周方向両端部間にボルト15を掛け渡し、該ボルト15に螺合したナット16で上記分割試験体6aの内面又は外面を締付けることにより分割試験体6aを拡径又は縮径して溶接部4にSCCを付与するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小口径ノズル試験体へのSCC付与装置に係り、特に試験体にSCCを加速的に付与するための技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図5は原子炉圧力容器を概略的に示す図であり、図6は小口径ノズルを概略的に示す斜視図である。図5に示すように、沸騰水型原子炉の原子炉圧力容器1の胴部1aには、例えば内部の水位を計測する水位センサ等が接続される小口径ノズル2が設けられている(例えば特許文献1参照)。この小口径ノズルは、直径が85〜95mm程度、肉厚が15mm程度である。この小口径ノズル2においては、図6に示すように一方の管(ノズル本体)2aと他方の管(配管)3とを溶接により接続するため、溶接部4が設けられている。
【0003】
ところで、原子炉圧力容器は、その性質上極めて高い安全性及び信頼性が要求されることから、定期的なISI(供用期間中検査)の実施が義務付けられており、その検査対象の一つとして、上述した胴部やノズルの溶接部の検査がある。そして、これらの溶接部の検査は、検査に際して放射能の影響が人体に及ばないようにするため、超音波を利用した自動超音波探傷ロボットを用い、遠隔操作で自動的に行われている。特に、溶接部には、過酷な環境下でSCC(Stress Corrosion Cracking:応力腐食割れ)が発生する可能性があることから、慎重な検査が要求されている。
【0004】
一方、上記小口径ノズル2においては、一方の管2aの材質として例えばインコネル(Ni基合金)を用い、他方の管3の材質として例えばステンレスを用いる組み合わせが考えられるが、このような組み合わせの場合、その組成により溶接部4において超音波が乱反射し、既存の検査装置では検査精度が低下することが考えられる。このため、上記材質の組み合わせからなる小口径ノズルの溶接部に人為的にSCCを付与した試験体を作成し、この試験体を用いて新たな検査技術及び検査装置の開発が進められている。また、上記試験体を作成する際に予め試験体の溶接部にSCCを付与するためのSCC付与装置の提案もなされている。
【0005】
図7は先に提案されている小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を長手方向の一端から見た正面図であり、図8は図7のSCC付与装置を一側方から見た側面図である。これらの図に示すように、このSCC付与装置5は、小口径ノズル2を縦割りに二分割した一方の分割試験体6aをその外面を下にした状態で載置する基台(ベースプレート)7を有し、この基台7上には分割試験体6aの両側方に位置させてその長手方向にボルト8が2本ずつ立設されている。各列のボルト8には上記分割試験体6aの周方向両端部にそれぞれ上方から当接される当接ブロック9a、9bが上下移動自在に装着されており、各ボルト8には対応する当接ブロック9a,9bを下方に締め付けて分割試験体6aにSCCを付与するためのナット10が螺着されている。左右の当接ブロック9a,9bには、対応する列のボルト8が挿通する挿通孔11が設けられている。上記SCC付与装置5においては、ナット10の締め付けにより左右の当接ブロック9a,9bを介して分割試験体6aの周方向両端部に下方向への荷重を加え、これにより分割試験体6aを左右方向に拡開(拡径)させ、溶接部(図示省略)の内面に引張応力を付与するようになっている。なお、このようにして半割りの2つの分割試験体6aにそれぞれ所定のSCCを付与したなら、両分割試験体6aを溶接で繋ぎ合わせて小口径ノズル試験体6を作成し、この小口径ノズル試験体6を新たな検査装置の開発用に供する。
【0006】
【特許文献1】特開平8−327772号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記SCC付与装置においては、分割試験体6aの板厚方向に対して垂直方向に荷重をかけるようになっているため、荷重の一部が基台7を押し付ける力として消費されてしまい、荷重を効果的且つ安定的にSCC付与用に供給することが困難である。また、上記SCC付与装置においては、部品点数が多いため、構造の煩雑化及びコストの増大を余儀なくされる。
【0008】
本発明は、上記事情を考慮してなされたものであり、荷重を効果的且つ安定的にSCC付与用に供給することができるとともに構造の簡素化及びコストの低減が図れる小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のうち、請求項1に係る発明は、小口径ノズルの溶接部に応力腐食割れであるSCCが発生した円筒状の試験体を作成する際に予め試験体を周方向に分割した分割試験体の溶接部にSCCを付与する装置であって、上記分割試験体の周方向両端部間にボルトを掛け渡し、該ボルトに螺合したナットで上記試験体の内面又は外面を締付けることにより試験体を拡径又は縮径して溶接部にSCCを付与するように構成したことを特徴とする。
【0010】
請求項2に係る発明は、上記分割された試験体が、その周方向両端部に該試験体と同じ厚さ及び半径の延長部材を接合し、両延長部材の対向部に上記ボルトを挿通する孔部を設けたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に係る発明は、上記ボルトが、その両端部にナットをそれぞれ螺合するための雄ねじ部を有することを特徴とする。
【0012】
請求項4に係る発明は、上記分割された試験体の内面又は外面の溶接部上に、底部が開口し、内部に酸性の液体を収容したケースを設置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によれば、試験体に対して板厚方向と平行な方向に効率良く荷重が付加され、荷重を効果的且つ安定的にSCC付与用に供給することができるとともに構造の簡素化及びコストの低減が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基いて詳述する。図1は本発明の実施の形態である小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を概略的に示す平面図、図2は図1のSCC付与装置を長手方向の一端から見た正面図である。
【0015】
これらの図において、50は小口径ノズル2の溶接部4にSCCが発生した試験体6を作成する際に予め試験体6を周方向に分割した分割試験体6aの溶接部4にSCCを付与するSSC付与装置である。このSCC付与装置50は、上記分割試験体6aの周方向両端部間にボルト15を掛け渡し、該ボルト15に螺合したナット16で上記分割試験体6aの内面を締付けることにより分割試験体6aを拡径して溶接部4にSCCを付与する、この例の場合、SCCに必要な応力(この例では引張応力)を付与するようにしたものである。なお、SCC(腐食を含む)を付与する場合については、後述する。
【0016】
上記分割試験体6aは、その周方向両端部に該分割試験体6aと同じ厚さ及び半径の延長部材17を溶接18で接合し、両延長部材17の対向部に上記ボルト15を挿通する孔部19を設けている。上記試験体6である小口径ノズル2は、図6に示すように、インコネル製の一方の管(ノズル本体)2aとステンレス製の他方の管(配管)3とを溶接により接続してなり、溶接部4を有している。この円筒状の試験体6を周方向に複数に分割し、これら分割試験体6aにそれぞれ所定のSCCを付与した後、これら分割試験体6aを溶接で繋ぎ合わせて試験体6を再組立し、SCC付与済みの小口径ノズル試験体として新たな検査装置の開発用に供される。
【0017】
本例の場合、ボルト15を挿通する孔部19が必要であり、この孔部19を分割試験体6a自体に設けることは再組立上好ましくないので、分割試験体6aは、半割れよりも小さく分割されており、この分割試験体6aの周方向両端部にその両端部を延長するべく延長部材17が溶接されて全体としてCリング状に形成されている。縦長の分割試験体6aを均一に拡径するために、溶接部4を挟んで分割試験体6aの長手方向に間隔をおいて長手方向に直交する向きでボルト15を複数例えば2本配置するために、両延長部材17に孔部19が前後に複数例えば2個ずつ計4個設けられている。
【0018】
上記ボルト15の両端部にはナット16をそれぞれ螺合するための雄ねじ部20が刻設されている。なお、上記ボルト15に螺着されたナット16と延長部材17との間には、座金21が介在されていることが好ましい。上記分割試験体6aの溶接部4にSCCを付与する場合には、分割試験体6aの溶接部4における所定の引張応力付与範囲(SCC付与範囲)22に歪みゲージ23を設置し、上記ナット16をトルクレンチで回転させて分割試験体6aの周方向両端部を左右方向に拡開(拡径)させることにより上記引張応力付与範囲22部分に所定例えば400MPaの引張応力を付加し、この状態で所定時間放置すればよい。
【0019】
溶接部4に腐食環境を付与する場合には、図3に示すように上記分割試験体6aの内面の溶接部4上に、底部が開口し、且つ内部に酸性の液体24を収容したケース25を設置すればよい。ケース25は、図4に示すように小さい枡状に形成されており、底部が開口している。ケース25は、耐食性を有する材料例えばプラスチックにより形成されている。酸性の液体としては、ポリチオン酸、テトラチオン酸等が好ましい。なお、ケース25と分割試験体6aとの隙間から酸性の液体24が漏れ出ないようにするために、ケース25の底面は、分割試験体6aの内面に隙間なく接触するよう分割試験体6aの内面と対応する形状に形成されていることが好ましい。このようにして分割試験体6aの溶接部4に腐食環境で引張応力を所定時間付加することにより短時間で加速的にSCCを付与することが可能となる。
【0020】
以上の構成からなるSCC付与装置50によれば、小口径ノズル2の溶接部4にSCCが発生した試験体6を作成する際に予め周方向に分割した分割試験体6aの溶接部4にSCCを付与する装置であって、上記分割試験体6aの周方向両端部間にボルト15を掛け渡し、該ボルト15に螺合したナット16で上記分割試験体6aの内面を締付けることにより分割試験体6aを拡径して溶接部4にSCCを付与するように構成されているため、分割試験体6aに対して板厚方向と平行な方向に効率良く荷重が付加され、荷重を効果的且つ安定的にSCC付与用に供給することができる。これにより、最小の荷重でSCCが発生する条件を作り出すことができる。また、先に提案されているSCC付与装置5に比して、構造が簡素化しており、分割試験体6aの変形を容易に推測できる。更に、SCC付与装置5を構成する部品ないし鋼材の量を削減でき、コストの低減が図れる。
【0021】
また、上記分割試験体6aが、その周方向両端部に該分割試験体6aと同じ厚さ及び半径の延長部材17を接合し、両延長部材17の対向部に上記ボルト15を挿通する孔部19を設けているため、簡単な構造で分割試験体6aに容易にSCCを付与することができる。また、上記ボルト15が、その両端部にナット16をそれぞれ螺合するための雄ねじ部20を有するため、特に分割試験体6aを拡径させる場合に好適であり、また、分割試験体6aを拡径させる場合と縮径させる場合の両方に用いることができる。また、上記分割された試験体6の内面の溶接部4上に、底部が開口し、内部に酸性の液体24を収容したケース25を設置することにより、溶接部4に腐食環境を付与することができ、溶接部4に応力と腐食によるSCCを効率良く付与することができる。
【0022】
以上、本発明の実施の形態ないし実施例を図面により詳述してきたが、本発明は前記実施の形態ないし実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲での種々の設計変更が可能である。例えば、ボルトに螺合したナットで上記分割試験体の外面を締付けることにより分割試験体を縮径して溶接部にSCCを付与するようにしてもよい。分割試験体の外面を締付けるタイプの場合、ボルトとしては、一端にボルト頭部を有するものであっても良い。また、延長部材におけるボルトを挿通する部分は、孔部に限定されず、U字状の溝部であっても良い。SCC付与装置としては、延長部材を設けずに、ナットと連動する引っ掛け部材を分割試験体の周方向両端部の内面又は外面に引っ掛けて直接拡径又は縮径するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施の形態である小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を概略的に示す平面図である。
【図2】図1のSCC付与装置を長手方向の一端から見た正面図である。
【図3】試験体の溶接部上に酸性の液体を収容したケースを設置した例を示す図である。
【図4】図3におけるケースの斜視図である。
【図5】原子炉圧力容器を概略的に示す図である。
【図6】小口径ノズルを概略的に示す斜視図である。
【図7】先に提案されている小口径ノズル試験体へのSCC付与装置を長手方向の一端から見た正面図である。
【図8】図7のSCC付与装置を一側方から見た側面図である。
【符号の説明】
【0024】
2 小口径ノズル
4 溶接部
6 試験体
6a 分割試験体
15 ボルト
16 ナット
17 延長部材
19 孔部
20 雄ねじ部
24 酸性の液体
25 ケース
50 SCC付与装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小口径ノズルの溶接部に応力腐食割れであるSCCが発生した円筒状の試験体を作成する際に予め試験体を周方向に分割した分割試験体の溶接部にSCCを付与する装置であって、上記分割試験体の周方向両端部間にボルトを掛け渡し、該ボルトに螺合したナットで上記分割試験体の内面又は外面を締付けることにより分割試験体を拡径又は縮径して溶接部にSCCを付与するように構成したことを特徴とする小口径ノズル試験体へのSCC付与装置。
【請求項2】
上記分割試験体は、その周方向両端部に該分割試験体と同じ厚さ及び半径の延長部材を接合し、両延長部材の対向部に上記ボルトを挿通する孔部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の小口径ノズル試験体へのSCC付与装置。
【請求項3】
上記ボルトは、その両端部にナットをそれぞれ螺合するための雄ねじ部を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の小口径ノズル試験体へのSCC付与装置。
【請求項4】
上記分割試験体の内面又は外面の溶接部上に、底部が開口し、内部に酸性の液体を収容したケースを設置したことを特徴とする請求項1に記載の小口径ノズル試験体へのSCC付与装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−292551(P2007−292551A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119397(P2006−119397)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】