説明

小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法

【課題】 小型水生生物に負荷を与えないようにして飼育水槽を効率良く交換し、さらに飼育規模拡大にも順応性の高い小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法を提供する。
【解決手段】 複数の水槽部2と、該水槽部同士を接続する連結部4とを具備し、該水槽部2に水8を満たすことにより小型水生生物9が該連結部4を介して水槽部2間を往来できるようにし、さらに各水槽部2へ個別に照射できる光源機具6を設ける一方、前記連結部4の部位に水槽部2間の水の行き来を遮断する隔壁部材3を着脱自在に設けるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イセエビ幼生等の小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イセエビ幼生などの小型水生生物の飼育では、飼育水槽の汚れを主な原因とする疾病が発生し、飼育成績が不安定となっている。幼生の疾病発生を防止するには、飼育水槽を定期的に交換し、飼育水槽を清浄に保つ必要があるが、大量の幼生が収容されている水槽を交換するのは困難で、飼育規模を拡大する際、支障をきたしていた。幼生飼育の規模を拡大するにあたり、その幼生飼育を安定させて、飼育水槽の効率的な交換を可能とする飼育水槽の開発が望まれている。こうしたなか、例えば甲殻類の幼生を高い生存率で効率良く大量飼育することのできる飼育方法及び装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−97070
【0004】
特許文献1の幼生飼育装置によれば、飼育水槽の回転に伴って生じた水流により甲殻類の幼生も上方に浮遊するため、従来のごとく底部で沈殿物と接触することがない結果、バクテリアによる死亡率が著しく軽減されるとしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の甲殻類の幼生飼育方法及び装置には次のような問題があった。幼生飼育では管理者がエサの残渣を綺麗に取除くことを心掛けているが、完全を期すことは不可能であった。いかなる飼育装置にあっても、エサ残渣がどうしても残ってしまい、これを栄養源とするバクテリアが増殖し水槽の内壁に膜状付着した。幼生はこのバクテリアフィルムと接触して病気になるとされている。幼生の生残率を上げるために、水槽内壁に付着するバクテリアの汚れを除去する作業が定期的に必要になるが、特許文献1の幼生飼育装置はその形状から難しいと推定される。
加えて、エサ残渣や幼生のフンなどで浮遊するものはオーバーフロー排水管から系外へ排出されるものの、幼生の脱皮殻等大型で水槽底部に沈む沈殿物も現実に存在しており、該沈殿物はオーバーフロー排水管から系外へ排出されることがなかった。特許文献1の飼育装置は、例えば蓋部を外して円筒部の一部に形成された開口部からこの沈殿物を除去しなければならない。開口部から沈殿物を綺麗に取り除くことは厄介で、飼育規模が拡大すればその構造から一層問題になる虞があった。しかも、取り残された沈殿物はバクテリア増殖に直結し、幼生の生残率の低下を招いた。
【0006】
上記問題を解消するには、バクテリアが水槽内壁に膜状に増殖した段階で、新鮮水を満たした水槽を横において、スプーン等を用いて幼生を掬ってこれを新鮮水の水槽に移し替えする方法がやはり効果的であるが、これまでの単なるバッチ処理の水槽交換は労力負担が大きかった。スプーン等を用いて1〜数個体ずつ手作業で古い水槽から新しい水槽へ移す方法では、実験室レベルならまだしも、規模が拡大すれば労力負担,作業時間が比例して増大し対応困難になっていた。また、スプーン等で移し替えする際、幼生に負荷を与え、さらに幼生を傷つけ、その結果、死に追いやる問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するもので、小型水生生物に負荷を与えないようにして飼育水槽を効率良く交換し、さらに飼育規模拡大にも順応性の高い小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成すべく、請求項1に記載の発明の要旨は、複数の水槽部と、該水槽部同士を接続する連結部とを具備し、該水槽部に水を満たすことにより小型水生生物が該連結部を介して水槽部間を往来できるようにし、さらに各水槽部へ個別に照射できる光源機具を設ける一方、前記連結部の部位に水槽部間の水の行き来を遮断する隔壁部材を着脱自在に設けるようにしたことを特徴とする小型水生生物の飼育装置にある。請求項2に記載の発明の要旨は、2つの水槽部と、両水槽部を接続する連結部とを具備し、両水槽部に水を満たすことにより小型水生生物が該連結部を介して水槽部間を往来できるようにし、さらに可搬の光源機具を設け、該光源機具を移動設置することにより夫々の水槽部へ個別に照射できるようにする一方、前記連結部の部位に水槽部間の水の行き来を遮断する隔壁部材を着脱自在に設けるようにしたことを特徴とする小型水生生物の飼育装置にある。
請求項3に記載の発明の要旨は、飼育水槽の水をバッチ処理で切替え交換しながら小型水生生物を飼育する方法にあって、飼育水槽に係る二つの水槽部を連結部で接続し、両水槽部間を小型水生生物が往来できるようにして、一の水槽部中にいた小型水生生物を他の水槽部中へ該小型水生生物の光に対する反応を利用して移動させ、その後、該連結部の部位に着脱自在に設けられた隔壁部材で水槽部間の水の行き来を遮断して、他の水槽部中で小型水生生物を飼育することを特徴とする小型水生生物の飼育方法にある。
【発明の効果】
【0009】
本発明の小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法は、小型水生生物がもつ性質を利用して飼育水槽を効率良く交換できるので、飼育水槽を常に清浄な状態に保って小型水生生物の高い生残率を実現でき、さらに飼育規模拡大にも順応性が高いので、労力負担の軽減、時間短縮などに優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明に係る小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法について詳述する。
(1)小型水生生物の飼育装置
図1〜図8は本発明の小型水生生物の飼育装置(以下、単に「飼育装置」という。)の一形態で、図1はその平面図、図2は連結部に隔壁部材を装着する様子を示す斜視図、図3は図1の飼育装置に係る左側飼育水槽に水(海水)を満たし、イセエビの幼生を飼育する様子を示す一部破断正面図、図4は(イ)が保護具の主要部品の斜視図、(ロ)が保護具の縦断面である。図5は図3の状態からさらに右側飼育水槽に水を満たすと共に隔壁部材を抜き取り、イセエビの幼生の光に対する反応を利用して該幼生が移動する様子を示す平面図、図6は図5の一部破断正面図、図7は図6の状態からイセエビの幼生を右側飼育水槽部へ移動させた後、隔壁部材を装着した様子を示す一部破断正面図、図8は図7の要部平面図である。
【0011】
飼育装置は、複数の水槽部2と連結部4と隔壁部材3と光源機具6とを備える。複数の水槽部2と、該水槽部同士を接続する連結部4とを具備し、該水槽部2に水を満たすことにより小型水生生物9が該連結部4を介して水槽部2間を往来できるようにし、さらに各水槽部2へ個別に照射できる光源機具6を設ける一方、前記連結部4の部位に水槽部2間の水の行き来を遮断する隔壁部材3を着脱自在に設けるようにした小型水生生物9の飼育装置とする。ここで、本発明でいう「連結部4の部位に水槽部2間の水の行き来を遮断する隔壁部材3を着脱自在に設ける」に係る「連結部4の部位」は文字通りの連結部の部位だけでなく、連結部に近い水槽部の領域も含むものとする。連結部4に近い水槽部の領域に水槽部2間の水の行き来を遮断する隔壁部材3を着脱自在に設けても、文字通りの連結部の部位と比べて隔壁部材を着脱自在に設ける困難性が若干あるものの、本発明の作用,効果を十分発揮できるからである。
【0012】
水槽部2は複数設けて各水槽部2同士を連結部4で接続することもできるが、本実施形態では二つの水槽部2を用意して、両水槽部2を接続する連結部4を設ける。そして、両水槽部2に水を満たすことにより小型水生生物9が該連結部4を介して水槽部2間を往来できるようにし、さらに可搬の光源機具6を設け、該光源機具6を移動設置することにより夫々の水槽部2へ個別に照射できるようにする一方、前記連結部4の部位に水槽部2間の水の行き来を遮断する隔壁部材3を着脱自在に設けるようにした小型水生生物9の飼育装置とする。
【0013】
2つの前記水槽部2は同形で、底壁20と側壁21とで、たらいを大きくしたような上面開口の容器とする。両水槽部2の側壁21の一部をU字状に切欠いて連結部4と接続し、水槽部2間を小型水生生物9が連結部4を介して往来できるようにしている。2つの水槽部2と括れ部分を形成する連結部4とで図1のごとく平面視で左右対称のひょうたん形とする。両水槽部2は小型水生生物9を飼育する飼育水槽1の主要部になり、前記隔壁部材3で水槽部2間の水の行き来を遮断することによって、水槽部2と隔壁部材3とで飼育水槽1を形成する。より詳しくは、水槽部2と隔壁部材3とごく一部の連結部4とで飼育水槽1を形成する。
ここで、水槽部2をたらいのような丸みのある平面視略円形にするのは、水槽部2に角部分が存在するとそこに幼生9aが密集してしまうからである。水槽部2の側壁21は、水深が特許文献1等の水槽と比べて浅めの5cm〜15cmの範囲内になるよう側壁高さを設定し、水槽部2のスケールアップは平面視略円形の底壁20の面積を広げて対応させる。水槽部2が大きくなっても、水深が浅いので、小型水生生物9の観察が容易で、エサ残渣や幼生の脱皮殻等大型で水槽部に沈む沈殿物の除去作業もスムーズに進む。
【0014】
また、両水槽部2の底壁20の中央にそれぞれ水抜き用の通孔22を穿設し、該通孔22に水槽部2の下側からパイプ24が挿着される。詳しくは、底壁20の中央を大きめにくり抜き、この部分に下側から当て部材23が固着され、該当て部材23に穿設した通孔22にパイプ24を挿着する。一端を通孔22に挿着したパイプ24は底壁20に平行に外方へ配設され、さらに水槽部2外へ出たところで、垂直上方へ立ち上がり、パイプ上端(パイプ他端)が水槽部2の上縁付近にまで達する。該パイプ上端より少し下がった所にオーバーフロー用ノズル24aを設ける。図3で、フレッシュな飼育水(海水)を注入水51として飼育水槽1内へ注ぎ込んだとき、余剰の水52がオーバーフロー用ノズル24aから排出されて、この位置が飼育水8の水面81となる。
符号25は通孔22を囲むようにして底壁20に載置される筒状の保護具25を示す。二つの環体25a,25bを上下方向に少し離れた状態にした後、両者を連結バー25cで固着してなる筒体の筒面に、ネット等の網状体25dを被着した保護具25である(図4)。保護具25が通孔22を囲むようにして底壁20上、詳しくは当て部材23上に載置されたとき、前記飼育水8の水面81が網状体25dの位置にくるよう設定する(図4のロ)。保護具25を載置する底壁部分は保護具25の大きさに切り欠かれていて、ここに保護具25が嵌合しその横ズレを防止する。符号1dは水槽部2,連結部4を水平に支えるサポートである。
【0015】
連結部4は両水槽部2,2に対し括れ部分を形成して両者をつなぐ橋渡し形成部材になっている。連結部4は主部40が横断面略U字形の半割り筒状体にして水槽部2と滑らかに接続する。連結部4と水槽部2との境界部分の内面は平滑にして緩やかなカーブを描いてつながっていて、凹凸のザラザラ感がなく、そこには出っ張りや突起物がない。連結部4及び水槽部2との接続部分で、少なくとも飼育水8の水面81下においては、凹凸,出っ張り等の邪魔物を排除する。小型水生生物9が両水槽部2間を円滑に往来できるようにするためである。尚、図2,図3では連結部4との境界の水槽部接続ライン20a,21aを図示するが、この部分で鋭い角部は存在しておらず、連結部4と水槽部2の境を便宜上記すにとどまる。
【0016】
本実施形態の連結部4は、少なくとも飼育水8に浸かる部分において、水槽部2の底壁20及び側壁21を延設する格好で滑らかなカーブを描きながら形成する一方、U字状主部40の上縁40aにおいては図2,図3のごとく途中で隆起する隆起壁41を設ける。隆起壁41は長四角状にして断面U字形の半割筒状主部40の両壁部上に垂直起立する。2つの隆起壁41が相対向するよう設けられ、その両対向面に縦溝41aが二対形成される。縦溝41aは一の水槽部寄りと他の水槽部寄りで垂直方向に形成される。各縦溝41aは図2のごとく平面視コ字形の溝で、その外側の隆起壁上面41dには雌ねじ孔41bが設けられる。
【0017】
隔壁部材3は前記連結部4の部位で両水槽部2間の水の行き来を遮断できる仕切板状の部材である。本実施形態の隔壁部材3は、図2のごとくの板状本体部3aと弾性部3bとを備える。本体部3aは、連結部4の内周形状に合わせた側面視U字形した舌片状主部30と、該主部から上方へ延設して一対の縦溝41aに嵌入する横幅のある張出部31と、該張出部から上方へ延設して両水平外方向に突出する押え部32とを具備する。該押え部に上下方向に貫通する透孔32aを設ける。
弾性部3bはシリコーン等からなる帯状体又は紐状体で、主部30の外周縁に貼着される。図2のごとく、縦溝41aに張出部31を嵌入し本体部3aが起立するようにして、隔壁部材3を縦溝41aに装着すると、隔壁部材3の自重で、帯状弾性部3bが横断面U字形した連結部4の内面に当接する。と同時に、両押え部32が両隆起壁41の上面に若干浮き上がった状態で載る。このとき、透孔32aが前記雌ねじ孔41bに一致するよう形成されており、止めボルト71を透孔32aに通し雌ねじ孔41bに螺着すると、帯状弾性部3bが弾性変形して隔壁部材3が連結部4に密着する。そして、隔壁部材3が両水槽部2間の水の行き来を完全遮断する。図1,図3では左側の縦溝41aに隔壁部材3を嵌合させて、止めボルト71で隔壁部材3を連結部4に螺着固定した飼育装置になっていて、左側水槽部2と隔壁部材3とで飼育水槽1を形成する。図3のごとく左側水槽部2に注入水51を入れると、左側水槽部2と隔壁部材3とで小型水生生物9を飼育できる飼育水槽1が出来上がる。また、この状態から右側水槽部2にも注入水51を入れ、両水面81を略同一レベルにした後、該隔壁部材3を連結部4から抜き去ると、図5のごとく左側水槽部2にいた小型水生生物9が連結部4を介して左右水槽部2間を往来できる構成にある。
【0018】
光源機具6は光を発することのできる機具で、各水槽部2に個別に照射可能になっている。本実施形態の光源機具6は電球60と該電球の装着部61と支柱62とを備える可搬タイプのものを2台使用する。図5のごとく左側水槽部2にいた小型水生生物9が連結部4を介して左右水槽部2間を往来できる状態にして、該光源機具6の電球60を一の水槽部2(又は他の水槽部2)に照射することによって、一の水槽部2中にいた小型水生生物9を他の水槽部2中へ該小型水生生物9の光に対する反応を利用して移動させることができる。ここで、「一の水槽部2中にいた小型水生生物9を他の水槽部2中へ該小型水生生物9の光に対する反応を利用して移動させる」は、過半数を越える数の小型水生生物9を他の水槽部2中へ該小型水生生物9の光に対する反応を利用して移動させることができれば足りるものとする。飼育水槽1の交換にあって、飼育する過半数を越える小型水生生物9が自ら別の飼育水槽1(水槽部2)へ移動すれば、従来にない効率的な水槽交換が達成できるからである。
【0019】
(2)小型水生生物の飼育方法
小型水生生物9の飼育方法は、飼育水槽1の水の交換を定期的に行いながら小型水生生物9を飼育する方法にあって、その飼育水槽1の水の交換時に、光に対する反応を利用して小型水生生物9を移動させる飼育方法である。詳しくは、飼育水槽1(水槽部2)の水をバッチ処理で切替え交換しながら小型水生生物9を飼育する方法にあって、飼育水槽1に係る二つの水槽部2を連結部4で接続し、両水槽部2間を小型水生生物9が往来できるようにして、一の水槽部2中にいた小型水生生物9を他の水槽部2中へ該小型水生生物9の光に対する反応を利用して移動させ、その後、該連結部4の部位に着脱自在に設けられた隔壁部材3で水槽部2間の水の行き来を遮断して、他の水槽部2中で小型水生生物9を飼育する方法である。ここで、本発明でいう「連結部4の部位に着脱自在に設けられた隔壁部材3で水槽部2間の水の行き来を遮断して」に係る「連結部4の部位」は文字通りの連結部の部位だけでなく、連結部に近い水槽部の領域も含むものとする。連結部4に近い水槽部の領域に着脱自在に設けられた隔壁部材3で水槽部2間の水の行き来を遮断しても、文字通りの連結部の部位と比べて隔壁部材を着脱自在に設ける困難性が若干あるものの、本発明の作用,効果を十分発揮できるからである。
【0020】
小型水生生物9の飼育方法は、例えば前記図1〜図8の飼育装置を用いて次のようにして行なう。まず、図1,図2に示すごとく図面左側の縦溝41aを利用して隔壁部材3を連結部4に装着した後、止めボルト71を透孔32aに挿通し雌ねじ孔41bに螺着し、隔壁部材3を連結部4に密着固定させる。図1のごとく、連結部4と左側水槽部2とで飼育水槽1ができる。この左側の飼育水槽1に海水8を注入し,イセエビの幼生9a(フィロゾーマ)を収容し飼育する。その後も新鮮な海水8が注入水51として飼育水槽1へ適宜注入され、飼育水槽1内の余剰水52は保護具25,通孔22,パイプ24を経由してノズル24aから系外へと排出される。幼生飼育する過程でエサ残渣等を取り除く作業をするが、エサ残渣等の一部は飼育水槽1内に残留し、また幼生9aのフンなどでバクテリアが増殖し、バクテリアフィルムとなって飼育水槽1が汚れていく。
【0021】
1日〜数日が経過し水槽部2の汚れが設定レベルを越えた段階で、他方の水槽部2(図1,図3の右側水槽部2)に幼生9aを収容している左側水槽部2と同じ水位となるように新鮮な飼育水8(海水)を満たす。次いで、連結部4の縦溝41aに装着していた隔壁部材3を取り除き、幼生9aが左右の水槽部2を行き来できるようにする(図5)。
【0022】
続いて、ふ化直後の幼生9aの場合は、新たな水槽部側すなわち図5,図6のごとく右側水槽部2に光源機具6を設置し、光源の電球60を照射する。電球60の光を上方から右側水面81上へ照射する。そして、図5でいえば、新たな右側水槽部2の方へ幼生9aを移動させる。図5中、符号Sは光源による照射ライト、符号Sは水面への光の照射ゾーンを示す。
イセエビ幼生9aはふ化直後には正の趨光性(光に集まる性質)を示し、ふ化後1ヶ月程度経過すると次第に負の趨光性(光から離れる性質)を示す。その実験データを図9にグラフ化する。図9はイセエビ幼生9aの個体数が約170匹で、直径約180cmφの平面視ほぼ円形の水槽部2で測定した結果を表したものである。図9で用いた光源は白熱灯であったが、光源の光の強さや波長を調整することで、更に高率で幼生9aを意図する方向へ移動させることができると考えられる。
【0023】
右側水槽部2を照らすと、幼生9aが光に反応して、幼生自らが右側水槽部2へと移動していく。イセエビ幼生9aの光に対する自然な反応を利用するものであって、幼生9aに与えるストレスを最小限にして、収容していた方の水槽部2(図6の左側水槽部2)から新たな水槽部2(図6の右側水槽部2)へと幼生9aを移し替えできる。一方、ふ化後1ヶ月が経過した幼生9aでは、収容していた方の水槽部2(図6の左側水槽部2)に光源機具6を設置することで、幼生9aを新たな水槽部2の方へと移動させることができる。
【0024】
前記幼生9aの移動がほぼ終了した時点で、新たな水槽部2(図6の右側水槽部2)寄りの縦溝41aに隔壁部材3を装着し、水槽部2の交換が終了する。図6の右側水槽部2と隔壁部材3とで新たな飼育水槽1が形成される。
しかる後、光源の電球60を消し、新たな水槽部2へ移動しきれなかった幼生9aを、スプーン等を用いて移す。その個体数が少ないため、労力負担は小さい。従来、1個体ずつ手作業で新たな水槽部2へ移すことで行っていた水槽交換の労苦から開放される。
その後、新たな飼育水槽1で幼生9aを飼育する。また飼育の傍ら、幼生9aを収容していた水槽部2の海水8を抜き、スポンジ等で掃除し,次の水槽部2の交換時に備える。次の交換に備える水槽部2は勿論のこと、二対の縦溝41aを設けたことによって次の交換時に使用する連結部4の部分も掃除できるので、スタンバイ用飼育水槽1は常に清浄に保つことができる。
新たな飼育水槽1での幼生飼育の時間が経過し、新たな水槽部2(図6の右側水槽部2)の汚れが設定レベルを越えるようになったら、また左側水槽部2へ切り替える上記一連の作業を繰り返し、幼生9aを飼育成長させていく。
【0025】
(3)効果
このように構成した小型水生生物の飼育装置及びその飼育方法によれば、一の水槽部2へ光源を照射することで、イセエビ幼生等の小型水生生物9が自ら有する趨光性の性質に起因して、収容していた方の水槽部2から新たな水槽部2側へ進んで移動していくので、飼育水槽1を効率良く交換できる。従来、1個体ずつ手作業で新たな水槽へ移していた水槽交換を半自動化できる。イセエビ幼生9aでは、ふ化直後の幼生9aの場合は新たな水槽部2側に、ふ化後1ヶ月程度が経過した幼生9aでは収容していた方の水槽部2側に光源を照射することで、幼生9aを新たな水槽部2の方へ簡単に移動させることができる。労力負担や作業時間が大幅軽減される。労力負担や作業時間が少なくて済むので、飼育水槽1を常に清浄な状態に保って小型水生生物9の高い生残率を達成できる。従来の水槽では1週間で2回の水槽交換であったところ、本発明の飼育装置では大幅に労力軽減されることから毎日でもさほど負担にならない。これらの条件下で、ふ化後の日数に対する生残率を測定した結果を図10に示す。図10中、「発明した水槽」とは本飼育装置をいい、「従来の水槽」とは二つの水槽でバッチ交換できる従来からある水槽をいう。本発明の飼育装置及び飼育方法は、「従来の水槽」でのバッチ交換に比べ、高い生残率を維持できる。
【0026】
また、水槽部2の交換に際し、光を用いることによって幼生9aが自発的に新たな水槽部2の方へ移動するので、幼生飼育が容易で、飼育規模が拡大しても円滑対応でき極めて有益となる。しかも、本飼育装置の構造が前述のごとく簡易で、飼育規模が増大しても設備コストがそれほどかからない。さらに、本飼育装置は、特許文献1の装置と違って可動部をもたないので故障が少なく、メンテナンスも楽である。大型化した飼育水槽1にバクテリアフィルムが発生し、水槽が汚れても、既述のごとく飼育水槽を構成する水槽部2,隔壁部材3,連結部4の形状がシンプルなことから、簡単に清掃除去できる。
加えて、イセエビ幼生9aの光に対する自然な反応を利用するもので、幼生等の小型水生生物9に与えるストレスを最小限に抑えて水槽部2の交換が可能になる。幼生9aの高い生残率の維持にも貢献する。
【0027】
尚、本発明においては前記実施形態に示すものに限られず、目的,用途に応じて本発明の範囲で種々変更できる。実施形態では、小型水生生物9にイセエビ幼生9aを用いたが、小型水生生物9の飼育はこれに限らず、光に対する反応を利用して移動させることのできるその他のエビ,カニなどの甲殻類、さらに稚魚等の他の生物の飼育にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の小型水生生物の飼育装置の一形態で、その平面図である。
【図2】連結部に隔壁部材を装着する様子を示す斜視図である。
【図3】図1の飼育装置に係る左側飼育水槽に水を満たし、イセエビの幼生を飼育する様子を示す一部破断正面図である。
【図4】(イ)が保護具の主要部品の斜視図、(ロ)が保護具の縦断面である。
【図5】図3の状態からさらに右側飼育水槽に水を満たすと共に隔壁部材を抜き取り、イセエビ幼生の光に対する反応を利用して該幼生が移動する様子を示すである。
【図6】図5の一部破断正面図である。
【図7】図6の状態からイセエビの幼生を右側飼育水槽部へ移動させた後、隔壁部材を装着した様子を示す一部破断正面図である。
【図8】図7の平面図である。
【図9】イセエビ幼生の趨光性を示すグラフである。
【図10】ふ化後の日数に対する生残率を、本発明の飼育装置と従来の水槽とで比較したグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 飼育水槽
2 水槽部
3 隔壁部材
4 連結部
6 光源機具
8 飼育水(水)
9 小型水生生物
9a イセエビ幼生

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の水槽部と、該水槽部同士を接続する連結部とを具備し、該水槽部に水を満たすことにより小型水生生物が該連結部を介して水槽部間を往来できるようにし、さらに各水槽部へ個別に照射できる光源機具を設ける一方、前記連結部の部位に水槽部間の水の行き来を遮断する隔壁部材を着脱自在に設けるようにしたことを特徴とする小型水生生物の飼育装置。
【請求項2】
2つの水槽部と、両水槽部を接続する連結部とを具備し、両水槽部に水を満たすことにより小型水生生物が該連結部を介して水槽部間を往来できるようにし、さらに可搬の光源機具を設け、該光源機具を移動設置することにより夫々の水槽部へ個別に照射できるようにする一方、前記連結部の部位に水槽部間の水の行き来を遮断する隔壁部材を着脱自在に設けるようにしたことを特徴とする小型水生生物の飼育装置。
【請求項3】
飼育水槽の水をバッチ処理で切替え交換しながら小型水生生物を飼育する方法にあって、飼育水槽に係る二つの水槽部を連結部で接続し、両水槽部間を小型水生生物が往来できるようにして、一の水槽部中にいた小型水生生物を他の水槽部中へ該小型水生生物の光に対する反応を利用して移動させ、その後、該連結部の部位に着脱自在に設けられた隔壁部材で水槽部間の水の行き来を遮断して、他の水槽部中で小型水生生物を飼育することを特徴とする小型水生生物の飼育方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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