説明

小型魚類機能評価システム

【課題】医薬品開発における生体反応の個体差をなくし、かつ成長に影響を与えない最小サイズの個別水槽であり、種々の生理学的測定が可能である。
【解決手段】実験用小型魚類の成魚を医薬品開発研究に使用することを目的とする小型個別水槽であって、小型魚類に対して生物学的なストレスを与えない飼育のための最小サイズを確保しながら、成長・薬物に対する生理的反応の個体差を最小限に抑えた、透明で円筒状の小型水槽であること。垂直方向に積み重ねることが可能な構造上の特徴を持たせることで、小型魚類の成魚を用いた医薬品候補化合物スクリーニングなどの大規模実験系に使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品開発などの研究目的で使用される小型魚類の成魚一尾を、正常に飼育しながら、薬物による影響を個体差を最小限に抑えつつ正確に測定することを可能とすることを特徴とする小型個別水槽等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医薬品開発のモデル動物として従来のマウス、ラットのようなげっ歯類動物に加え、ゼブラフィッシュなどの小型魚類が使用されるようになっている。例えば、特許文献1には、ゼブラフィッシュの行動解析を行うコンピュータシステムが開示されている。
ゼブラフィッシュなどの小型魚類は群れで飼育するのが一般的であるが、このような飼育環境下では飼育中のゼブラフィッシュを1尾単位で識別しながら個体差を明らかにすることは不可能である。しかしながら、医薬品開発における薬物投与の影響を調べるためには個体差を加味した生体反応を検出することが日常的に行われており、ゼブラフィッシュを医薬品開発のモデル動物として利用する場合にも他のモデル動物(マウス・ラットなど)のように、個別飼育が必要不可欠である。
【0003】
医薬品開発における重要なステップである新薬候補化合物のスクリーニングにおいて、ゼブラフィッシュなどの小型魚類を使用する場合には、試験化合物による影響を正確に測定するために、小型魚類を飼育する個別水槽の環境(飼育スペースなど)が小型魚類に対して生物学的なストレスを与えない十分な容量を持つことも重要な要件となる。
【0004】
ゼブラフィッシュなどの小型魚類は、一般的に群れを形成して成育することが知られている。小型魚類における群れ集団は階層性であり、同じ遺伝学的背景をもった系統であっても、群れの中で飼育した場合には集団の中での個体差が必ず生じる。医薬品開発研究においては、このような小型魚類の集団飼育に起因して発生する個体差が、薬物による影響を正確に測定することに対して深刻な阻害因子となる。一方、群れて生育することを特徴とする小型魚類では孤立して飼育することが個々のゼブラフィッシュにとっては群れを離れた孤独感からのストレスがかかることになり、このような生物学的な負荷がかかった条件下で新薬候補化合物を評価することは医薬品開発研究にとっては望ましい環境であるとは言えない。このためゼブラフィッシュの個別飼育に必要な項目としては、「群れを意識させる構造」も重要な要素となる。
さらに、個別水槽において水流を起こすことは、ゼブラフィッシュが水流に逆行して泳ぐという特徴から重要な因子となる。
【0005】
以上のような考察から、医薬品開発における新薬化合物スクリーニングなどの薬物評価を行うために適用するゼブラフィッシュの飼育用水槽には、ゼブラフィッシュをストレス無く個別飼育するための最小限のサイズを確保しつつ、ゼブラフィッシュに群れからはぐれたという孤独感を持たせず、水流に対して逆行して泳ぐことで健全な成長を可能とする泳動パターンを保証することが必須条件となる。
【特許文献1】特開2004−89027号公報
【非特許文献1】Westerfield, M. (1995). The zebrafish book: A guide for the laboratory use of zebrafish Danio rerio. Eugene, OR.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、医薬品などの開発において使用される実験用の小型魚類に、飼育環境によるストレス・生体への影響の個体差を最小限に抑える目的で、個別に飼育する小型水槽等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、さまざまなサイズの小型水槽を製作し、小型魚類として遺伝学的背景の同じゼブラフィッシュを1尾ずつ飼育、体重・体長・体幅の測定、および行動量の評価を行うことで個別飼育した場合に、生物学的なストレスを与えない飼育空間の大きさを決定することによって課題の解決を実現した。
本発明は、実験用の小型魚類を個別に飼育する小型水槽であり、飼育過程で小型魚類に対して生物学的ストレスを与えないことを特徴とする。本発明を適用する小型魚類としては、研究用に一般的に用いられているメダカ、ゼブラフィッシュなどが想定される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、小型魚類を用いて、医薬品候補化合物、食品成分、生理活性物質などの作用評価に使用するための小型個別水槽、及びこの水槽を用いた小型魚類機能評価システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。また、本発明の技術的範囲は、均等の範囲にまで及ぶものである。
実験用の小型魚類として多くの研究者に使用されているゼブラフィッシュ(属名Danio、例えばDanio rerio)とは、インド原産の体長 3 cm ほどの小型の熱帯魚であり、コイ目コイ科ダニオ亜科(ラスボラ亜科、ハエジャコ亜科とも)に属し、オイカワ、コイや金魚などに近い。成体の体表に紺色の横じまをもつことから、シマウマにみたててこの名がある。飼育、繁殖が容易な魚で、流通価格も安く、観賞魚としてよく飼われている。
【0010】
ゼブラフィッシュの体重は、生育環境にもある程度左右されるが、受精後2ヶ月で0.15g〜0.22g、受精後3ヶ月で0.2g〜0.3g、受精後6ヶ月で0.35g〜0.55g、受精後10ヶ月で0.45g〜0.6g程度である。受精後3ヶ月で産卵可能な成体となり、受精後6ヶ月程度で良好な産卵期を迎える。受精後10ヶ月程度で産卵期が終了する。平均寿命は、受精後2年〜3年程度、最長でも5年程度と報告されている。ゼブラフィッシュは魚類であるが、主要臓器・組織の発生・構造などはヒトと良く似ており、各パーツ(臓器など)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できる。
【0011】
受精後48時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がったときには、体長は2ミリ以下であるため、96ウエルプレートなどの小スペースで取り扱うことができる。したがって、モデル動物全体への影響を指標とした新薬候補化合物スクリーニングへの適用が可能であり、既にゼブラフィッシュを用いる新薬候補化合物のスクリーニングが商業的に実施されている。また、ゼブラフィッシュの全ゲノムも解読されており(Sanger Institute)、遺伝子発現プロファイルの分析も可能である。以下、ゼブラフィッシュを実験用の小型魚類として用いる場合を例に説明を行うが、本発明は実験用に用いられる小型魚類全般に適用可能なものであり、ゼブラフィッシュへの適用に限定されるものではない。
【0012】
医薬品の開発にゼブラフィッシュを実験用小形魚類として用いる場合には、稚魚を用いた新薬候補化合物の評価に加え、成魚個体を用いた薬物評価も行われている。これは、人間における疾患の大部分が加齢製疾患や代謝性疾患であることから、そのことを反映してゼブラフィッシュ成魚個体での薬物の評価が重要視されているためである。
ゼブラフィッシュ成魚の定義は、交配可能となる受精後3ヶ月以降である。受精後3ヶ月のゼブラフィッシュは、約2.5cmである。この段階では、約2リットルの水を含む水槽に対して、10尾の成魚を入れ飼育する。飼育水はカルキ抜きした水道水や、インスタントオーシャン含有水などが一般的である。これらの水槽を大型の水循環システムに接続し、まとめて水管理することが一般的である。
【0013】
本発明における小型個別水槽は、個別飼育を行うものであるが、群れ行動をするゼブラフィッシュの心理的ストレスを緩和するため、その素材はガラス、アクリル樹脂など透明なものを使用することが好ましい。また、小型個別水槽の形状は、ゼブラフィッシュの泳動パターンを阻害せず、運動負荷実験に応用できるものであれば良く、例えば底面が三角形・四角形・五角形・六角形などの角柱状、底面が円形・楕円形のものなどが含まれるが、これらのうち円筒形状であることが好ましい。
【0014】
本発明において、特に小型個別水槽の大きさに制限はないが、ゼブラフィッシュが成魚となりその寿命を全うするまでに起こる体長変化に十分に対応することを考慮して、水深は2cm以上、底面の直径は5cm〜12cmの形状とすることが好ましい。
【0015】
小型個別水槽には、給餌口、給水口、及び排水口を設けることが好ましい。給餌口については、ゼブラフィッシュの飛び出しを防止するため、小型個別水槽の上面あるいは側面に設定する。このとき、給餌口の大きさは、ゼブラフィッシュの逸脱を防ぐため、円形の場合、直径が0.5cm以下とすることが望ましい。給餌は一定量を投与する目的で、ピペットなどで投与する。一般的なものとして、生餌にはブラインシュリンプ(アルテミア)、乾燥餌としてはテトラミンなどを飼育水に混濁して投与する。給水口及び排水口の大きさは、水流によって決定することが好ましい。例えば、小型個別水槽をゼブラフィッシュの飼育用として広く用いられているMH型水槽システム(名東水園製)に接続する場合には、同水槽システムに容易に接続できる給水口、排水口の直径とすればよい。給水口にはバルブを設置し、水流量・速度を調節できるようにすることが好ましい。また、給水口には、L字型パイプを装着することにより、水流の向きを調節できるようにすることが好ましい。このようにすれば、小型個別水槽にゼブラフィッシュの運動負荷機能を追加できる。
【0016】
一方、排水口には、適当なメッシュを貼り、魚の逸脱を防ぐ。メッシュの径としては、200μmであると、残餌及び排泄物の流出が良好であることから好ましい。メッシュは、さびに強いステンレス製のもの、或いは操作性が良好なプラスチック製(ポリプロピレン製、フッ素樹脂)のものなどを用いることができる。メッシュを取り外し可能にすることにより、ゼブラフィッシュの成長に応じてメッシュのサイズを変更したり、取り外し及び洗浄、さらに排水口を閉止することも可能となるので好ましい実施形態となる。排水口の位置を上下方向に変更可能として、水深を変化できる構造とすることも望ましい。このような構造は、ゼブラフィッシュの成長に伴って生じる体長の変化に対応して飼育水量を調節することを可能とするため、本発明をより効果的にできる。
【0017】
さらに、小型個別水槽にオーバーフロー型の排水溝を設けることにより、所定位置以上の水深となった場合には、余分な水を水槽外に排出し、水深を一定に保つことができる。
小型個別水槽を透明素材で形成し、円筒形とすることにより、水槽自体がレンズの効果を発揮し、中で飼育しているゼブラフィッシュの形態学的観察を容易にできる。
また、小型個別水槽を透明素材で形成することにより、個別飼育するゼブラフィッシュが、近隣の他のゼブラフィッシュの存在を意識しながら飼育できる。ゼブラフィッシュは、群れをなして成育する特徴を持つことから、透明素材で形成された小型個別水槽を垂直方向に重ねて配置すること、或いは水平方向に配置することが望ましい利用形態となる。複数の小型個別水槽を積み重ねた場合、最上に位置する小型個別水槽以外のものは、直上に位置する小型個別水槽が蓋の役割をするので、重ねて使用できることも本発明の小型個別水槽の特徴の一つである。
【0018】
本発明の小型個別水槽は、ゼブラフィッシュ成魚をスクリーニング対象動物として使用する試験系に有用である。ゼブラフィッシュ成魚の大きさは、3〜4cm程度であり、小さなスペースで大量に飼育することが可能である。また本発明の小型個別水槽を用いることにより、一尾ずつの飼育でも省スペースでの実験が可能となる。
【0019】
各ゼブラフィッシュは個別飼育であるため、被験物質の投与量、給餌量の調節、および残餌の測定が可能である。動物個体を用いた医薬品開発研究における化合物投与スクリーニングにおいて、摂食量、運動量、行動パターンの測定・評価は必要不可欠である。ゼブラフィッシュは、行動パターン解析により人間の高次脳機能のモデル動物になることが報告されており、小型個別水槽を積み重ねることによりグループダイナミクスの解析も可能である。また、ゼブラフィッシュの「水流に逆らって泳ぐ」特徴を活かし、強制運動負荷試験を行うことができる。その他に、近年哺乳類動物では倫理的な側面から問題視されているストレス負荷試験が可能となる。さらに本発明の小型個別水槽に、溶存酸素計を接続することにより、運動量から代謝量を測定することが可能となるなど、医薬品候補化合物がゼブラフィッシュに与える影響を評価するために必要な生体特徴の測定が必要十分に行えることは、本発明の小型個別水槽が持つ優位な特徴の一つである。
【0020】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
<小型個別水槽の構成>
図1及び図2には、小型個別水槽1を示した。小型個別水槽1は、透明素材(例えばアクリル樹脂)により、上面側に開口12を備えた略円筒形状に形成されている。小型個別水槽1は、底面2が直径5cm〜13cmの円形状とされている。具体的には、直径が5cm、7cm、9cm、及び13cmのものをそれぞれ複数個製造した。小型個別水槽1の側壁3には、底面2の中心に対して、ほぼ対向する位置に給水口4と、排水口5が開放されている。給水口5は、図2に示すように、側壁3の底面2に近い位置に開放されており、ここには200μmのメッシュが設けられている。また、給水口4は、側壁3の高い位置に開放されており、ここには一端側を大型水槽システム(図8に示す)に接続したパイプ7が取り付けられている。また、パイプ7の他端側には、L字パイプ6が設けられており、ここが小型個別水槽1の内部に位置している。L字パイプ6は、図1中の矢印A方向に所定量の水を放出する。また、パイプ7の途中には、流水量調節バルブ8が設けられており、流水量を適当に調節することができる。
【0021】
また、側壁3には、給餌口9が給水口4とほぼ同じ高さ位置か、僅かに上方位置に開放されており、ここから例えばピペット等により所定量の餌を投入可能とされている。給餌口9の大きさは、ゼブラフィッシュZの脱出を防止するため、径が0.5cmの円形状とされている。
側壁3において、排水口5の上方には、円周方向に沿って、排水溝10が設けられている。この排水溝10は、小型個別水槽1の水深が所定位置(図2中に点線で示す位置)以上となった場合に、余分な水を水槽外に排出することで、水深を一定に保つことができる。
【0022】
小型個別水槽1の上面側には、開口12を閉止する蓋体11が設けられている。蓋体11は、小型個別水槽1と同じ透明素材によって形成されている。なお、小型個別水槽1の底部は、開口12を閉止する蓋の役目を果たすように形成されており、図3に示すように、複数個の小型個別水槽1を積み重ねた場合には、最上部に位置する小型個別水槽1のみに蓋体11を設ければ済むようになっている。
こうして小型個別水槽1の内側には、ゼブラフィッシュZの個別飼育に必要とされる最小限の飼育空間が備えられている。
【0023】
<小型個別水槽における強制運動負荷装置>
図4及び図5には、小型個別水槽1に強制運動負荷装置29(以下、負荷装置という)を設けたときの様子を示した。負荷装置29は、小型個別水槽1の内部において、ゼブラフィッシュZが水流に逆らって泳がざるを得ない状況を作り出すものである。底面2の中央には、透明な材質(例えば、小型個別水槽1と同じアクリル樹脂など)から形成された円筒状の筒体20が設けられており、この筒体20の外壁面24と側壁3との間には、ゼブラフィッシュZの移動を規制する小孔を備えた3個の区画壁21,22,23が設けられている。外壁面24と側壁3との間の距離は、約1.5cm〜2cmとされている。また、区画壁21,22,23の小孔径は、約5mm程度とされている。ゼブラフィッシュZは、外壁面24と2個の区画壁22,23とで囲まれた運動空間Bの内部のみを移動可能とされている。ここで、給水口4に設けられたL字パイプ6から所定量の水を流すことにより、矢印A方向に所定の水流が発生する。すると、運動空間B内のゼブラフィッシュZは、習性に従って、水流に逆らって、主として図4に示す態様(すなわち、頭を水流の上流方向に、尾を水流の下流方向に位置した態様)で泳ぐことになる。こうして、小型個別水槽1の内部に強制運動負荷装置29が構成される。
【0024】
<実施例1> 小型個別水槽のサイズによる体長・体重への影響
ゼブラフィッシュ(AB系統)の成魚飼育方法はTHE ZEBRAFISH BOOK(by Monte Westerfield, Institute of Neuroscience, University of Oregon)に従った。受精後3ヶ月の段階まで集団飼育したものを使用した。
上記のように形成された円筒形の小型個別水槽の底面直径及び水深が異なる12種類のものを用意した。すなわち、タイプ番号(底面直径(cm),水深(cm))の組合せとして、タイプ1(5,2)、タイプ2(5,3)、タイプ3(5,4)、タイプ4(7,2)、タイプ5(7,3)、タイプ6(7,4)、タイプ7(9,2)、タイプ8(9,3)、タイプ9(9,4)、タイプ10(13,2)、タイプ11(13,3)、及びタイプ12(13,4)の12種類とした。
【0025】
上記各タイプの小型個別水槽を5個ずつ(計60個)用意し、それぞれの小型個別水槽にゼブラフィッシュを1尾ずつ飼育し、体長、体重、及び体幅を定期的に測定した。同じ底面直径及び水深を備えた5個の小型個別水槽は、上下方向に2個と3個とを積み重ねたものを横並びに設置し、飼育されているゼブラフィッシュに対して群れ行動を意識させた。比較対象(コントロール)として、2L水槽にゼブラフィッシュを10尾入れたものを使用した。
餌として、乾燥餌(HIKARI CREST GUPPY)または、生餌(ブラインシュリンプ:学名アルテミア)を与えた。乾燥餌の場合には、1回あたり5mg〜10mgとし、一日あたり2〜3回与えた。また、生餌は、前日から卵を2.5%の塩水に入れ、孵化させて投与した。投与量は、1回あたり卵重量として20mg〜30mgとし、1日あたり2〜3回を与えた。
【0026】
実験飼育開始から1週間の時点で、小型個別水槽のサイズにより、体重増加量に変化が認められた。比較対象群に最も近いのは、直径5cm〜9cmの小型個別水槽であった。また、直径が7cmまたは9cmであれば、水深2cm以上であれば、比較対照群との間に変化は認められなかった。また、直径5cmの小型個別水槽では、水深3cm以上において比較対照群との間に変化は認められなかったものの、ゼブラフィッシュ間の体重増加の個体差が大きくなる傾向が認められた。
飼育開始後3週間において、比較対象群の体長増加平均値は約1.5mmであった。体重増加の結果と同様に、直径5cm以上の小型個別水槽で比較対象群と同程度の成長が認められた。
【0027】
実験飼育開始から50日まで継続飼育し、ゼブラフィッシュの体重、体長、及び体幅の測定を行った。体長増加は、比較対象群と比べ、いずれの小型個別水槽群でも差は認められなかった。一方、図6に示すように、体重増加量については、小型個別水槽の底面直径及び水深により、変化が認められた。タイプ2(直径5cm,水深3cm)からタイプ9(直径9cm,水深4cm)については、比較対象群と同様の体重増加が認められたことから、正常な成長が行われていると考えられた。また、タイプ1(直径5cm,水深2cm)では、非常に大きな体重増加が認められ、自発的運動量の減少が観察された。なお、体幅については、体重増加と一定の相関が得られた。
【0028】
<実施例2> 小型個別水槽の設置数による体長・体重への影響
ゼブラフィッシュ(AB系統)の成魚飼育方法はTHE ZEBRAFISH BOOK(by Monte Westerfield, Institute of Neuroscience, University of Oregon)に従った。受精後3ヶ月の段階まで集団飼育したものを使用した。タイプ4(直径7cm,水深2cm)の小型個別水槽の10個について、それぞれ1尾ずつ飼育し、体長、体重、及び体幅を定期的に測定した。10尾を5尾ずつの2群に分け、一方は、ゼブラフィッシュの群行動を意識した5個積み重ねた飼育群(5個設置タイプ)とし、他方は、小型個別水槽の周囲を暗幕で囲い外部が見えないようにした1個設置の飼育群(1個設置タイプ)として比較検討した。
【0029】
図7には、実験飼育開始から2週間の時点における体重増加率を示した。5個設置タイプと比較すると、1個設置タイプでは、体重増加の減少が認められた。また、データは示さないが、自発的運動量も、5個設置タイプに比較して、1個設置タイプでは低下する傾向が認められた。これらのデータより、ゼブラフィッシュの飼育においては、他の魚が見える環境での飼育が必要不可欠だと考えられた。
【0030】
<機能評価システム>
上記小型個別水槽1を使用して、次のような小型魚類の機能評価システム40を構築することができる。
図8には、小型個別水槽1を備えた小型魚類の機能評価システム40の構成概要を示した。複数の小型個別水槽1は、それぞれ大型水槽システム37(例えば、MH型水槽システム)に接続されている。各小型個別水槽1には、内部の小型魚類Fの行動を撮すCCDカメラ34が設けられている。CCDカメラ34からの信号は、撮影中の画像を視認可能なモニタ35と、測定装置33に出力される。測定装置33では、CCDカメラ34からのデータを記録し、小型魚類Fの運動量または行動パターンの解析を行うことができる。そのような測定装置33として、例えば特開2004−89027号公報に開示されたものを用いることができる。
【0031】
また、小型個別水槽1の給餌口9には、適当量の給餌を行うと共に、所定量の薬物を投与可能な調節装置31が設けられている。更に、流水量調節バルブ8を調節することで、給水口4からの水量を変化させる水量調節装置38が設けられている。また、排水口5には、ここから排出される残餌量を測定する残餌量測定装置32が設けられている。
こうして、機能評価システム40には、小型個別水槽1と、小型魚類Fに対して適当量の給餌及び所定量の薬物を投与できる調節装置31(給餌装置)と、残餌量測定装置32と、給水口4からの水量を所定量に増加させることにより小型魚類Fに対して強制的に運動を負荷する強制運動負荷装置29と、小型魚類Fの運動量または行動パターンの測定装置33とが備えられている。
このようにして構成した機能評価システムにおいては、小型魚類Fを飼育しつつ、医薬品候補化合物、食品成分、生理活性物質などを小型魚類Fに投与し、このとき小型魚類Fの運動量または行動パターンに与える変化を観察することができる。
このように本実施形態によれば、小型魚類Fを用いて、医薬品候補化合物、食品成分、生理活性物質などの作用評価に使用するための小型個別水槽1、及びこの水槽を用いた小型魚類機能評価システムを提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】小型個別水槽の平面図である。
【図2】小型個別水槽の側面図である。
【図3】小型個別水槽を積み重ねたときの側面図である。
【図4】強制運動負荷装置を設けた小型個別水槽の平面図である。
【図5】強制運動負荷装置を設けた小型個別水槽の側面図である。
【図6】ゼブラフィッシュをタイプ1〜タイプ12の小型個別水槽で50日間飼育した後の体重増加を示すグラフである。
【図7】ゼブラフィッシュを1個設置タイプまたは5個設置タイプで2週間飼育した後の体重増加への影響を示すグラフである。
【図8】小型魚類の機能評価システムの構成を示す概要図である。
【符号の説明】
【0033】
1…小型個別水槽
4…給水口
5…排水口
29…強制運動負荷装置
31…調節装置(給餌装置)
32…残餌量測定装置
33…運動量または行動パターン測定装置
37…大型水槽システム
40…機能評価システム
F…小型魚類
Z…ゼブラフィッシュ(小型魚類)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小型魚類を用いた研究開発に使用する小型個別水槽であって、
個別飼育に必要とされる最小限の飼育空間と飼育水量と給水口と排水口とが備えられており、小型魚類に対して生物学的なストレスを与えることなく成長が可能であると共に、薬物に対する生理的反応の個体差を最小限に抑えられることを特徴とする小型個別水槽。
【請求項2】
透明の素材により成形されており、水深が2cm以上、底面の内径が5cm〜12cmであることを特徴とする請求項1に記載の小型個別水槽。
【請求項3】
前記排水口の位置を上方または下方に変化させることで水深が可変とされており、飼育空間を前記小型魚類の成長に合わせて変動できることを特徴とする請求項1または2に記載の小型個別水槽。
【請求項4】
垂直方向に積み重ね可能とされていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の小型個別水槽。
【請求項5】
薬物投与量および給餌量の調節装置、並びに残餌量の測定装置を装着できることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の小型個別水槽。
【請求項6】
前記小型魚類の運動量または行動パターンの測定装置、および強制運動負荷装置を装着できることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の小型個別水槽。
【請求項7】
大型水槽システムに接続できることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の小型個別水槽。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の小型個別水槽を用いた生理活性物質の機能評価システム。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の小型個別水槽と、前記小型魚類に対して適当量の給餌を行う給餌装置と、前記排水口から排出される残餌量を測定する残餌量測定装置と、前記給水口からの水量を所定量に増加させることにより前記小型魚類に対して強制的に運動を負荷する強制運動負荷装置と、前記小型魚類の運動量または行動パターンの測定装置とを備えたことを特徴とする小型魚類機能評価システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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