説明

小径超硬エンドミル

【課題】底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルにおいて、剛性や機械的強度を向上させるとともに、傾斜面の追い込み加工にも好適に用いられるようにする。
【解決手段】刃部14に連続して第1テーパ部30および第2テーパ部32が設けられるとともに、第2テーパ部32のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、そのテーパ半角β2に対する第1テーパ部30のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、且つその第1テーパ部30の長さ寸法L2は底刃22の外径Dに対して7D未満である。これにより、所定の剛性および機械的強度が得られるとともに、径寸法の急な変化による応力集中が抑制され、工具の撓み変形や折損が抑制される一方、第1テーパ部30のテーパ半角β1が小さく維持され、追い込み加工が可能な傾斜面の傾斜角度や高さの許容範囲が拡大される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小径超硬エンドミルに係り、特に、工具の撓み変形や折損を抑制して加工精度および耐久性を向上させるとともに、傾斜面の追い込み加工にも好適に用いられる小径超硬エンドミルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金にて構成されているとともに、底刃および外周刃を有する刃部がシャンクの先端側に同軸に一体に設けられており、且つその底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルが提案されている。特許文献1に記載のエンドミルはその一例で、シャンクの先端側には、径寸法が直線的に小さくなる第1テーパ部と、径寸法が一定の首部と、径寸法が直線的に小さくなる第2テーパ部と、を介して小径の刃部が一体に設けられている。
【0003】
また、特許文献2は、底刃の外径Dが0.5mm以上のエンドミルに関するものであるが、(a) 前記刃部の後端からシャンク側へ向かって連続して設けられるとともに、その刃部の後端と同じ外径からテーパ半角(テーパ角度の1/2)β1で径寸法が直線的に大きくなる第1テーパ部と、(b) その第1テーパ部とシャンクとの間に設けられるとともに、その第1テーパ部の後端と同じ外径から前記テーパ半角β1よりも大きいテーパ半角β2で径寸法が直線的に大きくなってシャンクに達する第2テーパ部と、を備えている。このような2段階テーパのエンドミルにおいては、第1テーパ部のテーパ半角β1を小さくすることにより、傾斜面の追い込み加工にも好適に用いられる。傾斜面の追い込み加工とは、目的とする傾斜面に沿ってエンドミルをステップ的に移動(前進)させながら、その傾斜面を切削加工するもので、傾斜した側壁面や溝の内壁面の加工などに用いられている。
【特許文献1】特開2006−88229号公報
【特許文献2】特開2004−202646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の小径超硬エンドミルは、シャンクから刃部の先端までの突出寸法が大きくなるため、剛性や機械的強度を確保することが困難で、切削加工時に撓み変形や折損が生じ易く、十分な加工精度や耐久性が得られ難いばかりでなく、刃部の研削加工時やホルダに装着する際の段取り時等にも折損する可能性があり、取り扱いが容易でなかった。
【0005】
これに対して、特許文献2に記載の小径超硬エンドミルは、第2テーパ部のテーパ半角β2が比較的大きい(図面では約40°)ため、シャンクから刃部の先端までの突出寸法が短くなるが、第1テーパ部のテーパ半角β1が小さい(実施例では1°30′)ため、刃部の外径Dが0.5mm以下の小径の超硬エンドミルにおいては、その第1テーパ部の径寸法も小さくなり、十分な剛性や強度が得られ難い。また、第1テーパ部に対して第2テーパ部のテーパ半角β2が極端に大きくなっているため、それ等の第1テーパ部と第2テーパ部との境界部分では径寸法の急な変化で応力集中が生じ易く、刃部の外径Dが0.5mm以下の小径の超硬エンドミルにおいては、その応力集中による折損が問題になる。
【0006】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルにおいて、工具の撓み変形や折損を抑制して加工精度および耐久性を向上させるとともに、刃部の研削加工時や段取り時等の取り扱いを容易にする一方、傾斜面の追い込み加工にも好適に用いられるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するために、第1発明は、超硬合金にて構成されているとともに、底刃および外周刃を有する刃部がシャンクの先端側に同軸に一体に設けられており、且つその底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルであって、(a) 前記刃部の後端から前記シャンク側へ向かって連続して設けられるとともに、その刃部の後端と同じ外径からテーパ半角β1で径寸法が直線的に大きくなる第1テーパ部と、(b) その第1テーパ部の後端から前記シャンク側へ向かって連続して設けられるとともに、その第1テーパ部の後端と同じ外径から前記テーパ半角β1よりも大きいテーパ半角β2で径寸法が直線的に大きくなる第2テーパ部と、を備えており、且つ、(c) 前記第2テーパ部のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、そのテーパ半角β2に対する前記第1テーパ部のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、その第1テーパ部の長さ寸法L2は前記底刃の外径Dの7倍未満であることを特徴とする。
【0008】
第2発明は、第1発明の小径超硬エンドミルにおいて、前記第2テーパ部と前記シャンクとの間には、その第2テーパ部の後端に滑らかに接続されるとともに、軸方向の外形線が凹円弧状となるように径寸法が非線形に増大させられてそのシャンクの先端外周縁に達している凹円弧形状部が設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
このような小径超硬エンドミルにおいては、刃部に連続して第1テーパ部および第2テーパ部が設けられているとともに、第2テーパ部のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、そのテーパ半角β2に対する第1テーパ部のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、且つその第1テーパ部の長さ寸法L2は底刃の外径Dに対して7D未満であるため、テーパ半角β2が比較的大きい第2テーパ部の存在で剛性や機械的強度が向上するとともに、第1テーパ部のテーパ半角β1は2.5°以上、10°未満になり、且つ長さ寸法L2は7D未満であるため、テーパ半角β1を比較的小さく維持しつつ所定の剛性および機械的強度を確保することができる。また、第1テーパ部のテーパ半角β1は2.5°以上、10°未満であることから、その第1テーパ部と刃部14との境界部分における径寸法の急な変化による応力集中が抑制されるとともに、第1テーパ部のテーパ半角β1と第2テーパ部のテーパ半角β2の角度割合β1/β2が0.5以上、1.0未満で、そのテーパ半角β1、β2の差が比較的小さいため、それ等の境界部分における径寸法の急な変化による応力集中も抑制される。
【0010】
このように、第1テーパ部および第2テーパ部では所定の剛性および機械的強度が得られるとともに、第1テーパ部と刃部との境界部分や第1テーパ部と第2テーパ部との境界部分における応力集中も抑制されるため、底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルにおいても工具の撓み変形や折損が抑制され、切削加工時に高い加工精度が得られるとともに耐久性が向上する一方、刃部の研削加工時やホルダに装着する際の段取り時等における折損も抑制されて、取り扱いが容易になる。また、第1テーパ部のテーパ半角β1が比較的小さく維持されるため、そのテーパ半角β1や第1テーパ部の長さ寸法L2に応じて、追い込み加工が可能な傾斜面の傾斜角度や高さの許容範囲が拡大される。
【0011】
第2発明では、第2テーパ部とシャンクとの間に凹円弧形状部を備えているため、径寸法の急な変化による応力集中を防止しつつシャンクから刃部の先端までの突出寸法を短くすることが可能で、シャンクから刃部までの剛性や機械的強度を全体的に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の小径超硬エンドミルは、底刃の外径Dが0.5mm以下であれば良く、その外径Dと同じ一定の径寸法の外周刃を備えているストレート刃のエンドミルや、径寸法が外径Dから直線的に大きくなるテーパ刃エンドミルに好適に適用されるが、底刃が半球面上に設けられているボールエンドミルなどの他のエンドミルにも適用され得る。本発明は外径Dが0.1mm以下のエンドミルに好適に適用される一方、外径Dが0.5mmより大きいエンドミルについても、本発明と同様に構成することが可能である。
【0013】
刃部には、切り屑排出用の溝が形成され、その溝に沿って外周刃が設けられるとともに、その外周刃に連続するように底刃が設けられる。溝としてはねじれ溝が望ましいが、加工が容易な直溝を採用することもできる。溝数すなわち刃数は、極めて小径であることから2本(2枚刃)が適当であるが、1本(1枚刃)または3本(3枚刃)以上とすることも可能である。
【0014】
第2テーパ部のテーパ半角β2が20°以上になると、第1テーパ部との境界や、その第1テーパ部と刃部との境界部分で径寸法が急に変化し、応力集中により折損が生じ易くなるため、テーパ半角β2は20°未満にする必要があり、18°以下、更には15°以下が望ましい。逆にテーパ半角β2が5°未満になると、第2テーパ部の径寸法が小さいとともにシャンクから刃部までの突出寸法が大きくなって剛性や機械的強度が低下するため、テーパ半角β2は5°以上にする必要がある。
【0015】
テーパ半角β1とβ2の角度割合β1/β2を1以上にすると、第1テーパ部のテーパ半角β1が大きくなり、刃部と第1テーパ部との境界部分で径寸法が急に変化して応力集中が生じたり、追い込み加工が可能な傾斜面の許容範囲が狭くなったりするため、角度割合β1/β2は1未満にする必要があり、0.8以下が望ましい。逆に角度割合β1/β2が0.5未満になると、第1テーパ部のテーパ半角β1が小さくなって剛性や機械的強度が低下するとともに、テーパ半角β2との差が大きくなって第1テーパ部と第2テーパ部との境界部分で応力集中が生じ易くなるため、角度割合β1/β2は0.5以上にする必要がある。
【0016】
第1テーパ部の長さ寸法L2については、7D以上になると第1テーパ部の剛性や機械的強度が低下して折損し易くなるため、長さ寸法L2は7D未満にする必要がある。なお、この長さ寸法L2は、追い込み加工を行なう傾斜面の高さ寸法等に応じて、7D未満で適宜定められ、例えば3D以上で設定される。
【0017】
第2発明の凹円弧形状部は、例えば軸方向の外形線が一定の半径Rで湾曲させられるように構成されるが、第1発明の実施に際しては、例えばシャンクに向かうに従って曲率が連続的に大きくなるなど、曲率が変化している凹円弧形状部を採用することもできる。凹円弧形状部が一定の半径Rで湾曲させられている場合には、その設計や加工が容易で、高い寸法精度で凹円弧形状部を加工することができる。
【0018】
シャンクは、例えば外径が一定の円柱形状のストレートシャンクが好適に用いられるが、径寸法が直線的に変化しているテーパシャンクを採用することも可能で、少なくとも先端部が円形状を成していれば良い。
【0019】
シャンクから刃部の先端までの突出寸法が大きくなると、剛性や機械的強度が低下するため、例えば前記刃部の底刃と外周刃とを接続しているコーナと前記シャンクの先端外周縁とを結ぶ傾斜直線Sが、中心線Oに対して傾斜する先端半角αが、15°以上になるように、前記第1テーパ部および第2テーパ部を有する径増大部を刃部とシャンクとの間に設けることが望ましい。第2テーパ部とシャンクとの間に、第2テーパ部の後端に滑らかに接続されるとともに軸方向の外形線が一定の半径Rで湾曲する凹円弧形状部を備えている場合には、所定の長さ寸法の第1テーパ部および第2テーパ部を確保する上で、先端半角αが35°以下の範囲で径増大部を構成することが望ましい。
【0020】
シャンクの先端部の外径dは、そのシャンクを把持するホルダの規格等に応じて適宜定められる一方、シャンクから刃部の先端までの突出寸法L3は、前記先端半角αおよびシャンクの外径dに応じて定まり、例えばd≒4mmで、先端半角α≒15°であれば、突出寸法L3は7.4mm程度になり、突出寸法L3が7.4mm以下になるように径増大部を構成するようにしても良い。d≒5mmで、先端半角α≒15°であれば、突出寸法L3は9.3mm程度になり、d≒10mmで、先端半角α≒15°であれば、突出寸法L3は18.6mm程度になるが、剛性や機械的強度は突出寸法L3が大きくなるのに伴って低下するため、シャンクの外径dが大きくなるに従って前記先端半角αを大きくすることが望ましい。例えば、シャンクの先端部の外径dの大きさに拘らず、突出寸法L3が所定値(例えば7.4mm)以下になるように先端半角αを設定するようにしても良い。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である2枚刃の小径超硬エンドミル10を示す図で、(a) は中心線Oと直角方向から見た拡大正面図、(b) は先端部分を更に拡大して示す正面図、(c) は刃部14および第1テーパ部30付近を更に拡大して示す正面図、(d) は刃部14を更に拡大して示す正面図である。この小径超硬エンドミル10は、超硬合金にて構成されているとともに、円柱形状のシャンク(ストレートシャンク)12と、そのシャンク12の先端側に設けられた刃部14と、それ等の間の径増大部16とが、共通の中心線O上に一体に設けられている。刃部14は、ストレート刃のエンドミルとして機能するもので、径増大部16の先端部分すなわち第1テーパ部30に達するように一対のねじれ溝18が砥石による研削加工によって設けられており、そのねじれ溝18に沿って径寸法が一定の外周刃20が形成されているとともに、軸方向の先端部には、その外周刃20に連続して底刃22が設けられている。底刃22の外径Dすなわち工具径は0.5mm以下で、本実施例では0.05mmであり、刃長L1は0.075mmである。また、シャンク12の外径dは4mmである。
【0022】
前記径増大部16は、刃部14からシャンク12側へ向かうに従って径寸法が連続的に大きくされた部分で、刃部14側から第1テーパ部30、第2テーパ部32、および凹円弧形状部34を備えている。第1テーパ部30は、刃部14の後端と同じ外径(底刃22の外径D)からテーパ半角β1で径寸法が直線的に大きくなるテーパ形状(截頭円錐形状)を成しており、刃部14の後端に連続して設けられている。第2テーパ部32は、第1テーパ部30の後端と同じ外径から上記テーパ半角β1よりも大きいテーパ半角β2で径寸法が直線的に大きくなるテーパ形状(截頭円錐形状)を成しており、第1テーパ部30の後端に連続して設けられている。また、凹円弧形状部34は、第2テーパ部32とシャンク12との間に設けられており、第2テーパ部32の後端に滑らかに接続されるとともに軸方向の外形線が凹円弧状となるように径寸法が非線形に増大させられてシャンク12の先端外周縁に達している。この凹円弧形状部34の軸方向の外形線は、一定の半径Rで湾曲させられており、第2テーパ部32との境界(接続部)では円弧の接線が第2テーパ部32の外周面(テーパの母線)と一致している。
【0023】
上記第1テーパ部30、第2テーパ部32、および凹円弧形状部34は、底刃22と外周刃20とを接続しているコーナC1とシャンク12の先端外周縁C2とを結ぶ傾斜直線Sが、中心線Oに対して傾斜する先端半角αが、15°〜35°の範囲内となるように構成されている。また、第2テーパ部32のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、そのテーパ半角β2に対する第1テーパ部30のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、第1テーパ部30の長さ寸法L2は底刃22の外径Dの7倍未満である。本実施例では、第1テーパ部30のテーパ半角β1=5°、第2テーパ部32のテーパ半角β2=10°、凹円弧形状部34の半径R=3mm、第1テーパ部30の長さ寸法L2=0.15mm=3Dで、先端半角αが25°となるように設計されており、シャンク12から刃部14の先端までの突出寸法L3は約4.3mmである。
【0024】
このような本実施例の小径超硬エンドミル10によれば、刃部14に連続して第1テーパ部30および第2テーパ部32が設けられているとともに、第2テーパ部32のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、そのテーパ半角β2に対する第1テーパ部30のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、且つその第1テーパ部30の長さ寸法L2は底刃22の外径Dに対して7D未満であるため、テーパ半角β2が比較的大きい第2テーパ部32の存在で剛性や機械的強度が向上するとともに、第1テーパ部30のテーパ半角β1は2.5°以上、10°未満となり、且つその長さ寸法L2は7D未満であるため、テーパ半角β1を比較的小さく維持しつつ所定の剛性および機械的強度を確保することができる。また、第1テーパ部30のテーパ半角β1は2.5°以上、10°未満であることから、その第1テーパ部30とストレートの刃部14との境界部分における径寸法の急な変化による応力集中が抑制されるとともに、第1テーパ部30のテーパ半角β1と第2テーパ部32のテーパ半角β2の角度割合β1/β2が0.5以上、1.0未満で、そのテーパ半角β1、β2の差が比較的小さいため、それ等の境界部分における径寸法の急な変化による応力集中も抑制される。
【0025】
このように、第1テーパ部30および第2テーパ部32では所定の剛性および機械的強度が得られるとともに、第1テーパ部30と刃部14との境界部分、および第1テーパ部30と第2テーパ部32との境界部分における応力集中が共に抑制されるため、底刃22の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルにおいても工具の撓み変形や折損が抑制され、切削加工時に高い加工精度が得られるとともに耐久性が向上する一方、刃部14の研削加工時やホルダに装着する際の段取り時等における折損も抑制されて、取り扱いが容易になる。
【0026】
また、第1テーパ部30のテーパ半角β1が比較的小さく維持されるため、そのテーパ半角β1や第1テーパ部30の長さ寸法L2に応じて、追い込み加工が可能な傾斜面の傾斜角度や高さの許容範囲が拡大される。図2は、傾斜した側壁面或いは溝の内壁面を構成する傾斜面40の追い込み加工を説明する図で、第1テーパ部30の存在で比較的高い急な傾斜面40を、その傾斜面40に沿って小径超硬エンドミル10を所定の切込み寸法で前進させながら追い込み加工することができるが、二点鎖線で示すように第1テーパ部30を設けることなく第2テーパ部32を刃部14に連続して直接設けた場合には、その第2テーパ部32が傾斜面40の上端部と干渉して追い込み加工が不可になる。一方、第2テーパ部32を設けることなく第1テーパ部30を延長した場合には、テーパ半角β1が小さいとともに径寸法が小さいため、剛性や機械的強度が十分に得られない。
【0027】
また、本実施例では第2テーパ部32とシャンク12との間に凹円弧形状部34を備えているため、径寸法の急な変化による応力集中を防止しつつシャンク12から刃部14の先端までの突出寸法を短くすることが可能で、シャンク12から刃部14までの剛性や機械的強度を全体的に向上させることができる。本実施例では先端半角αが15°以上になるように上記凹円弧形状部34および前記第1テーパ部30、第2テーパ部32から成る径増大部16が構成されているため、シャンク12から刃部14の先端までの突出寸法L3が小さくなり、刃部14を含む突出部分の機械的強度や剛性が高くなって工具の撓み変形や折損が抑制される。
【0028】
また、凹円弧形状部34が一定の半径Rで湾曲させられているため、その設計や加工が容易で、高い寸法精度で凹円弧形状部34を加工することができる。
【0029】
また、先端半角αが35°以下とされているため、追い込み加工の可能範囲を拡大したり径寸法の急な変化による応力集中を防止したりする第1テーパ部30および第2テーパ部32として所定長さを確保しつつ、一定の半径Rの凹円弧形状部34によってシャンク12と同じ外径dまで径寸法を滑らかに増大させることができる。
【0030】
図3は、前記先端半角αを種々変更して、径増大部16を設計した場合の形状を具体的に説明する図で、何れも第1テーパ部30のテーパ半角β1は5°、第2テーパ部32のテーパ半角β2は10°、第1テーパ部30の長さ寸法L2は3Dすなわち0.15mmである。図3の(a) は先端半角α=18°の場合で、半径R=3mmであり、突出寸法L3は約6mmである。(b) は先端半角α=23°の場合で、半径R=3mmであり、突出寸法L3は約4.7mmである。(c) は先端半角α=30°の場合で、半径R=3mmであり、突出寸法L3は約3.4mmである。(d) は先端半角α=37°の場合で、半径R=2.5mmであり、突出寸法L3は約2.6mmである。この(d) では、一応第2テーパ部32が存在するが、その長さ寸法が短く、径寸法の急な変化による応力集中を防止するという第2テーパ部32の効果が必ずしも十分に得られないとともに、半径Rが小さくなって径寸法の変化が大きくなるため、シャンク12の外径dによっても異なるが、先端半角αは35°以下が望ましい。
【0031】
また、図4は、第1テーパ部30のテーパ半角β1、第2テーパ部32のテーパ半角β2、第1テーパ部30の長さ寸法L2が異なる14種類の試験品A〜Nをそれぞれ3本(No1〜No3)ずつ用意し、以下の加工条件で溝切削加工を行なって工具折損までの切削距離(耐久性)を調べた結果を説明する図である。なお、テーパ半角β1、β2、長さ寸法L2以外の工具諸元は同じで、工具径すなわち底刃22の外径D=0.05mm、刃数は2枚、刃長L1=0.075mm、先端半角α=25°、凹円弧形状部34の半径R=3mmである。
《加工条件》
・被削材:プリハードン鋼(HRC40)
・被削材寸法:100mm×30mm、板厚5mm
・回転数:35000min-1
・切込み:0.002mm
・送り:40mm/min
・加工溝形状:長さ100mm、幅0.05mm、深さ0.05mm
・加工方法:長さ100mmの溝を深さ(切込み)0.002mmずつステップ加工
【0032】
図4の切削距離は、ステップ加工の合計切削距離で、例えば切削距離が225mmの場合は、切込み0.002mmで長さ100mmの溝加工を2回行なった後、3回目の溝加工の途中(25mm)で工具が折損したことを意味している。また、評価の欄の「○」は合格、「×」は不合格を意味し、平均切削距離が200mm以上の場合を「○」、200mm未満を「×」とした。
【0033】
図4において網掛けを施した欄は、テーパ半角β2が5°以上、20°未満の範囲から外れているか、角度割合β1/β2が0.5以上、1.0未満の範囲から外れているか、或いは第1テーパ部30の長さ寸法L2が7D未満の範囲を外れている項目である。すなわち、網掛けを施した項目を有する試験品種類C、D、G、K〜Nは何れも比較品で、切削距離が200mmに達する前に工具が折損したのに対し、それ以外の試験品種類A、B、E、F、H〜Jは本発明品で、何れも切削距離が200mmを超えている。
【0034】
また、図5は、先端半角αを10°〜30°の範囲内で変更して溝の加工精度を調べた結果を説明する図である。すなわち、先端半角α=10°、15°、20°、25°、30°の5種類の小径超硬エンドミル10をそれぞれ3本(No1〜No3)ずつ用意し、深さ0.002mmの溝切削加工を行なって溝幅を顕微鏡で測定し、加工前の実際の刃径(外径D)と比較した。加工条件は、前記図4の耐久性試験の時と同じであるが、切込み0.002mmで1回だけ溝加工を行なって溝幅寸法を測定した。また、溝幅および刃径(外径D)を測定する測定顕微鏡の測定精度は0.2μmである。なお、先端半角α以外の工具諸元は同じで、工具径すなわち底刃22の外径D=0.05mm、刃数は2枚、刃長L1=0.075mm、テーパ半角β1=5°、β2=10°、第1テーパ部30の長さ寸法L2=0.15mm(3D)、凹円弧形状部34の半径R=3mmである。
【0035】
図5の結果から明らかなように、先端半角αが15°〜30°の場合は、何れも差の平均が0.001mm以下であったのに対し、先端半角α=10°の場合は、差の平均が0.00377mmで、先端半角α=15°〜30°の場合の3倍以上である。これは、先端半角αが小さくなるに従ってシャンク12からの突出寸法L3が大きくなり、先端半角α=10°の場合には突出寸法L3≒11mmになるため、工具の撓み変形による振れで溝幅が拡大するものと考えられる。なお、評価の欄の「○」は合格、「×」は不合格を意味し、差の平均が0.001mm以下の場合を「○」、0.001mmを超える場合を「×」とした。
【0036】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更,改良を加えた態様で実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明が適用された小径超硬エンドミルを説明する図で、(a) は中心線Oと直角方向から見た拡大正面図、(b) は先端部分を更に拡大して示した正面図、(c) は刃部および第1テーパ部付近を更に拡大して示す正面図、(d) は刃部を更に拡大して示す正面図である。
【図2】図1の小径超硬エンドミルを用いて傾斜面を追い込み加工する場合を説明する断面図である。
【図3】先端半角αを種々変更して径増大部を設計した場合の形状を具体的に示す図で、(a) はα=18°の場合、(b) はα=23°の場合、(c) はα=30°の場合、(d) はα=37°の場合である。
【図4】テーパ半角β1、β2、第1テーパ部の長さ寸法L2が異なる複数種類の試験品を用いて折損までの耐久性を調べた結果を説明する図である。
【図5】先端半角αが異なる複数種類の試験品を用いて加工精度を調べた結果を説明する図である。
【符号の説明】
【0038】
10:小径超硬エンドミル 12:シャンク 14:刃部 20:外周刃 22:底刃 30:第1テーパ部 32:第2テーパ部 34:凹円弧形状部 O:中心線 β1、β2:テーパ半角 D:底刃の外径 L2:第1テーパ部の長さ寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超硬合金にて構成されているとともに、底刃および外周刃を有する刃部がシャンクの先端側に同軸に一体に設けられており、且つ該底刃の外径Dが0.5mm以下の小径超硬エンドミルであって、
前記刃部の後端から前記シャンク側へ向かって連続して設けられるとともに、該刃部の後端と同じ外径からテーパ半角β1で径寸法が直線的に大きくなる第1テーパ部と、
該第1テーパ部の後端から前記シャンク側へ向かって連続して設けられるとともに、該第1テーパ部の後端と同じ外径から前記テーパ半角β1よりも大きいテーパ半角β2で径寸法が直線的に大きくなる第2テーパ部と、
を備えており、且つ、
前記第2テーパ部のテーパ半角β2は5°以上、20°未満で、該テーパ半角β2に対する前記第1テーパ部のテーパ半角β1の角度割合β1/β2は0.5以上、1.0未満で、該第1テーパ部の長さ寸法L2は前記底刃の外径Dの7倍未満である
ことを特徴とする小径超硬エンドミル。
【請求項2】
前記第2テーパ部と前記シャンクとの間には、該第2テーパ部の後端に滑らかに接続されるとともに、軸方向の外形線が凹円弧状となるように径寸法が非線形に増大させられて該シャンクの先端外周縁に達している凹円弧形状部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の小径超硬エンドミル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−771(P2009−771A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−163096(P2007−163096)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(000103367)オーエスジー株式会社 (180)
【Fターム(参考)】