説明

小豆色色付け剤の製造方法

【課題】 機能性成分の多くが残り機能性付加価値が高いばかりでなく、より簡便な製造工程で低コスト、着色性のより小豆色色付け剤を製造する。
【解決手段】 小豆煮汁に酵素を添加して不溶性物質を分離した上澄み液を、膜を用いて機能性成分を多くを残したまま濃縮し、この濃縮液の色素を噴霧またはそれに相当する方法で酸化重合を促進させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾豆を水煮・煮豆・餡に加工する過程で発生する製餡排水から、効率よく製造することのできる小豆色色付け剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品には様々な着色料が使用されており、特に赤飯等を製造する際には、もち米を小豆色に色付けするため、小豆を煮た後の煮汁が着色に広く用いられている。
【0003】
この小豆の煮汁は、小豆を煮る前の浸漬水や、小豆を煮て加工する工程での煮汁の一部が使用されるが、保存性が悪く大部分が廃液として捨てられているのが現状である。
【0004】
また、工場からの排水処理費の発生や環境汚染など、どのような業界においても頭を悩ます問題となっていることから、この廃液を回収し有価物として製品化することは排水処理の負荷を軽減し、公害処理の問題を解決するのに非常に有効である。
【0005】
ところで、この廃液には小豆に含まれるタンニン等の渋味成分が含まれており、カラメル色素やタマリンド色素、コウリャン色素と同系色である。
【0006】
そして、これまでの研究から、小豆の煮汁を用いた色付け剤について、カラメル色素やタマリンド色素と同等かそれ以上の色価を持つ小豆色色付け剤を製造できることが判明している。
【0007】
この色付け剤について、小豆煮汁にキトサンを添加するか、遠心分離を行うことにより、デンプン等の不溶性物質を沈殿させ、その上澄液の水分を蒸発させて濃縮した後に、アルカリ性物質及び鉄剤を加えて70〜100℃の温度で約2時間以上通気しながら加熱し、その後乾燥させて粉末化することを特徴とした製造方法が特許出願されている。
【特許文献1】特願2005−318047
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、これまでの色付け剤の製造方法では、煮汁のロットによって沈殿物の不溶性物質が一定ではないことから、添加するキトサンの量が予想し難く、沈殿条件が安定しないため、より簡便な不溶性物質除去の技術が必要であることが判明した。
【0009】
さらに、従来の製造方法では、上澄液の濃縮に多大なコストと時間がかかかり、大量生産が難しいことから、実製造に向けてエネルギーコストと製造時間の削減が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記の課題を達成するために、小豆煮汁に酵素を添加して不溶性物質を分離した上澄液を、膜を用いて機能性成分の多くを残したまま濃縮し、この濃縮液の色素を噴霧またはそれに相当する方法で酸化重合を促進させることにより、簡便で低コストに、着色性のよい製品を提供することを目的とする。
【0011】
また、前記上澄液の膜濃縮の際、水分及び低分子成分を除去することにより、ポリフェノール等の抗酸化成分の多くを残したまま濃縮する。
【0012】
また、前記濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させる際、アルカリ性物質とともに、鉄剤を加え、噴霧又はそれに相当する空気接触手段をとる。
【0013】
さらに、前記濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させる後に、乾燥粉末化又は液状のままレトルト殺菌機等により殺菌する。
【発明の効果】
【0014】
この発明によると、機能性成分の多くが残り機能性付加価値が高いばかりでなく、より簡便な製造工程で低コストに、着色性のよい小豆色色付け剤が製造できる。
【0015】
しかも、小豆煮汁から得られる天然の色素であるため、合成着色料のように人の健康に悪影響を及ぼさず、安心して使用することができる。
【0016】
また、膜濃縮工程をいれるため、機能性成分である小豆のポリフェノール等の抗酸化物質の多くを残したまま、水分やミネラル、糖質等の低分子成分を除去することができるため、抗酸化成分の濃度を高めながら濃縮することができる。
【0017】
また、濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させる際、アルカリ性物質とともに、鉄剤を加え、噴霧又はそれに相当する空気接触手法をとるので、小豆色が強くなり、着色性が一層増強された製品を得ることができる。
【0018】
さらに、小豆色色付け剤はその形態を濃縮液や粉末状とすることができるため、濃縮液の場合には食品に混ぜやすく汎用性があり特に飲料等には好適であり、粉末状の場合にはごく少量の添加で着色可能であり、袋詰めで保管、流通させることができるなど、非常に使い勝手が良い。
【発明を実施するための最良の手段】
【0019】
本発明に係る製造方法は、主に濃縮工程と発色工程があり、最初に、濃縮工程から説明する。
【0020】
まず、小豆煮汁に酵素を添加して不溶性物質を分離し、分離した上澄液を膜を用いて、機能性成分の多くを残したまま濃縮する。
【0021】
この濃縮液の色素を噴霧またはそれに相当する空気接触方法で酸化重合させることで、簡便で低コストに着色性が良い製品が得られる。
【0022】
この濃縮工程では、膜による濾過濃縮をするが、その場合には、デンプン質やタンパク質、ペクチン質、フィチン質等の成分が煮汁中に存在していると、膜が目詰まりするので、濃縮が困難となり濃縮倍率が高まらないと言う問題が生じる。、また、そのような状態では飲料等の液体食品に添加した際、オリ(沈殿)が発生するという問題があった。
【0023】
その為、小豆煮汁に酵素(ヤクルト薬品工業製の品名ぺクチナーゼHL)及び新日本化学製の品名スミチームPHY)を添加することにより、デンプン質やタンパク質、ペクチン質、フィチン質等の成分を分解し、生じた沈殿を分解除去する。この様な操作により、濃縮効率を上げ、オリの発生を防止する。
【0024】
更に、本発明にかかる製法では、酵素によってデンプンやタンパク質、ペクチン質、フィチン質の成分を分解し、不溶性成分を除去した上澄液を膜濃縮している。
【0025】
この膜濃縮による工程により、機能性成分である小豆のポリフェノールなどの抗酸化性物質を多く残したまま、水分やミネラル、糖質等の低分子成分を除去することができるため、抗酸化成分の濃度を高めながらの濃縮が可能となる。
【0026】
次に、発色工程であるが、この工程では、膜濃縮した濃縮液に、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のいずれかを用いてpHをアルカリにするとともに、乳酸鉄、ヨード鉄シロップ、クエン酸鉄、硫酸鉄等のいずれかの鉄剤を加える。
【0027】
そして、加熱しながら噴霧またはそれに相当する空気接触手法で酸化重合を促進させる。この様な操作により、小豆色が強くなり、着色性がより一層増強された製品を作る事ができる。
【0028】
さらに、これを乾燥して粉末化或いは液状のままレトルト殺菌機等で殺菌する工程により、保存性に優れた製品が得られる。また、粉末状ではごく少量の添加で着色可能となり、また、液状では溶解することなく使用できるので、汎用性のある製品となる。
【0029】
以下、本発明に係る製法を図1を使用しながら詳細に説明する。
【0030】
小豆煮汁は、製餡工場における小豆の渋切り工程で生じた小豆を煮たあとの煮汁を回収したものである。小豆の渋切り工程で生じる煮汁を用いるのは、この煮汁に渋味成分であるポリフェノールが多く含まれているからである。この小豆煮汁にはポリフェノールの他に、デンプン質、タンパク質、脂質、無機塩類などの物質が含まれている。
【0031】
この回収した小豆煮汁に対し、0.005〜0.001%の酵素を加え、4〜5時間攪拌しながら酵素反応を行った。
【0032】
使用した酵素はあらかじめ所定量を水に溶かしている(ヤクルト薬品工業製、品名ぺクチナーゼHL及び新日本化学製、品名スミチームPHY)。
【0033】
その後、静置して小豆煮汁に含有している未分解のデンプン質、繊維質、タンパク質、脂質などの物質を沈殿させ、濾過による上澄液を取り出した。
【0034】
この上澄み液を膜装置により濃縮した後に噴霧装置を付けたタンクに投入し、上澄み液のpH8〜9になるまで、苛成ソーダ(水酸化ナトリウム)を加え、鉄剤として10%硫酸第一鉄・7水塩溶液を鉄含量が、10ppmになるように添加した。
【0035】
次にタンクの底部から上部のスプレー口に濃縮液を送り込んで噴霧循環させ、90〜100℃を維持しつつ3時間以上噴霧して濃縮液に空気を送り込み、酸化重合による発色を促した後、タンクの壁に冷却水を循環させ、20℃前後まで冷却した。
【0036】
冷却後、50メッシュのストレーナーで異物を除去した後、超高温殺菌装置で120℃・20秒間の殺菌(UHT)処理を行った。
【0037】
殺菌した発色液のうち、粉末製品用は400Lをスプレードライヤーに供給し、180℃の熱風により乾燥させて、40kgの粉末状製品を得た。
【0038】
また、液状製品用は、同様に製造した発色液400Lをレトルト用パックに100〜150mlずつ入れ、シールした後、レトルト装置で115℃で90分間殺菌して400kgの液状製品を得た。
【0039】
こうして得られた本発明の小豆色色付け剤の抗酸化性物質等の評価を行った。その評価を以下に示す。この評価は煮汁粉末である。
【0040】
最初に、この煮汁粉末のポリフェノール含有について説明する。
【0041】
図2に示す様に、本発明品の煮汁粉末は、未処理の粉末や旧製法の粉末よりもポリフェノールが多く、また、タマリンドド色素よりもポリフェノール含量が高いため、機能性成分の多くが残っており機能性付加価値が高い。
【0042】
図3は色差計による評価を示し、本発明品である煮汁粉末の明るさ、赤味、黄色味を計測したら、明るさ、赤味、黄色味は市販タマリンドよりも高い。また、未処理の粉末と旧製法の粉末よりも明るさが抑えられ、赤味が強調されている。
図4は色価の評価を示し、本発明品である煮汁粉末をとかした水溶液について、赤色を示す500nmにおける色価を測定すると、他のものと比較し、高い数値となった。
【0043】
アイスクリーム試作
本発明の小豆色付け剤をアイスクリームに添加し、このアイスクリームの色や味について官能テストを行なった。アイスクリームは原料に牛乳80ml、卵黄1個、生クリーム200ml、砂糖20gを使用し市販のアイスクリームメーカーで製造した。
そして本発明の小豆色付け剤を添加したアイスクリームを2種類、添加量0.2重量%
のものと、0.5重量%のものとを作るとともに、何も加えていない無添加のアイスクリームと、暗赤褐色を呈するコチニール色素を0.2重量%の割合で添加したもの、小豆煮汁をバブリングせずに粉末化した小豆煮汁の粉末を1.0重量%の割合で添加したものとの合計五種類のアイスクリームを作り、これら五種類の各アイスクリームを、色や味について10点満点で評価を行なうとともに、色や味の特徴について自由描写した。
【0044】
五種類のアイスクリームを図5に示すとともに、官能テストの結果を図6に示す。
【0045】
図5および図6に示すように、色に関しては無添加のアイスクリームは淡黄色を呈し、コチニール色素を添加したアイスクリームはピンク色を呈し、小豆煮汁の粉末を添加したものは小豆色とは異なった薄い褐色を呈し、本発明の小豆色付け剤を0.2重量%添加したものは小豆色を、0.5重量%添加したものはさらに色も濃く望ましい小豆色を呈した。
【0046】
また、味に関して言えば、無添加のアイスクリームやコチニール色素を添加したものは、甘味が勝って味にくどさが感じられた。
【0047】
小豆煮汁の粉末を添加したアイスクリームは、添加量が多いせいか渋味・苦味が強かった。これに対し本発明の小豆色付け剤を添加したアイスクリームは、甘味がマスキングされマイルドな味わいになっており、特に小豆色付け剤を0.5重量%添加したものでは、甘みからくどさが消え、清涼感のある上品な風味を備えている。
【0048】
このように、本発明の小豆色付け剤は少量で所望の色に着色できるだけでなく、アイスクリームに添加した場合には、高級感および清涼感のある風味を付与することができる。
【0049】
赤飯試作
本発明の小豆色付け剤を赤飯に添加し、この赤飯の色を既存の色素と比較した。赤飯はもち米のみ3合を使用し、市販の炊飯器で製造した。そして本発明の小豆色付け剤を0.05重量%添加した赤飯を作るとともに、市販のコチニール色素を0.05重量%の割合で添加したもの、タマリンド色素を0.05重量%の割合で添加したものとの合計3種類の赤飯を作り、これら3種類の各赤飯の色を比較した。3種類の赤飯を図6に示す。
【0050】
図7に示すように、色に関してはコチニール色素を添加した赤飯はピンク色を呈し、タマリンド色素を添加したものは薄い茶色となったが、本発明の小豆色付け剤を添加したものは自然の小豆色をしており、望ましい小豆色を呈した。
さらに本発明の小豆色付け剤は、様々な食品の色付けに使用可能である。
例えば、既存の餡・餡製品を始め、蒸し菓子・焼き菓子・流し菓子・練り菓子・岡仕上げ菓子・半生菓子、干菓子・飾り菓子・餅・米菓等の和菓子や、ケーキ・クッキー・パイ・シュー等の洋菓子、アイスクリームを始めとする氷菓、チョコレート・ビスケット・クッキー・ビスケット・ガム・キャンディー・スナック等の一般菓子を含む菓子類、赤飯を始めとするカレー・シチュー・中華素材・和風素材等市販のレトルト食品、ハンバーグ・コロッケ・から揚げ・ピラフ・煮物・炒め物・焼き物等冷凍食品、ハム・ベーコン・ソーセージ・かまぼこ・チーズ等チルド食品、缶詰、ドレッシング・ソース・ケチャップ・だし・味噌・バター等の調味料、スプレット・ジャムなど、ありとあらゆる食品に使用できる。
【0051】
それから本発明の小豆色付け剤は、水に対し0.002〜0.01重量%の割合で添加するだけで、水を半透明の小豆色に着色することができる。つまり、従来の小豆煮汁の粉末とは異なり、きわめて少量で飲料等を含む食品の着色が可能であるばかりか、オリの発生やオリの発生に伴う色調変化も無いため、幅広い液体食品に使用できる。
【0052】
例えばコーラ・ジュース・紅茶・コーヒー・茶・飲料酢・乳飲料・アルコール飲料等の飲料、醤油・食酢・調理酒・みりん・食用油・ドレッシング等の液状調味料などに使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の小豆色色付け剤の製造方法(粉末製品の場合)を示すフロー図である。
【図2】本発明品である小豆色色付け剤のポリフェノールを測定した説明図である。
【図3】本発明品である小豆色色付け剤の色味を測定した説明図である。
【図4】本発明品である小豆色色付け剤の色価を測定した説明図である。
【図5】(a)は無添加のアイスクリーム、(b)は小豆煮汁の水分を除去しただけの小豆煮汁の粉末を添加したアイスクリーム、(c)はコチニール色素を添加したアイスクリーム、(d)は本発明にかかる小豆色付け剤を0.2重量%添加したアイスクリーム、(e)は本発明にかかる小豆色付け剤を0.5重量%添加したアイスクリーを示す写真である。
【図6】無添加のアイスクリーム、小豆煮汁の水分を除去しただけの小豆煮汁の粉末を添加したアイスクリーム、コチニール色素を添加したアイスクリーム、本発明にかかる小豆色付け剤を0.2重量%添加したアイスクリーム、本発明にかかる小豆色付け剤を0.5重量%添加したアイスクリームの色と味の評価結果を示す表図である。
【図7】(a)はコチニール色素を0.05%添加した赤飯、(b)タマリンド色素を0.05%添加した赤飯、(c)は本発明品を0.05%添加した赤飯を示す写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小豆煮汁にデンプン質やタンパク質、ペクチン質、フィチン質等の成分を分解する酵素を添加して上澄液と沈殿物を生成し、次いで、生じた沈殿物を除いた上澄液を膜濃縮し、さらに、濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させることを特徴とする小豆色色付け剤の製造方法。
【請求項2】
前記上澄液の膜濃縮の際、水分及び低分子成分を除去することにより、ポリフェノール等の抗酸化成分の多くを残したまま濃縮することを特徴とする請求項1記載の小豆色色付け剤の製造方法。
【請求項3】
前記濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させる際、アルカリ性物質とともに、鉄剤を加え、噴霧又はそれに相当する空気接触方法をとることを特徴とする請求項1又は2記載の小豆色色付け剤の製造方法。
【請求項4】
前記濃縮された上澄液を加熱しながら酸化重合を促進させた後に、乾燥粉末化又は液状のままレトルト殺菌機等により殺菌することを特徴とする請求項1、2又は3記載の小豆色色付け剤の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−295365(P2008−295365A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−145043(P2007−145043)
【出願日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【出願人】(393017535)コスモ食品株式会社 (18)
【出願人】(399070457)細川製餡株式会社 (2)
【出願人】(397047707)十勝製餡株式会社 (1)
【出願人】(596075417)財団法人十勝圏振興機構 (20)
【Fターム(参考)】