説明

小麦粉又は小麦粉生地の改質方法及び装置

【課題】加工原料としての有効利用できる改質された小麦粉又は小麦粉生地を得る方法を提供する。上記の方法の実施に使用するための装置を提供する。
【解決手段】小麦粉及び水を含む混合物を電気化学反応槽の陰極側において、通電処理することを含む、小麦粉又は小麦粉生地の改質方法;上記方法において、陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収し、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は改質された小麦粉、小麦粉生地又は小麦粉材料を得る方法に関する。詳しくは、本発明は、食品加工に於いて利用される小麦粉の特性を直流電流の通電を用いて改良し、加工原料としての有効利用性を向上させる方法に関する。本発明はさらに、上記の方法の実施に使用するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉は加水及び物理的撹拌により粘弾性のある小麦粉生地を形成し、これを成型加工し、あるいは醗酵させ、焼成や茹で上げなどによりパン、菓子、麺類などの食品となる。生地形成には、小麦タンパク質が相互作用することにより、グルテンという巨大組織を形成することが重要な役割を果たすが、この生地の性質を支配しているのは、主に小麦粉のタンパク質含量である。各種の小麦粉を用いた食品に最適な生地を形成するためには、適切なタンパク質含量を持つ品種の小麦粉を選択するか、これを混合することにより最適なタンパク質含量を得ている。しかし、最適な品種の小麦粉は高価な場合があり、また、混合する場合も最適な混合比率に関する情報は限られており、経験則が適用できるのみである。
【0003】
従来、小麦粉あるいは小麦粉生地の性質を改良するための手段が種々提案されている。
例えば製麺工程において、麺生地又は麺帯もしくは麺線に対して電極間で通電させてジュール発熱により麺生地または麺帯もしくは麺線を加熱することが提案されている(特許文献1参照)。また、電解質を含む穀粉生地または麺帯に通電加熱することによって生地の形成、成形、熟成が促進され、化学的な生地の変化も生じると提案されている(特許文献2及び3参照)。その他、小麦粉に、静電気(正電荷、負電荷)を負荷し小麦粉の周りの酸素、窒素を活性化し、エージングと称される挽きたて小麦粉の安定化工程(自然酸化とも称される)を時間短縮する方法が提示されている(特許文献4参照)。
例えば上述の特許文献にあるように小麦粉生地の温度を上昇させると、生地の生成が促進する一方、生地がゆるくなる、べたつく、その結果、作業性が悪くなるといった問題が懸念される。
上記のような先行技術を鑑み、加熱作用による不都合のない小麦粉又は小麦粉生地の改質方法が望まれる。
【0004】
【特許文献1】特開平2−154656号公報
【特許文献2】特開2001−204374号公報
【特許文献3】特開2001−218548号公報
【特許文献4】特開2001−340058号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、加熱作用によらない小麦粉又は小麦粉生地の改質方法を提供することである。本発明の目的は、小麦粉のタンパク質含量にかかわりなく特定の生地特性を得ることができ、小麦の品種によらず、所望の物性を有する小麦粉生地を得る方法を提供することである。本発明の目的はまた、添加物や副資材の配合に頼らない、小麦粉生地の改質方法を提供することである。また、本発明の目的は、小麦粉のタンパク質含量や品種によらずに、所望の小麦粉生地物性を達成することのできる、改質小麦粉を得る方法を提供することである。
本発明の目的はさらに、上記の方法を実施するための装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、小麦粉生地に直流電流を流すことにより、陰極側において還元的な環境となり、生地の性質を変化させることができることを見出した。具体的な機序として、陰極側における還元的な環境により、小麦粉生地の一部のSS結合が還元され活性なSH基となることから生地の性質が変化すること、さらにその後の処理によって、例えばミキシングなどの機械的な力が加えられると再結合やSS交換反応により大きな分子が形成され、粘弾性が強い生地を得ることが可能であると考えられる。
【0007】
従って本発明は、小麦粉及び水を含む混合物を電気化学反応槽の陰極側において、通電処理することを含む、小麦粉又は小麦粉生地の改質方法である。ここで、小麦粉及び水を含む混合物は小麦粉生地であることができ、この小麦粉生地の具体例として、バッター、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地など様々な形態の生地が含まれる。以下、電気化学反応槽を単に反応槽と表すこともある。
本発明の実施態様として、小麦粉生地を反応槽の陰極側において、通電処理することを含む、小麦粉生地の改質方法がある。本発明の別の実施態様として、小麦粉及び水を含む混合物を反応槽の陰極側において、通電処理し、該小麦粉及び水を含む混合物を回収し、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法がある。この小麦粉の改質方法の出発原料である小麦粉及び水を含む混合物は、小麦粉及び水を含むバッター状生地が適当である。このようにして得られた小麦粉生地及び小麦粉は、生地として粘弾性の高い性質を有する。
本発明の方法により得られた改質された小麦粉生地又は小麦粉は、常法に従って種々の食品の製造に用いることができる。例えば、本発明の方法により改質された小麦粉又は小麦粉生地を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法が挙げられる。
【0008】
本発明の上記の方法において、反応槽の陽極側には、陰極側と同じ材料又は電解質溶液を入れることができる。
本発明の方法で使用する通電処理装置の電気化学反応槽の形態として、陽極側の反応槽及び陰極側の反応槽が別槽になっていて、両槽が電気的につながれている型、反応槽において陽極側と陰極側とが区画されている型など、慣用の反応槽の形態が挙げられる。具体的には、反応槽の陽極側と陰極側とが塩橋によって電気的につながれているか、又は反応槽において陽極側と陰極側とが隔膜もしくは隔壁によって区画されている形態などがある。これらの反応槽の構造は、図1〜3で概略的に例示される。
本発明の方法の別の実施態様として、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収することを含む、態様がある。このような実施態様で使用する反応槽の構造は、図4に概略的に例示される。
本発明の方法で使用する通電処理装置は、上記のような反応槽を含み、両極間に直流電流を印加して通電することができる装置であれば、特に限定されるものではない。
【0009】
本発明はまた、上記方法を実施するための通電処理装置に向けられている。その一例として、電気化学反応槽の陽極側と陰極側とが隔壁によって区画されていて、該隔壁の下部が開放されている、通電処理装置に向けられている。この通電処理装置は、図3に概略的に例示される。
本発明はまた、上記方法を実施するための通電処理装置であって、電気化学反応槽の陰極側に多層電極が設置されている、通電処理装置に向けられている。この通電処理装置は、図5に概略的に例示される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、小麦の品種によらず、例えば高価な品種の小麦にたよらずに、所望の最適な小麦粉生地を製造することが可能となる。従来の小麦粉生地の改質は、添加物・副資材配合による改質が主流であり、その結果、使用資材にアレルゲン原料が含まれていたりする制限の面や製造方法が複雑化したりコスト増の面で問題が生じやすい。本発明によれば、添加物や副資材の配合に頼らずに簡便な方法で、小麦粉又は小麦粉生地を改質することができる。
本発明により、陰極側で回収される材料は特に生地物性が固くなる傾向であるが、その程度は条件を変えることで任意に変えることができる。
小麦粉及び水を含む混合物へ通電することにより、含まれる小麦タンパク質の相互作用の程度を、通電の電力量や時間を制御することにより自由にコントロールできるとともに、従来の小麦粉より強固な相互作用を起こすことも可能である。このため、撹拌のみで小麦タンパク質の相互作用をコントロールしている従来の小麦粉よりも、本発明により得られる小麦粉又は小麦粉生地は食品原料として幅広く応用することができる。また、直接原料として使うだけでなく、添加用副原料として、直接あるいは乾燥して、様々の食品の物性制御用に用いることができる。
【0011】
本発明の方法により得られた、粘弾性の高い小麦粉生地、あるいは粘弾性の高い生地を作ることのできる小麦粉は、食品原料としてパン、菓子類、麺類などの食品に幅広く使用することができ、特にこしの強い麺類(うどん、中華麺、パスタ類など)などを製造するのに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法の出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物は、小麦粉生地であり得、この小麦粉生地の具体例として、バッター状生地(均一なスラリー)、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地など、種々の形態の生地が含まれる。
該混合物における小麦粉と水との質量比は、小麦粉100質量部に対して一般的に水25〜170質量部が適当である。小麦粉への加水量は、改質された小麦粉生地を得る場合、該小麦粉生地の用途によって、例えばパスタ用生地、うどん用生地、パン用生地あるいはバッター(均一なスラリーであって、例えば天ぷらの衣にする)によって、適宜選択することができる。加水量は、小麦粉100質量部に対して、例えばパスタ用生地であれば25〜40質量部程度が一般的であり、うどん用生地であれば30〜50質量部程度が一般的であり、パン用生地であれば50〜70質量部程度が一般的であり、バッター状生地であれば100〜170質量部が一般的である。
出発原料となる小麦粉及び水を含む混合物には、改質された小麦粉生地を得る場合、生地の用途に応じて、塩(NaCl)、かん水(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム又はナトリウム塩など)、デンプン、砂糖、油脂、他の穀粉、タンパク質素材、pH調整剤、保存剤、調味料などの副資材を含めておいてもよい。このような副資材の量は、目的とする食品に応じて適量が用いられる。塩(NaCl)、かん水(炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸類のカリウム又はナトリウム塩など)、デンプン、砂糖、油脂、他の穀粉、タンパク質素材、pH調整剤、保存剤、調味料などの副資材は、通電処理を終えた後の小麦粉生地に添加することもできる。
最も好ましい態様としては、出発原料として小麦粉及び水からなる混合物を使用する。
出発原料であるバッター状生地(均一なスラリー)、そぼろ状生地、保型性のある塊状の生地などの作製方法は、通常の混練の仕方でよく、各種ミキサーを使用して、適宜の時間混合すればよい。
このように調製された出発原料を反応槽の陰極側に入れる。
【0013】
一方反応槽の陽極側には、陰極側と同じ材料又は電解質溶液を入れることができる。例えば図1に示されるように、陽極側と陰極側とが別個の槽であるとき、又は図2に示されるように陽極側と陰極側とが隔膜で仕切られている反応槽であるとき、陽極側には陰極側と同じ材料又は電解質溶液を入れることができる。使用できる電解質溶液としては、塩化ナトリウム水溶液、にがり水、重曹などの食品に使える塩類の水溶液などが挙げられる。
また、図3に示されるような、陽極側と陰極側とが下部が開放された隔壁で仕切られている反応槽、又は図4に示されるような一槽式の反応槽を用いるときは、陽極側には陰極側と同じ材料を入れる。一槽式の反応槽を用いるときは、そぼろ状生地又は保型性のある塊状の生地が出発原料として好ましく用いられる。
こうして反応槽に出発原料を入れた後、両極間に直流電流を印加して通電する。
【0014】
通電試料の電気泳動分析の結果、特に顕著な変化は認められなかった。陰極側では還元的な環境となり、一部のSS結合が還元され活性なSH基となると考えられる。さらに、その後、ミキシングなどの機械的な力が加えられると再結合やSS交換反応により大きな分子が形成され、いっそう粘弾性が強い生地にすることも可能である。
【0015】
本発明の方法によれば、通電処理中に、小麦粉及び水を含む混合物が昇温しないことが望ましく、かつ、上記したような効果を得るための通電条件は、ごく微弱なもので充分である。通電条件としては、定電流条件は10〜70mAの範囲、電圧は10〜100Vの範囲、時間は30分〜2時間の範囲が適当であり、試料温度は室温でよく、範囲として5〜30℃、好ましくは5〜25℃である。上記のような定電流条件、電圧及び通電時間では、品温はほとんど上昇しない。また、通電時間の短縮のために、電圧や電流を上げることも可能である。
このように処理された陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収する。
このようにして得られた小麦粉生地は、そのまま、単独で原材料として使うことの他、加工プロセスの中で原材料に添加して、材料の加工特性を調整することに用いることもできる。添加する場合は、通電後そのまま加えることの他、乾燥し、添加用粉末として原材料の一部とすることもできる。
【0016】
本発明はさらに、上記のように処理された陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収し、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、小麦粉の改質方法に向けられている。この小麦粉の改質方法は、出発原料として小麦粉及び水を含むバッター状生地を用いることが適している。すなわち、出発原料として小麦粉及び水を含むバッター状生地を用いて上記のように通電処理して陰極側からバッター状生地を回収し、該生地を乾燥し、次いで粉末化することを含む方法である。
陰極側から回収したバッター状生地の乾燥は、適宜な手段で実施することができる。中でも凍結乾燥が好ましく、凍結乾燥は通常の棚式などの乾燥方法を採用して通常の条件が採用でき、例えば真空度0.13Pa、トラップ温度 −45℃の条件が用いられる。
こうして凍結乾燥した生地を、粉末化する手段としては、ホモジナイザー型の粉砕機やピンミル、超遠心粉砕機などのミル類などを採用することができ、また、適当な粒度に粉砕することができ、例えば粒度として200μm以下が適当である。
こうして得られた改質小麦粉は、粘弾性が強く、こしの強い生地を作るのに適している。このような改質小麦粉は、単独で原料として用いることができるほか、添加用副原料として使用することができる。
【0017】
本発明の方法の実施に使用する通電処理装置の反応槽において、陰極の材質としては、炭素、チタン及びカーボンファイバーなどがある。陰極の形状として棒状、平板状、針金状、シート状などがあり、電気が流れる面積を多くする観点から、平板状が好ましく、陰極として、カーボンファイバーの板、シートなどが特に好ましく挙げられる。また、陽極の材質として、炭素、カーボンファイバー、白金及びチタンなどがある。陽極の形状としては、棒状、平板状、針金状、シート状などがある。電極は反応槽の壁に設置されていてもよい。
反応槽において陰極側では特に、未処理の小麦粉生地が陰極と接触するように、通電しながら攪拌することが提案される。一方、小麦粉生地の攪拌により生地の粘度が上昇する不都合が懸念される。そこで、陰極側で陰極の面積を増やすために、多層電極とすることが提案される。具体的な態様として、2枚以上の平板状の陰極を設置することが挙げられ、特に平面が隣り合うように2枚以上、好ましくは4枚以上、例えば4〜6枚並置することが挙げられる。また、陰極の多層電極の別の態様として、シート状電極を折り畳んだ形態、例えばカーボンファイバーシートを折り畳んだ形態がある。
【0018】
本発明の方法で使用できる通電処理装置の反応槽の形態の例として、図1〜6に概略的に示されるものがある。
図1は、陽極側の反応槽及び陰極側の反応槽が別槽になっていて、両槽が塩橋によって電気的につながれる型の反応槽の構造を表す。塩橋の材質としては、ろ紙、素焼きの板、多孔性プラスチック材料、寒天やアクリルアミドゲルなどのゲル状素材などが挙げられる。図2は、反応槽において陽極側と陰極側とが隔膜で区画されていている型の反応槽の構造を表す。該隔膜の材質としては浸透膜、カーボンファイバーの板などが挙げられる。図3は、反応槽において陽極側と陰極側とが隔壁で区画されている型の反応槽の構造を表す。該隔壁の下部は開放されていて、開放の程度は、槽の底から隔壁の上端までの高さの10〜20%が適当である。該隔壁の材質は反応槽を構成する材質と同じでよく、例えばアクリル板などが挙げられる。
図4は、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を表す。このような一槽式の反応槽による通電処理によれば、全体のうち陰極側にある生地を回収し、例えば反応槽の中央付近から陰極側よりにある生地を回収することが望ましい。
図5は、陰極が多層電極である反応槽の構造の一例を表す。図6は、陰極がシート状の畳まれた多層電極である反応槽の構造を断面からみた例を表し、このような多層電極は例えばカーボンファイバーシートで作ることができる。多層電極のより具体的な例として、支持棒を反応槽上部に一定間隔で設置し、それにカーボンファイバーシートを掛け、畳んだ形状にする方法がある。
【実施例】
【0019】
[実施例1及び比較例1]
薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)300gに水300gを加え、電動ミキサーで1分間混合し小麦粉バッター状生地を調製し、図5に概略される構造の反応槽の陰極側にセットした。陽極側には0.2M塩化ナトリウム溶液をセットした。陽極槽と陰極槽の間にろ紙を用いて塩橋を設けた。陰極側に炭素電極(板状4層)、陽極側に白金電極(針金状)を用い、60mAの定電流条件で2時間通電を行った。この間、電圧は15〜49V、試料温度は20℃であった。
一方比較例1として、上記のように調製した小麦粉バッター状生地を通電せずに、20℃の品温で2時間経過させた。
通電前の生地の粘度と、陰極側の生地の通電後1時間と2時間の粘度、及び比較例1の生地の1時間後及び2時間後の粘度を測定した。生地粘度の測定には、回転粘度計(Malcom Paste Meter PM-1)を用いた。結果を以下の表1に示す。これらの結果から、通電処理した陰極側の生地は、未通電の生地よりも生地粘度が上昇することが判った。
【0020】
【表1】

【0021】
なお、上記の各試料を、さらにミキサーで低速で5分間混練した後に粘度を測定した。その結果を以下に示す。中でも、2時間通電した後、ミキシングした生地において、さらなる生地粘度の上昇が見られた。
通電処理しない生地を5分間混練→1.30Pa・s
通電処理せずに1時間経過させた生地を5分間混練→1.42Pa・s
通電処理せずに2時間経過させた生地を5分間混練→1.37Pa・s
1時間通電処理した生地を、5分間混練→2.19Pa・s
2時間通電処理した生地を、5分間混練→3.63Pa・s
【0022】
[実施例2及び比較例2]
薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)300gに水300gを加え、電動ミキサーで1分間混合し小麦粉バッター状生地を調製し、図3に概略される構造の反応槽の陽極側と陰極側にセットした。陰極側に炭素電極(板状4層)、陽極側に白金電極(針金状)を用い、60mAの定電流条件で2時間通電を行った。この間、電圧は15〜50V、試料温度は18℃であった。
一方比較例2として、上記のように調製した小麦粉バッター状生地を通電せずに、18℃の品温で2時間経過させた。
通電前の生地の粘度と、陰極側の生地の通電後1時間と2時間の粘度、及び比較例2の生地の1時間後及び2時間後の粘度を測定した。生地粘度の測定には、回転粘度計(Malcom Paste Meter PM-1)を用いた。結果を以下の表2に示す。これらの結果から、通電処理した陰極側の生地は、未通電の生地よりも生地粘度が上昇することが判った。通電処理した陰極側の生地の流動性は明らかに低くなり、生地の物性が変化を示した。
【0023】
【表2】

【0024】
[実施例3]
上記実施例2で得た2時間通電後の陰極側のバッター状生地を、IWAKI FRD-50Mを使用し真空度 0.13Pa、トラップ温度 -45℃で凍結乾燥した。その後、超遠心粉砕機レッチェミルを使用し粉砕した。粉砕粉は目開き210μmの篩いで篩い、抜けたものを採取し通電処理小麦粉とした。
[比較例3](コントロール小麦粉)
比較例2の2時間経過後のバッター状生地を実施例3と同様に操作して、小麦粉を得、これをコントロール小麦粉とした。
【0025】
[試験例]
以下の各種小麦粉300gを用いてうどんを試作した。
1.標準の麺用小麦粉(薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)と強力粉(日本製粉(株)製「イーグル」)の1:1質量比の混合物)
2.上記強力粉のみ
3.上記薄力粉のみ
4.上記薄力粉250gと実施例3で得た通電処理小麦粉50g
5.上記薄力粉250gと比較例3のコントロール小麦粉50g
生地配合は、上記の小麦粉1〜5をそれぞれ300g、塩10g、水111gとした。但し、上記小麦粉4及び5の場合、乾燥処理により水分が低くなるので、小麦粉の水分を薄力粉の水分に換算して、生地水分が薄力粉のみの場合と同等になるように加水量を調整した。
上記生地配合物を製菓用縦型ミキサーで5分間混合し、そぼろ状生地を調製した。生地は常法に従い、ロール式製めん機を用いて厚み2mmの麺帯にした。この麺帯を#10角切刃ロールで麺線状に切り、ゆでて試食した。表3に結果を示す。
【0026】
【表3】

試食による官能評価において食感の評価は、通電処理小麦粉で一部置換した上記小麦粉4によれば、標準のめんに近いものであった。
この結果から、強力粉を用いることなく、主に薄力粉を用いて、本発明の方法で得た改質小麦粉を添加することにより、こしの強い麺類を作ることができることがわかる。
【0027】
[実施例4及び比較例4]
デュラム小麦粉(日本製粉(株)製「ジョーカーA」)300gに水105gを加え、菓子用縦型ミキサーで5分間混合しそぼろ状生地を調製後、図4に概略される構造の一槽式の反応槽に該生地をセットした。電極として陽極側及び陰極側ともにカーボンファイバーシート(東レ(株)製)を用い、通電は30V、20mA、30分の条件で行った。生地温度は22℃であった。反応槽の中間から陰極側の生地を回収し、常法に従ってロール式製めん機を用いて平麺パスタ(#8角切刃、厚み1.2mm)を調製した。比較例4として、同じ生地配合で得たそぼろ生地を、通電せずに30分経過させ(生地温度は21℃)、これを用いて上記と同様に平麺パスタを得た。こうして得たパスタを茹で上げ、パネラー10名により、硬さ及び弾力について試食評価した。判定基準は次の通りである。10名の判定値の平均を求め、表4に示す。
固さ
5:硬い、4:やや硬い、3:適度な硬さ、2:やや柔らかい、1:柔らかい
弾力
5:弾力が強い、4:やや弾力が強い、3:適度な弾力、2:やや弾力が弱い
1:弾力が弱い
【0028】
【表4】

この結果から、通電処理した生地により、比較例の生地と比較して固さが増し、こしが強い麺が得られたことがわかる。
【0029】
[実施例5及び比較例5]
薄力粉(日本製粉(株)製「ハート」)600gに微粉砕氷300gをよく混合し、図4に概略される構造の一槽式の反応槽に該生地をセットした。氷が融解後、通電を行った。電極として陽極側及び陰極側ともにカーボンファイバーシート(東レ(株)製)を用い、通電は100V、30mA、30分の条件で行った。生地温度は24℃であった。反応槽の中間から陰極側の生地を回収しホームベーカリー(ミキサーとして使用)に移し、生地450gに対し食塩10gを加え、15分間混合し生地を調製後、常法に従ってロール式製めん機を用いて厚み2mmの麺帯とうどん(#10切刃、厚み2mm)を調製した。比較例5として、同じ生地配合で得た生地を、通電せずに30分で経過させ(生地温度は23℃)、これを用いて上記と同様に麺帯とうどんを得た。こうして得た麺帯は直径2.5cmにくり抜きレオメータ(RHEOTECH FUDOH RHEO METER RT-2002D-D + TR801レオプロッター、直径15mmの円形プランジャー、圧縮率6cm/分)を用いて圧縮法で硬さを測定した。また同じくり抜いた麺帯を沸騰水で10分間茹で上げ同様に硬さを測定した。麺は茹で上げ、パネラー10名により、試食評価した。
【0030】
【表5】

この結果から、通電処理した生地により、比較例の生地と比較して、硬さが増し、こしが強い麺が得られたことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、陽極側と陰極側が塩橋によって電気的につながれる反応槽である。
【図2】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、反応槽において陽極側と陰極側とが隔膜で区画されていている反応槽である。
【図3】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、反応槽において陽極側と陰極側とが、下部が開放されている隔壁で区画されている反応槽である。
【図4】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の反応槽を表す。
【図5】本発明の方法の実施に使用できる通電処理装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、陰極が多層電極である反応槽である。
【図6】本発明の方法の実施に使用できる通電装置における反応槽の形態の一例を表す概略図であって、陰極が折り畳まれた多層電極である反応槽である。
【符号の説明】
【0032】
1 反応槽
2 電極
3 塩橋
4 隔膜
5 隔壁
A 小麦粉及び水を含む混合物
B 小麦粉及び水を含む混合物又は電解質溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉及び水を含む混合物を電気化学反応槽の陰極側において、通電処理することを含む、小麦粉又は小麦粉生地の改質方法。
【請求項2】
陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収し、該混合物を乾燥し、次いで粉末化することを含む、請求項1記載の小麦粉の改質方法。
【請求項3】
小麦粉と水を含む混合物が小麦粉生地である、請求項1又は2記載の小麦粉又は小麦粉生地の改質方法。
【請求項4】
小麦粉及び水を含む混合物がバッター状生地である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
反応槽の陽極側に、陰極側と同じ材料又は電解質溶液を入れる、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
反応槽の陽極側と陰極側とが塩橋によって電気的につながれているか、又は反応槽において陽極側と陰極側とが隔膜もしくは隔壁によって区画されている、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
陽極側と陰極側とが区画されていない一槽式の電気化学反応槽に、小麦粉及び水を含む混合物を入れて、通電処理し、陰極側の小麦粉及び水を含む混合物を回収することを含む、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載の方法により改質された小麦粉又は小麦粉生地を用いて製麺することを含む、麺類の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法を実施するための通電処理装置であって、電気化学反応槽の陽極側と陰極側とが隔壁によって区画されていて、該隔壁の下部が開放されている、通電処理装置。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項記載の方法を実施するための通電処理装置であって、陰極が多層電極である、通電処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−45020(P2009−45020A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214995(P2007−214995)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】