説明

尿処理方法、及び、尿処理装置

【課題】尿中の窒素成分や炭素成分を効率よく除去できる尿処理方法及び尿処理装置を提供する。
【解決手段】屎を含まない、尿又は尿含有水を、空気中に暴露している多孔体に接触させる工程を備える尿処理方法である。多孔体43と、多孔体43を収容しかつ空気に対して開放された開口41aを有する容器41と、上記多孔体43に対して、屎を含まない、尿又は尿含有水を供給する供給部5と、を備える尿処理装置100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿処理方法、及び尿処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、屎尿含有排水等の排水の処理方法として、生物学的硝化・脱窒法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】水質環境工学 −下水の処理・処分・再利用、松尾友矩他、技報堂出版、1993年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では大きな設備が必要であり、かならずしも効率が十分ではない。本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、尿中の窒素成分や炭素成分を効率よく除去できる尿処理方法及び尿処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る尿処理方法は、屎を含まない、尿又は尿含有水を、空気中に暴露している多孔体に接触させる工程を備える。
【0006】
本発明に係る尿処理装置は、多孔体と、上記多孔体を収容しかつ空気に対して開放された開口を有する第一容器と、上記多孔体に対して、屎を含まない、尿又は尿含有水を供給する供給部と、を備える。
【0007】
本発明によれば、屎を含まない、尿又は尿含有水を、空気中に暴露している多孔体に接触させることにより、微生物の働きにより効率よく窒素成分の硝化が可能である。また、硝化により生成した亜硝酸態窒素や硝酸態窒素と、尿中の炭素成分とが微生物の働きにより反応し、脱窒及び炭素成分の炭酸ガス等への酸化が行なわれ、水中の窒素成分及び炭素成分の低下がなされる。そして、屎を含まない、尿又は尿含有水は、窒素濃度が非常に高く、また容量が少ないため、多孔体を収容する容器の大きさも非常に小さくすむ。
また、屎を含まない、尿又は尿含有水は、固体分が少ないので、多孔体の詰まり等の発生が少ない。さらに、水中曝気用のポンプ等が不要で動力費が少ない。
【0008】
ここで、上記方法は、上記尿又は尿含有水を、尿便器、又は、排泄された尿を屎と混合することなく排出する屎尿分離便器から得ることが好ましい。また、上記装置の供給部は、尿便器、又は、排泄された尿を屎と混合することなく排出する屎尿分離便器を含むことが好ましい。
【0009】
また、上記方法は、上記空気中に暴露している多孔体が上記尿又は尿含有水に浸漬しないように上記多孔体に上記尿又は尿含有水を供給することにより上記接触を行うことが好ましい。また、上記装置の上記第一容器の底部に、上記第一容器内の多孔体が上記尿又は尿含有水に浸漬しないように上記第一容器に供給された上記尿又は尿含有水を上記第一容器の外部に排出させる排水孔が形成されることが好ましい。
【0010】
これにより、多孔体を空気中に曝露しつつ、尿又は尿含有水の連続処理が可能である。
【0011】
また、上記方法は、容器内で、上記空気中に暴露している多孔体を上記尿又は尿含有水で浸漬することにより上記接触をした後、上記容器から上記尿又は尿含有水を排出して上記多孔体を再び空気中に暴露させることを繰り返すことが好ましい。また、上記装置は、第二容器と、上記第一容器の上記尿又は尿含有水を上記第二容器に供給する第一移液部と、上記第二容器の上記尿又は尿含有水を上記第一容器に供給する第二移液部と、を備えることが好ましい。
【0012】
これにより、多孔体の空気への曝露と、曝露した多孔体と尿又は尿含有水との接触とを交互に行うことができ、多孔体全体を接触に活用できるという効果がある。
【0013】
また、上記多孔体は、粒子層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、尿中の窒素成分や炭素成分を効率よく除去できる尿処理方法及び尿処理装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、第一実施形態に係る尿処理装置の概略フロー図である。
【図2】図2は、第二実施形態に係る尿処理装置の概略フロー図である。
【図3】図3の(a)、(b)は、第二実施形態に係る尿処理装置の動作を示す概略図である。
【図4】図4は、実施例4の56日経過後の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実施例4の68日経過後の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、同一または相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0017】
(第一実施形態)
図1は、第一実施形態に係る尿処理装置の一部断面模式図である。この尿処理装置100は、主として、屎尿分離トイレ装置10、尿便器20、尿タンク30、充填塔(第一容器)40を主として備えている。
【0018】
屎尿分離トイレ装置10は、屎尿分離便器11、水タンク18、尿排出管12、屎排出管13、便座14を主として備えている。
【0019】
屎尿分離便器11は、尿用窪み部11aと屎用窪み部11bとを有しており、尿用窪み部11aで人から排出される尿を受け止める一方、屎用窪み部11bで人から排出される屎を受け止める。
【0020】
尿用窪み部11aの底部には尿排出管12が設けられており、尿排出管12の端部は、ラインL1を介して尿タンク30に接続されている。
【0021】
屎用窪み部11bの底部にはU字に曲げられた屎排出管13が設けられており、屎排出管13の端部は、ラインL3を介して、後述するラインL4に合流している。
【0022】
水タンク18からの水は、尿用窪み部11a及び屎用窪み部11bの両方に供給される。
【0023】
このような屎尿分離トイレ装置10によれば、人から排出された屎及び尿を互いに混合させること無く、それぞれ分離された状態で排出可能である。なお、通常、尿排出管12から排出されるものは、尿と、水タンク18からの少量の水(例えば、約0.1L/回)との混合物である尿含有水であるが、水洗用の水を使用しない場合も有り、この場合、尿排出管12から排出されるものは、水で薄められていない尿そのものである。また、屎排出管13から排出されるものは、通常、屎と、水タンク18からの少量の水(例えば、約4L/回)との混合物であが、屎のみの場合もある。
【0024】
尿便器20は、人に尿のみを排泄させて尿を回収する便器である。尿便器20は、人から排出される尿を受ける尿受部21と、尿受部21の底部に設けられた尿排出管22とを備えており、尿排出管22の端部はラインL1を介して尿タンク30に接続されている。尿便器20で回収された尿は、尿単独で、又は、水タンク28からの少量の水と共に、ラインL1を介して尿タンク30に供給される。
【0025】
尿タンク30は、尿又は尿含有水(以降、尿排水と呼ぶことがある。)を貯留するタンクである。大きさは特に限定されないが例えば、5〜10日分の尿の排出量を貯留できる大きさとすることができる。尿タンク30内の尿排水の尿の濃度は、例えば、5〜100体積%、好ましくは、8〜100体積%である。
【0026】
尿タンク30内の尿排水は、ラインL2及びポンプP1を介して、充填塔40に供給される。
【0027】
本実施形態では、ラインL1、L2、ポンプP1、尿タンク30、屎尿分離便器11、及び尿便器21が、屎を含まない尿排水を後述する多孔体43に供給する供給部5を構成している。
【0028】
充填塔40は、上端に空気に対して開放された開口41aを有する筒状容器である。充填塔の底部には、液体を通過可能とする排水孔42aを有する支持材42が設けられており、支持材42の上に、多孔体43が支持されている。このような支持材42としては、貫通孔を複数有する多孔板、メッシュ、粗粒子層等が挙げられる。
【0029】
多孔体43は、尿排水に対して、硝化や脱窒等の反応場を与えるものである。具体的に多孔体43としては、多孔であるものであれば特に限定されない。例えば、織布、不織布等の布材の充填層、
ハニカム状、筒状、波板状、球状等の樹脂製のろ材粒子の充填層、
黒ボク土、鹿沼土、焼赤玉土等の土壌粒子、炭酸カルシウム粒子、ゼオライト粒子、発泡したパーライト粒子、軽石、粉砕貝殻(カキ殻等)、セラミクス製の多孔質粒子等、の多孔質粒子の充填層が挙げられる。多孔質粒子の充填層を用いると、リンの吸着効果もある。これらの粒子を混合してもよい。
【0030】
このような多孔体43により、硝化用微生物や脱窒用微生物を固定させて尿排水の硝化や脱窒を促進させられる。また、多孔質粒子の充填層を用いた場合には、尿中のリンを多孔質濾材55に吸着等させて回収することが容易である。なお、このような多孔体43は、樹脂メッシュ製等の通水性のある袋に収容されていることも好ましく、この場合交換が容易である。
【0031】
多孔体43の充填高さや充填直径は特に限定されず、処理すべき尿排水の負荷量に応じて適宜設定できる。
【0032】
また、支持材42の下方には、多孔体43及び支持材42を通過した尿排水を回収する受け部44が設けられている。受け部44にはラインL4が接続されラインL4の先には、浄化槽70が接続されている。
【0033】
浄化槽70は、上流側から順に、嫌気槽70a、曝気槽70bを有するものであり、公知の種々の物を利用できる。
【0034】
続いて、本実施形態の尿処理装置100を用いた尿処理方法について説明する。
まず、人が、屎尿分離トイレ装置10や尿便器20を用いて排泄を行い、排泄された尿が、屎と分離された状態で、尿単独で、又は、尿含有水として、尿タンク30に供給される。続いて、尿タンク30に貯留された尿排水は、ポンプP1により、定量的に或いは、定期的に、多孔体43の上部に供給される。供給された尿排水は、多孔体43の孔内を流下し、さらに、分散板42の排水孔42aを通過して受け部44により回収され、ラインL4を介して浄化槽70に排出される。
【0035】
このとき、多孔体43は、上部が解放された容器41内に配置されると共に、多孔体43の支持材42は液を下方に通過可能とする排水孔42aを有しており、多孔体43が尿排水に浸漬して水没することは無い。従って、多孔体43内は空気に曝露しており、多孔体43には空気が常時供給されることとなるので、多孔体43内の少なくとも一部は好気的雰囲気に保たれている。したがって、好気性細菌による硝化作用により、尿排水中の窒素成分が、アンモニア態窒素を経由して亜硝酸態窒素や硝酸態窒素に変化する(硝化工程)。
【0036】
また、多孔体43内の一部は、嫌気的雰囲気に保たれている部分があるものと考えられる。したがって、主として、このような嫌気的雰囲気に保たれている部分では、尿が硝化されることにより生成した亜硝酸態及び硝酸態窒素が、嫌気性微生物により尿中の炭素成分(有機物)を利用して窒素に還元され(脱窒)、同時に、炭素成分も炭酸ガス等の無機成分に分解される。
【0037】
さらに、多孔体43として、土壌等の多孔質粒子を用いることにより、リンを吸着することも可能である。
【0038】
処理された尿排水は、ラインL4を介して浄化槽70に供給される。浄化槽70には、屎尿分離便器11の屎排出管13から尿と分離して排出された屎も供給される。浄化槽70の嫌気槽70aでは、屎中の炭素分と、充填塔40からの尿排水中に残存する亜硝酸態及び硝酸態窒素が、屎中の炭素成分(有機物)を利用して嫌気性微生物により窒素に還元される。浄化槽70の曝気槽70bでは、曝気により排水中に残存する窒素成分の硝化が好気性微生物により行われる。必要に応じて、曝気槽70b内の排水は、一部、嫌気槽70aに戻される。
【0039】
本実施形態によれば、尿排水を空気中に暴露している多孔体43に接触させることにより、微生物の働きにより効率よく窒素成分の硝化が可能である。また、多孔体43中には嫌気領域も生ずると考えられ、硝化により生成した亜硝酸態及び硝酸態窒素と尿中の炭素成分とが微生物の働きにより反応し、脱窒及び炭素成分の炭酸ガス等への酸化が行なわれ、水中の窒素成分及び炭素成分の低下もなされる。これにより、排水の窒素負荷を容量の少ないままに大きく低下できる。また、屎を含まない、尿又は尿含有水は、窒素濃度が高く、容量が少ないので、比較的小さな容量の充填塔でも十分な処理が可能である。さらに、屎を含まない尿排水は固体分が少ないので、多孔体43の詰まり等の発生が少ない。さらに、水中曝気用のポンプ等が不要で動力費が少ない。
【0040】
(第二実施形態)
続いて、図2及び図3を参照して、第二実施形態に係る尿処理装置200について説明する。ここでは、第一実施形態に係る尿処理装置100と異なる点のみについて説明し、重複する説明は割愛する。
【0041】
尿処理装置200は、充填塔40に変えて、浸漬槽(第一容器)50a、浸漬槽(第二容器)50bを備えている。浸漬槽50a,50bは、それぞれ上端に空気に対して開放された開口51aを有する有底容器51と、有底容器51内に充填された多孔体43と、を備える。上述のように、多孔態43は、樹脂メッシュ製等の通水性のある袋43に収容されていることも好ましい。
【0042】
浸漬槽50a内には、ポンプP1及びラインL2を介して、尿タンク30から尿排水が供給される。浸漬槽50a内の尿排水は、ポンプP2a及びラインL5aを介して、浸漬槽50b内に供給可能となっている一方、浸漬槽50b内の尿排水は、ポンプP2b及びラインL5bを介して、浸漬槽50a内に供給可能となっている。ここで、ポンプP2a及びラインL5aが第一移液部TR1を構成し、ポンプP2b及びラインL5bが第二移液部TR2を構成している。
【0043】
また、ポンプP2a,P2bの駆動を制御するコントローラ95を有している。
【0044】
さらに、浸漬槽50b内の液体は、バルブV4を有するラインL4を介して、浄化槽70に供給可能となっている。
【0045】
続いて、本実施形態の尿処理装置200による尿処理方法について説明する。
予め、浸漬槽50a内には尿排水が無い状態とし、浸漬槽50aの多孔体43が空気に曝露するようにしておく。続いて、図3の(a)に示すように、尿タンク30からの尿排水をポンプP1及びラインL2を介して、浸漬槽50a内に供給し、浸漬槽50a内の、空気に曝露していた多孔体43を尿排水で浸漬する。この際に、浸漬槽50b内には尿排水が無い状態とし、浸漬槽50bの多孔体43が空気に曝露するようにしておく。
【0046】
所定時間経過した後、図3の(b)に示すように、浸漬槽50a内の排水をポンプP2a及びラインL5aにより浸漬槽50bに供給し、浸漬槽50b内の空気に曝露していた多孔体43を尿排水で浸漬すると共に、浸漬槽50a内には尿排水がない状態とし、浸漬槽50aの多孔体43が空気に曝露するようにする。
さらに、所定時間経過した後、図3の(a)に示すように、浸漬槽50b内の排水をポンプP2b及びラインL5bにより浸漬槽50aに供給し、浸漬槽50a内の空気に曝露していた多孔体43を尿排水で浸漬すると共に、浸漬槽50b内には尿排水がない状態とし、浸漬槽50bの多孔体43が空気に曝露するようにする。
【0047】
そして、このような、多孔体43の空気への曝露及び尿排水による浸漬を所定時間毎に交互に繰り返す。
繰り返し回数は特に限定されないが、例えば、1日に10〜50回とすることができる。また、多孔体43を排水で浸漬しておく所定時間も特に限定されないが、例えば、10〜60分とすることができる。
【0048】
本実施形態によれば、多孔体43の空気への曝露と、多孔体43の尿排水との接触とが、交互に繰り返されることにより、第一実施形態と同様に、多孔体43上の微生物による排水の硝化、脱窒等が行なわれる。特に、曝露及び浸漬の繰り返し回数や、浸漬や曝露時間を任意に設定できるので、処理後の尿排水の性状をコントロールすることが容易である。
【0049】
処理後の尿排水は、ラインL4及びバルブV4を介して、浄化槽70に供給することが出来る。
【0050】
本発明は上記実施形態に限定されず、様々な変形態様が可能である。
例えば、充填塔40や、浸漬槽50a,50bの形状は、上記実施形態のものに限定されず様々な形状のものを利用できる。
【0051】
また、上記実施形態では、充填塔40や浸漬槽50a,50bで処理した排水を浄化槽70に供給しているが、これに限られず、例えば、図1〜図4に点線で示しているように、ラインL5を介して、下水管路80に流し、その後、下水処理場90に供給することも可能である。
【0052】
また、第二実施形態では、2つの浸漬槽50a,50b内にいずれも多孔体43が設けられているが、いずれか一方の浸漬槽内のみに多孔体43が設けられていても実施は可能である。
【0053】
また、上記実施形態では、供給部5は、屎尿分離便器11や、尿便器20を備えているが、屎と分離された状態で尿排水を供給できれば供給部の形態も特に限定されない。例えば、充填塔40や浸漬槽50から離れた場所で尿排水を収集することも可能であり、この場合、例えば、供給部5には屎尿分離便器11及び尿便器20は不要である。また、尿タンク30、ラインL2、及び、ポンプP1を必要とせず、屎尿分離便器11及び尿便器20からの尿排水を直接充填塔40や浸漬槽50a,50bに供給してもよい。勿論、屎尿分離便器11及び尿便器20の内、いずれか一方の便器のみを有していてもよいことは言うまでもない。また、第一移液部TR1や、第二移液部TR2の形態も特に限定されない。
【実施例】
【0054】
(実施例1〜3、比較例1:間欠浸漬型)
図2に示すような実験装置を用いて尿排水の処理を行なった。浸漬槽50a,50bはそれぞれ2Lのポリ瓶であり、一方の浸漬槽50bのみにメッシュの袋に収容された多孔体を配置し、浸漬槽50aには多孔体を配置しなかった。
【0055】
多孔体として、実施例1〜3の順にそれぞれ、0.8Lの鹿沼土、赤玉土、黒ボク土をメッシュ袋にいれたものを用いた。また、比較例1は、多孔体を用いない対照系であり、多孔体を用いない以外は実施例1と同じとした。
【0056】
人尿を純水で10倍の体積に希釈したものを「試験原水」とした。浸漬槽50に供給する前の「試験原水」について、BOD(生物化学的酸素要求量),D−BOD(溶解性BOD),COD(化学的酸素要求量),D−COD(溶解性COD),T−N(総窒素),DT−N(溶解性総窒素),NH−N(アンモニア性窒素),NO−N(亜硝酸性窒素),NO−N(硝酸性窒素),T−P(総リン)、およびDT−P(溶解性総リン)の各項目について分析を行った結果を表1に示す。C/N比としてDOC(溶解性有機炭素)/T−Nの比率を求めると0.475となり、1.0を大きく下回っており、組成的には窒素過多の性状であることが確認された。
【0057】
【表1】

【0058】
まず、「試験原水」を、浸漬槽50aに1.2L供給した。その後、1分間毎にポンプP2a又はポンプP2bを動かし、尿排水が浸漬槽50a,50b間を交互に移動するようにし、このような操作を合計120時間行なった。尿排水が一方の浸漬槽に移動している状態で、他方の浸漬槽50a内の多孔体が空気に曝露した。また、試験期間を通じて室温を20℃に制御し、試験水の水温制御は実施しなかった。試験中には、土壌の入った浸漬槽50bから原水があふれることはなかった。また、サンプリングは、処理開始から、0.5,1,2,4,6,24,48,72,96,120hr経過後にそれぞれ、土壌の入っていない浸漬槽50aから50mLずつ行った。各サンプルは25mL、2本に分注し、サンプル分析までの間、冷凍保存した。
【0059】
冷凍保存していたサンプルは、緩やかに解凍した後、水質の分析を行った。実施例1〜3では、サンプルに土壌が含まれていたため、土壌を取り除いた溶存態成分(孔径1μmのガラス繊維濾紙濾過液)を分析することとした。そのため、サンプルの分析項目は、DOC,DT−N,NH−N,NO−N,NO−N,DT−Pとした。
具体的には、DOCはTOC−VCSH(島津製作所)、その他のDT−N,NH−N,NO−N,NO−N,DT−PはTRACCS 800(BRAN LUEBBE)で測定した。また、120hrのサンプルについてはD−BOD,D−CODを追加分析した。
【0060】
なお、実験するに従い、水分が蒸発して成分濃度が上昇するため、この濃度上昇を差し引く補正を以下のように行なった。すなわち、実験終了後(120hr)に浸漬槽内に残存した試験水の量を測定し、試験原水投入量から各時間におけるサンプル量を差し引き、試験期間中における水分蒸発量を算定した。その結果、試験期間中において325mL(試験開始時1.2L)の水分蒸発が起こっていた。試験期間中の蒸発水分量が各時間当たり一定であると仮定すると1時間当たり2.71mLの水分が蒸発したことになる。この値に各サンプリング時間におけるサンプル量と水分蒸発量を考慮し、表2のとおり補正係数を設定した。そして、得られた濃度を、それぞれ、以下の補正係数で除することにより、水分蒸発による濃縮分を補正した濃度を取得した。補正後のサンプルの各種濃度を表3及び表4に示す。
【0061】
【表2】


【表3】


【表4】

【0062】
(比較例1)
120時間(5日間)を経過した時点では、総窒素が1620→1200mg/L、DOCが769→444mg/L、とそれぞれ26%、43%低下した。アンモニア態窒素が67→196mg/Lと上昇しているが、その他の項目はほとんど変化がなかった。DOCの低下とアンモニアの上昇は、実験期間中に容器の内壁等に細菌が繁殖した結果、尿中の成分が一部分解したことによるもの、総窒素の低下は主としてアンモニアが揮散したためと考えられた。
【0063】
(実施例1:鹿沼土)
総窒素とDOCについて実験開始後の30分〜1時間程度の短時間に数値の大きな低下が認められた。総窒素は初期値:1620mg/Lが30分後には1115mg/Lに、1時間後には874mg/Lと120時間後までの低下量の55%がこの1時間に生じた。
【0064】
DOCは初期値:769mg/Lが30分後に563mg/Lとなり、120時間後までの低下量の31%が最初の30分間に集中して生じた。
【0065】
リンは初期値:132mg/Lが2時間後には3.29mg/Lと、短時間に98%の高率で除去された。
【0066】
その他の項目はアンモニア態窒素が実験期間中、緩やかに上昇した程度で、硝酸態、および亜硝酸態の窒素は非常に低い値で推移した。
【0067】
総窒素は初期の急激な数値の低下後も徐々に低下し、低下率は比較例1の場合よりも大きく、実験開始直後における数値の低下後に、874→278mg/Lと更に69%低下した。
【0068】
DOCが総窒素と同様の低下率で減少したこと、および硝酸態、亜硝酸態の窒素が痕跡程度しか存在していないことより判断すると、この間の総窒素の低下現象は、多孔質体の内外で窒素の硝化、および脱窒が同時に進行している可能性が考えられた。また、実験初期における総窒素、DOC、およびリン濃度の急激な低下現象は多孔体の物性に起因する吸着によるものと考えられた。
【0069】
(実施例2:赤玉土)
実施例1の結果と同様に、総窒素とDOCが1時間以内に大きく低下した。初期の低下率は実施例1に較べると、総窒素の低下率では6割程度と劣るが、DOCの低下率では約4割優れた結果となった。その他の傾向は実施例1の場合とほぼ同じであった。
【0070】
リンについては2時間後にはゼロとなった。赤玉土には鉄分がかなり含まれており、これがDOCとリンが短時間で吸着除去されたと推定される一つの要因と考えられる。
DOCは初期値:769mg/Lが実験終了時には42mg/Lとなり、94%も除去されており、総窒素も低下していることを合わせて考えると、硝化、脱窒が進行していることが示唆された。
【0071】
(実施例3:黒ボク土)
実施例1、2と同様に、黒ボク土の系も総窒素とDOCの大きな初期低下、およびその後の緩やかな低下が認められた。その他の項目もほとんど同じ様な傾向を示したが、アンモニア態窒素は初期値:67mg/Lから、48時間後には222mg/Lにまで上昇した後、再度低下した。硝酸態、亜硝酸態の窒素は合計で最初1.7mg/Lであったものが、24時間後には23mg/Lに達し再度低下した。
【0072】
この傾向は、実施例1,2とは大きく異なるものであり、黒ぼく土には、硝化反応を促進する何らかの特性が備わっていることが考えられた。
【0073】
(液サンプルの官能試験:外観、及び、臭気)
さらに、120時間経過後のサンプルに対して、外観及び臭気の官能試験を行なった。対照系である比較例1が最も濃い黄褐色となり、以下、実施例1、実施例3の順であった。赤玉土を入れた実施例2は無色透明であった。また、溶存態のサンプル色は、実施例1、実施例2、及び、比較例1において、経過時間とともに黄褐色が濃くなる傾向にあった。
【0074】
さらに、実験終了時(120hr)のサンプルの臭気を嗅いだところ、実施例1〜3は無臭であった。しかし、比較例1は「放置した尿臭」が感じられた。
【0075】
(120時間経過後の多孔体の状態)
実験終了時の土壌の状態を目視確認した。実施例1の鹿沼土は、無機質な雰囲気であり、土壌間の空隙率は確保されていた。実施例2の赤玉土は、土壌間の空隙率は確保されていた。実施例3の黒ボク土は、粘土状であり土壌間の空隙率は微小であった。
【0076】
(実施例4:充填塔型)
図1のような充填塔40を用いて実験を行なった。充填塔40は、内径約10cm、長さ30cmの透明なアクリルパイプ製であり、底部には排水孔を有する支持材として砂層を充填し、その上に多孔体として黒ぼく土を20cmの厚さになるように詰めた。
【0077】
試験原水には実施例1と同じ物を用いた。試験原水を、カラム上部から定量ポンプP1で多孔体43の表面に滴下し、多孔体43及び支持材を通過した処理水を容器に回収した。実験は、25℃の室温で、試験原水を20mL/hrで12時間供給し、その後、12時間供給停止することを、3ヶ月に亘って繰り返した。一日の合計供給量は240mLであった。曝気や循環等は行なっておらず、試験原水は多孔体層を一回のみ通過するいわゆるワンパス操作であった。
【0078】
黒ボク土の性状は、実施例3に基づいて、塩基置換容量30meq/100g、リン吸収係数9.6mg/g、強熱減量23.4%と計算された。なお、黒ボク土による初期吸着の影響を排除すべく、事前に、黒ボク土を尿素溶液にしばらく浸漬して吸着飽和させ、その後、カラムにその黒ボク土を充填し、尿素を使用した予備実験により吸着による窒素濃度に変化が生じないことを確認してから実験を行なった。また、黒ボク土には、通水性を高めるべく予めパーライト(土壌改良剤)を20体積%程度混合しておいた。
【0079】
(結果)
実験は、同一の2つの充填塔A,Bを用い、平行して行なった。試験原水を供給して約2ヶ月(56日)が経過した時点での結果は図4に示すとおりである。
【0080】
処理前の試験原水の総窒素(T−N)が1380mg/L、硝酸態窒素(NO−N)及び亜硝酸態窒素(NO−N)の合計が0.1mg/L以下であったのに対して、充填塔Aでは、処理水の総窒素(T−N)が740mg/L、硝酸態窒素(NO−N)及び亜硝酸態窒素(NO−N)の合計は330mg/Lであった。また、充填塔Bでは、処理水の総窒素(T−N)が930mg/L、硝酸態窒素(NO−N)及び亜硝酸態窒素(NO−N)の合計は410mg/Lであった。いずれも、硝化が進行していることがわかった。
【0081】
TOC(全有機炭素)は、試験原水で1100mg/Lあったものが、充填塔Aでは14mg/L、充填塔Bでは17mg/Lとなり、有機物はほとんど分解されていた(除去率:98%以上)。
【0082】
総窒素が大きく低下していることから、充填塔内では硝化が進むのと並行してさらに脱窒が生じたものと考えられる。また、全リンは原水で76mg/Lあったものが充填塔A、Bともに0.1mg/Lと、ほとんど除去されていた。さらに、処理水はほぼ無色透明で、臭気も感じられなかった。
【0083】
次に、56日後から更に約2週間が経過した68日後の結果を図5に示す。
図4と同様な傾向を示しているが、充填塔A、B共に有機態窒素(Org−N)の濃度が大きく低下しており、窒素はほとんどが無機態の形になっていた。硝化の進行した窒素成分については、亜硝酸より硝酸が卓越していた。試験原水の総窒素1150mg/Lに対し、処理水は充填塔Aが530mg/L、充填塔Bでは910mg/Lとなり、処理水中の総窒素に対する硝化態の窒素の比を硝化率とすると、充填塔A、Bでそれぞれ47%と54%となった。充填塔通過後には総窒素濃度が低下しており、これは全て硝化、脱窒反応によるものと考えると、その場合には硝化率は充填塔A、Bでそれぞれ76%、64%となった。カラム実験による硝化では、処理水中の有機物濃度はTOCで評価したが、カラム通過後には有機物がほとんど消失しており、このために脱窒がこれ以上、進み難くなっていると考えられる。
【0084】
実施例4では、尿を窒素量の面積負荷で22.6〜39.0g−N/m・日の条件で継続運転した場合、総窒素量は21〜54%除去され、TOCは98%以上が除去された。処理水中の残存窒素は95〜97%が無機態の窒素であり、硝化率は39〜54%となった。水量面積負荷は29.4L/m・日(24.9mm/日)となり、この程度では長期間に亘りカラム内を浸透・通過する際に閉塞等の問題を生じることはなかった。尿中のリンは多孔質体に吸着除去されると考えられ、実験期間中、安定して99.5%以上の高い除去率が得られた。
【符号の説明】
【0085】
5…供給部、11…屎尿分離便器、21…尿便器、41、51…容器、42a…排水孔、43…多孔体、100、200…尿処理装置、TR1…第一移液部、TR2…第二移液部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屎を含まない、尿又は尿含有水を、空気中に暴露している多孔体に接触させる工程を備える尿処理方法。
【請求項2】
前記尿又は尿含有水を、尿便器、又は、排泄された尿を屎と混合することなく排出する屎尿分離便器から得る、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記空気中に暴露している多孔体が前記尿又は尿含有水に浸漬しないように前記多孔体に前記尿又は尿含有水を供給することにより前記接触を行う請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
容器内で、前記空気中に暴露している多孔体を前記尿又は尿含有水で浸漬することにより前記接触をした後、前記容器から前記尿又は尿含有水を排出して前記多孔体を再び空気中に暴露させることを繰り返す請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記多孔体は粒子の充填層である請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
多孔体と、前記多孔体を収容しかつ空気に対して開放された開口を有する第一容器と、前記多孔体に対して、屎を含まない、尿又は尿含有水を供給する供給部と、を備える尿処理装置。
【請求項7】
前記供給部は、尿便器、又は、排泄された尿を屎と混合することなく排出する屎尿分離便器を含む請求項6記載の装置。
【請求項8】
前記第一容器の底部には、前記第一容器中の前記多孔体が前記尿又は尿含有水に浸漬しないように前記第一容器に供給された前記尿又は尿含有水を前記第一容器の外部に排出させる排水孔が形成された請求項6又は7記載の装置。
【請求項9】
第二容器と、前記第一容器の前記尿又は尿含有水を前記第二容器に供給する第一移液部と、前記第二容器の前記尿又は尿含有水を前記第一容器に供給する第二移液部と、を備える請求項6又は7記載の装置。
【請求項10】
前記多孔体は粒子の充填層である請求項6〜9のいずれか一項記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−542(P2012−542A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−135727(P2010−135727)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名 第44回 日本水環境学会年会(平成22年) 主催者名 社団法人 日本水環境学会 開催日 平成22年3月16日
【出願人】(510167914)NPO法人次世代水回り研究会 (1)
【Fターム(参考)】