説明

尿温測定装置及び尿温測定装置を備えた便器装置

【課題】尿の温度を計測する温度計測手段を有し、この温度計測手段における受尿の継続を確保し、高精度な測定結果を得ることを可能とする尿温測定装置及び尿温測定装置を備えた便器装置を提供すること。
【解決手段】温度を計測する温度計測手段を備え、温度計測手段の計測する温度に基づいて被験者の排泄する尿の温度である尿温を測定する尿温測定装置において、温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段と、受尿状態検知手段によって検知した温度計測手段の受尿状態を被験者に報知する報知手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の排尿中の尿の温度である尿温を測定することが可能な尿温測定装置及び尿温測定装置を備えた便器装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、温度を計測する温度計測手段を有して尿温を測定する尿温測定装置、及びこれを備えた便器装置が種々提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、高熱伝導性の金属や断熱材で被覆されたサーミスタ等の感温体を備えた温度計測手段を、被験者の排泄する尿を受ける便器の内壁に配設した尿温測定装置が開示されている。
【0004】
また、便器の内壁以外に温度計測手段を配設したものとして、特許文献2には、被験者の排泄する尿を受ける採尿容器と、この採尿容器内に配設されたサーミスタ等の感温体とを備えた温度計測手段を、便器のボール内に進出するスイングアームの先端に配設した尿温測定装置が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−176536号公報
【特許文献2】特開平08−262017号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、サーミスタ等の感温体は、その検知温度が被検体の有する実際の温度に到達するまでに所定の時間、即ち、感知時間を必要とする。このため、感温体を備えた温度計測手段は、感知時間以上、被験者の排泄する尿を受け続けなければ、この尿の温度を高精度で計測することができない。
【0007】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に記載された従来の尿温測定装置では、いずれも、温度計測手段の大きさが被験者の排泄する尿を受ける便器のボール等の大きさと比較して小さく、かつ、温度計測手段が配設された位置と被験者の局部との距離が比較的に離れているために、温度計測手段が被験者の排泄する尿を感知時間以上受け続けることは困難である。
【0008】
また、このような尿温測定装置では、一般に、被験者が便器の便座に着座した姿勢で排尿するため、被験者にとっては排尿すべき温度計測手段の位置を視認し難く、このため、温度計測手段が被験者の排泄する尿を感知時間以上受け続けることが一層困難となっていた。
【0009】
そこで、本発明は、尿温を計測する温度計測手段を有し、この温度計測手段における受尿の継続を確保し、高精度な測定結果を得ることを可能とする尿温測定装置及び尿温測定装置を備えた便器装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、温度を計測する温度計測手段を備え、前記温度計測手段の計測する温度に基づいて被験者の排泄する尿の温度である尿温を測定する尿温測定装置において、前記温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段と、前記受尿状態検知手段によって検知した前記温度計測手段の受尿状態を被験者に報知する報知手段と、を有することを特徴とする尿温測定装置である。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記受尿状態検知手段は、前記温度計測手段の受尿状態を、前記温度計測手段の計測する温度の変動に基いて検知することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記受尿状態検知手段は、被験者の尿が前記温度計測手段に確実に到達するときに前記尿が通過する領域であって、前記温度計測手段の計測地点と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域と、被験者の尿が通過する通過領域とを比較することによって、前記受尿状態の検知を行うことを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発明において、前記受尿状態検知手段は、前記受尿状態が所定条件を満たしたときに尿温の測定が完了したことを出力することを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記受尿状態検知手段は、前記温度計測手段の計測する温度が上昇して安定した状態が所定の時間継続したとき、前記所定条件を満たすと判断することを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載の発明は、請求項4又は請求項5に記載の発明において、前記受尿状態検知手段は、前記通過目標領域に被験者の尿が所定の時間継続して通過するとき、前記所定条件を満たすと判断することを特徴とする。
【0016】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか1項に記載の発明において、前記報知手段は、視覚や聴覚や触覚等によって被験者が感知可能に報知することを特徴とする。
【0017】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか1項に記載の発明において、前記受尿状態検知手段によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知する改善策報知手段を備えたことを特徴とする。
【0018】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記改善策報知手段は、前記受尿状態検知手段により検知した受尿状態に基いて、前記改善策として、前記適正な受尿状態とさせるために必要な距離や方向等に関する調整量を求めて被験者に報知することを特徴とする。
【0019】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の尿温測定装置を備えた便器装置にある。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に記載の発明によれば、温度を計測する温度計測手段を備え、前記温度計測手段の計測する温度に基づいて被験者の排泄する尿の温度である尿温を測定する尿温測定装置において、前記温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段と、前記受尿状態検知手段によって検知した前記温度計測手段の受尿状態を被験者に報知する報知手段と、を有するので、被験者から排泄された尿が、温度計測手段に命中せず、温度計測手段における受尿の継続を確保することが困難な状況であっても、報知手段の報知によって注意を喚起すれば、被験者による適切な対処がなされ、高精度な測定結果を得ることを可能とする。
【0021】
請求項2に記載の発明によれば、受尿状態検知手段は、温度計測手段の受尿状態を、温度計測手段の計測する温度の変動に基いて検知するので、温度計測手段以外の特別な構成を別途備えなることなく温度計測手段の受尿状態を検知することができ、部品点数の削減、装置構成の簡略化を実現できる。
【0022】
請求項3に記載の発明によれば、受尿状態検知手段は、被験者の尿が温度計測手段に確実に到達するときに尿が通過する領域であって温度計測手段の計測地点と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域と、被験者の尿が通過する通過領域とを比較することによって、受尿状態の検知を行うので、通過目標領域と通過領域とが重複するか否かという簡易な検知方法により受尿状態を検知することができる。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、受尿状態検知手段は、受尿状態が所定条件を満たしたときに尿温の計測が完了したことを出力するので、例えば、尿温の測定状況を表示する表示部を設けた場合に、この表示部に対して尿温の計測が完了したことを出力表示すれば、被験者はこの出力表示を視認することにより、温度計測手段に対して自己の排泄する尿を命中させる必要がないことを知ることができ、その後の排尿を安心して行うことができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によれば、受尿状態検知手段は、温度計測手段の計測する温度が上昇して安定した状態が所定の時間継続したとき、所定条件を満たすと判断するので、例えば、当該温度の安定した状態が所定の時間継続しない場合には、尿温の測定が正常に完了しないこととなり、尿温を実際よりも低く測定してしまうことを防止することができる。
【0025】
請求項6に記載の発明によれば、受尿状態検知手段は、通過目標領域に被験者の尿が所定の時間継続して通過するとき、所定条件を満たすと判断するので、通過目標領域に被験者の尿が所定の時間継続して通過しない場合には、尿温の測定が正常に完了しないこととなり、尿温を実際よりも低く測定してしまうことを防止することができる。
【0026】
請求項7に記載の発明によれば、報知手段は、視覚や聴覚や触覚等によって被験者が感知可能に報知するので、例えば、音声を発生させることで被験者の聴覚に、光を発生させたりすることで被験者の視覚に訴えることにより、被験者による適切な対処をより迅速かつ確実なものとすることができる。
【0027】
請求項8に記載の発明によれば、受尿状態検知手段によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して使用者に報知する改善策報知手段を備えたので、排尿中の被験者に対して改善策を提示することにより、適正な受尿状態とするための被験者の迅速かつ確実な対処を期待することができ、温度計測手段における受尿の継続を確保することができる結果、高精度な測定結果を得ることを可能とする。
【0028】
請求項9に記載の発明によれば、改善策報知手段は、受尿状態検知手段により検知した受尿状態に基いて、改善策として、適正な受尿状態とさせるために必要な距離や方向等に関する調整量を求めて使用者に報知するので、排尿中の被験者に対して具体的な調整量を提示することにより、適正な受尿状態とするための被験者の迅速かつ確実な対処を一層期待することができ、温度計測手段における受尿の継続を確保することができる結果、高精度な測定結果を得ることを可能とする。
【0029】
請求項10に記載の発明によれば、便器装置は尿温測定装置を備えているので、便器装置を施工する工事だけで尿温測定装置の施工が行えるため、設置工事が簡単となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
[1.全体概要]
以下、本発明に好適な実施形態について説明する。
本発明に係る尿温測定装置は、被験者が排泄する尿の温度を測定するものである。
【0031】
この尿温測定装置は、被験者の排泄する尿の温度を計測する温度計測手段と、温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段と、受尿状態検知手段によって検知した温度計測手段の受尿状態を被験者に報知する報知手段と、を有している。
【0032】
温度計測手段は、被験者の排泄する尿の温度によって抵抗値が変化するサーミスタ等の感温素子を内蔵した感温部を備えている。この温度計測手段は、被験者の排泄する尿を受ける受尿容器と、この受尿容器内に配設された感温部と、を備え、受尿容器に形成される尿溜まりに感温部を浸漬することによって尿の温度を計測するように構成しても良く、受尿容器を設けずに、直接感温部にて被験者の排泄する尿を受けるように構成しても良い。なお、感温部として、サーミスタ等の感温素子ではなく、サーモパイル等の非接触で温度検知できる感温素子を設け、所定の空間にて受ける尿の温度を計測する構成としてもよい。
【0033】
この尿温測定手段は、感温部の生成する検知信号を尿温測定装置の制御部に送信するようになっている。
【0034】
ここで、温度計測手段は、温度計測手段の感温部に被験者の排泄する尿が継続して命中していないときには、その検知信号に基づいて計測された温度を尿温測定値として採用しないように構成されている。かかる構成とするためには、被験者の排泄する尿が温度計測手段に継続して命中しているか否か、すなわち、温度計測手段の受尿状態を検知する必要がある。
そこで、本発明の尿温測定装置は、温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段を有している。
【0035】
さらに、本発明の尿温測定装置は、受尿状態検知手段によって検知した温度計測手段の受尿状態を、別途設けられた表示パネル等の表示部に表示することによって被験者に報知する報知手段を有している。
【0036】
このように、本発明の尿温測定装置では、被験者から排泄された尿が、温度計測手段に命中せず、温度計測手段における受尿の継続を確保することが困難な状況であっても、報知手段の報知によって被験者の注意を喚起することができ、その結果、被験者による適切な対処がなされれば、尿温測定装置における高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0037】
また、尿温測定装置は、受尿状態検知手段によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知する改善策報知手段を備えてもよい。
【0038】
ここで、受尿状態が適正な受尿状態であるとは、被験者の排泄する尿が温度計測手段に継続して命中していることを意味し、受尿状態が適正な受尿状態でないとは、被験者の排泄する尿が温度計測手段に継続して命中していないことを意味する。また、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策とは、温度計測手段に対して尿を命中するために被験者が採るべき動作に関する情報である。
【0039】
かかる構成により、放尿中に温度計測手段の受尿状態を確認し難い状況であっても、被験者に対して改善策を提示することにより、適正な受尿状態とするための被験者の迅速かつ確実な対処を期待することができ、温度計測手段における受尿の継続を確保することができる結果、尿温測定装置における高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0040】
以下に、本発明に係る尿温測定装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係る尿温測定装置を備えた便器装置全体の外観構成を示す概略図、図2は、図1に示した尿温測定装置が備えた受尿ユニットの拡大斜視図、図3は、図2に示した受尿ユニットの側面図、図4は、図2に示した受尿ユニットが備えたスイングアーム及び受尿容器の拡大斜視図で、一部切欠いて示した図である。
【0041】
本実施形態に係る便器装置1は、図1に示すように、既設の便器本体100と、この便器本体100に装着され被験者が排泄する尿の温度(尿温とも言う。)を測定する尿温測定装置10と、尿温測定装置10の構成の一部であるトイレブースの側壁に取り付けられ便器装置1の動作を使用者が操作する操作スイッチや尿温測定結果を等の情報を表示する表示部を備えた操作・表示部18と、を有している。
【0042】
[2.1 便器本体の構成]
便器本体100は、従来型のボール部102と、例えば、洗浄水タンク等の図示しない洗浄水供給部と、を有する。また、便器本体100の後上部には、機能部ケーシング106が載設されており、この機能部ケーシング106のボール部102側の側面には、便座108及び便蓋110がそれぞれ回動自在に装着されている。また、この機能部ケーシング106の内部には、後述する尿温測定装置10の主要部である制御回路16(図6参照)が収納配設されている。
【0043】
なお、図示を省略するが、機能部ケーシング106の内部には、制御回路16の他に、従来型の便器洗浄装置と、従来型の衛生洗浄装置と、従来型の尿成分分析装置等が収納されており、尿温測定装置10を備えた便器装置1を通常の目的で使用する際にそれぞれの機能を提供するようになっている。なお、これらの機能は不可欠ではなく、省略することができる。
【0044】
[2.2 尿温測定装置の構成]
尿温測定装置10は、図1及び図2に示すように、ボール部102中に排泄された被験者の尿を受けて尿の温度を計測するための受尿ユニット12と、被験者から排泄される尿が通過する領域を特定するための通過領域特定ユニット14と、受尿ユニット12における受尿状態を検知する等、便器装置1全体の動作を制御する制御回路16(図6参照)と、を有している。
【0045】
[2.2.1 受尿ユニットの構成]
受尿ユニット12の構成について、図1〜図4を参照して説明する。受尿ユニット12は、図1〜図4に示すように、便器本体100のリム部100aの一側部側に設置される支持フレーム20と、一端側が支持フレーム20に回動自在に支持されたスイングアーム30と、スイングアーム30の他端側に連設され被験者がボール部102に排泄する尿を受ける受尿容器34と、受尿容器34の内部に配設され尿温を計測する感温部38と、便器本体100のリム部100a内面に沿うように設けられた収納洗浄室50と、を有している。
【0046】
支持フレーム20の内部には、スイングアーム30を回転駆動するためのスイングアーム駆動モータ24(図6参照)を有している。このスイングアーム駆動モータ24は、スイングアーム30を、受尿容器34が便器本体100のボール部102の下部側にくる受尿位置Fと、受尿容器34が便器本体100のリム部100aの側部側にくる待機位置Nと、に回動させるものである。このスイングアーム駆動モータ24は制御回路16(図6参照)に電気的に接続されている。
【0047】
収納洗浄室50は、図3に示すように、ボール部102の底部に向って下向きに開口した断面視コ字状を形成しており、待機位置Nにあるスイングアーム30及び受尿容器34を収納するようになっている。この収納洗浄室50の内部には、噴射ノズル52が設けられており、この噴射ノズル52は、待機位置Nにあるスイングアーム30及び受尿容器34に向って洗浄水を噴射し、スイングアーム30及び受尿容器34の洗浄を行う。なお、噴射ノズル52には、所定の配管及び電磁弁82(図6参照)を介して所定の水源から圧力水が供給される。
【0048】
受尿容器34は、図4に示すように、被験者の尿を受けるために上部を開口した略船底形状を形成しており、スイングアーム30側の側面を基端として長手方向に感温部38を突設している。なお、採尿管40は、尿吸引チューブ42を介して受尿容器34の内部の尿を尿成分測定装置(図示せず)に吸引搬送するためのものであり、金網37は、受尿容器34の上部開口を覆い、受尿容器34の内部に異物が侵入するのを防止するためのものである。
【0049】
感温部38は、サーミスタ等の感温体を内蔵しており受尿容器34で受けた尿の温度を計測するように構成されている。すなわち、感温部38は、スイングアーム30の中空内部を挿通するリード線44に接続されており、このリード線44の他端は、機能部ケーシング106に収納された制御回路16(図6参照)に接続されている。この感温部38は、被験者の排泄する尿を受けた受尿容器34の底部に形成される尿溜まりに浸漬されると、尿温の温度情報を含む所定の検知信号を制御回路16に送信する。感温部38により計測される温度情報としては、例えば、感温部38がサーミスタを内蔵する場合には、このサーミスタの抵抗値変化が利用される。
【0050】
ここで、本実施形態では、受尿ユニット12は、支持フレーム20を介して便器本体100に設置する構成となっているが、この構成に代えて、被験者が把持可能な形状に形成された支持フレーム(図示せず)と、この支持フレームに所定のアームを介して連設され感温部38を備えた受尿容器34と、感温部38に電気的に接続された制御回路16(図6参照)とを一体的に構成するようにしても良い。かかる構成により、被験者は、支持フレーム20を把持すれば、受尿容器34及び感温部38を所望の場所に持ち運ぶことができると共に、被験者の個々の身体的特徴に応じた適切な受尿位置となるように受尿容器34の位置を自由に操作することができるため尿温測定装置10全体の利便性を向上することができる。
【0051】
[2.2.2 通過領域特定ユニット14]
通過領域特定ユニット14の構成について説明する。図5は、便座108に備えられた通過領域特定ユニット14を上方から見た状態を示す説明図である。通過領域特定ユニット14は、被験者の尿が感温部38に到達するときにこの尿が通過する領域であって、受尿容器34の計測地点である感温部38と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域と、使用者の尿が通過する通過領域とを含む仮想平面を作成し、この仮想平面おいて通過目標領域に対する通過領域の位置を特定するものである。
【0052】
本実施形態では、通過領域特定ユニット14によって尿の通過領域の位置を特定し、この通過領域を通過した尿が感温部38に到達し命中しているか否か、すなわち、感温部38の受尿状態を後述の受尿状態検知手段92(図6参照)によって検知するようになっている。
【0053】
図5に示すように、通過領域特定ユニット14は、便座108の内周縁に前後方向に対向した状態で配設された一対の第1発光部62及び第1受光部64と、便座108の内周縁に左右方向に対向した状態で配設された一対の第2発光部66及び第2受光部68と、を有しおり、これら第1発光部62、第1受光部64、第2発光部66、及び第2受光部68は、制御回路16(図6参照)に電気的に接続されている。
【0054】
第1発光部62及び第2発光部66は、電気エネルギーを光に変換して出射する、例えば、LED(Light Emitting Diode)等が幅方向に複数連設されたユニットである。第1受光部64及び第2受光部68は、光を受光して電気エネルギーに変換する、例えば、PD(Photo Diode)等が幅方向に複数連設されたユニットである。第1発光部62と第1受光部64とが対向する方向と、第2発光部66と第2受光部68とが対向する方向とは、略直交するように設定されている。
【0055】
第1発光部62から出射され第1受光部64に入射する光が通過する光通過領域LVと、第2発光部66から出射され第2受光部68に入射する光が通過する光通過領域LHとは、便座108の内縁側において交差し、略矩形状の仮想平面領域Vを形成する。仮想平面領域Vは、被験者が便座108に着座した状態であっても、被験者の尻部に接触しないように、便座108の上面よりもやや下方に形成される(図1及び図3参照)。
【0056】
かかる構成により、仮想平面領域Vを被験者の排泄する尿が通過した場合には、第1発光部62及び第2発光部66から出射された光の一部は、尿によって遮断されそれぞれ第1受光部64及び第2受光部68に受光されることはない。尿によって遮断され一部受光しない位置では、第1受光部64及び第2受光部68は、検知信号を制御回路16(図6参照)に送信しない。一方、尿によって遮断されず受光可能な位置では、第1受光部64及び第2受光部68は、検知信号を制御回路16に送信する。この第1受光部64及び第2受光部68によって送信される検知信号の有無により、制御回路16によって、尿が通過する通過領域Rの仮想平面領域Vにおける位置が特定されるのである。
【0057】
また、仮想平面領域Vの略中央には、被験者の尿が感温部38に到達するときに尿が通過する領域であって、受尿容器34の計測地点である感温部38と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域Tが予め設定されている。この通過目標領域Tは、仮想平面領域V内であって、受尿位置F(図3参照)にある受尿容器34から上方へ所定の距離離間した位置に設定されている。
【0058】
この通過目標領域Tの大きさとしては、種々の領域を設定することができるが、例えば、受尿容器34又は感温部38の大きさと略同一の大きさを有する領域を設定することが好ましい。通過目標領域Tの大きさを受尿容器34又は感温部38の大きさと略同一の大きさとすることで、通過目標領域Tを通過した尿を感温部38に確実に到達させることができる。なお、本実施形態においては、通過目標領域Tは、受尿容器34の大きさと略同一の大きさを有する領域に設定されているものとする。
【0059】
[2.2.3 制御回路及び操作・表示部の構成]
次に、便器装置1に備えられた尿温測定装置10の電気的構成について説明する。図6は、便器装置1に備えられた尿温測定装置10及び操作・表示部18の電気的構成を示すブロック図である。
【0060】
トイレ空間の側壁に配設された操作・表示部18は、各種のプログラムがされた制御部70と、被験者が尿温測定装置を操作するための複数の操作スイッチ72と、被験者に対する各種報知や尿温測定結果を表示する表示パネル74と、操作スイッチ72からの入力信号を制御部70によって読み取り可能な信号に変換する入力回路と、制御部70の制御によって表示パネル74を駆動するドライバと、を有する。
【0061】
操作スイッチ72としては、図示を省略するが、尿温測定装置10の電源スイッチ、尿温測定装置10の尿温測定を開始するための尿温測定スイッチ、予め設定された受尿位置Fから受尿容器34を被験者の操作により個人差に応じて微調整させるための微調整スイッチ等を設けることができる。
【0062】
一方、機能部ケーシング106の内部に収納配設された制御回路16は、尿温測定装置10の各構成要素を後述のフローチャートの如く制御するべくプログラムされた制御部80と、制御部80による制御に従って、スイングアーム駆動モータ24の駆動、第1発光部62及び第2発光部66による光の出射、及び噴射ノズル52に洗浄水を供給するための電磁弁82の開閉動作を実行するそれぞれのドライバと、を有している。
【0063】
制御部80は、感温部38、第1受光部64及び第2受光部68にA/D変換回路を介して接続されており、これらから出力される所定の検知信号を受信する。
【0064】
この制御回路16の制御部80と操作・表示部18の制御部70とは、通信ケーブル84によって接続されており、トランシーバ86及び88を介してシリアル通信により各種データの送受信を行うようになっている。
【0065】
また、制御部80は、操作・表示部18の操作スイッチ72からの入力及び制御プログラムの実行によって機能する、感温部38の受尿状態を検知する受尿状態検知手段92と、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態を被験者に報知する報知手段94と、受尿状態検知手段92により検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知する改善策報知手段96と、を備えている。
本実施例における受尿状態検知手段92は、感温部38の受尿状態を検知するものである。すなわち、受尿状態検知手段92は、感温部38から温度情報を含む受尿状態信号を受信し、この信号に基づいて、被験者の排泄する尿が感温部38に継続して命中しているか否か、すなわち、感温部38の受尿状態を検知するのである。
【0066】
受尿状態検知手段92における感温部38の受尿状態の検知について説明する。
図7(a)は、被験者の排泄する尿が感温部38に継続して命中していると仮定した場合の、感温部38により計測される尿温とその計測時間との関係の一例を示すグラフである。ここでは、感温部38がサーミスタ等の接触式の感温体を内蔵している場合を例に挙げて説明する。図7(a)に示すように、感温部38により計測される温度は、サーミスタ等の感温体の持つ熱容量によっていわゆる応答遅れを生じるため、被験者の排泄する尿が感温部38に継続して命中していたとしても、実際の尿温に到達するまでに所定の時間を必要とする。すなわち、感温部38により計測される温度は、被験者の排泄する尿を受けた時刻Tx0から上昇を開始し、時刻Tx1にて実際の尿温にほぼ等しい温度に到達する。ここで、感温部38により計測される温度が上昇している状態を過渡状態、実際の尿温に到達し安定した状態を定常状態と定義する。
【0067】
そして、感温部38により計測される温度が定常状態に到達するまでの時間、すなわち、(Tx1−Tx0)は、感温部38の構成や周囲温度等の種々の条件によって決まる固有の時間である。このように、被験者の排泄する尿が感温部38に継続して命中していると仮定した場合に、感温部38により計測される温度が定常状態に到達するまでの固有の時間(Tx1−Tx0)を、以下では説明の便宜上、固有感知時間ΔTxと定義する。
【0068】
一方、図7(b)は被験者の排泄する尿を感温部38によって実際に受けた場合の、感温部38により計測される温度とその計測時間との関係の一例を示すグラフである。図7(b)に示すように、感温部38により計測される温度は、被験者の尿を受けた受尿容器34に形成される尿溜まりに感温部38(図4参照)が浸漬された時刻T0から上昇し始め、途中で上昇及び下降を繰り返した状態(以下、温度の変動ΔCと言う。)を経て、時刻T1にて被験者の実際の尿温にほぼ等しい温度に到達し、定常状態に至っている。このように、実際の使用においては、被験者の排泄する尿が感温部38に継続的に命中するとは限らず、このグラフの過渡状態が示すように、温度の変動ΔCが生起されることが多い。このように、温度の変動ΔCが観測される計測状態の時は、感温部38により計測される温度が定常状態に至るまでには前述の固有感知時間ΔTxよりも長い時間、すなわち、検知時間ΔTt(=T1−T0)が必要となる。
【0069】
すなわち、感温部38が被験者の排泄する尿を受けている状態(以下では、これを「受尿状態」と呼ぶ。)が適正な状態ではないと、感温部38により計測される温度は、感温部38固有の上昇カーブ(図7(a)参照)とは異なる挙動、すなわち、変動ΔCを生起することになり、その結果、検知時間ΔTtは、固有感知時間ΔTxよりも長くなるのである。さらに、感温部38の受尿状態が適正な状態ではない状態が続くと、感温部38により計測される温度は、変動ΔCを繰り返し定常状態に至らなくなる。つまり、被験者の排泄する尿を感温部38によって実際に受けた場合に、温度の変動ΔCが生起される時は、感温部38の受尿状態は適正状態ではなく感温部38によって尿の温度を正確に検知できておらず、この状態が継続すると尿温を高精度で測定することができなくなることが予見される。
【0070】
そこで、本発明における受尿状態検知手段92は、感温部38の受尿状態を、感温部38の計測する温度の変動ΔCに基いて検知するものである。具体的には、受尿状態検知手段92は、単位時間当たりの温度の変動ΔCが所定値以下であるときには、感温部38における受尿の継続が確保されて感温部38の受尿状態が適正であると判断し、それ以外であるときには受尿状態が適正でないと判断する。これにより、感温部38による温度の計測と関連付けて、被験者から排泄された尿が感温部38に適正に当たり続けているか否かを判断することができる。
【0071】
ここで、感温部38により計測される温度が定常状態に至ったとしても、その後に感温部38の受尿状態が適正でなくなると、感温部38により計測される温度は、定常状態よりも低下する。この低下した温度は、実際の尿の温度、即ち、真の尿温とは言えない。
【0072】
そこで、真の尿温を計測するために、受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度が上昇して温度変化が所定値以下となる状態が所定の時間継続したとき、尿温の計測が完了した判断し、その時の温度計測値を尿温測定値として報知手段94に対して出力する。すなわち、図7(b)に示すように、感温部38により計測される温度が上昇して温度変化が所定値以下となる状態、すなわち、定常状態となってから所定の時間ΔTs(=T2−T1)を経過したときに、受尿状態検知手段92は、尿温の計測が完了したと判断し、尿温の計測が完了したことを報知手段94に対して出力するのである。これにより、定常状態が所定の時間継続していないときに、報知手段94が尿温として実際よりも低い温度値を報知してしまうことを防止することができる。
【0073】
(受尿状態検知手段の他の形態)
ところで、受尿状態検知手段92は、上記した温度の変動ΔCに基いて感温部38の受尿状態を検知する構成に代えて、被験者の尿が感温部38に到達するときに尿が通過する領域であって、感温部38の計測地点と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域Tと、被験者の尿が通過する通過領域Rとを比較することによって、感温部38の受尿状態の検知を行うように構成しても良い。
【0074】
この構成における受尿状態検知手段92は、図5を用いて既に説明した通過領域特定ユニット14によって感温部38の受尿状態の検知を行う構成とすることができる。
【0075】
すなわち、受尿状態検知手段92は、仮想平面領域Vにおいて予め定められた通過目標領域Tと通過領域Rとの位置の関係に基いて、感温部38の受尿状態を推定する。すなわち、被験者の排泄する尿が図5にて一点鎖線の円で示す通過領域Rを通過しており、通過領域Rと通過目標領域Tとが重複する場合には、受尿状態検知手段92は、感温部38における受尿の継続が確保されていると推定し、感温部38の受尿状態が適正であると判断する。一方、被験者の排泄する尿が図5にて実線の円で示す通過領域R´を通過しており、通過領域Rと通過目標領域Tとが重複しない場合には、受尿状態検知手段92は、感温部38における受尿の継続が確保されていないと推定し、感温部38の受尿状態が適正でないと判断する。これにより、通過目標領域と通過領域とが重複するか否かという簡易な検知方法により感温部38の受尿状態を判断することができる。
【0076】
このとき、受尿状態検知手段92は、通過目標領域Tに被験者の尿が所定の時間継続して通過するとき、すなわち、仮想平面領域Vにおいて通過領域Rと通過目標領域Tとが所定の時間継続して重複するとき、所定条件を満たすと判断し、尿温の測定が完了したと判断し、その時の計測値を尿温測定値として報知手段94に出力するように構成することが好ましい。このように構成することにより、通過目標領域Tに被験者の尿が所定の時間継続して通過しない場合には、受尿状態検知手段92は、尿温の計測が完了したことを報知手段94に対して出力することはない。これにより、報知手段94が尿温を実際よりも低く報知してしまうことを防止することができる。
【0077】
(報知手段)
報知手段94は、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態を被験者に報知するものである。具体的には、報知手段94は、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態を、経時的なグラフ(図7(b)参照)に変換し、操作・表示部18の表示パネル74に表示する。
【0078】
これにより、自己の排泄する尿が感温部38に命中しておらず、感温部38における受尿の継続を確保することが困難な状況であっても、放尿中の被験者に対して表示パネル74の表示によって注意を喚起することができ、被験者の適切な対処を期待できる。
【0079】
また、報知手段94は、受尿状態検知手段92から感温部38による尿温の計測が完了した旨の電気的信号を受信したときに、感温部38による尿温の計測が完了した旨の文字情報を作成し、この文字情報をシリアル通信を介して操作・表示部18に送信し、表示パネル74に出力表示する。表示パネル74に対して尿温の計測が完了したことを出力表示すれば、被験者はこの出力表示を視認することにより、感温部38に対して自己の排泄する尿を命中させる必要がないことを知ることができ、その後の排尿を安心して行うことができる。
【0080】
(改善策報知手段)
改善策報知手段96は、受尿状態検知手段92によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知するものである。
【0081】
改善策報知手段96により作成された改善策の報知としては、種々のものが採用され得る。例えば、受尿状態検知手段92が感温部38の受尿状態を感温部38の計測する温度の変動に基いて検知する構成である場合に、感温部38における受尿の継続が確保されていない旨を示す文字情報「Error!!」を作成し、この文字情報をシリアル通信を介して操作・表示部18に送信し、表示パネル74に表示するようにしても良い。
【0082】
また、改善策報知手段96は、受尿状態検知手段92により検知した受尿状態に基いて、改善策として、適正な受尿状態とさせるために必要な距離や方向等に関する調整量を求めて使用者に報知する。ここで、適正な受尿状態とさせるために必要な距離や方向等に関する調整量(以下、調整量という。)とは、感温部38の受尿状態が適正ではない、すなわち、被験者の排泄する尿が感温部38に命中していない場合に、被験者が自己の尿を感温部38に命中させるために調整すべき感温部38を基準とした距離や方向等に関する情報である。
【0083】
この調整量として、改善策報知手段96は、例えば、通過目標領域Tを基準とした通過領域R´(図5参照)の距離及び方向を算出する。そして、改善策報知手段96の算出した調整量は、文字情報や画像情報に変換された後、シリアル通信を介して操作・表示部18に送信され表示パネル74に表示される。この表示パネル74の表示により、排尿中の被験者に対して具体的な調整量を提示することにより、適正な受尿状態とするための被験者の迅速かつ確実な対処を期待することができ、感温部38における受尿の継続を確保することができる。表示パネル74の表示態様については、後述する。
【0084】
[3.尿温測定装置の動作]
次に、便器装置1が備える尿温測定装置10を用いて尿温を測定する動作の一例について、図8を参照して具体的に説明する。図8は、本実施形態における尿温測定装置10の制御部80が実行する制御を示すフローチャートである。
【0085】
図8に示すように、ステップS1において、操作・表示部18の電源スイッチが押下され、便器装置1が備える尿温測定装置10の電源がONになると、制御部80は、操作スイッチ72における尿温測定スイッチが押下されたか否かを判定する。
【0086】
この処理において、尿温測定スイッチが押下されていないと判定すると(ステップS1:No)、制御部80は、尿温測定スイッチが押下されるまでこの処理を繰り返し実行する。一方、この処理において、尿温測定スイッチが押下されたと判定すると(ステップS1:Yes)、制御部80は、処理をステップS2に移行する。
【0087】
ステップS2において、制御部80は、スイングアーム駆動モータ24を回転駆動させ、スイングアーム30を待機位置Nから受尿位置Fまで回動する。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS3に移行する。
【0088】
ステップS3において、制御部80における受尿状態検知手段92が尿温計測処理を実行する。具体的には、被験者がスイングアーム30の先端部に設けられた受尿容器34に向って尿を排泄すると、受尿状態検知手段92は、感温部38から温度情報を含む検知信号を受信し、この検知信号を尿温値に換算する処理を実行するのである。このとき同時に受尿状態検知手段92は、感温部38の受尿状態を、感温部38の計測する尿温の変動に基いて検知することとなる。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS4に移行する。
【0089】
ステップS4において、制御部80における改善策報知手段96が通過領域特定処理を実行する。すなわち、改善策報知手段96は、第1発光部62及び第2発光部66を駆動して、便座108の内周縁側に仮想平面領域Vを形成し、第1受光部64及び第2受光部68から送信される検知信号に基いて、仮想平面領域V(図3参照)における通過領域Rの位置を特定する。このとき同時に、改善策報知手段96は、この仮想平面領域Vにおける通過目標領域Tを基準とした通過領域Rの距離及び方向を算出する。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS5に移行する。
【0090】
ステップS5において、制御部80における改善策報知手段96が改善策作成処理を実行する。すなわち、改善策報知手段96は、ステップS4において算出した、仮想平面領域Vにおける通過目標領域Tを基準とした通過領域Rの距離及び方向を文字情報や画像情報に変換することによって改善策を作成する。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS6に移行する。
【0091】
ステップS6において、制御部80における報知手段94及び改善策報知手段96が報知処理を実行する。すなわち、報知手段94は、ステップS3において受尿状態検知手段92により換算された温度値のデータ、すなわち、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態をシリアル通信により操作・表示部18に送信し、この操作・表示部18において経時的なグラフ(図7(b)参照)を示す画像情報に変換して表示パネル74に表示する。また、改善策報知手段96は、ステップS5において仮想平面領域Vにおける通過目標領域Tを基準とした通過領域Rの距離及び方向を変換した文字情報や画像情報をシリアル通信により操作・表示部18に送信し、表示パネル74に表示する。この表示パネル74の表示態様については、後述する。この処理が終了すると、制御部80は処理をステップS7に移行する。
【0092】
ステップS7において、制御部80における受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度が定常状態に到達したか否かを判定する。すなわち、受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度の変化が所定値以下となる状態が所定の時間継続した否かを判定することにより、感温部38の計測する温度が定常状態に到達したか否かを判定するのである。例えば、感温部38の計測する温度が37℃であるときに、温度変化が±0.05℃、すなわち、絶対値で0.1℃以下となる状態が5秒間継続したときに、定常状態に到達したと判定する。
【0093】
この処理において、受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度が定常状態に到達したと判定すると(ステップS7:Yes)、処理をステップS8に移行し、感温部38の計測する温度が定常状態に到達していないと判定すると(ステップS7:No)、処理をステップS11に移行する。
【0094】
ステップS8において、制御部80における受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度の定常状態が所定の時間継続したか否かを判定する。この処理において、受尿状態検知手段92は、感温部38の計測する温度の定常状態が所定の時間継続したと判定すると(ステップS8:Yes)、感温部38による温度の計測が完了した旨の出力信号を報知手段94に対して送信したうえで、処理をステップS9に移行する。一方、感温部38の計測する温度の定常状態が所定の時間継続しないと判定すると(ステップS8:No)、受尿状態検知手段92は、感温部38による尿温の測定が失敗した旨の出力信号を報知手段94に対して送信したうえで、処理をステップS12に移行する。
【0095】
ステップS9において、制御部80における報知手段94は、感温部38による尿温の測定が完了した旨を表示パネル74に表示する。すなわち、ステップS8において受尿状態検知手段92から送信された、感温部38による尿温の測定が完了した旨の出力信号を受信すると、報知手段94は、この出力信号をシリアル通信により操作・表示部18に送信し、この操作・表示部18において計測完了を示す画像情報に変換して表示パネル74に表示する。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS10に移行する。
【0096】
ステップS10において、制御部80における受尿状態検知手段92は、結果出力処理を実行する。すなわち、受尿状態検知手段92は、ステップS9において感温部38による尿温の測定が完了した時点での温度を制御部80における所定の記憶領域に記憶する。この記憶領域に記憶された温度は、被験者の尿温にほぼ等しい温度であるため、被験者の健康状態を判定するための正確な尿温値として採用することができる。
【0097】
ステップS11において、制御部80は、ステップS3における温度計測処理の実行開始から所定の時間が経過したか否かを判定する。この処理において、制御部80は、所定の時間が経過したと判定すると(ステップS11:Yes)、感温部38による尿温の計測が失敗した旨の出力信号を報知手段94に対して送信したうえで、処理をステップS12に移行し、所定の時間が経過していないと判定すると(ステップS11:No)、処理をステップS3に戻す。
【0098】
ステップS12において、制御部80における報知手段94は、尿温の計測が失敗した旨を表示パネル74に表示する。すなわち、ステップS8又はステップS11において受尿状態検知手段92から送信された、感温部38による尿温の計測が失敗した旨の出力信号を受信すると、報知手段94は、この出力信号をシリアル通信により操作・表示部18に送信し、この操作・表示部18において計測失敗を示す画像情報に変換して表示パネル74に表示する。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS13に移行する。
【0099】
ステップS13において、制御部80は、受尿容器洗浄処理を実行する。すなわち、制御部80は、スイングアーム駆動モータ24を回転駆動させ、スイングアーム30及び受尿容器34を受尿位置Fから待機位置Nまで回動し収納洗浄室50に収納する。その後、制御部80は、電磁弁82を開放し、噴射ノズル52から待機位置Nにあるスイングアーム30及び受尿容器34に向って洗浄水を噴射し、スイングアーム30及び受尿容器34の洗浄を行う。この処理が終了すると、制御部80は、処理をステップS14に移行する。
【0100】
ステップS14において、制御部80は、尿温測定装置10の電源がOFFにされたか否かを判定する。この処理において、制御部80は、電源がOFFにされたと判定すると(ステップS14:Yes)、尿温測定装置10の動作を停止し、電源がOFFにされていないと判定すると、処理をステップS1に戻す。
【0101】
[4.表示パネルの表示態様]
次に、上記した報知手段94及び改善策報知手段96によって表示パネル74に表示される表示態様について説明する。
【0102】
図9は、上記した報知手段94及び改善策報知手段96によって表示パネル74に表示された表示態様の一例を示す図である。図9(a)及び図9(b)に示すように、表示パネル74の左側には、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態を経時的なグラフとして表した報知画像Hが表示されており、表示パネル74の右側には、改善策報知手段96によって作成された改善策として、仮想平面領域Vにおける通過目標領域Tを基準とした通過領域Rの距離及び方向を変換した文字情報や画像情報である改善策報知画像Kが表示されている。なお、報知画像Hは、図7(b)を用いて既に説明した感温部38により計測される温度とその計測時間との関係と同様のものである。
【0103】
図9(a)は、感温部38により尿温の計測が開始された時点における表示パネル74の表示態様の一例を示す説明図である。
図9(a)に示す報知画像Hは、被験者の排泄する尿が感温部38に命中したり命中しなかったりして受尿の継続が確保されておらず、感温部38により計測される温度が、上昇及び下降を繰り返す温度の変動を引き起こしている状態を示している。被験者は、この報知画像Hを視認することにより、感温部38の受尿状態が適正でないことを視覚的に感知することができるのである。
【0104】
図9(a)に示す改善策報知画像Kは、便座108の内周縁側の形状を模して楕円状の等高線で形成された仮想平面領域Vと、仮想平面領域Vの略中央に設定された通過目標領域Tと、仮想平面領域Vにおいて通過目標領域Tと重複しない位置にある通過領域R´とを表示したものである。この改善策報知画像Kでは、通過目標領域Tと通過領域R´とが重複していないため、これを視認した被験者は、感温部38の受尿状態が適正でないことを視覚的に感知することができるのである。
【0105】
また、改善策報知画像Kの上部には、感温部38の受尿状態を適正な受尿状態とさせるため必要な方向に関する調整量、言い換えると、通過領域Rを通過目標領域Tに重複させるための方向に関する調整量を表す文字情報が表示されている。例えば、図9(a)に示す改善策報知画像Kでは、調整量としての文字情報「左下へ!」が表示されている。この文字情報を視認した被験者は、感温部38の適正な受尿状態を得るための方向に関する具体的な調整量を知ることができる。なお、方向に関する文字情報に加えて、距離に関する文字情報を調整量として表示するように構成しても良い。
【0106】
図9(b)は、感温部38により計測される温度が定常状態に到達した時点における表示パネル74の表示態様の一例を示す説明図である。
図9(b)に示す報知画像Hは、被験者の排泄する尿が感温部38に命中し受尿の継続が確保されており、感温部38により計測される温度が定常状態に到達している状態を示している。被験者は、この報知画像Hを視認することにより、感温部38の受尿状態が適正であることを視覚的に感知することができるのである。
【0107】
図9(b)に示す改善策報知画像Kは、仮想平面領域Vにおいて通過目標領域Tと重複した位置にある通過領域Rを表示している。この改善策報知画像Kでは、通過目標領域Tと通過領域Rとが重複しているため、これを視認した被験者は、感温部38の受尿状態が適正であることを視覚的に感知することができるのである。
【0108】
また、改善策報知画像Kの上部には、感温部38の受尿状態が適正な受尿状態である旨を表す文字情報が表示されている。例えば、図9(b)に示す改善策報知画像Kでは、適正な受尿状態を表す文字情報「OK!!」が表示されている。この文字画像を視認した被験者は、感温部38の受尿状態が適正であることを視覚的に感知することができるのである。
【0109】
図9(c)は、感温部38の計測する温度の定常状態が所定の時間継続した時点における表示パネル74の表示態様の一例を示す説明図である。
図9(c)に示すように、表示パネル74の右側には、改善策報知画像Kに代わって、感温部38による尿温の測定が完了した旨を示す報知画像Iが表示されている。図9(c)に示す報知画像Iでは、尿温の測定が完了した旨を示す文字画像「完了」と、測定された尿温値を示す文字画像「37.5℃」とが表示されている。この文字画像を視認した被験者は、感温部38に対して自己の排泄する尿を命中させる必要がないことを知ることができ、その後の排尿を安心して行うことができと共に、表示された尿温値から自己の体温を知ることができる。
【0110】
このように、尿温測定装置10では、報知手段94によって、受尿状態検知手段92によって検知した感温部38の受尿状態を被験者に報知するため、被験者から排泄された尿が、感温部38に命中せず、感温部38における受尿の継続を確保することが困難な状況であっても、報知手段94の報知によって注意を喚起すれば、被験者による適切な対処がなされ、高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0111】
また、尿温測定装置10では、改善策報知手段96によって、受尿状態検知手段92によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知するため、放尿中の被験者に対して改善策を提示することにより、適正な受尿状態とするための被験者の迅速かつ確実な対処を期待することができ、感温部38における受尿の継続を確保することができる結果、高精度な測定結果を得ることが可能となる。
【0112】
以上、本発明の実施の形態のいくつかを図面に基づいて詳細に説明したが、これらは例示であり、発明の開示の欄に記載の態様を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変形、改良を施した他の形態で本発明を実施することが可能である。
【0113】
例えば、本実施形態においては、報知手段94及び改善策報知手段96は、感温部38の受尿状態等を表示パネル74の表示によって報知する構成としたが、これに代えて、視覚や聴覚や触覚等によって被験者が感知可能に報知するように構成しても良い。
【0114】
かかる構成としては、操作・表示部18に音を発するスピーカ(図示せず)を設け、このスピーカが発する音の周波数と感温部38の計測する温度の変動とを関連付けるようにすれば良い。例えば、感温部38の計測する温度とスピーカが発する音の周波数とを比例関係となるように構成することができる。この構成では、感温部38の計測する温度が上昇している場合には、スピーカが発する音の周波数も高くなり、さらに感温部38の計測する温度が変動していない場合には、スピーカが発する音の周波数が一定になるので、被験者は、聴覚により感温部38の受尿状態を感知することができる。
【0115】
また、便座108の上面であって被験者の臀部と接触する位置に上下可動式の突起(図示せず)を設け、この突起の上下可動幅と感温部38の計測する温度の変動とを関連付けるように構成しても良い。例えば、感温部38の計測する温度が上昇している場合には、突起の上下動幅も大きくなるという構成にすることができる。これにより、視覚及び聴覚が不自由な被験者であっても、触覚により感温部38の受尿状態を感知することができる。
【0116】
また、表示パネル74とは別にLEDランプ等を機能部ケーシング106に設け、感温部38の計測する温度の変動状態と関連付けてLEDランプの発光態様を変更し、被験者が視覚により感温部38の受尿状態を感知する構成とすることもできる。例えば、LEDランプを一列に複数個設け、感温部38の計測する温度の上昇に伴って、LEDランプの点灯個数を所定温度毎に順次増やしていくような構成とすれば、被験者が受尿状態の最適状態を感覚的に認識できる。
【0117】
なお、本実施形態においては、改善策報知手段96は、改善策を作成するために、通過領域特定ユニット14によって仮想平面領域Vにおける通過領域Rの位置を特定するように構成したが、これに代えて、受尿容器34にサーミスタ等の複数の感温部を設けることによって、この受尿容器34における尿の命中位置を特定するように構成しても良い。すなわち、受尿容器34に設けられた各感温部の位置情報(すなわち、特定の感温部から他の感温部までの距離及び方向の情報)と各感温部によって計測される温度とを関連付けた所定のテーブルを予め用意し、温度を計測すれば各感温部の位置情報に基いて、受尿容器34に対する尿の命中位置を特定するのである。これにより、受尿容器34内において特定の感温部から受尿容器34に対する尿の命中位置までの距離及び方向を算出し、これを改善策として被験者に報知することが可能となる。
【0118】
本発明の実施の形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施の形態に記載されたものに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】本発明の実施形態に係る尿温測定装置を備えた便器装置全体の外観構成を示す概略図である。
【図2】図1に示した尿温測定装置が備えた受尿ユニットの拡大斜視図である。
【図3】図2に示した受尿ユニットの側面図。
【図4】図2に示した受尿ユニットが備えたスイングアームの拡大斜視図で、一部切欠いて示した図である。
【図5】便座に備えられた通過領域特定ユニットを上方から見た状態を示す説明図である。
【図6】制御回路及び制御ユニットの構成の一例を示す電気的ブロック図である。
【図7】(a)被験者の排泄する尿が感温部に継続して命中していると仮定した場合の、感温部により計測される温度とその計測時間との関係の一例を示すグラフである。(b)被験者の排泄する尿を感温部によって実際に受けた場合の、感温部により計測される温度とその計測時間との関係の一例を示すグラフである。
【図8】本実施形態における尿温測定装置の制御部が実行する制御を示すフローチャートである。
【図9】報知手段及び改善策報知手段によって表示パネルに表示された表示態様の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0120】
1 便器装置
10 尿温測定装置
12 受尿ユニット
14 通過領域特定ユニット
16 制御回路
18 操作・表示部
20 支持フレーム
24 スイングアーム駆動モータ
30 スイングアーム
34 受尿容器
37 金網
38 感温部
40 採尿管
42 尿吸引チューブ
44 リード線
50 収納洗浄室
52 噴射ノズル
62 第1発光部
64 第1受光部
66 第2発光部
68 第2受光部
70 制御部
72 操作スイッチ
74 操作パネル
80 制御部
82 電磁弁
84 通信ケーブル
86 トランシーバ
88 トランシーバ
92 受尿状態検知手段
94 報知手段
96 改善策報知手段
100 便器本体
100a リム部
102 ボール部
106 機能部ケーシング
108 便座
110 便蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度を計測する温度計測手段を備え、前記温度計測手段の計測する温度に基づいて被験者の排泄する尿の温度である尿温を測定する尿温測定装置において、
前記温度計測手段の受尿状態を検知する受尿状態検知手段と、
前記受尿状態検知手段によって検知した前記温度計測手段の受尿状態を被験者に報知する報知手段と、を有することを特徴とする尿温測定装置。
【請求項2】
前記受尿状態検知手段は、前記温度計測手段の受尿状態を、前記温度計測手段の計測する温度の変動に基いて検知することを特徴とする請求項1記載の尿温測定装置。
【請求項3】
前記受尿状態検知手段は、被験者の尿が前記温度計測手段に到達するときに前記尿が通過する領域であって、前記温度計測手段の計測地点と被験者の放尿開始地点との間に設定された通過目標領域と、被験者の尿が通過する通過領域とを比較することによって、前記受尿状態の検知を行うことを特徴とする請求項1に記載の尿温測定装置。
【請求項4】
前記受尿状態検知手段は、前記受尿状態が所定条件を満たしたときに尿温の計測が完了したことを出力することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の尿温測定装置。
【請求項5】
前記受尿状態検知手段は、前記温度計測手段の計測する温度が上昇して温度変化が所定値以下となる状態が所定の時間継続したとき、前記所定条件を満たすと判断する
ことを特徴とする請求項4に記載の尿温測定装置。
【請求項6】
前記受尿状態検知手段は、前記通過目標領域に被験者の尿が所定の時間継続して通過するとき、前記所定条件を満たすと判断する
ことを特徴とする請求項4又は請求項5に記載の尿温測定装置。
【請求項7】
前記報知手段は、視覚や聴覚や触覚等によって被験者が感知可能に報知することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の尿温測定装置。
【請求項8】
前記受尿状態検知手段によって検知した受尿状態が適正な受尿状態でないとき、適正な受尿状態とさせるために必要な改善策を作成して被験者に報知する改善策報知手段を備えたことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の尿温測定装置。
【請求項9】
前記改善策報知手段は、前記受尿状態検知手段により検知した受尿状態に基いて、前記改善策として、前記適正な受尿状態とさせるために必要な距離や方向等に関する調整量を求めて被験者に報知することを特徴とする請求項8記載の尿温測定装置。
【請求項10】
請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の尿温測定装置を備えた便器装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−249672(P2008−249672A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95082(P2007−95082)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】