説明

局部冷却装置および局部冷却方法

【課題】作業効率に優れ、導入が容易な、き裂を顕在化させるための局部冷却装置および局部冷却方法を提供する。
【解決手段】冷却スプレー11が、金属製の部材1のき裂2を含む所定の領域を冷却可能である。冷却領域限定部材12が、その領域を囲むよう設けられている。金属製の部材1のき裂2を含む所定の領域を冷却領域限定部材12で囲んだ後、その領域を冷却スプレー11により冷却する。これにより、金属製の部材1のき裂2を顕在化させることができ、非破壊検査装置によって容易かつ精度良く、き裂2を検出することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製の部材のき裂を非破壊検査装置によって検出する非破壊検査方法に関し、き裂の検出と計測の正確性を高めるため、閉じたき裂を熱応力により顕在化させることができる局部冷却装置および局部冷却方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発電所や化学プラント、航空機、船舶、車両等で使用されている金属製の部材には、長年の使用により、き裂が発生することがあり、これらの安全な運用のために、従来、非破壊検査技術を用いてき裂の検出と計測が行われている。実際に発生するき裂の中には閉じたき裂があり、種々の非破壊検査装置を用いても、閉じたき裂の検出や正確な大きさの評価が難しく、精度の高い検査ができないことが良く知られている。このため、非破壊検査の高信頼化を実現するために、局所的に加熱または冷却をして熱応力を発生させ、き裂を開口させる方法が考案されている。例えば、液体窒素を検査対象部位に付加し、き裂開口方向の応力を発生させ、この応力によりき裂を開口させて顕在化させ、超音波探傷等におけるき裂検出感度を向上させる方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特許第3639958号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、検査対象部位に液体窒素を使用するため、取り扱いが難しく、作業効率が低下し、実際のプラント等への導入が困難であるという課題があった。
【0005】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、作業効率に優れ、導入が容易な、き裂を顕在化させるための局部冷却装置および局部冷却方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る局部冷却装置は、金属製の部材のき裂を非破壊検査装置によって検出するとき、前記部材のき裂を顕在化させるのに使用される局部冷却装置であって、前記部材のき裂を含む所定の領域を冷却可能に設けられた冷却スプレーを有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る局部冷却方法は、金属製の部材のき裂を非破壊検査装置によって検出するとき、前記部材のき裂を顕在化させる局部冷却方法であって、前記部材のき裂を含む所定の領域を冷却スプレーにより冷却することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る局部冷却装置および局部冷却方法は、金属製の部材のき裂を含む所定の領域を冷却スプレーで冷却することにより、き裂の開口方向の応力を発生させ、この応力によりき裂を開口させて顕在化させることができる。このため、各種の非破壊検査装置により、き裂を検出できるとともに、き裂の大きさを精度よく評価することができる。取り扱いが容易な冷却スプレーを使用するため、作業効率に優れ、き裂を含む所定の領域を容易に冷却することができる。また、液体窒素を使用する場合に比べて、冷却ガスの管理も容易である。冷却スプレーを持ち運ぶことにより、任意の箇所で検査することができる。
【0009】
原理的には、熱応力は冷却領域とその周囲との温度差が大きいほど大きくなるため、き裂を効果的に開口させるためには、冷却スプレーは冷却効果が高いものが好ましい。冷却スプレーは、市販のものであってもよく、専用に開発されたものであってもよい。冷却スプレーには、冷却範囲を限定するために、ノズルが取り付けられてもよい。
【0010】
本発明に係る局部冷却装置は、前記所定の領域を囲むよう設けられた冷却領域限定部材を有することが好ましい。本発明に係る局部冷却方法は、前記所定の領域を冷却領域限定部材で囲んだ後、前記所定の領域を前記冷却スプレーにより冷却することが好ましい。この場合、冷却領域限定部材により、冷却範囲を任意の範囲に限定することができ、効率的に冷却を行うことができる。冷却領域限定部材は、断熱効果が高く、冷却領域を限定するのが容易な材料から成ることが好ましく、例えば、発泡スチロール製、木製、ダンボール製、プラスチック製で、枠形状を成していることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、作業効率に優れ、導入が容易な、き裂を顕在化させるための局部冷却装置および局部冷却方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき、本発明の実施の形態について説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施の形態の局部冷却装置および局部冷却方法を示している。なお、本発明の実施の形態の局部冷却方法は、本発明の実施の形態の局部冷却装置により実施される方法である。
図1に示すように、局部冷却装置は、冷却スプレー11と冷却領域限定部材12とを有している。
【0013】
冷却スプレー11は、市販のものから成り、被噴射物の表面を−55度まで冷却可能になっている。冷却スプレー11は、冷却範囲を限定して局所的に冷却するために、ノズル11aが取り付けられている。
【0014】
冷却領域限定部材12は、断熱効果の高い発泡スチロール製で、矩形枠形状を成し、中心部に矩形状の空洞12aを有している。冷却領域限定部材12は、冷却終了後、取り外しが可能になっている。
【0015】
図1に示すように、本発明の実施の形態の局部冷却装置は、金属製の部材1のき裂2を非破壊検査装置によって検出するとき、部材1のき裂2を顕在化させるのに使用される。局部冷却装置は、部材1のき裂2を含む所定の領域を冷却領域限定部材12で囲んだ後、その領域を冷却スプレー11により冷却する。これにより、き裂2の開口方向の応力を発生させ、この応力によりき裂2を開口させて顕在化させることができる。このため、各種の非破壊検査装置により、き裂2を検出できるとともに、き裂2の大きさを精度よく評価することができる。取り扱いが容易な冷却スプレー11を使用するため、作業効率に優れ、き裂2を含む所定の領域を容易に冷却することができる。また、液体窒素を使用する場合に比べて、冷却ガスの管理も容易である。冷却スプレー11を持ち運ぶことにより、任意の箇所で検査することができる。冷却領域限定部材12により、冷却範囲を任意の範囲に限定することができ、効率的に冷却を行うことができる。このように、局部冷却装置によれば、任意の領域を、任意の時間に、簡易的に冷却することが可能である。
【0016】
[有限要素解析]
被検査物に効果的にき裂開口応力を発生させる冷却領域の決定、および、き裂開口応力の大きさを検討するために、有限要素解析を行った。ここで、被検査物である金属製の部材1は、厚さがt、幅がw、長さがlであり、部材1の表面1aには、y−z平面に沿ってx−y平面に平行な表面1bに向かう長さb、深さaの半楕円状のき裂2ができているものとする。また、冷却領域限定部材12は、中心部に、x軸方向にd、y軸方向にcなる空洞12aを有しているものとする。なお、図1中の矢印x、矢印y、矢印zは直交座標軸を示している。
【0017】
このときの解析モデルを図2に示し、解析で使用した物性値を表1に示す。解析モデル3は、l=200mm、w=100mm、t=40mmであり、x、y座標軸が交差するP点を中心としてx軸方向にd、y軸方向にcの四角形状の冷却領域を設定した。冷却領域の寸法を様々に変えて行ったときの冷却前、冷却中および冷却終了後のP点におけるx軸方向の垂直熱応力σxxを解析した。
【0018】
【表1】

【0019】
冷却領域の寸法を様々に変えて行ったときの解析結果を、図3に示す。冷却方法は、図2中の冷却領域の表面に、−55℃の温度を180秒間与えるものとした。冷却温度は、冷却スプレー11の性能に準ずる温度である。図3に示す解析結果より、冷却時は、き裂2の開口方向に十分な大きさの引張り応力が作用しているといえる。また、本発明の実施の形態の局部冷却装置および局部冷却方法を用いることにより、き裂開口応力を効果的に発生させることができることが示唆された。さらに、最適な冷却領域の寸法は、c=30mm、d=30mmであることも確認された。
【0020】
冷却媒体を変えて局部冷却した際に発生する熱応力の解析結果を、図4に示す。冷却方法は、図2中の冷却領域の表面に、各種の冷却媒体に対応する温度を180秒間与えるものとした。図4に示すように、大きな熱応力を発生させるためには、冷却温度の低い冷却媒体を使えばよい。しかしながら、冷却媒体と被検査物との接触状態を考慮すると、スプレー方式が最も接触状態がよく、効果的な局部冷却ができると考えられる。
【0021】
本発明の実施の形態の局部冷却装置および局部冷却方法は、熱により収縮せしめられる部位と、収縮せしめられる部位に連結した部位との組合せにおいて、後者の拘束により、収縮せしめられる部位の収縮を起こりづらくして、収縮せしめられる部位に位置するき裂2を開かせる引張応力を発生させ、き裂2を開かせるようにしたものである。ここに、熱により収縮せしめられる部位と、収縮せしめられる部位に連結した部位との関係は、熱により、より収縮せしめられる部位と、より収縮せしめられる部位に連結したそれより少なく収縮せしめられる部位との関係に置き換えても同様である。なお、欠陥部の熱収縮のみでは、き裂2は開かない。被検査部位を局部冷却することで、冷却部位には熱応力による引張応力が作用し、冷却された部位にき裂2があればき裂2が顕在化するようになり、検査装置によるき裂2の検出、およびき裂2の大きさの評価精度が向上するようになる。
【実施例1】
【0022】
図1に示す局部冷却装置を用いて局部冷却を行った後、交流電位差法および直流電位差法による非破壊評価装置を用いて計測を行った結果を示す。被検査物である金属製の部材1は、疲労き裂2を有するl=200mm、w=100mm、t=40mmのCr−Mo−V鋼であり、き裂2の大きさは、浸透探傷によりb=27mmと計測され、a=7mm程度と推定されるものである。冷却領域限定部材12は、断熱効果が高く空洞12aを作成することが容易である発泡スチロール製であり、空洞12aの大きさはc=30mm、d=30mmである。冷却スプレー11は、市販されている急冷スプレーを使用した。冷却スプレー11は、吹き付けた表面の温度を−55℃まで冷やすことができる。冷却スプレー11による冷却を、180秒間行った。
【0023】
交流電位差法の検査装置は、KARL DEUTSCH社製「き裂深度計RMG4015」であり、直流電位差法の検査装置は、(有)豊洋電子精機社製「高感度き裂計測器」である。図5に示すように、交流電位差法は、電流供給端子4a,4bおよび電位差計測端子5a,5bを、き裂2の中心部をまたぐように四角形状に配置する。電流供給端子4a,4bには交流電源6から測定周波数3500Hzの交流電流が供給され、電位差計測端子5a,5bにより電位差計測を行う。また、図6に示すように、直流電位差法は、電流供給端子7a,7bおよび電位差計測端子8a,8bを、き裂2の中心部をまたぐように直線状に配置する。電流供給端子7a,7bには直流電源9から直流電流が供給され、電位差計測端子8a,8bにより電位差計測を行う。交流電位差法および直流電位差法ともに、き裂2が完全に開いていれば、き裂2の部分では電流が流れず迂回するため、抵抗が大きくなり、き裂2で計測した電位差V1は健全部で計測した電位差V0よりも大きくなる。本原理を利用することにより、き裂2の検出ができるとともに、各電位差法に対応した計測電位差とき裂2の深さとの校正関係式を用いることにより、き裂2の深さを求めることができる。交流電位差法および直流電位差法により、時間毎にき裂2の深さを評価したデータを、表2に示す。
【0024】
【表2】

【0025】
表2に示すように、冷却前は、閉じたき裂2の影響により、両手法による評価き裂2の深さは過小評価されていたが、局部冷却装置により冷却を行ったことにより、き裂2の評価感度が向上したといえる。また、冷却終了後2日経過しても、冷却前と比べてき裂2の評価感度が向上していることが確認された。これは一度開口させた、あるいは閉口圧を弱くさせたき裂2が、元の閉じた状態に戻るのに長時間を要することを示している。なお、実際のき裂2の深さは、7mm程度と推定されるので、直流電位差法の方が交流電位差法よりも正確にき裂2の深さ評価をしているといえる。一方、交流電位差法の方が、冷却前において直流電位差法よりも評価き裂2の深さが小さいことや、直流電位差法よりも冷却前と冷却終了後との評価き裂2の深さの増加率が大きいことから、直流電位差法は、交流電位差法よりも、閉じたき裂2の影響による検出感度の低下を受けにくい評価手法であるといえる。さらに、局部冷却装置によりき裂2の開口応力が働いたが、き裂2は完全に開いてはいないために、交流電位差法では、き裂2の閉口の影響を未だ受けており、評価き裂2の深さが過小評価されているものと考えられる。
【0026】
以上のように、冷却スプレー11による簡易的な局部冷却装置を用いることにより、短時間の局部冷却であっても長時間にわたりき裂2が顕在化することが実証された。なお、閉じたき裂2を検出あるいは正確に深さを評価する場合には、直流電位差法と局部冷却装置の冷却スプレー11とを組合せて、冷却終了後直ちに計測すればよいといえる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
き裂の検査のニーズは、種々の工業分野で極めて多く、本発明に係る局部冷却装置および局部冷却方法をこれらの分野で利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態の局部冷却装置および局部冷却方法を示す斜視図である。
【図2】図1に示す局部冷却装置および局部冷却方法に対する有限要素解析の解析モデルを示す斜視図である。
【図3】図2に示す有限要素解析の解析モデルの、冷却領域の大きさに対する熱応力の時間変化の解析結果を示すグラフである。
【図4】図2に示す有限要素解析の解析モデルの、各種の冷却媒体に対する熱応力の時間変化の解析結果を示すグラフである。
【図5】図1に示す局部冷却装置および局部冷却方法による局部冷却後の、交流電位差法による非破壊評価装置によるき裂の測定状態を示す斜視図である。
【図6】図1に示す局部冷却装置および局部冷却方法による局部冷却後の、直流電位差法による非破壊評価装置によるき裂の測定状態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0029】
1 部材
2 き裂
3 解析モデル
4a,4b 電流供給端子
5a,5b 電位差計測端子
6 交流電源
7a,7b 電流供給端子
8a,8b 電位差計測端子
9 直流電源
11 冷却スプレー
11a ノズル
12 冷却領域限定部材
12a 空洞


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製の部材のき裂を非破壊検査装置によって検出するとき、前記部材のき裂を顕在化させるのに使用される局部冷却装置であって、
前記部材のき裂を含む所定の領域を冷却可能に設けられた冷却スプレーを有することを
特徴とする局部冷却装置。
【請求項2】
前記所定の領域を囲むよう設けられた冷却領域限定部材を有することを特徴とする請求項1記載の局部冷却装置。
【請求項3】
金属製の部材のき裂を非破壊検査装置によって検出するとき、前記部材のき裂を顕在化させる局部冷却方法であって、
前記部材のき裂を含む所定の領域を冷却スプレーにより冷却することを
特徴とする局部冷却方法。
【請求項4】
前記所定の領域を冷却領域限定部材で囲んだ後、前記所定の領域を前記冷却スプレーにより冷却することを特徴とする請求項3記載の局部冷却方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−2713(P2009−2713A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−162005(P2007−162005)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】