説明

局部的に酸化された多孔質シリコンからなる装置、および、その製造方法

本発明は、シリコン基盤上に平面的に形成されたマクロ多孔性支持材を含んだ装置に関するものである。この支持材は、少なくとも1つの表面領域に分布した、直径500nm〜100μmの、複数の細孔を備えている。これらの細孔は、支持材の一方の表面から他方の表面まで貫いて延びている。また、この装置は、SiOからなる細孔壁を有する1つまたは複数の細孔を含んだ、領域を、少なくとも1つ備えている。また、この領域は、細孔の長軸に対してほぼ平行に配置された、支持材の表面方向に開口した枠によって囲まれている。この枠は、シリコン核を有し、壁から構成されている。また、シリコン核は、その断面において、枠を構成する壁の外側方向に向けて、二酸化シリコンとなっている。また、本発明は、この装置の製造方法に関するものである。また、本発明の装置は、生化学(結合)反応の検出方法と、これに関連して特に、ゲノム研究、プロテオーム研究、または、生物学および医学の分野における作用物質研究、の領域において、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、タンパク質−タンパク質間相互作用の研究、及びその他のゲノム研究、プロテオーム研究、または、生物学および医学の分野における活性化因子(Wirkstoff)研究領域における他の結合反応の分析方法とに用いられる「バイオチップベースモジュール」として好適なものである。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、シリコンからなる平面的に形成されたマクロ細孔性(makroporoeses, macroporous)の支持材を備えた装置に関するものである。なお、この支持材は、表面領域の少なくとも一部分に、その表面と対向する面まで貫通した直径500nm〜100μmの細孔(Poren)が複数形成されている。本発明の装置は、SiOからなる複数の細孔壁を有した1つまたは複数の細孔が形成された領域を、少なくとも一部に有している。また、この領域は、シリコン核(Siliziumkern)を有する複数の壁から構成された枠によって囲まれており、この枠は、細孔の長軸に対して略(実質的に)平行に配置されており、支持材の表面に向けて開口した状態で設けられている。また、シリコン核は、その断面全体が(ueber den Querschnitt)、枠を構成する壁の表面に近づくにつれて二酸化シリコンとなっている。また、本発明は、この装置の製造方法に関するものである。さらに、本発明の装置は、生化学的(結合)反応の検出方法と、これに関連して特に、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、タンパク質−タンパク質間相互作用の研究、及びその他のゲノム研究、プロテオーム研究、または、生物学および医学の分野における活性化因子(Wirkstoff)研究領域における他の結合反応の分析方法とに用いられる「生体素子に基づいたモジュール(以下、これをバイオチップベースモジュール(BioChip-Grundmodul)とする)」として好適に用いることができる。
【0002】
分子生物学では、生体および組織についての発見を迅速に行うバイオチップが頻繁に使用されるようになった。生物科学および医療診断の分野では、(生)化学反応の検出、いわゆる所定の検査材料における生物学的に関連する生体分子の検出が非常に重要である。この様な状況下で、いわゆるバイオチップの開発は絶えず追求される。このようなバイオチップは、通常、生物学的および技術的な素子(特に、バイオチップベースモジュールの表面に固定され、特殊な相互作用部材として機能する生体分子)を備えた小型ハイブリッド機能素子である。この機能素子は、構造上、行と列とを有していることが多いことから、「マイクロアレイ」と称される。非常に多くの生物学的または生化学的機能素子をチップ上に配置できるように、それらの素子は、通常、マイクロ加工技術(mikrotechnischen Methoden)を用いて形成される必要がある。
【0003】
生物学的および生化学的機能素子として特に好ましいものとしては、DNA、RNA、PNA、(核酸およびその化学的誘導体では、例えばオリゴヌクレオチドのような1本鎖、3本鎖構造(Triplex-Strukturen)、または、それらの組み合わせとして存在していてもよい)、糖類、ペプチド、タンパク質(例えば、抗体、抗原、受容体)、有機分子といったコンビナトリアルケミストリー(複数の化合物を一度に合成する手法)からの誘導体、細胞内小器官といった細胞構成要素、細胞、多細胞生物、および、細胞集団(Zellverbaende)が挙げられる。
【0004】
バイオチップのなかで最も一般的に普及しているものが、いわゆるマイクロアレイである。マイクロアレイは、例えばガラス、金、プラスチック、または、珪素からなる小さな板(ウェハ)(「チップ」)である。適切な生物学的または生化学的(結合)反応を検出するために、例えば、少量の、様々な可溶性捕捉分子(例えば、公知の核酸配列)を、非常に小さな液滴形状、いわゆる点形状、およびマトリクス状に、バイオチップベースモジュール上に固定化する。
【0005】
実際には、1つのチップにつき、数百から数千の液滴を使用する。その後、検出対象の検体をチップ表面に大量に供給する。この検体は、例えば蛍光標識された標的分子を含んでいてもよい。そして、通常、上述した検体に含まれる標的分子と、固定または固着された捕捉分子との間の様々な化学(結合)反応が生じる。上述したように、この反応または結合を観察するために、標的分子は色素分子部材(通常、蛍光色素)によって標識化されている。蛍光色素によって発せられる光の存在およびその強度を解析することによって、基板上の各液滴の反応状況または結合状況についての情報を得ることができる。その結果、標的分子および/または捕捉分子が存在するかどうか、および/または、それら分子の特性はどのようなものか、がわかる。蛍光標識された検体中の標的分子が、支持基板(バイオチップベースモジュール)の表面に固着された捕捉分子と反応または結合した場合、この反応または結合を、レーザーを用いた光励起、および、蛍光信号の測定によって検出することができる。
【0006】
このようなバイオチップの基板としては、平面的な基板よりも、高くけれども定義された(definierter)細孔率を有する基板のほうが、多くの利点を有している。すなわち、細孔率を有する基板は、その表面積が非常に拡大しているので、検出反応をより多く生じ、このため、生物学的分析の検出感度が高くなる。多孔質基板の表面と裏面との間のチャネル(Kanaele)(細孔)を通して、検体に含まれた標的分子が基板に供給されると、これらの標的分子は、基板の表面と、密接した空間的接触を生じる(10μm未満)。この程度の規模であれば(Auf dieser Groessenskela)、拡散は、検出対象の標的分子と、基板表面に固着された捕捉分子との間の距離を短時間で網羅できる(ueberbrueckt)非常に効果的な輸送手法である。これにより、結合反応速度が加速し、その結果、検出にかかる時間が著しく短縮される。
【0007】
上記のような明確な細孔率を有する基板の一例として、電気化学的に製造された多孔質シリコン(poroesen Silizium)が挙げられる(DE4202454A1、EP0553465A1、または、DE19820756A1参照)。
【0008】
活性化因子研究および臨床診断において今日用いられている分析方法のほとんどが、光学的方法を導入している。すなわち、この光学的方法とは、検出対象物質と捕捉分子との間(例えば、DNAハイブリダイゼーション、抗体抗原相互作用およびタンパク質相互作用)の結合反応(Bindungsereignissen)を検出するためのものである。このような光学的方法を用いる場合、検出対象物質には、励起を受けた後に所定の波長の光を発するマーカー(蛍光方法)か、または、光を発する化学反応を引き起こす(化学発光方法)マーカーが設けられている。検出対象の物質(つまり、標的分子)が、基板表面に固着された捕捉分子と結合すると、例えば、発光によって、光学的な検出ができる。なお、ここで「発光」という文言は、紫外から赤外までのスペクトル域における光子の自然放出を意図している。この発光の励起メカニズムとしては、光学的性質であっても、非光学的性質であってもよく、例えば、電気的プロセス、化学的プロセス、生化学的プロセス、および/または、熱励起プロセスであってもよい。したがって、特に、蛍光および燐光と同様に、化学発光、生物発光、および、電子発光も、本明細書における文言「発光」に含まれることはいうまでもない。
【0009】
しかしながら、光学密度が高く、かつ、反射率が低い多孔質基板(例えば、可視スペクトル範囲における反射率が50〜70%の多孔質シリコン)では、実験的に観察された発光信号の収量(Lichtsignalausbeute)が、理論的に必要な値に全く到達しなければ、蛍光発光方法または化学発光方法のいずれを用いた場合であっても期待通りの結果を得ることができない。このような多孔質基板を使用した場合、実験的に観察された発光信号の収量が理論値よりも低くなる原因としては、1つに、検出対象物質の蛍光の放出、または検出されるための結合に問題があると考えられ、また、もう1つに、蛍光方法が用いられる際における光学的な蛍光の励起に問題があると考えられる。
【0010】
全ての細孔において光(発光)が生じる場合は、細孔壁における反射率が、基板表面への光信号の効果的な輸送に重要な影響力を及ぼす。化学発光の場合、光信号は、空間の全ての方向に等方的に伝送される。結果として、発せられた光のうち、各細孔の開口角度(Oeffungswinkel)でそのまままっすぐに放射される光は、非常に少なく、残りの光の光路は全て、各細孔の開口部に達するまでに、その細孔の細孔壁で何度も反射されている。しかしながら、反射率が100%にわずかに届かない場合であっても、信号の強度は、繰り返し反射することによって著しく低下する。したがって、細孔から生じたこの信号は、非常に減衰しており、全体の信号としてほとんど役に立たない。
【0011】
蛍光励起の問題と関連付けて既に述べた、細孔壁において繰り返された反射による減衰は、発光を放出する際にも、深刻な問題となる。細孔開口部の方向へまっすぐに放射する蛍光体(検体中に含まれる蛍光物質)のみが、蛍光信号として減衰せずに利用することができる。残りの蛍光体が通過する光路は全て、細孔の開口部に達するまでに少なくとも1度は細孔壁において反射される。反射率が100%にわずかに達しない場合であっても、数回の反射光によって、検出対象である光信号の著しい減衰を招く。
【0012】
上述した数回の反射による信号強度の減衰という問題を解決するために、細孔壁での反射損失を低減する反射層を配置することによって、励起光および放出光を細孔からより効率的に放出する方法がこれまでに提案されてきた。しかしながら、この方法では、信号収量の問題を十分には改善できなかった。
【0013】
したがって、本発明は、生化学反応および/または生化学結合を検出するための装置または「バイオチップベースモジュール」を提供することを目的とするものであって、蛍光または化学発光に基づいた分析法において、信号対雑音比の改善とともに絶対信号の収量の向上を図った装置またはモジュールを提供する。これにより、完成したバイオチップを用いた検査の検出感度を向上させることができる。
【0014】
この目的は、特許請求の範囲に記載された内容において達成されるものである。
【0015】
特に、本発明は、シリコンからなる平面的に形成されたマクロ細孔性の支持材(10)を備えた装置を提供するものである。なお、この支持材(10)の表面の少なくとも一領域には、周期的に配置された直径500nm〜100μmの複数の細孔(11)が配設されており、支持材の一方の表面(10A)から他方の表面(10B)まで貫いて延びている。本発明の装置は、SiOからなる細孔壁を有した1つまたは複数の細孔が形成された領域(11A)を、少なくとも一部分に備えている。また、この領域(11A)は、シリコン核(12A)を有する複数の壁からなる枠(12)によって囲まれている。この枠(12)は、細孔の長軸に対して実質的に平行に配置されており、支持材の表面(10A、10B)に向けて開口している。また、このシリコン核は、一断面において(ueber den Querschnitt)、枠を構成する壁の外側に向けて二酸化シリコンとなっている。
【0016】
本発明の装置には、局部的に完全に酸化されたSiOからなる領域がある。すなわち、SiOからなる細孔壁を有した1つまたは複数の細孔が形成された領域がある。これらの完全に酸化された領域は、次に、超格子構造物(Ueberstruktur)によって取り囲まれている。上記完全に酸化された領域は、実質的にシリコンからなる壁によって縁取られて、または、取り囲まれており、シリコンからなるこれらの壁は、表面(10A,10B)方向に開かれた枠または円筒を形成している。なお、この円筒の軸は、細孔に対して平行に延びている。この枠または円筒は、局部的に完全に酸化されたSiOからなる領域を取り囲んでいる。枠を構成している複数の壁は、1つのシリコン核を有しており、支持材の表面方向に切断した状態で見た場合、シリコン核は、壁の外側に向けて二酸化シリコンとなっている。なお、枠または超格子構造物は、任意の形状に形成してもよい。なお、本発明では、枠(12)は、部分枠として1つまたは複数の側で開放されていてもよい。つまり、枠を構成する1つまたは複数の壁がなくてもよい。
【0017】
完全に酸化された領域では、細孔を介して対向するの壁は全てSiOから形成されている。したがって、これらの領域は、特に可視領域の波長の光を透過させる。すなわち、本発明の装置は、SiOからなる透明な領域を局部的に備えているということである。これらの透明な領域は、同様に、シリコン核を有する複数の壁からなる反射枠によって取り囲まれている。言い換えると、完全に透明なSiOからなる領域が部分的に存在しており、これらの領域は、シリコン核を備えた不透明の壁によって、互いに分離されている、いわば本発明の装置における第2の構造である。
【0018】
外側に向けて二酸化シリコンとなっているシリコン核を有した複数の壁からなる枠(12)は、SiOからなる細孔壁を有した1つまたは複数の細孔が形成された領域間における散乱光および光学的クロストークを排除する。このことは、完全に透明である多孔質基板(例えばSiO、ガラスチップ、または、Al)にとっては、非常に大きな利点である。
【0019】
本発明の装置では、平面的に形成されたマクロ多孔性の支持材(10)表面の少なくとも一部分に、通常、周期的に配置されている複数の細孔が配設されている。これらの細孔は、支持材の一方の表面(10A)から他方の表面(10B)まで貫通している。また、本発明では、平面的に形成されたマクロ多孔性の支持材(10)の上に、止まり穴、つまり表面側(10A、10B)のうちの片側へのみ開いた細孔を局部的に備えていてもよい。
【0020】
また、用いられるマクロ多孔性の支持材の細孔の直径は、500nm〜100μmであり、好ましくは2〜10μmである。マクロ多孔質支持材の厚さは、通常100〜5000μmであり、好ましくは300〜600μmである。細孔の中心間(つまり、互いに隣接しているまたは隣り合う2つの細孔)の距離(ピッチ)は、通常、1〜500μmであり、好ましくは3〜100μmである。また、細孔の厚さは、通常、10〜10/cmである。
【0021】
また、本発明の装置中の細孔(11)を、例えば、ほぼ円形または楕円形に形成してもよい。本発明の好ましい実施形態では、SiOからなる細孔壁を備えた細孔(11)は、ほぼ正方形に形成されている。また、シリコン核(12A)を有する壁からなる枠(12)は、正方形または長方形であってもよい。
【0022】
また、本発明は、上述した本発明の装置の製造方法に関するものでもある。具体的に、この方法は、以下の工程(a)〜工程(f)を含むものである。すなわち、
工程(a):表面(10A、10B)を有する、シリコンからなる支持材を準備する。
工程(b):電気化学エッチングによって、支持材の表面(10A)に、支持材の厚さよりも浅い深度を有する止まり穴を形成する。さらに、厚いシリコン壁を有する領域間トランジションを形成するために、略規則的に配列された止まり穴同士の間隔を部分的に変化させる。このとき、止まり穴の間隔を広げることによって、領域間トランジション間のシリコン壁の厚みを、当該領域内におけるシリコン壁よりも厚くする。
工程(c):上記表面(10A)と、工程(b)において形成された止まり穴の表面とにおける少なくとも一部分に、マスク層を配置する。
工程(d):少なくとも止まり穴の底まで支持材を除去し、支持材の表面(10A)から表面(10B)まで貫通する細孔(11)を得る。
工程(e):上記マスク層を除去する。
工程(f):工程(e)で得られた支持材を熱酸化することにより、シリコン壁の厚さに応じて、シリコン壁の薄い領域を完全に酸化する一方、厚いシリコン壁を有する領域間トランジションではシリコン壁を完全に酸化せず、シリコン核を壁内に残した状態とする。
【0023】
工程(a)で供給されたシリコンからなる支持材は、例えば、n型にドープされた単結晶シリコン(Siウェハ)であってもよい。
【0024】
次に、本発明の方法の工程(b)では、シリコンへの電気化学エッチングを行う。このような方法は、例えば、EP0296348、EP0645621、WO99/25026、DE4202454、EP0553465、または、DE19820756に開示されている。なお、これらの文献は、本明細書の全ての範囲に関連しており、したがって、上記文献の開示内容は、本発明の一部に含むものである。このような電気化学エッチングにおいては、例えば1対300以上のアスペクト比を有する止まり穴または細孔を、ほぼ規則的に配置された状態でシリコンにエッチングすることができる。電気化学細孔エッチング方法では、パラメータを適切に選択することにより、一定の限度内で細孔間隔(ピッチ)を変更することができるので、止まり穴または細孔の規則的な配置において、細孔間隔の変更または細孔の一列全てを除去することにより、シリコン壁の厚さを局部的に変更することができる。
【0025】
支持材または基板(Siウェハ)を通過し、2つの表面(10A、10B)で開口している、細孔を得るために、工程(c)、(d)、および、(e)では、止まり穴をエッチングした後で、例えばKOHエッチングによって、Siウェハの下面のシリコンを除去する。この際、他方では、ウェハの上面、および、止まり穴または細孔の内側は、例えば、CVD蒸着によって形成された厚さ例えば100nmの窒化珪素層のようなマスク層によって保護されている。次に工程(e)では、このマスク層を、例えばHF処理によって除去できる。Siウェハの裏面除去には、スパッタリング、レーザーアブレーション、および/または、研磨処理(例えばCMP処理)が適している。
【0026】
これにより、規則的な細孔をマトリクス状に備えたシリコンウェハまたはシリコン支持材が形成される。ここで、これらの細孔とは、ウェハの上面と下面とを互いに結合した、貫通する管のことである。
【0027】
これらの細孔の直径は、製造した後であっても、例えばKOHエッチングによって拡大または拡張することができる。Si(100)を出発物質として用いた場合、このようにエッチングすることにより、その結晶構造により、実質的に正方形の細孔が得られる。例えば、2つの細孔の中心点(ピッチ)間の間隔が12μmである細孔の直径がほぼ5μmであるとすると、これにより、細孔の直径は、例えば5μmから10〜11μmに拡大される。また、細孔間のシリコン壁の厚さは、ここでは、同時に2〜1μmと薄くなる。細孔の深さまたはシリコン壁の長さは、このとき、シリコンウェハの元々の厚さに相当し、下面に細孔を開口する際に除去されるSi層の厚さ分だけ短くなる。
【0028】
工程(f)によって、このようにして得られた格子構造は、例えば温度1100℃、持続時間6秒の酸化といった熱酸化処理によって、当該細孔の壁として機能するように、SiOに変換される。基板(Siウェハ)の構造は、この処理によっては、SiからSiOへの酸化による壁の量が増す以外には、実質的には変わらない。
【0029】
工程(b)において、もし、止まり穴または細孔の間隔が、周期的に、例えば5、10、または、20細孔毎に、例えば1μmだけ拡大されるならば、これにより、細孔(例えば5×5個、10×10個、20×20個)の配列を有した領域からなる超格子構造が得られる。これらの領域間におけるシリコン壁の厚さは、当該領域の内部シリコン壁の厚さよりも、細孔間隔の拡大した大きさだけ大きくなる。続く工程(f)(酸化工程)で、薄いシリコン壁を有した上記領域は、完全にSiOに酸化される。しかしながら、壁の厚さが厚い領域間の境界では、シリコン壁は完全には酸化されない。その結果、シリコン核が壁に残る。このとき、シリコン核は、断面としてみれば、枠を形成すする壁の外側方向に向けて二酸化シリコンとなっている。これにより、完全に透明なSiOからなる領域が、部分的に生じる。この領域は、シリコン核を有する不透明な壁によって互いに分離されている。
【0030】
リンカー分子の塗布または結合は、上記に続いてすぐに行ってもよい。なお、リンカー分子が、SiO層の表面に位置するOH基と共有結合できる場合、および、生物化学反応においてプローブとして用いられる捕捉分子と共有結合できる官能基を備えている場合は、リンカー分子として特に制限はない。このようなリンカー分子は、通常、シリコン有機化合物(Silicium-organischen Verbindung)からなる。このような二機能性を有するシリコン有機化合物としては、例えば、エポキシ、グリシジル、クロロ、メルカプト、または、アミノから選択された、1つまたは複数の末端官能基とのアルコキシシラン化合物であってもよい。このアルコキシシラン化合物は、3‐グリシドキシプロピルトリメトキシシランのようなグリシドキキアルキルアルコキシシラン、例えばγ‐メルカプトプロピルトリメトキシシランのようなメルカプトアルキルアルコキシシラン、または、N‐β‐(アミノエチル)γ‐アミノプロピルトリメトキシシランのようなアミノアルキルアルコキシシランであることが好ましい。例えばエポキシまたはグリシドキシといった捕捉分子またはプローブと結合する官能基と、トリアルコキシシラン基との間のスペーサーとして機能するアルキレン残基の長さには、制限はない。このようなスペーサーは、ポリエチレングリコール残基であってもよい。
【0031】
バイオチップの調製を完了するために、オリゴヌクレオチドまたはDNA分子のような捕捉分子を、リンカー分子を介して支持材に結合または連結させる。この結合または連結は、従来公知の方法に従って、例えば多孔性材を処理するといった方法によって実施することができる。エポキシシランがリンカー分子として用いられた場合には、対応する分析方法において、調査される検体内の標的分子に対する固定または固着された捕捉分子として機能するオリゴヌクレオチドまたはDNA分子の末端第一級アミノ基またはチオール基と、エポキシシランの末端エポキシド基とが反応して、結果として、捕捉分子と支持材とが結合または連結することになる。
【0032】
ここでは、例えば、捕捉分子として用いられるオリゴヌクレオチドを、Tet. Let. 22、1981年、1859〜1862ページに記載されているような合成方法を用いて製造できる。これらのオリゴヌクレオチドを、この場合、合成の間に、5‐または3‐末端において、末端アミノ基と誘導化(derivatisieren)してもよい。また、このような捕捉分子を細孔の内壁表面に結合する他の方法として、以下のような方法を実行してもよい。すなわち、まず、基板を、Cl、SOCl、COCl、または、(COCl)のような塩素源を用いて、またこの際、場合によっては、過酸化物、アゾ化合物、または、BuSnHのような、基反応開始剤も用いて、処理し、続いて、上記基板を、対応する求核性化合物、特に、末端第一級アミノ基またはチオール基を有するオリゴヌクレオチドまたはDNA分子を有するような求核性化合物と反応させることによっても実行することができる(参照:WO 00/33976)。
【0033】
また、本発明の装置は、マイクロアレイの密度を有する96サンプル支持(Probentraegers)の機能を有していてもよい。さらに、本発明の装置に、従来技術によって得られるマイクロチップ技術を、本発明の装置に基づけば、対応させることができる。
【0034】
本発明の装置はまた、特に、細孔壁上における、局部的に制限された、光制御された分子の合成に適している。したがって、本発明は、化学反応または生化学反応または合成の制御方法に関するものでもある。この方法とは、以下の3つの工程を含むものである。すなわち、
−本発明の装置またはバイオチップを調製する工程と、
−支持材の細孔のうちの少なくとも1つに合成物質を挿入する工程と、
−上記合成物質を少なくとも光励起させるために、細孔に光を照射させる工程とを含んでいる。
【0035】
平面基板については、例えばEP0619321およびEP0476014に、光制御合成の方法が記載されている。構造および光によって制御された合成方法に関するこれらの文献の開示内容は、全範囲に関係している。したがってこれらの文献は、この点で、本発明の出願の開示内容に含まれるものである。細孔に効率のよく光を拡散させることにより、細孔壁において、光化学反応を実施または制御できる。特に、複雑な一連の、光制御された光化学反応を、細孔境界面において行うことができる。
【0036】
各細孔間または領域/区画(Kompartments)間の光学的クロストークは、実質的にシリコンから形成された反射壁によって回避される。したがって、平面的な基板上での光制御合成に関する主な問題は、解決される。
【0037】
次に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1Aは本発明に関する装置の実施形態を示す概略平面図であり、図1Bは、本発明に関する装置の実施形態を示す断面図である。また、図2A・Bは、支持材の上部(および下部)領域に放射できる発光量(lumineszierendes Volumen)を、開口角度αとともに示したものであり、図2Aは、シリコン壁によって完全に取り囲まれている従来における1つの細孔あたりの開口角度αを示しており、図2Bは、本発明の装置における1つの細孔あたりの開口角度αを示している。
【0038】
図1A・Bでは、本発明の装置の実施形態を、簡略化して示したものであり、一方は平面図(図1A)であり、他方は断面図(図1B)である。本発明の装置は、ここで、完全に酸化された領域(11A)を備えている。この領域は、実質的に正方形の形状をした複数の細孔を含んでおり、これらの細孔は、SiOからなる細孔壁を有している。これらの領域(11A)は、表面(10A、10B)に向かって開口している枠(12)によって取り囲まれている。この枠は、シリコン核(12A)を有し、壁によって構成されている。ここでは、シリコン核は、断面において、枠を構成している壁の外側方向に向けて二酸化シリコンとなっている。
【0039】
図2A・Bは、支持材の上部(および下部)領域に放射できる発光量を、開口角度αとともに示したものであり、図2Aは、シリコン壁によって完全に取り囲まれている従来における1つの細孔あたりの開口角度αを示しており、図2Bは、本発明の装置における1つの細孔あたりの開口角度αを示している。シリコン壁によって完全に取り囲まれている従来の細孔の場合(図2A)と比べて、本発明の装置の細孔のほうが、開口角度が著しく大きいことがわかる。アスペクト比(細孔における、酸化された領域の開口部/長さ)をより小さくすることによっても、細孔の開口部に達するまでに必要となる所定の角度で貫く光の反射数も減少することになる。本発明の装置は、透明領域の存在しない多孔質性シリコン基板と比べて、蛍光分析法または化学発光分析法における、絶対信号の収量を著しく改善するものである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1A】本発明に関する装置の実施形態を示す概略平面図である。
【図1B】本発明に関する装置の実施形態を示す断面図である。
【図2A】支持材の上部(および下部)空間に放射できる発光量とともに、開口角度αを示している図であり、この開口角度αは、シリコン壁によって完全に取り囲まれている従来の細孔における開口角度を示している。
【図2B】支持材の上部(および下部)領域に放射できる発光量とともに、開口角度αを示している図であり、この開口角度αは、本発明の装置の細孔における開口角度を示している。
【符号の説明】
【0041】
10 シリコンからなる支持材
10A、10B 支持材の表面
11 細孔
11A SiOからなる細孔壁を有した1つまたは複数の細孔が形成された領域
12 シリコン核を有した複数の壁からなる枠
12A シリコン核
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンからなる平面的に形成されたマクロ多孔性の支持材(10)を備えた装置であって、上記支持材の表面領域における少なくとも一部分には、その一方の表面(10A)から他方の表面(10B)まで貫通した、直径500nm〜100μmの複数の細孔(11)が設けられており、
SiOからなる細孔壁を有する1つまたは複数の細孔が設けられた少なくとも一領域(11A)を有しており、
上記領域(11A)は、枠(12)によって囲まれており、
この枠(12)は、シリコン核(12A)を有する複数の壁から形成され、上記の細孔の長軸に対してほぼ平行に配置されているとともに、支持材の表面(10A、10B)で開口しており、
上記のシリコン核(12A)は、その断面全体が、枠(12)を形成している壁の表面に近づくにつれて二酸化シリコンとなることを特徴とする装置。
【請求項2】
上記支持材(10)の厚さが、100〜5000μmであることを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項3】
上記細孔の密度が、10〜10/cmの範囲にあることを特徴とする請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
SiOからなる細孔壁を備えた上記の細孔(11)は、略正方形に形成されており、シリコン核(12A)を有する複数の壁から形成された枠(12)は、略正方形または長方形であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
DNA、蛋白質、およびリガンドからなる群から選択された捕捉分子が、上記細孔(11)のうちの少なくとも1つと、少なくとも局部的に共有結合されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
上記捕捉分子は、末端アミノ基またはチオール基を介してリンカー分子に結合されるオリゴヌクレオチドプローブであり、上記リンカー分子は、共有基および/またはイオン基を介して、細孔(11)に結合されることを特徴とする請求項5に記載の装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置の製造方法であって、以下の工程(a)〜(f)を含むことを特徴とする製造方法。
工程(a):シリコンからなる、表面(10A、10B)を有する支持材を調製する。
工程(b):電気化学エッチングによって、支持材の表面(10A)に、支持材の厚さよりも浅い深度を有する止まり穴を形成する。さらに、厚いシリコン壁を有する領域間トランジションを形成するために、略規則的に配列された止まり穴同士の間隔を部分的に変化させる。このとき、止まり穴の間隔を広げることによって、領域間トランジション間のシリコン壁の厚みを、当該領域内におけるシリコン壁よりも厚くする。
工程(c):上記表面(10A)と、工程(b)において形成された止まり穴の表面とにおける少なくとも一部分に、マスク層を配置する。
工程(d):少なくとも止まり穴の底まで支持材を除去し、支持材の表面(10A)から表面(10B)まで貫通する細孔(11)を得る。
工程(e):上記マスク層を除去する。
工程(f):工程(e)で得られた支持材を熱酸化することにより、シリコン壁の厚さに応じて、シリコン壁の薄い領域を完全に酸化する一方、厚いシリコン壁を有する領域間トランジションではシリコン壁を完全に酸化せず、シリコン核を壁内に残した状態とする。
【請求項8】
上記マスク層をSiから構成することを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
工程(d)における支持材の除去を、KOHを用いたエッチング、または、CMP処理によって行うことを特徴とする請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
工程(d)において形成した細孔を、工程(e)によって処理する前に拡大または拡張することを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
Si(100)を支持材として用い、工程(d)で形成した細孔の直径を、工程(e)によって処理する前にKOHを用いたエッチングによって拡大されることによって略正方形の細孔を得ることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置の使用であって、以下の(1)および(2)としての使用。
(1)生化学的反応および/または生化学的結合の検出方法に使用する被検体支持体。
(2)上記の(1)に関し、特に、酵素反応、核酸ハイブリダイゼーション、タンパク質とタンパク質との相互作用、および、タンパク質とリガンドとの相互作用を研究するための装置。
【請求項13】
化学的または生化学的反応、あるいは化学的または生化学的合成の制御方法であって、
請求項1〜6のいずれか1項に記載の装置を準備する工程と、
上記支持材の細孔の少なくとも1つに合成物質を挿入する工程と、
上記合成物質を少なくとも光励起するために、細孔に光を照射する工程とを含むことを特徴とする制御方法。

【公表番号】特表2006−512563(P2006−512563A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2003−586607(P2003−586607)
【出願日】平成15年3月28日(2003.3.28)
【国際出願番号】PCT/EP2003/003293
【国際公開番号】WO2003/089925
【国際公開日】平成15年10月30日(2003.10.30)
【出願人】(501209070)インフィネオン テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト (331)
【Fターム(参考)】