説明

屋内塵性ダニ防除効力増強方法、屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物、屋内塵性ダニの防除方法

【課題】有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強できる方法、ならびに屋内塵性ダニに対して高い防除効力を発揮するくん煙剤組成物および防除方法の提供。
【解決手段】有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強させる方法であって、前記有効成分として(RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、前記有効成分をくん煙により揮散させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋内塵性ダニに対する防除効力を増強できる方法、屋内塵性ダニ用くん煙剤組成物および屋内塵性ダニの防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
屋内塵性ダニは、家庭内に幅広く生息し、気管支喘息や鼻炎、皮膚炎などのアレルギー疾患のアレルゲンとして重要視されている。屋内塵性ダニの防除には、畳や絨毯を除去してフローリングとする大規模な対策や、布団カバーなどの寝具類に高密度繊維を使用するなどの物理的対策、殺虫剤を用いた化学的防除が行われている。
一方、ダニ、ゴキブリ等の屋内害虫の防除用の殺虫剤としては、フェノトリン、ペルメトリンなどのピレスロイド系化合物やメトキサジアゾンなどのオキサジアゾール系化合物を有効成分とするものが一般的に用いられている(たとえば特許文献1)。また該殺虫剤の剤型としては、粉剤、粒剤、エアゾール剤、くん煙剤などが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−101510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、安全性、経済性等の向上のために、屋内塵性ダニの防除を行う際の殺虫剤の用量の低減が求められている。しかしながら、これまで屋内害虫の防除に一般的に用いられている殺虫剤は、用量を通常量よりも少なくすると、用量依存的に屋内塵性ダニに対する防除効力も低下し、充分な防除効果が得られない。そのため、屋内塵性ダニに対する防除効力の向上と用量の低減とを両立できる技術が求められる。
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであって、有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強できる方法、ならびに屋内塵性ダニに対して高い防除効力を発揮するくん煙剤組成物および防除方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討の結果、屋内塵性ダニの防除を行う際、特定のピレスロイド系化合物をくん煙剤として使用すると、その用量あたりの防除効力が、他の剤型で使用した場合よりも大幅に増強されることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、以下の態様を有する。
[1]有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強させる方法であって、
前記有効成分として(RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、
前記有効成分をくん煙により揮散させることを特徴とする屋内塵性ダニ防除効力増強方法。
[2](RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートと、発熱性基剤とを含有することを特徴とする屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物。
[3][2]に記載の屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物を屋内にて加熱することを特徴とする屋内塵性ダニの防除方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強できる方法、ならびに屋内塵性ダニに対して高い防除効力を発揮するくん煙剤組成物および防除方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<屋内塵性ダニ防除効力増強方法>
本発明の屋内塵性ダニ防除効力増強方法(以下、効力増強方法ということがある。)は、有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強させる方法であって、有効成分として(RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラート(以下、化合物Aということがある。)を用いる。
ここで、本明細書および特許請求の範囲において、有効成分とは、屋内塵性ダニ防除効力を有する成分を意味する。
屋内塵性ダニは、屋内に生息するダニであり、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ、ケナガコナダニ、ムギコナダニ、コウノホシカダニ、サヤアシニクダニ、ミナミツメダニ、フトツメダニ、サトウダニ、イエササラダニ、カザリヒワダニ等が挙げられる。
化合物Aは、下記構造式(A)で表される。
【0008】
【化1】

【0009】
化合物Aは、ハエ、蚊、ゴキブリ、ダニなどの衛生害虫や鱗翅目、鞘翅目、直翅目の農業害虫の防除効力を有するとされている。しかしこれまで、化合物Aをくん煙剤の有効成分として配合した製品はこれまで知られていなかった。その理由として以下のことが考えられる。後述する試験例1の評価試験(1)〜(2)の結果に示すように、有効成分を直接接触させる処理方法(以下、直接接触処理ということがある。)やその溶液を噴霧する処理方法(以下、噴霧処理ということがある。)で屋内塵性ダニに対する防除抗力を評価した場合、処理量が同一であると、化合物Aの防除効力は、他のピレスロイド系殺虫剤、たとえば屋内塵性ダニの代表的な防除成分として用いられているフェノトリンに比べて大幅に小さかったためと考えられる。
【0010】
化合物Aは、通常、複数の立体異性体を含有するが、そのうちのいずれか1種の単独でも、あるいは2種以上の混合物でも任意の割合でいずれを用いてもよい。立体異性体としては、例えば(S)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1R)−シス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、(R)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1S)−シス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、(S)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1R)−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレート、(R)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1R)−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシレート等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0011】
くん煙による化合物Aの揮散は、たとえば化合物Aを発熱性基剤と配合してくん煙剤組成物とし、該くん煙剤組成物を加熱することにより実施できる。
このように化合物Aをくん煙により揮散させることで、直接接触処理または噴霧処理を行う場合に比べて、化合物Aの屋内塵性ダニに対する防除効力が大幅に増強される。そのため、該揮散を屋内にて行うことにより、当該屋内における屋内塵性ダニの防除を効果的に行うことができる。たとえば直接接触処理または噴霧処理と同じ用量であっても、その防除効果は大幅に向上する。また、直接接触処理または噴霧処理の場合に所望の防除効果を得るために要した用量よりも少ない用量で、同等の防除効果を得ることができる。
くん煙剤組成物および該くん煙剤組成物を用いた屋内塵性ダニの防除方法は、詳しくは以下に屋内塵性ダニ用くん煙剤組成物、屋内塵性ダニの防除方法として説明する。
【0012】
<屋内塵性ダニ用くん煙剤組成物>
本発明の屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物(以下、くん煙剤組成物という。)は、前記化合物Aと、発熱性基剤とを含有する。
本発明のくん煙剤組成物中、化合物Aの配合量は、発熱性基剤の種類によっても異なるが、通常、当該くん煙剤組成物の全質量に対して0.5〜50質量%の範囲内で、防除効果、経済性、安全性等を考慮して設定される。該配合量は、防除効果の点から、0.5質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましい。また、経済性や安全性の点から、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
屋内塵性ダニに対する防除効果は、化合物Aの沈降量(mg/m)に対応する。本発明でいう化合物Aの沈降量(mg/m)は、当該くん煙剤組成物により屋内の処理を行った際に当該屋内に揮散する化合物Aの量(揮散量(mg))が室内密閉終了時に沈降する量であると仮定し、該量を、該屋内の床面積(m)で除することにより求められる。以下、該沈降量を処理量ということがある。
該処理量は、防除効果の点から、25mg/m以上が好ましく、50mg/m以上がより好ましい。また、該処理量は、安全性や経済性を考慮すると、200mg/m以下が好ましく、150mg/m以下がより好ましい。
【0013】
発熱性基剤としては、くん煙剤に用いられている公知の発熱性基剤を使用できる。具体的には、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミド、p・p’−オキシビス(ベンゼンスルホニルヒドラジド)、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン、ニトログアニジン、硝酸グアニジン、硝酸アンモニウムなどの、熱分解して多量の熱を発生させるとともに炭酸ガスや窒素ガスなどを発生させるものが挙げられ、いずれかを単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ニトロセルロース、アゾジカルボンアミドまたはそれらの混合物が好ましい。
くん煙剤組成物中、発熱性基剤の配合量は、使用する発熱性基剤の種類によって適した配合量が異なるため、その種類に応じて設定される。たとえばニトロセルロースを単独で使用する場合は、くん煙剤組成物の全質量に対して25〜40重量%が好ましい。アゾジカルボンアミドを単独で使用する場合は、くん煙剤組成物の全質量に対して40〜95重量%が好ましい。
これらを併用する場合は、アゾジカルボンアミドの配合量を、くん煙剤組成物の全質量に対して40〜95質量%とすることが好ましい。また、ニトロセルロースの配合量は、アゾジカルボンアミドに対する重量比(ニトロセルロース/アソジカルボンアミド)が1/12〜3/8の範囲内となる量とすることが好ましい。
【0014】
くん煙剤組成物は、さらに、必要に応じて、増量剤、粘結剤、燃焼調節剤等の添加剤を含有してもよい。
増量剤としては、クレー、タルク、珪藻土、ベントナイト、カオリン、炭酸カルシウム等が挙げられる。
粘結剤としてはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、デンプン、ポリビニルアルコール等が挙げられる。
燃焼調節剤としてはメラミン、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
これらの添加剤はいずれか1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、その配合量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。
【0015】
本発明のくん煙剤組成物は、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物A以外の殺虫成分を含有してもよい。該殺虫成分としては公知のものが使用でき、具体的には、メトキサジアゾン、プロポクスル、アミドフルメット、化合物A以外の各種ピレスロイド化合物等が挙げられる。化合物Aとこれらの殺虫成分とを混合して配合すると、屋内塵性ダニだけでなく、ゴキブリ、ハエ、蚊、トコジラミ、ノミなど、より広範な屋内害虫群に対する防除効果が期待できる。
本発明のくん煙剤組成物は、共力剤を含有してもよい。これにより、さらなる効力増強が期待できる。共力剤としては、たとえばピペロニルブトキサイド、サイネピリン222(MGK−264)、リーセン384、IBTA、S−421等が挙げられる。
また、一般に用いられている害虫忌避剤や殺菌剤、防黴剤、殺ダニ活性を有する香料成分等を含有してもよい。これにより、より広範な効果が期待できる。
【0016】
くん煙剤組成物は、通常、顆粒剤、錠剤等の剤型に製剤化される。製剤化は、剤型に応じ、公知の方法により実施できる。
【0017】
<屋内塵性ダニの防除方法>
本発明の防除方法は、前記本発明のくん煙剤組成物を屋内にて加熱することにより行われる。これにより、揮散した化合物Aがくん煙とともに屋内に拡散、沈降して高い防除効果を発揮する。
くん煙剤組成物の加熱方法は、特に限定されず、一般的なくん煙剤の使用方法と同様であってよい。通常、くん煙用の容器内に収容して加熱する方法が用いられる。このときの加熱方式としては、酸化カルシウムと水との反応熱を利用して発熱性基剤を加熱するもの(間接加熱方式)、マッチ頭薬などを用い、発熱体(点火具)により製剤の一部を加熱して発熱性基剤の自己分解反応を行わせるもの(直接加熱方式)等が挙げられ、いずれの加熱方式を用いてもよい。
くん煙剤組成物の使用量(たとえば容器内へのくん煙剤組成物の収容量)は、化合物Aの処理量が所望の範囲内となるように、処理される屋内の大きさ(容積、床面積等)に応じて適宜設定される。
くん煙剤組成物の加熱が行われている間、屋内空間は通常、密閉状態とする。
【実施例】
【0018】
本発明について、実施例を示してさらに具体的に説明する。ただし本発明はこれらに限定されるものではない。
以下の各例で使用した原料は以下のとおりである。
化合物A:和光純薬工業社製「シフルトリン標準品」(異性体混合物、純度:異性体混合物として98%、性状:常温常圧(25℃、100kPa)下でペースト状)。
フェノトリン:住友化学社製「フェノトリン」(3−フェノキシベンジル d−シス,トランス−クリサンテマート、性状:常温常圧下で液状)。
【0019】
<試験例1>
目的:化合物Aの屋内塵性ダニに対する殺虫効力に与える剤型の影響の評価。
試験方法:以下の評価試験(1)(バイアル内での原体直接接触による効力評価、比較試験)、評価試験(2)(カーペットへの原体噴霧による効力評価、比較試験)、評価試験(3)(くん煙剤としての効力評価)を行った。
【0020】
[評価試験(1)(バイアル内での原体直接接触による効力評価、比較試験)]
化合物Aをアセトンに溶解してアセトン希釈液を調製した。このとき、アセトン希釈液中の化合物A濃度は、該アセトン希釈液0.2mLを内径27mm、高さ42mmのガラス製バイアル内に滴下して該バイアルの内表面を均一に処理した際に、該内表面に付着する化合物A量が100mg/mとなるようにした。
該アセトン希釈液0.2mLを上記バイアル内に滴下し、その内表面を均一に処理した。30分間風乾した後、該バイアル内にコナヒョウヒダニ30個体を入れた。それから48時間後、バイアル内の死亡個体数を実体顕微鏡により計測し、死亡率(%)を求めた。
死亡率(%)=死亡個体数/30×100
【0021】
同じ評価をさらに2回(合計3回)実施し、その平均値を求めた。結果を表1に示す。
また、化合物Aの代わりに、対照化合物として、屋内塵性ダニの代表的な防除成分であるフェノトリンを用いた以外は前記と同じ評価を行った。結果を表1に示す。
表1に示すとおり、直接接触させた場合、処理量(100mg/m)が同じであるにもかかわらず、化合物Aの方がフェノトリンよりも大幅に死亡率が小さく、化合物Aの屋内塵性ダニ防除効力が低いことが示された。
【0022】
【表1】

【0023】
[評価試験(2)(カーペットへの原体噴霧による効力評価)]
化合物Aをアセトンに溶解してアセトン希釈液を調製した。このとき、アセトン希釈液中の化合物A濃度は、該アセトン希釈液5mLを16×10cmのカーペットに均一に噴霧した際に、該カーペットに付着する化合物A量が100mg/mとなるようにした。
コナヒョウヒダニを増殖させたカーペット(16×10cm)に上記アセトン希釈液を小型噴霧器により均一に噴霧し、30分風乾させた。これを「処理区」とした。
また、アセトン希釈液の代わりにアセトンのみを用いて前記処理区と同じ処理を行い、これを「無処理区」とした。
噴霧(処理)してから所定日数経過後(2日後、7日後または27日後)に各カーペット内の生ダニ数を数え、処理区の生ダニ数と無処理区のダニ数との比較から、下記式により減少指数(%)を算出した。
【0024】
【数1】

【0025】
同じ評価をさらに3回(合計4回)実施し、その平均値を求めた。結果を表2に示す。
また、化合物Aの代わりに、対照化合物としてフェノトリンを用いた以外は前記と同じ評価を行った。結果を表2に示す。
表2に示すとおり、噴霧処理の場合、処理量(100mg/m)が同じであるにもかかわらず、化合物Aの方がフェノトリンよりも大幅に減少指数が小さく、特に27日経過時には7日経過時よりも小さくなっていた。
これらの結果から、噴霧処理の場合、化合物Aは、フェノトリンに比べて屋内塵性ダニ防除効力が低く、その持続性も低いことが示された。
【0026】
【表2】

【0027】
[評価試験(3)(くん煙剤としての効力評価)]
(3−1.くん煙剤組成物の製造)
表3に示す各成分および水を常法により混合、練合し、造粒した後、乾燥して、顆粒状のくん煙剤組成物を得た。表3中の配合量の単位は質量%である。
【0028】
【表3】

【0029】
(3−2.効力評価)
コナヒョウヒダニを増殖させたカーペット(16×10cm)を容積0.5mのチャンバー(65×65×120cm)の底面上に設置した。該チャンバー内にて、実施例1または比較例1のくん煙剤組成物0.25gをホットプレートにより加熱してくん煙を開始させた。くん煙開始から2時間該チャンバーを密閉し、くん煙処理を行った。処理終了後、チャンバーから取り出したカーペットは25℃、湿度75%の条件下に維持した。これを「処理区」とした。
また、くん煙処理を行わなかった以外は同じ処理を行い、これを「無処理区」とした。
くん煙処理終了時から所定日数経過後(2日後、7日後または27日後)に各カーペット内の生ダニ数を数え、処理区の生ダニ数と無処理区のダニ数との比較から、前記評価試験(2)と同様の手順で減少指数(%)を算出した。
同じ評価をさらに3回(合計4回)実施し、その平均値を求めた。結果を表4に示す。
【0030】
【表4】

【0031】
(3−3.揮散率測定)
また、上記くん煙処理における実施例1、比較例1のくん煙剤組成物中の有効成分(化合物Aまたはフェノトリン)の揮散率(%)を、以下の手順で求めた。
実施例1及び比較例1の顆粒0.25gをアルミカップに入れ、350℃に熱したホットプレートで蒸散させた。発生する煙をシリカゲルに吸着させ、シリカゲル中の有効成分を抽出した後、ガスクロマトグラフィーにて揮散量を測定した。顆粒に含まれる有効成分量に対する揮散量の割合を揮散率(%)として算出した。
その結果、化合物Aの揮散率は68%、フェノトリンの揮散率はほぼ100%であった。
このことから、上記効力評価にて、くん煙処理時に0.25gのくん煙剤組成物中の揮散した有効成分の全量がチャンバー底面に沈降した場合、その沈降量は化合物Aが約40mg/m、フェノトリンが59mg/mとなる。
通常、チャンバー密閉時間内に全ての有効成分が沈降することはないので、本試験における実際の沈降量はこれらの値以下と考えられる。
【0032】
前記評価試験(1)〜(2)の結果に示すように、直接接触または噴霧による処理を同一の処理量で行う場合、化合物Aとフェノトリンとでは、フェノトリンの方が大幅にダニに対する防除効力が大きい。また、実施例1のくん煙剤組成物は、上述したように、比較例1のくん煙剤組成物よりも揮散率が低く、有効成分の処理量が少ない。それにもかかわらず、実施例1のくん煙剤組成物は、比較例1よりも減少指数が高く、優れた防除効力を発揮した。
また、実施例1における化合物Aの処理量は、上述したように約40mg/mであり、前記評価試験(2)での化合物Aの処理量(100mg/m)の半分以下である。それにもかかわらず、実施例1の減少指数は、2日後、7日後ともに評価試験(2)の同時点の減少指数よりも30%近く上昇し、27日後では40%以上も上昇していた。
一方、比較例1のくん煙剤組成物の減少指数は、評価試験(2)においてフェノトリンを用いた場合の減少指数とほぼ同等かそれよりも小さかった。
これらの結果から、化合物Aは、くん煙剤として使用することでダニに対する防除効力が大きく増強されること、このような増強効果が化合物Aに特異的なものであること、が確認された。
【0033】
<実施例2〜8>
表5に示す各成分および水を常法により混合、練合し、造粒した後、乾燥して、顆粒状のくん煙剤組成物を得た。表5中の配合量の単位は質量%である。また、「残部」は全量が100質量%となる量である。
各くん煙剤組成物について、前記試験例1の評価試験(3)における(3−2.効力評価)と同様の効力評価を行ったところ、いずれもコナヒョウヒダニに対する優れた防除効力を示した。
【0034】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明においては、化合物Aをくん煙剤として使用することにより、屋内塵性ダニに対する防除効力が大幅に増強できる。たとえば他の剤型では化合物Aよりも防除効力が高い殺虫成分(たとえばフェノトリン)と比べても高い防除効果が得られる。また、化合物Aを同一量、他剤型にて処理する場合よりも高い防除効果が得られる。そのため、同等の防除効果を得るための化合物Aの用量を他剤型よりも低減できる。したがって、本発明によれば、屋内塵性ダニに対する優れた防除効力に加え、高い安全性と経済性が期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効成分の屋内塵性ダニに対する防除効力を増強させる方法であって、
前記有効成分として(RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートを用い、
前記有効成分をくん煙により揮散させることを特徴とする屋内塵性ダニ防除効力増強方法。
【請求項2】
(RS)−α−シアノ−4−フルオロ−3−フェノキシベンジル(1RS)−シス−トランス−3−(2,2−ジクロロビニル)−2,2−ジメチルシクロプロパンカルボキシラートと、発熱性基剤とを含有することを特徴とする屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の屋内塵性ダニ防除用くん煙剤組成物を屋内にて加熱することを特徴とする屋内塵性ダニの防除方法。

【公開番号】特開2011−153108(P2011−153108A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−16876(P2010−16876)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】