説明

屋外用部品

【課題】屋外用部品において、外観の意匠性を向上させる。
【解決手段】アルミニウム合金製の部品本体10表面には、着色アルマイト処理により形成されたカラーアルマイト11と、カラーアルマイト11の表層側にプラズマイオン注入処理により特定の元素が傾斜状に形成された傾斜層12と、傾斜層12の表層側にプラズマイオン成膜処理により形成されたDLC層13とが形成されている。DLC層13の膜厚は、0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように薄く形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋外用部品、特に、屋外で使用される屋外用部品に関する。
【背景技術】
【0002】
屋外で使用されることが多いリール等の釣り用品に使用される屋外用部品、特にアルミニウム合金製の屋外用部品には、表面にアルマイトが形成されたものが知られている(たとえば、特許文献1参照)。アルマイトは、アルミニウム合金を陽極酸化処理して形成される表面処理膜層である。このようなアルマイトを部品本体の表面に形成すると、アルミニウム合金製の部品本体が腐食雰囲気に直接曝されなくなり、耐食性を向上させることができる。
【0003】
また、この種のアルマイトには、アルマイト処理により形成される複数の微細孔に色素を沈着させる着色アルマイト処理が行われているものが知られている。このような着色アルマイト処理によってカラーアルマイトが形成されている場合には、たとえば外観に露出するリール本体を着色できるので、外観の意匠性を向上させることができる。
【特許文献1】特開2003−166097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来のアルミニウム合金製の部品本体では、部品本体の表面にアルマイトが形成されているので、耐食性を向上できる。しかし、このようなアルマイトが形成された部品本体では、たとえばリールを落下させたときに、アルマイトの表面が傷付いて部品本体が腐食雰囲気に曝され、部品本体の耐食性が損なわれるおそれが生じる。
【0005】
そこで、アルマイトの表層側にDLC(Diamond Like Carbon、ダイヤモンドライクカーボン)層を形成することが考えられる。このようなDLC層は、一般に、高硬度かつ耐摩耗性及び滑り性のある特性を有しているので、リールを落下させても表面が傷付きにくくなり、このため部品本体の耐食性を高く維持できる。
【0006】
しかし、DLC層は、一般に、黒色又は濃い灰色を呈する表面を形成しているので、着色アルマイト処理によってカラーアルマイトが形成されている場合でも、カラーアルマイトの色が外観に露出しにくい。このようにカラーアルマイトの色が外観に露出しないと、所望の色を発色することができず、このため外観の意匠性が低下するおそれがある。
【0007】
本発明の課題は、屋外用部品において、外観の意匠性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明1に係る屋外用部品は、釣りに用いられる屋外用部品であって、アルミニウム合金製の部品本体と、部品本体の表層側に着色アルマイト処理により形成されたカラーアルマイト層と、カラーアルマイト層の表層側にDLC成膜処理により膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように形成されたを備えている。
【0009】
この屋外用部品では、アルミニウム合金製の部品本体上に、カラーアルマイト層と、膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるDLC層とが順に形成されている。ここでは、DLC層の膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように薄く形成されているので、カラーアルマイト層の表層側にDLC層を形成しても、カラーアルマイト層の色を外観に露出させることができる。したがって、このようなカラーアルマイト層及びDLC層によって、硬度、耐摩耗性及び滑り性を高く維持しながら、外観の意匠性を向上させることができる。
【0010】
発明2に係る屋外用部品は、発明1の屋外用部品において、カラーアルマイト層とDLC層との間に膜厚がDLC層の膜厚より薄くなるように形成された中間層をさらに備えている。この場合、カラーアルマイト層とDLC層との間に中間層を形成する場合でも、中間層の膜厚がDLC層の膜厚よりさらに薄くなるように形成されているので、カラーアルマイト層の色を外観に露出させることができる。
【0011】
発明3に係る屋外用部品は、発明2の屋外用部品において、中間層は、膜厚が0.1μm以上0.75μm以下の範囲となるように形成されている。この場合、中間層の膜厚がDLC層の膜厚よりさらに薄い0.1μm以上0.75μm以下の範囲となるように形成されているので、カラーアルマイト層の色を確実に外観に露出させることができる。
【0012】
発明4に係る屋外用部品は、発明2又は3の屋外用部品において、中間層は、アルマイト層の表層側にSiイオン及びCイオンの少なくともいずれかのプラズマイオン注入処理により特定の元素が傾斜状に形成された傾斜層である。この場合、中間層は、PBII(Plasma−Based Ion Implantation、プラズマイオン注入法)によって形成されている。PBII法は、プラズマ中に置かれた部材に対して、少なくともマイナス5kV以上の高電圧パルスを印加することにより、Siイオン及びCイオン等のイオンを注入する方法である。このようなプラズマイオン注入処理によりカラーアルマイト層の表層側の一部が熱化学的な反応では得られない新規な化合物層に改質され、組成や機能が表層側から深さ方向に対して変化する傾斜状の中間層が形成される。ここでは、カラーアルマイト層とDLC層との間にSiイオン及びCイオンのプラズマイオン注入処理により特定の元素が傾斜状に形成され、アルミニウムとカーボンミキシングされた中間層を有している。ここでは、Siイオン及びCイオンが高エネルギーでイオン注入されているので、中間層中にSiイオンとCイオンとが反応した新規化合物であるSiCが生成されることにより、カラーアルマイト層とDLC層との密着性を高くすることができる。
【0013】
発明5に係る屋外用部品は、発明1から4のいずれかの屋外用部品において、DLC層は、DLC成膜処理であるプラズマイオン成膜処理により形成されている。この場合、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって、中間層の表層側にDLC層が形成される。PBID法は、PBII法と同時に行われる成膜処理であって、Cイオンを照射して堆積させることよって中間層の表層側にDLC層が形成される。ここでは、プラズマイオン成膜処理によって、アルミニウムとカーボンミキシングされた中間層との密着性が高いDLC層を形成できる。
【0014】
発明6に係る屋外用部品は、発明1から5のいずれかの屋外用部品において、部品本体は、釣りに用いられる釣り用部品に使用される。この場合、屋外の腐食雰囲気で使用されることが多い釣り用部品、たとえば釣り用リールのリール本体、スプール、スプールリング、ラインローラ等において、釣り用部品外観の意匠性を向上できる。
【0015】
発明7に係る屋外用部品は、発明1から5のいずれかの屋外用部品において、部品本体は、自転車に用いられる自転車用部品に使用される。この場合、屋外の腐食雰囲気で使用されることが多い自転車用部品、たとえば自転車のクランク、リアディレーラー、ブレーキ等において、自転車用部品外観の意匠性を向上できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屋外用部品において、アルミニウム合金製の部品本体上に、カラーアルマイト層と、膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるDLC層とが順に形成されているので、外観の意匠性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の一実施形態を採用した両軸受リールは、図1及び図2に示すように、ベイトキャスト用のロープロフィール型のリールである。この両軸受リールは、釣竿RDに装着されるアルミニウム合金製のリール本体1と、リール本体1の側方に配置されたスプール回転用のハンドル組立体2と、リール本体1の内部に回転自在かつ着脱自在に装着された糸巻き用のスプール4とを備えている。ハンドル組立体2のリール本体1側には、ドラグ調整用のスタードラグ3が設けられている。
【0018】
リール本体1は、図1及び図2に示すように、フレーム5と、フレーム5の両側方に装着された側カバー6と、フレーム5の前方を覆う前カバー7と、上部を覆うサムレスト8と、フレーム5の下方に連結され釣竿RDのリールシートRS(図2参照)に装着される竿取付脚9(図2参照)とを有している。リール本体1を構成する各部材、スプール4及びリールシートRSは、アルミニウム合金製であり、各部材の表面には各種の表面処理が施されている。
【0019】
次に、リール本体1及びスプール4の各部材の表面構造について説明する。
【0020】
図3に示すように、各部材のアルミニウム合金製の部品本体10表面には、着色アルマイト処理(図4のS1)により形成されたカラーアルマイト11(図3参照)と、カラーアルマイト11の表層側にプラズマイオン注入処理(図4のS2)により傾斜状に形成された傾斜層12(図3参照)と、傾斜層12の表層側にプラズマイオン成膜処理(図4のS3)により形成されたDLC層13(図3参照)とが形成されている。なお、図3は、リール本体1及びスプール4の各部材の表面構造を示すために模式的な断面図を描いたものであり、実際の断面図とは異なるものである。
【0021】
カラーアルマイト11は、図3及び図5に示すように、アルミニウム合金の陽極酸化処理により形成される酸化膜であって、アルミニウム合金製の部品本体10を陽極にして硫酸等の電解質溶液中で電解すると、陽極に発生する酸素のために酸化膜が形成される。カラーアルマイト11は、脱脂、エッチング、中和等の前処理と、電解処理等の陽極酸化処理と、着色処理、封孔処理等の後処理との3つの工程により形成される。カラーアルマイト11は、陽極酸化処理によって図示しない複数の微細孔が形成されており、複数の微細孔に色素を沈着させることにより着色されている。カラーアルマイト11は、たとえば、赤色、青色、黒色、金色等に着色されている。
【0022】
傾斜層12は、図3及び図5に示すように、PBII(Plasma−Based Ion Implantation、プラズマイオン注入法)によって形成されている。PBII法は、プラズマ中に置かれた部材に対して、マイナス5kV以上マイナス30kV以下の範囲の高電圧パルスを印加することにより、イオンを注入する方法である。このようなプラズマイオン注入処理では、図3に示すカラーアルマイト11の表層側の一部が改質され、組成や機能が表層側から深さ方向に対して変化する特定の元素が傾斜状の傾斜層12が形成される。
【0023】
傾斜層12は、図3及び図5に示すように、Siイオン及びCイオンのプラズマイオン注入処理により形成されている。プラズマイオン注入処理では、まず、Siイオンを高出力で注入した後、Cイオンを高出力で注入する。このとき、傾斜層12中にSiCが生成されるので、カラーアルマイト11とDLC層13との密着性を高くすることができる。また、図5に示すように、Cイオンの注入量はSiイオンの注入量より多くなっており、Siイオン及びCイオンの注入量は、全元素濃度の10at%以上、望ましくは30at%以上の範囲となっている。なお、元素濃度は、XPS(X−Ray Photoelectron Spectroscopy、X線光電子分光分析装置)等で定量分析される値である。Siイオン及びCイオンは、図5に示すように、傾斜層12の表面側(図5左側)からカラーアルマイト11側(図5右側)に向かって注入量が少なくなるように傾斜している。なお、図5は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry、2次イオン質量分析計)によって計測した表面から深さ方向に対する時間あたりの各元素検出個数の関係を示している。
【0024】
DLC層13は、図3及び図5に示すように、PBID(Plasma−Based Ion Deposition、プラズマイオン成膜法)によって、傾斜層12の表層側に形成されたDLC(Diamond Like Carbon、ダイヤモンドライクカーボン)層である。PBID法は、PBII法と同時に行われる成膜処理であって、プラズマイオン注入処理でCイオンを高出力で注入した後Cイオンを低出力で照射することよって傾斜層12の表層側にDLC層13が形成される。
【0025】
また、図3に示すカラーアルマイト11の膜厚は、0.5μm以上3.0μm以下の範囲であって、Siイオン及びCイオンのカラーアルマイト11への注入深さは、図5に示すように、図3に示すカラーアルマイト11の表面から0.05μm以上1.0μm以下の範囲である。また、傾斜層12の膜厚は、0.1μm以上0.75μm以下の範囲となるように形成されており、DLC層13の膜厚は、0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように薄く形成されている。なお、カラーアルマイト11及びDLC層13は、図3及び図5に示すように、傾斜層12の下層部及び上層部の一部分と重なり合うように形成されているが、カラーアルマイト11、傾斜層12及びDLC層13の膜厚とは、各部分が少なくとも含まれている部分の最大膜厚である。
【0026】
このようなリール本体1及びスプール4を構成するアルミニウム合金製の各部材の表面構造において、カラーアルマイト11の表層側に0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるDLC層13が形成されている。ここでは、DLC層13の膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように薄く形成されているので、カラーアルマイト11の表層側にDLC層13を形成しても、カラーアルマイト11の色を外観に露出させることができる。したがって、このようなカラーアルマイト11及びDLC層13によって、硬度、耐摩耗性及び滑り性を高く維持しながら、外観の意匠性を向上させることができる。
【0027】
〔他の実施形態〕
(a) 本発明に係る屋外用部品は、両軸受リールのリール本体やスプールを例にあげて説明したが、これらに限定されるものではなく、他の全てのアルミニウム合金製の釣り用品に本発明を適用できる。たとえば、図6に示すように、スピニングリールのリール本体102、スプールリング105、ラインローラ106等の外観に現れる部材にも本発明を適用できる。また、釣り用リールだけでなく、自転車に用いられる自転車用部品に本発明を適用できる。たとえば、図示しないが、自転車のクランク、リアディレーラー、ブレーキ等の部材にも本発明を適用できる。この場合には、傷付きやすい自転車のクランク、リアディレーラー、ブレーキ等の部材の外観の意匠性を向上できる。
【0028】
(b) 前記実施形態では、中間層として傾斜層12を形成したが、中間層を形成しない構成にしてもよい。
【0029】
(c) 前記実施形態では、傾斜層12及びDLC層13は、プラズマイオン注入処理及びプラズマイオン成膜処理によって形成されていたが、他の成膜処理によって形成する構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態を採用した両軸受リールの斜視図。
【図2】前記両軸受リールの平面図。
【図3】表面処理が行われる前記両軸受リールの各部材の断面拡大模式図。
【図4】前記各部材の表面処理工程を示す図。
【図5】表面から深さ方向に対する時間あたりの各元素検出個数の関係を示す図。
【図6】本発明の他の実施形態を採用したスピニングリールの側面図。
【符号の説明】
【0031】
1 リール本体
4 スプール
10 部品本体
11 カラーアルマイト
12 傾斜層
13 DLC層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
屋外で使用される屋外用部品であって、
アルミニウム合金製の部品本体と、
前記部品本体の表層側に着色アルマイト処理により形成されたカラーアルマイト層と、
前記カラーアルマイト層の表層側にDLC成膜処理により膜厚が0.2μm以上0.8μm以下の範囲となるように形成されたDLC層と、
を備えた屋外用部品。
【請求項2】
前記カラーアルマイト層と前記DLC層との間に膜厚が前記DLC層の膜厚より薄くなるように形成された中間層をさらに備えている、請求項1に記載の屋外用部品。
【請求項3】
前記中間層は、膜厚が0.1μm以上0.75μm以下の範囲となるように形成されている、請求項2に記載の屋外用部品。
【請求項4】
前記中間層は、前記アルマイト層の表層側にSiイオン及びCイオンの少なくともいずれかのプラズマイオン注入処理により特定の元素が傾斜状に形成された傾斜層である、請求項2又は3に記載の屋外用部品。
【請求項5】
前記DLC層は、前記DLC成膜処理であるプラズマイオン成膜処理により形成されている、請求項4に記載の屋外用部品。
【請求項6】
前記部品本体は、釣りに用いられる釣り用部品に使用される、請求項1から5のいずれか1項に記載の屋外用部品。
【請求項7】
前記部品本体は、自転車に用いられる自転車用部品に使用される、請求項1から5のいずれか1項に記載の屋外用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−267676(P2007−267676A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97733(P2006−97733)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000002439)株式会社シマノ (1,038)
【Fターム(参考)】