説明

層状ベーカリー食品の製造方法

【課題】ロールイン油脂の種類や配合量に左右されずに、また、低水分〜高水分の各種の層状ベーカリー食品に適用可能な、焼き上げ直後にサクい食感を示し、かつ経日的に水分が戻ってもサクい食感を持続できる層状ベーカリー食品を簡単に得ることのできる、層状ベーカリー食品の製造方法を提供すること。
【解決手段】pHが1〜5である酸性水溶液を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする層状ベーカリー食品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サクい食感を有する層状ベーカリー食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パイやデニッシュ・ペストリーなどの層状ベーカリー食品は、生地混捏時にグルテンが出る上に、折込操作時に加工硬化によりさらにグルテンが出てヒキの強い食感になりやすいものである。
【0003】
それが食感の特徴であるとも言えるが、最近は、オーブンフレッシュベーカリーをはじめ、ホールセールにおいても、サクい食感(低水分ペストリー製品ではサクサクし、中〜高水分ペストリー製品では歯切れが良いこと)を呈するペストリー製品が好まれるようになってきている。
【0004】
そのため、生地水分や焼成条件を各種設定してサクサク感を出すのが一般的であるが、これらの方法は、特に中〜高水分ペストリー製品では焼き上げ直後にサクくても、経日的に水分が戻って、老化し、ヒキのある食感となってしまう。
【0005】
一般的にベーカリー食品製造時に、低pH成分を生地に添加することにより焼成品の浮きを改善する方法(例えば特許文献1参照)が公知である。しかし層状ベーカリー食品の場合、この方法ではミキシング時のグルテン生成を抑制するため、生地がだれてしまい、油脂ロールイン時や折り畳み・圧延時に生地の厚さが均等にならず、焼成品の浮きが不均一になり、また、イーストを含む生地であると発酵阻害のため発酵時間が長くなってしまう場合があるなど、数多くの問題があった。
【0006】
そこで、これらの欠点を解消する方法として低pH成分を油中水型に乳化した折込用油脂組成物(例えば特許文献2参照)を使用する方法が提案された。
しかし、この方法は特殊な油脂を用意する必要があり、また、乳、乳製品、乳蛋白などを多く含有するロールイン油脂であると、ロールイン油脂自体の風味が悪化し、結果として層状ベーカリー食品の風味も悪化してしまう問題があった。さらにこのロールイン油脂を使用する方法では、酸性成分が油脂で覆われているため、サクサク感を得るためには、実施例に示されているとおり、対生地100部というロールイン油脂使用量としては極めて多い配合量とする必要があり、その場合油脂分が極めて多く食感が悪い上、層が剥れやすい商品価値に乏しいペストリー製品になってしまう問題があった。
【特許文献1】特開平8−256670号公報
【特許文献2】特開2001−45969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、ロールイン油脂の種類や配合量に左右されずに、また、低水分〜高水分の各種の層状ベーカリー食品に適用可能な、焼き上げ直後にサクい食感を示し、かつ経日的に水分が戻ってもサクい食感を持続できる層状ベーカリー食品を簡単に得ることのできる、層状ベーカリー食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、層状ベーカリー食品の生地製造時に、従来生地改良成分として知られる酸性物質を生地に練り込むのではなく、折り込み時に塗布、噴霧などの方法で、層間の生地表面のみに作用させることで解決可能であることを知見した。
【0009】
即ち、本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、pHが1〜5である酸性水溶液を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする層状ベーカリー食品の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ロールイン油脂の種類や配合量に左右されずに、風味が良好であり、焼き上げ直後にサクく、かつ経日的に水分が戻ってもサクい食感を持続できる層状ベーカリー食品を簡単な方法で得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の層状ベーカリー食品の製造方法について詳細に説明する。
【0012】
本発明でいう層状ベーカリー食品とは、小麦粉を主体とする生地に、ロールイン油脂組成物をロールイン後、各種積層方法により積層した、積層状生地を、常法により、成形、ホイロ等の処理をした後、焼成及び/又はフライ等の加熱処理をしたものであり、例えば、菓子パイ、中華パイ、タルト、デニッシュ、イーストパイ、クロワッサン、デニッシュドーナツ、デニッシュブレッド、フライドパイ、シナモンロール等を挙げることができる。
なお、上記ロールインの方法は、折り生地方式であっても練り生地方式であってもよい。
【0013】
上記小麦粉を主体とする生地に使用する小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉、胚芽、小麦グルテンなどが挙げられ、好ましくは、強力粉と薄力粉を併用するか、又は強力粉のみを使用する。
【0014】
上記小麦粉を主体とする生地には小麦粉以外の穀粉を使用してもよい。
なお、上記小麦粉以外の穀粉としては、ライ麦粉、コーンフラワー、米粉などが挙げられるが、小麦粉を主体とする生地に使用する全穀粉中において、蛋白含量が5〜18質量%となるように調整することが好ましく、より好ましくは8〜14質量%に調整する。
【0015】
上記小麦粉を主体とする生地に使用する他の成分としては、イースト、イーストフード、糖類、甘味料、乳製品、油脂類、膨張剤、卵類、水、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤などの材料を適宜用いることができる。
【0016】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0017】
上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0018】
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白質濃縮ホエイパウダー、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0019】
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0020】
上記卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄等を用いることができる。本発明ではこれらの中から選ばれた1種または2種以上を使用することができる。
【0021】
上記ロールイン油脂組成物に使用する油脂としては、特に限定されないが、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油などの各種植物油脂、動物油脂並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0022】
また、上記ロールイン油脂組成物は、ショートニング、マーガリン、バターなどの可塑性油脂組成物や、サラダ油、流動ショートニング、溶かしバターなどの流動状〜液体の形態であっても、粉末油脂の形態であってもよいが、生地中への折り込みが容易であること、及び、良好な層状構造が得られやすいことから、可塑性油脂組成物であることが好ましい。該可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わない。
【0023】
また、可塑性油脂組成物の場合、その形状は、ロールインの方式として折り生地方式を使用する場合はシート状、練り生地方式を使用する場合は小片状に適宜成形して使用する。
【0024】
上記ロールイン油脂組成物の使用量は、特に制限されるものではないが、上記小麦粉を主体とする生地100質量部に対し、好ましくは15〜130質量部、より好ましくは40〜100質量部である。
【0025】
また、上記積層状生地の層数は、好ましくは9〜1024層、より好ましくは27〜256層である。
【0026】
上記積層方法については特に制限されず、リバースシーター他公知の機械や麺棒などにより生地を延展し、これを折りたたむ方法や、延展した生地を切断して積み重ねる方法、あるいはラミネーターで積層する方法など、各種公知の方法を採ることが可能である。
【0027】
次に、上記酸性水溶液について説明する。
ここで使用する酸性水溶液のpHは1〜5、好ましくは2〜4である。
pHが1未満であると得られる層状ベーカリー製品の食感が脆くなりすぎる上に、酸味が強くなりすぎて風味が好ましくないことに加え、美味しそうな焼き色も得られない。また、pHが5を超えると、サクい食感が得られない。
【0028】
なお、このpH調整に使用する酸については、食用に供することが可能な酸であれば特に制限なく使用することができるが、風味がさわやかである点、及び、水相の緩衝作用が得られる点で有機酸を使用することが好ましい。上記有機酸としては、酪酸、酢酸、乳酸、りんご酸、クエン酸 、グルコン酸、フマル酸、酒石酸、フィチン酸、アスコルビン酸などが挙げられるが、特に風味がさわやかである点において、乳酸、りんご酸、クエン酸の1種又は2種以上を使用することが特に好ましい。
また、上記酸性水溶液の全部、又は一部に、醗酵乳、レモン果汁などの酸を含有する食品を使用してもよい。
【0029】
その他、本発明で用いられる酸性水溶液に含有させることができる、その他の成分としては、例えば、油脂、乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、牛乳・れん乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエイパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、糖類や糖アルコール類、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0030】
上記乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、乳脂肪球皮膜蛋白質等の合成乳化剤でない乳化剤を用いることができる。
【0031】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0032】
本発明で用いられる酸性水溶液において、上記その他の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜設定することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは酸性水溶液中で10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。また、油脂や油脂を含有する食品素材や食品添加物を使用する場合、酸性水溶液が水中油型乳化物の形態となるように配合することが好ましい。その際、油脂については、層の結着性を損ねるおそれがあるため、酸性水溶液中の油分含有量は10質量%以下であることが好ましく、より好ましくは6質量%以下である。
【0033】
次に、上記酸性水溶液の好ましい製造方法を説明する。
本発明で用いられる酸性水溶液は、水に酸性成分を添加、溶解し、pHを1〜5、好ましくは2〜4に調整することによって簡単に得ることができる。その他の成分を添加する場合、酸性成分を溶解後に添加、混合、必要に応じ乳化してもよいし、水に酸性成分と、その他成分を添加し、溶解、混合、必要に応じ乳化してもよい。
【0034】
本発明の層状ベーカリー食品の製造方法においては、上記小麦粉を主体とする生地に、上記ロールイン油脂組成物をロールインし、上記積層を行なって積層状生地を得る際に、上記酸性水溶液を生地層間に供給する工程を含むものである。
【0035】
ここで上記酸性水溶液を上記生地層間に供給する方法としては、生地の積層方法や酸性水溶液の物性に応じて、適宜選択可能であるが、塗布、又は、噴霧によるものであることが、生地に均一に供給可能な点、及び、水分を過剰に生地に吸収させずにすむことが可能な点で好ましい。
【0036】
上記酸性水溶液を生地層間に供給する時期は、特に制限されないが、積層状生地の全層数に占める酸性水溶液を供給された層数をより多くすることができる点で、積層の最初の延展時から供給することが好ましい。それにより、その後何回折っても、全部の層に酸性成分が接触した形の積層状生地、及び、層状ベーカリー食品が得られるからである。
【0037】
ここで、積層状生地の全層数に占める酸性水溶液を供給された層数の割合は、積層状生地の全層数の50%以上であることが好ましく、より好ましくは65%以上、さらに好ましくは75%以上、最も好ましくは100%である。
【0038】
なお、最初の延展時とは具体的には折り生地方式の場合はロールイン油脂組成物をロールインするために延展した際であり、練り生地方式の場合は、最初の積層のために延展した時である。
【0039】
また、上記酸性水溶液を生地層間に供給する回数は、特に制限されないが、生地に余分の吸水をさせないために、1回のみとすることが好ましい。
よって、上記酸性水溶液は、最初の延展時に1回のみ供給することが最も好ましい。
【0040】
また、上記酸性水溶液の供給量は、小麦粉を主体とする生地100質量部あたり、好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜3質量部、さらに好ましくは0.1〜3質量部とする。5質量部を超えると、生地が吸水してしまい、生地がべたつき、扱いにくくなってしまうおそれがある。
【0041】
なお、上記酸性水溶液を供給した際は、生地表面を乾燥させるため1〜15分、好ましくは5〜10分のレストタイムをとってから折り操作に入ることが好ましい。
また、上記酸性水溶液を供給した後、焼成までに5℃以下で2〜24時間のリタードを1回、又は2回以上取ることが、よりサクい食感の層状ベーカリー食品を得ることができる点で好ましい。
【0042】
次に、本発明の層状ベーカリー食品について述べる。
本発明の層状ベーカリー食品は、上記積層状生地を、常法により、成形、ホイロ等の処理をした後、焼成及び/又はフライ等の加熱処理をしたものである。
本発明の層状ベーカリー食品は、焼き上げ直後にサクい食感を示し、かつ経日的に水分が戻ってもサクい食感を持続できる。
【実施例】
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
【0044】
〔実施例1〕
強力粉50質量部、薄力粉50質量部、食塩1質量部、ショートニング5質量部、及び、水56質量部をミキサーボウルに投入し、フックを用いて低速2分、中速2分ミキシングして得られた生地を、1kgに分割し、軽く丸めた後、2℃の冷蔵庫内で15時間生地をリタードした。この生地をシーターを用いて厚さ5mmまで伸展しpH3に調整したクエン酸水溶液を10g塗布した。そのまま8分放置した後、下記ロールイン油脂組成物A400gを積載し、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。ここで2℃で2時間リタードした後、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。2℃で2時間リタードした後、生地を厚さ6mmまで圧延し、直径60mmの菊型で生地を打ちぬいた。この打ちぬいた生地の両面にグラニュー糖を付着せたのち、シーターで厚さ2mmまで圧延し、ピケ穴をあけ、室温で10分レストを取った後、210℃に設定した固定窯で10分焼成し、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0045】
〔実施例2〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液に代えて、pH5のクエン酸水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0046】
〔実施例3〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液に代えて、pH3のリンゴ酸水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行った。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行った。
これらの結果を表1に記載した。
【0047】
〔実施例4〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液に代えて、pH3の乳酸水溶液を使用した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行った。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行った。
これらの結果を表1に記載した。
【0048】
〔実施例5〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液を塗布する代わりに、スプレーを使用して噴霧した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行った。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行った。
これらの結果を表1に記載した。
【0049】
〔実施例6〕
実施例1ではクエン酸水溶液塗布はロールイン油脂組成物積載前の1回だけであったが、さらに第2回目の3つ折り前、及び、第3回目の3つ折り前の圧延生地の表面にも各回10g、合計20gのpH3のクエン酸水溶液を塗布した以外は、実施例1と同様の配合、製法でリーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0050】
〔実施例7〕
実施例1ではクエン酸水溶液塗布はロールイン油脂組成物積載前であったが、これを第4回目の3つ折り前に変更した以外は、実施例1と同様の配合、製法でリーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0051】
〔実施例8〕
強力粉50質量部、薄力粉50質量部、ロールイン油脂組成物B40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを用いて低速2分混合した。ここに、食塩1質量部を水52質量部に溶解した食塩水を投入、低速2分中速1分ミキシングし、得られた生地を1kgに分割し、軽く丸めた後、2℃の冷蔵庫内で15時間生地をリタードした。この生地をシーターを用いて厚さ5mmまで伸展させたのち、この上面に、pH3に調整したクエン酸水溶液を10g塗布した。そのまま3分放置した後、3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。ここで2℃で2時間リタードした後、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地の方向を90°変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。2℃で2時間リタードした後、生地を厚さ6mmまで圧延し、直径60mmの菊型で生地を打ちぬいた。この打ちぬいた生地の両面にグラニュー糖を付着させた後、シーターで厚さ2mmまで圧延し、ピケ穴をあけ、室温で10分レストを取った後、210℃に設定した固定窯で10分焼成し、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0052】
〔実施例9〕
強力粉70質量部、薄力粉30質量部、食塩1.6質量部、砂糖6質量部、脱脂粉乳3質量部、イーストフード0.1質量部、イースト4質量部、水54質量部、及び、練り込み油脂(マーガリン)5質量部をミキサーボウルに投入し、フックを用いて低速3分、中速5分ミキシングして得られた生地を、1kgに分割し、軽く丸めた後、2℃の冷蔵庫内で15時間生地をリタードした。この生地をシーターを用いて厚さ5mmまで伸展させたのち、この上面に、pH3に調整したクエン酸水溶液を10g塗布した。そのまま3分放置した後、下記ロールイン油脂組成物A200gを積載し、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地の方向を90℃変えて、さらに厚さ5mmまで圧延し3つ折りをおこなった。ここで2℃で2時間リタードした後、厚さ5mmまで圧延し3つ折りし、生地を厚さ6mmまで圧延し、直径60mmの菊型で生地を打ちぬいた。この打ちぬいた生地の両面にグラニュー糖を付着させた後、シーターで厚さ4mmまで圧延し、ピケ穴をあけ、32℃50分のホイロをとり、室温で10分レストを取った後、210℃に設定した固定窯で10分焼成し、リーフデニッシュパイを得た。
得られたリーフデニッシュパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0053】
〔実施例10〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液10gに代えて、下記酸性水中油型油脂組成物10gを使用した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0054】
〔比較例1〕
クエン酸水溶液の塗布を行なわない以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0055】
〔比較例2〕
実施例1で使用したpH3のクエン酸水溶液10gに代えて、クエン酸の微粉末1gを散布した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0056】
〔比較例3〕
クエン酸水溶液の塗布を行なわず、さらに実施例1で使用したロールイン油脂組成物Aに代えて下記ロールイン油脂組成物Cを使用した以外は、実施例1と同様の配合、製法で、リーフパイを得た。
得られたリーフパイについては焼成1時間後に外観(層の状態)、風味、及び食感の評価を行なった。なお、食感についてはさらに20℃2週間保存後における評価も行なった。これらの結果を表1に記載した。
【0057】
(ロールイン油脂組成物Aの調製)
パームステアリン(ヨウ素価=33)25質量部と、豚脂45質量部と、大豆液状油30質量部と、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.1質量部を混合溶解した油相81質量%と、水16質量%、食塩1質量%、脱脂粉乳2質量%を混合溶解した水相とを、常法により油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン油脂組成物を得た。なお、得られたロールイン油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0058】
(ロールイン油脂組成物Bの調製)
パームステアリン(ヨウ素価=33)25質量部と、豚脂45質量部と、大豆液状油30質量部と、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.1質量部を混合溶解した油相81質量%と、水16質量%、食塩1質量%、脱脂粉乳2質量%を混合溶解した水相とを、常法により油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン油脂組成物を得た。なお、得られたロールイン油脂組成物は10mm角の立方体に成形した。
【0059】
(ロールイン油脂組成物Cの調製)
パームステアリン(ヨウ素価=33)25質量部と、豚脂45質量部と、大豆液状油30質量部と、乳化剤としてステアリン酸モノグリセリド0.4質量部とレシチン0.1質量部を混合溶解した油相81質量%と、水15.5質量%、食塩1質量%、クエン酸0.5質量%、脱脂粉乳2質量%を混合溶解したpH3の水相とを、常法により油中水型の乳化物とし、急冷可塑化工程(冷却速度−20℃/分以上)にかけ、マーガリンタイプのロールイン油脂組成物を得た。なお、得られたロールイン油脂組成物は縦210mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形した。
【0060】
(酸性水中油型油脂組成物の調製)
水36質量部、還元水飴(糖分70質量%、水分30質量%)20質量部、食酢10質量部、食塩3質量部、グルタミン酸ナトリウム0.3質量部、及び加塩卵黄10.4質量部を混合して水相を調製した。別に、菜種サラダ油20質量部、キサンタンガム0.1質量部及びゼラチン0.2質量部を混合して油相を調製した。次いで、水相を撹拌しつつ油相を加え、水中油型予備乳化物を得、これをホモゲナイザーにて均質化し、水相のpHが3.5である液状の酸性水中油型乳化物を得た。
【0061】
【表1】

【0062】
外観の評価基準
◎ 層の暴れもなく、層毎の浮きも均質である
〇 層の暴れはないが、層毎の浮きが均質でない
△ 層がやや暴れ気味である
× 層が暴れ、不均一である
【0063】
風味の評価基準
◎ 風味が良好である
〇 やや酸味を感じる
△ ややエグ味を感じる
× 酸味とエグ味の両方の風味を感じる
【0064】
食感の評価基準
◎+ 硬く、サクサクした食感で歯切れも良好である
◎ サクサクした食感で歯切れも良好である
〇 ややソフトな食感であるが歯切れは良好である
△ ややソフトな食感で、ややヒキのある食感である
× ややソフトな食感で、ヒキのある食感である
×× ソフトな食感で、ヒキのある食感である
【0065】
表1の結果からわかるように、本発明の層状ベーカリー食品の製造方法に該当する、実施例1〜10の製造方法で得られたリーフパイやリーフデニッシュパイは、焼成1時間後でも、20℃2週間保存後でも、サクサクした食感であるか、ややソフトな食感である場合にもヒキが無く歯切れが良好であり、焼成直後から、経日保管後においてもサクい食感を有していることがわかる。
とりわけ、酸性水溶液を供給する工程が、最初の延展時に1回のみである実施例1、2、3、4、5、8及び9のリーフパイやリーフデニッシュパイは層の暴れもなく、層毎の浮きも均質である。
【0066】
また、pH3の酸性水溶液を使用した実施例1、3、4、5,6,7及び8のリーフパイは、pH5の酸性水溶液を使用した実施例2のリーフパイに比べ、焼成直後と経日保管後の食感の差が少なく老化耐性が高いことがわかる。
【0067】
さらに、酸性水溶液として、油脂を含まず、且つ、pH調整にクエン酸を使用した実施例1、2、5、6、7、8及び9のリーフパイやリーフデニッシュパイ、油脂を含まず、且つ、pH調製にリンゴ酸を使用した実施例3のリーフパイ、及び、油脂を含有せず、且つ、pH調製に乳酸を使用した実施例4のリーフパイは、酸性水溶液として、油脂を含有し、pH調整に酢酸を使用した実施例10のリーフパイに比べ外観、風味とも良好であった。
【0068】
それに対し、酸性水溶液を供給しなかった比較例1のリーフパイは外観と風味は良好であるが、サクい食感が全く得られず、酸性水溶液の代わりに粉末状の酸を使用した比較例2のリーフパイは外観、風味、食感とも劣るものであった。また、水相をpH3とした油中水型のロールイン油脂組成物を使用した比較例3のリーフパイは、外観、風味は良好であり、焼成直後の食感は良好であるが、経日保管後の食感は劣るものであった。












【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが1〜5である酸性水溶液を生地層間に供給する工程を含むことを特徴とする層状ベーカリー食品の製造方法。
【請求項2】
上記酸性水溶液が有機酸でpH調整されていることを特徴とする請求項1記載の層状ベーカリー食品の製造方法。
【請求項3】
上記有機酸が、乳酸、りんご酸及びクエン酸から選ばれる1種又は2種以上であることを特徴とする請求項2記載の層状ベーカリー食品の製造方法。
【請求項4】
上記酸性水溶液の供給方法が、塗布又は噴霧であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の層状ベーカリー食品の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法により得られた層状ベーカリー食品。