説明

層間絶縁材料形成用支持体

【課題】 配線の微細化および高密度化に対応するための、ビルドアップ法で製造する多層プリント配線板に用いられる、フィルム状の層間絶縁材料を形成するための支持体として好適なポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】 層間絶縁層を形成する熱硬化性樹脂を塗布するための支持体として使用されるポリエステルフィルムであって、180℃で10分間熱処理した時のフィルム表面オリゴマー(環状三量体)量がフィルムの少なくとも片面において3.0mg/m以下であることを特徴とする層間絶縁層形成支持体用ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体回路層と絶縁層とを交互に積み上げたビルドアップ方式の多層プリント配線版に用いられるフィルム状の絶縁層を形成するための支持体として用いられるポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線基板は、ICなどの電子部品を搭載、接続するために銅回路が形成されている基板であり、テレビなどの家電に用いられている民生用プリント配線基板と、コンピューターや計測機器などの産業用に用いられている産業用プリント配線板などが挙げられる。特に明確な区別がなされているわけではないが、プリント配線板の基材は、主に紙を基材とするフェノール樹脂積層板から製造されているものなどが民生用に使用され、エポキシ樹脂を用いたガラス布基材積層板などが産業用プリント配線板用の基材として使用されている。
【0003】
プリント配線基板に設置されるICなど端子数が増加するに従い、限られた面積で必要な配線を収容するための手段として多層化が図られ、多層プリント配線板も量産されている。
【0004】
多層プリント配線板のなかでも、リジッド基板上に配線パターンを形成し、その上に絶縁層を形成し、さらにその上に配線パターンを形成し、さらに絶縁層を形成するという工程を繰り返すことで、プリント配線板を形成するビルドアップ法は、携帯電話などの小型化が必要な製品や、コンピューターなどの高速動作が必要な用途に適した方法として用いられており、近年、更なる電子機器の小型化、高性能化が進み、ビルドアップ層もさらに複層化され、配線の微細化および高密度化も一層進んでいる。
【0005】
多層プリント配線板に用いられる絶縁層は、ガラスクロスに、エポキシ系、ポリイミド系等の樹脂を含浸させたもの、あるいはセラミック系等の材料が用いられ、配線層の信号の伝播速度やプリント配線板の特性インピーダンス等の電気特性を左右する重要なパラメーターであるため、そのような電気特性を満足するような材料を選定することが必要であり、具体的には、できるだけ誘電率の低い材料が選定されており、各種提案もなされている。また、絶縁層の形成は、フィルム支持体の上に塗布する方法が、均一な厚さのものが得られるため、小型化や高性能化の要求に対して好ましく、塗布できる材料が用いられている。
【0006】
絶縁層の形態は、小型化や高性能化に対応するための層間絶縁材として、フィルム状の支持体に絶縁層となる熱硬化性樹脂などを塗布し、支持体のフィルムと硬化させた絶縁層とをロール状とする方法が提案されている。フィルム状態の絶縁層に関しては、樹脂とフィラーの最適な選択などにより、レーザー加工に適合し、粗化処理後の樹脂表面がめっき密着性を向上するように設計したビルドアップ用絶縁層を有するフィルムが提案され、近年の要求に対応するなど、絶縁層に関しては、種々の提案がなされている。
【0007】
しかしながら、フィルム状の絶縁層を形成するための支持体である、フィルムに関しては、絶縁層の表面性や、絶縁層の形成時における生産性などに大きな影響を与えるにも関わらず、具体的な提案はなされていない状況である。
【0008】
特に、配線の微細化および高密度化を達成するための層間絶縁層の表面粗度は、絶縁層を塗布により形成する場合に重要な特性であるが、支持体に使用するフィルムに関しての提案がなされていない状況である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−75274号公報
【特許文献2】特開平7−264787号公報
【特許文献3】特開2004−265697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたもので、その解決課題は、配線の微細化および高密度化に対応するための、ビルドアップ法で製造する多層プリント配線板に用いられる、フィルム状の層間絶縁材料を形成するための支持体として好適なポリエステルフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、特定の構成からなるポリエステルフィルムによれば、上記課題を容易に解決できることを知見し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、層間絶縁層を形成する熱硬化性樹脂を塗布するための支持体として使用されるポリエステルフィルムであって、180℃で10分間熱処理した時のフィルム表面オリゴマー(環状三量体)量がフィルムの少なくとも片面において3.0mg/m以下であることを特徴とする層間絶縁層形成支持体用ポリエステルフィルムに存する。
【0013】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明における層間絶縁層を形成するための支持体であるポリエステルフィルムとは、押出口金から溶融押し出しされる、いわゆる押出法により押し出されたポリエステルフィルムであって、通常、縦方向および横方向の二軸方向に配向させたフィルムである。
【0014】
フィルムの層構成は、単層構成であっても積層構成であってもよく、2層、3層構成以外にも本発明の要旨を越えない限り、4層またはそれ以上の多層であってもよく、特に限定されるものではない。
【0015】
本発明においてフィルムに使用するポリエステルは、ホモポリエステルであっても共重合ポリエステルであってもよい。ホモポリエステルからなる場合、芳香族ジカルボン酸と脂肪族グリコールとを重縮合させて得られるものが好ましい。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、脂肪族グリコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。代表的なポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート等が例示される。一方、共重合ポリエステルのジカルボン酸成分としては、イソフタル酸、フタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、オキシカルボン酸(例えば、p−オキシ安息香酸など)等の一種または二種以上が挙げられ、グリコール成分として、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール等の一種または二種以上が挙げられる。何れにしても本発明でいうポリエステルとは、通常60モル%以上、好ましくは80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であるポリエチレンテレフタレート等であるポリエステルを指す。
【0016】
本発明のポリエステルフィルムは、180℃で10分間熱処理した後の、フィルム表面オリゴマー(環状三量体)量が、フィルムの少なくとも片面において、3.0mg/m以下、好ましくは2.0mg/m以下、さらに好ましくは1.0mg/m以下である。熱処理後のフィルム表面オリゴマー量が3.0mg/mを超える場合は、ポリエステル上で層間絶縁層となる樹脂組成物を硬化させる際に、層間絶縁層にオリゴマーが不純物として混入し、電気特性などに悪影響を与え好ましくない。
【0017】
熱処理後のフィルム表面オリゴマー量を上記の範囲とするためには、例えば、ポリエステルフィルムに含まれるオリゴマー量を6000ppm以下、さらには5000ppm以下、特に4000ppm以下とすればよい。
【0018】
ポリマー中のオリゴマーは、製膜での溶融工程などにより増加することが知られており、その増加量は、ポリマー中の含水率、溶融時の温度や滞留時間などに強く影響を受け、100〜5000ppm程度増加すると考えられる。
【0019】
上記したフィルムに含まれるオリゴマー量とするためには、溶融工程での増加を考慮し、ポリエステル原料中のオリゴマー量としては、5000ppm以下、さらには4000ppm以下、特に3500ppm以下が好ましい。ポリエステル中のオリゴマー量を低減する方法としては、例えば、固相重合を用いることができる。
【0020】
本発明のポリエステルフィルムの製造方法に関して好ましい例について説明するが、本発明は必ずしもこれに限定されない。
【0021】
ここでは、ポリエステル(A)として、ポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、使用するポリエステルにより製造条件は異なる。まず、常法に従って、テレフタル酸とエチレングリコールからエステル化し、または、テレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換により、ビス−β−ヒドロキシエチレンテレフタレート(BHT)を得る、次にこのBHTを重合槽に移行しながら、真空下で280℃に加熱して重合反応を進める。ここで、固有粘度が0.5程度のポリエステルを得る。得られたポリエステルをペレット状で固相重合する。固相重合する場合は、予め180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1mmHg程度の減圧下。または窒素雰囲気下で5〜50時間固相重合させる。
【0022】
本発明のポリエステルの固有粘度は、通常0.40〜0.90、好ましくは045〜0.80、さらに好ましくは0.50〜0.70の範囲である。固有粘度が0.40未満では、フィルムの機械的強度が弱くなる傾向があり、極限粘度が0.90を超える場合は、溶融粘度が高くなり、押出機に負荷がかかったり、製造コストがかかったりする等の問題が生じる場合がある。
【0023】
本発明のフィルムは、支持体であるポリエステルのフィルム上に層間絶縁層を形成した接着フィルムをロール状態で得るため、ポリエステル中に粒子を添加することが好ましい。添加された粒子は、フィルム表面に突起を与え、その結果、フィルムの滑り性を良くしたり、ロールで巻かれる際にフィルム間のエアーを抜いたりするなどの働きをする。
【0024】
ポリエステルに配合する粒子の平均粒子径としては、特に限定されるものではないが、通常0.1〜8μm、好ましくは0.2〜5μmの粒子を含有させる。平均粒子径が0.1μm未満では、フィルムの表面粗度が低くなり、フィルムの滑り性が悪く、層間絶縁層を形成した後にロール状態で製品を得ることができないことがある。また、平均粒子径が8μmを超える場合は、層間絶縁層の表面粗度が大きくなり、回路の高密度化に弊害が生じることがある。
【0025】
上記粒子のフィルム中の含有量は、通常0.1〜10.0重量%、好ましくは1.0〜5.0重量%の範囲である。粒子の含有量が0.1重量%未満では、フィルムの滑り性が悪くなる傾向がある。また、含有量が10.0重量%を超えると、フィルムの表面粗度が大きくなり過ぎて平面性が損なわれることがある。
【0026】
かかる粒子の例として、酸化珪素、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸リチウム、リン酸マグネシウム、フッ化リチウム、酸化アルミニウム、酸化チタン、カオリン、タルク、カーボンブラック、窒化ケイ素、窒化ホウ素、および特公昭59−5216号公報に記載されているような架橋高分子微粉体を挙げることができ、本発明の要旨を損なわれない限り、これらに限定されるものではない。
【0027】
一方、使用する粒子の形状に関しても特に限定されるわけではなく、球状、塊状、棒状、扁平状等のいずれを用いてもよい。また、その硬度、比重、色等についても特に制限はない。これら一連の粒子は、必要に応じて2種類以上を併用してもよい。
【0028】
ポリエステル層中に粒子を添加する方法としては、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を採用しうる。例えば、各層を構成するポリエステルを製造する任意の段階において添加することができるが、好ましくはエステル化の段階、もしくはエステル交換反応終了後、重縮合反応を進めてもよい。
【0029】
また、ベント付き混練押出機を用い、エチレングリコールまたは水などに分散させた粒子のスラリーとポリエステル原料とをブレンドする方法、または、混練押出機を用い、乾燥させた粒子とポリエステル原料とをブレンドする方法などによって行われる。
【0030】
なお、本発明におけるポリエステルフィルム中には上述の粒子以外に必要に応じて従来公知の酸化防止剤、帯電防止剤、熱安定剤、潤滑剤、染料、顔料等を添加することができる。
【0031】
本発明のポリエステルフィルムを特定の表面とすることが好ましく、具体的には、少なくともポリエステルフィルムの片面の中心線平均粗さRaを10〜50nm、さらには20〜30nmの範囲とすることが好ましい。中心線平均粗さRaが10nm未満では、フィルムの滑り性やフィルム間でのエアーヌケが悪く、層間絶縁層を形成した後にロール状態で製品を得ることができないことがある。また、中心線平均粗さRaが50nmを超える場合は、ロール状に巻かれた時に、層間絶縁層のポリエステルフィルムの表面粗度が層間絶縁層の表面に転写し、層間絶縁層の欠点となることがある。
【0032】
本発明のポリエステルフィルム自体は、接着シートとしてコア基材に層間絶縁層が接着された後は、剥離されその役割を終えるが、ポリエステルフィルムが剥がされた後のコア基材に接着された層間絶縁層の表面に影響を与える。
【0033】
熱硬化性樹脂を塗布し、層間絶縁層を形成するポリエステルフィルムの表面は、中心線平均粗さRaを30nm以下、さらには20nm以下とし、十点平均粗さRzを200nm以下、さらには100nm以下とすることが好ましい。中心性平均粗さRaが30nmを超えたり、十点平均粗さRzが200nmを超えたりする場合は、層間絶縁層の表面粗度が大きくなり、回路の高密度化に弊害が生じることがある。
【0034】
本発明のポリエステルフィルムの厚みは、フィルムとして製膜可能な範囲であれば特に限定されるものではないが、通常20〜100μm、好ましくは25〜50μmの範囲である。フィルム厚みが20μm未満では、絶縁材を塗布した際にシワが入りやすくなる。一方、フィルム厚みが100μmを越えた場合は、使用ポリエステル量が増加するため、コスト的には不利である。
【0035】
本発明で用いる層間絶縁層に用いる硬化性樹脂は、支持体上で層を形成することができ、十分な絶縁性を有するものであれば、特に限定なく使用でき、例えば、エポキシ樹脂系、アクリル系、ポリイミド樹脂系、ポリイミドアミド樹脂系、ポリシアネート樹脂系、ポリエステル樹脂系、熱硬化型ポリフェニレンエーテル樹脂系などが挙げられる。また、これらを2種以上組み合わせて使用したり、多層構造としたりすることも可能である。
【0036】
層間絶縁層を支持体に形成する方法は、上記した熱硬化性樹脂などを溶媒に溶解した該樹脂組成物ワニスを塗布した後、加熱することにより溶剤を乾燥させると同時に樹脂を硬化させる公知の方法で作成することができる。
【0037】
本発明は、層間絶縁層となる硬化樹脂層をポリエステルフィルムからなる支持体上に積層フィルムとして設け、当該積層フィルムをロール状とする。ロール状とする際は、そのままの状態でも、硬化樹脂の表面を保護するための保護フィルムを貼り合わせた状態でも、ロール状態で保管できれば、どちらでも構わない。但し、保護フィルムで保護することにより、樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができるので、保護フィルムの無い状態でロールとした場合も、最終的には保護フィルムを貼りあわせる工程を追加した方が好ましい。
【0038】
保護フィルムは、層間絶縁層の表面を保護する機能を有していれば特に限定されるものではなく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルなどのプラスチックフィルムが用いられる。
【0039】
ポリエステルフィルムで形成する層間絶縁層の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とする。回路基板の導体層の厚さはが、通常5〜70μmの範囲であるので、樹脂組成物層の厚さは10〜100μmの厚みが好ましい。
【0040】
本発明で得られた層間絶縁層を有するフィルムは、導電層をパターン加工して回路を形成する時に接着フィルムとして、層間絶縁層の保護フィルムが剥がされ、コア基板に積層される。コア基材/層間絶縁層/ポリエステルフィルム支持体の構成、またはコア基材の両面を層間絶縁層で挟む、ポリエステルフィルム支持体/層間絶縁/コア基材/層間絶縁層/ポリエステルフィルム支持体の構成で加熱処理などを行い、コア基材と層間絶縁層を接着させ、ポリエステルフィルムからなる支持体が剥がされる。
【0041】
層間絶縁層をコア基材に接着する方法としては、真空ラミネート法により減圧下で回路基板にラミネートする方法が好適に用いられる。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。またラミネートを行う前に接着フィルム及び回路基板を必要により加熱(プレヒート)しておいてもよい。
【0042】
ラミネートの条件は、圧着温度(ラミネート温度)を好ましくは70〜140℃、圧着圧力を好ましくは1〜11kgf/cm2(9.8×104〜107.9×104N/m2)とし、空気圧が20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートするのが好ましい。真空ラミネートは市販の真空ラミネーターを使用して行うことができる。
【0043】
本発明における回路基板とは、主として、ガラスエポキシ、金属基板、ポリエステル基板、ポリイミド基板、BTレジン基板、熱硬化型ポリフェニレンエーテル基板等の基板の片面又は両面にパターン加工された導体層(回路)が形成されたものをいう。また導体層と絶縁層が交互に層形成され、片面又は両面がパターン加工された導体層(回路)となっている多層プリント配線板も本発明にいう回路基板に含まれる。なお導体回路層表面は黒化処理等により予め粗化処理が施されていた方が絶縁層の回路基板への密着性の観点から好ましい。
【0044】
このように接着フィルムを回路基板にラミネートした後、支持フィルムを剥離する場合は剥離し、熱硬化することにより回路基板に絶縁層を形成することができる。加熱硬化の条件は150℃〜220℃で20分〜180分の範囲で選択され、より好ましくは160℃〜200℃で30〜120分である。絶縁層を形成した後、硬化前に支持フィルムを剥離しなかった場合は、ここで剥離する。
【0045】
次に回路基板上に形成された絶縁層に穴開けを行い、ビアホール、スルーホールを形成する。穴開けは、例えば、ドリル、レーザー、プラズマ等の公知の方法により、また必要によりこれらの方法を組み合わせて行うことができるが、炭酸ガスレーザー、YAGレーザー等のレーザーによる穴あけがもっとも一般的な方法である。
【0046】
次に本発明におけるポリエステルフィルムの製造例について具体的に説明するが、以下の製造例に何ら限定されるものではない。
【0047】
まず、先に述べたポリエステル原料を使用し、ダイから押し出された溶融シートを冷却ロールで冷却固化して未延伸シートを得る方法が好ましい。この場合、シートの平面性を向上させるためシートと回転冷却ドラムとの密着性を高める必要があり、静電印加密着法および/または液体塗布密着法が好ましく採用される。次に得られた未延伸シートは二軸方向に延伸される。その場合、まず、前記の未延伸シートを一方向にロールまたはテンター方式の延伸機により延伸する。延伸温度は、通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃であり、延伸倍率は通常2.5〜7倍、好ましくは3.0〜6倍である。次いで、一段目の延伸方向と直交する延伸温度は通常70〜170℃であり、延伸倍率は通常3.0〜7倍、好ましくは3.5〜6倍である。そして、引き続き180〜270℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、二軸配向フィルムを得る。上記の延伸においては、一方向の延伸を2段階以上で行う方法を採用することもできる。その場合、最終的に二方向の延伸倍率がそれぞれ上記範囲となるように行うのが好ましい。
【0048】
また、本発明におけるポリエステルフィルム製造に関しては同時二軸延伸法を採用することもできる。同時二軸延伸法は、前記の未延伸シートを通常70〜120℃、好ましくは80〜110℃で温度コントロールされた状態で機械方向および幅方向に同時に延伸し配向させる方法で、延伸倍率としては、面積倍率で4〜50倍、好ましくは7〜35倍、さらに好ましくは10〜25倍である。そして、引き続き、170〜250℃の温度で緊張下または30%以内の弛緩下で熱処理を行い、延伸配向フィルムを得る。上述の延伸方式を採用する同時二軸延伸装置に関しては、スクリュー方式、パンタグラフ方式、リニアー駆動方式等、従来から公知の延伸方式を採用することができる。
【0049】
さらに上述のポリエステルフィルムの延伸工程中にフィルム表面を処理する、いわゆる塗布延伸法(インラインコーティング)を施すことができる。塗布延伸法によりポリエステルフィルム上に塗布層が設けられる場合には、延伸と同時に塗布が可能になると共に塗布層の厚みを延伸倍率に応じて薄くすることができ、ポリエステルフィルムとして好適なフィルムを製造できる。
【0050】
本発明において、塗布層を設ける方法はリバースグラビアコート、ダイレクトグラビアコート、ロールコート、ダイコート、バーコート、カーテンコート等、従来公知の塗工方式を用いることができる。塗工方式に関しては「コーティング方式」槇書店 原崎勇次著 1979年発行に記載例がある。
【0051】
本発明において、ポリエステルフィルム上に塗布層を形成する際の硬化条件に関しては特に限定されるわけではなく、例えば、塗布延伸法(インラインコーティング)により塗布層を設ける場合、通常、170〜280℃で3〜40秒間、好ましくは200〜280℃で3〜40秒間を目安として熱処理を行うのが良い。
【0052】
また、塗布延伸法(インラインコーティング)あるいはオフラインコーティングに係わらず、必要に応じて熱処理と紫外線照射等の活性エネルギー線照射とを併用してもよい。また、ポリエステルフィルムには予め、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施してもよい。
【発明の効果】
【0053】
本発明によれば、フィルム状の層間絶縁材料を形成するための支持体として好適なポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0054】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、本発明で用いた測定法は次のとおりである。
【0055】
(1)ポリエステルの固有粘度の測定
ポリエステルに非相溶な他のポリマー成分および顔料を除去したポリエステル1gを精秤し、フェノール/テトラクロロエタン=50/50(重量比)の混合溶媒100mlを加えて溶解させ、30℃で測定した。
【0056】
(2)平均粒径(d50:μm)の測定
遠心沈降式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所社製SA−CP3型)を使用して測定した等価球形分布における積算(重量基準)50%の値を平均粒径とした。
【0057】
(3)ポリエステル中のオリゴマー(環状三量体)含有量
所定のポリエステル原料、またはポリエステルフィルムをo−クロロフェノールに溶解した後、テトラヒドロフランで再析出して濾過し、線状ポリエチレンテレフタレートを除いた後、次いで得られた濾液を液体クロマトグラフィー(島津LC−7A)に供給してポリエステル中に含まれるオリゴマー量を求め、この値を測定に用いたポリエステル量で割って、ポリエステルに含まれるオリゴマー量とする。
【0058】
液体クロマトグラフィーで求めるオリゴマー量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。標準試料の作成は、予め分取したオリゴマーを正確に秤量し、正確に秤量したDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解して作成した。液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0059】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0060】
(4)フィルム表面のオリゴマー量(OL)測定
測定面が内面となるように、フィルムを上部が開いている縦横10cm、高さ3cmの箱の内面にできるだけ密着させて箱形の形状とする。次いで、上記の方法で作成した箱の中にDMF(ジメチルホルムアミド)4mlを入れて3分間放置した後、DMFを回収する。回収したDMFを液体クロマトグラフィー(島津製作所製:LC−7A)に供給して、DMF中のオリゴマー量を求め、この値を、DMFを接触させたフィルム面積で割って、フィルム表面オリゴマー量(mg/m)とする。
【0061】
DMF中のオリゴマー量は、標準試料ピーク面積と測定試料ピーク面積のピーク面積比より求めた(絶対検量線法)。標準試料の作成は、予め分取したオリゴマー(環状三量体)を正確に秤量し、正確に秤量したDMFに溶解し作成した。標準試料の濃度は0.001〜0.01mg/mlの範囲が好ましい。液体クロマトグラフの条件は下記のとおりとした。
【0062】
移動相A:アセトニトリル
移動相B:2%酢酸水溶液
カラム:三菱化学(株)製『MCI GEL ODS 1HU』
カラム温度:40℃
流速:1ml/分
検出波長:254nm
【0063】
(3)表面粗さ(Ra)
中心線平均粗さRa(μm)をもって表面粗さとする。(株)小坂研究所社製表面粗さ測定機(SE−3F)を用いて次のようにして求めた。即ち、フィルム断面曲線からその中心線の方向に基準長さL(2.5mm)の部分を抜き取り、この抜き取り部分の中心線をx軸、縦倍率の方向をy軸として粗さ曲線 y=f(x)で表わしたとき、次の式で与えられた値を〔μm〕で表わす。中心線平均粗さは、試料フィルム表面から10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の中心線平均粗さの平均値で表わした。なお、触針の先端半径は2μm、荷重は30mgとし、カットオフ値は0.08mmとした。
Ra=∫|f(x)|dx
【0064】
(4)十点平均粗さ(Rz)
(株)小坂研究所製 表面粗さ測定機(SE−3F)によって得られた断面曲線から、基準長さ(2.5mm)だけ抜き取った部分の断面曲線における最高から5番目までの山頂の標高の平均値と、最深から5番目までの谷底の標高の平均値との差で表わした。十点平均粗さは、試料フィルム表面から10本の断面曲線を求め、これらの断面曲線から求めた抜き取り部分の十点平均粗さの平均値で表わした。尚、この時使用した触針の半径は、2.0μm 荷重30mgで カットオフ値は、0.08mmである。
【0065】
実施例および比較例において使用したポリエステルは、以下のようにして準備したものである。
〈ポリエステルの製造〉
製造例1(ポリエチレンテレフタレートA1) CaCO3 0.70μm
ジメチルテレフタレート100部、エチレングリコール60部および酢酸マグネシウム・4水塩0.09部を反応器にとり、加熱昇温すると共にメタノールを留去し、エステル交換反応を行い、反応開始から4時間を要して230℃に昇温し、実質的にエステル交換反応を終了した。次いで、エチレングリコールスラリーエチルアシッドフォスフェート0.04部、三酸化アンチモン0.03部、平均粒径0.70μmの合成炭酸カルシウム粒子を平均粒径3.4μmのシリカ粒子を0.01部添加した後、100分で温度を280℃、圧力を15mmHgに達せしめ、以後も徐々に圧力を減じ、最終的に0.3mmHgとした。4時間後、系内を常圧に戻し、ポリエチレンテレフタレートAを得た。得られたポリエチレンテレフタレートA1の固有粘度は0・50、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.98重量%であった。
【0066】
ポリエチレンテレフタレートA1を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、下記表1に示すポリエチレンテレフタレートA2〜A4を得た。得られたポリエチレンテレフタレートA2〜A4の固有粘度と、オリゴマー(環状三量体)の含有量を下記表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
製造例2(ポリエチレンテレフタレートB1)
製造例1において、平均粒径0.70μmの合成炭酸カルシウム粒子を0.01部添加する代わりに平均粒径3.4μmのシリカ粒子0.1部添加する以外は製造例1と同様にしてポリエチレンテレフタレートCを得た。得られたポリエチレンテレフタレートAの固有粘度は0・51、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.99重量%であった。
【0069】
ポリエチレンテレフタレートB1を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、下記表1に示すポリエチレンテレフタレートB2〜B4を得た。得られたポリエチレンテレフタレートB2の固有粘度と、オリゴマー(環状三量体)の含有量を下記表2に示す。
【0070】
【表2】

【0071】
製造例4(ポリエチレンテレフタレートC1)
製造例1において平均粒径0.70μmの合成炭酸カルシウム粒子を0.01部添加する代わりに平均粒径0.27μmの合成炭酸カルシウム粒子を0.01部添加する以外は製造例1と同様にしてポリエチレンテレフタレートDを得た。得られたポリエチレンテレフタレートAの固有粘度は0・50、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.98重量%であった。
【0072】
ポリエチレンテレフタレートC1を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、下記表1に示すポリエチレンテレフタレートC2〜C4を得た。得られたポリエチレンテレフタレートC2の固有粘度と、オリゴマー(環状三量体)の含有量を下記表3に示す。
【0073】
【表3】

【0074】
製造例4(ポリエチレンテレフタレートD1)
製造例1において平均粒径0.70μmの合成炭酸カルシウム粒子を0.01部を添加しない以外は製造例1と同様にしてポリエチレンテレフタレートD1を得た。得られたポリエチレンテレフタレートD1の固有粘度は0・50、オリゴマー(環状三量体)の含有量は0.98重量%であった。
【0075】
ポリエチレンテレフタレートD1を、予め160℃で予備結晶化させた後、温度220℃の窒素雰囲気下で固相重合し、下記表1に示すポリエチレンテレフタレートD2〜D4を得た。得られたポリエチレンテレフタレートD2〜D4の固有粘度と、オリゴマー(環状三量体)の含有量を下記表4に示す。
【0076】
【表4】

【0077】
(ポリエステルフィルムの製造)
上記ポリエステルA〜Eを表1〜3に示す配合比でA層、B層の混合原料とし、2台の二軸押出機に各々を供給し、各々285℃で溶融した後、全厚みに対して、A層/B層=50%/50%の厚み比となるように、2種2層の構成で20℃に冷却したキャスティングドラム上に共押出し、冷却固化させて無配向シートを得た。次いで、100℃にて縦方向に2.8倍延伸した後、テンター内で予熱工程を経て120℃で4.6倍の横延伸を施した後、225℃で10秒間の熱処理を行い、その後180℃で幅方向に10%の弛緩を加え、下記表6に示す厚さのポリエステルフィルムを得た。
【0078】
なお、比較例1と2に関しては、1台の押出機を用いて単層のポリエステルフィルムとした。上記の方法で得られたポリエステルフィルムの表面特性を表6に示す。
【0079】
【表5】

【0080】
【表6】

【0081】
《エポキシ樹脂組成物》
液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン(株)製「エピコート828EL」)20部、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂(東都化成(株)製YDB−500)20部、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(エポキシ当量215、軟化点78℃、大日本インキ化学(株)製エピクロンN−673)20部、末端エポキシ化ポリブタジエンゴム(ナガセ化成工業(株)製デナレックスR−45EPT)15部とをMEKに攪拌しながら加熱溶解させ、そこへ臭素化フェノキシ樹脂ワニス(不揮発分40重量%、臭素含有量25重量%、溶剤組成、キシレン:メトキシプロパノール:メチルエチルケトン=5:2:8、東都化成(株)製YPB−40−PXM40)50部、エポキシ硬化剤として2、4−ジアミノ−6−(2−メチル−1−イミダゾリエチル)−1、3、5−トリアジン・イソシアヌル酸付加物4部、さらに微粉砕シリカ2部、三酸化アンチモン4部、炭酸カルシウム5部を添加し樹脂組成ワニスを作製した。
【0082】
《ポリエステルフィルムへの樹脂組成ワニス塗布:層間絶縁層の形成》
上記の方法で作製した樹脂組成ワニスを、実施例1〜8、比較例1〜4で得られたポリエステルフィルムのB層表面上に、乾燥後の樹脂厚さが70μmとなる用にダイコーターで塗布し、80〜120℃(平均100℃)で乾燥し、ポリエステルフィルムを支持体とした層間絶縁層を作製した。
【0083】
比較例4は、樹脂組成ワニスを塗布した後の乾燥時に、ポリエステルフィルムにシワが入り、製品を得られなかった。
【0084】
《ロール外観》
樹脂組成ワニスをポリエステルフィルム上に塗布し、層間絶縁層を有するフィルムの製造において、該フィルムの製品ロールの外観を目視観察し評価し、その結果を表4に示す。特に、ロール両端面のズレを観察した。
(ロール外観良好) ◎>○>△>× (ロール外観不良)
上記判定基準中、△以上のものが実使用上問題なく使用できるレベルである。
【0085】
《表面特性》
得られた層間絶縁層のポリエステルフィルムに相当する表面を観察し、ポリエステルフィルム表面から移行したオリゴマー(環状三量体)の有無、電気特性に影響を与える突起の有無や、突起の均一性の表面特性を下記のとおり評価し、その結果を表4に示す。
◎:オリゴマーが見られず、突起の均一性を有し、電気特性に悪影響を与える大きな突起は見られない
○:僅かにオリゴマーが観察され、突起の均一性が僅かに劣り、大きな突起も若干見られる
△:実用上問題なく使用できるレベルのオリゴマーが観察され、実用上問題なく使用できるレベルの均一性と突起の大きさが見られる
×:オリゴマーが見られ、突起の均一性に劣り、電気特性に悪影響を与える突起が見られる
上記判定基準中、△以上のものが実使用上問題なく使用できるレベルである。
【0086】
《コストの優位性》
得られる特性と、歩留まり等の製造に関わるコスト評価を下記のとおり評価し、その結果を表4に示す。
○:コスト的に優位性が見られる。
△:コスト的に若干劣るが。
×:コスト的に劣る。
上記判定基準中、△以上のものが実使用上問題なく使用できるレベルである。
【0087】
【表7】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のポリエステルフィルムは、ビルドアップビルドアップ法で製造する多層プリント配線板に用いられる、フィルム状の層間絶縁材料を形成するための支持体として、好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
層間絶縁層を形成する熱硬化性樹脂を塗布するための支持体として使用されるポリエステルフィルムであって、180℃で10分間熱処理した時のフィルム表面オリゴマー(環状三量体)量がフィルムの少なくとも片面において3.0mg/m以下であることを特徴とする層間絶縁層形成支持体用ポリエステルフィルム。

【公開番号】特開2010−171151(P2010−171151A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11486(P2009−11486)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】