説明

山留め工法

【課題】作業工程が大幅に短縮できて作業コストを下げることができる山留め工法を提供する。
【解決手段】新築床付けレベル21よりも地下水位WLが高い場合に、既存地下外周壁11の下端部11aよりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、既存地下外周壁11の外側に沿って、該既存地下外周壁11の下端部11aよりも上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液12を注入して止水薬液層12aを形成し、既存地下外周壁11と耐圧板フレーム18とを存置して既存地下躯体17を先行解体し、既存地下外周壁11の内側への水平切梁19の架設と前記既存地下躯体17aの解体とを上部から順次繰り返して行い、既存地下外周壁11の下部で止水薬液層12aの内側を掘削し、該掘削した既存地下外周壁11の下部に山留め補強壁用のコンクリート壁20を形成する山留め工法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新築床付けレベルよりも地下水位が高い場合において、既存地下外周壁の下端部よりも深く掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の山留め工法としては、図13から図18に示す次の工法が知られている。この山留め工法は、まず、既存地下躯体1を先行解体する(図13参照)。この場合、既存地下外周壁2及び耐圧板フレーム3は存置する。
【0003】
次に、残土4で埋戻してから(図14参照)、地上からロックオーガー機又はCD機を使用して、既存地下外周壁2の外側部分2aを解体し(図15参照)、更に、SMW(登録商標)工法により山留め工事を行って連続壁5を形成する(図16参照)。
【0004】
そして、いったん埋戻した残土4を再び掘削して撤去し、水平切梁6の架設と既存地下躯体1aの解体とを上部から順次繰り返して行い(図17参照)、床付けレベル7まで残土8を掘削して床付けし(図18参照)、続いて、新築地下基礎躯体工事を開始する。
【0005】
各図中において、GL(ground line)はグランドラインを示し、WL(water line)は地下水位を示す。
【0006】
なお、特開2001−271365号公報には、既存地下躯体の外周に止水性能を備える薄壁を、その既存地下躯体よりも深い位置まで構築し、既存地下躯体の外壁を山留めとして利用する地下構造物の施工法が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−271365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来例の山留め工法においては、残土の埋戻しや再度の掘削、撤去を行い、あるいは、ロックオーガー機やCD機による解体作業を行うので、作業工程が長くなって作業コストが高くなるという問題点を有している。
【0009】
また、ロックオーガー機やCD機による解体作業は、非常に大きな騒音や振動が発生するので、近隣住民からのクレームの大きな要因になるという問題点も有している。
【0010】
更に、ロックオーガー機や杭打ち機等の大型重機は、段差の大きい敷地に乗り入れが困難であるという問題点も有している。
【0011】
このことから、従来例における山留め工法においては、作業工程を短縮して作業コストを下げることと、騒音や振動の発生を抑えることと、段差の大きい敷地への大型重機の乗り入れ問題とについて解決しなければならない課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来例の課題を解決するための本発明の要旨は、新築床付けレベルよりも地下水位が高い場合に、既存地下外周壁の下端部よりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、前記既存地下外周壁の外側に沿って、該既存地下外周壁の下端部よりも上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液を注入して止水薬液層を形成し、前既存地下外周壁と耐圧板フレームとを存置して既存地下躯体を先行解体し、前記既存地下外周壁の内側への水平切梁の架設と前記既存地下躯体の解体とを上部から順次繰り返して行い、前記既存地下外周壁の下部で前記止水薬液層の内側を掘削し、該掘削した既存地下外周壁の下部に山留め補強壁用のコンクリート壁を形成することである。
【0013】
また、本発明の要旨は、新築床付けレベルよりも地下水位が高い場合に、既存地下外周壁の下端部よりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、前記既存地下外周壁と耐圧板フレームとを存置して既存地下躯体を先行解体し、前記既存地下外周壁の外側に沿って、該既存地下外周壁の下端部よりも上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液を注入して止水薬液層を形成し、前記既存地下外周壁の内側への水平切梁の架設と前記既存地下躯体の解体とを上部から順次繰り返して行い、前記既存地下外周壁の下部で前記止水薬液層の内側を掘削し、該掘削した既存地下外周壁の下部に山留め補強壁用のコンクリート壁を形成することである。
【0014】
また、前記薬液の注入は、地上から二重管ロッドを用いて所要深度まで削孔して行うこと、;
前記薬液の注入は、既存地下外周壁の外側に沿って千鳥状に行うこと、;
前記既存地下外周壁の下端部の下部の掘削及びコンクリート壁の形成は、外周壁の横方向に沿って所要幅ごとに行うこと、;
を含むものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る山留め工法によれば、既存地下外周壁を山留めとして利用するので、従来例に比べて作業コストを削減することができる。
また、従来例のような残土の埋戻しや再度の掘削、撤去を行わず、ロックオーガー機等による解体作業がないので、作業工程が大幅に短縮できて作業コストを下げることができる。
同様に、ロックオーガー機やCD機等の大型重機を使用しないので、騒音や振動の発生を抑えることができるだけでなく、前述の段差の大きい敷地への大型重機の乗り入れ問題も解決できる。
更には、残土の埋戻しを行わないので、搬入車両を削減することができるという種々の優れた効果を奏する。
【0016】
薬液の注入は、地上から二重管ロッドを用いて所要深度まで削孔して行うことによって、薬液の注入が効率的に行えると共に、止水薬液層が確実に形成できるという優れた効果を奏する。
【0017】
薬液の注入は、既存地下外周壁の外側に沿って千鳥状に行うことによって、薬液が満遍なく注入されると共に、止水薬液層が所要の厚みを有して確実に形成できる。
【0018】
既存地下外周壁の下端部の下部の掘削及びコンクリート壁の形成は、外周壁の横方向に沿って所要幅ごとに行うことによって、山留め補強壁用のコンクリート壁が確実に形成できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】既存地下外周壁11の外側に沿って止水薬液層12aを形成した状態を示す縦断面図である。
【図2】既存地下躯体17を先行解体した状態を示す縦断面図である。
【図3】水平切梁19を架設し、既存地下躯体17を解体した状態を示す縦断面図である。
【図4】既存地下外周壁11の下端部11aの下部にコンクリート壁20を形成した状態を示す縦断面図である。
【図5】床付けレベル21まで残土22を掘削して床付けする状態を示す縦断面図である。
【図6】二重管ストレーナー工法を説明する説明図である。
【図7】二重管ストレーナー工法を説明する説明図である。
【図8】二重管ストレーナー工法を説明する説明図である。
【図9】二重管ストレーナー工法を説明する説明図である。
【図10】既存地下外周壁11の外側の平面を示す横断面図である。
【図11】本発明と従来例との山留め工法の前半の工程の一例を比較する工程表である。
【図12】本発明と従来例との山留め工法の後半の工程の一例を比較する工程表である。
【図13】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【図14】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【図15】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【図16】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【図17】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【図18】従来例に係る山留め工法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本発明は、新築床付けレベル21よりも地下水位WLが高い場合に、既存地下外周壁11の下端部11aよりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、図1から図5は、既存地下躯体17の縦断面図である。
【0021】
本発明に係る山留め工法は、図1に示すように、まず既存地下外周壁11の外側に沿って、当該既存地下外周壁11の下端部11aよりも約1m上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液12を注入して止水薬液層12aを形成する。根入れ位置は、杭、基礎あるいは柱等が地中に埋設された部分である。薬液12は、無機系溶液型水ガラス系グラウト材の瞬結型及び緩結型の使用が望ましい。
【0022】
薬液12の注入は、図6から図9に示すように、二重管ストレーナー工法により行う。即ち、ボーリングマシーン13を設置して、二重管ロッド14を用いて所要深度まで削孔し(図6参照)、削孔終了後に瞬結型の薬液12を一次注入し(図7参照)、次に暖結型の薬液12を二次注入し(図8参照)、これら一次注入と二次注入とを上方に引き上げながら順次繰り返して、所要幅及び高さの止水薬液層12aを形成し(図9参照)、注入終了後にボーリングマシーン13を次の削孔位置に移動する。
【0023】
また、薬液12の注入は、図10に示すように、既存地下外周壁11の外側に沿って千鳥状に行う。このような千鳥状にすることによって、止水薬液層12aが所要の厚みを有して満遍なく形成されることとなる。なお、図10中の符号15は、削孔部分を示し、符号12bは、削孔部分15からの薬液12の拡散範囲を示す。
【0024】
次に、図2に示すように、既存地下躯体17aを先行解体する。この場合、既存地下外周壁11及び耐圧板フレーム18は存置する。
なお、上述の薬液12を注入する工程は、当該既存地下躯体17aを先行解体する工程の後に行っても構わない。
【0025】
そして、図3に示すように、既存地下外周壁11の内側部分11bの解体と、既存地下外周壁11の内側への水平切梁19の架設と、既存地下躯体17aの解体とを上部階から順次繰り返して行ってから、耐圧板フレーム18を解体する。既存地下外周壁11は、山留めとして利用することとなる。
【0026】
更に、図4に示すように、既存地下外周壁11の下端部11aの下部を掘削し、当該掘削した既存地下外周壁11の下端部11aの下部に、図示しない型枠を設置してからコンクリートを打設して、止水薬液層12aの内側に山留め補強壁用のコンクリート壁20を形成する。
【0027】
既存地下外周壁11の下端部11aの下部の掘削と、コンクリート壁20の形成は、外周壁の横方向に沿って所要幅ごと、例えば、2mごとにエレメント分けして行う。このようにエレメント分けすることによって、コンクリート壁20が確実に形成されることとなる。
【0028】
そして、図5に示すように、床付けレベル21まで残土22を掘削して床付けし、コンクリート壁20の下端部20aの近傍を埋戻し23、続いて、新築地下基礎躯体工事を開始する。
【0029】
次に、以上のような本発明の山留め工法の工程の一例を、従来例の山留め工法の工程の一例と比較して説明する。
【0030】
まず、図11及び図12の工程表に示すように、本発明の山留め工法は、(A)薬液12の注入工事に7週間、(B)既存地下躯体17の先行解体に4週間、(C)水平切梁19の架設と既存地下躯体17の解体に9週間、(D)既存地下外周壁11の下部の掘削とコンクリート壁20の形成に4週間、(E)最終掘削と床付けに2週間、それぞれ掛かり、合計26週間を経て、27週目から新築地下基礎躯体工事を開始することとなる。
【0031】
これに対して、従来例の山留め工法は、(F)既存地下躯体1に4週間、(G)残土4の埋戻しに4週間、(H)ロックオーガー機による解体に8週間、(I)SMW工法による山留め工事に8週間、(J)残土4の掘削と水平切梁6の架設と既存地下躯体1aの解体に14週間、(K)最終掘削と床付けに2週間、それぞれ掛かり、合計40週間を経て、41週目から新築地下基礎躯体工事を開始することとなる。
【0032】
このように、従来例の山留め工法は、新築地下基礎躯体工事を開始するまでに40週間掛かるのに対して、本発明の山留め工法は、同26週間掛かるのであり、その差14週間の作業工程が、本願発明では短縮できて作業コストを下げることができる。
【0033】
以上のように本発明に係る山留め工法は、既存地下外周壁11の外側に沿って止水薬液層12aを形成し、その内側に山留め補強壁用のコンクリート壁20を形成するので、所謂ハイブリッド山留めが形成されることとなる。
また、既存地下外周壁11を山留めとして利用するので、従来例に比べて作業コストを削減できる。
更に、残土の埋戻しや再度の掘削、撤去を行わず、ロックオーガー機等による解体作業がないので、作業工程が大幅に短縮できて作業コストを下げることができだけでなく、騒音や振動の発生を抑えることができる。
【符号の説明】
【0034】
1、1a 既存地下躯体
2 既存地下外周壁
2a 外側部分
3 耐圧板フレーム
4 残土
5 連続壁
6 水平切梁
7 床付けレベル
8 残土
11 既存地下外周壁
11a 下端部
11b 内側部分
12 薬液
12a 止水薬液層
12b 拡散範囲
13 ボーリングマシーン
14 二重管ロッド
15 削孔部分
17、17a 既存地下躯体
18 耐圧板フレーム
19 水平切梁
20 コンクリート壁
20a 下端部
21 床付けレベル
22 残土
23 埋戻し

【特許請求の範囲】
【請求項1】
新築床付けレベルよりも地下水位が高い場合に、既存地下外周壁の下端部よりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、
前記既存地下外周壁の外側に沿って、該既存地下外周壁の下端部よりも上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液を注入して止水薬液層を形成し、
前記既存地下外周壁と耐圧板フレームとを存置して既存地下躯体を先行解体し、
前記既存地下外周壁の内側への水平切梁の架設と前記既存地下躯体の解体とを上部から順次繰り返して行い、
前記既存地下外周壁の下部で前記止水薬液層の内側を掘削し、
該掘削した既存地下外周壁の下部に山留め補強壁用のコンクリート壁を形成すること
を特徴とする山留め工法。
【請求項2】
新築床付けレベルよりも地下水位が高い場合に、既存地下外周壁の下端部よりも深く地盤を掘削して新築建物を建設する工事の山留め工法であって、
前記既存地下外周壁と耐圧板フレームとを存置して既存地下躯体を先行解体し、
前記既存地下外周壁の外側に沿って、該既存地下外周壁の下端部よりも上方から根入れ位置までに渡って止水性の薬液を注入して止水薬液層を形成し、
前記既存地下外周壁の内側への水平切梁の架設と前記既存地下躯体の解体とを上部から順次繰り返して行い、
前記既存地下外周壁の下部で前記止水薬液層の内側を掘削し、
該掘削した既存地下外周壁の下部に山留め補強壁用のコンクリート壁を形成すること
を特徴とする山留め工法。
【請求項3】
薬液の注入は、地上から二重管ロッドを用いて所要深度まで削孔して行うこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の山留め工法。
【請求項4】
薬液の注入は、既存地下外周壁の外側に沿って千鳥状に行うこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の山留め工法。
【請求項5】
既存地下外周壁の下端部の下部の掘削及びコンクリート壁の形成は、外周壁の横方向に沿って所要幅ごとに行うこと
を特徴とする請求項1又は2に記載の山留め工法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−233349(P2012−233349A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102782(P2011−102782)
【出願日】平成23年5月2日(2011.5.2)
【出願人】(000166432)戸田建設株式会社 (328)
【Fターム(参考)】