説明

山留め杭の載荷試験方法

【課題】反力受け専用の構造物を構築する必要がなく、しかも、山留め杭に対して大きな押込み力を作用させることが可能な山留め杭の載荷試験方法。
【解決手段】地中に埋設した山留め杭1にジャッキ7により下方への押込み力を作用させて載荷試験を行う山留め杭の載荷試験方法であって、山留め杭1による山留めの対象である構築物の躯体5を構築した後、その躯体5を反力受けとしてジャッキ7により山留め杭1に押込み力を作用させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中に埋設した山留め杭にジャッキにより下方への押込み力を作用させて載荷試験を行う山留め杭の載荷試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このような山留め杭の載荷試験方法では、ジャッキの反力を受け止めるための手段が必要で、従来、載荷試験の対象となる山留め杭の近くに反力杭を複数本打設し、さらに、その反力杭に反力桁を組み付けて反力受け専用の構造物を構築し、その構造物をジャッキの反力受けとして載荷試験を行うのが一般的であった(このような従来方法は、当業者の間で広く知られているものであるが、その技術内容について詳しく言及した特許文献などは見当たらないので、先行技術文献は示していない)。
また、従来、載荷試験の対象となる杭をその長手方向に複数に分割し、互いに隣接する分割杭の間にジャッキを配置して、一方の分割杭をジャッキの反力受けとして、他方の分割杭に押込み力を作用させて載荷試験を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−62066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、反力受け専用の構造物を構築する従来の方法では、載荷試験のためにわざわざ反力受け専用の構造物を構築する必要があり、しかも、その構造物はかなり大掛かりなものとなるため、山留め杭の載荷試験に多くの費用と期間を要するという欠点がある。
また、上記特許文献1に記載の方法では、ジャッキの反力を分割杭が受け止めるため、より具体的には、分割杭と地盤との摩擦力を反力とするため、載荷試験の対象杭に対してあまり大きな押込み力を作用させることができず、載荷試験の実施に際して対象杭に作用させる押込み力に制約を受けるという欠点がある。
【0005】
本発明は、このような従来の問題点に着目したもので、その目的は、反力受け専用の構造物を構築する必要がなく、しかも、山留め杭に対して大きな押込み力を作用させることが可能な山留め杭の載荷試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、地中に埋設した山留め杭にジャッキにより下方への押込み力を作用させて載荷試験を行う山留め杭の載荷試験方法であって、前記山留め杭による山留めの対象である構築物の躯体を構築した後、その躯体を反力受けとして前記ジャッキにより前記山留め杭に押込み力を作用させるところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、山留め杭による山留めの対象である構築物の躯体を構築した後、その躯体を反力受けとしてジャッキにより山留め杭に押込み力を作用させるので、つまり、山留めの対象となる構築物の躯体を先に構築して、その躯体をジャッキの反力受けとして利用するので、反力受け専用の構造物を構築する必要はなく、山留め杭の載荷試験を少ない費用で短期間のうちに行うことができる。
そして、その山留めの対象となる構築物の躯体は、当然のことながら、かなり大掛かりなものであるため、山留め杭に大きな押込み力を作用させて載荷試験を行うことも可能となる。
なお、構築物の躯体に関しては、必ずしも完成状態にまで構築する必要はなく、ジャッキの反力受けとして使用できる程度にまで構築した後であれば、躯体構築の途中においても実施することができる。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記山留め杭近傍の地盤を掘削して山留め杭の上方部分を露出させるとともに、その掘削部分に前記躯体を構築した後、その躯体と前記山留め杭の上方露出部分を連結し、かつ、その山留め杭の上方露出部分と下方埋設部分を切断分離して前記ジャッキを介装した状態で、前記躯体と山留め杭の上方露出部分を反力受けとして前記ジャッキにより前記山留め杭の下方埋設部分に押込み力を作用させるところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、山留め杭近傍の地盤を掘削して山留め杭の上方部分を露出させるとともに、その掘削部分に前記躯体を構築した後、その躯体と山留め杭の上方露出部分を連結し、かつ、その山留め杭の上方露出部分と下方埋設部分を切断分離してジャッキを介装した状態で、前記躯体と山留め杭の上方露出部分を反力受けとしてジャッキにより山留め杭の下方埋設部分に押込み力を作用させるので、例えば、床付け面まで地盤を掘削して地下構造物を構築するような場合、その地下構造物の躯体と山留め杭の上方露出部分を反力受けとして合理的な載荷試験の実施が可能となる。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記山留め杭の上方露出部分と下方埋設部分を切断分離する前に、その切断分離箇所の裏側を遮水処理するところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、山留め杭の載荷試験前に切断分離箇所の裏側を遮水処理するので、たとえ切断箇所の裏側に地下水の水路があり、載荷試験により山留め壁にクラックが入った場合でも、構築物の躯体側に漏水が発生することが回避される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明による山留め杭の載荷試験方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
この載荷試験の対象となる山留め杭1は、図2の(イ)に示すように、オーガー(図示せず)などによって掘削された円形の杭形成穴2内に芯材としてH型鋼3を挿入し、さらに、ソイルセメント4などを打設して構築される。なお、杭形成穴2としては、円形に限らず、安定液を用いて掘削された矩形の場合もある。
山留め杭1を構築した後、図2の(ロ)および(ハ)に示すように、山留め杭1の近傍の地盤を地表面GLから床付け面FLまで掘削して山留め杭1の上方部分1aを露出させ、その掘削部分に山留めの対象となる構築物の躯体5を構築し、山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bの裏側に薬剤等を注入して遮水壁6を形成し、遮水壁6による遮水処理を施す。
【0013】
その後、構築物の躯体5と山留め杭1の上方露出部分1aを連結し、図2の(ニ)および図1に示すように、山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bをガス切断機などにより切断分離して、その間に載荷試験用の油圧式のジャッキ7を挿入する。
そして、山留め杭1の上方露出部分1aを介して構築物の躯体5により反力を受け止められた状態で、つまり、山留め杭1の上方露出部分1aと構築物の躯体5を反力受けとして油圧式のジャッキ7により山留め杭1の下方埋設部分1bに下方への押込み力を作用させて圧力計(図示せず)などにより山留め杭1の鉛直耐力を測定するのである。
なお、載荷試験の計測に必要なひずみ計などの計測治具は、山留め杭1の構築時に設置される。
【0014】
〔別実施形態〕
(1)先の実施形態では、構築物の躯体5を構築した後、山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bの裏側に遮水壁6を形成し、その後、躯体5と山留め杭1の上方露出部分1aを連結した例を示したが、先に構築物の躯体5と山留め杭1の上方露出部分1aを連結し、その後、遮水壁6を形成して山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bを切断分離することもできる。
また、山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bをガス切断機などにより切断分離して、その間にジャッキ7を挿入した例を示したが、山留め杭1の切断分離作業とジャッキ7の挿入作業を容易にするため、例えば、山留め杭1の上方露出部分1aと下方埋設部分1bのH型鋼3を予め分割しておき、両H型鋼3の間に取り外し容易な連結ピースを介在させてボルト連結しておくなどの手段を採用することもできる。
さらに、遮水壁6は必ずしも必要なものではなく、山留め杭1の構築部分に地下水の水路がない場合には、遮水壁6を形成することなく載荷試験を行うこともできる。
【0015】
(2)先の実施形態では、地表面GLから床付け面FLまで掘削し、その掘削部分に構築物の躯体5を構築した例を示したが、地表面GLに構築物の躯体5を構築し、その躯体5を反力受けとして、躯体5と山留め杭1との間にジャッキ7を挿入して載荷試験を実施することもできる。
その場合には、山留め杭1全体に押込み力を作用させて載荷試験を行うことになり、また、遮水壁6も不要となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】山留め杭の載荷試験方法の実施態様を示す断面図
【図2】山留め杭の載荷試験方法の工程を示す断面図
【符号の説明】
【0017】
1 山留め杭
1a 山留め杭の上方露出部分
1b 山留め杭の下方埋設部分
5 構築物の躯体
7 ジャッキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設した山留め杭にジャッキにより下方への押込み力を作用させて載荷試験を行う山留め杭の載荷試験方法であって、
前記山留め杭による山留めの対象である構築物の躯体を構築した後、その躯体を反力受けとして前記ジャッキにより前記山留め杭に押込み力を作用させる山留め杭の載荷試験方法。
【請求項2】
前記山留め杭近傍の地盤を掘削して山留め杭の上方部分を露出させるとともに、その掘削部分に前記躯体を構築した後、その躯体と前記山留め杭の上方露出部分を連結し、かつ、その山留め杭の上方露出部分と下方埋設部分を切断分離して前記ジャッキを介装した状態で、前記躯体と山留め杭の上方露出部分を反力受けとして前記ジャッキにより前記山留め杭の下方埋設部分に押込み力を作用させる請求項1に記載の山留め杭の載荷試験方法。
【請求項3】
前記山留め杭の上方露出部分と下方埋設部分を切断分離する前に、その切断分離箇所の裏側を遮水処理する請求項2に記載の山留め杭の載荷試験方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−211520(P2007−211520A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33914(P2006−33914)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】