説明

岩盤斜面状態判定システム及び岩盤斜面状態判定方法

【課題】AEの波形データを短時間に誤判断することなく解析でき、正確な岩盤の状態判定を自動的に実行することが出来る岩盤状態判定システム及び岩盤状態判定方法の提供。
【解決手段】岩盤斜面Rに設置したAEセンサ4aが感知した波形データの解析から、検査対象となる岩盤斜面状態を評価・判定する岩盤斜面状態判定システムにおいて、AEセンサ4aからの出力信号をAE波とそれ以外の信号とに判別するAE信号判別ユニット7と、図心法を用いたAE波の周波数決定手段を有した周波数決定ユニット8と、判別されたAE波の発生数の推移及び周波数決定ユニットで決定された当該AE波の周波数の変化に基づいて検査対象となる岩盤の状態を判断する解析判定ユニット9とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩盤が塑性変形あるいは崩壊するときに、それまで貯えられていた歪エネルギが解放され弾性波が生じる現象(Acoustic Emission:本明細書では「AE」と記載する)を自動的に計測してデータ処理することにより、岩盤斜面内部の岩盤の状態を判定し、これに基づいて岩盤斜面の状態を判定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
岩盤の状態を判断して、岩盤破壊の危険性の判断等を行うための技術は、従来より、種々提案されている。
上述したAE波を用いた手法では、状態を判断する対象となる岩盤にボアホールを穿孔し、その中にAEセンサを設置し、セメントミルクで埋設する。岩盤内に塑性変形あるいは破壊が発生すると、それに伴って岩盤内において発生するAE波(通常20〜100KHz程度)が、ボアホール中に埋設されたAEセンサで受信され、AEセンサの出力信号として、信号ケーブルを介してデータ収録・解析装置側へ伝送される。データ収録・解析装置側では、受信したAEセンサ出力信号を適宜処理して、岩盤の状態判定を行う(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような方法を行うためには、共通して大きな三つの問題点があった。
第1の問題は、実際の計測ではAE波だけでなくさまざまなノイズが混入するため、それにより測定精度が低下するケースが多いことである。特に岩盤斜面の場合、近くに道路や鉄道等があるために、外部からのノイズが混入し易い。
第2の問題は、得られたAE波の何を指標にして岩盤状態を評価して、岩盤破壊の危険性を判断するかについて、定まった基準がないことである。
第3の問題は、実際にAEセンサを設置する場所は崩落の危険がある急峻な岩盤斜面であるため、設置作業は危険を伴う非常に難易度が高い作業となることである。
【0004】
第1の問題に対して、従来技術では、例えば、伝送された信号をすべて記憶媒体に収録し、AEセンサによる計測作業の終了後に、測定員自身の目視確認や波形パラメータの統計処理などにより、AE波であるか否かの判別を行い、AE波と判別された波形データを岩盤挙動の予測に供していた。
しかし、係る方法では、測定員による判断が必須となるので、例えば、習熟した測定員と、未熟な測定員では、同一の出力信号であっても異なる判断結果が導出されてしまう、という問題点が存在するので、岩盤の状態については、全ての岩盤検査の現場において正確な岩盤状態の評価・判定および岩盤挙動の予測が困難であった。
【0005】
第2の問題に対しては、AE発生数の増減を用いて岩盤の挙動の予測を行うことがほとんどである。
しかし、発生数の増減のみでは、変化のどの時点で岩盤が不安定となるのかを把握することが出来ず、岩盤状態に基づく岩盤斜面状態判定も精度良く行うことが出来ないという難点がある。このため、他の波形パラメータを指標とする試みが為されてきたが、精度良く岩盤の挙動を予測するには至っていないのが現状であった。
【0006】
第3の問題については、難易度の高い設置作業を終えた後においても、センサやケーブルをメンテナンスするために作業員が設置位置に行かねばならない。そして、センサやケーブルの設置個所に作業員が行く作業(危険を伴う非常に難易度が高い作業)を行うことなく、人力作業で常時センサの作動状態を確認することは不可能である。
さらに、従来の方法では、測定員による人的処理作業を多く必要とし、計測結果を算出するのに比較的多くの時間を要するために、計測結果を迅速に非難や退避といった現地対応に反映させることが困難であった。
【0007】
上記の第1の問題に対しては、例えば特許文献2では、AEセンサにより検出された全ての波形について、AE波とそれ以外のもの(例えば、ノイズ)とを自動的に判別することが出来る技術が提案されている。
係る技術により、岩盤状態の判定・予測に必要とされる人員・労力・時間を削減するとともに、ノイズの影響を極力低減した精度のよい良い計測が可能となった。
しかし、上述した第2の問題と第3の問題については、依然として解消しておらず、残存したままであった。
【特許文献1】特開平10−123102号公報
【特許文献2】特開2001−165716号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した様な従来技術の問題点に鑑みて提案されたものであり、AE波の波形データを短時間に誤判断することなく解析でき、測定員の熟練度やセンスに依存することなく、正確な岩盤斜面の状態判定を、自動的に実行することが出来る岩盤斜面状態判定システム及び岩盤斜面状態判定方法の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者は、種々の研究の結果、AE発生数と、AE波の周波数変化をパラメータとすれば、検査対象となる岩盤の状態を正確に判断できることを見出した。
【0010】
本発明は係る知見に基づいて提案されたものであり、岩盤斜面(R)に設置したAEセンサ(4a)が感知した波形データの解析から、検査対象となる岩盤斜面状態を評価・判定する岩盤斜面状態判定システムにおいて、前記制御・解析装置(11)は、AEセンサ(4a)からデータ収録装置(6)を経て送られてきた出力信号をAE波とそれ以外の信号(ノイズを含む)とに判別するAE信号判別ユニット(7)と、AE信号判別ユニット(7)でAE波と判別された波形信号の周波数を決定する周波数決定ユニット(8)と、AE信号判別ユニット(7)で判別されたAE波の発生数の推移及び周波数決定ユニット(8)で決定された当該AE波の周波数の変化に基づいて検査対象となる岩盤斜面(R)の状態を判断する解析判定ユニット(9)と、データ収録装置(6)の制御を行う制御ユニット(10)を有することを特徴としている(請求項1)。
【0011】
本発明において、前記データ収録装置(6)は、波形データを増幅する手段(6a)と、増幅された波形データを(設定手段6eにより設定された設定値に応じて)フィルタ処理する手段(6b)と、フィルタ処理されたアナログの波形データをデジタルの波形データに変換するAD変換手段(6c)とを具備しているのが望ましい(請求項2)。
【0012】
そして、前記AE信号判別ユニット(7)は、(増幅手段6aで増幅され、フィルタ処理手段6bでフィルタ処理され、AD変換手段6cによりAD変換された後に)データ収録装置(6)から送られてくる波形データを、時間のパラメータ(T1〜T4)に対する設定値によりAE波とノイズに判別し、AE波以外の波形データを破棄する波形判定ブロック(7b)を具備しており、前記周波数決定ユニット(8)は、AE波のFFT解析を行う装置(FFT解析ブロック8a)と、FFT解析で求められた周波数−FFTスペクトル線図(縦軸にFTTスペクトル、横軸に周波数をとった特性図)に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心を演算し、当該図心における周波数をAE波における周波数として決定する装置(波形周波数算出ブロック8b)とを具備し、前記解析判定ユニット(9)は、AE信号判別ユニット(7)で判別されたAE波発生数の推移及び周波数決定ユニット(8)で決定された当該AE波の周波数の変化に基づいて検査対象となる岩盤斜面の状態を評価・判定する装置(岩盤評価ブロック9b及び安定度の判定・予測ブロック9c)を具備しているのが好ましい(請求項3)。
【0013】
本発明において、AEセンサ(4a)の出力信号を(データ収録装置6で増幅、フィルタ処理、AD変換を行った後の波形データを)データ収録装置(6)から制御・解析装置(11)に送信するための無線(5b)通信装置と、制御・解析装置(11)の制御ユニット(10)からデータ収録装置(6)の作動を制御する信号を送信するための無線(10b)通信装置とを設けるのが好ましい(請求項4)。
【0014】
本発明において、パルス波発信用センサ(4b)をAEセンサ(4a)の近傍に設置し、前記データ収録装置(6)に備えたパルス波発生手段(6d)によりパルス波発信用センサ(4b)からパルス波を発振させ、AEセンサの作動状態、およびAEセンサ(4a)、パルス波発信用センサ(4b)間の岩盤斜面状態の変化を確認する様に構成することが望ましい(請求項5)。
【0015】
本発明の岩盤崩落判方法は、岩盤斜面(R)に設置したAEセンサ(4a)が感知した波形データの解析から、検査対象となる岩盤斜面状態を評価・判定する岩盤状態判定方法において、制御・解析装置(11)内に、AE信号判別ユニット(7)によりAEセンサ(4a)からの出力信号をAE波とそれ以外の信号(ノイズを含む)とを判別するAE波判別工程(S7)と、周波数決定ユニット(8)によりAE信号判別ユニット(7)で判別されたAE波の周波数を決定する周波数決定工程(S9、S10)と、AE信号判別ユニット(7)で判別されたAE波の発生数の推移および周波数決定ユニット(8)で決定されたAE波の周波数の変化に基づいて、解析判定ユニット(9)により検査対象となる岩盤斜面の状態を判断する岩盤斜面状態評価判定工程(S11、S12)、とを有することを特徴としている(請求項6)
【0016】
本発明において、前記AE信号判別工程は、AD変換された波形データを時間のパラメータ(T1〜T4)の設定値により判断する工程(S7)と、AE波の波形データ以外を破棄する工程(S8)、とを有しているのが好ましい(請求項7)。
【0017】
前記周波数決定工程は、AE波のFFT解析を行う工程(S9)と、FFT解析で求められた周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心(重心)を演算し、当該図心(重心)における周波数をAE波における周波数として決定する工程(S10)、とを有するのが好ましい(請求項8)。
【発明の効果】
【0018】
上述する構成を具備する本発明によれば、AE信号判別ユニット(7)からのAE波の発生数の推移と、周波数決定ユニット(8)で決定されたAE波の周波数の変化という2つのパラメータにより、計測された岩盤斜面(R)がどの様な状態にあるかを判断し、安全性を判定し、挙動を予測し、必要に応じて危険である旨を判定することが出来る。
そして、AE波の周波数を岩盤の状態判定のパラメータとして用いることにより、AE波の発生数のみをパラメータとして採用する場合に比較して、客観性の高い指標により岩盤の状態をより詳細且つ正確に判断することが出来る様になった。
【0019】
例えば、AE波の発生が確認された場合は、岩盤斜面内において微小破壊に伴う亀裂が生じているものと推定されるが、その発生の程度(発生数、累積の発生数など)がどの程度になったときに、どのレベルの対処が必要であるかが従来は判別できず、直ちに避難すべき危険な状態であるか、監視を強化すべき段階であるのか、局所的な破壊にとどまり大きな崩壊につながらないのかが、従来技術では判定できない。その結果、過剰で不経済な対策を講じたり、逆に対策が遅れて被害を拡大してしまう可能性があった。
これに対して、本発明によれば、どのレベルの対処が必要であるかを適切に判定することが出来る。
【0020】
本発明における測定の原理について、図4の4A〜4Cを用いて説明する。
岩盤斜面内で破壊が発生すると変位が微小な段階からAE波が発生し、破壊の進行・拡大に伴いAE波は連続的に発生数を増加させる。ここで、破壊が局所的なものにとどまり、大きな岩盤崩壊まで至らない場合は、AE発生数はある時点で減少に転じ、やがて収束する(図4における4A)。
一方、さらに破壊が進行しAE発生数も増加し続けると、ついには大きな岩盤崩壊に至る(図4における4B)。したがってAE発生数に閾値を設けて、これにより岩盤破壊の進行状況すなわち岩盤斜面内部の不安定化を推定することが可能である。
しかし、AE波の発生数は、センサの種類や岩盤の地質・割れ目状況、破壊箇所とセンサの距離などの影響を大きく受けるため、増加するAE発生数がどのレベルに達したとき岩盤崩壊が発生するかをあらかじめ特定することはできない。すなわち、AE発生数の増減からは、破壊の進行とともにAE発生数が増加し、不安定化が進んでいることは分かるが、いつ大きな崩壊が起こるのかは分からず、AE波の発生数のみでは岩盤崩壊の適切な判定はできない。
【0021】
一方、AE波の周波数(後述する本発明の図心法による周波数)は、破壊の段階により変化することが、岩石試験結果等から判明した。それによれば、AE波の周波数は、載荷開始初期の段階では載荷重の増加に伴い上昇するが、破壊に至る直前(本明細書では図示しない実験結果によれば、最終的な破壊荷重の約8割の荷重)に低下した(図4における4C)。載荷後に周波数が上昇せずに一定のレベルを維持したケースも存在するが、その様なケースにおいても、図4における4Cで示す場合と同様に、破壊前には周波数が低下した。
これは、最終的な破壊に至る前段階では、破壊の対象物である物体の内部で微小亀裂が発達し、発生したAE波のうち特に弾性波の高周波成分がセンサに到達する前に減衰してしまい、結果として、低周波成分が相対的に卓越するようになったためと考えられる。
本発明は、破壊の過程で現れるこのようなAE発生数の増減と、AE周波数の変化という二つのパラメータの特性を総合的に評価して、岩盤斜面内部での破壊の進行状況、すなわち岩盤斜面の安定性を判定する。
【0022】
ここで、AE波の計測に際しては、周波数の決定は、通常、周波数−FFTスペクトル線図を描き、そのスペクトル強度のピーク値を卓越周波数として波形を代表させ、これをそのAE波形の周波数として評価することが一般的である。しかし、卓越周波数からAE波形の周波数を求める方法では、本発明が目的とする岩盤斜面の安定性の判定は行うことができない。
【0023】
そこで本発明では、前記周波数決定ユニット(8)における周波数決定手段は、FFT解析で求められた周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と座標軸により作られる図形の図心(重心)を演算し、当該図心(重心)における周波数をAE波における周波数として決定する様に構成されており(請求項3)、換言すれば、いわゆる「図心法」を用いてAE波の周波数を適切に決定するため、全体の特徴を精度よく捉えることが出来る。卓越周波数と図心法による周波数の違いについて、図6を用いて説明する。
【0024】
図6は周波数−FFTスペクトル線図であり、図6におけるA1、A2、B1、B2のそれぞれの上部には、卓越周波数から求めた代表周波数を矢印で示している。また、図6におけるA1、A2、B1、B2のそれぞれの下部には、図心法により求めた代表周波数を二重矢印で示している。
センサで受信したAE波が図6のA1やA2のようなタイプであれば、そのピークを示す周波数は比較的集中しており、あるいは比較的明瞭に1つの周波数にピークが現れているため、FFTスペクトル値が最大となる卓越周波数により、その波形の特徴を代表することが可能である。
【0025】
しかし、一般にAE波形は様々な周波数成分の波が複合した波であるため、図6のB1やB2のように、比較的広範囲で複数のピークが現れる場合が多い。卓越周波数では、係る要素を無視してしまうので、AE波形全体の特徴を現しているとはいえない。
例えば、図6のA2とB2では卓越周波数はほぼ同じであるが、周波数成分としてはB2の方がより低周波成分を含有している。本発明の岩盤斜面状態判定システムでは、この低周波成分の増加もAE波形の周波数低下の要因となるため、卓越周波数を用いると精度のよい判定は出来ない。
従来の方法である卓越周波数から求めた周波数と比べると、図心法で求めた周波数は、図6のB1、B2において低周波成分が多く複合しているという特徴を良くとらえている。そのため、図心法で求めた周波数は、本発明の岩盤斜面状態判定システムで使用する周波数として最適である。
【0026】
また別の問題として、AEセンサにより求めたAE波形はセンサの周波数特性の影響を受けやすく、求めたAE波形の周波数もセンサの特性に依存している可能性がある。このため、異なる特性を持つセンサで求めた周波数を単純に比較、評価することは、適切な評価とは言えない。
そこで本発明では、図心法により求めた一つのセンサにおけるAE波形の周波数の変化を指標にすることにより、センサの周波数特性の影響を受けずに岩盤評価ができ、精度の良い岩盤斜面判定が可能となった。
【0027】
本発明において、データ収録装置(6)が、波形データを増幅手段(6a)により増幅し、増幅手段(6a)から受けた波形データを設定値に応じてフィルタ処理(6b)し、フィルタ処理されたアナログの波形データをデジタルの波形データに変換するAD変換手段(6c)とを有し、制御・解析装置(11)内のAE信号判別ユニット(7)が、AD変換手段(6c)から受けた波形データを時間のパラメータに基づいて判断し、AE波の波形データ以外を破棄する波形判定ブロック(7b)を有するようにすれば(請求項3)、センサ(4a)の検出信号を、AE波の波形であるか、或いはAE波以外の波形(例えば、ノイズ)であるかを短時間に正確に判別して、AE波のみを解析することが出来る。
【0028】
急峻な岩盤斜面(R)にAEセンサ(4a)を設置した場合には、AEセンサ(4a)の設置位置に作業員が行くことが難しく、従来技術では、AEセンサ(4a)の状態を確認することが困難であった。
これに対して、本発明において、AEセンサ(4a)の近傍にパルス波発信用センサ(4b)を設置し、データ収録装置(6)に備えたパルス波発生手段(6d)によりパルス波発信用センサ(4b)からパルス波を発振し(請求項4)、AEセンサ(4a)にパルス波発信用センサ(4b)の発信した検査用パルスに応答した波形が生じたのであれば、AEセンサ(4a)が正常に作動している旨が把握できる。
そのため、作業者がAEセンサ(4a)の設置箇所に行くという危険な作業を行わなくても、AEセンサ(4a)の設置後に正常に作動しているか否かをチェックすることが出来る。
【0029】
また、岩盤内を伝播する弾性波は、岩盤の劣化の進行具合・割れ目の状態により伝播速度や振幅値が変化するため、検査用パルスに対する応答波の伝播速度や振幅値の変化を記録し比較することにより、AEセンサ(4a)とパルス波発信用センサ(4b)間における岩盤の状態の変化をチェックすることが可能である。
【0030】
本発明において、AEセンサ(4a)の出力結果を遠隔地の制御・解析装置(11)へ無線で送信する通信手段を具備すれば(請求項5)、解析を岩盤斜面から離れた安全な遠隔地で行って、その結果を把握することができるので、岩盤斜面状態判定を更に安全に行うことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、添付図面を参照にして、本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の実施形態の概要を示している。
図1において、本発明の実施形態に係る岩盤斜面状態判定システムは、AEセンサ4aと、パルス波発信用センサ4bと、データ収録装置6と、制御・解析装置11とを有している。
【0032】
AEセンサ4aは、岩盤崩落判定の対象となる岩盤斜面Rに設置され、セメントミルク等で埋設されている。岩盤斜面Rに埋設されたAEセンサ4aは、信号ライン5を介してデータ収録装置6に接続されている。さらにデータ収集装置6は、信号ライン5aを介して、制御・解析装置11と接続されている。
ここで、信号ライン5aに代えて無線で送信する通信手段を具備し、無線データ収録装置6と制御・解析装置11との間で無線により情報を授受することも出来る。
図1において、点線で示すライン5bが、無線による通信を示している。
無線データ収録装置6、制御・解析装置11の詳細については、図2を参照して説明する。
【0033】
明確には図示されていないが、AEセンサ4aおよびパルス波発信用センサ4bは圧電素子を備えている。
AEセンサ4aは、岩盤崩壊による微弱な振動が圧電素子に伝達されると、当該変位に対応した出力電圧を、AE波を示す信号として出力する様に構成されている。
パルス波発信用センサ4bは、圧電素子に電圧が作用すると、当該電圧に対応したパルス波を出力する様に構成されている。
【0034】
ここで、岩盤斜面Rのような急峻な斜面にAEセンサ4aを設置した場合には、AEセンサ4aの設置位置に作業員が行くことが難しく、設置後にAEセンサ4aの状態を確認することが困難となる。そのため、図示の実施形態では、図1で示す様に、AEセンサ4aの近傍にパルス波発信用センサ4bを設置している。
【0035】
パルス波発信用センサ4bは、データ収録装置6内のパルス波発生手段6d(図2参照)に接続されており、AEセンサ4aの状態をチェックするに際しては、パルス波発信用センサ4bからAEセンサ検査用のパルス波を発生する。
【0036】
AEセンサ4aが正常に作動しているのであれば、パルス波発信用センサ4bからAEセンサ検査用のパルスが発信された際に、その近傍に配置されているAEセンサ4a・・・の各々からの出力信号において、検査用パルスに応答した波形が生じる。これに対して、AEセンサの出力信号に検査用パルスに応答した波形が生じなければ、AEセンサ4a・・・には何等かの異常が生じていると判断される。
【0037】
すなわち、パルス波発信用センサ4bを設け、パルス波発信用センサ4bをデータ収録装置6内のパルス波発生手段6dに接続し、パルス波発信用センサ4bからAEセンサ検査用のパルス波を発生することにより、AEセンサ4a・・・の設置後にAEセンサ4a・・・が正常に作動しているか否かをチェックすることが出来る。その結果、AEセンサ4a・・・が正常に作動しているか否かをチェックするために、作業者がAEセンサ4a・・・の設置箇所に行くという危険な作業を行う必要がなくなる。
【0038】
図1及び図2において、AEセンサ4aの出力信号(検出信号)は信号ライン5を介してデータ収録装置6に伝達され、データ収録装置6から信号ライン5aを介して、或いは無線(図1では、点線5bで示す)により、制御・解析装置11に伝達されている。
無線方式(図1の点線5b)を採用すれば、計測するべき岩盤Rが、ケーブルの敷設が困難な場合にも、或いは、評価を遠隔地(に配置された制御・解析装置11)にて行う必要がある場合にも、対応することが可能である。さらに、無線方式の場合には、敷設したケーブルが落石や獣害等により切断され、計測が不可能となる恐れがない。
【0039】
次に図2を参照して、図示の実施形態に係る岩盤斜面状態判定システムの詳細な構造について説明する。
【0040】
図2において、AEセンサ4aで感知された波形データは、信号ライン5を介してデータ収録装置6へ入力される。
データ収録装置6は全体を符号6で示し、AEセンサ4aからの出力信号を増幅する増幅手段6aと、フィルタ処理手段6bと、AD変換手段6cと、パルス波発生手段6dと、設定手段6eとを備えている。
【0041】
増幅手段6aは、その増幅率が、設定手段6eにより設定される。そして増幅手段6aは、AEセンサ4aからの送られて来た波形データを、設定された増幅率で増幅する。
フィルタ処理手段6bは、フィルタ処理を行うための設定値が、設定手段6eにより設定される。そしてフィルタ処理手段6bは、増幅手段6aで増幅された波形データを、設定された設定値でフィルタ処理し、AD変換手段6cに送る。
【0042】
AD変換手段6cは、フィルタ処理手段6bから受けたアナログの波形データをデジタルの波形データに変換し、デジタル変換された波形データを制御・解析装置11に送る。
パルス波発生手段6dは設定手段6eからの信号により、パルスを発生する。
設定手段6eは、信号ライン10aを介して、制御・解析装置11の制御ユニット10より制御信号を受信して、各手段6a〜6dの作動に必要な信号を発生させる。
ここで、信号ライン10aに代えて、無線通信手段(図2において、無線通信を符号10bで示す)により、制御ユニット10から設定手段6eに制御信号を発信しても良い。
【0043】
制御・解析装置11は、AE信号判別ユニット7を備えている。AE信号判別ユニット7は、時間のパラメータ設定ブロック7aと、波形判定ブロック7bとを有している。
時間のパラメータ設定ブロック7aは、時間のパラメータ(T1〜T4:図8を参照して後述)を設定する。
波形判定ブロック7bは、時間のパラメータ設定ブロック7aで設定された時間のパラメータT1〜T4に基づいて、AEセンサ4aからデータ収録装置6を経て送られてきた出力信号を、AE波とそれ以外の信号(ノイズを含む)に判別する。
【0044】
データ収録装置6から送られてきた波形データが、AE信号判別ユニット7へ入力されると、AE信号判別ユニット7の波形判定ブロック7bは、後述するような態様で設定された時間のパラメータ(T1〜T4:図8参照)に基づき、データ収録装置6から受けた波形データを、AE波と判断された波形データとそれ以外の波形データとに区分して、AE波以外の波形データを破棄する。
また、AE波であると判断された波形は、その発生時間及び波形データが周波数決定ユニット8及び解析判定ユニット9の解析ブロック9aに送られる。
【0045】
周波数決定ユニット8は、FFT解析ブロック8aと、波形周波数算出ブロック8bとを備えている。
FFT解析ブロック8aは、AE信号判別ユニット7でAE波と判定された波形のFFT解析を行う。
波形周波数算出ブロック8bは、FFT解析の結果である周波数−FFTスペクトル線図を用いて、いわゆる「図心法」により、AE信号判別ユニット7から送られたAE波の周波数を算出し、算出された発生時間毎の周波数のデータを解析判定ユニット9の解析ブロック9aに送出する。
【0046】
波形周波数算出ブロック8bにおける波形周波数決定に際して、具体的には、図7に示すように、周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心(重心)を演算し、当該図心(重心)における周波数を、そのAE波における周波数として決定するのである。
【0047】
解析判定ユニット9は解析ブロック9aを有し、解析ブロック9aは、その他の解析を行うブロック9a−1と、AE発生数の推移決定ブロック9a−2と、波形周波数の変化決定ブロック9a−3とを有している。
その他の解析を行うブロック9a−1は、AE信号判別ユニット7から送られてきたAE波の波形の最大振幅、リングダウン計数等の波形パラメータを計算する。その計算結果は、AE波形の特徴を示すバックデータとしてデータ記録ブロック12に記録され、或いは、モニタ14で表示される。
【0048】
AE発生数の推移決定ブロック9a−2は、AE信号判別ユニット7から送られてきたAE波の、時間毎の発生数がどの様に変化(推移)しているのかを決定する。
波形周波数の変化決定ブロック9a−3は、波形周波数算出ブロック8bで算出されたAE周波数が、どの様に変化しているのかを決定する。
ここで、センサで受信される波形は、非常に短い間隔ではあるがひとつの時間に対して1個の波形が受信されるため、ある一定の時間を設定し、その間について発生数を数え、推移の変化を決定する必要がある。
また、解析される波形データは、ひとつのセンサで捉えることができる範囲内のあちらこちらから次々と発生しているAE波を、非常に短い間隔の時間に対して1個のデータとして受信しているため、全てのAE周波数を時系列毎に並べて変化を決定すると、個々のAE周波数の影響が大きすぎて、全体の傾向が不明瞭になってしまう。本発明では、次々と発生しているAE波の周波数について、低い周波数のものが漸次多くなってくる現象をとらえて岩盤評価の指標としており、そのため、一定の時間を設定し、その時間について平均値等でその時間のAE周波数を算出し、変化を決定する必要がある。
【0049】
そこで、AE発生数の推移決定ブロック9a−2では、AE信号判別ユニット7から送られたAE波の発生時間から、ある一定の時間内に発生したAE波の個数を算出し、発生数の推移を決定する。また、波形周波数の変化決定ブロック9a−3では、周波数決定ユニット8から送られた時間毎のAE周波数から、ある一定時間内のAE周波数を平均値等で算出し、波形周波数の変化を決定する。
例えば、13:00から1分間に受信したAE波の個数が5個であり、周波数決定ユニット8から送られたそれぞれのAE周波数が番号毎に、
番号1:120kHz、
番号2:108kHz、
番号3:123kHz、
番号4:119kHz、
番号5:130kHz、
であった場合は、この時間(13:00から1分間)におけるAE発生数は5個であり、AE周波数は5個の平均値である120kHzとなる。そして、その後も同様の一定時間(上述の例では1分間)についてAE発生数及びAE周波数を算出し、AE発生数の推移及びAE周波数の変化を決定する。
【0050】
上述の番号1〜番号5に係る例示は、算出方法についてわかりやすく説明するために個数及び周波数を端的な数値としたが、実際に計測されるAE波は、前述した通り非常に短い間隔で発生していることを付言する。
AE周波数やAE発生数の算出は時間平均に限られるものではなく、例えば移動平均で算出するのが効果的な場合が存在する。或いは、その他の手法でAE周波数やAE発生数を算出することも可能である。
【0051】
解析判定ユニット9は、解析ブロック9aに加えて、岩盤評価ブロック9b、安定度の判定・予測ブロック9cを有している。
岩盤評価ブロック9bは、AE発生数の推移決定ブロック9a−2で決定されたAE発生数の変化(推移)と、波形周波数の変化決定ブロック9a−3で決定された波形周波数の変化とに基づいて、計測された岩盤斜面がどの様な状態にあるかを評価し、評価結果を安定度の判定・予測ブロック9cに送出する。
そして、安定度の判定・予測ブロック9cでは、送出された結果に基づき当該岩盤斜面の安定度を判定し、必要に応じて危険である旨を判定する。
【0052】
岩盤評価ブロック9b及び安定度の判定・予測ブロック9cにおける本発明の判定方法について、図5を用いて説明する。
岩盤評価ブロック9bにおいては、例えば、AE波は発生しているが閾値を超えない範囲の場合(図5の5A)には、岩盤斜面内部で発生した割れ目は局所的なものであると判定し、その判定結果を安定度の判定・予測ブロック9cに送出する。安定度の判定・予測ブロック9cでは、この場合は危険度が低い(危険度小)と判定する。この場合には、早急な安定化対策は必要なく、引き続き計測を行う(計測継続レベル)。
【0053】
次に、AE発生数が閾値を越えた場合(図5の5B)には、岩盤評価ブロック9bは、岩盤斜面内部で割れ目が発生し且つ伸展していると判定する。この場合は、安定度の判定・予測ブロック9cは、危険度が中程度である(危険度中)と判定し、必要に応じて警報装置(13)に警報を発生させるべく、制御信号を発信することができる(要監視レベル)。
要監視レベルでは、すぐに大きな岩盤崩落につながる可能性は小さいものの、岩盤斜面内部の不安定化の進行が懸念されるため、その後のAE発生数の増減傾向や周波数の変化を注視し、岩盤の表面上の変化についても目視等で監視する必要がある。また、必要に応じて安定化対策も検討することになる。
【0054】
AE発生数が閾値を越えた後にさらに増加し続け、或いはAE発生数が閾値を越えた状態から減少しない場合には、さらなる警戒が必要となるが、それに加えて、AE周波数に低下傾向が現れた場合(図5の5C)には、岩盤評価ブロック9bは、岩盤斜面内部で発生した割れ目がさらに進展、拡大し、大きな破壊に至る前段階にあると判定する。この場合は、安定度の判定・予測ブロック9cは危険度が高い(危険度大)と判定して、警報装置(13)に警報信号発生させるべく、制御信号を発信する(要対策レベル)。また、このときの警報は、図5の5Bで示す場合におけるレベル(要監視レベル)の際に使用する警報とは異なる種類の警報とすることが効果的である。
図5の5Cで示す場合におけるレベル(要対策レベル)では、岩盤斜面内での破壊が進行して不安化が相当進んでおり、すぐに岩盤崩落等の大きな破壊につながる危険性が高いので、早急に何らかの安定化対策が必要となる。
【0055】
AE波の発生数の推移と、周波数の変化という2つのパラメータにより、岩盤評価ブロック9b及び安定度の判定・予測ブロック9cにおいて岩盤斜面の安全性を判定した後、AE波の解析結果及び波形データはデータ記録ブロック12に送られ、または、表示部(モニタ)14により表示される。
【0056】
明確には図示されてはいないが、制御・解析装置11は、解析判定ユニット9で計算されデータ記録ブロック12に記録された解析結果を作表する作表手段と、作表手段が作表した表を印字する印字手段とを具備しており、解析結果は印字されて目視することができる。そのため、岩盤斜面Rの状態判定の結果を即時に反映して、必要な措置を取るのに寄与することが出来る。
【0057】
次に、図3のフローチャートをも参照して、図示の実施形態に係る岩盤斜面状態判定システムの作動手順と、図示の実施形態に係る岩盤斜面状態判定方法について説明する。
図3において、ステップS1では、AEセンサ4aで岩盤斜面Rの破壊による振動が感知されたか否かを判定する。岩盤斜面内での破壊による微小な岩盤破壊音がAEセンサ4aにより感知されると(ステップS1がYES)、破壊による振動に対応するセンサ4aの出力信号波形が、信号ライン5を介してデータ収録装置6へ伝送される。
【0058】
データ収録装置の増幅手段6aには、設定手段6eで増幅倍率が設定されている。この増幅倍率に基づいて、センサ4aの出力信号が増幅される(ステップS3)。
増幅された信号は、設定手段6eで設定された設定値に基づいてフィルタ処理される(ステップS4)。
次に、ステップS5において、得られた信号が設定手段6eで設定された閾値の範囲内にあるか否かが判定される。ここで、図示の実施形態に係るシステムでは、設定手段6eで設定される閾値はノイズレベルより若干高めに設定されている。
【0059】
ここで、増幅手段6aで増幅され、フィルタ処理手段6bでフィルタ処理された波形データが、閾値の範囲外の場合には(ステップS5がNO)、AE波として認識できないノイズと判定されて、当該波形データは破棄され、ステップS1まで戻る。
波形データが閾値の範囲内であれば(ステップS5がYES)、AD変換手段6cでアナログからデジタルの波形データに変換され(ステップS6)、ケーブルもしくは無線装置により制御・解析装置11へ伝達される。
【0060】
制御・解析装置11内の時間のパラメータ設定ブロック7aでは、波形記録長Tに対して、波形の初動時間T1、波形の持続時間T2、波形記録長Tから時間T1と時間T2とを減じた時間T3(=T-T1-T2)、立ち上がり時間T4、という4つの時間のパラメータが設定される。当該4つの時間のパラメータにおける各々の定義は、図8に示されている。
【0061】
そして、波形判定ブロック7bでは、波形データにおけるパラメータT1〜T4について、設定値或いは閾値と比較して(ステップS7)、AEであるか否かを判断する(ステップS8)。
図8を参照して、パラメータT1〜T4の設定の具体例を述べる。以下は、波形記録長Tを2048μ秒として計測した場合を例に挙げたものである。
【0062】
通常、岩盤斜面内で微小破壊が発生した場合に検出されるAEは、図8に示したパターン1から3のような時間波形を示す。これに対して、ノイズとして除去したい波形としては、パターン4のような時間波形を代表例とする電気的ノイズ、パターン5のような時間波計を代表例とする削孔などの作業音などがある。両者には明瞭な差があるため、前記パラメータT1〜T4に適切な設定値或いは閾値を設けることにより、AEとノイズとを機械的に区分することが出来る。
【0063】
例えば、検出したいAE波のT1を100μ秒<T1<500μ秒、T2を100μ秒<T2<1200μ秒、T3を300μ秒<T3<1800μ秒、T4を0<T4<200μ秒と設定する。検出されたAE波の波形パラメータがすべてこの設定値を満たしていればAE波と判断し、いずれか一つでも範囲外であればノイズと判断する。このとき設定値は、岩盤斜面の形状や岩種、風化状態など現場の条件により異なるため、事前に予備計測を行い、設定しておく。一例を図8に示す。
【0064】
図8に示すパターン1〜3の波形は、4つの波形パラメータすべてが、この設定条件を満たしているため、AE波と判断され、周波数判定ユニット8および解析判定ユニット9に送られる(図3のステップS8がYES)。
一方、図8のパターン4のような電気的ノイズは、T2が100μ秒以下であり、設定値を満たさないためノイズと判断される。
さらに、図8のパターン5のような削孔ノイズは、T2が1200μ秒以上、T4が200μ秒以上であり、設定値を満たさないためノイズと判断され、いずれもデータとしては破棄される(図3のステップS8がNO)。
【0065】
図3において、波形判定ユニット7bでAEであると判断された波形のデータ(AE波形データ)は、周波数決定ユニット8に送られ、FFT解析ブロック8aによりFFT解析され、その結果、得られた周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心(重心)における前記周波数が、波形周波数算出ブロック8bにより、そのAE波における周波数として決定される(ステップS10)。
【0066】
波形判定ユニット7bでAE波であると判断された波形データと、波形周波数算出ブロック8bにより決定されたAE波の周波数のデータ(波形周波数データ)とは、共に解析判定ユニット9の解析ブロック9aに送られる。
解析ブロック9aのその他の解析を行うブロック9a−1により、各特性が解析・記録される(ステップS11)。この解析・記録内容は、例えば、最大振幅、リングダウン計数、周波数等である。AE信号判別ユニット7で用いられた波形信号の時間パラメータであるT1〜T4も、ブロック9a−1で記録される(図7参照)。
【0067】
図2を参照して説明したように、解析判定ユニット9の岩盤評価ブロック9bでは、AE信号判別ユニット7からのAE発生数と、周波数決定ユニット8で決定されたAE周波数の変化という2つのパラメータにより、計測対象である岩盤斜面Rの状態を評価する(ステップS12)。
【0068】
ステップS13では、ステップS12において評価された岩盤斜面の状態に基いて、安定度の判定・予測ブロック9cが岩盤斜面の安定度を判定する。
ステップS13が「危険度小・計測継続レベル」の場合は、そのままステップS16に進む。
ステップS13が「危険度中・要監視レベル」の場合は、岩盤斜面の内部の破壊が進行しており、警報装置13により警報を行い(警告A)、危険である旨を知らせる(ステップS14)。そして、ステップS16に進む。
ステップS13が「危険度大・要対策レベル」の場合は、岩盤崩落の前段階と判断し、警報装置13により、ステップS14とは別種の警報(警告B:危険度が高い旨の警報)を行う(ステップS15)。そして、ステップS16に進む。
【0069】
ステップS16では、ステップS13における判定結果(判定データ)が、記録ブロック12に記録される。
ステップS16では、さらに、AE波の解析結果及び波形データがデータ記録ブロック12で記録され、必要に応じてAE波の解析結果及び/又は波形データが表示部(モニタ)14により表示される。
そして、リターンして、ステップS1以降を繰り返す。
【0070】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記載ではない旨を付記する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の実施形態の概要を示すブロック図。
【図2】本発明の岩盤挙動データ処理システムの全体を示すブロック図。
【図3】本発明の岩盤挙動データ処理システムの動作を示すフロー図。
【図4】本発明の測定原理の説明図。
【図5】AE発生数の推移と周波数の変化により岩盤挙動を判定する態様の説明図。
【図6】周波数−FFTスペクトル線図から周波数を求める態様を概説する説明図。
【図7】AE波形パラメータの概要を示す図。
【図8】AE波形とノイズ波形との識別を示す図。
【符号の説明】
【0072】
4a・・・AEセンサ
4b・・・パルス波発信用センサ
4c・・・プリアンプ
5・・・信号ライン
6・・・データ収録装置
6a・・・増幅手段
6b・・・フィルタ処理手段
6c・・・AD変換手段
6d・・・パルス波発生手段
6e・・・設定手段
7・・・AE信号判別ユニット
8・・・周波数決定ユニット
9・・・解析判定ユニット
10・・・制御ユニット
11・・・制御・解析装置
12・・・データ記録ブロック
13・・・警報装置
14・・・データ表示部(モニタ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
岩盤斜面に設置したAEセンサが感知した波形データの解析から、検査対象となる岩盤斜面状態を評価・判定する岩盤斜面状態判定システムにおいて、前記制御・解析装置は、AEセンサからデータ収録装置を経て送られてきた出力信号をAE波とそれ以外の信号とに判別するAE信号判別ユニットと、AE信号判別ユニットでAE波と判別された波形信号の周波数を決定する周波数決定ユニットと、AE信号判別ユニットで判別されたAE波の発生数の推移及び周波数決定ユニットで決定された当該AE波の周波数の変化に基づいて検査対象となる岩盤斜面の状態を判断する解析判定ユニットと、データ収録装置の制御を行う制御ユニットを有することを特徴とする岩盤斜面状態判定システム。
【請求項2】
前記データ収録装置は、波形データを増幅する手段と、増幅された波形データをフィルタ処理する手段と、フィルタ処理されたアナログの波形データをデジタルの波形データに変換するAD変換手段とを具備している請求項1の岩盤斜面状態判定システム。
【請求項3】
前記AE信号判別ユニットは、データ収録装置から送られてくる波形データを、時間のパラメータに対する設定値によりAE波とノイズに判別し、AE波以外の波形データを破棄する波形判定ブロックを具備しており、前記周波数決定ユニットは、AE波のFFT解析を行う装置と、FFT解析で求められた周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心を演算し、当該図心における周波数をAE波における周波数として決定する装置とを具備し、前記解析判定ユニットは、AE信号判別ユニットで判別されたAE波発生数の推移及び周波数決定ユニットで決定された当該AE波の周波数の変化に基づいて検査対象となる岩盤斜面の状態を評価・判定する装置を具備している請求項1、2のいずれかの岩盤斜面状態判定システム。
【請求項4】
AEセンサの出力信号をデータ収録装置から制御・解析装置に送信するための無線通信装置と、制御・解析装置の制御ユニットからデータ収録装置の作動を制御する信号を送信するための無線通信装置とを設けている請求項1〜3の何れか1項の岩盤斜面状態判定システム。
【請求項5】
パルス波発信用のセンサをAEセンサの近傍に設置し、前記データ収録装置に備えたパルス波発生手段によりパルス波発信用センサからパルス波を発振させて、AEセンサの作動状態、およびAEセンサとパルス波発信用センサ間の岩盤斜面状態の変化を確認する様に構成した請求項1〜4の何れか1項の岩盤斜面状態判定システム。
【請求項6】
岩盤斜面に設置したAEセンサが感知した波形データを解析し、検査対象となる岩盤斜面状態を評価・判定する岩盤斜面状態判定方法において、制御・解析装置内にAE信号判別ユニットによりAEセンサからの出力信号をAE波とそれ以外の信号とを判別するAE波判別工程と、周波数決定ユニットによりAE信号判別ユニットで判別されたAE波の周波数を決定する周波数決定工程と、AE信号判別ユニットで判別されたAE波の発生数の推移および周波数決定ユニットで決定されたAE波の周波数の変化に基づいて、解析判定ユニットにより検査対象となる岩盤斜面の状態を判断する岩盤斜面状態評価判定工程、とを有することを特徴とする岩盤斜面状態判定方法。
【請求項7】
前記AE信号判別工程は、AD変換された波形データを時間のパラメータの設定値により判断し、AE波の波形データ以外を破棄する工程を有している請求項6の岩盤斜面状態判定方法。
【請求項8】
前記周波数決定工程は、AE波のFFT解析を行う工程と、FFT解析で求められた周波数−FFTスペクトル線図に現れる曲線と横軸により作られる図形の図心を演算し、当該図心における周波数をAE波における周波数として決定する工程、とを有している請求項6、7の岩盤斜面状態判定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−198285(P2009−198285A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−39698(P2008−39698)
【出願日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(390036504)日特建設株式会社 (99)
【Fターム(参考)】