嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法
【課題】内ハゼ側嵌合部ならびに外ハゼ側嵌合部による互いの支持力を向上させると共に、高いハゼ締め具合(結合力)を有する嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法を提供すること。
【解決手段】矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その幅方向両側端から斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、前記外ハゼ側嵌合部が、右脚部とドーム形頭部と左脚部とからなる断面略茸形を呈し、前記内ハゼ側嵌合部が、脚部と山形頭部とからなる断面略傘形を呈する嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、一の嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けること。
【解決手段】矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その幅方向両側端から斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、前記外ハゼ側嵌合部が、右脚部とドーム形頭部と左脚部とからなる断面略茸形を呈し、前記内ハゼ側嵌合部が、脚部と山形頭部とからなる断面略傘形を呈する嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、一の嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法、特に、隣接する屋根材の端部同士をハゼ(馳)継ぎによって、簡単、迅速に接続して屋根葺き施工ができると共に、外観に優れ、ハゼ締め接合部の暴風等に対する強度に優れた嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫、店舗等への屋根葺きの方法としては、従来、屋根下地(梁)上に一定の間隔で固定されている屋根受金具(タイトフレーム)を介して、幅方向の一方の側縁部に成形された内ハゼ側嵌合部を設けてなる一の金属製折板屋根材と、この屋根材の幅方向の他方の側縁部に成形された外ハゼ側嵌合部(上ハゼ)を設けてなる隣接する他の屋根材とをハゼ継ぎし、該金属製折板屋根材同士を順次に接続して、ボルトレス状態(嵌合式)にて屋根の葺き上げを行う施工方法が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
このような従来の嵌合式の折板屋根材としては、内・外ハゼ側嵌合部の形状が、逆L字形状の角ハゼ(特許文献1)、略円弧状の丸ハゼ(特許文献2)、略三角形状の三角形ハゼからなるものがある。
【0004】
しかしながら、特許文献1の屋根板では、主板部に風の吹き上げによって上向きの圧力が生じた場合に、内ハゼ側嵌合部(逆L字)および外ハゼ側嵌合部のいずれか少なくとも一方に風圧などに起因した回転モーメントがかかって、ハゼ締め接合部が簡単に外れたりし、また、作業者が屋根の上を歩いて、下向きの圧力が生じた場合にも、そのハゼ締め接合部が弛んだり、外れたりするという問題があった。
【0005】
また、特許文献2の折板型屋根板では、屋根材同士の接合部である内・外ハゼ側嵌合部の構造が円形断面の嵌合構造からなり、嵌合後は風の吹き上げによる負圧や、作業者の踏み込み等による押圧に対して安定した強度を有するものの、ハゼ締め加工性が良いとは言えず、そのハゼ締め加工時に外ハゼ側嵌合部頂部の曲げ位置が不揃いになりやすいことや、締め付け力が弱く、直進性が失われやすいという解決すべき課題が残っていた。
【0006】
外ハゼの曲げ位置が一定にならない場合(例えば、図11に示すように、外ハゼの通り芯が中心よりも右側(図11(a))または左側(図11(b))に寄った場合)、ハゼ締め強度が低下してしまう。
【0007】
また、内・外ハゼ側嵌合部が、三角形ハゼからなる場合には、ハゼ締め加工が容易で、強固に嵌着し、嵌合後は風圧に対して安定した強度を有するものの、外ハゼ側嵌合部の頂部の折れ目(折れ線)がシャープなため、既設屋根下地やタイトフレームの歪みに対応させ難く、外観の直進性や形状精度が悪いという問題があった。
【0008】
また、金属板は、原板幅に許容差(0〜+7mm)があり、その誤差を、金属板の両側縁部に形成される内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部が吸収することになるため、嵌合部の形状が金属板毎に変化してしまい、内ハゼ側嵌合部と外ハゼ側嵌合部とが完全に嵌着できないことがあった。
【0009】
なお、このような嵌合式屋根材の施工工事では、施工時に外側からハゼ締め嵌合状態の良し悪しを判別しづらいため、屋根板のハゼ締め嵌合構造、例えば内・外ハゼ側嵌合部の形状をどのようにするかは、極めて重要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−82820号公報
【特許文献2】実開昭54−18018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来技術の場合、本発明の対象であるボルトレス施工屋根に見られる屋根材の浮き上がり、即ち風圧に起因する屋根材の浮き上がりが発生し易いこと、あるいは、ハゼ締め接合部の弛みや外れが生じやすいこと(特許文献1)また、ハゼ締め加工(電動シーマ加工)性や、稜線の直進性即ち屋根葺き外観の仕上がりについて改善の余地があること(特許文献2)、さらに内・外ハゼ側嵌合部の形状精度が悪いことや、曲げ剛性が小さく、特に受金具(タイトフレーム)のない個所における結合力が低いなどが指摘されていた。
【0012】
そこで、本発明は、内ハゼ側嵌合部ならびに外ハゼ側嵌合部による互いの支持力を向上させると共に、風の吹き上げによる負圧や、作業者の踏み込み等による押圧によってもハゼ締め接合部に弛みや外れが生じるようなことがない、高いハゼ締め具合(結合力)を有する嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法を提供することを目的とする。また、本発明は、金属板の原板幅の誤差に左右されることなく、外・内ハゼ側嵌合部の高い形状精度を有すると共に、ハゼ締め加工性に優れ、ハゼ締め外観形状が綺麗で、簡単かつ迅速に屋根葺き施工する方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来技術が抱えている上述した問題点を克服して、上記の目的を実現するため鋭意研究した結果、発明者らは、以下の要旨構成に係る本発明を開発した。即ち、本発明は、矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その基底部の幅方向両側端からそれぞれの斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの傾斜側板部の上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの水平部の遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、前記外ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる右脚部と、その右脚部の上端部に連接されたドーム形頭部と、そのドーム形頭部下端の張り出し部から延在した位置に押し下げを伴うハゼ締め加工の可能な左脚部とからなる断面略茸形を呈するものであり、前記内ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる脚部と、その脚部の上端部に連接された山形頭部とからなる断面略傘形を呈するものである、嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、一の前記嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の前記嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けることにより、隣接する折板屋根材同士を幅方向に嵌合させて順次につなぎ合わせることを特徴とする嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法を提案する。
【0014】
なお、本発明の上記屋根葺き施工方法においては、前記外ハゼ側嵌合部の左脚部は、内ハゼ側嵌合部の脚部および水平部を押圧して締め付けるように形成されていること、前記外ハゼ側嵌合部は、ドーム形頭部の頂部に曲率の違う凸条部からなる折り線を有すること、前記内ハゼ側嵌合部は、山形頭部の非脚部側に折り返し重畳部を有すること、および前記外ハゼ側嵌合部の右脚部および内ハゼ側嵌合部の脚部は、各水平部の端縁からそれぞれ斜めに立ち上がるように形成されていること、がより好ましい解決手段を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成を採用した本発明では、外ハゼ側嵌合部を茸形とし、内ハゼ側嵌合部を傘形とし、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けてハゼ締め嵌合する構造としたことにより、風の吹き上げや作業者の踏み込み等によって屋根板の左右どちらに圧力がかかったとしても、内ハゼ側嵌合部と外ハゼ側嵌合部とが、左右両側部に設けられた張り出し部において互いにぶつかり合い、屋根板の回転が拘束される故に、風の吹き上げによる負圧や作業者の踏み込み等による押圧によっても、この屋根材が回転してハゼ締め嵌合状態が簡単に弛んだり外れたりするようなことがなく、従って雨の侵入を効果的に防ぐことができる。
【0016】
また、本発明にかかる屋根葺き施工方法によれば、外ハゼ側嵌合部のドーム形頭部の頂部に予め折り線を設けたので、ハゼ締め加工(シーマ加工)が容易で、稜線(尾根)の直進性(通り芯)が高く、屋根下地やタイトフレームの歪みに起因する施工誤差を吸収しやすくなり、屋根葺き外観形状が綺麗に仕上がる。
【0017】
さらに、本発明によれば、内・外ハゼ側嵌合部によるハゼ締め嵌合状態の結合力が強く、しかも内ハゼ側嵌合部に折返し重畳部を具えるので、該内ハゼ側嵌合部の形状精度が高く、ハゼ締め後の形状安定性および嵌着力に優れる。
【0018】
さらに、本発明では、基底部からの立上がり側板を傾斜させたことにより、屋根板の基底部から嵌合部頂部までの山高さを高くし、屋根板の曲げ剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の屋根葺き施工方法に用いる嵌合式折板屋根材の一形態を示す正面図である。
【図2】本発明に用いる屋根材の、ハゼ締め加工した後の内・外ハゼ側嵌合部の拡大端面図である。
【図3】本発明に用いる屋根材の、ハゼ締め加工した後の内・外ハゼ側嵌合部の一変形例を示す拡大端面図である。
【図4】本発明に用いる嵌合式折板屋根材を受金具(タイトフレーム)に取り付けた状態の一部を示す正面図である。
【図5】本発明に用いるる嵌合式折板屋根材の他の形態を示す正面図である。
【図6】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図7】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図8】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図9】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他形態を示す正面図である。
【図10】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図11】従来例である丸ハゼ式の嵌合式折板屋根材の形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明について代表的な実施形態を挙げて説明する。
図1に示す、本発明の屋根葺き施工方法に用いる嵌合式折板屋根材は、矩形状金属板を幅方向に波形に屈曲成形したものであって、幅方向の中央部に造形される基底部1に対し、その幅方向両側端からそれぞれ斜め上方に折り起して起立させた傾斜側板部2、2’を連設し、さらにそれらの傾斜側板部2、2’のそれぞれの上端部からは、水平方向に張り出した水平部3、3’を連設し、そしてそれらの水平部3、3’の遊端部には、後で詳述する外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5をそれぞれ曲成してなるものである。
【0021】
本発明において用いる屋根材は、一の屋根板の内ハゼ側嵌合部5に対し、後述する受金具を介して他の屋根板の外ハゼ側嵌合部4を上から被せて嵌合させて順次につなぎ合わせ、隣接する屋根材同士を幅方向に、ボルトレス施工方式により屋根葺き施工することができる。なお、屋根板の形状および構造の説明は、主に該屋根材の断面形状に基づいて述べる。
【0022】
本発明において用いる屋根材の特徴的な構成は、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の断面形状、およびこれらのハゼ締め加工時の嵌合構造にある。そこで、まず外ハゼ側嵌合部4について説明する。この外ハゼ側嵌合部4は、図2に示すように、屋根の傾斜側板部2から張り出した水平部3の遊端部の位置にあって、ハゼ締め加工前の状態が略垂直に立ち上がる基底部側脚部としての右脚部4aと、その右脚部4aの上端部に連設されたドーム形頭部4bと、この頭部4bの延長上に、ハゼ締め加工後に内ハゼ側嵌合部5の脚部5aに沿うように延在する側端部側脚部としての左脚部4cとを連設してなるものであって、断面形状が略茸形を呈し、前記内ハゼ側嵌合部5全体を包囲するように被せるものである。ここで、ドーム形頭部4bには、その頂部に折れ曲がりの起点となるべき、他とは曲率の異なる(曲率半径の小さい)部分が、その幅方向両側の他の(曲率半径の大きい)部分に対し滑らかに連なるように形成してある。
【0023】
これに対し、内ハゼ側嵌合部5は、図2に示すように、前記傾斜側板部2’から張り出した水平部3’の遊端部の位置にあって、略垂直に立ち上がる脚部5aと、その脚部5aの上端部に連設して形成された山形頭部5bとからなり、全体の断面形状が略傘形を呈するものである。
【0024】
本発明の屋根葺き施工方法によれば、図2に示すように、外ハゼ側嵌合部4を内ハゼ側嵌合部5の上に被せた後、外ハゼ側嵌合部4の左脚部4cを、内側に位置する内ハゼ側嵌合部5の脚部5aに沿うように点線で示した位置から実線で示す位置まで押し下げて変形し、該左脚部4cによって、内ハゼ側嵌合部5の脚部5aおよび水平部3’を締め付けることにより、強固にハゼ締め加工することができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、図2に矢印で示したような方向に、風の吹き上げ等による負圧が、屋根板の左右どちらにかかったとしても、あるいは作業者の踏み込み等による押圧力が屋根板の左右どちらにかかったとしても、外ハゼ側嵌合部4のドーム形頭部4b下端の左右張り出し部4e、4e’と、内ハゼ側嵌合部5の山形頭部5b下端の左右張り出し部5d、5d’とが互いにぶつかり合い、屋根板の回転が拘束されることになり、嵌合が弛んだり、外れることを防ぐことができる。
【0026】
なお、この内ハゼ側嵌合部5には、非脚部側すなわち遊端部側の下面に折り返して重ね合わせた折り返し重畳部5cが屈曲形成してある。これにより、山形頭部5bを補強することができ、ハゼ締め加工時の変形を抑えて形状の精度が向上するとともに、原板幅の許容差(誤差)を、この折り返し重畳部5cによって吸収することができるため、内ハゼ側嵌合部5を常に同じ形状に維持することができ、内ハゼ側嵌合部5と外ハゼ側嵌合部4とを強固に嵌着させることができるようになる。なお、この折り返し重畳部5cは、図2のように内ハゼ側嵌合部5の下面側に折り返す他、内ハゼ側嵌合部5の上面側に折り返してもよい。
【0027】
また、水平部3、3’は、基底部1側に向ってわずかに下向きに傾斜していることが好ましい。これにより、内ハゼ側嵌合部5と外ハゼ側嵌合部4とのハゼ締め接合部に水が浸入するのを防ぐことができる。
【0028】
次に、図3は、上記屋根材における外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の一変形例を示すものである。この変形例では、外ハゼ側嵌合部4については、右脚部4a’および左脚部4c’がいずれも水平部3から斜めに立ち上がり、内ハゼ側嵌合部5については、水平部3’に連接される脚部5a’が斜めに立ち上がっているところに特徴がある。これにより、脚部を略垂直に立ち上がるように成形した図2の屋根材よりも、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5として必要とする板幅を少なくすることができ、その分、屋根材の基底部1から嵌合部4、5頂部までの山高を高くすることができるため、屋根材全体の曲げに対する剛性、強度を向上させることができる。
【0029】
また、この外ハゼ側嵌合部4のドーム形頭部4bには、その頂部に折れ曲がりの起点となるべき、他とは曲率の異なる(曲率半径の小さい)部分、即ち凸条部からなる折り線4dが明確に形成してある。この折り線4dを設けることで、該外ハゼ側嵌合部4は、ハゼ締め加工時に折れ曲がり始め位置がより明確に特定されて、成形がしやすくなると同時に、稜線(尾根)のばらつきがなく、また、屋根下地(梁材)やタイトフレームが不揃いで多少の位置ずれが生じていたとしても、通り芯のずれをぼかすことができ、屋根葺きの外観を美しく仕上げることができる。
【0030】
そして、図2の場合と同様に、外ハゼ側嵌合部4と内ハゼ側嵌合部5は、内ハゼ側嵌合部5の上に外ハゼ側嵌合部4を被せた後、外ハゼ側嵌合部4の左脚部4c’を図に点線で示した位置から実線で示した位置まで押し下げて変形させ、該左脚部4c’によって内側に位置する内ハゼ側嵌合部5の脚部5aを締め付けることにより、強固にハゼ締め加工することができる。
【0031】
本発明に用いる嵌合式折板屋根材において、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5を実質的に支えている傾斜側板部2、2’には、基本的に、図1に示すように1〜複数個の小段差2a、2bが形成されるとともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ所謂”アゴ”と称される張り出し凹部2c、2c’が形成されており、これらの張り出し凹部2c、2c’は以下に述べるように、タイトフレーム6の側板から切り起された爪片7、7’と係合されるために機能している。
【0032】
図4は、屋根下地に固定された受金具(タイトフレーム)6上に、本発明において用いられる屋根材を取り付けた状態を示している。この図から明らかなように、この屋根材の、タイトフレーム6への取り付けは、該タイトフレーム6の両側面上部に突設した爪片7、7’を介して行うが、このとき該屋根材の基底部1をタイトフレーム6の底部に落とし込むと同時に、傾斜側板部2、2’の、水平部3、3’に隣接する上端に設けた張り出し凹部2c、2c’に、前記爪片7、7’を係止させることにより行う。
【0033】
そして、上述の如くして先に取り付けた側の屋根材の内ハゼ側嵌合部5に対し、次に施工する屋根材の外ハゼ側嵌合部4を上から覆い被さるように嵌合させる。その後、図示しない電動シーム加工機(シーマ)によって、図2または図3に示すように、外ハゼ側嵌合部4の右脚部4a、左脚部4cをハゼ締め加工することで、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5は、図2または図3に実線で示したように互いにしっかりと嵌合した状態になる。
【0034】
また、図3に示す変形例では、外ハゼ側嵌合部4の右脚部4a’および左脚部4c’と内ハゼ側嵌合部5の脚部5a’とを斜めに立ち上がるように形成したため、一定の原板幅(例えば762mm)を有する金属板を使うときに、嵌合部の脚部を略垂直に立ち上げた屋根材に比べて脚部の板材が少なくてすむので、嵌合部の頂部までの山高さを大きくすることができ、屋根材全体の曲げに対する剛性、強度を向上させることができる。
【0035】
その他、外ハゼ側嵌合部4、内ハゼ側嵌合部5および傾斜側板部2、2’の組み合わせについては、図5〜10に示すような形態が考えられる。そのうち、図5に示すものは、図2に示す外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が配設されてなり、傾斜側板部2、2’の形状が、1個の小段差とともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ張り出し凹部2c、2c’を有する例である。
【0036】
図6に示すものは、該傾斜側板部2、2’の形状が、2個の小段差とともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ張り出し凹部2c、2c’を有すると同時に、基底部1に隣接する下端の曲げ始め位置において、基底部1側に凹んだ大段差2d、2d’を有する例であり、図7に示すものは、図6に示す例において、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が、図3に示す構造を有するものであって、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の脚部4a’、 4c’、5a’が傾斜している例である。
【0037】
図8に示すものは、傾斜側板部2、2’に段差が全くない場合の例であり、図9に示すものは、張り出し凹部がなく、傾斜側板部2、2’の基底部1に隣接する下端の曲げ初め位置に位置する大段差2d、2d’および小段差2a、2a’が形成されている例であり、図10に示すものは、図9に示す傾斜側板部2、2’に対し、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が、図3に示す構造を有するものであって、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の脚部4a’、 4c’、5a’が傾斜している例である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、一般住宅や学校、ガレージ、工場、倉庫、店舗、集会場、体育館等の屋根葺き施工方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 基底部
2、2’ 傾斜側板部
2a、2a’、2b、2b’ 小段差
2c、2c’ 張り出し凹部
2d、2d’ 大段差
3、3’ 水平部
4 外ハゼ側嵌合部
4a、4a’ 右脚部
4b ドーム形頭部4b
4c、4c’ 左脚部
4d 折り線
4e、4e’ 張り出し部
5 内ハゼ側嵌合部
5a、5a’ 脚部
5b 山形頭部
5c 折り返し重畳部
5d、5d’ 張り出し部
6 受金具
7、7’ 爪片
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属製の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法、特に、隣接する屋根材の端部同士をハゼ(馳)継ぎによって、簡単、迅速に接続して屋根葺き施工ができると共に、外観に優れ、ハゼ締め接合部の暴風等に対する強度に優れた嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
工場や倉庫、店舗等への屋根葺きの方法としては、従来、屋根下地(梁)上に一定の間隔で固定されている屋根受金具(タイトフレーム)を介して、幅方向の一方の側縁部に成形された内ハゼ側嵌合部を設けてなる一の金属製折板屋根材と、この屋根材の幅方向の他方の側縁部に成形された外ハゼ側嵌合部(上ハゼ)を設けてなる隣接する他の屋根材とをハゼ継ぎし、該金属製折板屋根材同士を順次に接続して、ボルトレス状態(嵌合式)にて屋根の葺き上げを行う施工方法が知られている(特許文献1、2)。
【0003】
このような従来の嵌合式の折板屋根材としては、内・外ハゼ側嵌合部の形状が、逆L字形状の角ハゼ(特許文献1)、略円弧状の丸ハゼ(特許文献2)、略三角形状の三角形ハゼからなるものがある。
【0004】
しかしながら、特許文献1の屋根板では、主板部に風の吹き上げによって上向きの圧力が生じた場合に、内ハゼ側嵌合部(逆L字)および外ハゼ側嵌合部のいずれか少なくとも一方に風圧などに起因した回転モーメントがかかって、ハゼ締め接合部が簡単に外れたりし、また、作業者が屋根の上を歩いて、下向きの圧力が生じた場合にも、そのハゼ締め接合部が弛んだり、外れたりするという問題があった。
【0005】
また、特許文献2の折板型屋根板では、屋根材同士の接合部である内・外ハゼ側嵌合部の構造が円形断面の嵌合構造からなり、嵌合後は風の吹き上げによる負圧や、作業者の踏み込み等による押圧に対して安定した強度を有するものの、ハゼ締め加工性が良いとは言えず、そのハゼ締め加工時に外ハゼ側嵌合部頂部の曲げ位置が不揃いになりやすいことや、締め付け力が弱く、直進性が失われやすいという解決すべき課題が残っていた。
【0006】
外ハゼの曲げ位置が一定にならない場合(例えば、図11に示すように、外ハゼの通り芯が中心よりも右側(図11(a))または左側(図11(b))に寄った場合)、ハゼ締め強度が低下してしまう。
【0007】
また、内・外ハゼ側嵌合部が、三角形ハゼからなる場合には、ハゼ締め加工が容易で、強固に嵌着し、嵌合後は風圧に対して安定した強度を有するものの、外ハゼ側嵌合部の頂部の折れ目(折れ線)がシャープなため、既設屋根下地やタイトフレームの歪みに対応させ難く、外観の直進性や形状精度が悪いという問題があった。
【0008】
また、金属板は、原板幅に許容差(0〜+7mm)があり、その誤差を、金属板の両側縁部に形成される内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部が吸収することになるため、嵌合部の形状が金属板毎に変化してしまい、内ハゼ側嵌合部と外ハゼ側嵌合部とが完全に嵌着できないことがあった。
【0009】
なお、このような嵌合式屋根材の施工工事では、施工時に外側からハゼ締め嵌合状態の良し悪しを判別しづらいため、屋根板のハゼ締め嵌合構造、例えば内・外ハゼ側嵌合部の形状をどのようにするかは、極めて重要なことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−82820号公報
【特許文献2】実開昭54−18018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述した従来技術の場合、本発明の対象であるボルトレス施工屋根に見られる屋根材の浮き上がり、即ち風圧に起因する屋根材の浮き上がりが発生し易いこと、あるいは、ハゼ締め接合部の弛みや外れが生じやすいこと(特許文献1)また、ハゼ締め加工(電動シーマ加工)性や、稜線の直進性即ち屋根葺き外観の仕上がりについて改善の余地があること(特許文献2)、さらに内・外ハゼ側嵌合部の形状精度が悪いことや、曲げ剛性が小さく、特に受金具(タイトフレーム)のない個所における結合力が低いなどが指摘されていた。
【0012】
そこで、本発明は、内ハゼ側嵌合部ならびに外ハゼ側嵌合部による互いの支持力を向上させると共に、風の吹き上げによる負圧や、作業者の踏み込み等による押圧によってもハゼ締め接合部に弛みや外れが生じるようなことがない、高いハゼ締め具合(結合力)を有する嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法を提供することを目的とする。また、本発明は、金属板の原板幅の誤差に左右されることなく、外・内ハゼ側嵌合部の高い形状精度を有すると共に、ハゼ締め加工性に優れ、ハゼ締め外観形状が綺麗で、簡単かつ迅速に屋根葺き施工する方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従来技術が抱えている上述した問題点を克服して、上記の目的を実現するため鋭意研究した結果、発明者らは、以下の要旨構成に係る本発明を開発した。即ち、本発明は、矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その基底部の幅方向両側端からそれぞれの斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの傾斜側板部の上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの水平部の遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、前記外ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる右脚部と、その右脚部の上端部に連接されたドーム形頭部と、そのドーム形頭部下端の張り出し部から延在した位置に押し下げを伴うハゼ締め加工の可能な左脚部とからなる断面略茸形を呈するものであり、前記内ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる脚部と、その脚部の上端部に連接された山形頭部とからなる断面略傘形を呈するものである、嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、一の前記嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の前記嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けることにより、隣接する折板屋根材同士を幅方向に嵌合させて順次につなぎ合わせることを特徴とする嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法を提案する。
【0014】
なお、本発明の上記屋根葺き施工方法においては、前記外ハゼ側嵌合部の左脚部は、内ハゼ側嵌合部の脚部および水平部を押圧して締め付けるように形成されていること、前記外ハゼ側嵌合部は、ドーム形頭部の頂部に曲率の違う凸条部からなる折り線を有すること、前記内ハゼ側嵌合部は、山形頭部の非脚部側に折り返し重畳部を有すること、および前記外ハゼ側嵌合部の右脚部および内ハゼ側嵌合部の脚部は、各水平部の端縁からそれぞれ斜めに立ち上がるように形成されていること、がより好ましい解決手段を提供する。
【発明の効果】
【0015】
上述した構成を採用した本発明では、外ハゼ側嵌合部を茸形とし、内ハゼ側嵌合部を傘形とし、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けてハゼ締め嵌合する構造としたことにより、風の吹き上げや作業者の踏み込み等によって屋根板の左右どちらに圧力がかかったとしても、内ハゼ側嵌合部と外ハゼ側嵌合部とが、左右両側部に設けられた張り出し部において互いにぶつかり合い、屋根板の回転が拘束される故に、風の吹き上げによる負圧や作業者の踏み込み等による押圧によっても、この屋根材が回転してハゼ締め嵌合状態が簡単に弛んだり外れたりするようなことがなく、従って雨の侵入を効果的に防ぐことができる。
【0016】
また、本発明にかかる屋根葺き施工方法によれば、外ハゼ側嵌合部のドーム形頭部の頂部に予め折り線を設けたので、ハゼ締め加工(シーマ加工)が容易で、稜線(尾根)の直進性(通り芯)が高く、屋根下地やタイトフレームの歪みに起因する施工誤差を吸収しやすくなり、屋根葺き外観形状が綺麗に仕上がる。
【0017】
さらに、本発明によれば、内・外ハゼ側嵌合部によるハゼ締め嵌合状態の結合力が強く、しかも内ハゼ側嵌合部に折返し重畳部を具えるので、該内ハゼ側嵌合部の形状精度が高く、ハゼ締め後の形状安定性および嵌着力に優れる。
【0018】
さらに、本発明では、基底部からの立上がり側板を傾斜させたことにより、屋根板の基底部から嵌合部頂部までの山高さを高くし、屋根板の曲げ剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の屋根葺き施工方法に用いる嵌合式折板屋根材の一形態を示す正面図である。
【図2】本発明に用いる屋根材の、ハゼ締め加工した後の内・外ハゼ側嵌合部の拡大端面図である。
【図3】本発明に用いる屋根材の、ハゼ締め加工した後の内・外ハゼ側嵌合部の一変形例を示す拡大端面図である。
【図4】本発明に用いる嵌合式折板屋根材を受金具(タイトフレーム)に取り付けた状態の一部を示す正面図である。
【図5】本発明に用いるる嵌合式折板屋根材の他の形態を示す正面図である。
【図6】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図7】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図8】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図9】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他形態を示す正面図である。
【図10】本発明に用いる嵌合式折板屋根材のさらに他の形態を示す正面図である。
【図11】従来例である丸ハゼ式の嵌合式折板屋根材の形態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、この発明について代表的な実施形態を挙げて説明する。
図1に示す、本発明の屋根葺き施工方法に用いる嵌合式折板屋根材は、矩形状金属板を幅方向に波形に屈曲成形したものであって、幅方向の中央部に造形される基底部1に対し、その幅方向両側端からそれぞれ斜め上方に折り起して起立させた傾斜側板部2、2’を連設し、さらにそれらの傾斜側板部2、2’のそれぞれの上端部からは、水平方向に張り出した水平部3、3’を連設し、そしてそれらの水平部3、3’の遊端部には、後で詳述する外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5をそれぞれ曲成してなるものである。
【0021】
本発明において用いる屋根材は、一の屋根板の内ハゼ側嵌合部5に対し、後述する受金具を介して他の屋根板の外ハゼ側嵌合部4を上から被せて嵌合させて順次につなぎ合わせ、隣接する屋根材同士を幅方向に、ボルトレス施工方式により屋根葺き施工することができる。なお、屋根板の形状および構造の説明は、主に該屋根材の断面形状に基づいて述べる。
【0022】
本発明において用いる屋根材の特徴的な構成は、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の断面形状、およびこれらのハゼ締め加工時の嵌合構造にある。そこで、まず外ハゼ側嵌合部4について説明する。この外ハゼ側嵌合部4は、図2に示すように、屋根の傾斜側板部2から張り出した水平部3の遊端部の位置にあって、ハゼ締め加工前の状態が略垂直に立ち上がる基底部側脚部としての右脚部4aと、その右脚部4aの上端部に連設されたドーム形頭部4bと、この頭部4bの延長上に、ハゼ締め加工後に内ハゼ側嵌合部5の脚部5aに沿うように延在する側端部側脚部としての左脚部4cとを連設してなるものであって、断面形状が略茸形を呈し、前記内ハゼ側嵌合部5全体を包囲するように被せるものである。ここで、ドーム形頭部4bには、その頂部に折れ曲がりの起点となるべき、他とは曲率の異なる(曲率半径の小さい)部分が、その幅方向両側の他の(曲率半径の大きい)部分に対し滑らかに連なるように形成してある。
【0023】
これに対し、内ハゼ側嵌合部5は、図2に示すように、前記傾斜側板部2’から張り出した水平部3’の遊端部の位置にあって、略垂直に立ち上がる脚部5aと、その脚部5aの上端部に連設して形成された山形頭部5bとからなり、全体の断面形状が略傘形を呈するものである。
【0024】
本発明の屋根葺き施工方法によれば、図2に示すように、外ハゼ側嵌合部4を内ハゼ側嵌合部5の上に被せた後、外ハゼ側嵌合部4の左脚部4cを、内側に位置する内ハゼ側嵌合部5の脚部5aに沿うように点線で示した位置から実線で示す位置まで押し下げて変形し、該左脚部4cによって、内ハゼ側嵌合部5の脚部5aおよび水平部3’を締め付けることにより、強固にハゼ締め加工することができる。
【0025】
すなわち、本発明によれば、図2に矢印で示したような方向に、風の吹き上げ等による負圧が、屋根板の左右どちらにかかったとしても、あるいは作業者の踏み込み等による押圧力が屋根板の左右どちらにかかったとしても、外ハゼ側嵌合部4のドーム形頭部4b下端の左右張り出し部4e、4e’と、内ハゼ側嵌合部5の山形頭部5b下端の左右張り出し部5d、5d’とが互いにぶつかり合い、屋根板の回転が拘束されることになり、嵌合が弛んだり、外れることを防ぐことができる。
【0026】
なお、この内ハゼ側嵌合部5には、非脚部側すなわち遊端部側の下面に折り返して重ね合わせた折り返し重畳部5cが屈曲形成してある。これにより、山形頭部5bを補強することができ、ハゼ締め加工時の変形を抑えて形状の精度が向上するとともに、原板幅の許容差(誤差)を、この折り返し重畳部5cによって吸収することができるため、内ハゼ側嵌合部5を常に同じ形状に維持することができ、内ハゼ側嵌合部5と外ハゼ側嵌合部4とを強固に嵌着させることができるようになる。なお、この折り返し重畳部5cは、図2のように内ハゼ側嵌合部5の下面側に折り返す他、内ハゼ側嵌合部5の上面側に折り返してもよい。
【0027】
また、水平部3、3’は、基底部1側に向ってわずかに下向きに傾斜していることが好ましい。これにより、内ハゼ側嵌合部5と外ハゼ側嵌合部4とのハゼ締め接合部に水が浸入するのを防ぐことができる。
【0028】
次に、図3は、上記屋根材における外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の一変形例を示すものである。この変形例では、外ハゼ側嵌合部4については、右脚部4a’および左脚部4c’がいずれも水平部3から斜めに立ち上がり、内ハゼ側嵌合部5については、水平部3’に連接される脚部5a’が斜めに立ち上がっているところに特徴がある。これにより、脚部を略垂直に立ち上がるように成形した図2の屋根材よりも、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5として必要とする板幅を少なくすることができ、その分、屋根材の基底部1から嵌合部4、5頂部までの山高を高くすることができるため、屋根材全体の曲げに対する剛性、強度を向上させることができる。
【0029】
また、この外ハゼ側嵌合部4のドーム形頭部4bには、その頂部に折れ曲がりの起点となるべき、他とは曲率の異なる(曲率半径の小さい)部分、即ち凸条部からなる折り線4dが明確に形成してある。この折り線4dを設けることで、該外ハゼ側嵌合部4は、ハゼ締め加工時に折れ曲がり始め位置がより明確に特定されて、成形がしやすくなると同時に、稜線(尾根)のばらつきがなく、また、屋根下地(梁材)やタイトフレームが不揃いで多少の位置ずれが生じていたとしても、通り芯のずれをぼかすことができ、屋根葺きの外観を美しく仕上げることができる。
【0030】
そして、図2の場合と同様に、外ハゼ側嵌合部4と内ハゼ側嵌合部5は、内ハゼ側嵌合部5の上に外ハゼ側嵌合部4を被せた後、外ハゼ側嵌合部4の左脚部4c’を図に点線で示した位置から実線で示した位置まで押し下げて変形させ、該左脚部4c’によって内側に位置する内ハゼ側嵌合部5の脚部5aを締め付けることにより、強固にハゼ締め加工することができる。
【0031】
本発明に用いる嵌合式折板屋根材において、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5を実質的に支えている傾斜側板部2、2’には、基本的に、図1に示すように1〜複数個の小段差2a、2bが形成されるとともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ所謂”アゴ”と称される張り出し凹部2c、2c’が形成されており、これらの張り出し凹部2c、2c’は以下に述べるように、タイトフレーム6の側板から切り起された爪片7、7’と係合されるために機能している。
【0032】
図4は、屋根下地に固定された受金具(タイトフレーム)6上に、本発明において用いられる屋根材を取り付けた状態を示している。この図から明らかなように、この屋根材の、タイトフレーム6への取り付けは、該タイトフレーム6の両側面上部に突設した爪片7、7’を介して行うが、このとき該屋根材の基底部1をタイトフレーム6の底部に落とし込むと同時に、傾斜側板部2、2’の、水平部3、3’に隣接する上端に設けた張り出し凹部2c、2c’に、前記爪片7、7’を係止させることにより行う。
【0033】
そして、上述の如くして先に取り付けた側の屋根材の内ハゼ側嵌合部5に対し、次に施工する屋根材の外ハゼ側嵌合部4を上から覆い被さるように嵌合させる。その後、図示しない電動シーム加工機(シーマ)によって、図2または図3に示すように、外ハゼ側嵌合部4の右脚部4a、左脚部4cをハゼ締め加工することで、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5は、図2または図3に実線で示したように互いにしっかりと嵌合した状態になる。
【0034】
また、図3に示す変形例では、外ハゼ側嵌合部4の右脚部4a’および左脚部4c’と内ハゼ側嵌合部5の脚部5a’とを斜めに立ち上がるように形成したため、一定の原板幅(例えば762mm)を有する金属板を使うときに、嵌合部の脚部を略垂直に立ち上げた屋根材に比べて脚部の板材が少なくてすむので、嵌合部の頂部までの山高さを大きくすることができ、屋根材全体の曲げに対する剛性、強度を向上させることができる。
【0035】
その他、外ハゼ側嵌合部4、内ハゼ側嵌合部5および傾斜側板部2、2’の組み合わせについては、図5〜10に示すような形態が考えられる。そのうち、図5に示すものは、図2に示す外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が配設されてなり、傾斜側板部2、2’の形状が、1個の小段差とともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ張り出し凹部2c、2c’を有する例である。
【0036】
図6に示すものは、該傾斜側板部2、2’の形状が、2個の小段差とともに、水平部3、3’と隣接する上端部分において基底部1側に凹んだ張り出し凹部2c、2c’を有すると同時に、基底部1に隣接する下端の曲げ始め位置において、基底部1側に凹んだ大段差2d、2d’を有する例であり、図7に示すものは、図6に示す例において、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が、図3に示す構造を有するものであって、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の脚部4a’、 4c’、5a’が傾斜している例である。
【0037】
図8に示すものは、傾斜側板部2、2’に段差が全くない場合の例であり、図9に示すものは、張り出し凹部がなく、傾斜側板部2、2’の基底部1に隣接する下端の曲げ初め位置に位置する大段差2d、2d’および小段差2a、2a’が形成されている例であり、図10に示すものは、図9に示す傾斜側板部2、2’に対し、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5が、図3に示す構造を有するものであって、外ハゼ側嵌合部4および内ハゼ側嵌合部5の脚部4a’、 4c’、5a’が傾斜している例である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、一般住宅や学校、ガレージ、工場、倉庫、店舗、集会場、体育館等の屋根葺き施工方法として利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1 基底部
2、2’ 傾斜側板部
2a、2a’、2b、2b’ 小段差
2c、2c’ 張り出し凹部
2d、2d’ 大段差
3、3’ 水平部
4 外ハゼ側嵌合部
4a、4a’ 右脚部
4b ドーム形頭部4b
4c、4c’ 左脚部
4d 折り線
4e、4e’ 張り出し部
5 内ハゼ側嵌合部
5a、5a’ 脚部
5b 山形頭部
5c 折り返し重畳部
5d、5d’ 張り出し部
6 受金具
7、7’ 爪片
【特許請求の範囲】
【請求項1】
矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その基底部の幅方向両側端からそれぞれの斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの傾斜側板部の上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの水平部の遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、
前記外ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる右脚部と、その右脚部の上端部に連接されたドーム形頭部と、そのドーム形頭部下端の張り出し部から延在した位置に押し下げを伴うハゼ締め加工の可能な左脚部とからなる断面略茸形を呈するものであり、
前記内ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる脚部と、その脚部の上端部に連接された山形頭部とからなる断面略傘形を呈するものである、嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、
一の前記嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の前記嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けることにより、隣接する折板屋根材同士を幅方向に嵌合させて順次につなぎ合わせることを特徴とする嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項2】
前記外ハゼ側嵌合部の左脚部は、内ハゼ側嵌合部の脚部および水平部を押圧して締め付けるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項3】
前記外ハゼ側嵌合部は、ドーム形頭部の頂部に曲率の違う凸条部からなる折り線を有することを特徴とする請求項1または2に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項4】
前記内ハゼ側嵌合部は、山形頭部の非脚部側に折り返し重畳部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項5】
前記外ハゼ側嵌合部の右脚部および内ハゼ側嵌合部の脚部は、各水平部の端縁からそれぞれ斜めに立ち上がるように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項1】
矩形金属板の幅方向中央部に造形された基底部と、その基底部の幅方向両側端からそれぞれの斜め方向に起立させた傾斜側板部と、それらの傾斜側板部の上端部からそれぞれ水平方向に張出した水平部と、それらの水平部の遊端部にそれぞれ立設した内ハゼ側嵌合部および外ハゼ側嵌合部とからなり、
前記外ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる右脚部と、その右脚部の上端部に連接されたドーム形頭部と、そのドーム形頭部下端の張り出し部から延在した位置に押し下げを伴うハゼ締め加工の可能な左脚部とからなる断面略茸形を呈するものであり、
前記内ハゼ側嵌合部が、前記水平部の端縁から立ち上がる脚部と、その脚部の上端部に連接された山形頭部とからなる断面略傘形を呈するものである、嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法において、
一の前記嵌合式折板屋根材の内ハゼ側嵌合部上に、他の前記嵌合式折板屋根材の外ハゼ側嵌合部を被せた後、外ハゼ側嵌合部の左脚部を、内側に位置する内ハゼ側嵌合部の脚部に沿うように押し下げて、該左脚部によって内ハゼ側嵌合部の少なくとも脚部を押圧して締め付けることにより、隣接する折板屋根材同士を幅方向に嵌合させて順次につなぎ合わせることを特徴とする嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項2】
前記外ハゼ側嵌合部の左脚部は、内ハゼ側嵌合部の脚部および水平部を押圧して締め付けるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項3】
前記外ハゼ側嵌合部は、ドーム形頭部の頂部に曲率の違う凸条部からなる折り線を有することを特徴とする請求項1または2に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項4】
前記内ハゼ側嵌合部は、山形頭部の非脚部側に折り返し重畳部を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【請求項5】
前記外ハゼ側嵌合部の右脚部および内ハゼ側嵌合部の脚部は、各水平部の端縁からそれぞれ斜めに立ち上がるように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の嵌合式折板屋根材の屋根葺き施工方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−57243(P2013−57243A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−282539(P2012−282539)
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2009−103863(P2009−103863)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年12月26日(2012.12.26)
【分割の表示】特願2009−103863(P2009−103863)の分割
【原出願日】平成21年4月22日(2009.4.22)
【出願人】(000200323)JFE鋼板株式会社 (77)
【Fターム(参考)】
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