説明

嵩高紡績糸の製造方法、嵩高紡績糸、嵩高紡績糸を含む布帛、および嵩高紡績糸の製造装置

【課題】紡績糸の引張強度を維持しながら、紡績糸表面でのシゴキに対する耐力が高く、且つ、嵩高性を備えた嵩高紡績糸を製造するための製造方法と、当該嵩高紡績糸と、当該嵩高紡績糸から形成される布帛と、当該嵩高紡績糸の製造装置を提供することにある。
【解決手段】嵩高紡績糸の製造方法は、複数の索伸用のローラ対を用いることによってステープル繊維束を牽伸して牽伸繊維束を形成しながら、複数の索伸用のローラ対のうちの下流側のローラ対に芯糸と牽伸繊維束を同時に導いて、牽伸繊維束を芯糸の線速度よりも速い線速度で下流側のローラ対を通過させることによって嵩高繊維束を形成させる索伸工程と、嵩高繊維束と芯糸に撚りを掛ける交撚工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、嵩高であって柔らかく、しかも軽量な嵩高紡績糸及びその製造方法、並びに嵩高紡績糸を含み形成される布帛に関する。詳しくは長さの短い繊維を用いた細番手の嵩高な紡績糸の製造方法、嵩高紡績糸、嵩高紡績糸を含む布帛、および嵩高紡績糸の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量で、保温特性や吸湿速乾特性、あるいは柔らかく肌触りの良い衣料品を得るために嵩高な構造を有する紡績糸が要求されている。そのため繊維産業界では、永年の知恵と工夫のなかで多くの技術が開発され、これらに基づく数多くの特徴のある商品や製造方法が生まれてきた。綿糸やウール等の嵩高紡績糸は、単繊維を平行に引き揃えて糸にしただけでは簡単に糸切れや素抜けが発生する。そのため紡績工程では糸に撚りを掛けて、単繊維同士を互いに拘束させることにより、糸としての強度を維持させながら嵩高性も付与していくことになるため、一般的に嵩高紡績糸の引張強度と嵩高性は相反する製造条件になりがちであった。
【0003】
このような嵩高性を有する紡績糸を製造する方法としては、天然繊維や化学繊維のステープルを用いて糸に加える撚りを少なくして、膨らみと柔軟性をもたせた甘撚糸が代表的である。しかし、甘撚糸は、単に糸を撚っただけであるため嵩高性は十分とはいえないものであった。また、フィラメント嵩高糸としては、仮撚加工糸が知られているが、同方法は無撚のフィラメントを一方向に撚った後、元の無撚の状態に戻す方法であり、スパン糸は無撚にすると素抜ける(繊維の絡み合いが弱く繊維間でズレが発生し糸としての強度が得られない状態)問題があった。
【0004】
このような問題を解決するために、例えば、合成繊維のフィラメントを芯糸として、この表面を他の繊維や糸でカバーした構造のコアヤーンが種々提供されている。また、特許文献1では、フィラメント又は紡績糸とステープル繊維束とのコアヤーンで、フィラメント又は紡績糸に対してステープル繊維束が一定速度で過剰供給され、フィラメント又は紡績糸が芯糸となり、ステープル繊維束が該芯糸を、膨らみをもって被覆するように撚糸されている嵩高紡績糸の製造方法が提案されている。このような嵩高紡績糸であると引張強度を芯糸のフィラメントや紡績糸で補うことができると共に、芯糸の表面に嵩高性の付与や種々の被覆を行うことができる。
【0005】
特許文献1の方法は図6に示すように、芯糸41を第二フロントローラ対(45,46)のトップローラ45の中抜き部分44を通過させ、牽伸されたステープル繊維束42はトップローラ表面45を通過させるため、互いに平行状態で送り出されその後、芯糸41に引き寄せながら牽伸されたステープル繊維束42が芯糸の表面を被覆するような形態で交撚される。この場合は、芯糸41とステープル繊維束42との絡み合いが小さく嵩高紡績糸表面のシゴキ(芯糸の表面とステープル繊維束の絡み力)に対する耐力が弱く、糸形状が崩れやすい欠点があり、特に芯糸に表面が平滑なフィラメントを用いた場合には、紡績糸のシゴキに対する耐力は著しく低下し、実用化できていない。
【0006】
また、撚り数を多くして、糸のシゴキに対する耐力を上げ、糸形状の崩れを維持しようとすると嵩高性が失われるなどの問題がある。さらに、特許文献1の製造方法では、嵩高紡績糸のシゴキに対する耐力を向上させるために、第二フロントローラ対から送り出される芯糸41とステープル繊維束42の撚角度47を小さくしていくと中抜き部分44にステープル繊維束42が落ち込み、十分な嵩高性が得られなくなるばかりでなく、ネップの発生が多く十分な品質がえられない問題があった。
【0007】
このように、従来の製造方法では糸の引張強度、嵩高性、シゴキに対する耐力などの特性を総合的に有する嵩高紡績糸を製造することが難しく、特に繊維の長さが短い綿や麻などの繊維では、引張強度を上げるために芯糸にフィラメントを用いると、紡績糸のシゴキに対する耐力が得られなく、芯糸として紡績糸を使用すると糸が太くなるなどの問題もあり、嵩高性に優れ、膨らみのある細番手の嵩高紡績糸の製造技術の開発が嘱望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−209226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の背景に鑑みてなされたものであり、本発明の課題は、綿や麻等のように長さの短い繊維から製造した紡績糸であっても、十分な引張強度を有すると共に、紡績糸表面でのシゴキに対する耐力が高く糸崩れがなく、且つ、嵩高性を備えた嵩高紡績糸の製造方法および製造装置と、当該嵩高紡績糸と、嵩高紡績糸を含み形成される軽くてソフトな肌触りや吸湿速乾性を有する布帛を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そのために本発明の請求項1に記載の発明によると、芯糸とステープル繊維束からなる嵩高紡績糸の製造方法が提供される。嵩高紡績糸の製造方法は、複数の索伸用のローラ対を用いることによってステープル繊維束を牽伸して牽伸繊維束を形成しながら、複数の索伸用のローラ対のうちの下流側のローラ対に芯糸と牽伸繊維束を同時に導いて、牽伸繊維束を芯糸の線速度よりも速い線速度で下流側のローラ対を通過させることによって嵩高繊維束を形成させる索伸工程と、嵩高繊維束と芯糸に撚りを掛ける交撚工程とを備える。
【0011】
好ましくは、牽伸工程では、芯糸にバックテンションをかけることによって、牽伸繊維束を芯糸の線速度よりも速い線速度でローラ対を通過させる。
【0012】
好ましくは、ローラ対の少なくとも一方のローラに複数の独立溝が形成されている。牽伸工程では、牽伸繊維束と芯糸とがローラ対の独立溝を通るように、牽伸繊維束と芯糸とをローラ対に通過させる。
【0013】
好ましくは、ローラ対の周速度は、芯糸の線速度に対して1.1倍以上2.0倍以下である。
【0014】
好ましくは、独立溝は、ローラ対の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って、少なくとも1列に点在している。
【0015】
好ましくは、独立溝は、ローラ対の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って等間隔で設けられている
【0016】
好ましくは、芯糸は、フィラメント又は紡績糸又はこれらの併用糸である。
【0017】
好ましくは、ステープル繊維束は、天然繊維である。
【0018】
好ましくは、ステープル繊維束は、綿繊維である。
【0019】
好ましくは、ステープル繊維束は、麻繊維である。
【0020】
好ましくは、牽伸工程では、下流側のローラ対が牽伸繊維束と芯糸とを下流側のローラ対のうちの同じ箇所から引き込むことによって、牽伸繊維束と芯糸とが重なって下流側のローラ対を通過する。
【0021】
好ましくは、嵩高紡績糸の製造方法は、上記の方法で製造された嵩高紡績糸を少なくとも2本撚り合わせる撚糸工程を備える。
【0022】
この発明の別の局面に従うと、上記のいずれかに記載の製造方法で製造された嵩高紡績糸および嵩高紡績糸を含む布帛が提供される。
【0023】
この発明の別の局面に従うと、芯糸とステープル繊維束からなる嵩高紡績糸の製造装置が提供される。嵩高紡績糸の製造装置は、ステープル繊維束を牽伸して牽伸繊維束を形成するための複数の索伸用のローラ対を備える。複数の索伸用のローラ対のうちの下流側のローラ対は、芯糸と芯糸よりも早い線速度の牽伸繊維束とを同時に通過させることによって嵩高繊維束を形成する。嵩高紡績糸の製造装置は、嵩高繊維束と芯糸とに撚りを掛ける交撚機構をさらに備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明の嵩高紡績糸の製造方法によると、綿繊維のように長さの短い繊維を用い細番手で且つ、十分な強伸度やシゴキに対する耐力を兼ね備えた嵩高紡績糸を安定して製造することができる。また、これらの嵩高紡績糸を含んで成る布帛によって、軽くてソフトな肌触りや吸湿速乾性に優れた衣料品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施の形態に係るリング紡績装置の全体構成を示す正面図である。
【図2】本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示した斜視図である。
【図3】牽伸機構21を点線で示した、本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。
【図4】バックテンション機構22を点線で示した、本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。
【図5】変形例にかかるステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。
【図6】ステープル繊維束と芯糸とをフロントローラ対の別々の場所を通過させる態様を示す概略図である。
【図7】シゴキに対する嵩高紡績糸の強度を測定するための実験を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。以下の説明では、同一の部品には同一の符号を付してある。それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0027】
<リング紡績装置の全体構成>
まず、嵩高紡績糸の製造方法を実現するためのリング紡績装置の全体構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るリング紡績装置の全体構成を示す正面図である。図1を参照して、リング紡績装置20は主に、牽伸機構21、バックテンション機構22、及び交撚機構24から構成される。以下、各機構について詳述する。なお、本実施の形態に係る牽伸機構21は嵩高機構23を含む。
【0028】
(1)牽伸機構
牽伸機構21は、主に、バックローラ対1、エプロン3及びフロントローラ対25から構成されている。なお、エプロン3には、ミドルローラ対2が含まれている。牽伸機構21では、バックローラ対1、ミドルローラ対2、フロントローラ対25の回転速度(具体的には周速度またはローラ対を通過する糸の速度)が、バックローラ対1、ミドルローラ対2、フロントローラ対25の順に速くなっている。牽伸機構21では、バックローラ対1に供給されたステープル繊維束Sがこの回転速度差(各ローラの周速度差)によって牽伸されていく。バックローラ対1、ミドルローラ対2(エプロン3)、フロントローラ対25による牽伸率は、通常8〜60倍である。
【0029】
また、牽伸機構21では、従来のリング紡績装置の牽伸機構と同様に、ステープル繊維束S中の短繊維が、バックローラ対1とミドルローラ対2との間、ミドルローラ対2とフロントローラ対25との間で牽伸力によって切断されることのないように、バックローラ対1とミドルローラ対2との間隔及びミドルローラ対2とフロントローラ対25との間隔がステープル繊維の最大繊維長以上に設定されている。
【0030】
本実施の形態で用いられるステープル繊維束及び芯糸を構成する繊維は、天然セルロース系繊維、再生繊維、タンパク繊維、ポリアミド系繊維、熱可塑性繊維からなる群れより選ばれる少なくとも一つの繊維である。ただし、本実施の形態で用いられる繊維としては、特に制限されず、天然セルロース系繊維では綿、麻等、再生繊維ではレーヨン、ポリノジック、キュプラ、高強度再生セルロース繊維等、タンパク繊維では、アセテート等の半合成繊維、絹、羊毛等、熱可塑性繊維では、ナイロン等のポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維等が挙げられ、これらは1種単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0031】
(2)嵩高機構
図2は、本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示した斜視図である。図3は、牽伸機構21を点線で示した、本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。図4は、バックテンション機構22を点線で示した、本実施の形態に係るステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。
【0032】
図2〜図4を参照して、嵩高機構23は、フロントローラ対25とステープル繊維束S1の中心に芯糸Cを供給する。フロントローラ対25は、トップローラ5とベースローラ4から構成される。トップローラ5とベースローラ4の少なくとも一方の表面には複数の独立溝13が形成されている。本実施の形態においては、トップローラ5の円周上の表面に、複数の独立溝13が形成されている。
【0033】
図1〜図4に示すように、本実施の形態に係る嵩高紡績糸の製造方法では、バックローラ1、エプロン3、フロントローラ対25から構成される牽伸機構21によって牽伸された牽伸繊維束S1と、バックテンション機構22で一定のバックテンションが掛けられた芯糸Cとが、フロントローラ対25に同時に導かれる。
【0034】
より詳細には、牽伸繊維束S1と芯糸Cとが、重なった状態でフロントローラ対25の略同じ位置を通過する。換言すれば、牽伸繊維束S1と芯糸Cとが、独立溝13を通過する。
【0035】
本実施の形態においては、バックテンション機構22により、芯糸Cの線速度が低減されるため、フロントローラ対25を通過する牽伸繊維束S1の線速度よりもフロントローラ対25を通過する芯糸Cの線速度の方が遅くなる。ただし、バックテンション機構22以外の手段によって、牽伸繊維束S1と比較してフロントローラ対25を通過する芯糸Cの線速度を遅くしてもよい。
【0036】
フロントローラ対25から芯糸Cよりも早く送り出され、フロントローラ対25の出口で過剰になった牽伸繊維束S1は芯糸の周りに嵩高性を生じながら交撚される。このようにして、嵩高紡績糸が生成されていく。すなわち、牽伸繊維束S1は、フロントローラ対25の回転周速度に基づき送り出されるが、一方の芯糸Cは、所定のバックテンションによってフロントローラ対25の周速度よりも遅れて送り出される。その結果、フロントローラ対25の出口では芯糸Cと牽伸繊維束S1の間で線速度差が生じ、これらが交撚されることによって嵩高紡績糸が得られる。
【0037】
このように、嵩高紡績糸を製造するためには、フロントローラ対25から牽伸繊維束S1を、芯糸Cよりも早く送り出すことが好ましい。この条件が満たされずに、牽伸繊維束S1と芯糸Cがフロントローラ対25から同一線速度で送り出された場合には、嵩高性は得られ難い。
【0038】
参考のために、独立溝13が形成されていないフロントローラ対の場合は、当該フロントローラの間断のない回転力によって芯糸Cと牽伸繊維束S1とを同時に送り出してしまう。そのため、芯糸Cがフロントローラ対25のニップ部や、チンローラ対9とウェイトローラ8のニップ部でスリップしない限り芯糸切れが発生し易くなる。
【0039】
なお、フロントローラ対25の独立溝13以外の手段によって、芯糸Cにかかるテンションを開放してもよい。たとえば、所定のテンションがかかったときに芯糸Cがフロントローラ対25の表面をスリップする構成や、所定のテンションがかかったときにあるいは所定の間隔で(間断的に)バックテンション機構22のローラ8,9の回転速度を速める構成であってもよい。
【0040】
本実施の形態におけるリング紡績装置20においては、フロントローラ対25のトップローラ5の円周上に独立溝13が設けられているため、独立溝13に芯糸Cを通過させることによって、所定のバックテンションに見合うスリップを意図的に発生させることができる。その結果、芯糸Cに掛かるバックテンションを緩和させ、且つ、芯糸Cが切断され難くなる。
【0041】
すなわちトップローラ5の独立溝13の部分に芯糸Cを通過させることによって、トップローラ5とベースローラ4のニップ部で、芯糸Cが把持されない状態が生じ、芯糸Cに掛かっているバックテンションが瞬間的に緩和されようになる。このように、トップローラ5の円周上(表面)に独立溝13を形成することによって、フロントローラ対25の回転に伴い芯糸Cの把持と解放が略周期的に繰り返され、芯糸Cが切断され難くなる。
【0042】
ここで、図5は、変形例にかかるステープル繊維束S1と芯糸Cとがフロントローラ対25を通過する状態を示す平面図である。図5を参照して、嵩高機構23は、コレクター30を有してもよい。すなわち、コレクター30によって、フロントローラ対25の中心かつステープル繊維束S1の中心に芯糸Cが供給される。
【0043】
(3)芯糸バックテンション機構
バックテンション機構22においては、芯糸Cが、芯糸ボビン12からバックテンション機構22へと供給される。芯糸Cは、チンローラ対9及びウェイトローラ8によって所定のバックテンションが掛けられつつ、フロントローラ対25に導かれる。
【0044】
本実施の形態に係るフロントローラ対25の周速度は、芯糸Cの線速度に対して1.1倍以上2.0倍以下に設定されている。すなわち、バックテンション機構22が、フロントローラ対25に供給される芯糸Cの線速度を、フロントローラ対25の周速度の1/2倍以上1/1.1倍以下にする。
【0045】
ここで、芯糸Cに掛かる張力は、チンローラ対9とフロントローラ対25の周速度差によって決定される。すなわち、上述したように嵩高紡績糸を製造する上においては、チンローラ対9の周速度よりもフロントローラ対25の周速度を早くする必要がある。
【0046】
より詳細には、フロントローラ対25の周速度は、芯糸Cの周速度の1.1倍以上2.0倍以下であることが好ましく、1.2倍以上1.6倍以下の範囲であることがより好ましい。フロントローラ対25の周速度を上げていくと、フロントローラ対25から送り出される芯糸Cと牽伸繊維束S1の線速度差も大きくなり、嵩高性を向上させることができる。
【0047】
しかしながら、芯糸Cに過激なテンションが掛かると、芯糸C切れが発生し易くなる。同時に、牽伸繊維束S1が過剰に送りだされるため嵩高ムラが発生しやすく見栄えが悪くなる。また、シゴキに対する耐力が低下する。逆に、フロントローラ対25の周速度を芯糸の線速度の1.1倍以下に下げていくと嵩高性が小さくなり十分な嵩高性を有する紡績糸を製造することができない。
【0048】
このように芯糸Cに掛けるバックテンションは、製造する紡績糸の番手によって芯糸材料や構成も変わり、また、嵩高性や外観特性あるいは作業性にも影響を及ぼすため嵩高紡績糸の仕様に合わせて芯糸の線速度を選定して設定することが好ましい。
【0049】
ここで、バックテンション機構22では、チンローラ対9の回転力で従動回転するウェイトローラ8によって芯糸Cのスリップを確実に防止する必要がある。バックテンション機構における芯糸Cのスリップは、フロントローラ対25から送り出される芯糸Cと牽伸繊維束S1の線速度のバランスを崩すことになり嵩高性にムラが発生する。
【0050】
また、芯糸Cは、トップローラ5の表面に形成している独立溝13の列に沿ってトップローラ5側から供給し、ベースローラ4側を流れている牽伸繊維束S1の中心部に供給することが好ましい。図2〜図4に示すように芯糸Cと牽伸繊維束S1は、フロントローラ対25の同一箇所に導かれ、異なる線速度(牽伸繊維束S1が芯糸Cよりも早く送り出される)でフロントローラ対25の中央の同一箇所から送り出される。
【0051】
その直後に牽伸繊維束S1と芯糸Cとがスピンドル7の回転力によって交撚されるため、過剰に供給された牽伸繊維束Sは、膨らみを持った嵩高性を形成すると共に、芯糸Cと牽伸繊維束S1の絡みつきが多く、シゴキに対する耐力の高い嵩高紡績糸を製造することができる。
【0052】
ここで、独立溝13は、フロントローラ対25の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って、少なくとも1列に点在している。独立溝13はフロントローラ対25のトップローラ5の表面で一周に亘って点在していることが好ましい。独立溝13は、フロントローラ対25の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って等間隔で設けられている。さらに、独立溝13は図2に示したようにトップローラ5の表面で千鳥状に点在していることが好ましい。トップローラ5の表面を通過する芯糸の流れにおいて、芯糸のズレや移動に対して把持と解放が確実に行えるからである。
【0053】
芯糸Cには、バックテンション機構22によりに所定のバックテンションが掛かる。一方、トップローラ5の表面上の非溝部14が通過するニップ部では芯糸Cが把持される。これによって、バックテンション機構22と嵩高機構23の非溝部14とによって、芯糸Cには、引き伸ばされる張力が発生する。一方、独立溝13が通過するニップ部(独立溝13)では、バックテンション機構22と嵩高機構23とによる芯糸Cの張力が解放される。
【0054】
このように複数の独立溝13の存在によって、芯糸Cの把持と解放が連続的に行われ、それと同時に芯糸の伸縮も伴うため、芯糸Cに掛かっているバックテンションを、略周期的な緊張と緩和により、適切な強さにコントロールすることができる。
【0055】
トップローラ5の形状は、例示として直径28mm〜60mm、幅25mm〜50mm程度のものを使用するのが好ましい。また、短繊維を確実に把持するためにはゴム弾性体で覆われているのが好ましい。ゴム弾性体の硬度は、耐久性及び把持力などの面から60度〜80度の範囲のものが好ましく、65度〜75度の範囲のものがより好ましい。フロントローラ対25のベースローラ4は金属製であるのが好ましい。また、繊維を確実に把持するためにフリューデッド構造とすることが好ましい。
【0056】
また、独立溝13は、ローラの半径方向に沿って見た場合、長方形、角丸長方形、楕円形、円形台形、正方形および三角形の群から選択される少なくとも一つの形状を呈する。なお、これらの中でも、ローラの円周方向に沿って長細の長方形の独立溝が形成されるのがより好ましい。また、独立溝13の寸法は、特に限定されるものではなく、芯糸の形状や要求される嵩高紡績糸の特性によって自由に設計することができる。通常は幅1mm〜10mm、周方向長さ3mm〜10mm、深さ1mm〜3mmの範囲で設計することができる。独立溝13をこのような形状とすると、フロントローラ対25で芯糸Cを確実に把持する部分(非溝部14)と、把持しない部分(独立溝13)をトップローラ5の回転によって略周期的に発現させ、芯糸Cのバックテンションに緊張と緩和を付与し、芯糸Cの破断の防止ができ、フロントローラ対25から送り出される速度を制御することができ嵩高紡績糸を効率よく製造することができるからである。
【0057】
本実施の形態においては、芯糸Cがフィラメント又は紡績糸又はこれらの併用糸である。合成繊維のフィラメントは、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリアミドなどからなるフィラメントを用いることが好ましい。フィラメントは数本または数十本を束ねて用いることが好ましい。嵩高紡績糸のシゴキに対する耐力が向上するからである。また、フィラメントの繊度は限定される物ではなく嵩高紡績糸の番手に合わせて最適な物を選定できる。例示として羊毛番手で1/60番手であると30デニールのフィラメントが好ましく、1/40番手では、50デニール、また1/20、1/13番手の嵩高紡績糸では110デニールのフィラメントが好ましい。芯糸Cの構成は、目的とする嵩高紡績糸の糸番手に応じて使い分けることができる。
【0058】
本実施の形態においては、ステープル繊維束Cは天然繊維である。ステープル繊維束Cは、綿繊維である。あるいは、ステープル繊維束Cは、麻繊維である。一般的に天然繊維は単繊維の長さが短く、嵩高紡績糸を製造することは困難であるが、本実施の形態に係る製造方法によれば、綿繊維のように単繊維の長さが20〜30mmの物であっても嵩高性を付与することができ、軽量化、肌触り性などの新しい特性を備えた布帛を提供できる。
【0059】
(4)交撚機構
交撚機構24では、嵩高加工機構23から送り出された芯糸Cと牽伸繊維束S1とをスピンドル7が交撚することによって嵩高紡績糸が製造される。嵩高加工機構23では、フロントローラ対25から、芯糸Cと牽伸繊維束S1とが、異なる線速度で、同時に、同一箇所から送りだされる。そのため、芯糸Cと牽伸繊維束S1とが、芯糸Cと同一軸で交撚され、過剰に供給された牽伸繊維束S1が芯糸Cに絡みつくように巻きつけられる。その結果、嵩高性の発現と同時にシゴキに対する耐力の優れた嵩高紡績糸を製造することができる。
【0060】
リング紡績装置20による嵩高紡績糸は単糸で布帛を作製することができる。しかしながら、リング紡績装置20は、さらに単糸を2本または複数本撚ることが好ましい。嵩高紡績糸の単糸を撚り合わせる場合には、単糸の撚り方向とは逆方向に撚糸する方が、嵩高性をより高めることができる点で好ましい。なお、逆方向に撚糸する場合には、Z方向で交撚した単糸を2本または複数本S方向に撚糸するため、単糸の撚りを戻す(解撚)ように撚糸されることになり嵩高性が向上することになる。また、2本以上で撚り合わせることで引張強度、及びシゴキに対する耐力を向上させることもできる。
【0061】
次に、本実施の形態に係る嵩高紡績糸は、長さの短い繊維を用いた場合であっても、嵩高の糸を生成することができる。また、シゴキに対して耐力があるため、糸形状の崩れが少ない。そのため、アパレル製品として種々の布帛(織物、編物、不織布など)に加工することができる。
【0062】
以上のように、本実施の形態に係る嵩高紡績糸の製造方法では、フロントローラ対25を通過する芯糸Cの線速度をステープル繊維束S1の線速度よりも遅くしたため、フロントローラ対25を通過した際に、芯糸Cの周りにステープル繊維束S1が豊富に供給される。また、フロントローラ対25の表面に複数の独立溝13を形成したため、ステープル繊維束S1のうちの独立溝13を通過した部分(相対的に遅い速度でフロントローラ対25を通過した部分)に、後方から、ステープル繊維束S1のうちの非溝部14を通過した部分(相対的に早い速度でフロントローラ対25を通過した部分)が重なる。また、フロントローラ対25の表面に複数の独立溝13を形成したため、芯糸Cが非溝部14を通過する際にフロントローラ対25とバックテンション機構22(フロントローラ対25よりも周速度が遅い)とによって高まった芯糸Cの張力を、芯糸Cが独立溝13を通過する際に開放することができる。その結果、軽くソフトな肌触りや保温性及び十分な引張強度を兼ね備えたアパレル製品を製作することができる嵩高紡績糸が得られる。
【0063】
以下、実施例を用いて本実施の形態に係る嵩高紡績糸の製造方法をさらに詳しく説明する。
【実施例1】
【0064】
図1に示されるリング紡績装置20に、米綿繊維100%のステープル繊維束(平均繊維長30mm、200gr/30Yard)及び芯糸としてナイロンフィラメント(NY110D−24−205)繊度110デニールを用いて、綿糸番手8/1の嵩高紡績糸を製作した。
【0065】
なお、本実施例では、トップローラ5に設けられた独立溝13の形状を長方形とし、そのサイズを長さ3mm、幅2mm、深さ3mmとした。そして、このような形状の独立溝13をトップローラ5の円周方向に対して等間隔で各独立溝の位置が千鳥状(図2の通り)になるように3列で57個設けた。なお、トップローラ5の周長は157.0mm(φ50)であった。
【0066】
本実施例では芯糸Cの線速度に対してフロントローラ対25の周速度を1.36倍になるようにチンローラ対9とフロントローラ対25の周速度比を設定した。フロントローラ対25のニップ圧力を10kg/cmに設定した。
【0067】
本実施例の嵩高紡績糸を製作中に、芯糸のバックテンションを測定したところ、20g〜27gの範囲で周期的な振れを示していた。このバックテンションの振れは、トップローラ5の表面の独立溝13を芯糸が通過するときに最少になり、非溝部14を通過するときに最大になることが確認できた。バックテンションは、張力計AN型(中浅測器株式会社製)を用いて測定した。
【0068】
本実施例において、牽伸機構21における牽伸率(ドラフト率)は11.0倍とした。また、スピンドル7の回転方向はZ方向として交撚数は450回/mとした。また、トラベラリングは直径55mmで、トラベラNo11(KANAI製O型)のものを使用した。本実施例で製作した嵩高紡績糸の特性を測定した結果、嵩高性は9.0cm/gであり、引張強度は10.2N、伸び率は37%であった。
【0069】
なお、上述の嵩高紡績糸の嵩高性と引張強度及び伸び率は以下の条件で測定した。
(1)嵩高性の測定:JIS L 1095A法
(2)引張強度の測定:オートグラフ引張試験機(島津製作所製)
クロスヘッドスピード:300mm/min
チャック間隔:100mm
【0070】
次に、シゴキに対する耐力を観察するために、実施例1と同一原料を用い、交撚数も同一として特許文献1と同じ構成の製造設備を用いて嵩高紡績糸(B)を製作した。次いで実施例1で製作した嵩高紡績糸(A)と嵩高紡績糸(B)を500mmの長さに切断し、片端部100mm部分を解撚して芯糸のフィラメントを露出させた試料により、引張試験機を用い嵩高紡績糸のシゴキに対する耐力を測定した。
【0071】
シゴキに対する耐力は図7に示すように、芯糸のフィラメント31の露出部をフィラメントの外径よりも少し大きく、嵩高紡績糸の外径よりは小さい細孔34を有する測定冶具35を用いて細孔34に通し、フィラメント31の露出端部をロードセルのチャック33でつかみ矢印Aの方向に引き上げシゴキに対する耐力を測定した。
【0072】
嵩高紡績糸の他方の端部32はフリーの状態にした。測定の開始と共に嵩高紡績糸端部32は撚りが戻るような方向に回転しながらフィラメントは嵩高紡績糸から引き抜かれ、細孔34の下部にはフィラメントの引き抜かれた部分に交撚されていたステープル繊維束が重なり合って溜まっていった。フィラメントに掛かる荷重が50gに達するまでフィラメント31を引き抜き、露出したフィラメントの長さを測定した。その結果、嵩高紡績糸(B)は230mmの長さが露出し、嵩高紡績糸(A)は92mmであり、本実施例で製作した嵩高紡績糸が2倍以上の耐力を有していた。なお、引張速度は100mm/分で測定し、露出したフィラメント部の長さは3点測定の平均値で示した。
【0073】
次に実施例1の条件で作製した嵩高紡績糸を2本用意し、撚糸装置を用いて嵩高紡績糸の撚り方向(Z方向)と逆方向(S方向)に240回/mで撚糸して、双糸の嵩高紡績糸を製作し、ソーピング処理を行った。ソーピング条件は、浸透剤(アタック洗濯用合成洗剤:花王社製)を溶かした40度Cの温水に30分間浸漬させ、取り出した後、水洗、脱水し、50度Cの温風で乾燥させた。ソーピング処理後の嵩高性を測定したところ14.3cm/gであった。
【実施例2】
【0074】
実施例1のステープル繊維束及び芯糸、およびリング紡績装置20を用い、綿糸番手12/1の嵩高紡績糸を製作した。製作条件として交撚数を550回/m、芯糸線速度に対するフロントローラ対の周速度を1.48倍、ドラフト率19.8倍、トラベラNo15(KANAI製O型)に設定した。本実施例の嵩高紡績糸の嵩高性は10.25cm/gであり、引張強度が7.4N及び伸び率は45.3%であった。次に、本実施例の条件で作製した嵩高紡績糸を2本用意し、撚糸装置を用いて嵩高紡績糸の撚り方向(Z方向)と逆方向(S方向)に260回/mで撚糸して、嵩高紡績糸の双糸を製作し、実施例1同様のソーピング処理を行った。この嵩高紡績糸嵩高性は14.26cm/gであった。
【実施例3】
【0075】
図1に示されるリング紡績装置20に米綿繊維100%のステープル繊維束(平均繊維長30mm、200gr/30Yard)及び芯糸としてナイロンフィラメント(NY33T−6204)繊度30デニールと綿糸#40/1(撚り数900回/m)を供給して、撚り数を550回/mに変更した以外、実施例1と同様に綿糸番手8/1の嵩高紡績糸を製作した。本実施例の嵩高紡績糸の嵩高性10.06cm/gであり、引張強度が2.9N及び伸び率は12.9%であった。
【0076】
次に上述の条件で作製した嵩高紡績糸を2本用意し、撚糸装置を用いて嵩高紡績糸の撚り方向(Z方向)と逆方向(S方向)に280回/mで撚糸して、嵩高紡績糸の双糸を製作し、実施例1同様のソーピング処理を行い、嵩高性の測定を行った結果13.7cm/gであった。
【実施例4】
【0077】
図1に示されるリング紡績装置20にインド綿繊維コーマ揚がり粗糸(RET S6)ステープル繊維束(230gr/30Yard)及び、芯糸としてテトロンフィラメント繊度30デニールを供給して綿糸番手35/1の嵩高紡績糸を製作した。製作条件として交撚数を970回/m、トップローラ5の周長を88.0mm(φ28)、独立溝13を3列で42個、芯糸線速度に対するフロントローラ対の周速度を1.33倍、ドラフト率45.7倍、トラベラNo2(KANAI製Ms/hf型)に設定した。この嵩高紡績糸を実施例1と同様に嵩高性と引張強度及び伸び率を測定した結果、嵩高性11.35cm/gであり、引張強度が1.59N及び伸び率は27.6%であった。次に本実施例の嵩高紡績糸を2本用意し、撚糸装置を用いて嵩高紡績糸の撚り方向(Z方向)と逆方向(S方向)に420回/mで撚糸して、嵩高紡績糸の双糸を得た。また、実施例1同様の条件でソーピング処理を行い、嵩高性の測定を行った結果11.91cm/gであった。
【実施例5】
【0078】
図1に示されるリング紡績装置20に麻繊維100%のステープル繊維束(平均繊維長80mm)と芯糸として繊度30デニールのナイロンフィラメントを供給して交撚、数を760回/m、芯糸Cの線速度に対してフロントローラ対25の周速度を1.30倍に変更した以外、実施例1と同様の条件で麻番手71/1(羊毛番手1/43)の麻嵩高紡績糸を製作した。
【0079】
本実施例のバックテンションを測定したところ5g〜7.5gの範囲で周期的な振れを示していた。この麻嵩高紡績糸の嵩高性は17.36cm/gであり、引張強度は2.21N及び伸び率は30.8%であった。また、上述の条件で製作した麻嵩高紡績糸を2本用意し、撚糸装置を用いて麻嵩高紡績糸の撚り方向(Z方向)と逆方向(S方向)に350回/mで撚糸して、嵩高紡績糸の双糸を製作し、実施例1と同様のソーピング処理を行い、嵩高性の測定を行った結果、嵩高性は18.36cm/gであった。
【0080】
本実施の形態に係る嵩高紡績糸の製造方法によると、芯糸Cの周りにステープル繊維束S1が豊富に供給されるため、従来よりも肌触りのより紡績糸が得られるようになる。そして、好ましくは、後述する比較例1および2からも明らかなように、フロントローラ対25の表面に複数の独立溝を形成することによって、ステープル繊維束自体を嵩高にしたり、芯糸Cが切断される可能性を低減することも可能となる。
【0081】
(比較例1)
フロントローラ対25のトップローラ5に独立溝13を設けないローラを用いた以外は実施例3と同様の条件で紡績糸を製作した。本比較例において芯糸Cのバックテンションを測定したところ50g以上(測定器の振り切れ)であり、芯糸Cの切断が発生し量産ができなかった。
【0082】
(比較例2)
フロントローラ対25のトップローラ5に独立溝13を設けないローラを用いた以外は実施例1と同様の条件で紡績糸を製作した。本比較例において芯糸Cのバックテンションを測定したところ50g以上(測定器の振り切れ)であり、ウェイトローラ8でスリップが発生した。ウェイトローラ8に芯糸(フィラメント)を2重に巻き、ウェイトローラ8でスリップの発生をなくした状態でリング紡績装置の運転を継続したところ、トップローラ5の表面で芯糸が通過する部分に芯糸のスリップによる磨耗溝がローラ一周に亘って発生し、牽伸繊維束の引っ掛かりや芯糸の線速度のばらつきによる嵩高ムラや糸玉が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明の嵩高紡績糸の製造方法を利用すると、綿繊維などの長さの短い繊維を用いて嵩高な紡績糸を製造することができ、これらの紡績糸から成る織物や編物などの布帛は軽く、吸湿速乾性に優れ、バスローブ、タオル、スポーツウェア、あるいは直接肌に接するインナーウェアなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0084】
1 バックローラ対
2 ミドルローラ対
3 エプロン
4 ベースローラ
5 トップローラ
6 嵩高紡績糸
7 スピンドル
8 ウェイトローラ
9 チンローラ対
10 リング
11 ステープル繊維束原料ボビン
12 芯糸原料ボビン
13 独立溝
14 非溝部
15 トラベラ
20 リング紡績装置
21 牽伸機構
22 バックテンション機構
23 嵩高加工機構
24 交撚機構
25 フロントローラ対
S ステープル繊維束
S1 牽伸繊維束
C 芯糸
B ボビン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯糸とステープル繊維束からなる嵩高紡績糸の製造方法であって、
複数の索伸用のローラ対を用いることによって前記ステープル繊維束を牽伸して牽伸繊維束を形成しながら、前記複数の索伸用のローラ対のうちの下流側のローラ対に前記芯糸と前記牽伸繊維束を同時に導いて、前記牽伸繊維束を前記芯糸の線速度よりも速い線速度で前記下流側のローラ対を通過させることによって嵩高繊維束を形成させる牽伸工程と、
前記嵩高繊維束と前記芯糸に撚りを掛ける交撚工程とを備える、嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項2】
前記牽伸工程では、前記芯糸にバックテンションをかけることによって、前記牽伸繊維束を前記芯糸の線速度よりも速い線速度で前記ローラ対を通過させる、請求項1に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項3】
前記ローラ対の少なくとも一方のローラに複数の独立溝が形成されており、
前記牽伸工程では、前記牽伸繊維束と前記芯糸とが前記ローラ対の前記独立溝を通るように、前記牽伸繊維束と前記芯糸とを前記ローラ対に通過させる、請求項1または2に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項4】
前記ローラ対の周速度は、前記芯糸の線速度に対して1.1倍以上2.0倍以下である、請求項1から3のいずれかに記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項5】
前記独立溝は、前記ローラ対の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って、少なくとも1列に点在している、請求項3に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項6】
前記独立溝は、前記ローラ対の少なくとも一方のローラの円周方向に沿って等間隔で設けられている、請求項3または5に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項7】
前記芯糸は、フィラメント又は紡績糸又はこれらの併用糸である、請求項1から6のいずれかに記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項8】
前記ステープル繊維束は、天然繊維である、請求項1から7のいずれかに記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項9】
前記ステープル繊維束は、綿繊維である、請求項8に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項10】
前記ステープル繊維束は、麻繊維である、請求項8に記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項11】
前記牽伸工程では、前記下流側のローラ対が前記牽伸繊維束と前記芯糸とを前記下流側のローラ対のうちの同じ箇所から引き込むことによって、前記牽伸繊維束と前記芯糸とが重なって前記下流側のローラ対を通過する、請求項1から10のいずれかに記載の嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の方法で製造された嵩高紡績糸を少なくとも2本撚り合わせる撚糸工程を備える、嵩高紡績糸の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の方法で製造された嵩高紡績糸および前記嵩高紡績糸を含む布帛。
【請求項14】
芯糸とステープル繊維束からなる嵩高紡績糸の製造装置であって、
前記ステープル繊維束を牽伸して牽伸繊維束を形成するための複数の索伸用のローラ対を備え、前記複数の索伸用のローラ対のうちの下流側のローラ対は、前記芯糸と前記芯糸よりも早い線速度の前記牽伸繊維束とを同時に通過させることによって嵩高繊維束を形成し、
前記嵩高繊維束と前記芯糸とに撚りを掛ける交撚機構をさらに備える、嵩高紡績糸の製造装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−40435(P2013−40435A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91078(P2012−91078)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【出願人】(391059399)株式会社アイ.エス.テイ (102)
【Fターム(参考)】