説明

工作機械のスピンドル装置

【課題】センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを小さくせずに、部品加工や組立調整の負担を軽減しつつ、荷重を検出する上で必要とされる検出精度を確保することのできる工作機械のスピンドル装置を提供する。
【解決手段】エンコーダ72に対向させたセンサ100の信号によりアキシャル荷重を測定する。エンコーダ72の被検出面には、1対の個性化部分(凹溝)より成る複数組の被検出部が円周方向に等間隔で配置されている。1対の個性化部分は、エンコーダ72の軸方向に対して互いに逆方向に傾斜したハの字状に形成される。切削工具3に設けられた切削部3aの数mをエンコーダ72の被検出面に存在する被検出部の組数nで除した数m/nは、非整数に設定され、且つ、各個性化部分が円周方向に平行な線と交差する傾斜角度は30°〜70°の範囲に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の主軸に作用するアキシャル荷重を測定可能な工作機械のスピンドル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において、主軸に作用するアキシャル荷重を測定することは、大きなメリットを有する。即ち、工作機械の主軸に働くアキシャル荷重は、加工精度、加工効率、工具寿命等に与える影響が大きい重要なパラメータである。従って、アキシャル荷重を知ることにより、適正な加工条件の選定が可能となる。例えば、加工条件は、一般的に工具の回転数や、送り速度によって決められているが、摩擦や、加工によって発生する熱等の制御し難い要因の影響も受けるので、回転数や送り速度を一定に設定しても、常に同じ加工精度が得られることはない。加工面の変化に対応する切削荷重(即ち、主軸のアキシャル荷重)を新たなパラメータとして考慮することで、より厳密な加工条件の選定が可能となり、加工精度の向上が期待される。
【0003】
具体的には、切り屑排出量が同じであれば、切削荷重の小さい加工条件の方が効率的な加工条件であり、省エネルギ、工具寿命の延長に有利となる。また、切削荷重の増加から、工具の切削性(切れ味)の低下や、刃先摩耗等の発生を推測することができ、工具寿命や、工具交換時期を知ることが可能となる。更に、切削荷重の変化の履歴を管理することによって、無理な切削加工条件や工具とワークとの衝突(衝撃荷重)等の軸受損傷要因を推定することができ、また把握した工具の寿命特性から工具の改良、改善が可能となる。
【0004】
上記したように、工作機械において切削荷重を知ることは重要である。しかし、工具が回転するタイプの工作機械において、工具や主軸に作用する荷重を検出することは、工具が回転しないタイプの工作機械と比較して困難が伴う。
【0005】
工作機械の主軸にかかる荷重を検出することができる従来の装置として、特許文献1に記載された装置が従来から知られている。
【0006】
この特許文献1に記載された装置は、水晶圧電式の荷重センサを複数個、荷重の作用方向に対して直列に配置し、この荷重センサの測定信号に基づいて、切削工具を支持固定した主軸(スピンドル)に加わる荷重(切削抵抗)を測定する様に構成している。このような装置の場合、高価な水晶圧電式の荷重センサを使用するため、荷重測定装置全体としてのコストが嵩むことが避けられない。
【0007】
一方、特許文献2には、水晶圧電式の荷重センサに比べて低コストな磁気式のエンコーダとセンサを使用した荷重測定装置付転がり軸受ユニットに関する発明が記載されている。このユニットは、ハブに配置したエンコーダと、このエンコーダの被検出面に近接対向させたセンサとにより、外輪とハブ間に加わる荷重を求めるようにしたものである。
【0008】
図10〜12は、特許文献2に記載された従来の荷重測定装置付転がり軸受ユニットの一例を示している。
この荷重測定装置付転がり軸受ユニットは、使用時にも回転しない外輪301の内径側に、使用時に車輪を支持固定した状態で車輪と共に回転するハブ302を、複列に配置された転動体303を介して回転自在に支持している。これら各転動体303には、予圧が付与されており、両列同士の間で互いに逆向きの(図示の場合には背面組み合わせ型の)接触角を持って転動する。
【0009】
また、ハブ302の内端部には、円筒状のエンコーダ304をハブ302と同心に支持固定している。また、外輪301の内端開口を塞ぐ有底円筒状のカバー305の内側に、1対のセンサ306a、306bを支持すると共に、これら両センサ306a、306bの検出部を、エンコーダ304の被検出面である外周面に近接対向させている。エンコーダ304は磁性金属板製であり、被検出面であるエンコーダ304の外周面の先半部(軸方向内半部)には、透孔307(第1特性部)と柱部308(第2特性部)とを、円周方向に関して交互に且つ等間隔で配置している。これら各透孔307と各柱部308の境界は、エンコーダ304の軸方向に対し同じ角度だけ傾斜させると共に、この軸方向に対する傾斜方向を、エンコーダ304の軸方向中間部を境にして互いに逆向きとしている。従って、各透孔307と各柱部308とは、軸方向中間部が、円周方向に関して最も突出した「く」字形となっている。そして、上記境界の傾斜方向が互いに異なる被検出面の軸方向外半部と軸方向内半部のうち、軸方向外半部を第1の特性変化部309とし、軸方向内半部を第2の特性変化部310としている。
【0010】
また、1対のセンサ306a、306bはそれぞれ、永久磁石と、検出部を構成する磁気検出素子とから成る。これら両センサ306a、306bは、カバー305の内側に支持固定した状態で、一方のセンサ306aの検出部を第1の特性変化部309に、他方のセンサ306bの検出部を第2の特性変化部310にそれぞれ近接対向させている。これら両センサ306a、306bの検出部が第1、第2の特性変化部309、310に対向する位置は、エンコーダ304の円周方向に関して同じ位置としている。また、外輪301とハブ302との間にアキシャル荷重が作用しない状態で、各透孔307及び柱部308の軸方向中間部で円周方向に関して最も突出した部分(境界の傾斜方向が変化する部分)が、両センサ306a、306bの検出部同士の間の丁度中央位置に存在するように、各部材の設置位置を規制している。
【0011】
上述のように構成した荷重測定装置付転がり軸受ユニットの場合、外輪301とハブ302との間にアキシャル荷重が作用し、外輪301とハブ302とがアキシャル方向に相対変位すると、両センサ306a、306bの出力信号が変化する位相がずれる。
【0012】
即ち、外輪301とハブ302との間にアキシャル荷重が作用していない中立状態では、両センサ306a、306bの検出部は、図12の(A)の実線イ、イ上、即ち、上記最も突出した部分から軸方向に同じだけずれた部分に対向する。従って、両センサ306a、306bの出力信号の位相は、同図の(C)に示すように一致する。
【0013】
これに対して、エンコーダ304を固定したハブ302に、図12の(A)で下向きのアキシャル荷重が作用した場合には、両センサ306a、306bの検出部は、図12の(A)の破線ロ、ロ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが互いに異なる部分に対向する。この状態では両センサ306a、306bの出力信号の位相は、同図の(B)に示すようにずれる。
【0014】
更に、エンコーダ304を固定したハブ302に、図12の(A)で上向きのアキシャル荷重が作用した場合には、両センサ306a、306bの検出部は、図12の(A)の鎖線ハ、ハ上、即ち、上記最も突出した部分からの軸方向に関するずれが、前述の場合と逆方向に互いに異なる部分に対向する。この状態では両センサ306a、306bの出力信号の位相は、同図の(D)に示すようにずれる。
【0015】
上述のように、両センサ306a、306bの出力信号の位相が、外輪301とハブ302との間に加わるアキシャル荷重の作用方向(これら外輪301とハブ302とのアキシャル方向の相対変位の方向)に応じた向きにずれる。また、このアキシャル荷重(相対変位)により両センサ306a、306bの出力信号の位相がずれる程度は、アキシャル荷重(相対変位)が大きくなる程大きくなる。
【0016】
従って、両センサ306a、306bの出力信号の位相ずれが存在する場合は、その向き及び大きさに基づいて、外輪301とハブ302とのアキシャル方向の相対変位の向き及び大きさ、ひいては、外輪301とハブ302との間に作用しているアキシャル荷重の作用方向及び大きさを求めることができる。
【0017】
なお、両センサ306a、306bの出力信号の位相差に基づいてアキシャル方向の相対変位及び荷重を算出する処理は、図示しない演算器により行う。このため、この演算器には、予め理論計算や実験により調べておいた上記位相差と上記アキシャル方向の相対変位及び荷重との関係を計算式やマップ等の型式で組み込んでおく。
【0018】
以上の例の他に、特許文献2には、エンコーダの軸方向に対する傾斜方向が互いに異なる1対の凹溝を、エンコーダの回転方向に隣り合わせて対にして「ハ」の字形に配置した構造も記載されている。
【0019】
図13(A)はそのエンコーダの構成を示し、(B)はそのエンコーダを作るための長孔を加工した板金の構成を示している。被検出面である円筒状のエンコーダ320の外周面には、複数の被検出部324が、円周方向に等間隔で配置されている。これら各被検出部324は、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の個性化部分325により構成されている。各個性化部分325として、本例では、スリット状の長孔が採用されている。このような各個性化部分325を有するエンコーダ320は、予め各長孔を打ち抜き形成した帯状の磁性金属板を丸め、円周方向両端縁同士を突き合わせ溶接することにより作られている。なお、各個性化部分325としては、凹溝や凸部を採用することも可能である。
【0020】
各被検出部324を構成する1対ずつの個性化部分325同士の円周方向に関する間隔は、総ての被検出部324で軸方向に連続的に変化させてある。即ち、各被検出部324を構成する1対ずつの個性化部分325同士の円周方向に関する間隔が、エンコーダ320の軸方向一端程小さくなり、円周方向に隣り合う各被検出部324を構成する個性化部分325同士の円周方向に関する間隔が、エンコーダ320の軸方向他端程小さくなる方向に傾斜している。
【0021】
このようなエンコーダ320の被検出面である外周面に検出部を対向させたセンサの出力信号は、各個性化部分325に対向する瞬間に変化する。変化する間隔(周期)は、センサの検出部が対向する部分の軸方向位置の変化に伴って変化する。即ち、エンコーダ320を固定した主軸に作用する荷重に基づく被検出面と検出部のアキシャル方向相対変位に基づいて、センサの出力信号が変化するタイミングが1周期の間でずれる。
【0022】
従って、単一のセンサのみで、出力信号の1周期に対する上記タイミングの比に基づき、主軸に作用する荷重を求めることができる。つまり、センサの出力信号のパターンを見れば、主軸がハウジングに対して軸方向にずれている程度(軸方向変位量)を求めることができ、更にこのずれている程度から、主軸に作用するアキシャル荷重を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2002−187048号公報
【特許文献2】特開2006−317420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
ところで、特許文献2に記載の荷重測定装置付転がり軸受ユニットのように、自動車の車輪を支持するための車輪支持用転がり軸受ユニットに加わるアキシャル荷重を測定して走行安定性のための制御を行う場合は、アキシャル荷重の値が車輪支持部の構造等、本来の測定すべきアキシャル荷重以外の要因で、規則的に変化することは無い。これに対して、工作機械の主軸に適用する場合は、先端部に支持固定した加工工具の種類によっては、主軸に加わる荷重が規則的(正弦波的)に変化することが起こり得る。
【0025】
例えば、ドリルやエンドミル等の切削工具(加工工具)の場合、外周面や先端面に複数の切削部(加工部)を、円周方向に関して等間隔に設けている。これら各切削部の総てが被加工物の被加工面を均等に切削等の加工をし続けるのであれば、切削工具の形状に起因して主軸に加わる荷重が変動することは無いが、実際には、各切削部の総てが被加工物の被加工面を均等に切削加工することは希であり、切削工具の形状に起因して、主軸に加わる荷重が規則的に変動する。
【0026】
図14は、外周面に10箇所の切削部を有するエンドミル(ドリルでも同様)を工作機械の主軸の先端部に該主軸と同心に結合固定し、主軸を定速で回転させつつ、被加工物に向け定速で前進させて、被加工物に切削加工を施した場合における、主軸に関する物理量の変動状況を示している。図14(A)は主軸に加わる荷重の変動状況を、図14(B)は主軸の変位状況をそれぞれ表している。荷重と変位とは比例するので、図14の(A)、(B)は、縦軸の値が異なるだけで、実質的に同じ図である。
【0027】
図14の(A)、(B)に示すように、被加工物を複数の切削部を有する切削工具により加工する場合には、本来は主軸に加わる荷重が一定となるべき定速回転及び定速前進状態でも、主軸に加わる荷重が規則的に変動する。
【0028】
このため、荷重測定のタイミングを考慮しないと、図14の(A)、(B)に示した変動に基づき、主軸に加わる荷重の測定精度が悪化する。
【0029】
例えば、前述の図10〜12に示した荷重測定のための構造で、エンコーダ304の外周面に設ける(1周当りの)透孔の数を、切削工具の切削部の数と同じ10個とした場合、図14の(A)、(B)に黒丸印で示した部分(測定点)で、センサ306a、306bの出力信号の位相差を求め、この位相差に基づいて主軸に加わる荷重を求めることになる。
【0030】
図14の(A)、(B)の黒丸印で示した部分は、正弦波上の同じ位相部分である。このため、上述のように、透孔307の数を切削工具の切削部の数と同じ10個とした場合には、図14の(A)、(B)の記載から明らかな通り、δなる値(DC成分のオフセット)が、前記変動に基づく誤差成分となる。
【0031】
特許文献2に示されるように、エンコーダ304の被検出面に存在する透孔307及び柱部308等の被検出部の組数の数を、切削工具の切削部の数よりも十分に多く(自動車の車輪支持用の荷重測定装置付転がり軸受ユニットの場合のように数十個と)し、荷重測定を複数回行ってその平均値を取れば、前記誤差成分δの影響を排除できる。但し、工作機械の主軸の回転速度は、自動車用車輪の回転速度よりも桁違いに速いため、センサの出力信号を入力した演算器(CPU)の処理速度を考慮した場合、前記被検出部の組数の数を、切削部の数を越えて多くすることは難しい。極端に処理速度が速い高価なCPUを使用せずに工作機械の主軸に加わる荷重を測定することを考慮した場合、工作機械用荷重測定装置を構成するエンコーダでは、被検出部の組数は、1桁からせいぜい10組程度とすることが現実的である。
【0032】
ところが、エンコーダの被検出面に設けた被検出部の組数を1桁からせいぜい10組程度とした場合には、切削工具の切削部の数mと被検出部の組数nとが一致(m=n)したり、切削工具の切削部の数mが被検出部の組数nの整数倍(m/n=整数)となる場合が生じる。これら両数m、nが一致した場合は勿論、これら両数の比m/nが整数の場合も、上記誤差成分δの影響を排除できない。被検出部の組数nを切削工具の切削部の数mよりも多くすれば、仮にこれら両数n、mの比n/mが2以上の整数となっても、荷重測定を複数回行ってその平均値を取ることにより上記誤差成分δの影響を排除できる。但し、被検出部の組数nは、上述のような理由により多くすることは難しいため、現実的な対応方法とは言えない。また、回転方向に関して、切削工具とセンサの検出部との位相を適切に規制し、図14に示した測定点を正弦波曲線の中央位置にすれば、上記誤差成分δが生じることを防止することは不可能ではない。但し、工具交換の度に上記位相を一致させることは、何らかの位置決め用の印や、位置決め用の係合部を設けたとしても面倒で、やはり現実的な対応方法とは言えない。
【0033】
また、工作機械のスピンドル装置に上述のセンサ及びエンコーダを組み込む場合、センサとエンコーダ間の軸方向位置のズレが大きくなると荷重検出ができなくなったり、検出誤差が過大となったりする。このため、センサ及びエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジ(許容度)が小さいと、部品単体の一般仕上加工では満足できず、精密な仕上加工が要求されると共に、部品同士を選択嵌合するなど組付時に特別な調整工程が必要となる。このため、部品加工コスト高や組立調整コスト高を招きやすくなる上、補修時に簡単に部品交換ができなくなる可能性がある。
【0034】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、極端に処理速度が速い高価なCPUを使用しなくても、複数の切削部を円周方向に関して等間隔に設けた切削工具を使用する工作機械の主軸に加わる荷重を、精度良く測定できると共に、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを小さくせず、部品加工や組立調整の負担を軽減しつつ、該荷重を検出する上で必要とされる検出精度を確保することのできる工作機械のスピンドル装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0035】
上記目的を達成するために、本発明は下記の構成によって達成される。
(1) 回転しないハウジングと、
軸方向に予圧が付与された転がり軸受により前記ハウジングに回転自在に支持された主軸と、
前記主軸の先端部に前記主軸と同心に支持固定され、複数の切削部が円周方向に関して等間隔に設けられた切削工具と、
前記主軸と一体に回転すると共に、前記主軸と同心の被検出面を有するエンコーダと、
前記エンコーダの被検出面に検出部を対向させた状態で前記ハウジングに支持され、前記被検出面の特性の変化に応じた信号を出力するセンサと、
前記センサの出力信号が変化するパターンに基づいて前記主軸に作用するアキシャル荷重を算出する演算手段と、
を備えた工作機械のスピンドル装置において、
前記エンコーダの被検出面には、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の個性化部分より成る複数組の被検出部が円周方向に等間隔で形成され、
前記各1対の個性化部分は、前記1対の個性化部分同士の円周方向に関する間隔が軸方向に連続的に変化するように、前記エンコーダの軸方向に対して互いに逆方向に略同じ角度で傾斜したハの字状に形成され、
前記切削工具に設けられた切削部の数mを前記エンコーダの被検出面に存在する被検出部の組数nで除した数m/nは、非整数に設定され、且つ、
前記各個性化部分が円周方向に平行な線と交差する傾斜角度は30°〜70°の範囲に設定されていることを特徴とする工作機械のスピンドル装置。
(2) 前記転がり軸受の内径が40mm〜120mmであることを特徴とする(1)に記載の工作機械のスピンドル装置。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、極端に処理速度が速い高価なCPUを使用しなくても、複数の切削部を円周方向に関して等間隔に設けた切削工具を使用する工作機械の主軸に加わるアキシャル荷重の平均値を精度良く測定できる。即ち、複数の切削部を備えた切削工具を主軸の先端部に結合固定した状態で被加工物の加工を行うと、この切削工具を介して主軸に加わる荷重は細かく変動する。工作機械の主軸の送り速度等を制御するには、この細かく変動する値ではなく、平均値を求める必要がある。切削工具の切削部の数mがエンコーダの被検出面に設けた被検出部の組数nの整数倍の場合には、前述したように、上記平均値中に、上記変動に基づく誤差成分δが入り込み易く、入り込んだ場合には、これを除去できない。
【0037】
これに対して本発明の場合には、切削工具の切削部の数mがエンコーダの被検出面に設けた被検出部の組数nの整数倍ではない(m/n≠整数)ため、上記誤差成分の影響を除去して、上記平均値を精度良く求められる。即ち、本発明の場合でも、或る1組の被検出部を利用して測定した1回の荷重測定の結果には、前述の図14に正弦波曲線で示した様な荷重変動の影響が出る可能性が高い。但し、「m/n≠整数」なる要件を満たすため、この影響の程度及び方向、即ち、上記誤差成分δの大きさ、並びに、当該誤差成分δが平均値に足される状態で生じるか、逆に平均値から減じる状態で生じるかは、測定毎に異なる。このため、連続して求めた複数の測定値の平均値を求めれば、上記誤差成分δの影響をなくすか、または減じて、上記平均値を精度良く求められる。連続して求めた複数の測定値の平均値を求めることにより、上記主軸に加わる荷重の平均値を求めるタイミングが多少遅れるが、本発明の対象となる工作機械用荷重測定装置に関して、この遅れが問題になることはない。この理由は、工作機械の主軸の回転速度は数万回/分にも達するため、この主軸が数回転する間の平均値を求めるとしても、それに要する時間は数msec乃至は数十msec程度に過ぎないことによる。このように平均値を求めるために要する時間が、極く短時間で済むのに対して、上記主軸の送り速度の制御等は、数百msec乃至は数sec毎に行えば十分であり、工具の寿命検出等に関しては、これよりも遥かに長い時間的余裕があるためである。以上の理由により、本発明によれば、上記主軸に加わる荷重の平均値を、測定のタイミングに関して特に問題を生じることなく、精度良く求められる。
【0038】
また、本発明によれば、エンコーダの被検出面に設けてある被検出部を構成する1対の個性化部分が円周方向に平行な線と交差する傾斜角度を30°〜70°の範囲に限定したので、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを小さくせず、部品加工や組立調整の負担を軽減しつつ、該荷重を検出する上で必要とされる検出精度を確保することができる。
【0039】
即ち、傾斜角度を30°以上に限定することで、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを広くすることができるようになり、部品現合合わせなど、特別な選別嵌合調整が不要で、一般加工公差の部品の積み重ねで該レンジを満足することができる。また、傾斜角度を70°以下に限定することで、工作機械において、最適加工条件(切削送りや加工回転数)の設定・刃物切れ味の変化や工具寿命の検出の判断基準となる加工時荷重を検出する上で必要とされる検出精度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施形態の軸受装置を組み込んだ工作機械のスピンドル装置の断面図である。
【図2】図1の要部拡大断面図である。
【図3】図1に示すエンコーダの斜視図である。
【図4】図3のエンコーダの展開図である。
【図5】図1に示すセンサを取り出して、検出部を被覆する前の状態(A)と被覆した後の状態(B)を示す斜視図である。
【図6】同センサの要部の構成を示す斜視図である。
【図7】荷重測定の原理を説明するための模式図である。
【図8】上記エンコーダに形成したハの字状の1対の凹溝(個性化部分)のハの字の角度(凹溝の傾斜角度)とセンサとエンコーダの軸方向相対位置レンジの関係を示す特性図である。
【図9】上記エンコーダに形成したハの字状の1対の凹溝(個性化部分)のハの字の角度(凹溝の傾斜角度)と検出精度との関係を示す特性図である。
【図10】従来の荷重測定装置付き転がり軸受ユニットの断面図である。
【図11】同ユニットに使用されているエンコーダの被検出面の一部を径方向から見た図である。
【図12】同エンコーダのアキシャル方向の変位により、1対のセンサの出力信号に位相差が生じる状況を説明するための模式図である。
【図13】(A)は従来のエンコーダの他の例を示す斜視図、(B)はそれを展開して示す斜視図である。
【図14】(A)及び(B)は、主軸の先端部に結合固定した切削工具の形状に起因し、主軸に加わる荷重及び主軸の変位が変動して、荷重測定に誤差が生じる状況を説明するための線図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態の軸受装置を組み込んだ工作機械のスピンドル装置を図面に基づいて詳細に説明する。
【0042】
図1及び図2に示すように、実施形態の工作機械のスピンドル装置10は、モータビルトイン方式のものであり、その中心部には主軸11が設けられている。主軸11の軸方向の一端部(図1において左端部)には、工具ホルダ2を介してエンドミルやドリル等の切削工具3が取り付けられている。
【0043】
主軸11は、工具側を支承する前側軸受群20と、反工具側を支承する後側軸受40とによって、回転しない静止部材であるハウジング50に回転自在に支持されている。
【0044】
前側軸受群20と後側軸受40間における主軸11の外周面には、ロータ61が外嵌されている。また、ロータ61の周囲に配置されるステータ62は、ハウジング50に固定されており、ステータ62に電力を供給することで、ロータ61に回転力を発生させて、主軸11を回転させるようになっている。なお、ハウジング50は、複数の分割ハウジング51〜53や外輪押え54、カバー55、56などを順次結合させることによって構成されている。
【0045】
前側軸受群20は、工具3側(前側)から順番に配した4列の同一サイズのアンギュラ玉軸受21〜24によって構成されている。前側2つのアンギュラ玉軸受21、22と後側2つのアンギュラ玉軸受23、24は、背面組み合わせで配置されており、それぞれのアンギュラ玉軸受21〜24は、外輪26と、内輪27と、外輪26の外輪軌道溝及び内輪27の内輪軌道溝間に接触角を持って配置された転動体としての複数の玉28と、を備えている。
【0046】
前側軸受群20の各アンギュラ玉軸受21〜24の外輪26は、ハウジング50に内嵌され、ハウジング50にボルト締結された外輪押え54によって、外輪間座70,81,82を介してハウジング50に固定されている。前側から2番目のアンギュラ玉軸受22と3番目のアンギュラ玉軸受23の外輪26間に配置された外輪間座70には、センサ取付孔70aが形成されている。
【0047】
また、前側軸受群20の各アンギュラ玉軸受21〜24の内輪27は、主軸11に外嵌され、主軸11に締結されたナット85によって、内輪間座71,83,84を介して主軸11に固定されている。前側から2番目のアンギュラ玉軸受22と3番目のアンギュラ玉軸受23の内輪27間に、外輪間座70と対向するように配置された内輪間座71は、後述するエンコーダ72を兼ねるものである。
【0048】
また、前側軸受群20のアンギュラ玉軸受21〜24は、ナット85によって定位置予圧が負荷されており、それにより、主軸11がハウジング50に対して、ラジアル荷重及び両方向のスラスト荷重を支承する状態で、がたつきなく、回転自在に支持されている。
【0049】
また、後側軸受40は、円筒ころ軸受であり、図中符号は付さないが、外輪と、内輪と、転動体としての複数の円筒ころと、を有する。後側軸受40の外輪はハウジング50に内嵌され、ハウジング50にボルト締結された外輪押えやスペーサなどによってハウジング50に固定されている。後側軸受40の内輪も、主軸11に締結された他のナットやスペーサなどによって主軸11に固定されている。
【0050】
また、この工作機械では、運転時に、エンドミルやドリル等の切削工具3を高速で回転しつつ被加工物に押し付けて被加工物に切削加工を施すので、主軸11に、反力としてのアキシャル荷重が作用する。そこで、このアキシャル荷重を測定できるように、前側軸受群20を構成する前側から2番目のアンギュラ玉軸受22と3番目のアンギュラ玉軸受23の間に、図3に示すような円筒形状のエンコーダ72(内輪間座71)が外嵌されると共に、外輪間座70の位置でハウジング50側に、図5及び図6に示すようなセンサ100が支持固定されている。
【0051】
エンコーダ72は、主軸11と一体に回転するもので、図3に示すように、磁性金属材からなる内輪間座71の外周面に、複数組の被検出部75を、円周方向に等間隔で配置した構成を備えている。これら各被検出部75は、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の個性化部分75a、75bにより構成されており、各個性化部分75a、75bとして、本実施形態では、凹溝が削り出し加工により形成されている。
【0052】
なお、凹溝の代わりにエンコーダ72を貫通する長孔や凸条を採用することもできるし、センサ100の種類によっては、それ以外の要素を採用することもできる。例えば、光学式のセンサの場合は、光の反射率が周囲と異なる部分を設けて、その部分を個性化部分とすることも可能である。
【0053】
個性化部分75a、75bを凹溝や凸条で構成した場合、それら凹溝や凸条が、センサ100の検出部との距離が残部と異なる距離変化部に相当する。
【0054】
図4に示すように、各被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bは、エンコーダ72の軸方向に対して互いに逆方向に略同じ角度で傾斜して延びたハの字状に形成されており、それにより、1対の個性化部分75a、75b同士の円周方向に関する間隔が軸方向に連続的に変化している。
【0055】
このエンコーダ72は、センサ100と共にセンサユニットを構成しており、センサ100は、エンコーダ72の被検出面に検出部を対向させた状態でハウジング50に支持されている。センサ100は、エンコーダ72の被検出面の特性が円周方向に交互に変化することにより、エンコーダ72の回転に応じてパルス信号を出力する。即ち、センサ100は、エンコーダ72の回転に伴って各個性化部分75a、75bに検出部が対向する瞬間に、変化する信号を出力する。そして、その信号が変化する間隔(周期)は、センサ100の検出部が対向する部分の軸方向位置の変化に伴って変化する。センサ100の信号は図示略の演算器に入力され、演算器は、センサ100の出力信号が変化するパターンに基づいて、主軸11に作用するアキシャル荷重を算出する。
【0056】
センサ100は、図5に示すように、ホールIC105を樹脂製のホルダ101の先端に配置して埋め込んだ構造をなしており、図6に示すように、ホールIC105の背面(エンコーダ72と反対側)に配置された永久磁石107を有して構成されている。永久磁石107の着磁方向は、センサ100を構成するホールIC105がエンコーダ72の被検出面に対向している方向とする。そして、これらセンサ100とエンコーダ72との相対変位に伴って、パルスの間隔が変化する。
【0057】
なお、1対の磁気検出素子105a、105bは差動式素子として機能して、エンコーダ72の被検出面の性状変化を高精度に検出する。このために、両素子105a、105bを、エンコーダ72の回転方向に配列している。エンコーダ72が多極磁石エンコーダの場合には、1個のホール素子のホールICを使用することもできる。
【0058】
また、センサ100の構造は、永久磁石を組み込んだものであれば、特にその形式を問わない。即ち、永久磁石から出る磁束の流れを導くポールピースの周囲にコイルを巻回して成る所謂パッシブ型のものであっても、磁束の密度に応じて特性を変化させる磁気検出素子を組み込んだ所謂アクティブ型のものであっても使用することができる。また、本実施形態のセンサ100としては、長尺の溝とした個性化部分75a、75bのエッジを検出可能なものであればよく、光学センサ等の使用も可能である。
【0059】
センサ100とエンコーダ72の被検出面との相対位置は、磁気検出素子105a、105bが被検出面の軸方向中間部に位置するように設定されている。具体的には、磁気検出素子105a、105bの位置は、定位置予圧が付与された前側軸受群のアンギュラ軸受22、23間に配置された内輪間座71の軸方向中間位置となるエンコーダ72の軸方向中間部と一致するように設定されている。
【0060】
センサ100の出力信号は、センサ100の検出部(磁気検出素子105a、105bの配置された部分)をエンコーダ72の個性化部分75a、75bが通過するのに伴って変化する(パルス信号を出力する)。この変化のタイミング(パルスが発生する位相)は、センサ100の検出部が、エンコーダ72の被検出面のうち、軸方向に関して何れの部分を走査するかによって変化する。そして、この変化に基づいて、エンコーダ72の軸方向変位量を求められる。この点について、図7を用いて説明する。
【0061】
例えば、エンコーダ72を外嵌した主軸11にアキシャル荷重が加わらず、エンコーダ72が軸方向中立位置に存在する場合、センサ100の検出部は、図7の(A)に実線aで示すように、エンコーダ72の外周面のうちで、ほぼ軸方向中央部を走査する。この結果、センサ100の出力信号は、例えば、図7の(C)に示すよう変化する。
【0062】
これに対して、エンコーダ72(主軸11)に、図7の(A)で下向きのアキシャル荷重が作用し、エンコーダ72が、この図7の(A)で下方に変位すると、センサ100の検出部は、図7の(A)に鎖線bで示すように、エンコーダ72の被検出面のうち、軸方向片側{図7の(A)の上側}に偏った部分を走査する。
【0063】
この結果、センサ100の出力信号は、例えば、図7の(B)に示すように変化する。アキシャル荷重の作用方向が逆向きの場合には、出力信号は逆方向に変化する。これら図7の(B)、(C)に記載した各周期α、β、Lのうち、全周期Lは、円周方向に隣り合う1対の被検出部75に関するセンサ100の出力信号の周期である。
【0064】
具体的には、回転方向前側(図7の左側)の被検出部75に関する所定部分(図示の例では、被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bのうち、回転方向前側の個性化部分75aの回転方向後端縁)での出力信号の立ち上がり部から回転方向後側(図7の右側)の被検出部75に関する同等部分での出力信号の立ち上がり部までの時間である。また、第1部分周期αは、回転方向前側の被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bのうち、回転方向前側の個性化部分75aに関する(上記所定部分での)上記出力信号の立ち上がり部から回転方向後側の個性化部分75bに関する出力信号の立ち上がり部までの時間である。更に、第2部分周期βは、回転方向前側の被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bのうち、回転方向後側の個性化部分75bに関する出力信号の立ち上がり部から回転方向後側の被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bのうち、回転方向前側の個性化部分75aに関する(上記同等部分での)上記出力信号の立ち上がり部までの時間である。
【0065】
上記各周期α、β、Lのうちの全周期Lは、上記第1部分周期αと第2部分周期βとの和(L=α+β)になる。また、タイミング比は、α/L(又はβ/L)となる。なお、各周期のうちの全周期Lは、出力信号が2回変化する周期(2パルス分の周期)であり、エンコーダ72の回転速度が一定である限り、一定である。また、第1部分周期α及び第2部分周期βが、出力信号が1回変化する周期(1パルス分の周期)であり、エンコーダ72の回転速度が一定であっても、エンコーダ72の軸方向位置が変化すると変化する。
【0066】
図7から明らかな通り、タイミング比α/Lまたはβ/L(出力信号が1回変化する周期/出力信号が2回変化する周期)は、エンコーダ72の軸方向位置に伴って変化し、このタイミング比α/L又はβ/Lの変化量は、軸方向位置の変化量(軸方向変位量)が大きくなる程大きくなる。また、この軸方向変位量は、エンコーダ72を外嵌固定した、主軸11に加わるアキシャル荷重が大きくなる程大きくなる。また、アキシャル荷重に基づく軸方向変位量は、前側軸受群20を構成する各アンギュラ玉軸受21〜24のうち、アキシャル荷重を支承する転がり軸受の剛性が大きくなる程小さくなる。また、このアキシャル荷重と前記軸方向変位量との関係は、この剛性を勘案した計算により、あるいは既知のアキシャル荷重と軸方向変位量との関係を測定する実験により、予め求めておくことができる。
【0067】
従って、本実施形態によれば、低コストで、しかも小型に構成できる構造で、工作機械の主軸11に加わるアキシャル荷重を求めることができる。
【0068】
上述の説明から明らかな通り、本例の工作機械のスピンドル装置によれば、各被検出部75を、エンコーダ72の外周面のn箇所に設けたとすれば、主軸11に加わるアキシャル荷重を、この主軸11が1回転する間にn回求められる。一方、主軸11の先端部に結合固定した切削工具3の先端面または外周面には、m箇所の切削部3aが存在する。そして、これらm箇所の切削部3aに基づいて、主軸11に加わる荷重が、前述の図14に破線で示したように、主軸11が1回転する間に、m回変動する。この変動に基づいて、主軸11に加わる荷重の測定値の平均値に誤差を生じないようにするべく、切削工具3に設けられた切削部3aの数mを、エンコーダ72の外周面に設けた各被検出部75の組数nの非整数倍(m/n≠整数)としている。
【0069】
このために本例の場合には、前述した理由により、極端に処理速度が速い高価なCPUを使用しなくても、複数の切削部3aを円周方向に関して等間隔に設けた切削工具3を先端部に結合固定した主軸11に加わるアキシャル荷重の平均値を精度良く測定できる。
【0070】
また、上記したように、センサ100の出力信号は、主軸11に作用するアキシャル荷重の方向に応じて、また、アキシャル荷重の大きさに比例して変化する。従って、定位置予圧が負荷されている前側軸受群20の剛性(ばね定数)を予め測定あるいは計算して、アキシャル荷重の大きさと主軸11の変位量との関係を求めておけば、センサ100からの出力信号のパターンに基づいて、主軸11に作用するアキシャル荷重の方向及び大きさが演算手段によって求められる。
【0071】
また、エンコーダ72を構成する内輪間座71は、背面組合せで配置された一対のアンギュラ玉軸受22、23間に配置されているので、内輪間座71の軸方向中間位置が主軸11の熱によって伸縮する場合の軸方向中心となるため、主軸11の伸縮による影響が抑制され、精度のよい荷重測定が可能となる。
【0072】
また、本実施形態では、エンコーダ72の被検出面は、円周方向に関して変化する特性のピッチが、軸方向に連続的に変化する部分を軸方向に単列で構成しており、センサ100を一つのホールICのみによって構成することができる。これにより、センサユニットのコスト低減が図られると共に、センサ100及びエンコーダ72を構成する内輪間座71の軸方向幅も狭くすることができる。これにより、スピンドル装置10の軸方向長さも短くすることができる。特に、5軸加工機などで主軸が旋回する(例えば、±120°前後で旋回)方式の場合、主軸長が短くなれば、旋回半径を小さくすることができ、工作機械全体の省スペース化や加工スペースを確保でき、3次元加工を行う場合など、主軸装置10の動作が容易となり、加工プログラム作成の容易性や加工性が向上できるメリットがある。
【0073】
また、一般的な工作機械のスピンドル装置、特に旋盤やマシニングセンタなど切削型の工作機械のスピンドル装置の場合、内径がφ40mm以上φ120mm以下のアンギュラ玉軸受21〜24が主に使用されている。また、アンギュラ玉軸受22,23間に組み込まれるエンコーダ72は、強度保持や加工寸法精度を確保する面などから、径方向肉厚が5mm以上、即ち、外径がφ50mm以上であることが好ましい。さらに、エンコーダ外径部に対向するセンサの配置スペースやエンコーダと外輪間座との干渉を考えると、エンコーダ72の径方向肉厚が10mm以下であることが好ましく、アンギュラ玉軸受21〜24の内径がφ40mmの場合には、外径がφ60mm以下であることが好ましい。
【0074】
また、エンコーダ72の被検出面に設けた被検出部75の組数(=ペアパルス数)を多くすると、変位検出精度は向上するが、溝加工コストが増えることと、軸受内径がφ120mm以下とした場合のエンコーダ72の円周方向スペースを考慮すると、被検出部75は13組数以下であることが望ましい。さらに、上述した切削工具3の切削部3aの刃数mとの干渉を避ける意味で、被検出部75は3組数を越えることが好ましく、5組数以上であることがより好ましい。
【0075】
ここで、外径がφ50mm以上のエンコーダ72が使用される場合において、1対のハの字状に配置された個性化部分75a、75bが円周方向に平行な線S1と交差する傾斜角度θは、センサ100とエンコーダ72の軸方向相対位置精度のレンジ、及び、荷重を検出する上で必要とされる検出精度の両方を考慮して、30°〜70°の範囲に設定されている。
【0076】
図8は、センサ100とエンコーダ72の軸方向相対位置のレンジと、エンコーダ72の各被検出部75を構成する1対の個性化部分75a,75bの傾斜角度θとの関係を示す。また、図8及び後述の図9中、1ペアパルスとは、1対の個性化部分75a,75bに対応した1組の被検出部75を示し、5ペアパルスとは、5組の被検出部75をあらわす。
【0077】
軸受の内外輪幅寸法精度、ハウジング深さ精度、内外輪間座幅寸法精度、センサ取付穴位置精度などを含む一般的な加工部品の公差を積み重ねると、センサ100とエンコーダ72の軸方向相対位置精度のレンジは、±0.5mmが限界である。このため、図8に示すように、5組の被検出部75を有するエンコーダ72の外径をφ50mm以上とした場合、個性化部分75a,75bの傾斜角度θが30°以上であれば、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを±0.5mm以上とすることができる。従って、スピンドル装置を構成する各部品を一般的な加工精度レベルで加工し組み立てるだけで、つまり、一般的な加工精度の部品の公差の積み重ねだけで、その精度レンジを確保することができる。そのため、加工コストを抑えつつ、部品間の現合合わせを行なうことなく、容易な組み立てが可能になる。
【0078】
なお、被検出部75の組数が増加すると、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジが低下する。このため、図示しないが、例えば、13組数以下の被検出部75を有する、外径φ50mm以上のエンコーダにおいて、センサとエンコーダの軸方向相対位置精度のレンジを±0.5mm以上とするには、個性化部分75a,75bの傾斜角度θが35°以上とすることが好ましい。
【0079】
また、センサ100が、最適加工条件(切削送りや加工回転数)の設定・工具切れ味悪化の検出・工具寿命の検知などに使用される場合、軸方向荷重500N前後を最低検知する必要があり、変位検出精度(検出感度)は、組み込まれた軸受の剛性(軸方向ばね定数は、概ね100〜200N/μm)より換算すると、4μm以下であることが必要となる。
【0080】
図9はセンサ100の検出精度と各被検出部75を構成する1対の個性化部分75a、75bの傾斜角度θの関係をグラフにしたものである。図9からわかるように、個性化部分75a,75bの傾斜角度が大きい程、変位の検出精度が広く(悪く)なる。つまり、個性化部分75a,75bの傾斜角度が小さい(ハの字が開いている)と、軸方向変位が微小でも大きなセンサ信号変化を生むことができるので、変位の可能検出精度が高くなる。一方、個性化部分75a,75bの傾斜角度が大きい(ハの字が閉じている)と、軸方向変位が大きくても、小さなセンサ信号変化しか生むことができないので、変位の可能検出精度が低くなる。
【0081】
ここで、上述した5〜13組数の被検出部75を有する外径がφ80mmのエンコーダ72は、変位検出精度を4μm以下とするために、図9に示すように、個性化部分75a,75bの傾斜角度θは70°以下とする必要がある。また、変位検出精度を、より好ましい3μm以下とするには、個性化部分75a,75bの傾斜角度θは65°以下とする必要がある。
【0082】
なお、エンコーダ72の外径が大きくなると、変位検出精度が大きくなる。このため、図示しないが、例えば、5〜13組数の被検出部75を有する、外径φ130mm以下のエンコーダにおいて、変位検出精度を4μm以下とするためには、個性化部分75a,75bの傾斜角度θを60°以下とすることが好ましい。
【0083】
例えば、実施例としてのスピンドル装置では、アンギュラ軸受21〜24の内径をφ70mm、アンギュラ玉軸受22、23間のエンコーダ72の外径をφ80mm(径方向肉厚5mm)とし、被検出部75の組数を5組、各個性化部分75a,75bの傾斜角度θを45°としている。また、一般的な仕上加工による部品を積み重ねた、エンコーダ72の幅方向の中心位置とセンサ100の中心位置の軸方向相対位置の誤差が、基準セット位置に対して±2mmとなっている。
【0084】
このようなスピンドル装置では、検出精度(検出感度)が図9から1.5μmであり、また、実際の軸方向相対位置の誤差±2mmが、図8から与えられる軸方向相対位置のレンジ±3.6mm以下であるので、検出装置としての機能を満足することができる。
【0085】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【符号の説明】
【0086】
3 切削工具
3a 切削部
10 スピンドル装置
11 主軸
72 エンコーダ
50 ハウジング
75 被検出部
75a,75b 個性化部分(距離変化部)
100 センサ
105 ホールIC(検出部)
105a,105b 磁気検出素子
107 永久磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転しないハウジングと、
軸方向に予圧が付与された転がり軸受により前記ハウジングに回転自在に支持された主軸と、
前記主軸の先端部に前記主軸と同心に支持固定され、複数の切削部が円周方向に関して等間隔に設けられた切削工具と、
前記主軸と一体に回転すると共に、前記主軸と同心の被検出面を有するエンコーダと、
前記エンコーダの被検出面に検出部を対向させた状態で前記ハウジングに支持され、前記被検出面の特性の変化に応じた信号を出力するセンサと、
前記センサの出力信号が変化するパターンに基づいて前記主軸に作用するアキシャル荷重を算出する演算手段と、
を備えた工作機械のスピンドル装置において、
前記エンコーダの被検出面には、それぞれが他の部分とは特性が異なる1対の個性化部分より成る複数組の被検出部が円周方向に等間隔で形成され、
前記各1対の個性化部分は、前記1対の個性化部分同士の円周方向に関する間隔が軸方向に連続的に変化するように、前記エンコーダの軸方向に対して互いに逆方向に略同じ角度で傾斜したハの字状に形成され、
前記切削工具に設けられた切削部の数mを前記エンコーダの被検出面に存在する被検出部の組数nで除した数m/nは、非整数に設定され、且つ、
前記各個性化部分が円周方向に平行な線と交差する傾斜角度は30°〜70°の範囲に設定されていることを特徴とする工作機械のスピンドル装置。
【請求項2】
前記転がり軸受の内径が40mm〜120mmであることを特徴とする請求項1に記載の工作機械のスピンドル装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−45667(P2012−45667A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189850(P2010−189850)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】