説明

工作機械の振動を最適化する方法

本発明は、工作機械の振動を最適化する方法に関する。この方法は、従動軸(17)を回転させ、さらに、回転速度の範囲を対象とすることによって特徴づけられる。回転速度の範囲において生じた振動を測定し、最小振動を有する最適回転速度を決定して調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械の振動を最適化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械においては、特に、工作物を機械加工する場合、工作物または工具を回転させる。フライス盤の場合は工具を従動軸で支持し、一方、旋盤の場合は工作物を個々に回転させる。
【0003】
高速処理中は、4000rpm以上の回転数が使用される。所望の加工精度を実現させるためには、可能な限り最適に従動軸の平衡を保つことが必要となる。しかしながら、これは、必ずしも所望の程度までできるとは限らない。むしろ、小さな不均衡が残ることもあり、これは、例えば、工作物や工具のクランピングから生じる場合もある。また、工具や工作物自体が不均衡の一因となることもある。
【0004】
不均衡が存在するために、振動が発生して、結果的に加工が不正確となり、また、表面品質の劣化が生じることとなる。このような理由から、振動は種類を問わず工作機械の使用時には望ましくない。
【0005】
振動特性に及ぼす有益な影響は、工作機械自体、フレーム、工作台または他の構成部品を適切に形成することによりもたらすことができる。しかしながら、回転する構成部品の振動を抑制することは、このような手段で可能となるものでもなく、また、このような手段に限定されるものでもない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、工作機械の振動の最適化を可能にすると共に、単純な構造と、簡易かつコスト効率の高い用途とを有する、上述した種類の方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明において、この目的は、主請求項の種々の特長の組み合わせによって解決され、従属請求項は本発明のさらなる有利な実施形態を示す。
本発明において、連続的または段階的に回転させる回転速度の範囲が(自動的にまたはユーザーによって)選択される。この回転速度の範囲内で発生する振動が検出される。次に、回転速度を決定し、この回転速度において、最適化された振動減衰、すなわち最小の振動が生じる。さらに、工作物のその後の加工をこの回転速度で行う。切削パラメータ等に照らして、この工程に基づいて予め定義された回転速度がこの範囲に該当するように、回転速度の範囲を選択する。
【0008】
初めに、工作機械の従動軸を目標回転速度で回転させる。次に、目標回転速度に基づいて回転速度を増減させる。したがって、回転速度は、目標回転速度の上下にある所定の回転速度の範囲を通過する。この回転速度の範囲内で回転させると、発生する振動が個々に検出または測定される。振動は回転速度の範囲内で(また、共鳴振動、構成部品の固有の剛性、または他の判定基準に従って)大きく異なることから、最適範囲が回転速度の範囲内で得られ、この最適範囲においては、発生する振動は目標回転速度と比較すると小さくなっている。工作機械の従動軸をこの回転速度で駆動させた場合、処理品質の大幅な向上を達成することができる。
【0009】
回転速度の範囲を適切に選択することによって、目標回転速度に基づいて回転速度を増減させ、さらに、残りの加工条件を最適または妥当な範囲内に保つことが可能である。
本発明の方法においては、振動の程度は、工作機械の回転軸の回転速度によって異なることが考えられる。このような状況においては、振動が必ずしも増加する回転速度に合わせて増大しないことが判明している。むしろ、工作機械の回転軸の機械的構造、ならびに、工作機械自体において、種々の周波数が発生し、この時に振動を増幅する共鳴が生じる。これは、先に説明したように、工作物の加工には特に不利なものである。
【0010】
さらに、振動によって、低減すべき好ましくない異音発生が引き起こされる。
したがって、本発明の方法を用いる場合、自動的に振動を最小限に抑え、かつ、最適化された振動特性、および、そのような振動特性により最適化された加工を自動的に達成することが可能である。
【0011】
本発明方法は、以下のように使用することができる。
工作機械の従動軸の駆動部を作動させた後、かつ、所望の目標回転速度(手作業でまたは処理プログラムによって定義することができる)になった後、ユーザーによって、または、処理プログラムによって自動的に選択された目標回転速度辺りの所定の回転速度の範囲内で、従動軸を回転させる。これは、所定の量だけ目標回転速度よりも高いまたは低い回転速度の範囲内で回転させることを意味する。この所定の量により、従動軸の回転速度を目標回転速度に対して増減させる。本発明の方法は、目標回転速度に基づいて同一の回転速度量を増減させることに限定されないことは明らかである。すなわち、一方向にのみ、すなわち、回転速度を増大することによってのみ、または、回転速度を減少させることによってのみ、振動の最適化を行うことも可能である。これは、選択される処理パラメータならびに他の条件に左右される。また、異なる値で回転速度の範囲を増減させることも可能である。
【0012】
本発明によって行われるような回転速度の変更中に、個々に発生する振動の程度が検出される。ここでは、回転速度の範囲内で、連続的にまたは段階的に回転させることができる。
【0013】
発生する振動は、工作機械の制御装置において、または、他の適切な装置において検出されて、個々の回転速度について比較される。それによって、回転速度または回転速度の範囲を決定することが可能であり、その中で、最も有益な振動値または最も有益な振動特性が得られる。この回転速度または回転速度の範囲に基づいて、工作物の加工を最適な状態で行なうことができる。
【0014】
本発明の方法によれば、回転速度の範囲内で従動軸を回転させ、かつ、発生中の振動について自動的に検査されることから、共鳴振動を避けたり、または、最善な状態で共鳴振動を自動的に抑制することが可能である。
【0015】
本発明の方法は、回転速度の増減時における回転速度の範囲が大きいほど、結果が良好となることが明らかである。同じことが切削パラメータ、工作物形状および/または工具形状によって予め定義されることから、本発明の方法においては、極めて異なる工作物、工具、および処理パラメータについても、振動の自動最適化を効果的に達成できる。したがって、本発明によれば、例えば、工作物の形状によって機械加工条件を変更する場合に、加工工程を中断して、もう一度振動を最適化する工程を行うことも可能である。
【0016】
本発明においては、例えば、共鳴振動が発生し得る、モーターまたはベアリングの内部加熱による熱的特性および熱変質を補うために、特定の時間間隔で本発明の方法を繰り返すことはさらに有利であろう。このような状況においては、工作機械の熱負荷に関して静的条件が得られた場合に限り、本発明の方法を実行することが望ましい。
【0017】
本発明の方法は、好適なセンサー、例えば、加速度センサーによって実行することができる。加速度センサーを、例えば、工作機械の従動軸の領域内において、従動軸の動作軸線内で可動である構成部品に取り付けることができる。例えば、ツールスピンドルのベアリング・ハウジングにこのセンサーを取り付けることも可能である。
【0018】
本発明のさらに好適な実施形態においては、工作機械の個々の構成部品の動作(x軸、y軸およびz軸に沿った動作)を制御する役目も果たす、工作機械の少なくとも1つの位置センサーを使用する。工作機械、特に、マシニングセンタにおいて使用される工作機械は、一般的に、工具と工作物との間の相対的動作を実現するために複数の動作軸線を含む。このような軸線に沿った動作は制御されて行われる。個々の軸線の動作位置を検出するために、測定センサー、例えば、線形軸線の場合、ガラス製ヤード尺を設置する。それぞれの動作軸線での実際の位置は、これらの測定センサーによって検出される。工作機械は、個々の軸線の実際の位置と目標位置との差を補正することによって、それぞれの軸線を所望の目標位置に移動させる。
【0019】
本発明の方法において、発生する振動を検出して振動の最適化を行うためには、工作機械の動作軸線において1つまたはそれ以上の測定センサーの信号を利用することが特に容易なことである。この方法によって、振動、特に、工具または工作物を担持する従動軸の振動を検出することができる。そのため、このような振動は、測定センサーによって検出することができる。このような状況において、例えば、位置信号の小さな偏りが生じる。また、振動の程度によっては、位置信号の偏りは相応に変化する。本発明の方法における最適化は、特に、工作機械の動作軸線に沿って他の動作が実行されない場合に可能であることが明らかである。
【0020】
本発明においては、他の複数のセンサーを設置することは不要である。むしろ、既設の測定センサーを本発明の方法に対して使用することができる。その結果、大幅なコスト削減が実現できる。
【0021】
工作物の特定の加工工程において、工作物または工具の回転速度は、例えば、工具の歯、すなわち工具の切刃に対する特定の切り込みを実現するために、それぞれの動作軸線または切り込み軸線の送り速度に正確に調整される。したがって、本発明の方法を用いることによる回転速度の変更は、結果的に、動作軸線の送り速度も変化させる。本発明のさらなる好適な実施例においては、振動を最適化するために回転速度を変更すると、直ちに送り速度も自動的に変更されて加工工程が調整される。
【0022】
工作機械の個々の動作軸線は、発生する振動によって受ける影響が異なることから、振動の程度を分析するために複数の、すなわち、2つ以上の測定センサーを含むことは本発明方法にとって有利であろう。門形フライス盤の場合、例えば、スピンドルを移動させる垂直動作軸線および上部水平動作軸線は、振動によって影響を受ける。したがって、2つの割り当てられた測定センサーの信号は、特に、発生する振動を検出するように適合される。したがって、門形機械の場合、両方の信号(水平動作軸線および垂直動作軸線)を考慮することが望ましい。ツールスピンドルの一部のタイプにおいては、振動特性が変化する場合がある。振動特性は、回転速度および他のパラメータによって、垂直方向または半径方向においてより顕著になることもある。これは、測定値の記録にも影響を与える。これらの影響を与える要因も、本発明の方法を用いることによって最適化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下において、図面と組み合わせて実施形態に基づいて本発明を説明する。
図1は、横材12を有する門11に取り付けられる工作台10を含む工作機械を示す。
門11によって形成された作業スペース13においては、スライド・キャリッジ14を水平動作軸線に沿って移動させることができる。横送り台15は、横材12に対して別の水平軸線に沿って移動させることができる。横送り台15は、スピンドル17が支持される垂直キャリッジ16を担持し、スピンドルは、工具18が取り付けられている端部にて回転可能なシャフトを形成する。スライド・キャリッジ14における工具の固定を示す説明図は、簡易化のために省略している。工作機械の基本的な構造は、従来技術により周知であるため、ここではさらなる説明を省略する。
【0024】
図示する実施形態においては、センサー1は、スピンドル17のハウジングに取り付けられており、このセンサーは、スピンドル17の振動を検出する役目を果たす。
符号2は、横送り台15の水平動作を検出、かつ、横送り台15を制御するために、横材12に設置される測定センサーを示す。したがって、発生中の振動は、測定センサー2の位置信号の変化によって、例えば、直接、振動として、または、少なくとも増幅された異音として、直接検出される。
【0025】
図2は、スピンドル17の回転速度nに基づく振動(振幅)Aを示す。本発明によれば、スピンドル17は、当初、回転速度nSOLLに設定される。その後、所定値だけ回転速度を増減させる。増減の限界値は、それぞれ、値nMAXまたはnMINによって示されている。図2から導出することができるように、振動振幅の勾配は、回転速度の範囲全体にわたって生じる。この範囲には、回転速度nOPTIMALにて最小値を含む。これは、本発明の方法で調整され、かつ、最適化された振動特性が存在する最適回転速度値である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】工作機械を示す単純化された正面斜視図。
【図2】回転速度による振動振幅を示すグラフ。
【符号の説明】
【0027】
1:センサー
2:測定センサー
10:工作台
11:門
12:横材
13:作業スペース
14:スライド・キャリッジ
15:横送り台
16:垂直キャリッジ
17:スピンドル
18:工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の従動軸(17)を回転させ、さらに該従動軸を回転速度の範囲内で回転させて、該工作機械の振動を最適化する方法であって、該回転速度の範囲内で発生する振動を検出し、該振動が最小限に抑えられる最適回転速度を決定かつ調整する方法。
【請求項2】
前記従動軸(17)を目標回転速度で回転させ、該目標回転速度を少なくとも1つの所定値によって増減させ、該目標回転速度よりも高いおよび/または低い前記回転速度の範囲内で発生する振動を検出し、振動が最小限に抑えられる最適回転速度を決定かつ調整する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記より高いまたは低い回転速度を有する回転速度の範囲内で連続的に回転させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記より高いまたは低い回転速度を有する回転速度の範囲内で段階的に回転させることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項5】
前記処理中断時に所定の間隔で繰り返されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記振動を測定するために、少なくとも1つの付加的なセンサー(1)が使用されることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記振動を測定するために、少なくとも1つの測定センサー(2)が使用されることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記工作機械の動作軸線の少なくとも切り込み運動が、前記変更された最適回転速度に適合されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記回転速度の測定が、前記振動の振幅の測定として行われることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記回転速度の測定が、前記測定センサーの信号変化の測定として行われることを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
所定の時間周期で繰り返されることを特徴とする、請求項1から10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
工作物の加工パラメータの変更時に繰り返されることを特徴とする、請求項1から11のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2008−540146(P2008−540146A)
【公表日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511572(P2008−511572)
【出願日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際出願番号】PCT/EP2006/003135
【国際公開番号】WO2006/122611
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(506081563)ペー ウント エル ゲーエムベーハー ウント コー.カーゲー (7)
【氏名又は名称原語表記】P + L GMBH & CO.KG
【Fターム(参考)】