説明

工場プレカットALCパネルの製造方法

【課題】建築現場の要求品質を充分に満足しつつ、生産効率の高い工場プレカットALCパネルを提供する。
【解決手段】補強用鉄筋マットを作製後、開口形成部を通過する鉄筋がなくなるように、開口形成部に位置する縦筋(1)または横筋(2)を切断して、欠損部を形成し、その後、鉄筋マットを型枠に配置して、ALCスラリーをキャスティングし、オートクレーブ処理後のALCパネルの開口形成部に、ALCパネルの一方の主面から開口の輪郭の内側に沿って、他方の主面より任意距離だけALCの厚さ方向の一部を残す区間(4)と、他方の主面に達してALCを残さない区間(5)とを、交互に設けるように、線状に切削ないしは掘削し、その後、ALCの一部が残る側から、輪郭内に残るブロック状のALCを叩くことにより除去し、輪郭の内側に生じたバリを処理して仕上げることにより、開口を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ALCパネルの製造方法に関し、特に、生産工場において、ALCパネルに小型の設備開口部などの開口を予め事後加工する、ALCパネルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軽量気泡コンクリート(以下、「ALC」と略す)パネルは、曲げ強度などの許容荷重を発現するために、その内部に補強用鉄筋マットを埋設している。補強用鉄筋マットは、一般的にはφ5.5mm程度の鉄線を格子状に配置し、格子点をスポット溶接して、網状に成形して得られる。帳壁や床材であるALCパネルには、帳壁が受ける正圧と負圧の両方で必要な風荷重や、床が受ける仕上げ積載荷重に耐えるように、正圧受け用の補強用鉄筋マットと負圧受け用の補強用鉄筋マットが、ALCパネルの厚さ方向に離されて平行に、それぞれ1枚ずつ、埋設されている。
【0003】
一般的なALCパネルの製造方法においては、補強用鉄筋マットを複数枚、鉄製の型枠の中に配置した後、珪石、セメント、および、発泡剤のアルミ粉末などが所定配合量で調整されたALCスラリーを、前述の型枠の中に注入して、硬化養生させる。その後、硬化養生して半可塑性状態になったALCをピアノ線で押し切るなどして、パネル状に成形し、オートクレーブを使用して高温高圧蒸気養生する。オートクレーブ処理された後、建築施工時に必要な本実のオスおよびメスなどの形状を得るため、さらに、寸法精度の向上を行うために、専用加工機で長辺小口部を成形して、製品に仕上げている。
【0004】
このように製造されたALCパネルは、一般的に鉄骨造の外壁や間仕切壁、および、屋根材や床材として使用されているが、使用方法としては、梁−梁間や柱−柱間にALCパネルを渡し、両端2線支持の帳壁とする。その際に、帳壁が受ける風荷重や床に必要な仕上げ積載荷重は、埋設されている補強用鉄筋マットの鉄筋径や本数を設計することによりALCパネルの許容荷重を高めて、満足させる。
【0005】
以上のとおり、一般的なALCパネルは、必要な許容荷重を得られるように、必要最小限の鉄筋径や本数を選定するので、補強用鉄筋を欠損するような事後加工を施すと、必要な強度を得られなくなることが多い。
【0006】
一方、例えば建物の外壁には、クーラースリーブ等の小型の設備開口部や、窓などの大型の開口部が必要である。窓などの大型の開口部には、風荷重に対して充分な強度を有した部材寸法のアングル鋼材などを使用して、開口補強用鋼材を組み、開口補強用鋼材を梁や柱などの構造躯体に、溶接固着する方法で施工する。そのため、ALCパネルの開口部に風荷重を余分に負担させたり、ALCパネルを欠損させて開口部を設けたりすることがないので、帳壁としての要求性能は満足されている。
【0007】
しかし、例えばφ250mm以下程度のクーラースリーブ等の小型の設備開口部は、ALCパネルに事後加工する場合が多く、その際、加工位置や寸法によっては、前述のように設計されたALCパネル内の補強用鉄筋を欠損させることになり、帳壁に必要な風荷重を満足する許容荷重が得られなくなる場合があり、建物の性能上、問題が生ずる。
【0008】
このような問題に対して、事後加工部分を鋼材で事後補強したり、事後加工する位置に対し、事後加工の欠損を見込んで、より高い許容荷重を設定したALCパネルを施工するなどの対応が採られることがある。
【0009】
しかし、鋼材で事後補強しては、鋼材費用や手間がかかる上、納まりの点で耐震性能であるロッキング構造に問題を生じさせたり、建物の内装との関係などで納まりきらない場合もあるという問題がある。また、より高い許容荷重をALCパネルに設定する場合でも、より多く入った補強用鉄筋に対して事後加工する手間が、非常にかかる上、施工誤差などで事後加工する位置を誤った場合、必要な鉄筋を欠損する懸念がある。
【0010】
建築現場における事後加工に代えて、ALCパネル割図などにおいて、設備開口部が予め明確になっている場合に、ALCパネルの生産工場にて、補強用鉄筋の欠損を見込んだ鉄筋マットの設計をし、ALCパネルに工場プレカットを施すことが考えられる。これにより、建築現場で余分な補強鋼材を使用することなく、また、内装などの制限を気にすることなく、さらに、建築現場での事後加工をする手間が省かれる。この場合には、高い施工性を確保しつつ、建物としての耐震性能を満足させ、帳壁が受ける風荷重や、床に必要な仕上げ積載荷重などを満足することができるので、高性能の建物を施工できると考えられる。
【0011】
しかしながら、ALCパネルは、前述のように大量生産されるため、プレキャストコンクリート版のように、任意位置にプレカットし、型枠内でキャスティングすることが困難である。また、オートクレーブ処理によりALCパネルとなった状態で、建築現場と同様にコアドリルなどを使用して、補強用鉄筋マットごとに事後加工するには、加工労力が、非常に多く必要であるという問題と、窯業系材料であるALCパネルが欠け易いことから、事後加工により生産歩留まりが悪化するという問題などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−181936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、建築現場の要求品質を充分に満足しつつ、生産効率の高い工場プレカットALCパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、内部に補強用鉄筋が配され、厚さ方向に貫通する任意形状の開口が設けられた工場プレカットALCパネルの製造方法に係る。
【0015】
特に、本発明では、前記開口を形成する際に、補強用鉄筋の一部に欠損部が発生する場合において、補強用鉄筋マットを作製後、前記開口形成部を通過する鉄筋がなくなるように、該開口形成部に位置する鉄筋を切断して、前記欠損部を形成し、その後、該鉄筋マットを型枠に配置して、ALCスラリーをキャスティングし、オートクレーブ処理後の該ALCパネルの前記開口形成部に前記開口を設けることを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、該ALCパネルの一方の主面から前記開口の輪郭の内側に沿って、他方の主面より任意距離だけALCの厚さ方向の一部を残す区間と、他方の主面に達してALCを残さない区間とを、交互に設けるように、線状に切削ないしは掘削し、その後、前記ALCの一部が残る側から、該輪郭内に残るブロック状のALCを叩くことにより除去し、該輪郭の内側に生じたバリを処理して仕上げることを特徴とする。
【0017】
本発明のALCパネルは、上記の製造方法により得られ、内部に補強用鉄筋が配され、厚さ方向に貫通する任意形状の開口とを備え、該開口が形成される部分に、縦筋および横筋が配置されていないことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の工場プレカットALCパネルの製造方法により、事後加工によりALCパネルに小型の設備開口部などの開口を容易に形成することが可能となる。また、事後加工によってALCパネルに欠けが生ずることが抑制でき、生産効率を高めることが可能となる。さらに、生産工場において、開口を形成する事後加工が予めなされたALCパネルを、事後加工後も許容荷重を満足する状態で生産でき、建築現場において高い施工性を確保しつつ、高性能の建物を施工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の工場プレカットALCパネルの製造方法の一実施例を示す一部破断斜視図である。
【図2】図1の工場プレカットALCパネルの仕上がりを示す斜視図である。
【図3】本発明の工場プレカットALCパネルの異なる実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明を説明する。図1に、本発明の工場プレカットALCパネルの製造方法の一実施例を、一部破断斜視図で示す。図2に、図1の工場プレカットALCパネルの仕上がりを斜視図で示す。
【0021】
本発明は、ALCパネルの厚さ方向に、任意形状の開口を設ける工場プレカットALCパネルの製造方法に係る。
【0022】
建築現場では、ALCパネルに対して必要な加工寸法および許容荷重が設定され、それを基に、ALCパネルの加工図が発行される。
【0023】
ALCパネルの生産工場では、届けられたALCパネルの加工図に基づき、ALCパネルの許容荷重を満足するように、欠損部を考慮した補強用鉄筋マットを設計する。
【0024】
前記開口が形成される開口形成部において、事後加工により補強用鉄筋マットに欠損部が生じないようにすることが好ましい。このため、まず、このような欠損部を避けるように補強用鉄筋マットを作製できないか、設計段階で、鉄筋径や本数を検討し、可能であれば、補強用鉄筋の位置をずらした補強用鉄筋マットを、スポット溶接機で作製する。
【0025】
しかしながら、スポット溶接機の構造上の問題などで、ALCパネルに前記開口形成部を設けるために、補強用鉄筋マットに欠損部が生ずることを避けられない場合がある。この場合、かかる欠損量を見込んで、余分に鉄筋本数が多い補強用鉄筋マットを作製する。
【0026】
本発明では、ALCパネルの製造後に開口を形成するのではなく、補強用鉄筋マットを作製後、開口形成部を通過する鉄筋がなくなるように、鉄筋カッターなどで該開口形成部に位置する鉄筋を切断して、欠損部を形成した後、欠損部を有する鉄筋マットを型枠に配置して、ALCスラリーをキャスティングする。
【0027】
ALCパネルの製造後において、ALCと補強用鉄筋を一緒に事後切断することは、鉄筋コンクリート外壁ほどではないとしても、非常に手間である上、ALCと補強用鉄筋を同時に切断可能な加工装置を用いた場合、切削装置の切削刃がパネルを抜ける際に、窯業系材料であるALCが欠けてしまい、歩留まりが悪くなる傾向にある。
【0028】
しかしながら、本発明では、開口形成部を通過する鉄筋がないため、オートクレーブ処理後の事後加工部分は、加工性に優れたALCだけとなるため、ALCを切削ないしは掘削できる種々の切削装置を用いることが可能となり、作業性の上でも、生産性の上でも、都合がよくなる。
【0029】
ALCパネルにおいて、曲げ強度などの許容荷重は、長手方向に伸長する縦筋(1)により確保される。従って、複数本の縦筋(1)が幅方向にわたって配されることになり、開口形成部を回避しやすい横筋(2)と異なり、開口形成部を回避し得ず、プレカットにより欠損部を生じさせやすい。縦筋(1)は、一般的にはφ5.5mm程度の鉄線を使用することが多いため、欠損部をプレカットしたままで、欠損部側の先端が自由状態にあると、他部分の鉄線が曲がりやすくなり、ALCスラリーをキャスティングする時などの生産過程でぶれるなどという位置精度上の問題が生ずる。
【0030】
そこで、本発明では、縦筋(1)の欠損部側先端ないしはその近傍において、横筋(2)を幅方向にわたるように配置して、スポット溶接し、縦筋(1)の欠損部の周囲を補強することが望ましい。
【0031】
以上のように、本発明では、開口形成部に鉄筋を配していないため、事後加工によりALCパネルに小型の設備開口部などの開口を容易に形成することが可能となる。また、ALCのみを切削可能な切削装置を用いることができ、事後加工によってALCパネルに欠けが生ずることが抑制できる。さらに、鉄筋マットに欠損部が生ずる場合でも、予め欠損を考慮して鉄筋が配置されており、事後加工後においても許容荷重を満足するALCパネルを提供することができる。
【0032】
本発明において、ALCパネルの一方の主面から前記開口の輪郭の内側に沿って、他方の主面より任意距離だけALCの厚さ方向の一部を残す区間と、他方の主面に達してALCを残さない区間とを、交互に設けるように、線状に切削ないしは掘削し、その後、ALCの一部が残る側から、該輪郭内に残るブロック状のALCを叩くことにより除去し、該輪郭の内側に生じたバリを処理して仕上げることが好ましい。
【0033】
本発明では、オートクレーブ処理されたALCパネルをプレカットする際、開口形成部において補強用鉄筋が事前にカットされていることから、加工性は数段向上している。しかしながら、ALCは、加工性が優れている反面、窯業系材料であり、欠けやすいため、切削装置、例えば、コアドリルなどのカッターを使用した加工では、カッターの刃がALCパネルを抜ける際に、開口周縁において抜けぎわのALCが欠ける場合がある。
【0034】
そこで、本発明では、好ましくは、ALCパネルの表面を切削して、タイル模様などのデザインを施すのに使用される汎用的なNC加工機を利用して、ニードル型のカッターを使い、開口の輪郭の内周を線状に掘削するようにする。ただし、この際、掘り進む側(3)から反対側まで、NC加工機で内周を切削し切ってしまうと、コアドリルほどではないとしても、ブロック状のALCが抜け落ちる時に、開口周縁において抜けぎわのALCが欠ける可能性が残る。
【0035】
このため、NC加工機を制御して、厚さ70〜150mmの通常のALCパネルの場合、3〜10mm程度の厚みだけALCの一部を残す区間(4)とALCを残さない区間(5)とを、切り取り線のように連続させて、開口の輪郭内にあるブロック状のALCがNC加工機で抜け落ちてしまわないようにする。
【0036】
その後、ALCパネルを裏返し、開口部に残るブロック状のALCを、ハンマーなどで軽く叩いて除去する。開口周縁に残されていたALCの一部は、バリとして開口内方に突き出た状態で残る。このようなバリは、厚さが小さいことから、サンドペーパーなどで簡単に擦り落とせるので、仕上げにバリをなぞり取ってやれば、ALCパネル本体を欠くことなく、エッジがシャープな開口部が完成する。
【0037】
NC加工機は、数値制御により、少なくとも、X方向(長さ方向)、Y方向(幅方向)、およびZ方向(厚さ方向)に、自在にカッター部が移動する設備であるため、ALCパネルの任意位置に、前述のような切削ないしは掘削を行うことができる。
【0038】
本発明では、図3に示すように、ALCパネルの許容荷重が充分に満たされるのであれば、複数連続した丸穴開口も、精度よく加工することが可能である。さらに、コアドリルでは加工できない角穴の開口も、寸法精度良く、エッジをシャープに加工することが可能となる。
【符号の説明】
【0039】
1 縦筋
2 横筋
3 掘り進む側
4 ALCの厚さ方向一部を残す区間
5 ALCを残さない区間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に補強用鉄筋が配され、厚さ方向に貫通する任意形状の開口が設けられた工場プレカットALCパネルの製造方法であって、前記開口を形成する際に、補強用鉄筋の一部に欠損部が発生する場合において、補強用鉄筋マットを作製後、前記開口形成部を通過する鉄筋がなくなるように、該開口形成部に位置する鉄筋を切断して、前記欠損部を形成し、その後、該鉄筋マットを型枠に配置して、ALCスラリーをキャスティングし、オートクレーブ処理後のALCパネルの開口形成部に開口を設ける、工場プレカットALCパネルの製造方法。
【請求項2】
ALCパネルの厚さ方向に、任意形状の開口を設ける工場プレカットALCパネルの製造方法であり、該ALCパネルの一方の主面から前記開口の輪郭の内側に沿って、他方の主面より任意距離だけALCの厚さ方向の一部を残す区間と、他方の主面に達してALCを残さない区間とを、交互に設けるように、線状に切削ないしは掘削し、その後、前記ALCの一部が残る側から、該輪郭内に残るブロック状のALCを叩くことにより除去し、該輪郭の内側に生じたバリを処理して仕上げる、工場プレカットALCパネルの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の製造方法により得られ、内部に補強用鉄筋が配され、厚さ方向に貫通する任意形状の開口とを備え、該開口が形成されている部分には、縦筋および横筋が配置されていない、工場プレカットALCパネル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−162762(P2010−162762A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6835(P2009−6835)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(399117730)住友金属鉱山シポレックス株式会社 (195)
【Fターム(参考)】