説明

工業用ポリエステル繊維の製造方法

【課題】本発明の課題は、破断紡糸速度が高く高生産性が可能であり、毛羽発生が少なく、高強度、低荷伸(高弾性率、高モジュラス)、強伸度等の物性のバラツキが小さく、低乾熱収縮率のポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。
【解決手段】本発明の課題は、ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)からなる破断強度が4.0cN/dtex以上のポリエステル繊維の製造方法であって、
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が11%以上であり、
エチレングリコール中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が80%以上100%以下のエチレングリコールを原料として用いて製造することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法により解決する事ができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は産業資材等、特に繊維・高分子複合体などの補強用繊維として有用な、高強力、高寸法安定性、高耐熱性のポリエステル繊維及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維は高強度、高ヤング率、耐熱寸法安定性等の多くの優れた特性を有するため、衣料用あるいは産業用など幅広い分野に使用されている。中でも産業資材の内、特に繊維・高分子複合体などの補強用繊維は、高強力、高耐熱性が要求されており、これまで様々な手法による改質が提案・開発されてきた。
【0003】
例えば、ポリエステルに架橋成分を添加し、耐熱性を向上させる例(例えば、特許文献1参照。)や、ポリエステル繊維を補強するための無機粒子を添加する例(例えば、特許文献2参照。)が開示されている。しかし、このようなポリエステルの結晶構造を乱すような共重合成分、無機粒子を添加した場合、耐熱性や強度改善の効果が見られるものの、一般に製糸工程において毛羽が大量に発生する、断糸が多発するなどの工程特性に欠点が存在し、別なアプローチによる繊維の高性能化が求められていた。またその製糸性の不良に対応し、得られる繊維物性にばらつき等が発生しており、さらなる高性能なポリエステル繊維の開発が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−260804号公報
【特許文献2】特開2005−213689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記のようなポリエステル繊維に求められる性能に関する背景を踏まえて、破断紡糸速度が高く高生産性が可能であり、製糸性が良好で毛羽発生が少なく、高強度、低荷伸(高弾性率、高モジュラス)、強度・伸度・荷伸等の物性のバラツキが小さく、乾熱収縮率が小さいポリエステル繊維の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記従来技術が有していた問題点を解消する為、ポリエステルの改質について鋭意検討を重ねた結果、ポリエステルを構成するジオール成分としてバイオマス資源から製造されたエチレングリコール(以下、バイオマスエチレングリコールと記載することがある)を用いることによって、従来公知のポリエステル繊維の製造方法と比較し、高強力、高寸法安定性、高耐熱性のポリエステル繊維を工程安定性良く、生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の課題は、ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)からなる破断強度が4.0cN/dtex以上のポリエステル繊維の製造方法であって、
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が11%以上であり、
エチレングリコール中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が80%以上100%以下のエチレングリコールを原料として用いて製造することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法により解決する事ができる。以下、ある有機化合物中の全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)としたときに、現時点でのその有機化合物に含まれる14C濃度比率をその有機化合物の「バイオ化率」と称する。この濃度比率の測定原理・測定手法については後述する。また好ましくは固有粘度が0.50〜1.00dL/gであるポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)からなる繊維であることが好ましい。またポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)がポリエチレンテレフタレート(PET)又はポリエチレンナフタレート(PEN)若しくはポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることが好ましい。更にはまたポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)がバイオ化率16%以上のポリエチレンテレフタレート(PET)又はバイオ化率11%以上のポリエチレンナフタレート(PEN)であることがより好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バイオマスエチレングリコールの使用により、繊維製造工程において高強力、高寸法安定性、高耐熱性であり、物性バラツキや毛羽発生の少ないポリエステル繊維を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のポリエステル繊維に用いられるポリエステルポリマーとしては、ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)からなるものであり、産業資材等、特にタイヤコードや伝動ベルトなどのゴム補強用繊維として優れた特性を有する汎用的なポリエステルポリマーが用いられる。中でも、ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)の主たる繰り返し単位がエチレンテレフタレート及びエチレン−2,6−ナフタレートからなる群から選択されたいずれか1種のものであることが好ましく、とりわけ物性に優れ、大量生産に適したポリエチレンテレフタレートからなることが好ましい。ポリエステルの主たる繰返し単位としては、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対して、その繰り返し単位が80モル%以上含有されていることが好ましい。特には90モル%以上含むポリエステルであることが好ましい。またポリエステルポリマー中に少量であれば、適当な第3成分を含む共重合体であっても差し支えない。
【0010】
例えば、本発明で用いられるポリエステルポリマーとしては、テレフタル酸あるいはナフタレン−2,6−ジカルボン酸またはその機能的誘導体及びジヒドロキシ化合物を触媒の存在下で、適当な反応条件の下に重合することができる。また、ポリエステルの重合完結前に、適当な1種または2種以上の第3成分を添加すれば、共重合ポリエステルが合成される。ここで「機能的誘導体」とは、エステル結合を形成するのに有効な官能基のことであり、カルボン酸の炭素数1〜6個の低級アルキルエステル、炭素数6〜8個の低級アリールエステル、カルボン酸の酸ハライド等の官能基を表す。後述する「エステル形成官能基」もこれと同じ種類の官能基を表す。
【0011】
適当な第3成分としては、(a)2個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸;シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸;ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、3,5−ジカルボキシベンゼンスルホン酸ナトリウムなどの芳香環とカルボン酸基以外に酸素原子等を含むジカルボン酸;グリコール酸、p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸などのオキシカルボン酸;1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ジエチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチレングリコール、p−キシリレングリコール(1,4−ビス(ヒドロキシメチル)ベンゼン)、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、p,p′−ジフェノキシスルホン、1,4−ビス(β―ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、2,2−ビス(p−β−ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、ポリアルキレングリコール、p−フェニレンビス(ヒドロキシジメチルシクロヘキサン)などのオキシ化合物、あるいはその機能的誘導体;前記カルボン酸類、オキシカルボン酸類、オキシ化合物類またはその機能的誘導体から誘導される高重合度化合物などや、(b)1個のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、安息香酸、ベンゾイル安息香酸、ベンジルオキシ安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどが挙げられる。さらに(c)3個以上のエステル形成官能基を有する化合物、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン、トリカルバリル酸、トリメシン酸、トリメリット酸なども、重合体が実質的に線状である範囲内で使用可能である。
【0012】
本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルのバイオ化率11%以上であることを特徴とする。バイオ化率が低い場合、後述するポリエステル繊維の製造工程における、毛羽・断糸の低減の効果が発揮されない。ポリエステルがポリエチレンテレフタレートである場合、ポリエステル繊維のバイオ化率は好ましくは18%以上である。またポリエステルがポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートである場合、ポリエステルのバイオ化率は好ましくは12%以上である。
【0013】
本発明において、バイオ化率11%以上とは後述するように、構成全炭素量に対する放射性炭素である14Cの濃度を測定し、その14Cの濃度が基準となる物質の濃度である107.44pMCの場合をバイオ化率100%として、その基準濃度(107.44pMC)に対する比率が11%で以上であることを表す。またバイオマスエチレングリコールとはバイオマス資源から製造したエチレングリコールであり、後述の手法にて測定して得られたバイオ化率の値が80%以上100%以下のエチレングリコールのことを指す。ここでバイオマス資源とは太陽エネルギーを使い、水と二酸化炭素から生成される再生可能な生物由来のカーボンニュートラルな有機性資源を指し、化石資源を除く資源のことを指す。
【0014】
本発明にバイオマス資源はその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、リグニン、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油など)、グリセロール、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、キャッサバなど)、バガス、テルペン系化合物、パルプ黒液、生ごみ、排水汚泥などが挙げられる。また、バイオマス資源からグリコール化合物を製造する方法は、特に限定はされないが、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー若しくは光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、又は微細化、圧縮、マイクロ波処理若しくは電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。
【0015】
バイオマス資源からエチレングリコールに変換する方法としては、種々の製造方法を挙げることができる。その製造方法は特に限定されないが、まずバイオマス資源から菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギー若しくは光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、又は微細化、圧縮、マイクロ波処理若しくは電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法を行う。次にこれらの製造方法により得られた生成物に対して、さらに触媒を用いて水素加熱分解反応を行い精製する方法が挙げられる。また別の1つの製造方法として、サトウキビ、バガス、炭水化物系作物などから生物学処理方法によりエタノールを製造し、更に、エチレンオキサイドを経て、精製する方法が挙げられる。このような手法により製造され、更に蒸留操作等により精製する方法も採用する事ができる。
【0016】
或いは別の方法としてバイオマス資源から、グリセロール、ソルビトール、キシリトール、グルコール、フルクトース又はセルロースなどに変換し、さらに触媒を用いて水素化熱分解反応により、エチレングリコールと1,2−プロパンジオールの混合物を生成する。又はサトウキビ、バガス、炭水化物系作物などから生物学処理方法によりエタノールを製造し、更に、エチレンオキサイドを経て、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールの混合物を生成する方法などが挙げられる。
【0017】
本発明においてバイオ化率とはエチレングリコール、ポリエステルを構成する全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の放射性炭素である14C濃度を基準(この値を100%と設定する)とした場合の14C濃度の比率を表す。その放射性炭素である14Cの濃度は以下の測定方法(放射性炭素濃度測定)により測定する事ができる。すなわち14Cの濃度測定は、タンデム加速器と質量分析計を組み合わせた加速器質量分析法(AMS:Accelerator Mass Spectrometry)によって、分析する試料に含まれる炭素の同位体(具体的には12C、13C、14Cが挙げられる。)を加速器により原子の重量差を利用して物理的に分離し、同位体の原子一つ一つの存在量を計測する方法である。
【0018】
炭素原子1モル(6.02×1023個)中には、通常の炭素原子の約一兆分の一である約6.02×1011個の14Cが存在する。14Cは放射性同位体と呼ばれ、その半減期は5730年で規則的に減少している。これらが全て崩壊するには22.6万年を要する。従って大気中の二酸化炭素等が植物等に取り込まれて固定化された後、22.6万年以上が経過したと考えられる石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては、固定化当初はこれらの中にも含まれていた14C元素は全てが崩壊している。故に、21世紀である現在は石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料においては14C元素は全く含まれていない。故にこれらの化石燃料を原料として生産された化学物質にも14C元素は全く含まれていない。一方、14Cは宇宙線が大気中で原子核反応を行い、絶え間なく生成され、放射壊変による減少とがバランスし、地球の大気環境中では、14Cの量は一定量となっている。
【0019】
一方、大気中の二酸化炭素が植物やそれを食する動物などに取り込まれて固定化された場合には、その取り込まれた状態では、14Cは新たに補充されることなく、14Cの半減期に従って、時間の経過とともに14C濃度は一定の割合で低下する。このため、グリコール化合物中の14C濃度を分析することにより、化石資源を原料としたものか、或いはバイオマス資源を原料にしたグリコール化合物かを簡易に判別することが可能となる。またこの14C濃度は1950年時点の自然界における循環炭素中の14C濃度をmodern standard referenceとし、この14C濃度を100%とする基準を用いる事が通常行われる。現在のこのようにして測定される14C濃度は約110pMC(percent Modern Carbon)前後の値であり、仮に試料として用いられているプラスチック等が100%天然系(生物系)由来の物質で製造されたものであれば、110pMC程度の値を示すことが知られている。この値が上述に言うバイオ化率100%に相当する。一方石油系(化石系)由来の物質を用いてこの14C濃度を測定した場合、ほぼ0pMCを示す。この値が上述に言うバイオ化率0%に相当する。これらの値を利用して天然由来系−化石由来系の混合比を算出する事が出来る様になる。更にこの14C濃度の基準となるmodern standard referenceとしてはNIST(National Institute of Standards and Technology:米国国立標準・技術研究所)が発行した蓚酸標準体を用いる事が好ましく採用する事が出来る。この蓚酸中の炭素の比放射能(炭素1g当たりの14Cの放射能強度)を炭素同位体毎に分別し、13Cについて一定値に補正して、西暦1950年から測定日までの減衰補正を施した値を標準の14C濃度濃度の値として用いている。
【0020】
グリコール化合物中の14C濃度の分析方法は、まずグリコール化合物の前処理が必要となる。具体的にはグリコール化合物に含まれる炭素を酸化処理し、すべて二酸化炭素へと変換する。更に、得られた二酸化炭素を水や窒素と分離し、二酸化炭素を還元処理し、固形炭素であるグラファイトへと変換する。この得られたグラファイトにCsなどの陽イオンを照射して炭素の負イオンを生成させる。引き続いて、タンデム加速器を用いて炭素イオンを加速し、負イオンから陽イオンへ荷電変換させ、質量分析電磁石により123+133+143+の進行する軌道を分離し、143+は静電分析器により測定を行う。
【0021】
また、前記ポリエステル中には、各種の添加剤、たとえば二酸化チタンなどの艶消剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、蛍光増白剤、可塑剤、耐衝撃剤の添加剤、または補強剤としてモンモリナイト、ベントナイト、ヘクトライト、板状酸化鉄、板状炭酸カルシウム、板状ベーマイト、あるいはカーボンナノチューブなどの添加剤が含まれていても良いことはいうまでもない。
【0022】
より具体的に本発明で用いられるポリエステルポリマーの製造方法を述べると、従来公知のポリエステルポリマーの製造方法を挙げることができる。すなわち、酸成分として、テレフタル酸ジメチル(DMT)あるいはナフタレン−2,6−ジメチルカルボキシレート(NDC)に代表されるジカルボン酸のジアルキルエステルとジオール成分であるバイオマスエチレングリコールとでエステル交換反応させた後、この反応の生成物を減圧下で加熱して、余剰のジオール成分を除去しつつ重縮合反応させることによって製造することができる。あるいは、酸成分としてテレフタル酸(TA)あるいは2,6−ナフタレンジカルボン酸とジオール成分であるエチレングリコールとでエステル化させ、得られた反応生成物を同様に余剰のジオール成分を除去しつつ減圧下で重縮合反応させることによってもポリエステルを製造することができる。
【0023】
ポリエステルを構成するジオールすなわち、本発明のポリエステル繊維の製造に用いるバイオマスエチレングリコールのバイオ化率としては、80%以上100%以下であることが好ましい。バイオ化率が80%以下の場合、理論的に得られるポリエステルのバイオ化率の低減を引き起こし、後述するポリエステルの毛羽・断糸低減の効果が得られないため好ましくない。本発明のポリエステル繊維の製造方法に用いるバイオマスエチレングリコールのバイオ化率はさらに好ましくは90%以上である。
【0024】
更に本発明のポリエステルにおいては、上述したテレフタル酸又はテレフタル酸ジメチルとして、リサイクルされたテレフタル酸、又はリサイクルされたテレフタル酸ジメチルを原料として使用することが望ましい。近年の環境問題、化石燃料枯渇問題の対策として、リサイクルされたテレフタル酸ジメチルとバイオマスエチレングリコールによる環境負荷の軽減されたポリエステルの提供が可能となる。
【0025】
ここでリサイクルされたテレフタル酸ジメチルとは、例えばポリアルキレンテレフタレートを主たる成分とするポリエステルをエチレングリコール等のアルキレングリコールを用いて解重合工程により解重合を行い、生成したビス(2−ヒドロキシエチル)テレフタレート等にメタノール等のアルコールを添加しエステル交換反応を行い、生成したテレフタル酸ジアルキルエステルを精製することで得られた高純度のテレフタル酸ジアルキルエステルのことを表す。あるいは、ポリアルキレンテレフタレートを直接アルコール(ヒドロキシアルキル化合物)を用いて解重合工程により解重合反応を行い、得られるテレフタル酸ジアルキルエステルを用いても良い。これらの反応工程においてアルコールとしては、メタノールを用い、テレフタル酸ジアルキルエステルとしてはテレフタル酸ジメチルを得るような工程を採用することが好ましい。また、リサイクルされたテレフタル酸ジメチル等を用いるのは、市場に流通されているポリエステル製品を回収して用いること、テレフタル酸ジメチル以外の成分をも回収することを考慮すると、ポリアルキレンテレフタレートとしては製品として市場で生産・流通している量が多いポリエチレンテレフタレートを用い解重合に用いるアルキレングリコールとしてエチレングリコールを用いることが好ましい。またリサイクルされたテレフタル酸とはそのテレフタル酸ジメチルに対して加水分解反応を行い、精製して得られたテレフタル酸を指す。
【0026】
上記のテレフタル酸ジメチルをリサイクルする工程において、エステル交換反応を利用した方法の場合に用いるエステル交換触媒としては、特に限定はないが、一般的に用いられるマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛化合物を用いることができる。このような化合物としては、例えばマンガン、マグネシウム、チタン、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、コバルト、ナトリウム、リチウム、鉛の酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。中でも、ポリエステルの溶融安定性、色相、ポリマー不溶異物の少なさ、紡糸の安定性の観点から、マンガン、マグネシウム、亜鉛、チタン、コバルト化合物が好ましく、さらにマンガン、マグネシウム、亜鉛化合物が好ましい。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。
【0027】
また、このようにして得られた原料を用いてポリエステルを製造する際に用いる重合触媒については、アンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウム化合物が好ましい。このような化合物としては、例えばアンチモン、チタン、ゲルマニウム、アルミニウムの酸化物、酢酸塩、カルボン酸塩、水素化物、アルコラート、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩等を挙げることができる。また、これらの化合物は二種以上を併用してもよい。中でも、ポリエステルの重合活性、固相重合活性、溶融安定性、色相に優れ、かつ得られる繊維が高強度で、優れた製糸性、延伸性を有する点で、アンチモン化合物が特に好ましい。
【0028】
本発明には、ポリエステルを製造する任意の段階で、ポリエステルを構成する酸成分のモルに対して1〜500ミリモル%含むように、リン化合物を添加することができる。リン化合物としては、特に限定はないが、亜リン酸、リン酸、リン酸トリメチル、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、トリエチルホスホノアセテートなど、ポリエステルに使用される一般のリン化合物を挙げることが出来る。そのリン化合物の添加時期は、好ましくはポリエステルの製造工程において、エステル交換反応又はエステル化反応を開始当初から終了するまでであり、より好ましくはエステル交換反応又はエステル化反応を終了から重縮合反応工程の開始前である。
【0029】
このように重合された、本発明で用いられるポリエステルのポリマーは、紡糸直前のポリエステルチップの固有粘度としては、公知の溶融重合や固相重合を行うことによって、ポリエチレンテレフタレートでは0.80〜1.20dL/g、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.20dL/gの範囲とすることが好ましい。ポリエステルチップの固有粘度が低すぎる場合には溶融紡糸後の繊維を高強度化させることが困難となる。また固有粘度が高すぎると固相重合時間が大幅に増加し、生産効率が低下するため工業的観点等からも好ましくない。固有粘度としては、さらにはそれぞれポリエチレンテレフタレートでは0.90〜1.10dL/g、ポリエチレンナフタレートでは0.65〜1.00dL/gの範囲内であることが好ましい。なお後述する手法にてポリエステル繊維とした場合の固有粘度としては、ポリエチレンテレフタレートでは0.75〜1.15dL/g、ポリエチレンナフタレートでは0.60〜1.00dL/gの範囲内であることが好ましい。
【0030】
本発明のポリエステル繊維を製造するためには、このようにして得られたポリエステルポリマーを溶融紡糸することによって得ることができる。より具体的には得られたポリエステルポリマーを285〜335℃の温度にて溶融し、紡糸口金としてはキャピラリーを具備したものを用いて紡糸することができる。また、紡糸口金から吐出直後に溶融ポリマー温度以上の加熱紡糸筒を通過することが好ましい。加熱紡糸筒の長さとしては10〜500mmであることが好ましい。紡糸口金から吐出された直後のポリマーはすぐに配向しやすく、単糸切れを発生しやすいため、このように加熱紡糸筒をもちいて遅延冷却させることが好ましい。
【0031】
加熱紡糸筒を通過した紡出糸条は、次いで30℃以下の冷風を吹き付けて冷却することが好ましい。さらには25℃以下の冷風であることが好ましい。次いで、冷却された糸状については、油剤を付与することが好ましい。また、このようにして溶融ポリマーを紡糸口金から吐出し成形する場合、紡糸速度としては300〜6000m/分であることが好ましい。さらには本発明の製造方法における成形方法としては、紡糸後さらに延伸する方法が、高効率の生産が行える点から好ましい。
【0032】
特に本発明のポリエステル繊維は、高速にて紡糸することが好ましく、紡糸速度としては1500〜5500m/分であることが好ましい。この場合、延伸前に得られる繊維は部分配向糸となる。このように高速にて紡糸して繊維を高度に配向結晶化させた場合、従来では紡糸段階で断糸することが多かった。しかし本発明では、上記のバイオマスエチレングリコールをポリエステルのジオール成分として利用する効果により、配向結晶化が均一に進み紡糸欠点を低減することができたものと推定される。そして結果的には製糸性が大幅に向上することを見出したのである。
【0033】
また延伸する条件としては、紡糸後に1.5〜10倍に延伸することが好ましい。このように紡糸後に延伸することによって、より高強度の延伸繊維を得ることが可能である。従来は例え低倍率で紡糸したとしても延伸時に結晶の欠点に起因する強度の弱い部分が存在するため、断糸が起こることが多かったのである。しかし本発明では、ポリエステルのジオール成分として含有されるバイオマスエチレングリコールの存在により、延伸による結晶化において微細結晶が均一に形成されるため、延伸欠点が発生しにくく、高倍率に延伸でき、繊維を高強度化することが可能となったものである。
【0034】
本発明のポリエステル繊維を得るための延伸方法としては、引取りローラーから一旦巻取って、いわゆる別延伸法で延伸してもよく、あるいは引取りローラーから連続的に延伸工程に未延伸糸を供給する、いわゆる直接延伸法で延伸しても構わない。また延伸条件としては1段ないし多段延伸であり、延伸負荷率としては60〜95%であることが好ましい。延伸負荷率とは繊維が実際に断糸する張力に対する、延伸を行う際の張力の比である。
【0035】
延伸時の予熱温度としては、ポリエステル未延伸糸のガラス転移点の20℃低い温度以上、結晶化開始温度の20℃以上低い温度以下で行うことが好ましい。延伸倍率は紡糸速度に依存するが、破断延伸倍率に対し延伸負荷率60〜95%となる延伸倍率で延伸を行うことが好ましい。また、繊維の強度を維持し寸法安定性を向上させるためにも、延伸工程で170℃から繊維の融点以下の温度で熱セットを行うことが好ましい。さらには延神時の熱セット温度が170〜270℃の範囲であることが好ましい。
【0036】
ある元素の同位体は、電子状態がほぼ同じであり、化学的な性質も極めて近い性質を示すとされる。しかし、質量数が異なることにより、高分子の物性が異なる例が知られている。例えば、重水素を含有するポリエチレンナフタレートの場合、密度が異なる例として、J.MACROMOL.SCI.−PHYS.B36(2),205−219(1999)を挙げることが出来る。すなわち、放射性同位体の含有量の違いによって、分子量や密度の違いを始めとした高分子の物性には違いが生じるのである。
【0037】
本発明の製造方法においては、ポリエステルポリマーを構成するジオール成分にバイオマスエチレングリコールを用いることにより、12C、13C、14Cの存在量が変化し、紡糸・延伸工程における結晶の成長が異なっていると推定される。すなわち、溶融し、紡糸口金から吐出する段階および延伸工程で生じる粗大な結晶成長を抑制し、製糸工程における欠点となる粗大な結晶を低減させるため、各工程での断糸率を大幅に低下させ、結果として得られるポリエステル繊維の物性が向上したのであると考えられる。すなわち本発明においては、バイオ化率が11%以上とすることによって、上述のような効果が発現するものと考えられる。
【0038】
従来よりポリエステル繊維を高速紡糸するためにはさまざまな工夫が行われているが、本発明ではポリエステルを構成するジオール成分として、本発明特有のバイオマスエチレングリコールを使用することにより、紡糸安定性が飛躍的に向上し、高速紡糸も可能となった。さらに断糸が起きにくいことから、実用的な延伸倍率を高めることができ、より高い強度のポリエステル繊維を得ることが可能となったのである。さらに本発明のポリエステル繊維は、その繊維の固有粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維であるにもかかわらず毛羽欠点が少なく、製糸性も良好となる。
【0039】
この本発明の効果を発揮するメカニズムは必ずしも明確ではないが、バイオマスエチレングリコール中に存在する微量の14Cが紡糸・延伸工程における欠点となる結晶成長を抑制ことにより、ポリエステルポリマーが補強され、あるいは欠点への応力の集中を抑制し、繊維の構造的欠陥が低減したためであると考えられる。また、本発明のポリエステル繊維では、バイオマスエチレングリコールによる粗大な結晶成長の抑制する効果により、破断紡速の向上、毛羽欠点の低減、製糸性の向上、物性バラツキの減少などの効果を発揮しているものと考えられる。
【0040】
以上のような製造方法により得られる本発明のポリエステル繊維の強度としては、4.0cN/dtex以上であることが必要であり、4.0〜10.0cN/dtexであることが好ましい。さらには5.0〜9.5cN/dtexであることが好ましい。強度が低すぎる場合にはもちろん、高すぎる場合にも耐久性に劣る傾向にある。また、ぎりぎりの高強度で生産を行うと製糸工程での断糸が発生し易い傾向にあり工業繊維としての品質安定性に問題がある傾向にある。得られるポリエステル繊維の強度が4.0cN未満の繊維の場合、本発明が目的とする産業資材用繊維としては、適用可能な用途の範囲が狭く有用性が低い傾向にある。
【0041】
また180℃における乾熱収縮率は、1.0〜15.0%であることが好ましい。乾熱収縮率が高すぎる場合、加工時の寸法変化が大きくなる傾向にあり、繊維を用いた成形品の寸法安定性が劣るものとなりやすい。得られるポリエステル繊維の単糸繊度には特に限定は無いが、製糸性の観点から0.1〜100dtex/フィラメントであることが好ましい。特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、強力、耐熱性や接着性の観点から、1〜20dtex/フィラメントであることが好ましい。総繊度に関しても特に制限は無いが、10〜10,000dtexが好ましく、特にタイヤコード、V−ベルト等のゴム補強用繊維や、産業資材用繊維としては、250〜6,000dtexであることが好ましい。また総繊度としては例えば1,000dtexの繊維を2本合糸して総繊度2,000dtexとするように、紡糸、延伸の途中、あるいはそれぞれの終了後に2〜10本の合糸を行うことも好ましい。なお当業者であれば、溶融紡糸前のポリエステルの固有粘度、紡糸速度、延伸倍率を適宜調整することで、上述した強度、乾熱収縮率のポリエステル繊維を得ることができる。
【0042】
さらに本発明のポリエステル繊維は、上記のようなポリエステル繊維をマルチフィラメントとし撚りを掛けてコードの形態としたものであることも好ましい。マルチフィラメント繊維に撚りを掛けることにより、強力利用率が平均化し、その疲労性が向上する。撚り数としては50〜1000回/mの範囲であることが好ましく、下撚りと上撚りを行い合糸したコードであることも好ましい。合糸する前の糸条を構成するフィラメント数は50〜3000本であることが好ましい。このようなマルチフィラメントとすることにより耐疲労性や柔軟性がより向上する。繊度が小さすぎる場合には強度が不足する傾向にある。逆に繊度が大きすぎる場合には太くなりすぎて柔軟性が得られない問題や、紡糸時に単糸間の膠着が起こりやすく安定した繊維の製造が困難となる傾向にある。
【0043】
本発明のポリエステル繊維の製造方法では、さらに得られた繊維を撚糸したり、合糸することにより、所望の繊維コードを得ることができる。さらにはその表面に接着処理剤を付与することも好ましい。接着処理剤としてはRFL系接着処理剤を処理することが、ゴム補強用途には最適である。
【0044】
より具体的には、このような繊維コードは、上記のポリエステル繊維に、常法に従って撚糸を加え、或いは無撚の状態でRFL処理剤を付着させ、熱処理を施すことにより得ることができ、このような繊維はゴム補強用に好適に使用できる処理コードとなる。
【実施例】
【0045】
本発明をさらに下記実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例により限定されるものではない。また各種特性は下記の方法により測定した。また各実施例等で用いる「バイオマス由来のエチレングリコール」とはバイオ化率100%のEGを指すものである。
【0046】
(1)固有粘度(IV):
ポリエステルチップサンプル、又はポリエステル繊維サンプルを100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ粘度計を用いて測定した値から求めた。以下IVと表記した。
【0047】
(2)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステルチップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィ−(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0048】
(3)バイオ化率評価(14C濃度測定)
14Cの濃度測定は、タンデム加速器と質量分析計を組み合わせた加速器質量分析法によって、構成全炭素量に対する放射性炭素である14Cの濃度を測定し、107.44pMCの場合をバイオ化率100%として基準としこの値に対する濃度比として、バイオ化率を求めた。
【0049】
(4)繊維の強伸度及び中間荷伸、
引張荷重測定器((株)島津製作所製オートグラフ)を用い、JIS−L−1013に従って測定した。尚、中間荷伸は荷重4cN/dtex時の伸度を表した。これを50点測定した平均値を求め、さらに各物性のばらつきを表す標準偏差σ(シグマ)を算出した。
【0050】
(5)乾熱収縮率
JIS−L−1013に従い、20℃、65%RHの温湿度管理された部屋で24時間放置後、無荷重状態で、乾燥機内で180℃×30min熱処理し、熱処理前後の試長差より算出した。
【0051】
(6)製品の毛羽欠点
巻き取った繊維製品の外観検査における単糸切れによる毛羽欠点に応じて以下で評価した。
○:わずかな毛羽欠点の発生が見られるが良好
△:やや毛羽の発生があり製品ロスがやや多い
【0052】
(7)製糸性
巻き取った繊維製品1トンあたりの糸切れ回数に応じて以下で評価した。
○:0.5回未満/トン
△:0.5回以上1.0回未満/トン
【0053】
[実施例1]
・ポリエステルチップの製造
化石燃料より製造・精製されたテレフタル酸ジメチル(DMT)194.2質量部とバイオマス由来のエチレングリコール124.2質量部(DMT対比200mol%)との混合物に酢酸マンガン・四水和物0.0735質量部(DMT対比30mmol%)を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、亜リン酸0.0246質量部(DMT対比30mmol%)を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後反応生成物に三酸化アンチモン0.0964質量部(DMT対比33mmol%)を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行い、ポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。
得られたポリマーのIVは0.63dL/g、バイオ化率は18%であった。
【0054】
・ポリエステル繊維の製造
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下160℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、固有粘度1.02dL/gのポリエチレンテレフタレートチップを得た。
これをポリマー溶融温度296℃にて口径直径1.0mm、250孔数の紡糸口金より紡出し、口金直下に具備した長さ200mmの300℃に加熱した円筒状加熱帯を通じ、次いで吹き出し距離500mmの円筒状チムニーより20℃、65%RHに調整した冷却風を紡出糸条に吹き付けて冷却し、さらに脂肪族エステル化合物を主体成分とする油剤を、繊維の油剤付着量が0.5%となるように油剤付与したのち、表面温度50℃のローラーにて2500m/minの速度で引き取った。
また、ここで引取りローラー速度を向上していき紡出糸条が破断する速度を破断紡速として測定した。
2500m/minの速度で紡糸した吐出糸条を一旦巻き取ることなく引き続いて表面温度60℃の第一ローラーとの間で1.4倍の第一段延伸を行い、次いで表面温度75℃の第二ローラーとの間で1.15倍の第二段延伸を行い、さらに第3ローラーとの間で1.4倍の第三段延伸を行い、表面温度190℃の第3ローラー上に走行糸条を巻き付け0.2秒間の熱セットを施し、冷却ローラーに定長で引き取ったのちに巻取速度5000m/minで巻き取り、ポリエステル繊維を得た。
得られたポリエステル繊維の固有粘度(IVf)の低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維が毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。繊維の物性および工程通過性を表2に示す。
【0055】
[実施例2]
実施例1において、化石燃料より精製されたテレフタル酸ジメチルの代わりに、ポリエチレンテレフタレート製品をエチレングリコールの存在下加熱・解重合を行い、次いでメタノールと反応させる事によって得たテレフタル酸ジメチルに変更したこと以外は実施例1と同様に実施しポリエステルポリマーを得た。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステル繊維を得た。得られた繊維の固有粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維が毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。結果を表2に併せて示す。
【0056】
[実施例3]
テレフタル酸166.13質量部とバイオマス由来のエチレングリコール74.4質量部とからなるスラリーを重縮合槽に供給して、常圧下250℃でエステル化反応を行い、エステル化反応率95%のビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレート及びその低重合体を調製した後、リン酸トリメチル0.00280質量部(TA対比2mmol%)を加え、5分間攪拌した後、三酸化アンチモン0.0964質量部(TA対比33mmol%)とを加えて、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、290℃まで昇温し、30Pa以下の高真空で重縮合反応を行ない、ポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。結果を表1に併せて示す。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステル繊維を得た。得られた繊維の固有粘度IVfの低下が少なく、破断紡糸速度が非常に高い上、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維が毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。結果を表2に併せて示す。
【0057】
[比較例1]
実施例1において、バイオマス由来のエチレングリコールの代わりに従来の化石資源から製造され、更に精製されたエチレングリコールを使用したこと以外は実施例1と同様に実施ししポリエステルポリマーを得た。
さらに実施例1と同様に溶融紡糸、延伸を行い、ポリエステル繊維を得た。結果を表2に併せて示す。
【0058】
[実施例4]
・ポリエステルチップの製造
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部とバイオマス由来のエチレングリコール50質量部との混合物に酢酸マンガン四水和物0.030質量部を撹拌機、精留塔及びメタノール留出コンデンサーを設けた反応器に仕込み、150℃から245℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールを反応器外に留出させながら、エステル交換反応を行った。その後、リン酸トリメチル0.023質量部を添加し、エステル交換反応を終了させた。その後、反応生成物に三酸化二アンチモン0.024質量部を添加して、撹拌装置、窒素導入口、減圧口及び蒸留装置を備えた反応容器に移し、305℃まで昇温させ、30Pa以下の高真空で縮合重合反応を行い、固有粘度0.65dL/g、ジエチレングリコール含有量が0.6質量%、バイオ化率が14%であるポリエステルを得た。さらに常法に従いチップ化した。
【0059】
・ポリエステル繊維の製造
得られたポリエステルチップを、窒素雰囲気下180℃にて3時間の乾燥、予備結晶化し、さらに230℃真空下にて固相重合反応を行い、固有粘度0.75dL/gのポリエチレンテレフタレートチップを得た。
これをポリマー溶融温度300℃にて、0.27mm、24孔数の紡糸口金より紡出し、ローラーにて500m/minの速度で引き取り、巻き取った。次いで、表面温度160℃の第二ローラーとの間で5.1倍に延伸を行い、表面温度240℃のローラー上に走行糸条を巻き付け60秒間の熱セットを施し、冷却ローラーに定長で引き取った後に、繊維を巻取り、ポリエステル繊維を得た。
得られた繊維は、固有粘度IVfの低下が少なく、高強度、低荷伸(高モジュラス)かつ強伸度のバラツキが小さく、さらに低乾収の繊維が毛羽欠点少なく、製糸性も良好であった。
【0060】
【表1】

【0061】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0062】
このようにして得られた本発明のポリエステル繊維は、ポリエステルを構成するジオールし成分の同位体存在比が異なることにより、粗大な結晶などの欠点が少なく、物性バラツキや毛羽発生の少ない高品質かつ高効率生産可能なポリエステル繊維であるため、シートベルト、ターポリン、魚網、ロープ、モノフィラメント等の産業資材用織編物など幅広い産業資材用途に対して非常に有用である。
【0063】
さらに高分子と併用して、繊維・高分子複合体とすることも好ましく、特には高分子がゴム弾性体であるゴム補強用繊維として好適に用いられ、例えばタイヤ、ベルト、ホースなどに最適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)からなる破断強度が4.0cN/dtex以上のポリエステル繊維の製造方法であって、
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が11%以上であり、
エチレングリコール中に含まれる全炭素原子中、1950年時点の循環炭素中の14C濃度を基準(100%)とした14C濃度比率が80%以上100%以下のエチレングリコールを原料として用いて製造することを特徴とするポリエステル繊維の製造方法。
【請求項2】
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)がポリエチレンテレフタレートであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。
【請求項3】
ポリエチレンテレフタレートが、ポリアルキレンテレフタレートを解重合工程を含む工程によって得られたテレフタル酸ジアルキルエステルを原料として用いることを特徴とする請求項2記載のポリエステル繊維の製造方法。
【請求項4】
ポリ(エチレン芳香族ジカルボキシレートエステル)がポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレートであることを特徴とする請求項1記載のポリエステル繊維の製造方法。

【公開番号】特開2010−280995(P2010−280995A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−132994(P2009−132994)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】