説明

工業用二層織物

【課題】 走行安定性、表面性、耐摩耗性に優れた工業用織物を提供する。
【解決手段】 8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置し、そのうちの少なくとも1本を経地糸接結糸とした、工業用二層織物であって、上層面側層は、経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る組織の繰り返しであり、さらに上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であることを特徴とする工業用二層織物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
従来から工業用織物としては経糸、緯糸で製織した織物が広く使用されており、例えば抄紙用ワイヤーや搬送用ベルト、ろ布等その他にも多くの分野で使用されており、用途や使用環境に適した織物特性が要求されている。特に織物の網目を利用して原料の脱水等を行う製紙工程で使用される抄紙用ワイヤーでの要求は厳しく、紙に織物のワイヤーマークを転写することのない表面性に優れた織物、また過酷な環境下においても好適に使用できる程度の剛性を持ち合わせたもの、そして良好な紙を製造するために必要な条件を長期間持続することのできる織物等が要求されている。その他にも繊維支持性、製紙の歩留まりの向上、良好なろ水性、耐摩耗性、寸法安定性、走行安定性等が要求されている。さらに近年では抄紙マシンが高速化しているため、それに伴い抄紙用ワイヤーへの要求も一段と厳しいものとなっている。
【背景技術】
【0002】
このように工業用織物の中でも最も要求が厳しい抄紙用織物について説明すればほとんどの工業用織物の要求とその解決について理解できるので、以下抄紙用織物を代表して本発明を説明する。
製紙機械において、抄紙スピードが高速になると必然的に脱水スピードが高速になり、脱水力を強力にする必要がある。脱水性の良い織物としては、上層面側から下層面側にまで貫通する脱水孔が形成される二層織物等がある。特に製紙用織物に要求される表面性、繊維支持性、脱水性を満たすことを目的とした織物として、上層面側緯糸、下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織と下層面側表面組織を形成する経地糸接結糸を用いた二層織物等がある。
特開2004−36052号公報には経地糸接結糸を用いた二層織物が示されている。該従来発明は一部の経糸が上層面側層と下層面側層を織り合わせる接結糸として機能するものであり、同時に組になった経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織の一部を補完し合い、各々の表面組織を形成するため、表面性、接結強度に優れた織物となる。しかし、特開2004−36052号の実施例1〜3で示されている意匠図を見ると、上層面側経糸が上層面側緯糸の上側で交差したナックルが斜め方向へ規則的に連続する綾織りであるため、斜め方向のマークが目立ち、紙に斜め方向のワイヤーマークを発生させやすい。また、綾織りであると、綾が一方向に連続しているため、ワイヤーを使用時にはその綾方向に伸びてきてしまい、ワイヤーが変形し、それに伴い蛇行が起き、走行安定性が悪い等の問題がある。
また、非特許文献「繊維工学II織物」足立達雄 著、実教出版 発行のP.15、36に示されているように、本発明の上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織の場合、綾織り、崩し綾織りに限らず、上層面側経糸は1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に3本の上層面側緯糸の下側を通る1/3組織以外は掲載されていない。
【特許文献1】特開2004−36052号
【非特許文献1】「繊維工学II織物」足立達雄 著、実教出版 発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記の問題を鑑みて、独立した接結糸を有しない地糸接結タイプの二層織物において、斜め方向のマークを発生させず、かつ、斜め方向の剛性、走行安定性、表面性、繊維支持性、耐摩耗性に優れた工業用織物を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、
「1. 8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる8組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、8本の上層面側経糸、下層面側経糸のうち少なくとも1本を上層面側層と下層面側層とを接結する経地糸接結糸とした、工業用二層織物において、
上層面側層は、経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る組織の繰り返しであり、さらに上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であることを特徴とする工業用二層織物。
2. 8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、上層面側表面は組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面でも組になった経地糸接結糸が下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、1項に記載された工業用二層織物。
3. 8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち1組以上が、上層面側経糸が上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、1項に記載された工業用二層織物。
4. 8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち1組以上が、下層面側経糸が上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸が下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、1項に記載された工業用二層織物。
5. 2項に記載された組になった経地糸接結糸が、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成し、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成していることを特徴とする工業用二層織物。
6. 上層面側表面組織が、崩し綾織りであることを特徴とする、1項ないし5項のいずれか1項に記載された工業用織物。
7. 上層面側表面組織が、綾織りであることを特徴とする、1項ないし5項のいずれか1項に記載された工業用織物。
8. 上層面側緯糸本数が下層面側緯糸本数の1から2倍の本数であることを特徴とする、1項ないし7項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
9. 上層面側経糸の線径と下層面側経糸の線径が等しいことを特徴とする、1項ないし8項のいずれか1項に記載された工業用二層織物。」
に関する。
【発明の効果】
【0005】
本発明は、独立した接結糸を有しない地糸接結タイプの二層織物において、斜め方向のマークを発生させず、かつ、斜め方向の剛性、走行安定性、表面性、繊維支持性、耐摩耗性に優れた工業用織物を提供しようとするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明は、8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる8組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、8本の上層面側経糸、下層面側経糸のうち少なくとも1本を上層面側層と下層面側層とを接結する経地糸接結糸とした、経方向の糸で接結してなる工業用二層織物であり、上層面側層は、経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る組織の繰り返しであり、さらに上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であることを特徴とする。このように製織された上層面側層には、綾織りまたは崩し綾織りがある。8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる8組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成される本発明の織物は、斜めマークを発生させず、斜め方向の剛性、走行安定性、繊維支持性に優れた性能を有するので工業用に有用である。
上層面側層では、上層面側経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る組織の繰り返しであるため、ワイヤーの剛性が向上し、さらに上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であるため、上層面側層の繊維支持性が良好となる。また、好ましくは上層面側表面組織を崩し綾織りにすることで、表面性、斜め剛性、走行安定性を向上させることができる。
【0007】
織物業界において、綾織りとは、経糸、緯糸それぞれが3本以上で完全組織がつくられ、経糸が連続的に浮いた組織点(浮き)で斜めにうね状の線(斜文線)があらわれるものをいう。また、緯糸が連続的に浮いた組織点で斜文線があらわれるものも含む。経糸、緯糸のどちらの組織点が多く表面にあらわれているかで、たて斜文、よこ斜文と呼び方が定義されている。つまり、綾織りは経糸または緯糸の組織を連続的に均等にシフトさせる織り方で、表面の浮きが断続せず規則的に配置されているものをいう。従って、浮きは綾の方向に規則的に連続して配置されるため、斜めマークを発生させやすく、さらにワイヤー自体が一方向に伸びやすくなり、綾の方向に対しての剛性は低くなりやすい。
また、崩し綾織りとは、斜文線の方向がある糸数ずつで方向が反対になるようにしたものをいう。つまり、経糸または緯糸の組織を均等にシフトさせず、ある一定の綾が形成されたところで綾の方向を反対にして配置した織り方をいう。崩し綾織りにすることによって、表面の浮きの配置の規則性をある糸数毎で崩しているため、織物表面に斜め方向のマークを発生させにくい。また、ワイヤーが一方向に伸びにくくなり、ワイヤー走行時に蛇行せず走行性が安定で良好である。
通常の綾織りでは、ある一定の方向だけに連続的に斜文線があらわれるのに対し、崩し綾織りでは、角度の異なる斜文線が別に存在する。本発明の代表的な実施例では、糸数4つずつで左、右方向の綾が入れ替わるので綾織りのような強い斜文線はあらわれないのである。また、左、右方向の綾同士がつながらないようになっている。糸数4つ分の綾が、左方向の終点と右方向の始点、右方向の終点と左方向の始点が接して、左、右方向の綾がつながった状態になった場合、綾織りによる一方向へのワイヤー剛性低下と斜めマークは抑制できたとしても、接することによって、くの字型のような綾が目立つようになってしまい、そのマークが強く出てしまう。本発明では、綾を崩したことによるマークの影響を抑制するために、綾の始点と終点が接することのないようにしている。
【0008】
ここで、ナックルとは経糸と緯糸が交差して形成する交差部であるが、本発明では次のように定義する。上層面側では、経糸または緯糸の相手側の糸の上側で交差する方の糸の名称をナックルに付して呼ぶ。従って、上層面側経糸が上層面側緯糸の上側で交差したナックルは上層面側経糸ナックルである。一方下層面側では、経糸または緯糸の相手側の糸の下側で交差する方の糸の名称をナックルに付して呼ぶ。従って、下層面側経糸が下層面側緯糸の下側で交差したナックルは下層面側経糸ナックルである。また、ナックルとナックルの間にできる糸の浮きをクリンプという。従って、同一緯糸と異なる経糸により形成された経糸ナックルと経糸ナックルの間には緯糸クリンプが形成される。
また、本発明の上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織を形成させる場合、従来例や非特許文献には、上層面側経糸は1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に3本の上層面側緯糸の下側を通る1/3組織を形成するものでなければ、経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成できないと記載されている。しかし、経糸を1/4−1/2組織にすることで繊維支持性の良好な経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成しつつ、経糸1/3組織の場合よりもワイヤー剛性が向上する織物になるのである。
経糸が1/3組織の繰り返しの場合は織り込む力が全面的に一定であるのに対し、経糸が1/4−1/2組織の繰り返しの場合は1/3組織の場合よりも織り込む力が大きくなる。経糸1/4−1/2組織では、上層面側経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に2本の上層面側緯糸の下側を通る1/2組織の部分が存在し、ナックル間の距離が近いため織り込む力が大きくなり、ワイヤーの剛性が向上する。織り込む力は、経糸が1本の緯糸を上側から織り込んだ後、何本かの緯糸の下側を通って次の1本の緯糸を上側から織り込んだ時に形成された2つのナックル間の距離が近いほど織り込む力は大きくなり、また遠いほど織り込む力は小さくなる。平織組織の織物の剛性が高いのはこのためである。このため、1/4−1/2組織では1/3組織よりもナックル間距離が近いため、ワイヤーの剛性は向上するのである。
【0009】
本発明の工業用二層織物は8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる8組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成されており、8本の上層面側経糸、下層面側経糸のうち少なくとも1本を上層面側層と下層面側層とを接結する経地糸接結糸とした。経地糸接結糸とは、上層面側緯糸と下層面側緯糸の両方を織り合わせ、上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経糸である。
経地糸接結糸の配置としては、上下に配置された8組の上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方を経地糸接結糸とした2本の経地糸接結糸が組になっているもの、または上下に配置された8組の上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1本以上の上層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と下層面側経糸が組になっているもの、または上下に配置された8組の上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1本以上の下層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と上層面側経糸が組になっているもの、がある。組として配置すると上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補充し合うことができ、各々の表面組織を崩すことなく接結できる効果が奏され好ましい。
経地糸接結糸と下層面側経糸が組になっているものでは、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能する。
経地糸接結糸と上層面側経糸が組になっているものでは、上層面側表面は経地糸接結糸
と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と上層面側経糸が協働して下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能する。
経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされるのは、次の理由からである。上層面側経糸と経地糸接結糸が同じ上層面側緯糸と織り合わされた場合、上層面側経糸と経地糸接結糸が隣接して同時に上層面側緯糸を織り合わせることになるので、その部分のろ水空間が他の部分よりも狭くなり、ろ水性が変わるため、脱水マークが発生しやすくなることが考えられる。このため、経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされる構造にすると良い。また、下層面側表面についても同様な理由から、経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の下層面側緯糸と織り合わされる構造にすると良いのである。
このことは、経地糸接結糸と下層面側経糸が組になっているもの、上層面側経糸と下層面側経糸の両方を経地糸接結糸とした2本の経地糸接結糸が組になっているものについてもいえることであり、各々の上層面側経糸、下層面側経糸、経地糸接結糸はそれぞれ別の上層面側緯糸、下層面側緯糸と織り合わされる構造にすると良い。
【0010】
本発明の織物は、経地糸接結糸で接結する構造であるため、接結糸として機能する糸が使用中に常にテンションがかかる経方向の糸であり、従来の細い緯糸接結糸を使用するのと比較し、上層面側層と下層面側層とを結合する接結力が非常に強く、密着性が良好である。従って、接結糸が両層間で揉まれて内部摩耗が発生して接結力が弱くなったり、両層間に隙間が発生したり、分離する等の問題が生じにくい。また、緯糸接結糸のような付加的接結糸が無いため、緯糸の打ち込み本数を増やしたり、緯糸線径を太くしたりすることができ、それにより織物全体として剛性も向上する。
経地糸接結糸と下層面側経糸と下層面側緯糸により形成される下層面側完全組織は、特に限定されていない。例えば、下層面側経糸が1本の下層面側緯糸の下側を通り、次いで連続する3本の下層面側緯糸の上側を通る3/1組織や、下層面側経糸が4本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通り、次に2本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通る4/1−2/1組織等でもよい。さらにこの4/1−2/1組織を適宜シフトさせ、下層面側に緯糸ロングクリンプを形成する組織とすると、耐摩耗性に優れた織物となる。使用目的や用途等によって適宜選択できる。
また、下層面側完全組織を形成する経糸完全組織が1種類であってもよく2種類以上であってもよい。例えば、下層面側完全組織を形成する経糸完全組織が、3/1組織と4/1-2/1組織が交互に配置されたものであってもよい。その他適宜選択できる。
経地糸接結糸の配置割合については特に限定されないが、接結糸として機能するものであるため少なくとも1本以上の経地糸接結糸を配置する必要がある。本発明の織物は、8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸が上下に配置されているため、例えば8組中4組の上層面側経糸と下層面側経糸を経地糸接結糸とし、経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組を交互に配置したり、経地糸接結糸と下層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組を1:3の割合で配置したりしてもよい。接結強度を向上させるためには経地糸接結糸の組を多く配置したり、経地糸接結糸を多くしたりすればよく、8組の経糸全てが接結糸となってもよい。その他、製織条件や使用目的等により適宜選択できる。
また、上層面側緯糸と下層面側緯糸の比率についても1:1、2:1その他3:2等であってもよい。上層面側緯糸を密、下層面側緯糸を粗とした2:1や3:2では、下層面側緯糸の線径を太くしやすく耐摩耗性を向上させることができる。
【0011】
本発明に使用される糸としては、織物に望まれる特性によって自由に選択でき特に限定されない。例えばモノフイラメントの他、マルチフイラメント、スパンヤーン、捲縮加工や嵩高加工等を施した一般的にテクスチャードヤーン、バルキーヤーン、ストレッチヤーンと称される加工糸、モール糸、あるいはこれらをより合わせる等して組み合わせた糸等が使用できる。また、糸の断面形状も円形だけでなく四角形状や星型等の矩形状の糸や楕円形状、中空等の糸が使用できる。また、糸の材質としても自由に選択でき、ポリエステル、ナイロン、ポリフェニレンサルファイド、ポリふっかビニリデン、4ふっかエチレン、ポリプロ、アラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエチレンナフタレート、綿、ウール、金属等が使用できる。勿論、共重合体やこれらの材質に目的に応じて色々な物質をブレンドしたり含有させたりした糸を使用しても良い。
一般的には、上層面側経糸、下層面側経糸、上層面側緯糸には剛性があり、寸法安定性が優れているポリエステルモノフイラメントを用いるのが好ましい。また、耐摩耗性が要求される下層面側緯糸は、ポリエステルモノフイラメントとナイロンモノフイラメントを交互に配置する等、交織して剛性を確保しつつ耐摩耗性を向上させることもできる。
また、組織上は本来1本の糸が配置される部分に、同組織で糸を複数本引き揃えて配置することもできる。細い線径の糸を複数本引き揃えて配置することによって、表面性の向上と織物の厚みを薄くすることができる。
上層面側緯糸本数が、下層面側緯糸本数の1〜2倍であると、下層面側緯糸の線径を太くでき、耐摩耗性を向上できるなどの効果が奏されるので好ましい。
上層面側経糸の線径と下層面側経糸の線径が等しいと、接結糸として機能する経糸の場合に上層面側の表面性を崩すことなく、1本の経糸として表面組織を形成できる効果が奏される。
【実施例】
【0012】
本発明の実施例を図面を参照して説明する。
図1、6、9、12、15、18、21、24、27は、本発明の実施例の完全組織を示す意匠図である。完全組織とは、織物組織の最小の繰り返し単位であって、この完全組織が上下左右につながって織物全体の組織が形成される。意匠図において、経糸はアラビア数字、例えば1,2,3で示し、緯糸はダッシュを付したアラビア数字、例えば1’,2’,3’で示す。
また、×印は上層面側経糸が上層面側緯糸の上側に位置していることを示し、□印は下層面側経糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示し、●印は経地糸接結糸が上層面側緯糸の上側に位置している部分を示し、○印はその経地糸接結糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示し、◆印は経地糸接結糸が上層面側緯糸の上側に位置している部分を示し、◇印はその経地糸接結糸が下層面側緯糸の下側に位置していることを示す。
上層面側の経糸、緯糸はそれぞれ下層面側の経糸、緯糸と上下に重なって配置されている。尚、意匠図では糸が上下に正確に重なって上層面側の経糸、緯糸のそれぞれの真下に下層面側の経糸、緯糸が配置されることになっているが、これは図面の都合上であって実際の織物ではずれて配置されても構わないものである。
【0013】
実施例1
図1は本発明の実施例1の完全組織を示す意匠図である。図2は図1の経糸1、2に沿った断面図であり、図3は図1の緯糸1´に沿った断面図である。図4は図1の意匠図上に組織点(浮き)と綾の方向を示す印を加えた意匠図であり、図5は図1の意匠図をもとに製織したワイヤーの上層面側表面写真である。
図1の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,5,7は上層面側表面を形成する上層面側経糸と下層面側表面を形成する下層面側経糸が上下に配置された組であり、2,4,6,8は上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する2本の経地糸接結糸の組である。1’,2’,3’・・・16’は上層面側緯糸および下層面側緯糸を示し下層面側緯糸は上層面側緯糸の半分の密度で奇数番号の上層面側緯糸の1’,3’,5’・・・15’の下側に配置している。経地糸接結糸は上層面側層と下層面側層を織り合わせる糸であり、組になって上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成しているため表面組織を崩さない。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1本交互に配置している。
上層面側経糸は1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る1/4-1/2組織であり、上層面側経糸1は1本の上層面側緯糸1’の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸2’,3’,4’,5’の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸6’の上側を通った後、2本の上層面側緯糸7’,8’の下側を通る組織であることがわかる。従って、1/2組織はナックル間距離が近いためワイヤーの剛性が向上する。
従来例や非特許文献では上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織を形成させる場合、上層面側経糸は1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に3本の上層面側緯糸の下側を通る1/3組織のみが記載されている。経糸が1/3組織の繰り返しの場合、織り込む力が全面的に一定であるのに対し、本発明の経糸が1/4−1/2組織の繰り返しの場合は1/3組織の場合よりも織り込む力が大きいのである。経糸を1/4−1/2組織にすることで経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に2本の上層面側緯糸の下側を通る1/2組織の部分が存在し、その部分ではナックル間の距離が近いため織り込む力が大きくなり、ワイヤーの剛性が向上するのである。
さらに、上層面側緯糸は3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であり、上層面側緯糸1’は1本の上層面側経糸1の下側を通り、次に上層面側経糸、経地糸接結糸2,3,4の上側を通る1/3組織であることがわかる。従って、上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成するため、上層面側層の繊維支持性が良好となる。
また、上層面側表面組織を崩し綾織りにすることで、綾織り組織の場合よりも表面性、斜め剛性、走行安定性を向上させることができる。非特許文献によると、綾織りとは、経糸、緯糸それぞれが3本以上で完全組織がつくられ、経糸が連続的に浮いた組織点(浮き)で斜めにうね状の線(斜文線)があらわれるものをいう。また、緯糸が連続的に浮いた組織点で斜文線があらわれるものも含む。経糸、緯糸のどちらの組織点が多く表面にあらわれているかで、たて斜文、よこ斜文と呼び方が定義されている。つまり、綾織りは経糸または緯糸の組織を連続的に均等にシフトさせる織り方で、表面の浮きが断続せず規則的に配置されているものをいう。従って、浮きは綾の方向に規則的に連続して配置されるため、斜めマークを発生させやすく、さらにワイヤー自体が一方向に伸びやすくなり、綾の方向に対しての剛性は低くなりやすい。
また、崩し綾織りとは、斜文線の方向がある糸数ずつで方向が反対になるようにしたものをいう。つまり、経糸または緯糸の組織を均等にシフトさせず、ある一定の綾が形成されたところで綾の方向を反対にして配置した織り方をいう。崩し綾織りにすることによって、表面の浮きの配置の規則性をある糸数毎で崩しているため、織物表面に斜め方向のマークを発生させにくい。さらに、ワイヤーが一方向に伸びにくくなり、ワイヤー走行時に蛇行せず走行性が安定で良好である。
本実施例の場合は、上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプが形成される組織であり、組織を均等にシフトさせず、綾の方向を糸数4つ分毎に入れ替わるため、よこ斜文織りの崩したパターンとなる。
【0014】
本実施例の図4の楕円は連続的に浮いた組織点(浮き)をあらわし、また図4の矢印、図5の製織したワイヤーの表面写真上に描かれた矢印は、崩し綾織りにしたことによってできた斜文線の方向と長さをあらわしている。通常の綾織りはある一定の方向だけに連続的に斜文線があらわれるのに対し、崩し綾織りでは角度の異なる斜文線が別に存在する。図4で説明すると、上層面側緯糸3’は上層面側経糸、経地糸接結糸5,6,7を上側から織り込むことによって経糸3本分の緯方向の浮きが形成され、次に上層面側緯糸4’は上層面側経糸、経地糸接結糸4,5,6を、次に上層面側緯糸5’は上層面側経糸、経地糸接結糸3,4,5を、次に上層面側緯糸6’は上層面側経糸、経地糸接結糸2,3,4を上側から織り込むことによってそれぞれ緯方向の浮きが形成され、左方向に糸数4つ分の連続した綾ができる。また、上層面側緯糸7’は上層面側経糸、経地糸接結糸4,5,6を上側から織り込むことによって経糸3本分の緯方向の浮きが形成され、次に上層面側緯糸8’は上層面側経糸、経地糸接結糸5,6,7を、次に上層面側緯糸9’は上層面側経糸、経地糸接結糸6,7,8を、次に上層面側緯糸10’は上層面側経糸、経地糸接結糸7,8,1を上側から織り込むことによってそれぞれ緯方向の浮きが形成され、前述した綾とは逆の右方向に糸数4つ分の連続した綾ができる。綾方向が糸数4つずつで入れ替わるので、綾織りのような強い斜文線はあらわれないのである。
角度の異なる斜文線については、図4の浮きの部分をあらわした楕円上の中央に描かれている綾方向を示す矢印で説明する。上層面側緯糸3’と経地糸接結糸6の交差部から上層面側緯糸6’と上層面側経糸3の交差部までの糸数4つ分の左方向の綾と、上層面側緯糸7’と上層面側経糸5の交差部から上層面側緯糸10’と経地糸接結糸8の交差部までの糸数4つ分の右方向の綾を見ると、左方向の綾の終点である上層面側緯糸6’と上層面側経糸3の部分と次の右方向の綾の始点である上層面側緯糸7’と上層面側経糸5の部分が接していないのがわかる。この糸数4つ分の綾が左方向の終点と右方向の始点、右方向の終点と左方向の始点が接して、左、右方向の綾がつながった状態になった場合、綾織りによる一方向へのワイヤー剛性低下と斜めマークは抑制できたとしても、接することによって、くの字型のような綾が目立つようになってしまい、そのマークが強く出てしまう。本実施例では、綾を崩したことによるマークの影響を抑制するために、綾の始点と終点が接することのないようにしている。
上記のことから、斜め方向のマークが発生せず、ワイヤーが一方向に伸びにくくなり、ワイヤー走行時に蛇行せず走行安定性が良好となる。
組になった経地糸接結糸は、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされることで、それらが協働して上層面側表面組織は上層面側経糸が形成する1/4−1/2組織と同じ組織となり、また下層面側表面組織は下層面側経糸が形成する組織と同じ組織になり、組になった経地糸接結糸2が一方の経地糸接結糸が上層面側緯糸2’の上側を通り、次に上層面側緯糸3’,4’の下側を通り、次に上層面側緯糸5’の上側を通るところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸5’と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸13’と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が上層面側緯糸10’の上側を通り、次に上層面側緯糸11’,12’の下側を通り、次に上層面側緯糸13’の上側を織り合わす組織とすることで、上層面側表面組織は1/4−1/2組織を、下層面側表面組織は3/1組織を形成し、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成する。
下層面側経糸は、3本の下層面側緯糸の上側を通り、次に1本の下層面側緯糸の下側を通る3/1組織であり、経地糸接結糸と下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込むことで、織物剛性が向上し、下層面側表面に下層面側経糸6本分の緯糸ロングクリンプが形成され、耐摩耗性が向上する。経地糸接結糸2と下層面側経糸3が1本の下層面側緯糸5’,13’を下層面側から同時に隣接して織り込むことで、下層面側緯糸5’,13’は経地糸接結糸2、下層面側経糸3の上側を通り、次に連続する6本の下層面側経糸、経地糸接結糸4,5,6,7,8,1の下側を通ることで、下層面側経糸6本分の緯糸ロングクリンプが形成されていることがわかる。
上記に述べたような本発明の組織とすることで、織物の剛性、斜め剛性、耐摩耗性、表面性を向上し、斜め方向のマークを発生させず、ワイヤーの走行安定性、繊維支持性に優れた織物となる。
【0015】
実施例2
図6は本発明の実施例2の完全組織を示す意匠図である。図7は図6の経糸1、2に沿った断面図であり、図8は図6の緯糸2´に沿った断面図である。
図6の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。実施例1と同様に経地糸接結糸は上層面側層と下層面側層を織り合わせる糸であり、1組の経地糸接結糸は上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成しているため表面組織を崩さない。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。下層面側層を3/1組織にし、下層面側表面に経糸3本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため耐摩耗に優れ、さらに織物の剛性、斜め剛性が向上する。
【0016】
実施例3
図9は本発明の実施例3の完全組織を示す意匠図である。図10は図9の経糸1、2に沿った断面図であり、図11は図9の緯糸1´に沿った断面図である。
図9の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は1:1の割合で配置している。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで上層面側表面に経糸3本分の緯糸ロングクリンプが形成され繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。また、下層面側経糸を4/1−2/1組織にし、下層面側表面に下層面側経糸3本分の緯糸ロングクリンプが形成するように適宜シフトさせたため耐摩耗性に優れる。また、下層面側も崩し綾織りであるため、上層面側とは正反対に綾が形成され、斜め剛性、ワイヤーの走行安定性に優れた織物となる。
【0017】
実施例4
図12は本発明の実施例4の完全組織を示す意匠図である。図13は図12の経糸1、2に沿った断面図であり、図14は図12の緯糸2´に沿った断面図である。
図12の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。下層面側層を畝織り組織とすることで、ワイヤー剛性を向上し、走行安定性が良好になる。
【0018】
実施例5
図15は本発明の実施例5の完全組織を示す意匠図である。図16は図15の経糸1、2に沿った断面図であり、図17は図15の緯糸2´に沿った断面図である。
図15の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸を4:3の割合で配置した。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。下層面側経糸を3/1組織にし、下層面側表面に下層面側経糸6本分の緯糸ロングクリンプが形成するように適宜シフトさせたため耐摩耗性に優れる。
【0019】
実施例6
図18は本発明の実施例6の完全組織を示す意匠図である。図19は図18の経糸1、2、3に沿った断面図であり、図20は図18の緯糸2´に沿った断面図である。
図18の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:3の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。下層面側層を形成する経糸組織を4/1−2/1組織、3/1組織、5/1−1/1組織の3種類にし、隣り合う下層面側経糸と経地糸接結糸、あるいは下層面側経糸と下層面側経糸が1本の下層面側緯糸を下層面側から同時に織り込む組織とした。それにより、織物剛性が向上し、また、下層面側緯糸により下層面側表面に下層面側経糸6本分の緯糸ロングクリンプが形成されるため、耐摩耗性が向上する。
【0020】
実施例7
図21は本発明の実施例7の完全組織を示す意匠図である。図22は図21の経糸1、2に沿った断面図であり、図23は図21の緯糸2´に沿った断面図である。
図21の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を上層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と下層面側経糸の組とした。2,6の上層面側経糸を上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸とし、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と下層面側経糸の組2では、一方の経地糸接結糸は上層面側緯糸2’の上側を通り、次に上層面側緯糸3´、4´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸5´の上側を通り、次に上層面側緯糸6´、7´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸8´の下側を通り、次に上層面側緯糸9´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸10´の上側を通り、次に上層面側緯糸11´、12´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸13´の上側を通り、次に上層面側緯糸14´〜16´、1´のところで上層面側層と下層面側層の間を通る組織を形成し、下層面側経糸と経地糸接結糸が協働することで、下層面側表面は他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
本実施例では、経地糸接結糸と下層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組は1:3の割合で配置している。また、上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。実施例1から6まででは、完全組織の中に2本1組にした経地糸接結糸を少なくとも1組配置した織物としたが、本実施例では2本1組にした経地糸接結糸ではなく経地糸接結糸と下層面側経糸の組を2組配置した織物とした。本実施例のような経地糸接結糸と下層面側経糸の配置としても接結力は十分にある。
【0021】
実施例8
図24は本発明の実施例8の完全組織を示す意匠図である。図25は図24の経糸1、2に沿った断面図であり、図26は図24の緯糸2´に沿った断面図である。
図24の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,4,5,7,8を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,6を上層面側経糸を経地糸接結糸とした経地糸接結糸と上層面側経糸の組とした。2,6の下層面側経糸を上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸とし、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は上層面側経糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して他の下層面側経糸と同じ下層面側表面組織を形成する。
経地糸接結糸と上層面側経糸の組2では、一方の経地糸接結糸は下層面側緯糸1´〜7´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に下層面側緯糸8´の下側を通り、次に上層面側緯糸9´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸10´の上側を通り、次に上層面側緯糸11´、12´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に上層面側緯糸13´の上側を通り、次に上層面側緯糸14´、15´のところで上層面側層と下層面側層の間を通り、次に下層面側緯糸16´の下側を通る組織を形成し、上層面側経糸と経地糸接結糸が協働することで、上層面側表面は他の上層面側経糸と同じ上層面側表面組織を形成する。
本実施例では、経地糸接結糸と上層面側経糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組は1:3の割合で配置している。また、上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。上層面側経糸を1/4−1/2組織にしたことでワイヤーの剛性が向上し、上層面側緯糸を3/1組織にしたことで繊維支持性に優れる。また、崩し綾織りにすることで斜文線の発生を抑制し、斜め方向のマーク、ワイヤーの蛇行の発生をさせない。実施例7と同様に、本実施例では2本1組にした経地糸接結糸ではなく経地糸接結糸と上層面側経糸の組を2組配置した織物とした。本実施例のような経地糸接結糸と上層面側経糸の配置としても接結力は十分にある。
【0022】
実施例9
図27は本発明の実施例9の完全組織を示す意匠図である。図28は図27の経糸1、2に沿った断面図であり、図29は図12の緯糸1´に沿った断面図である。
図27の意匠図において8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸の組のうち1,3,5,7を上層面側経糸および下層面側経糸の組とし、2,4,6,8を経地糸接結糸の組とした。2本の経地糸接結糸の組と上層面側経糸と下層面側経糸の組が1:1の割合で配置している。上層面側緯糸と下層面側緯糸は2:1の割合で配置している。
また、実施例1〜8の崩し綾織りとは異なり、本実施例では綾織りである。従来の特許文献1の実施例では、上層面側層は、上層面側経糸が連続する3本の上層面側緯糸の下側を通った後1本の上層面側経糸の下側を通る1/3組織とし、上層面側緯糸が連続する3本の上層面側経糸の上側を通って上層面側表面に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成するようにシフトさせることによって、繊維支持性が良好となるものであった。本実施例では、上層面側表面組織を1/4−1/2組織とすることで、従来の特許文献1の実施例よりもワイヤーの剛性が向上し、且つ上層面側表面に経糸3本分のロングクリンプを形成するように適宜シフトさせているため表面性、繊維支持性を損なうことはない。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明の織物は剛性、表面性が良く、耐摩耗性、走行安定性が良好であるので、製紙等の工業用織物として好適に使用される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施例1の完全組織を示す意匠図である。
【図2】図1の経糸1,2に沿った断面図である。
【図3】図1の緯糸1’に沿った断面図である。
【図4】図1の意匠図上に組織点(浮き)と綾の方向を示す印を加えた意匠図である。
【図5】図1の意匠図をもとに製織したワイヤーの上層面側表面写真である。
【図6】本発明の実施例2の完全組織を示す意匠図である。
【図7】図6の経糸1,2に沿った断面図である。
【図8】図6の緯糸2’に沿った断面図である。
【図9】本発明の実施例3の完全組織を示す意匠図である。
【図10】図9の経糸1,2に沿った断面図である。
【図11】図9の緯糸1’に沿った断面図である。
【図12】本発明の実施例4の完全組織を示す意匠図である。
【図13】図12の経糸1,2に沿った断面図である。
【図14】図12の緯糸2’に沿った断面図である。
【図15】本発明の実施例5の完全組織を示す意匠図である。
【図16】図15の経糸1,2に沿った断面図である。
【図17】図15の緯糸2’に沿った断面図である。
【図18】本発明の実施例6の完全組織を示す意匠図である。
【図19】図18の経糸1,2,3に沿った断面図である。
【図20】図18の緯糸2’に沿った断面図である。
【図21】本発明の実施例7の完全組織を示す意匠図である。
【図22】図21の経糸1,2に沿った断面図である。
【図23】図21の緯糸2’に沿った断面図である。
【図24】本発明の実施例8の完全組織を示す意匠図である。
【図25】図24の経糸1,2に沿った断面図である。
【図26】図24の緯糸2’に沿った断面図である。
【図27】本発明の実施例9の完全組織を示す意匠図である。
【図28】図27の経糸1,2に沿った断面図である。
【図29】図27の緯糸1’に沿った断面図である。
【符号の説明】
【0025】
1,2・・・8 上層面側経糸と下層面側経糸の組または経地糸接結糸の組または上層面側経糸と経地糸接結糸の組または下層面側経糸と経地糸接結糸の組
1’,2’・・・16’ 上層面側緯糸、下層面側緯糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
8本の上層面側経糸と8本の下層面側経糸を上下に配置することによってできる8組の経糸と、複数本の上層面側緯糸と下層面側緯糸から構成され、8本の上層面側経糸、下層面側経糸のうち少なくとも1本を上層面側層と下層面側層とを接結する経地糸接結糸とした、工業用二層織物において、
上層面側層は、経糸が1本の上層面側緯糸の上側を通り、次に連続する4本の上層面側緯糸の下側を通り、次に1本の上層面側緯糸の上側を通った後、2本の上層面側緯糸の下側を通る組織の繰り返しであり、さらに上層面側緯糸が3本の上層面側経糸の上側を通り、次に1本の上層面側経糸の下側を通って上層面側に経糸3本分の緯糸ロングクリンプを形成する組織であることを特徴とする工業用二層織物。
【請求項2】
8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち、1組以上の上層面側経糸と下層面側経糸の両方が、上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、上層面側表面は組になった経地糸接結糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側表面でも組になった経地糸接結糸が下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項3】
8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち1組以上が、上層面側経糸が上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と下層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸が上層面側緯糸と織り合わされて上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸と下層面側経糸が協働して下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項4】
8組の上下に配置された上層面側経糸と下層面側経糸のうち1組以上が、下層面側経糸が上層面側緯糸および下層面側緯糸と織り合わされて上層面側表面組織の一部と下層面側表面組織の一部を形成する経地糸接結糸であり、該経地糸接結糸と上層面側経糸の組では、上層面側表面は経地糸接結糸と上層面側経糸がそれぞれ別の上層面側緯糸と織り合わされ、それらが協働して上層面側完全組織を構成する1本の経糸として機能し、且つ下層面側では経地糸接結糸が下層面側表面組織を構成する1本の経糸として機能することを特徴とする、請求項1に記載された工業用二層織物。
【請求項5】
請求項2に記載された組になった経地糸接結糸が、一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成しているところの下側で、もう一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされ、且つ、一方の経地糸接結糸が1本の下層面側緯糸と織り合わされているところの上側で、もう一方の経地糸接結糸が少なくとも1本の上層面側緯糸と織り合わされ上層面側表面組織を形成し、1組の経地糸接結糸が上層面側表面組織と下層面側表面組織を互いに補完し合って各々の表面組織を形成していることを特徴とする工業用二層織物。
【請求項6】
上層面側表面組織が、崩し綾織りであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載された工業用織物。
【請求項7】
上層面側表面組織が、綾織りであることを特徴とする、請求項1ないし5のいずれか1項に記載された工業用織物。
【請求項8】
上層面側緯糸本数が下層面側緯糸本数の1から2倍の本数であることを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか1項に記載された工業用二層織物。
【請求項9】
上層面側経糸の線径と下層面側経糸の線径が等しいことを特徴とする、請求項1ないし8のいずれか1項に記載された工業用二層織物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【公開番号】特開2006−322109(P2006−322109A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−146809(P2005−146809)
【出願日】平成17年5月19日(2005.5.19)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【Fターム(参考)】