説明

差分吸収ライダ装置

【課題】2波長同時送受信をしつつ、光源の出力波長範囲と計測に適した光吸収線の波長とが一致しないガスを計測する。
【解決手段】複数のレーザ光発生手段(1)と、光強度変調手段(2)と、光合波手段(4)と、波長変換手段(5)と、モニタ光と送信光とに分配する光分配手段(6)と、ターゲットからの散乱光を受信信号に変換する受信用光受信手段(13)と、ガス封入セル(7)にモニタ光を通した後、モニタ信号に変換するモニタ用光受信手段(8)と、受信信号、モニタ信号の信号強度および位相を算出する周波数分別手段(9、14)と、信号強度に基づいて出力レーザ光の波長を制御する波長制御手段(10)と、信号強度および位相に基づいて、装置−ターゲット間におけるガス濃度を計測する信号処理手段(15)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる複数の波長のレーザ光を空間中に送信して反射体からの散乱光を受信し、各波長に関する受信光強度の比から、空間中における計測対象となるガス(例えば、メタン等)の濃度を計測する、差分吸収ライダ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のこの種の差分吸収ライダ装置としては、以下のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1における差分吸収ライダ装置は、2波長のレーザ光に異なる周波数で強度変調をかけた後、空間中に送信し、ハードターゲットとなる地面からの散乱光を受信して、受信光を直接検波する。さらに、直接検波して得られた信号の周波数スペクトルを求め、この周波数スペクトルに生じる2つの変調周波数成分の信号強度から、2波長の各々を分別し、この2波長について受信光の検出を行っている。
【0003】
このとき、2波長の内、1つの波長は、計測対象となる気体に関する光吸収係数が大きい波長に設定され、他の1つの波長は、光吸収係数が小さい波長に設定されている。このように設定しておくことで、受信光量において、装置−ターゲット間の計測対象となるガス濃度に応じた比が生じることとなり、この比から、ガス濃度を計測している。
【0004】
特許文献1に記載されたこのようなタイプの差分吸収ライダ装置は、他の差分吸収ライダと比較すると、2波長を同時に送受信しつつ、受信において2波長を分別することができるという点において優位性がある。具体的には、ガス濃度計測における高精度・リアルタイム計測性の向上において効果がある。この高精度・リアルタイム計測性については、二酸化炭素濃度の計測に関し、具体的に実証されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
しかし、従来の差分吸収ライダ装置では、特に、特許文献1において計測対象とされている二酸化炭素以外の、より様々なガス濃度計測に適用する上で、以下のような問題があった。
【0006】
一般的に、差分吸収ライダ装置は、送受する波長の内、少なくとも1つの波長において光吸収係数が強く、光吸収が顕著に生じることが必要であり、光吸収係数が大きい光吸収線近傍の光を送受する必要がある。この観点において、特許文献1に示された従来装置は、光源の出力波長をそのまま送受していたため、光源の出力波長を、光吸収係数が大きい光吸収線近傍に設定する必要があった。
【0007】
しかしながら、光吸収線は、計測対象となるガスに固有のものであり、使用できる光源の出力波長範囲が、計測対象となるガスの光吸収線近傍をカバーしているとは限らない。例えば、メタンガスの場合、波長3μm帯に光吸収係数が大きい光吸収線が存在することが知られているが、この波長を直接出力できる光源は、存在しないのが現状である。
【0008】
一方、3μm帯の波長を出力する手段として、波長変換器を用いる方法が知られており、この波長変換器を用いてメタンガスを計測する技術がある(例えば、非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−248126号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S. Kameyama et al.、Development of 1.6 micron CW modulation ground-based DIAL system for CO2 monitoring, Proceedings of SPIE, Vol. 7153, 71530L-1, 2008
【非特許文献2】M. Imaki et al., Infrared frequency upconverter for high-sensitivity imaging of gas plumes, Optics Letters, Vol. 32, 1923-1925, 2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、従来技術には、以下のような課題がある。
非特許文献2に示された従来装置では、2波長を同時に送受信できる構成とはなっていない。このため、特に、衛星や航空機のように高速に移動しながら地表に対しレーザ光を送受信し、装置−地表間のガス濃度計測を行う場合、2波長間の計測空間が異なる形となり、計測精度が低下するという問題があった。
【0012】
また、特許文献1の構成に非特許文献2の波長変換機能を単に組み入れるだけでは、次に示す問題があった。差分吸収ライダ装置は、送受するレーザ光の波長を所定の値に精度よくロックしておく必要があり、特許文献1では、この波長ロックを光源の波長に対して行っていた。しかしながら、波長変換機能を用いる場合、ロックする必要があるのは、波長変換後の波長であり、従来装置は、このような波長変換後の段階で波長をロックする機能を有していなかった。
【0013】
本発明は、前記のような課題を解決するためになされたものであり、2波長同時送受信による高精度・リアルタイム計測性を保持しつつ、光源の出力波長範囲と計測に適した光吸収線の波長とが一致しないガスを計測対象とすることができる差分吸収ライダ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係る差分吸収ライダ装置は、異なる複数の波長からなるレーザ光をそれぞれ発生させる複数のレーザ光発生手段と、複数の波長からなるレーザ光の各波長成分に対して互いに異なる周波数を持つ複数のCW信号で強度変調をかける光強度変調手段と、光強度変調手段による強度変調後の各波長成分のレーザ光を合波する光合波手段と、光合波手段による合波後のレーザ光を波長変換する波長変換手段と、波長変換手段による波長変換後の光をモニタ光と送信光とに分配する光分配手段と、空間中に存在するターゲットに向けて送信光を送信する送信光学手段と、ターゲットからの散乱光を受信光として受信して、直接検波により受信信号として電気信号に変換する受信用光受信手段と、計測対象となるガスと同一種類のガス封入セルにモニタ光を通した後、直接検波によりモニタ信号として電気信号に変換するモニタ用光受信手段と、モニタ信号に含まれる複数の周波数成分を分別することで、複数のCW信号のそれぞれの周波数成分に対応する信号強度および位相を算出するモニタ用周波数分別手段と、受信信号に含まれる複数の周波数成分を分別することで、複数のCW信号のそれぞれの周波数成分に対応する信号強度および位相を算出する受信用周波数分別手段と、モニタ用周波数分別手段により算出された信号強度に基づいて、複数のレーザ光発生手段から出力されるレーザ光のそれぞれの波長を制御する波長制御手段と、モニタ用周波数分別手段により算出された信号強度および位相と、受信用周波数分別手段により算出された信号強度および位相とに基づいて、装置−ターゲット間における計測対象であるガスの濃度を計測する信号処理手段とを備えるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る差分吸収ライダ装置によれば、計測対象となるガスの光吸収線近傍のレーザ光を発生させて2波長同時の送受信を行い、さらに波長変換後のレーザ光をモニタすることで2波長を所定の波長にロックさせる構成を備えることにより、2波長同時送受信による高精度・リアルタイム計測性を保持しつつ、光源の出力波長範囲と計測に適した光吸収線の波長とが一致しないガスを計測対象とすることができる差分吸収ライダ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置の構成を示す模式図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置における光吸収量と使用波長との関係を示す説明図である。
【図3】本発明の実施の形態1における波長変換器の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態1におけるモニタ用周波数分別器もしくは受信用周波数分別器の構成例を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態2に係わる差分吸収ライダ装置の構成を示す模式図である。
【図6】本発明の実施の形態2におけるモニタ用周波数分別器もしくは受信用周波数分別器の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の差分吸収ライダ装置の好適な実施の形態につき図面を用いて説明する。
【0018】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置の構成を示す模式図である。本実施の形態1における差分吸収ライダ装置は、光源1、光強度変調器2、変調信号発生器3、光合波器4、波長変換器5、光分配器6、ガス封入セル7、モニタ用光受信機8、モニタ用周波数分別器9、光源制御回路10、送信光学系11、受信光学系12、受信用光受信機13、受信用周波数分別器14、および信号処理器15を備えている。なお、図1においては、光源1、光強度変調器2、変調信号発生器3が、それぞれ2つで構成されている場合を例示しており、添字a、bが付されている。
【0019】
図1において、以下に示す構成要素間は、全て光回路線、例えば、光ファイバにより接続されている。
・光源1aと光強度変調器2aとの間
・光源1bと光強度変調器2bとの間
・光強度変調器2aと光合波器4との間
・光強度変調器2bと光合波器4との間
・光合波器4と波長変換器5との間
・波長変換器5と光分配器6との間
・光分配器6とガス封入セル7との間
・ガス封入セル7とモニタ用光受信機8との間
・光分配器6と送信光学系11との間
・受信光学系12と受信用光受信機13との間
【0020】
また、図1において、以下に示す構成要素間は、全て電線ケーブルにより接続されている。
・変調信号発生器3aと光強度変調器2aとの間
・変調信号発生器3bと光強度変調器2bとの間
・モニタ用光受信機8とモニタ用周波数分別器9との間
・モニタ用周波数分別器9と光源制御回路10との間
・受信用光受信機13と受信用周波数分別器14との間
・受信用周波数分別器14と信号処理器15との間
・モニタ用周波数分別器9と信号処理器15との間
【0021】
光源1a、1bは、CWレーザ光を送信する機能を有しており、送信する光波長は、光源1a、1bで異なっている。これらの異なる波長は、波長変換器5によって各々波長変換される。ここで、波長変換後の波長として、光源1aからの送信に関する波長変換後の波長をλON、光源1bからの送信に関する波長変換後の波長をλOFFとする。
【0022】
このとき、λONは、計測対象となる気体に関する光吸収係数が大きい波長に設定される。一方、λOFFは、光吸収係数が小さい波長に設定される。図2は、本発明の実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置における光吸収量と使用波長との関係を示す説明図である。なお、図2においては、λONは、光吸収特性の中心に設定されているが、λOFFに対し光吸収が大きくなる波長であれば、特に光吸収特性の中心に制限されるものではない。
【0023】
変調信号発生器3a、3bは、互いに異なる2つの周波数fm1およびfm2を持つCW信号を発生する機能を有している。また、光強度変調器2a。2bは、これらのCW信号により、光源1a、1bからのレーザ光に強度変調をかける機能を有している。
【0024】
光合波器4は、光強度変調器2a、2bからの強度変調されたレーザ光を合波し、波長変換器5に送る機能を有している。波長変換器5は、光合波器4からの合波された2波長のレーザ光の波長を変換した後、光分配器6に送る機能を有している。光分配器6は、入力されたレーザ光を分配し、一方をモニタ光としてガス封入セル7に送り、他の一方を送信光として送信光学系11に送る機能を有している。
【0025】
送信光学系11は、入力されたレーザ光を所定のビーム形状に成形した後、ターゲット(図1中では地表のようなハードターゲット)に向けてレーザ光を2波長同時に送信する機能を有している。
【0026】
ガス封入セル7は、計測対象となるガスと同一種類のガス、例えば、メタンといったガスが封入されており、入力された光をこのガス中に通した後、モニタ用光受信機8に送る機能を有している。モニタ用光受信機8は、入力されたレーザ光を直接検波によりモニタ信号として電気信号に変換し、モニタ用周波数分別器9に送る機能を有している。モニタ用周波数分別器9は、入力されたモニタ信号から変調周波数fm1およびfm2の成分を分別抽出し、fm1とfm2両方の成分を光源制御回路10および信号処理器15に送る機能を有している。
【0027】
受信光学系12は、ターゲットからの散乱光を受信光として受信して受信系の光回路(例えば、光ファイバ)に結合させ、この受信光を受信用光受信機13に送る機能を有している。受信用光受信機13は、入力されたレーザ光を直接検波により受信信号として電気信号に変換し、受信用周波数分別器14に送る機能を有している。受信用周波数分別器14は、入力された受信信号から変調周波数fm1およびfm2の成分を分別抽出し、両方の成分を信号処理器15に送る機能を有している。
【0028】
光源制御回路10は、入力された周波数fm1およびfm2の信号強度に基づいて、光源1a、1bの波長を制御する機能を有している。信号処理器15は、モニタ用周波数分別器9および受信用周波数分別器14のそれぞれから入力された、モニタ信号および受信信号における周波数fm1およびfm2の成分の信号強度および位相から、装置−ターゲット間における計測対象となるガスの濃度を算出する機能を有している。
【0029】
次に、図1に示した本実施の形態1における差分吸収ライダ装置の一連動作について説明する。まず、光源1a、1bからは、CWレーザ光が送信される。一方、変調信号発生器3a、3bからは、互いに異なる2つの周波数fm1およびfm2を持つCW信号が出力され、各々、光強度変調器2a、2bに送られる。光強度変調器2a、2bのそれぞれは、変調信号発生器3a、3bからの変調信号に基づいて、光源1a、1bからのCWレーザ光に強度変調をかける。
【0030】
次に、光合波器4は、光強度変調器2a、2bにより強度変調されたレーザ光を合波する。さらに、波長変換器5は、光源1a、1bからのレーザ光の各々に対し、2波長同時に波長変換をかける。波長変換後のレーザ光は、光分配器6に送られる。そして、光分配器6は、分配したレーザ光の一方をモニタ光としてガス封入セル7に送り、他の一方を送信光として送信光学系11に送る。
【0031】
モニタ光は、まず始めに、ガス封入セル7に通される。ここで、モニタ光の波長には、光源1aからの成分と、光源1bからの成分とが重畳されている。そして、これらの波長成分は、ガス封入セル7に封入されているガスの光吸収線中心付近であれば、光吸収を受けてガス封入セル7内で減衰する一方で、光吸収線から大きくずれていれば、減衰が生じることなく出力される。
【0032】
次に、モニタ用光受信機8は、ガス封入セル7からの出力を直接検波し、モニタ信号として電気信号に変換する。この直接検波により、レーザ光の強度波形が電気信号波形となるので、モニタ信号には、変調周波数である周波数fm1の成分とfm2の成分とが含まれる。つまり、モニタ信号には、光源1aからの成分と光源1bからの成分とが同時に重畳されているが、変調周波数が異なっているため分別が可能である。そこで、モニタ用周波数分別器9は、重畳されている2つの周波数を分別し、各々を光源制御回路10および信号処理器15に送る。
【0033】
次に、光源制御回路10は、入力された周波数fm1とfm2の成分の信号強度に基づいて、光源1a、1bの波長をフィードバック制御する。この際、光源制御回路10は、光源1aに対しては、周波数fm1の成分の信号強度を小さくするようにフィードバック制御をかける。これにより、光源1aからの出力が波長変換された成分が、ガス封入セル7におけるレーザ光の減衰が最も大きい波長、つまりON波長にロックされる。
【0034】
一方、光源制御回路10は、光源1bに対しては、周波数fm2の成分の信号強度を大きくするようにフィードバック制御をかける。これにより、光源1bからの出力が波長変換された成分が、ガス封入セル7におけるレーザ光の減衰が最も小さい波長、つまりOFF波長にロックされる。この動作により、波長変換後の2つの光波長がON波長およびOFF波長に精度よくロックされる。
【0035】
このようなモニタ信号処理の一方で、送信光学系11に送られた送信光は、所定のビーム形状に成形された後、ターゲットに向けて2波長同時に送信される。この送信光は、ターゲットにより散乱され、その散乱光は、受信光として受信光学系12により2波長同時に受信される。
【0036】
装置―ターゲット間の空間に、計測対象となるガスがほとんど存在しない場合、ON波長、OFF波長の2波長が空間中の伝搬過程において受ける光吸収の影響は、いずれも殆どない。従って、送信光学系からの送信光に含まれる2波長成分の強度の比と受信光に含まれる2波長成分の強度の比は、ほぼ同じとなる。
【0037】
それに対し、装置−ターゲット間の空間に、計測対象となるガスが存在する場合には、2波長が空間中の伝搬過程において受ける光吸収の影響があり、ON波長成分が、装置−ターゲット間の計測対象となるガスの濃度に依存して相対的に減衰した後に受信される。
【0038】
受信光は、受信系の光回路に結合された後、受信用光受信機13により直接検波され、受信信号として電気信号に変換される。このような直接検波によりレーザ光の強度波形が電気信号波形となるので、受信信号には、モニタ信号と同様、変調周波数である周波数fm1の成分とfm2の成分とが含まれる。つまり、受信信号には、光源1aからの成分と光源1bからの成分とが同時に重畳されているが、変調周波数が異なっているため分別が可能である。そこで、受信用周波数分別器14は、重畳されている2つの周波数を分別し、各々を信号処理器15に送る。
【0039】
次に、信号処理器15は、モニタ用周波数分別器9および受信用周波数分別器14から入力された、モニタ信号および受信信号における周波数fm1およびfm2の成分の信号強度および位相から、装置−ターゲット間における計測対象となるガスの濃度を算出する。
【0040】
このガス濃度の算出においては、まず、装置−ターゲット間の距離を算出する。この距離算出は、モニタ用周波数分別器9からの周波数fm2の成分と受信用周波数分別器14からの周波数fm2の成分との間の位相差を両信号の位相検波により求める。具体的には、この位相差をΔφとし、光速をc、nを1以上の整数として、次式(1)により算出する。
L=n×c×Δφ/(2π×2×fm2) (1)
【0041】
上式(1)において、整数nは、装置−ターゲット間に関する粗い先見情報さえあれば、既知とすることが可能である。例えば、変調周波数fm2に100kHzを使用する場合であれば、この変調周波数の1周期に相当する往復距離は、1.5kmである。そこで、装置−ターゲット間距離に関し、1.5kmの何倍以上であるかさえ把握しておけばよく、この把握は、通常の計測の場合において可能である。
【0042】
次に、装置−ターゲット間における計測対象となるガスによる光吸収量を算出する。この光吸収量算出は、モニタ用周波数分別器9からの周波数fm1およびfm2の成分と、受信用周波数分別器14からの周波数fm1およびfm2の成分の信号強度を用いて求められる。
【0043】
具体的には、モニタ用周波数分別器9からの周波数fm1およびfm2の成分の信号強度を各々Im1およびIm2とし、受信用周波数分別器14からの周波数fm1およびfm2の成分の信号強度を各々Is1およびIs2とし、ガス封入セル7におけるON波長の透過率をTとし、次式(2)により、光吸収量が算出される。
【0044】
【数1】

【0045】
なお、ガス封入セル7におけるON波長の透過率Tは、ガス封入セル7内に封入するガスの濃度と光吸収特性が既知であれば、既知とすることができる。また、上式(2)の括弧内において平方根をとっているのは、直接検波により得られた電気信号の強度が、レーザ光の信号強度の自乗に比例する関係となっていることによる。この計算により、装置内部での送信光のON波長とOFF波長のパワー比が相殺され、装置−ターゲット間のみでの光吸収量が算出できる。
【0046】
以上に述べた手順により、信号処理器15において装置−ターゲット間における距離と光吸収量の算出を行い、この距離と光吸収量とから、装置−ターゲット間におけるガス濃度が算出される。
【0047】
本実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置は、特許文献1に記載された従来の差分吸収ライダ装置では困難だった、2波長同時の送受信機能を保持しつつ、さらに波長変換機能を実現し、さらに波長変換後のレーザ光波長を所定の値に精度よくロックできる。このため、2波長同時の送受信を行いながら、従来では計測対象とできなかったガスの濃度を計測することが可能となり、計測精度の向上を実現できる。具体的には、非特許文献2に示されているように、波長1.5μm帯の光源からのレーザ光を、3μm帯に変換することにより、メタンガスの高精度計測が可能となる。
【0048】
なお、本実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置においては、ON波長を光吸収線中心にロックするとして説明していた。しかしながら、ロックする波長は、光吸収線の中心近傍でOFF波長に対し顕著に光吸収の大きい波長であれば、特に中心である必要はない。ガス封入セル7に封入するガスの光吸収特性を把握しておけば、ガス封入セル7における透過率が所定の値となるよう光源1aに制御をかけることで、ON波長を光吸収線近傍の所定の波長にロックすることが可能である。
【0049】
また、本実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置は、波長変換器5が必須であるが、この構成について、図を用いて具体的に説明する。図3は、本発明の実施の形態1における波長変換器5の構成例を示す図である。図3に示した波長変換器5は、波長変換用光源51、光合波器52、波長変換素子53、および光フィルタ54を備えて構成されている。
【0050】
光合波器52は、波長変換用光源51からのレーザ光と、外部から入力される2波長のレーザ光の各々とを合波して出力する。次に、波長変換素子53は、光合波器52からの出力信号を波長変換する。そして、最終段の光フィルタ54は、波長変換において生じる所望成分以外の波長成分を除去後、出力する。
【0051】
図3の構成とし、例えば、光源1a、1bの出力波長を1.5μm帯、波長変換用光源51の波長を1μm帯とし、波長変換素子53にPPMgLNを用いることで、波長3μm帯の2波長のレーザ光を生成することが可能となる。
【0052】
また、本実施の形態1に係わる差分吸収ライダ装置では、モニタ用周波数分別器9と受信用周波数分別器14とが必要であるが、この構成について、図を用いて具体的に説明する。図4は、本発明の実施の形態1におけるモニタ用周波数分別器9もしくは受信用周波数分別器14の構成例を示す図である。なお、モニタ用周波数分別器9と受信用周波数分別器14とは同一構成であり、以下の説明では、モニタ用周波数分別器9の内部構成について詳細に説明する。
【0053】
図4に示したモニタ用周波数分別器9は、AD変換部91、FFT演算部92、位相・強度抽出部93を備えて構成されている。AD変換部91は、例えば、モニタ信号をAD変換する。次に、FFT演算部92は、AD変換後の信号にFFT処理を施すことにより、周波数スペクトルを複素振幅で求める。この周波数スペクトルは、2波長に対応する2つの変調周波数fm1およびfm2の位置にピークが生じる。そして、最終段の位相・強度抽出部93は、複素振幅の自乗値からこのピークにおける強度を求めるとともに、複素振幅の位相からこのピークにおける位相を求めることが可能となる。
【0054】
以上のように、実施の形態1によれば、計測対象となるガスの光吸収線近傍のレーザ光を発生させて2波長同時の送受信を行い、さらに、波長変換後のレーザ光をモニタすることで2波長を所定の波長にロックさせる構成を備えている。この結果、2波長同時送受信による高精度・リアルタイム計測性を保持しつつ、光源の出力波長範囲と計測に適した光吸収線の波長とが一致しないガスを計測対象とすることができる差分吸収ライダ装置を得ることができる。
【0055】
実施の形態2.
図5は、本発明の実施の形態2に係わる差分吸収ライダ装置の構成を示す模式図である。本実施の形態2における差分吸収ライダ装置は、光源1、光強度変調器2、変調信号発生器3、光合波器4、波長変換器5、光分配器6、ガス封入セル7、モニタ用光受信機8、モニタ用周波数分別器9、光源制御回路10、送信光学系11、受信光学系12、受信用光受信機13、受信用周波数分別器14、信号処理器15、および電気信号分配器16を備えている。なお、図5においては、光源1、光強度変調器2、変調信号発生器3、および電気信号分配器16が、それぞれ2つで構成されている場合を例示しており、添字a、bが付されている。
【0056】
本実施の形態2における図5の構成は、先の実施の形態1における図1の構成と比較すると、電気信号分配器16a、16bをさらに備えている点が異なっている。また、図6を用いて後述するように、本実施の形態2におけるモニタ用周波数分別器9および受信用周波数分別器14の内部構成は、先の実施の形態1で示した内部構成と異なっている。なお、モニタ信号および受信信号の周波数分別以外の動作に関しては、モニタ用周波数分別器9および受信用周波数分別器14は、先の実施の形態1と同じである。そこで、これらの異なる構成、動作を中心に、以下に説明する。
【0057】
図5において、変調信号発生器3a、3bからの変調信号は、電気信号分配器16a、16bにより、それぞれ3つに分配される。そして、電気信号分配器16aにより分配された3つの信号は、光強度変調器2a、モニタ用周波数分別器9、および受信用周波数分別器14にそれぞれ接続されている。同様に、電気信号分配器16bにより分配された3つの信号は、光強度変調器2b、モニタ用周波数分別器9、および受信用周波数分別器14にそれぞれ接続されている。
【0058】
図6は、本発明の実施の形態2におけるモニタ用周波数分別器9もしくは受信用周波数分別器14の構成例を示す図である。なお、モニタ用周波数分別器9と受信用周波数分別器14とは同一構成であり、以下の説明では、モニタ用周波数分別器9の内部構成について詳細に説明する。
【0059】
図6に示したモニタ用周波数分別器9は、3つの0度電気信号分配器94a〜94c、3つの90度電気信号分配器95a〜95c、4つのミキサ96a〜96d、4つのローパスフィルタ97a〜97d、および1つの位相・強度抽出部93を備えて構成されている。ここで、3つの0度電気信号分配器94a〜94c、3つの90度電気信号分配器95a〜95c、4つのミキサ96a〜96d、および4つのローパスフィルタ97a〜97dは、ロックイン検波部に相当する。
【0060】
図6において、モニタ用光受信機8からのモニタ信号もしくは受信用光受信機13からの受信信号は、0度電気信号分配器94aにより2分配された後、さらに、0度電気信号分配器94b、94cにより2分配される。そして、図6に示した構成により、周波数fm1およびfm2でロックイン検波され、モニタ信号もしくは受信信号から、2つの周波数の複素振幅信号がIQ信号として抽出され、4つのローパスフィルタ97a〜97dから出力される。位相・強度抽出部93は、ローパスフィルタ97a〜97dの出力であるIQ信号から、周波数fm1およびfm2の成分の強度・位相を求めることが可能となる。
【0061】
このように、本実施の形態2に係わる差分吸収ライダ装置は、周波数分別機能にロックイン検波方式を採用することで、先の実施の形態1で説明したFFTのような複雑なデジタル演算をする必要がなく、周波数分別機能を実現できる。従って、光源の波長の制御やガス濃度の計測を、よりリアルタイムに行うことが新たに可能となる。
【0062】
以上のように、実施の形態2によれば、計測対象となるガスの光吸収線近傍のレーザ光を発生させて2波長同時の送受信を行い、さらに、波長変換後のレーザ光をモニタすることで2波長を所定の波長にロックさせる構成を備えている。この結果、2波長同時送受信による高精度・リアルタイム計測性を保持しつつ、光源の出力波長範囲と計測に適した光吸収線の波長とが一致しないガスを計測対象とすることができる差分吸収ライダ装置を得ることができる。
【0063】
さらに、FFTのような複雑なデジタル演算をする必要がなく、周波数分別機能を実現できるため、光源の波長の制御やガス濃度の計測を、よりリアルタイムに行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0064】
1、1a、1b 光源、2、2a、2b 光強度変調器、3、3a、3b 変調信号発生器、4 光合波器、5 波長変換器、6 光分配器、7 ガス封入セル、8 モニタ用光受信機、9 モニタ用周波数分別器、10 光源制御回路(波長制御手段)、11 送信光学系、12 受信光学系、13 受信用光受信機、14 受信用周波数分別器、15 信号処理器(波長制御手段)、16、16a、16b 電気信号分配器、51 波長変換用光源、52 光合波器、53 波長変換素子、54 光フィルタ、91 AD変換部、92 FFT演算部、93 位相・強度抽出部、94a〜94c 0度電気信号分配器、94a〜95c 90度電気信号分配器、96a〜96d ミキサ、97a〜97d ローパスフィルタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる複数の波長からなるレーザ光をそれぞれ発生させる複数のレーザ光発生手段と、
前記複数の波長からなるレーザ光の各波長成分に対して互いに異なる周波数を持つ複数のCW信号で強度変調をかける光強度変調手段と、
前記光強度変調手段による強度変調後の各波長成分のレーザ光を合波する光合波手段と、
前記光合波手段による合波後のレーザ光を波長変換する波長変換手段と、
前記波長変換手段による波長変換後の光をモニタ光と送信光とに分配する光分配手段と、
空間中に存在するターゲットに向けて前記送信光を送信する送信光学手段と、
前記ターゲットからの散乱光を受信光として受信して、直接検波により受信信号として電気信号に変換する受信用光受信手段と、
計測対象となるガスと同一種類のガス封入セルに前記モニタ光を通した後、直接検波によりモニタ信号として電気信号に変換するモニタ用光受信手段と、
前記モニタ信号に含まれる複数の周波数成分を分別することで、前記複数のCW信号のそれぞれの周波数成分に対応する信号強度および位相を算出するモニタ用周波数分別手段と、
前記受信信号に含まれる複数の周波数成分を分別することで、前記複数のCW信号のそれぞれの周波数成分に対応する信号強度および位相を算出する受信用周波数分別手段と、
前記モニタ用周波数分別手段により算出された信号強度に基づいて、前記複数のレーザ光発生手段から出力されるレーザ光のそれぞれの波長を制御する波長制御手段と、
前記モニタ用周波数分別手段により算出された信号強度および位相と、前記受信用周波数分別手段により算出された信号強度および位相とに基づいて、装置−ターゲット間における計測対象であるガスの濃度を計測する信号処理手段と
を備えることを特徴とする差分吸収ライダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の差分吸収ライダ装置において、
前記波長変換手段は、
波長変換用のレーザ光を出力する光源と、
前記光合波手段による合波後のレーザ光と前記光源から出力されたレーザ光とを合波する第2光合波手段と、
前記第2光合波手段による合波後の光信号を波長変換する波長変換素子と、
前記波長変換において生じる所望成分以外の波長成分を除去した波長変換後の光信号を出力する光フィルタと
を備えることを特徴とする差分吸収ライダ装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の差分吸収ライダ装置において、
前記モニタ用周波数分別手段および前記受信用周波数分別手段のそれぞれは、
入力する電気信号に対してAD変換を施すAD変換部と、
AD変換後の信号にFFT処理を施すことで、周波数スペクトルを複素振幅として算出するFFT演算部と、
前記複素振幅の自乗値からピークにおける信号強度を求めるとともに、前記複素振幅の位相からピークにおける位相を求める位相・強度抽出部と
を備えることを特徴とする差分吸収ライダ装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の差分吸収ライダ装置において、
前記モニタ用周波数分別手段および前記受信用周波数分別手段のそれぞれは、
入力する電気信号に対して、前記複数のCW信号のそれぞれの周波数成分でロックイン検波することで、前記それぞれの周波数成分の複素振幅を抽出するロックイン検波部と、
前記複素振幅の自乗値からピークにおける信号強度を求めるとともに、前記複素振幅の位相からピークにおける位相を求める位相・強度抽出部と
を備えることを特徴とする差分吸収ライダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−123016(P2011−123016A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282971(P2009−282971)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】