説明

差動式キャスタ

【課題】小型,軽量な差動式キャスタを提供する。
【解決手段】差動式キャスタ3は、一対の減速機付きモータ60と、一対の減速機付きモータ60の出力軸86にそれぞれ連係された一対の車輪90とからなる。減速機80は、回転子71のモータ軸72に取り付けられ、モータ軸72の回転とともに回転する連結部材81と、モータ軸72に対し径方向に離間した位置において連結部材71に回転自在に支持された第1遊星歯車82と、モータハウジング73に取付けられ第1遊星歯車82と噛合する第1太陽歯車83と、第1遊星歯車82に対し、同軸状かつ一体的に連結された第2遊星歯車84と、第2遊星歯車84と噛合するとともに出力軸86が一体的に形成されている第2太陽歯車85とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一対の車輪を有する差動式キャスタに関し、特に、電動車椅子に用いられる差動式キャスタに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化社会がさらに進行してきており、道路や病院のみならず一般住居内においても、電動車椅子が利用され始めている。一般住居内は移動スペースが狭いため、大きな回転半径で旋回移動することが困難であり、その場で、電動車椅子自体を回転させる動作が求められる。また、一般住居内で利用される電動車椅子は、例えば、台所での家事において、前後方向のみならず左右方向など全方向に移動することが求められている。そこで、差動式キャスタを電動車椅子に用い、移動の自由度を拡張することができる電動車椅子の提案がなされている(例えば、特許文献1から3)。
【0003】
このような電動車椅子は、ベースプレートに駆動用の差動式キャスタが取り付けられている。そして、差動式キャスタは、電動車椅子のベースプレートに取り付けられる取付け部材と、取付け部材に回転自在に支持される支軸と、この支軸の一端に設けられた一対の減速機付きモータと、一対の減速機付きモータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪と、を備える。差動式キャスタに設けられている一対の車輪は、それぞれ独立して回転することができ、例えば、それぞれの車輪を反対の方向に回転させることにより、差動式キャスタ自体を電動車椅子のベースプレートに対して回転させることが可能である。
【0004】
このように差動式キャスタ自体を回転させることにより、その場で電動車椅子を回転させる向きに差動式キャスタの向きを設定することや、電動車椅子を左右方向に走行させる向きに差動式キャスタの向き設定することが可能である、そして、差動式キャスタにより、電動車椅子をその場で回転させることや、左右方向に電動車椅子を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−136837号公報
【特許文献2】特開2008−212272号公報
【特許文献3】特開2008−213570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、差動式キャスタが用いられる電動車椅子は、一般住居内での利用が想定されている。そして、一般住居内への搬入および一般住居内での段差の乗り越えを容易にするため、差動式キャスタを小型,軽量にすることにより、電動車椅子を小型,軽量にすることが求められている。
【0007】
そこで、この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、小型,軽量な差動式キャスタを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の差動式キャスタは、取付け部材と、前記取付け部材に回転自在に支持された支軸と、前記支軸の一端に設けられ、電動モータおよび前記電動モータのモータ軸が連結された減速機とを有する一対の減速機付きモータと、前記一
対の減速機付きモータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とからなる差動式キャスタにおいて、前記電動モータは、モータ軸を有する回転子と、前記回転子を内包するモータハウジングとを備え、前記減速機は、前記回転子の前記モータ軸に取り付けられ、前記モータ軸の回転とともに回転する連結部材と、前記モータ軸に対し径方向に離間した位置において前記連結部材に回転自在に支持された第1遊星歯車と、前記モータハウジングに取付けられ前記第1遊星歯車と噛合する第1太陽歯車と、前記第1遊星歯車に対し、同軸状かつ一体的に連結された第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車と噛合するとともに前記出力軸が一体的に形成されている第2太陽歯車とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、第1および第2遊星歯車、第1および第2太陽歯車より構成される歯車装置は、いわゆる差動歯車装置と呼ばれ、大きな減速比を小型な構成で実現できるものである。そのため、減速機を小型に形成することができ、減速機を備える差動式キャスタを小型にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施の形態における電動車椅子の斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における電動車椅子の正面図である。
【図3】本発明の実施の形態における電動車椅子の底面図である。
【図4】図2においてA−A面から見た電動車椅子の側面図である。
【図5】本発明の実施の形態における差動式キャスタの一部断面図である。
【図6】本発明の実施の形態における差動式キャスタの減速機を示す拡大図である。
【図7】本発明の実施の形態におけるラチェット装置の正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、この発明の実施の形態である差動式キャスタを用いた電動車椅子について、図1から図4に基づき説明する。図1は、電動車椅子の斜視図であり、図2は、電動車椅子の正面図であり、図3は、電動車椅子の底面図である。また、図4は、図2においてA−A面から見た電動車椅子の側面図である。
【0012】
図1から図3に示すように、電動車椅子1は、金属の板材よりなるベースプレート2と、ベースプレート2に下方に向けて取り付けられている第1から第3差動式キャスタ(3,4,5)並びに第1および第2支持キャスタ(6,7)と、ベースプレート2の上方に設置されている昇降機構部10と、昇降機構部10の上方に設けられている昇降プレート15と、昇降プレート15の上方に設置されているスライド機構部16と、スライド機構部16の上方に設けられている椅子20と、昇降機構部10およびスライド機構部16を作動するリニアアクチュエータ9とを主に備える。
【0013】
図3に示すように、ベースプレート2において、第1差動式キャスタ3は前方左側に配置され、第2差動式キャスタ4は前方右側に配置され、第3差動式キャスタ5は、後方中央に配置されており、第1から第3差動式キャスタ(3,4,5)は、三角形を形成する位置に配置されている。また、ベースプレート2において、第1支持キャスタ6は後方左側に配置され、第2支持キャスタ7は後方右側に配置されている。なお、第1から第3差動式キャスタ(3,4,5)の構造の詳細については後述する。
【0014】
次に、図4に基づき第1支持キャスタ6の構成について説明する。なお、第2支持キャスタ7は第1支持キャスタ6の構成と同一であるため、第1支持キャスタ6についてのみ説明し、第2支持キャスタ7には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0015】
第1支持キャスタ6は、ベースプレート2に取り付けられる取付部材31と、取付部材
31に一体的に取り付けられている第1シャフト32と、台座部材33が取り付けられ、第1シャフト32に対し軸方向に摺動可能に配置されている第2シャフト34と、取付部材31と台座部材33との間に配置されるコイルバネ35と、第2シャフト34の端部に回転自在に取付られている一対の車輪(36,37)とを備えている。
【0016】
第1から第3差動式キャスタ(3,4,5)により平らな床面に電動車椅子1が立設したときに、第1および第2支持キャスタ(6,7)の車輪(36,37)は、床面に対し、所定の距離dだけ離間した位置に配置されるよう設定されている。このように車輪(36,37)が所定の距離dだけ離間した位置に配置されているため、通常の走行においては、第1および第2支持キャスタ(6,7)により電動車椅子1の走行を阻害することがない。そして、電動車椅子1が姿勢を崩して転倒しそうになった場合には、第1および第2支持キャスタ(6,7)が床面と当接し電動車椅子1の姿勢を保ち、転倒を防止することができる。
【0017】
次に、図1、図2および図4に基づき、リニアアクチュエータ9および昇降機構部10について説明する。リニアアクチュエータ9は介護用ベッドの寝床部の昇降等に用いられる周知のアクチュエータであり、モータ部9aと、ロッド部9dと、モータ部9aとロッド部9dとの間に設けられ、モータ部6からの回転を直動運動に変換しロッド部9dを直動動作させる直動変換部9cと、ベースプレート2に一体的に立設されている取付プレート2bに回転自在に軸支される取付部9bとを備える。なお、リニアアクチュエータ9に電力を供給するバッテリ8は、ベースプレート2の下方に設けられたバッテリ収容部2aに収容されている。
【0018】
昇降機構部10は、ベースプレート2の上方にて電動車椅子1の右側に設けられている第1リンク機構部11と、左側に設けられている第2リンク機構部12と、第1および第2リンク機構部(11,12)を連係する連結ロッド13と、連結ロッド13とリニアアクチュエータ9のロッド部9dとを連係するリンクロッド14aとを備えている。
【0019】
次に、図4に基づき第1リンク機構部11について説明する。なお、第2リンク機構部12は第1リンク機構部11との同一の構成部材が左右対称に配置され構成されるものであるため、第1リンク機構部11についてのみ説明し、第2リンク機構部12において第1リンク機構部11に対応する構成部材には、第1リンク機構部11と同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0020】
第1リンク機構11は、ベースプレート2と昇降プレート15との間に設置されている。そして、第1リンク機構11は、ベースプレート2の上方にて前方に設置されているヒンジ部材45と、同じく後方に設置され、スライド溝43aが形成されているスライドレール43と、昇降プレート15の下方にて前方に設置されているヒンジ部材46と、同じく後方に設置され、スライド溝44aが形成されているスライドレール44と、2つのロッド部材(41,42)とを備える。
【0021】
ロッド部材41の一端にはローラ部材47が回転自在に設けられ、このローラ部材47はスライド溝44aにガイドされつつ摺動自在に配置され、ロッド部材41の他端はヒンジ部材45に回転自在に取り付けられている。同様に、ロッド部材42の一端にはローラ部材48が回転自在に設けられ、このローラ部材48はスライド溝43aにガイドされつつ摺動自在に配置され、ロッド部材42の他端はヒンジ部材46に回転自在に取り付けられている。
【0022】
上記のように設置されるロッド部材(41,42)は、互いに交差し、X字形状に配置され、それぞれの長手方向の中心部が回転自在に連結されるとともに連結ロッド13に連
係されている。そして、前述のように連結ロッド13は、リンクロッド14aにより直動動作するリニアアクチュエータ9のロッド部9dに連結されている。また、ロッド部材(41,42)のは、それぞれ突き当て手段としてのネジ(49,50)が取付けられており、ロッド部材41のネジ49がロッド部材42に、ロッド部材42のネジ50がロッド部材41にそれぞれ突き当たることにより、連結ロッド13は、所定の位置より下方に降下しないように設定されている。
【0023】
ロッド部9dが前方に向けて伸びる方向に直動動作すると、リンクロッド14aを介してロッド部9dの動作とともに、連結ロッド13が上方に移動する。このように、連結ロッド13が上方に移動すると、ロッド部材41のローラ部材47およびロッド部材42のローラ部材48は、ともにスライド溝(44a,43a)を前方方向にスライドする。そして、X字形状に配置されたロッド部材(41,42)は、ヒンジ部材(45,46)が互いに遠ざかる方向、すなわち、昇降プレート15を押し上げる方向に配置状態を変化させ、昇降プレート15は上昇する。
【0024】
同様に、ロッド部9dが後方に向けて縮む方向に直動動作すると、リンクロッド14aを介してロッド部9dの動作とともに、連結ロッド13が下方に移動する。このように、連結ロッド13が下方に移動すると、ロッド部材41のローラ部材47およびロッド部材42のローラ部材48は、ともにスライド溝(44a,43a)を後方方向にスライドする。そして、X字形状に配置されたロッド部材(41,42)は、ヒンジ部材(45,46)が互いに近づく方向、すなわち、昇降プレート15を下げる方向に配置状態を変化させ、昇降プレート15は降下する。
【0025】
上記のように、ヒンジ部材(45,46)が互いに近づく方向にロッド部材(41,42)の配置状態が変化し続けると、ロッド部材41に取付けられているネジ49がロッド部材42に、ロッド部材42に取付けられているネジ50がロッド部材41にそれぞれ突き当たる。そして、ヒンジ部材(45,46)が互いに近づく方向への配置状態の変化を、ロッド部材(41,42)は継続することができなくなり、ロッド部材(41,42)の配置状態の変化は停止される。このように、ロッド部材(41,42)が作動を停止することにより、ロッド部材(41,42)に連係されている連結ロッド13が下方に移動する動作も停止する。そして、その後に、リニアアクチュエータ9のロッド部9dが縮む方向に作動した場合でも、連結ロッド13の下方への移動は禁止される。
【0026】
次に、スライド機構部16について、図1、図2および図4に基づき説明する。スライド機構部16は、昇降プレート15の上方に設けられており、スライドレール(161,162)と、スライド部材(163,164)と、ローラ部材(165,165,166,166)と、コイルバネ(167,167,167)と、押し当て部材170と、スライドプレート170と、を主に備える。
【0027】
スライドプレート161は、昇降プレート15の上方左側の位置にて前後方向に伸びる方向に取り付けられている。そして、図4に示すように、スライドプレート161には、スライド溝161aが形成されており、このスライド溝161aに所定の間隔を隔ててローラ部材(165,165)が前後方向に移動自在に配置され、ローラ部材(165,165)には、スライド部材163が取付けられている。
【0028】
また、スライドプレート162は、昇降プレート15の上方右側の位置にて前後方向に伸びる方向に取り付けられている。そして、スライドプレート161と同様に、スライドプレート162には、スライド溝162aが形成されており、このスライド溝162aに所定の間隔を隔ててローラ部材(166,166)が前後方向に移動自在に配置され、ローラ部材(166,166)には、スライド部材164が取付けられている。
【0029】
スライド部材(163,164)には、上面に椅子20が設置されるスライドプレート171が取付けられている。スライドプレート171の下面の略中央部および昇降プレート15の上面の後端部には、それぞれバネフック(169,168)が取り付けられ、このバネフック(169,168)にコイルバネ167が張架されている。そして、コイルバネ167によって、椅子20が設置されているスライドプレート171は、後方に配置される。 また、図4に示すように、スライドプレート171の下面には、回転部材14の押出ロッド14bの端部が当接可能な位置にて、押し当て部材170が取り付けられている。
【0030】
上記に示すように、ロッド部材(41,42)に取り付けられているネジ(49,50)が、それぞれロッド部材(42,41)に突き当たることにより、連結ロッド13の下方への作動は禁止される。このように、連結ロッド13の下方への動作が禁止された後に、さらに、リニアアクチュエータ9のロッド部9dが縮む方向に作動した場合、連結ロッド13に回転自在に取付けられている回転部材14は、連結ロッド13を中心に回転する。そして、回転部材14の回転により、回転部材14を構成する押出ロッド14bもスライドプレート171に取付けられている押し当て部材170を前方に押し出す方向に回転する。そのため、椅子20が取り付けられているスライドプレート171は前方にスライドし、椅子20は前方に移動する。
【0031】
次に、図5に基づき、電動車椅子1に備えられている第1差動式キャスタ3について説明する。なお、第2および第3差動式キャスタ(4,5)の構造は、第1差動式キャスタ3の構造と同一であり、第1差動式キャスタ3についてのみ説明し、第2および第3差動式キャスタ(4,5)の各構成部品については、第1差動式キャスタ3の構成部品と同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0032】
第1差動式キャスタ3は、ベースプレート2に下方から取り付けられる取付け部材51と、取付け部材51の内周51aに配置されている軸受(57,57)と、軸受(57,57)の内側に配置され、取付け部材51に対し回転自在に支持されているスリップリングフォルダ52と、スリップリングフォルダ52に取り付けられ、スリップリングフォルダ52を介して取付け部材51に対し回転自在に支持されている支軸53と、支軸53の一端53aに回転自在に取付けられている連結棒54と、連結棒54の両端に取り付けられている一対の減速機付きモータ(60,60)と、減速機付きモータ(60,60)の出力軸(86,86)にそれぞれ連係された一対の車輪(90,90)と、を備える。なお、減速機付きモータ60および車輪90の詳細については、後述する。
【0033】
さらに、第1差動式キャスタ3は、スリップリングフォルダ52内に設けられているスリップリング59と、回転検出装置100と、スリップリング59および回転検出装置100を内包するカバー体Cとを有する。スリップリング59の入力部59aには、図示しない制御装置からの制御電流を供給する給電線L1が接続され、スリップリング59の出力部59bには、減速機付きモータ60にスリップリンク59を介して制御電流を供給する供給線L2が接続されている。このように、スリップリング59を介して供給線(L1,L2)を配策することにより、第1差動式キャスタ3がベースプレート2に対して回転して、供給線(L1,L2)が捩れることがない。
【0034】
回転検出装置100は、スリップリングフォルダ52の外周に一体的に取り付けられているリングギヤ101と、リングギヤ101と噛合するピニオンギヤ102と、ピニオンギヤ102が取り付けられ取付け部材51に固定されているエンコーダ103とを備える。スリップリングフォルダ52は、支軸53とともにベースプレート2に取り付けられている取付け部材51に対し回転し、スリップリングフォルダ52に取付けられているリン
グギヤ101は、ベースプレート2に対する支軸53の回転と同一の回転を行う。このリングギヤ101の回転を、ピニオンギヤ102を介してエンコーダ103で検出することにより、第1差動式キャスタ3の回転位置を示す支軸53の回転が、エンコーダ103により検出される。
【0035】
減速機付きモータ60は、電動モータ70および減速機80を備える。電動モータ70は、モータハウジング73と、モータハウジング73内に回転自在に配置され、モータ軸72を有する回転子71とを備える。そして、モータハウジング73が転結棒54の端部に取り付けられているモータフランジ56に取り付けられることにより、電動モータ70は、連結棒54を介して支軸54に回転自在に連係される。また、減速機80は、電動モータ70のモータ軸72に連結されている。なお、減速機80の詳細については、後述する。
【0036】
減速機付きモータ(60,60)の出力軸(86,86)には、それぞれ車輪(90,90)が連係されている。車輪90は、出力軸86に取り付けられている第1ホイール91と、第1ホイール91の外周にネジ94により一体的に取付けられ、弾性を有するリング体93と、第1ホイール91の開口を覆う第2ホイール92とを備えている。そして、第1ホイール91は、モータフランジ56の外周に装着されている軸受(58,58)に回転自在に支持され、これにより車輪90は、減速機付きモータ60の出力軸86とともに回転自在な構成となっている。
【0037】
次に、図6および図7に基づき本実施の形態の減速機80について説明する。減速機80は、回転子71のモータ軸72に取り付けられ、モータ軸72の回転とともに回転する連結部材82と、モータ軸72に対し径方向に離間した位置において連結部材82に回転自在に支持された第1遊星歯車82と、モータハウジング73にラチェット装置87を介して取付けられ、第1遊星歯車82と噛合する第1太陽歯車83と、第1遊星歯車82に対し、同軸状かつ一体的に連結された第2遊星歯車84と、第2遊星歯車84と噛合するとともに出力軸86が一体的に形成されている第2太陽歯車85とを備えている。
【0038】
上記の転結部材82、第1および第2遊星歯車(82,84)、第1および第2太陽歯車(83,85)より構成される歯車装置は、いわゆる差動歯車装置と呼ばれ、大きな減速比を小型な構成で実現できるものである。そのため、減速機80を小型に形成することができ、減速機80を備える差動式キャスタ(3,4,5)を小型にすることができる。
【0039】
次に、減速機80に備わるラチェット装置87について説明する。ラチェット装置87は、第1太陽歯車83とモータハウジング73との間に配置され、ネジS1により第1太陽歯車83に取り付けられている略円盤形状の回転体88と、ネジS2によりモータハウジング73に取付けられ、弾性を有する略C字形状のラチェットバネ89とを備えている。
【0040】
回転体88の外周には、第1係止手段としての第1突起部(88a,88a)が形成されている。また、ラチェットバネ89の両端部には、第2突起部(88a,88a)と係合する第2係止手段としての突起部(89a,89a)が形成されている。
【0041】
このように、第1および第2突起部(88a,89a)が互いに係合することにより、通常、回転体88は、ラチェットバネ89を介してモータハウジング73に対して回転しない。そのため、回転体88が一体的に取り付けられている第1太陽歯車83もモータハウジング73に対して回転しない。
【0042】
しかしながら、車輪90に外部から大きな回転トルクが作用した場合には、車輪90か
らの回転により、回転体88の第1突起部88aのラチェットバネ89の第2突起部89aとの係合が解除され、モータハウジング73に対し回転体88が自在に回転可能となる。すなわち、車輪90に作用するトルクは、出力軸86から順に、第2太陽歯車85、第2遊星歯車84、第1遊星歯車82、第1太陽歯車83、回転体88に伝わり、この回転体88に作用する大きなトルクにより、ラチェットバネ89の両端部が径方向に広がり、回転体88の第1突起部88aのラチェットバネ89の第2突起部89aとの係合が解除され、これにより、モータハウジング73に対し回転体88が自在に回転可能となる。
【0043】
そして、モータハウジング73に対し回転体88が回転可能となった結果、モータハウジング73に対し車輪90が回転可能となる。つまり、車輪90に大きな回転トルクが作用した場合、ラチェット装置87により、車輪90の回転が許容されることになる。このように、車輪90に大きな回転トルクが作用した場合、車輪90の回転が許容されることにより、歯車(82,83,84,85)間の摩擦力により車輪90が外部から回転させることができない場合にも、ラチェット装置87により、車輪90の回転が許容されることとなる。その結果、電動モータ70に制御電流が供給されない等の場合において、外部から差動キャスタ(3,4,5)を作動させることができる。
【0044】
なお、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
【符号の説明】
【0045】
1 電動車椅子、2 ベースプレート、3 第1差動式キャスタ、4 第2差動式キャスタ、5 第3差動式キャスタ、6 第1支持キャスタ、7 第2支持キャスタ、9 リニアアクチュエータ、9a モータ部、9d ロッド部、10 昇降機構部、11 第1リンク機構部、41 ロッド部材、42 ロッド部材、43 スライドレール、44 スライドレール、45 ヒンジ部材、46 ヒンジ部材、47 ローラ部材、48 ローラ部材、49 ネジ(突き当て手段)、50 ネジ(突き当て手段)、12 第2リンク機構部、13 連結ロッド、14 回転部材、14a リンクロッド、14b 押出ロッド、15 昇降プレート、16 スライド機構部、161 スライドレール、162 スライドレール、163 スライド部材、164 スライド部材、165 ローラ部材、166
ローラ部材、167 コイルバネ、170 押し当て部材、171 スライドプレート、20 椅子、56 モータフランジ、60 減速機付きモータ、70 電動モータ、71 回転子、72 モータ軸、73 モータハウジング、80 減速機、81 連結部材、82 第1遊星歯車、83 第1太陽歯車、84 第2遊星歯車、85 第2太陽歯車、86 出力軸、87 ラチェット装置、88 回転体、88a 第1係止手段(突起部)、89 ラチェットバネ、89a 第2係止手段(突起部)、90 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
取付け部材と、前記取付け部材に回転自在に支持された支軸と、前記支軸の一端に設けられ、電動モータおよび前記電動モータのモータ軸が連結された減速機とを有する一対の減速機付きモータと、前記一対の減速機付きモータの出力軸にそれぞれ連係された一対の車輪とからなる差動式キャスタにおいて、
前記電動モータは、モータ軸を有する回転子と、前記回転子を内包するモータハウジングとを備え、
前記減速機は、前記回転子の前記モータ軸に取り付けられ、前記モータ軸の回転とともに回転する連結部材と、前記モータ軸に対し径方向に離間した位置において前記連結部材に回転自在に支持された第1遊星歯車と、前記モータハウジングに取付けられ前記第1遊星歯車と噛合する第1太陽歯車と、前記第1遊星歯車に対し、同軸状かつ一体的に連結された第2遊星歯車と、前記第2遊星歯車と噛合するとともに前記出力軸が一体的に形成されている第2太陽歯車とを備えていることを特徴とする差動式キャスタ。
【請求項2】
前記減速機は、前記車輪からの回転により前記車輪の回転を許容するラチェット装置を備えていることを特徴とする請求項1に記載の差動式キャスタ。
【請求項3】
前記ラチェット装置は、前記第1太陽歯車と、前記モータハウジングとの間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の差動式キャスタ。
【請求項4】
前記ラチェット装置は、前記第1太陽歯車に取り付けられ、外周部に第1係止手段が設けられている回転体と、前記モータハウジングに取り付けられ、前記第1係止手段と係合する第2係止手段が設けられているラチェットバネと、を備えていることを特徴とする請求項3に記載の差動式キャスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−63141(P2011−63141A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−216121(P2009−216121)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000144027)株式会社ミツバ (2,083)
【Fターム(参考)】