説明

巻線型誘導機

【課題】 従来の巻線型誘導機は負荷の変動及び電源電圧の変動によって回転速度が変化してしまう。このため従来の誘導機は回転数一定または電源周波数と同期させて使いたい機器には不向きであるという問題点があった。
【解決手段】 巻線型誘導機ユニット2台の回転軸を共通にするか又は回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結し、前記誘導機ユニット2台の回転子巻線を電気的に結合することにより、前記誘導機ユニット2台のうち1台は電動機として動作、もう1台の誘導機ユニットは発電機として動作し、前記回転比と前記誘導機ユニット2台の極数で決定される前記誘導機ユニット2台のすべり周波数が一致する速度で回転速度が固定されることを特徴とする巻線型誘導機である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は広く一般に使われている誘導電動機と誘導発電機を総称した誘導機の中で回転子に巻線が使われている巻線型誘導機に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は従来の巻線型誘導機の断面の概略図である。従来の巻線型誘導機は図1のように回転軸1の周りに巻線を含む回転子2が装着され、わずかなギャップをあけて巻線を含む固定子3が回転子2を取り囲んでいる。回転子2の巻線はスリップリング4とブラシ5を介して始動抵抗6に接続されている。三相交流電源7を固定子3に接続することにより、誘導機として機能する。
【0003】
図2が励磁回路を無視した一相分の等価回路である。Vは電源7の相電圧、Iは一次電流、rは固定子3の抵抗、xは固定子3のリアクタンスである。Iは二次電流、r’は回転子2の抵抗に始動抵抗6を加えたもの、x’は回転子2のリアクタンス、sはすべりである。
【0004】
簡単のために2極機で誘導機の動作原理を説明する。固定子3の巻線に3相交流電圧を供給し電流が流れると回転子の巻線に誘導起電力が発生する。電源周波数をf(Hz)、回転子2の回転速度をk(Hz)とすると、回転子巻線にはすべり周波数:f−k=sf(Hz)の電流が流れる。すなわちIの周波数はf−k(Hz)となる。回転子から見ると周波数がf−k(Hz)の回転磁界が発生していることになるが、固定子から見ると回転子は周波数k(Hz)で回転しているので、回転子が作る磁界はf−k+k=f(Hz)で回転していることになる。すなわち固定子で発生する磁界と同じ周波数で回転する磁界が回転子から発生し、回転子から発生する磁界による磁束を打ち消す形で固定子に電流が流れ、誘導機は動作する。(例えば非特許文献1参照)
【0005】
すべりsは負荷の変動及び電源電圧の変動によって変化してしまうため回転速度は負荷の変動及び電源電圧の変動によって変化してしまう。このため従来の誘導機は回転数一定または電源周波数と同期させて使いたい機器には不向きであるという問題点があった。(例えば非特許文献1参照)
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】 電気機器[II],野中作太郎 著,森北出版株式会社
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は上記問題を解決することであり、すべりsが負荷の変動及び電源電圧の変動によって変化しない回転数一定の誘導機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
巻線型誘導機ユニット2台の回転軸を共通にするか又は回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結し、前記誘導機ユニット2台の回転子巻線を電気的に結合することにより、前記誘導機ユニット2台のうち1台は電動機として動作、もう1台の誘導機ユニットは発電機として動作し、前記回転比と前記誘導機ユニット2台の極数で決定される前記誘導機ユニット2台のすべり周波数が一致する速度で回転速度が固定されることを特徴とする巻線型誘導機である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転速度が一定の誘導機が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】従来の一般的な巻線型誘導機の模式図
【図2】従来の一般的な巻線型誘導機の等価回路
【図3】本発明の第1の実施形態である巻線型誘導機の断面の模式図
【図4】本発明の第1の実施形態である巻線型誘導機および第2の実施形態である巻線型誘導機の一相分の簡略化した等価回路
【図5】本発明の第1の実施形態である巻線型誘導機の一相分の等価回路
【図6】本発明の第2の実施形態である巻線型誘導機の断面の模式図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1の実施形態)
図3は本発明の第1の実施形態である巻線型誘導機の断面の模式図である。
回転軸1の周りに巻線を含む回転子2と巻線を含む回転子2が装着されている。
巻線を含む固定子3は回転子2とわずかなギャップをあけて回転子2を取り囲んでいる。また巻線を含む固定子3は回転子2とわずかなギャップをあけて回転子2を取り囲んでいる。回転子2の巻線と回転子2の巻線は電気的に接続されている。
固定子3と回転子2からなる1台目の誘導機ユニット(以下誘導機Aと略す)と固定子3と回転子2からなる2台目の誘導機ユニット(以下誘導機Bと略す)が同じ回転軸1上に存在する。Kは回転子2の巻線と回転子2の巻線の電気的な接続部である。
【0012】
誘導機Aと誘導機Bの極数が違っている場合、スイッチ8が閉じた状態で一般には固定子3、固定子3で作る磁界による磁束がそれぞれ回転子2、回転子2に発生する磁束を打ち消そうとすると回転子2と回転子2には違った周波数の電流が必要になるが、回転子2の巻線と回転子2の巻線は接続されているため電流は流れない。すなわち誘導機として機能しない。
【0013】
しかし例外的に電流が流れることがある。誘導機Aがすべり「s」で電動機として動作している状態で、誘導機Bをすべり「−s」で発電機として動作する回転速度にしてやると固定子3、固定子3で作る磁界による磁束がそれぞれ回転子2、回転子2に発生する磁束を打ち消すことができ、その回転速度でのみ電源電流が流れる。そのため誘導機Aがすべり「s」の回転速度に固定され、誘導機Bのすべりが「−s」の回転速度に固定される。
【0014】
図4は本実施形態である巻線型誘導機の一相分の簡略化した等価回路である。また、図5は図4を説明するための誘導機Aが4極、誘導機Bが6極の場合の等価回路である。いずれも励磁回路は無視している。以下、図4図5を用いて本発明を解説する。
【0015】
図4及び図5においてVは電源7の相電圧、Iは一次電流である。図5において固定子3のそれぞれの極の一相分の抵抗値をr、それぞれの極の一相分のリアクタンスをx、回転子2のそれぞれの極の一相分の抵抗値の一次換算値をr、それぞれの極の一相分のリアクタンスの一次換算値をxとする。また、固定子3のそれぞれの極の一相分の抵抗値をr、それぞれの極の一相分のリアクタンスをx回転子2のそれぞれの極の一相分の抵抗値の一次換算値をr、それぞれの極の一相分のリアクタンスの一次換算値をxとする。誘導機Aのすべりをs、誘導機Bのすべりを sとする。図5と図4を対応付けるとr=r/2,x=x/2,r=r/2,x=x/2,r=r/3,x=x/3,r=r/3,x=x/3 となる。
【0016】
図4において一般に誘導機Aの極数をpとすると、rは固定子3の一相分の抵抗を表し1つの極の一相分の抵抗をp/2で除した値、xは固定子3の一相分のリアクタンスを表し1つの極の一相分のリアクタンスをp/2で除した値である。rは回転子2の一相分の抵抗の一次換算値を表し1つの極の一相分の抵抗の一次換算値をp/2で除した値、xは回転子2の一相分のリアクタンスの一次換算値を表し1つの極の一相分のリアクタンスの一次換算値をp/2で除した値である。また誘導機Bの極数をqとすると、rは固定子3の一相分の抵抗を表し1つの極の一相分の抵抗をq/2で除した値、xは固定子3の一相分のリアクタンスを表し1つの極の一相分のリアクタンスをq/2で除した値である。rは回転子2の一相分の抵抗の一次換算値を表し1つの極の一相分の抵抗の一次換算値をp/2で除した値、xは回転子2の一相分のリアクタンスの一次換算値を表し1つの極の一相分のリアクタンスの一次換算値をq/2で除した値である。
【0017】
図4を用いて本発明の動作を説明する。電源周波数がf(Hz)のとき誘導機Aにおける同期回転速度は2f/p(Hz)、誘導機Bにおける同期回転速度は2f/qとなる。回転軸1の回転速度をkとすると、誘導機Aの同期回転速度に対するすべりがs、誘導機Bの同期回転速度に対するすべりがsであるから、s、sの値は数1および数2で示される。
【0018】
【数1】

【0019】
【数2】

【0020】
図4の等価回路に電流が流れるためには誘導機Aと誘導機Bのすべり周波数が一致しなければならないが、誘導機Aが電動機として動作、誘導機Bが発電機として

電流が流れる。固定子3と固定子3の回転軸1まわりの相対角は固定子3および固定子3が作る磁束が回転子2と回転子2が作る磁束を同時に打ち消せる位置にあらかじめ固定しておくか、または固定子3、3のいずれか一方を回転できるようにしておいて、電源7を投入した状態で、前記誘導機Aおよび前記誘導機Bの

代入することにより次式が成り立つ。
【0021】
【数3】

【0022】
数3が成り立つときに限りすべり周波数が一致して、図4の回路に電流が流れる。
従って回転軸1は数3が成り立つ回転速度kに固定される。

る。
【0023】
誘導機を起動するときはスイッチ8を開いた状態で誘導機Aのみに電力を供給し加速させ、回転速度kが数3を満たしたときにスイッチ8を閉じると回転速度は固定される。
【0024】
(第2の実施形態)
図6は本発明の第2の実施形態である巻線型誘導機の断面の模式図である。第一の回転軸1と第二の回転軸1はギヤ9とギヤ9によって一定のギヤ比で連結されている。前記ギヤ比をhとする。回転軸1の周りに巻線を含む回転子2が装着されている。巻線を含む固定子3は回転子2とわずかなギャップをあけて回転子2cを取り囲んでいる。回転軸1の周りに巻線を含む回転子2が装着されている。
巻線を含む固定子3は回転子2とわずかなギャップをあけて回転子2を取り囲んでいる。回転子2の巻線と回転子2の巻線はスリップリング4とブラシ5、ブラシ5及びスリップリング4を介して接続されている。
【0025】
固定子3と回転子2からなる1台目の誘導機ユニット(以下誘導機Cと略す)と固定子3と回転子2からなる2台目の誘導機ユニット(以下誘導機Dと略す)がギヤ比hで結合されている。回転軸1の回転速度をk、回転軸1の回転速度をkとすると次式が成り立つ。
【0026】
【数4】

【0027】
本実施形態の巻線型誘導機の一相分の簡略化した等価回路は図3の3、3、2、2を各々図6の3、3、2、2で置き換えることにより第1の実施形態と同様になり図4となる。誘導機Cの同期回転速度に対するすべりをs、誘導機Dの同期回転速度に対するすべりをsとするとsの値は数5で示され、sの値は数6で示される。
【0028】
【数5】

【0029】
【数6】

【0030】
図4の等価回路に電流が流れるためには誘導機Cと誘導機Dのすべり周波数が一致しなければならないが、誘導機Cが電動機として動作、誘導機Dが発電機として

り立つ。
【0031】
【数7】

ギヤ比hを変化させることによって、kを適当な値に調節することができる。例えば2つの誘導機が共に2極のときh=1.1とすると、

動機となり、誘導機Dのすべりは−4.76%で発電機となり、回転速度は一定になる。
【0032】
固定子3と固定子3の回転軸1及び回転軸1周りの相対角は固定子3および固定子3が作る磁束が回転子2と回転子2が作る磁束を同時に打ち消せる位置にあらかじめ固定しておくか、または固定子3、3のいずれか一方を回転できるようにしておいて、電源7を投入した状態で、前記誘導機Cおよび前記誘導機Dの回転速度が一定になるところに調整して固定する。
【0033】
誘導機を起動するときはスイッチ8を開いた状態で誘導機Cのみに電源を供給し加速させ、回転速度kが数7を満たしたときにスイッチ8を閉じると回転速度は固定される。
【0034】
(第3の実施形態)
巻線型誘導機ユニット2台の回転軸を共通にするか又は回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結し、前記誘導機ユニット2台の回転子巻線を電気的に結合することにより、前記誘導機ユニット2台のうち1台は電動機として動作、もう1台の誘導機ユニットは発電機として動作し、前記回転比と前記誘導機ユニット2台の極数で決定される前記誘導機ユニット2台のすべり周波数が一致する速度で回転速度が固定されることを特徴とする巻線型誘導機のうち電動機として働くものである。ここで電動機として働く条件を求める。
【0035】
図4の等価回路を用いて計算する。以下計算は一相あたりについて行う。
相電圧をV、一次電流をI、全体のインピーダンスをZとすると、一次電流Iは次式で与えられる。
【0036】
【数8】

【0037】
全体のインピーダンスZは次式で与えられる。
【0038】
【数9】

巻線型誘導機の力率をcosθ、一次入力をP、一次銅損をPC1、二次入力をP、二次銅損をPC2、機械的出力をPとすると、cosθ、P、PC1、P、PC2、Pは数10〜数15で与えられる。
【0039】
【数10】

【0040】
【数11】

【0041】
【数12】

【0042】
【数13】

【0043】
【数14】

【0044】
【数15】

数4、数5、数6、数7を用いて数15を変形すると次式となる。
【0045】
【数16】

【0046】
数16のPすなわち機械的出力が正になるようにr、rを設定すれば電動機となり、負になるように設定すれば発電機として機能する。(非特許文献1参照)
は回転子2のまたは回転子2の一相分の抵抗の一次換算値、rは回転子2のまたは回転子2の一相分の抵抗の一次換算値であるが、r及びrを調整するために回転子2、2、2、2に固定抵抗または可変抵抗を直列に接続することも出来る。本実施形態は数16のPすなわち機械的出力が正になるようにr、rを設定することにより電動機となるものである。
【0047】
数16は誘導機ユニット2台の回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結した誘導機について求めたが、h=1とすれば、回転軸が共通で誘導機ユニット2台の極数が違う誘導機に用いることができる。
【0048】
(第4の実施形態)
巻線型誘導機ユニット2台の回転軸を共通にするか又は回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結し、前記誘導機ユニット2台の回転子巻線を電気的に結合することにより、前記誘導機ユニット2台のうち1台は電動機として動作、もう1台の誘導機ユニットは発電機として動作し、前記回転比と前記誘導機ユニット2台の極数で決定される前記誘導機ユニット2台のすべり周波数が一致する速度で回転速度が固定されることを特徴とする巻線型誘導機のうち発電機として働くものである。数16のPすなわち機械的出力が負になるようにr、rを設定することにより電動機となるものである。
【符号の説明】
【0049】
1 回転軸
2 回転子
3 固定子
4 スリップリング
5 ブラシ
6 始動抵抗
7 三相交流電源
8 スイッチ
9 ギヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線型誘導機ユニット2台の回転軸を共通にするか又は回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結し、前記誘導機ユニット2台の回転子巻線を電気的に結合することにより、前記誘導機ユニット2台のうち1台は電動機として動作、もう1台の誘導機ユニットは発電機として動作し、前記回転比と前記誘導機ユニット2台の極数で決定される前記誘導機ユニット2台のすべり周波数が一致する速度で回転速度が固定されることを特徴とする巻線型誘導機。
【請求項2】
前記回転軸が共通で前記誘導機ユニット2台の極数が異なる請求項1の誘導機。
【請求項3】
前記誘導機ユニット2台の回転軸の回転比が一定になるように機械的に連結した請求項1の誘導機。
【請求項4】
前記回転子巻線の電気抵抗を調節することにより機械的出力を正とし、電動機として機能する請求項1の誘導機。
【請求項5】
前記回転子巻線の電気抵抗を調節することにより機械的出力を負とし、発電機として機能する請求項1の誘導機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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