説明

布帛摩擦時の摩擦音測定方法

【課題】駆動部を必要とすることなく、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定する方法を提供する。
【解決手段】布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を測定する方法であって、長軸方向が床に対して垂直方向に固定された筒体の内部において、布帛Aを自由落下させ、その際に発生する、該布帛Aと前記筒体の内壁との摩擦音を、前記筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音することを特徴とする布帛摩擦時の摩擦音測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ゴルフ等の屋外スポーツを行う際、悪天候時にウインドブレーカーなどの高密度防風撥水織物からなるウエアーを着用することが多い。かかるウエアーは、スポーツを行っている際に布帛の変形や摩擦により摩擦音(ノイズ音)が発生し、スポーツのスコアーやパフォーマンスに悪影響を及ぼすことがあった。
【0003】
このような背景のもと、市場には摩擦音を低減した衣料品が多く販売されている。また、かかる摩擦音を評価する方法として、生地を裁断・縫製し製品を作り実際に製品を着用評価する方法、機械的に布帛同士を摩擦させる方法(例えば、特許文献1参照)、人為的に摩擦させる方法などが知られている。
【0004】
しかしながら、製品を着用評価する方法では、評価結果がでるまでに時間とコストがかかり、さらには、着用者やサイズにより結果がばらつくという問題があった。また、機械的に布帛同士を摩擦させる方法では、機械的に摩擦させるためには何らかの駆動部が必要となり、駆動部から発生するノイズ音のために、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定することが困難であった。また、人為的に摩擦させる方法では、製品を着用評価する方法と同様、着用者により結果がばらつくという問題があった。
【0005】
他方、マイクロホンを用いて録音した音を、FFT周波数解析装置により解析する方法は従来から知られている(例えば、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5参照)。
【0006】
【特許文献1】特開平5−338069号公報
【特許文献2】特開平6−117912号公報
【特許文献3】特開平10−267742号公報
【特許文献4】特開平11−23357号公報
【特許文献5】特開2006−154212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、駆動部を必要とすることなく、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記課題を達成するため鋭意検討した結果、床に対して垂直方向に固定された筒体内部において、布帛を自由落下させ、その際に発生する当該布帛と筒体内壁との摩擦音を、筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音することにより、駆動部を必要とすることなく、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定することができることを見出し、さらに鋭意検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして、本発明によれば「布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を測定する方法であって、その長手方向が床に対して垂直方向に固定された筒体の内部において、布帛Aを自由落下させ、その際に発生する、該布帛Aと前記筒体の内壁との摩擦音を、前記筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音することを特徴とする布帛摩擦時の摩擦音測定方法。」が提供される。
【0010】
その際、前記筒体が円筒形状を有することが好ましい。また、前記筒体の横断面において、内部空間の断面積が10〜25cmの範囲内であることが好ましい。前記筒体の長さLとしては3〜10cmの範囲内であることが好ましい。前記筒体の肉厚としては0.5〜5mmの範囲内であることが好ましい。前記筒体は合成樹脂からなることが好ましい。また、前記筒体の内壁に、前記布帛Aと同じか、または異なる布帛構成を有する布帛Bが貼り合わされていることが好ましい。また、かかる筒体はその上部につばを有することが好ましい。また、該つばの上面に、前記布帛Aと同じか、または異なる布帛構成を有する布帛Cが貼り合わされていることが好ましい。
【0011】
本発明の布帛摩擦時の摩擦音測定方法において、布帛Aの面積が50〜1000cmの範囲内であることが好ましい。また、前記布帛Aに錘がとりつけられていることが好ましい。かかる錘の質量としては10〜5000grの範囲内であることが好ましい。また、前記錘が、前記布帛Aの中心部にひもを介してとりつけられていることが好ましい。
本発明の布帛摩擦時の摩擦音測定方法において、マイクロホンを用いて録音した摩擦音を、FFT周波数解析装置により解析することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、駆動部を必要とすることなく、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定する方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
まず、本発明において、筒体の長手方向が床に対して垂直方向になるよう筒体を固定する。その際、筒体の固定方法としては特に制限されず、例えば、通常の固定スタンドなどを用いて、筒体の長手方向が床に対して垂直方向になるよう、すなわち、筒体が上下方向となるよう固定するとよい。その際、筒体はテーブル等の台の上に置いてもよいが、空中に浮かせた方がよい。筒体をテーブル等の台の上に置くと、布帛Aが自由落下した後に台に衝突し、衝突音が発生するおそれがある。
【0014】
また、筒体は図1に模式的に示すように上部および下部が開口しており、その内部空間を貫通するよう、布帛Aが自由落下する。前記筒体の形状としては特に限定されないが、その横断面形状が真円である円筒、その横断面形状が楕円である楕円筒、その断面形状が四角形や六角形などの多角形である角筒などが例示される。特に、摩擦音を再現性よく測定する上で円筒形状が好ましい。
【0015】
また、前記筒体のサイズとしては、その横断面(長手方向と直交する方向の断面)において、内部空間の断面積が10〜25cmの範囲内であることが好ましい。該断面積が10cmよりも小さいと布帛Aがスムーズに自由落下しないおそれがある。逆に、該断面積が25cmよりも大きいと布帛Aが自由落下する際、筒体の内壁に布帛Aが接触しにくくなり摩擦音が発生しないおそれがある。
【0016】
前記筒体の長手方向の長さLとしては3〜10cmの範囲内であることが好ましい。該長さLが3cmよりも小さいと布帛Aが筒体内部を通過する時間が短くなってしまい摩擦音を十分測定できないおそれがある。逆に該長さLが10cmよりも大きいと必要以上に長くなってしまい、作業性が損われるおそれがある。
【0017】
前記筒体の肉厚Wとしては0.5〜5mmの範囲内であることが好ましい。該肉厚Wが0.5mmよりも小さいと筒体の強度が低下してしまうおそれがある。逆に、該肉厚Wが5mmよりも大きいと、筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音する摩擦音を測定するとき十分録音できないおそれがある。
【0018】
前記筒体の材質としては特に限定されないが、加工性の点で合成樹脂が好ましい。特に、透明のアクリル樹脂で筒体を形成すると、布帛Aが落下する様子を観察することができ好ましい。
【0019】
前記筒体の内壁には、図3に模式的に示すように布帛Bが貼り合わされていると、布帛Aと布帛Bとの摩擦音が発生し、実着用を想定した評価となり好ましい。該布帛Bの布帛構成(すなわち、布帛構成糸条、織編組織、密度など)は布帛Aと同じでもよいし、異ならせてもよい。製品となった際を想定して適宜選定するとよい。
【0020】
また、前記筒体において、図4に模式的に示すように筒体の上部につばを有していることが好ましい。該つばは平面状でもよいし椀状でもよい。かかるつばの上面には、図5に示すように中央に穴部を有する布帛Cを貼りあわせることが好ましい。かかる布帛Cの上に布帛Aを重ねるようにして置くと、布帛Aは布帛Cの穴部を経由して筒体内部を貫通するように自由落下するため、布帛同士の摩擦音が発生し、より実着用に近い評価が可能となる。
【0021】
次に、布帛Aの面積としては、前記筒体の内部空間の断面積よりも大きいことが好ましく、50〜1000cmの範囲内であることが特に好ましい。布帛Aの面積が50cmよりも小さいと布帛Aが自由落下する際、筒体の内壁と接触せず摩擦音が発生しないおそれがある。逆に、布帛Aの面積の面積が1000cmよりも大きいと、布帛Aと筒体の内壁との摩擦が大きくなりすぎて布帛Aが自由落下しないおそれがある。
布帛Aの形状としては、円形であると摩擦時の方向性がなくなり好ましいが、三角形や四角形など多角形でもよい。
【0022】
また、前記布帛Aに錘が取り付けられていると、布帛Aが自由落下しやすく好ましい。錘の質量は評価する布帛Aにより適宜選定されるが、10〜5000grの範囲内であることが好ましい。例えば、布帛Aが通常ウインドブレーカーに使用されるような高密度ポリエステル平織物であれば、100〜5000grの範囲の質量を有する錘が好ましい。
かかる錘が、図6に模式的に示すように布帛Aの中心部にひもを介してとりつけられていると、布帛Aが安定的に自由落下し好ましい。
【0023】
本発明の布帛摩擦時の摩擦音測定方法において、上下方向に固定された前記筒体の内部を、前記布帛Aが自由落下する際の該布帛Aと前記筒体の内壁との摩擦音を、前記筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音する。ここで、マイクロホンとしては通常の騒音測定用のマイクロホンでよい。
【0024】
また、マイクロホンを用いて録音した摩擦音を、FFT周波数解析装置により解析することが好ましい。その際、FFT周波数解析装置は20000Hzまでの音をFFT周波数解析でき、また、1/3オクターブ解析も備えた録音、解析ソフトを備えたものであることが好ましい。音圧レベルだけでも摩擦音が発生しやすい布帛と発生しにくい布帛との判別が可能であるが、周波数解析、オクターブ解析を行うことにより、不快音域での摩擦音発生レベルを判別することも可能となる。
【実施例】
【0025】
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
【0026】
[実施例1]
84dtex/72filの通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを用い、経糸密度132本/2.54cm、緯糸密度102本/2.54cmの織密度で平組織の高密度織物を製織した。次いで、該高密度織物を常法の染色方法により、精錬、リラックス、黒色に染色、乾燥を行うことにより織物を得た後、直径25cmの円形に裁断することにより布帛Aを得た。次いで、該布帛Aの中心部に凧糸を貫通させ、一方を玉結びで止めた。そして、凧糸の他方端に質量200gの錘を結んだ。
【0027】
一方、筒体として内径3cm(断面積7平方センチメートル)、外径9.4cm、肉厚1.0mm、上部と下部とが開口した円形断面を有する透明アクリル製筒体(長さ10cm)を用意した。そして、図4に模式的に示すように、該筒体の上部に、外径30cm、内径3cmの中空円形平面アクリル板(つば)を接着剤で接合した。次いで、前記織物を裁断して、前記筒体の内壁に接着剤で貼り付け布帛Bとした。さらに、前記織物を外径30cm、内径3cmの中空円形状に裁断した後、前記つばの上に貼りつけ布帛Cとした。そして、該筒体を固定スタンドにより固定した。
【0028】
一方、前記筒体から3cm離れた位置にマイクロホンとして広帯域精密騒音計(小野測器(株)製、品番LA−5560)を設置し、FFTアナライザー(小野測器(株)製、品番DS−2140、DS−0297)を介して、FFT解析ソフト(小野測器(株)製、品番DS−0221W、DS−0250W)および1/1・1/3リアルタイムオクターブ解析ソフト(小野測器(株)製、品番DS−0223W)をインストールしたパーソナルコンピュータに連結した。
【0029】
次いで、図7に模式的に示すように布帛Aを前記つばの上に静かに置き、自由落下させると同時に、発生した摩擦音を前記パーソナルコンピュータに取り込んだ。試験は各サンプルN=5で実施し、最高音圧レベルおよび最高音圧レベルが確認された周波数(ピーク周波数)をそれぞれ解析した。評価結果を表1に示す。
【0030】
[実施例2]
実施例1において、84dtex/288filの通常のポリエチレンテレフタレートマルチフィラメントを用い、経糸密度132本/2.54cm、緯糸密度102本/2.54cmの織密度で平組織の高密度織物を製織し、該高密度織物を常法の染色方法により、精錬、リラックス、黒色に染色、乾燥を行うことにより織物を得ること以外は実施例1と同様にした。評価結果を表1に示す。
【0031】
[比較例1]
実施例1で得られた織物を30cm四方のアクリル板の上面に貼り付けた。他方、直径10cmの円形アクリル板の片面(下面)にも同じ織物を貼り付け、該円形アクリル板の上面に質量50gの錘を載せた。
【0032】
次いで、前記30cm四方アクリル板の対角線上を織物同士が摩擦するよう2往復/秒の速さで手で前記円形アクリル板を往復移動させた。その際、音圧レベル、ピーク周波数については実施例1と同様の設備を用い、30cm四方アクリル板の中央部付近で摩擦音を録音した。評価結果を表1に示す。
【0033】
[比較例2]
実施例2で得られた織物を用いて、比較例1と同様の試験を実施した。評価結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、駆動部を必要とすることなく、布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を正確に測定する方法が得られ、工業的価値は極めて大である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明で用いる筒体の一例である。
【図2】本発明で用いる筒体の横断面図の一例である。
【図3】本発明で用いる筒体の縦断面図の一例である。
【図4】上部につばを有する筒体を模式的に示す図である。
【図5】布帛Cの形状の一例である。
【図6】布帛Cの中心部に凧糸を介して錘を取り付けたものを模式的に示す図である。
【図7】布帛Cが自由落下する直前の様子を模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0037】
1 筒体の内部空間
2 筒体
3 布帛B
4 筒体の内部空間
5 つば
6 筒体
7 布帛C
8 布帛A
9 凧糸
10 錘
11 布帛A
12 固定スタンド
13 マイクロホン
14 筒体
15 布帛C
16 つば

【特許請求の範囲】
【請求項1】
布帛を摩擦する時に発生する摩擦音を測定する方法であって、
その長手方向が床に対して垂直方向に固定された筒体の内部において、布帛Aを自由落下させ、その際に発生する、該布帛Aと前記筒体の内壁との摩擦音を、前記筒体の外部に設置されたマイクロホンを用いて録音することを特徴とする布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項2】
前記筒体が円筒形状を有する、請求項1に記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項3】
前記筒体の横断面において、内部空間の断面積が10〜25cmの範囲内である、請求項1または請求項2に記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項4】
前記筒体の長さLが3〜10cmの範囲内である、請求項1〜3のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項5】
前記筒体の肉厚が0.5〜5mmの範囲内である、請求項1〜4のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項6】
前記筒体が合成樹脂からなる、請求項1〜5のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項7】
前記筒体の内壁に、前記布帛Aと同じか、または異なる布帛構成を有する布帛Bが貼り合わされてなる、請求項1〜6のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項8】
前記筒体の上部につばを有する、請求項1〜7のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項9】
前記つばの上面に、前記布帛Aと同じか、または異なる布帛構成を有する布帛Cが貼り合わされてなる、請求項8に記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項10】
前記布帛Aの面積が50〜1000cmの範囲内である、請求項1〜9のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項11】
前記布帛Aに錘がとりつけられている、請求項1〜10のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項12】
前記錘の質量が10〜5000grの範囲内である、請求項11に記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項13】
前記錘が、前記布帛Aの中心部にひもを介してとりつけられている、請求項11または請求項12に記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。
【請求項14】
マイクロホンを用いて録音した摩擦音を、FFT周波数解析装置により解析する、請求項1〜13のいずれかに記載の布帛摩擦時の摩擦音測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−170263(P2008−170263A)
【公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−3429(P2007−3429)
【出願日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】