説明

布材

【課題】静電容量式センサの電極である布材に、電圧付与等のためのケーブルを接続容易とすることにある。
【解決手段】表材30とパッド材40と裏基布50がこの順で積層されてなる布材10において、静電容量式のセンサの電極又はヒータとして使用可能となるように、導電化手段によって裏基布50が導電化されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電容量式センサの電極又はヒータとして使用可能な布材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の静電容量式センサを、車両用シートに配設した構成が公知である(特許文献1を参照)。
この特許文献1の車両用シートは、シートクッションの着座部に埋設された電極ユニットと、電極ユニットに電圧を付与する電圧付与手段と、電極ユニットと車両を電気的につなげるシートフレームとを有する。そしてシートクッションに乗員が着座することで、電極ユニットが乗員(コンデンサ)を介して車両に電気的につながり、電極ユニットと乗員とシートフレームの間に電気回路が形成される。そして電気回路に流れる電流を検出することにより、シートクッション上の乗員を判別(検知)して、必要に応じてエアバッグを展開させるなどの動作を行う構成である。
【0003】
そして上記構成では、シートクッションとは別体の電極ユニットを着座部に埋設する。しかしシートの着座感などを考慮すると、異物感の原因となる電極ユニットを着座部に配置する構成は採用しにくいものであった。
そこで特許文献2〜特許文献4では、布材自体を導電化して電極とする技術が提案されている。例えば特許文献2では、専ら金属繊維を非導電繊維で被覆した経糸及び緯糸で織物(布材)を形成する技術が開示されている。また特許文献3では、金属メッキ処理してなる導電糸を織り込んだ布帛(布材)が開示されている。そして特許文献4では、金属皮膜と、導電フィラーを含有の樹脂層が重層された布材が開示されている。
これら公知の導電化された布材(表皮材)は、乗員などに対して異物感を極力感じさせることなく、静電容量式センサの電極として使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−292631号公報
【特許文献2】特開2006−234716号公報
【特許文献3】特開2000−219076号公報
【特許文献4】特開2003−266599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで車両用シートの表皮材に布材を使用するとき、乗員の着座性などを考慮して、布材の裏面にパッド材と裏基布が配設されることがある。そしてこれら部材は、典型的にラミネート加工などの接合方法により一体化される(布材が三層構造となる)。
そしてシートクッションなどを布材で被覆しつつ、シートに内蔵の電圧付与手段から延びるケーブルを布材の裏面に接続するのであるが、このときパッド材と裏基布が邪魔となる。このため公知技術では、布材と一体化したパッド材や裏基布を除去する必要があり、布材に対するケーブルの接続作業が思いのほか面倒であった。
本発明は上述の点に鑑みて創案されたものであり、本発明が解決しようとする課題は、静電容量式センサの電極又はヒータである布材に、電圧付与等のためのケーブルを接続容易とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段として、第1発明の布材は、表材とパッド材と裏基布がこの順で積層されてなるとともに、導電化手段によって導電化されて、静電容量式センサの電極又はヒータとして使用可能な構成である。
そしてこの種の布材では、例えば車両用シートの表皮材として使用される場合、電圧付与等のためのケーブルが接続容易であることが望ましい。
そこで本発明では、布材の裏基布を、静電容量式センサの電極又はヒータとして使用可能となるように導電化手段によって導電化することとした。このような構成とすることで、電圧付与等のためのケーブルを布材の裏面側から接続する場合に、表材やパッド材を除去することなく布材(裏基布)に直接接続することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る第1発明によれば、静電容量式センサの電極又はヒータである布材に、電圧付与等のためのケーブルをより容易に接続することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】車両用シートの一部透視側面図である。
【図2】シートクッションを分解して示す縦断面図である。
【図3】(a)及び(b)は、布材の正面図である。
【図4】物体検知システムの回路図である。
【図5】静電容量を測定するためのグラフである。
【図6】物体検知システムとエアバッグを作動させるシステムの概略図である。
【図7】別例の布材の正面図である。
【図8】実施形態2の布材の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜図8を参照して説明する。なお図3では、便宜上、一部の導電糸にのみ符号を付す。図7では、導電性カーボンをドットにて示す。
各実施形態の布材10は、図1を参照して、後述するように車両用シート2の表皮材4S(一例)であるとともに物体検出装置の一部を構成する。すなわち表皮材4Sとしての布材10自体が、シート上の乗員H(物体)を判別する静電容量式センサの電極(用途の一例)として使用される。
そしてこの種の表皮材4Sでは、電圧付与等のためのケーブルを接続容易であることが望ましい。そこで各実施形態では、後述の裏基布50を導電化することにより、静電容量式センサの電極として布材10を使用可能としたものである。
【0010】
[実施形態1]
本実施形態では、図1〜図6を参照して、導電糸12を有する導電化手段(一例)を説明する。そして後述するように、導電糸12にて裏基布50を構成することで、ケーブルの接続性を確保する構成である。以下、各構成について詳述する。
【0011】
(布材の基本構成)
布材10は、図2を参照して、表材30とパッド材40と裏基布50を有する。
この表材30は、表皮材4S(布材10)の着座側を構成する部材であり、例えば後述の絶縁繊維からなる布帛(織物、編物、不織布又はこれらの複合体)、天然皮革又は人工皮革にて構成される。
またパッド材40は、乗員Hの着座性を確保するクッション部材であり、例えば軟質ウレタンフォームからなるスラブウレタンフォームにて構成される。
【0012】
(裏基布)
そして裏基布50は、表皮材4S(布材10)の裏側(着座側とは異なる側)を構成する部材である。また裏基布50は、パッド材40を被覆することにより、シート縫製時及び被覆時において表皮材4Sのスベリ性(滑り性)を確保する部材でもある。
そして本実施形態では、この裏基布50の一部又は全部が、後述する導電糸12により構成される。
【0013】
(導電糸)
そして導電糸12の種類は特に限定しないが、硫化銅結合系の導電糸、カーボン系の導電糸、炭素質繊維、黒鉛質繊維、金属又は合金のメッキ糸(メッキ層を有する絶縁繊維)、金属繊維、カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブのコーティング糸を例示することができる。
なかでも硫化銅結合系の導電糸、カーボンナノチューブのコーティング糸及びメッキ糸は、スベリ性に優れることから裏基布(構成糸)としての機能を果たし、また化学変化による経時変化が少なく導電性に優れている。
さらに硫化銅結合系の導電糸、カーボンナノチューブのコーティング糸及びメッキ糸は、ステンレス繊維と比較して伸縮性がよいため表皮材4Sの伸縮性を妨げない。
【0014】
ところで特開平2−145864号公報には、活性炭を含有の樹脂層に関する開示がある。しかし電気抵抗(比抵抗、抵抗値又は抵抗率)の大きい導電化手段は、専ら帯電防止のためのものであり、静電容量式センサの電極として使用可能な導電性を布材10(裏基布50)に付与することができない。
【0015】
ここで導電糸12は、比抵抗(体積抵抗率とも呼ぶ)が10〜10−12Ω・cmであることが望ましい。この導電糸12を裏基布50に取付けることで、表皮材4Sを、静電容量式センサの電極として用いることができる。また後述のヒータ(他の用途)として裏基布50を用いる場合には、導電糸12の比抵抗が10−1〜10−5Ω・cmであることが望ましい。
ここで「比抵抗(体積抵抗率)」とは、どのような材料が電気を通しにくいかを比較するために用いられる物性値であり、例えば「JIS K−7194」に準拠して測定することができる。
【0016】
さらに導電糸12として、10cmあたりの抵抗値が0.1〜5×10Ωである導電糸12を使用することが望ましい。
ここで「10cmあたりの抵抗値」とは、5V程度の低電圧をかけたときの導電糸10cm間の抵抗値であり、汎用のテスター(抵抗測定値の最大値が60MΩ程度)を用いて測定することができる。なお典型的に静電容量式センサは弱電にて使用するため、帯電防止を目的とした高電圧での評価は適切ではない。
【0017】
このように導電糸12の抵抗値を0.1〜5×10Ωに設定することで、導電化された布材10(裏基布50)が、静電容量式センサの電極として使用可能となる。ここで導電糸12の10cmあたりの抵抗値が5×10Ωより大きいと、布材10(裏基布50)の導電化が十分になされず、静電容量式センサの電極として使用することができない。
そして好ましい導電糸12は、10cmあたりの抵抗値が0.1〜4.0×10Ωの導電糸である。この導電糸12により導電化された布材10(裏基布50)は、静電容量式センサの電極として好適に使用することができる。さらに好ましい導電糸12は、10cmあたりの抵抗値が0.1〜3.0×10Ωの導電糸である。この導電糸12により導電化された布材10(裏基布50)は、ステンレス繊維により導電化された布材10と遜色のないセンサ機能を発揮する(静電容量を有する)。
【0018】
そしてカーボン系の導電糸とは、ナイロン繊維やポリエステル繊維などの繊維(典型的に絶縁繊維)にカーボンブラックを含有させた導電糸である。
このカーボン系の導電糸では、上記繊維に対するカーボンブラックの含有率を適宜調節するなどして所望の抵抗値を付与する。このとき繊維断面の一部を切欠いてカーボンブラックを練り込む構成であってもよく、繊維断面の外周を、カーボンブラックを練り込んだ高分子で被覆する構成であってもよい。
例えばユニチカファイバー社製の「メガーナR−N(登録商標)」は、カーボンブラックで繊維断面の外周を被覆した導電糸(33dtex、4フィラメント)であり、10cmあたりの抵抗値が3×10Ωである。
【0019】
また硫化銅結合系の導電糸とは、ナイロン繊維やアクリル繊維などの繊維に硫化銅を結合させた導電糸である。この硫化銅結合系の導電糸では、繊維に対する硫化銅の結合量を適宜調節するなどして所望の抵抗値を付与する(特開昭56−169808号公報などを参照)。
例えば日本蚕毛社製の「サンダーロン(登録商標)」は、硫化銅を高分子に結合した導電糸(110dtex、24フィラメント)であり、10cmあたりの抵抗値が1.5×10Ωである。
【0020】
またカーボンナノチューブのコーティング糸とは、構成フィラメント(例えば絶縁繊維のフィラメント)の表面にカーボンナノチューブをコーティングした導電糸である。
そしてカーボンナノチューブのコーティング糸は、カーボンナノチューブ種やそのコーティング量を適宜調節することにより、10cmあたりの抵抗値をコントロールすることができる。例えばクラレリビング社製の「CNTEC」は、10cmあたりの抵抗値を10〜10にコントロールすることができる。
【0021】
(裏基布の導電化)
裏基布50を導電化する手法として、下記の手法を例示することができる。
(a)裏基布50の全部又は大部分を絶縁繊維にて作製したのち、裏基布50を導電化する。
(b)導電糸12又は予め導電化された絶縁繊維を用いて裏基布50を作製する。
(c)絶縁繊維よりなる裏基布50の一部を導電糸12又は予め導電化された絶縁繊維にて構成する。
【0022】
(a)の手法としては、例えば硫化銅を裏基布50に付着結合させることで、絶縁繊維を導電化する手法を例示することができる(特開昭56−169808号を参照)。また超臨界を用いて絶縁繊維を導電化することにより、裏基布50の風合い変化を最小限に抑えつつ導電化することができる(特開2005−264395号を参照)。
上述の手法によれば、裏基布50を作製するための既存設備を使用することができるため、裏基布50の作製コスト上好ましい。
【0023】
また(a)の手法として、裏基布50に対して金属又は合金のメッキ層を形成することにより導電化することができる。
メッキ層の形成方法は特に限定しない。例えば絶縁繊維にて裏基布50を作製したのち、無電解メッキ処理によって裏基布50にメッキ層を形成することができる。また一部に金属を有する裏基布50を作製したのち、無電解メッキ処理又は電気メッキ処理によって裏基布50にメッキ層を形成することができる。
メッキ処理に用いられる金属や合金は特に限定しないが、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、銅(Cu)、銀(Ag)、錫(Sn)、金(Au)、鉄(Fe)、鉛(Pb)、白金(Pt)、亜鉛(Zn)、クロム(Cr)及びパラジウム(Pd)を例示できる。またメッキ処理に用いられる合金として、Ni-Sn、Cu-Ni、Cu-Sn、Cu-Sn、Cu-Zn及びFe-Niを例示できる。
なお上述のメッキ糸(導電糸の一例)も同様の手法により製造することができる。
【0024】
また上述の手法では、メッキ処理と同時に、各種の被膜(耐摩耗性被膜、潤滑性被膜、耐食性被膜など)を裏基布50に形成することができる。
例えばメッキ処理時において、炭化ケイ素(SiC)、酸化アルミニウム(Al)、ボロンカーバイド(BC)、ダイヤモンドなどを共析させる(複合メッキを行う)ことで、耐摩耗性被膜を裏基布50に形成することができる。
またテフロン(登録商標)(PTFE)やフッ化黒鉛などを共析させることで、潤滑性被膜を裏基布50に形成することができる。
また炭化ケイ素+窒化ホウ素(BN)、窒化ケイ素(Si)+窒化ホウ素、窒化ケイ素+フッ化カルシウム(CaF)などを共析させることで、耐摩耗性・潤滑性混合被膜を裏基布50に形成することができる。
そしてコバルト(Co)、モリブテン(Mo)、タングステン(W)、チタン(Ti)などの金属微粉末を共析させることで、耐腐食性被膜を裏基布50に形成することができる。
【0025】
さらに上記(a)の手法として、カーボンナノチューブコーティングにより絶縁繊維を導電化することもできる。例えば特開2008−201635号公報に従い、絶縁繊維や裏基布50を、カーボンナノチューブでコーティングすることができる。
ところでカーボンナノチューブコーティングは比較的脱落し易いという欠点がある。そこで本実施形態では、同コーティングを裏基布50に施して乗員との摩擦を回避することにより、コーティングを裏基布50に安定的に保持させることができる(裏基布50の導電性を安定的に維持できる)。また裏基布50は、パッド材40(ウレタンフォーム)と一体化されるため、裏基布50とパッド材40の摩擦が原因のコーティングの脱落もほとんど生じない。
なお裏基布50に別途樹脂層(保護層としての樹脂層)を形成することで、同コーティングを裏基布50に更に安定的に保持させることができる。
【0026】
なお上記(a)などに適用可能な裏基布50は、専ら絶縁繊維にて構成された布帛(織物、不織布又はこれらの複合体)である。ここで裏基布50は、平織物、斜文織物又は朱子織物等のいかなる組織の織物でもよく、経編、丸編又は横編等のいかなる組織の編物でもよい。編物の組織は、ヨコ編み又はタテ編みのいずれでもよい。また裏基布50は、いかなる繊維(原料)、いかなるウェブ形成技術、いかなるウェブ結合技術によって製造した不織布でもよい。
【0027】
ここで絶縁繊維とは、例えば比抵抗が10Ω・cmを超える材質であり、植物系及び動物系の天然繊維、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂からなる化学繊維及びこれらの混紡繊維を例示することができる。
そして天然繊維では、綿、麻又は羊毛が風合いに優れるため、裏基布50の構成として用いることが好ましい。また化学繊維では、ポリエステル繊維やナイロン繊維が取扱い性に優れるため、裏基布50の構成として用いることが好ましい。特にポリエチレンテレフタレート、ポリカプロアミド、ポリヘキサメチレンジアジパミドからなるフィラメントは、耐久性と耐光性と強度に優れるため、裏基布50の構成として用いることが好ましい。
【0028】
また(b)の手法として、例えば導電糸12(メッキ糸を含む)や、導電化された絶縁繊維を製編織することにより、織物又は編物としての裏基布50を作製することができる。導電化された絶縁繊維として、硫化銅が付着結合した絶縁繊維、超臨界にて導電化した絶縁繊維、カーボンナノチューブをコーティングした絶縁繊維を例示できる。このとき硫化銅結合系の導電糸やカーボン系の導電糸を使用することで、さまざまな組織の裏基布50を作製することができる。
また導電糸12(長繊維又は短繊維)を用いて、不織布としての裏基布50を作製することもできる。不織布の作製方法は乾式又は湿式のいずれでもよい。
好ましい裏基布50は、適度な薄さと伸縮性を有する布帛である。織物又は編物の裏基布50は、パッド材40との滑り性に優れるとともに、車両用シート2の表皮材4Sとして好適な坐り心地を備える。このとき裏基布50が、ナイロンフィラメント(18tex)をハーフトリコットに編製してなる裏基布50と同等の薄さと伸縮性を備えることが望ましい。
【0029】
そして(c)の手法として、絶縁繊維にて裏基布50を作製するとともに、間隔寸法(W1)60mmの範囲内で複数の導電糸12又は予め導電化された絶縁繊維を並列状に配置する手法を例示することができる。そして複数の導電糸12等を、後述の通電手段14にて電気的につなげることにより、裏基布50を導電化する(図3を参照)。
具体的には、織物の裏基布50を作製する場合、複数の導電糸12等を緯糸(経糸)として導入する。また編物の裏基布50を作製する場合、コース方向又はウェール方向の一部に導電糸12等を導入する。
上述の手法によれば、裏基布50本来の特性(スベリ性、風合い、肌触り、座り心地、通気性、耐久性)を極力損ねることなく、静電容量式センサの電極として使用することができる。
【0030】
ここで導電糸12等の間隔寸法(W1)が60mmを超えると、布材10(裏基布50)のセンサ機能が悪化(静電容量が低下)して、静電容量式センサの電極として機能しないおそれがある。
好ましくは導電糸12等の間隔寸法(W1)の上限値を30mmとすることで、導電化された布材10がより好適なセンサ機能(静電容量)を備える。
さらに好ましい間隔寸法(W1)の上限値は25mmであり、最も好ましい上限値は20mmである。このように間隔寸法(W1)の上限値を30mm未満とすることで、一部の導電糸12等が断線したとしても、断線した導電糸12等の両側に位置する導電糸間の隙間寸法(W2)が好適に維持される。
そして各導電糸12等の間隔寸法(W1)を25mmよりも小さく(狭く)しても裏基布50の静電容量の極端な向上は見られない。このため布材10のコストを考慮して、間隔寸法(W1)の下限を1mmとすることが望ましい。
なお布材10(裏基布50)にヒータ機能を持たせる場合、導電糸12等の間隔寸法(W1)は0mm〜60mmに設定することができる。ここで裏基布50全面を導電糸12等で構成することにより、その間隔寸法(W1)が0mmとなる。
【0031】
そして通電手段14は、複数の導電糸12等を電気的につなげる導電部材であり、導電糸、金属線、導電テープ、導電化された樹脂層、導電性を有する布帛やフィルムを例示することができる。また複数の導電糸12と通電手段14(導電化された樹脂層を除く)を電気的につなげる手法として、縫製による圧着や、導電糸又は金属線による縫製を例示することができる。この通電手段14は、裏基布50裏面の一部に形成されていてもよく、裏基布50裏面の全面に形成されていてもよい。
例えば図3(a)を参照して、複数の導電糸12等(緯糸)をつなげるように、導電テープ14aを経糸方向に貼着する。なお導電糸12等の接続安定性を確保する観点から、導電テープの幅寸法が1mm以上であることが望ましい。
【0032】
ここで裏基布50をヒータとして用いる場合(詳細後述)、通電手段14の比抵抗が、各種の導電化手段(導電糸12、導電化した絶縁繊維、裏基布50等)の比抵抗よりも低いことが好ましい。通電手段14の比抵抗を導電化手段よりも低くすることで、通電時における通電手段14の発熱を防止又は低減することができる。
通電手段14の比抵抗は、導電化手段の比抵抗によって適宜設定することができる。典型的には、通電手段14の比抵抗の範囲を1.4〜15×10−8Ω・mに設定することで、通電時における通電手段14の発熱を好適に防止又は低減することができる。
【0033】
また通電手段14として、導電化された樹脂層を使用することもできる(樹脂層の詳細構成は実施形態2にて説明する)。
例えば図3(b)を参照して、複数の導電糸12等(緯糸)を電気的につなげるように、導電化された樹脂層14bを経糸方向に形成する。この導電化された樹脂層14bは、裏基布50に対して比較的強固に一体化されており、接続安定性のよい(断線しにくい)構成である。
そして導電化された樹脂層14bは、コーティング面の抵抗率が1〜5×10Ω・cmとなるよう無機系導電剤を含有することが望ましい。こうすることで、複数の導電糸12を電気的につなげることができる。ここで無機系導電剤とは、例えばカーボンブラックの微粒子、導電性酸化スズ(ATO)や酸化インジウムスズ(ITO)などの金属酸化物の微粒子である。
【0034】
そして表材30、パッド材40、裏基布50をこの順で積層したのち、接合手段により一体化して布材10を作製する。接合手段としては、ラミネート加工(溶着)、縫着、接着などの手法を例示することができる。なかでもラミネート加工は、布材10の構成要素をより確実に一体化できるため好ましい。
導電化した裏基布50を静電容量式センサの電極として用いる場合、上記(a)又は(b)の手法により導電化した裏基布50では、裏基布50一部と電圧付与手段15を接続することで、裏基布50全体を通電状態とすることができる。したがってケーブル16(端子16a)を裏基布50にカシメ等によって接続することで(比較的簡単な接続方法で)、静電容量式センサの電極として裏基布50を機能させることができる。
なお導電化した裏基布50をヒータとして用いる場合、上記(a)〜(c)の手法によらず、繊維の配列方向両端に通電手段14を各々接続することが好ましい(後述)。
【0035】
[物体検知システム]
図1及び図6を参照して、上述の布材10を用いた物体検知システムの構成を詳述する。物体検知システムは、シートクッション4とシートバック6とエアバッグ8を備える車両用シート2に適用される。
そして物体検知システムは、シートクッション4の表皮材4S(布材10)と、電圧付与手段15と、シートフレームF(電極部材)と、測定回路18(検出手段)を有する。
シートフレームFは車室床面に接地しており、表皮材4Sとともに第一コンデンサCを構成する部材である。また電圧付与手段15は、表皮材4Sに電圧を付与する部材であり、シートクッション4に内蔵されている。
【0036】
そして図2を参照して、本実施形態の表皮材4Sは、複数の布材10を袋状に縫着して構成されている。この表皮材4Sによってシートクッション4のパッド部材4Pを被覆したのち、布材10同士の縫着箇所を、パッド部材4Pの溝部4Cに引き込み状に取付ける構成である。
そして電圧付与手段15から延びるケーブル16(端子16a)を、パッド部材4Pの図示しない挿通孔)を通して表皮材4S裏面側に接続する。このとき本実施形態では、布材10裏面の裏基布50が導電化されて構成されている。このため電圧付与等のためのケーブル16を布材の裏面側から接続する場合に、パッド材40などを除去することなく布材10(裏基布50)に直接接続することができる。このように表皮材4Sにケーブル16を接続する(カシメ付ける)ことにより、表皮材4S(布材10)とシートフレームFの間に(第一コンデンサCを介して)電気回路が形成される。
さらに同システムでは、導電体の一種である乗員Hが表皮材4S上に配置することで、第二コンデンサ(乗員H)を介して別の電気回路が形成される構成である(図1を参照)。このように本実施形態では、表皮材4S(布材10)自体が静電容量式センサの電極として機能することとなる。
【0037】
ここで図4及び図5を参照して、上記システムを用いた静電容量の測定方法(一例)を説明する。
電圧付与手段15によって、ケーブル16の端部Vに直流電圧を印加する。そしてケーブル16途中の任意の位置Vで規定電圧Vに達するまでの時間Tを測定する。
そして車両用シート2が空席のとき(第一コンデンサCのみが形成されるとき)の時間Tをtとする。また車両用シート2に乗員Hが着座したとき(第一コンデンサCと第二コンデンサCが形成されるとき)の時間Tをtとする。この着座時の時間T(t)は、空席時の時間T(t)よりも長くなる。
このtとtの時間差(静電容量の差)を測定回路18にて測定することにより、表皮材4S上の乗員Hを判別することができる。
なお上記では、直流回路を用いた静電容量式センサの構成を例示したが、本実施形態の裏基布50は、交流回路を用いた静電容量式センサの電極としても好適に用いることができる(特開2007−240515を参照)。
【0038】
そして図6を参照して、車両用シート2(物体検知システム)にて乗員Hを判別したのち、車両用シートのECU(19)が必要に応じてエアバッグ8を展開させる。このような構成とすることで、乗員Hの着座している車両用シート2にのみ、エアバッグ8を展開させることができる(図1を参照)。また車両用シートのECU(19)が表示ランプ9を点灯させて、シートベルトの着用を乗員に促す(ウォーニング)などする。
ところで乗員Hが小さい子供(例えば1歳未満の乳児)の場合には、安全上、エアバッグ8を展開させないほうがよい場合がある(米国自動車安全基準FMVSS208を参照)。ここで本実施形態では、乳児(成人よりも体格の小さい乳児)が着座した場合、第二コンデンサCの静電容量が低下する構成である。このため車両用シート2(物体検知システム)では、乳児が着座したとき(比較的低い静電容量のとき)、エアバッグ8が展開しない設定とすることができる。
【0039】
[別例]
また表皮材4S(布材10)はヒータとして使用することができる。
例えば図7を参照して、通電手段14(帯状)を布材10の両端に各々配置する。そして通電手段14に電源ケーブル9aの端子をつなげて、電源部材29(例えば車載電源)と導電糸12を電気的につなげることにより、複数の導電糸12の電気回路を布材10に形成する。このとき布材10に通電手段14を縫着することで、両者の相対的な位置関係が好適に維持される(通電手段14と導電糸12等の電気的な接続安定性が向上する)。
そして一対の通電手段14の間(加熱エリア)に配置する導電糸12に電力を付与して発熱させることにより、表皮材4Sをヒータとして使用することができる。このとき本実施形態では、一対の通電手段14によって、複数の導電糸12の並列回路を形成することにより、比較的低電圧で複数の導電糸12を発熱させることができる。
なお本実施形態では、パッド材40が薄い方が熱の伝わり方が速いため、パッド材40の厚みを1〜5mm程度に設定することが好ましい。
【0040】
このように本実施形態では、電圧付与等のためのケーブル16を表皮材4S(布材10)の裏面側から接続する場合に、パッド材40などを除去することなく裏基布50に直接接続することができる。
このため本実施形態によれば、静電容量式センサの電極である表皮材4S(布材10)に、電圧付与等のためのケーブル16をより容易に接続することができる。
また本実施形態では、裏基布50を導電化する構成であり、着座側を構成する表材30は導電化しない構成である。このため表材30本来の特性(意匠性、風合い、肌触り、座り心地、通気性、耐久性)を極力損なうことがない。
さらに裏基布50は、乗員に近接した位置に配置されるとともに、電極面積(検知面積)を比較的広く取ることができる。このため本実施例によれば、センサ感度の高い静電容量式センサを車両用シートに構築することができる(車両用シートに特に適したセンサを構築することができる)。
【0041】
[実施形態2]
実施形態2の基本構造は、実施形態1の基本構造とほぼ同一であるため、共通の構造等については対応する符号を付して詳細な説明を省略する。
そして本実施形態では、図8を参照して、導電化された樹脂層20にて構成の導電化手段(他例)を説明する。なおこの樹脂層20は、典型的に布材10のラミネート加工ののちに形成される。
【0042】
(樹脂層)
本実施形態の樹脂層20は、上述の無機系導電剤を含有することにより、導電化された樹脂層である。なお樹脂層20は通電可能であればよいが、コーティング面の抵抗率が1〜5×10Ω・cmとなるよう、導電性カーボンが含有されて、布材10裏面の一部又は全部に形成されることが望ましい。
ここで「抵抗率」とは、「JIS K 7194(1994)」に準じて測定された電気抵抗率のことである。
そして導電性カーボンとして、例えばケッチェンブラック、チャネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、ランプブラックなどのカーボンブラックの微粒子(無定形炭素)やカーボンナノチューブを例示することができる。なかでもケッチェンブラックの微粒子やカーボンナノチューブは導電性に優れるため、樹脂層20の構成として好適に使用することができる。
【0043】
また樹脂層20を構成する樹脂は、熱や乾燥により硬化して布材10に接着可能な熱硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂である。
熱可塑性樹脂として、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、フッ素樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリイミド樹脂を例示することができる。また熱硬化性樹脂として、ウレタン樹脂、シリコン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂を例示することができる。
なかでもアクリル樹脂は、耐久性及び耐光性に優れることから、樹脂層20の構成として使用することが望ましい。
【0044】
そして樹脂層20のコーティング面の抵抗率を1〜5×10Ω・cmとすることで、樹脂層20により導電化された布材10(裏基布50)が、静電容量式センサの電極として使用可能となる。
ここで樹脂層20の抵抗率が5×10Ω・cmより大きいと、布材10の導電化が十分でなく、静電容量式センサの電極として使用できない。
好ましい樹脂層20は、コーティング面の抵抗率が1〜1×10Ω・cmの樹脂層である。この樹脂層20により導電化された布材10は、静電容量式センサの電極として好適に使用することができる。さらに好ましい樹脂層20は、コーティング面の抵抗率が10〜40Ω・cmの樹脂層である。この樹脂層20により導電化された布材10は、ステンレス繊維により導電化された布材10と遜色のないセンサ機能を発揮する(静電容量を有する)。
【0045】
(樹脂層の形成)
導電性カーボンと樹脂を、所定の溶剤に分散して樹脂組成物(バッキング剤)を調製する。導電性カーボンの含有量は、バッキング剤の全固形分に対して、重量比で3重量%〜30重量%であることが望ましい。なお溶剤中の溶媒は、導電性カーボンと樹脂を分散可能な溶媒であり、典型的には水系溶媒や有機系溶媒が用いられる。
【0046】
そしてバッキング剤を布材10裏面側の全部または一部に付与したのち、加熱又は乾燥することで樹脂層20を形成する。布材10に対するバッキング剤の付与量は、導電性カーボンの含有量に応じて例えば30〜200g/cmとする。
【0047】
なおコーティングする方法としては限定されず、コーティング機で塗布するほかにも、凸版型捺染、凹版型捺染、孔版型捺染の有版捺染やインクジェット捺染の無版型捺染などのプリントによる塗布が挙げられる。プリントのなかでもグラビアロールやロータリースクリーン捺染が好ましく用いられる。
【0048】
そして本実施形態の樹脂層20は、布材10裏面の全面に形成されていてもよく、布材10裏面の一部に形成されていてもよい。例えば複数の樹脂層20を、導電糸のように間隔寸法60mmの範囲内で並列状に形成してもよく、メッシュ状(交差状、格子状)に形成してもよく、同心円状に形成してもよい。このとき樹脂層20をメッシュ状とすることで、裏基布50の伸縮性、柔らかさ及びスベリ性を維持することができる。
【0049】
そして本実施形態の布材10は、実施形態1と同様に、シートクッション4の表皮材4Sとして用いることができる(図1を参照)。そして樹脂層20は、裏基布50に形成されている。このため電圧付与のためのケーブル16を表皮材4S(布材10)の裏面側から接続する場合に、パッド材40などを除去することなく裏基布50に直接接続することができる。
このため本実施形態によっても、静電容量式センサの電極である表皮材4S(布材10)に、電圧付与のためのケーブル16をより容易に接続することができる。
また本実施形態でも、裏基布50を導電化する構成であり、着座側を構成する表材30は導電化しない構成である。このため表材30本来の特性を極力損なうことがない。
【0050】
以下、本実施形態を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
実施例1では、ダブルジャージの表材と、フレームウレタンシート(EL67F、イノアック社製)のパッド材と、硫化銅結合系の導電糸からなるハーフトリコットの裏基布を使用した。
表材は、福原精機株式会社の織り機(ゲージ30G、給糸数48口、針本数1862本、釜径30inch)を用いて作製した。このときポリエステル系の仮撚加工の糸染め糸(167dtex/2−48フィラメント)の表糸と、ポリエステル系の仮撚加工の先染め糸(334dtex−72フィラメント)の裏糸を用いた。そして仕上げ加工(精練98℃×30min、仕上げセット180℃)を行うことで表材を作製した。表材の仕上げ密度は、コース密度25本/2.54cm、ウェール密度29本/2.54cmであった。
【0051】
そして裏基布は、ハーフトリコットに、硫化銅を分散吸着させて導電化したものを使用した(導電化方法は後述する)。ハーフトリコットは、ポリカプロアミド(18dtex−3フィラメント)のマルチフィラメントを用いて編製した(目付け53g/m)。そして裏基布の編地を分解して糸の抵抗値を測定したところ、10cmあたりの抵抗値が1.2×10Ωであった。
そして表材とフレームウレタンシートと裏基布をこの順で積層したのち、ラミネート加工にて一体化した。これによりフレームウレタンシート部分の厚みは5mmとなった。
【0052】
ここで実施例1の導電化方法について説明する。
上述のハーフトリコットを、50℃の温湯で洗浄し油剤などを除去したのち、ハーフトリコットの重量に対して、50重量%のアクリロニトリル、1.2重量%の過硫酸アンモニウム及び3重量%の亜硫酸水素ナトリウムを含む浴比1:20の水溶液中に入れ、常温より徐々に昇温しつつ70℃で60分間処理した。その後よく湯洗、水洗し、十分に未反応物、副反応物及び触媒などを除去した。
次に洗浄後のハーフトリコットを、繊維重量に対して、10重量%の硫酸第二銅、10重量%のチオ硫酸ナトリウム及び5重量%の亜硫酸水素ナトリウムを含む浴比1:20の水溶液中に入れ、常温より徐々に昇温しつつ100℃で60分間処理した。その後水洗し、乾燥した。このようにしてハーフトリコットに硫化銅を分散吸着させて導電化した。
【0053】
[実施例2]
実施例2では、実施例1の表材及びパッド材と、実施例1のハーフトリコットを、この順で積層した布材を用いた。そして予めラミネート加工した布材を、後述の樹脂層にて導電化した。
【0054】
ここで実施例2の樹脂層の形成方法について説明する。
バッキング剤としては固形分としてブチルアクリレートとアクリロニトリルから合成されたアクリル系ポリマー27%、難燃剤67%、その他発泡剤や整泡剤を含むバッキング剤にライオンペーストW−310A(内カーボンブラック13.7%)を分散させて固形分中のカーボンブラック濃度が10重量%となるように調整したバッキング剤を用意した。
そしてバッキング剤を、フラットスクリーンを用いて裏基布裏面にプリントしたのち、150℃にて乾燥した。バッキング剤の塗布量は60g/mとした。そして裏基布に対して、格子柄(2mm幅×5.5mm間隔)であるとともに、コース方向に対して45°傾斜した樹脂層を形成した。樹脂層のコーティング面の抵抗率は26Ω・cmであった。
【0055】
[実施例3]
実施例3の布材では、実施例1の表材及びパッド材(フレームウレタンシート)と、メッキ層を形成した裏基布(後述)を用いた。そして表材とパッド材と裏基布(後述)をこの順で積層したのち、ラミネート加工で一体化した。フレームウレタンシート部分の厚みは5mmとなった。
本実施例の裏基布として、ポリエステルフィラメント(84dtex−36フィラメント)から構成された丸編み(16ゲージ、密度W/C=27/31本/2.54cm、目付53g/m)を用いた。つぎに裏基布に対して、下記のメッキ処理による金属皮膜(メッキ層)と、カチオン型電着塗装法による樹脂層を形成した(特開平11−346089号公報の実施例1を参照)。
【0056】
(メッキ処理)
上述の裏基布に対して精練プレセットを行ったのち、アルカリ加水分解により20%の減量処理を行い、無電解メッキ法により銅及びニッケル金属被膜を形成させた。金属被膜形成後、熱硬化性のアミノ基含有アクリル系カチオン電着用樹脂を用いてカチオン型電着塗装法(電着条件浴温20℃、電圧50V、通電時間30秒)により約40g/m2 、厚さ約5μmの透明樹脂層を形成させた。次いで、予備乾燥(100℃、10分)、焼き付け(145℃、30分)を行い、目的とする実施例3の裏基布を得た。
本実施例の裏基布の編地を分解して糸の抵抗値を測定したところ、10cmあたりの抵抗値が81Ωであった。
【0057】
[実施例4]
実施例4の布材では、実施例1の表材及びパッド材(フレームウレタンシート)と、カーボンナノチューブコーティングを施した裏基布(後述)を用いた。そして表材とパッド材と裏基布(後述)をこの順で積層したのち、ラミネート加工で一体化した。フレームウレタンシート部分の厚みは5mmとなった。
本実施例では、実施例1の裏基布に対して、下記の手法によりカーボンナノチューブコーティングを施した(特開2008−201635号公報の請求項24等を参照)。さらに本実施例では、定法に従い、コーティング上にアクリル樹脂を薄くコーティングして、裏基布からのカーボンナノチューブの脱落を防止することとした。
【0058】
(カーボンナノチューブコーティング)
本実施例では、微小カーボン(ナノからマイクロサイズの微小カーボン)と、分散剤(両電子イオン対を有する両性分子)を液体溶媒(水性溶媒又は非水性溶媒)に単分子状態で分散させた微小カーボン分散液を用いた。この微小カーボン分散液を水面に展開し、水面に展開された微小カーボン単分子膜を裏基布に転写した。そして裏基布を乾燥することで、微小カーボン単分子膜を裏基布に形成した。
本実施例の裏基布の編地を分解して糸の抵抗値を測定したところ、10cmあたりの抵抗値が1.3×10Ωであった。
【0059】
[試験方法]
(導電糸の抵抗値)
実施例1、3及び4に係る導電糸の抵抗値(Ω)を、テスター(デジタルテスターCDM−6000、カスタム社製)を用いて測定した。
導電糸10cm間の抵抗値をランダムに5点測定したのち、5点の抵抗値の平均値を導電糸の10cmあたりの抵抗値とした。
【0060】
(樹脂層の抵抗率)
実施例2に係る樹脂層の抵抗率(Ω・cm)を、「JIS K 7194(1994)」に準拠して測定した。低抵抗率計(LORESTA−GP MCP−T600、三菱化学社製)にてピックアップとしてASP(ピン間5mm)を用いた。
より詳しくは、実施例2の布材から試料片(長さ80mm×幅50mm)を切り出した。そしてリミッタ電圧を10Vとして試料片の1点測定を行った。
【0061】
(静電容量)
図1の車両用シート及び図4の回路を用いて、実施例1及び2に係る布材の「空席時の静電容量」と「着座時の静電容量」を測定した。
各実施例の布材から試料片(40cm角)を切り出したのち、シートクッション上に試料片を配置した。試料片の上端は、シートクッションとシートバックの境界線に配置した。そしてシートの中心線と試料片の中心線を合わせて配置することで、常にシートの同じ位置に試料片を設置した。またシートフレーム又は乗員は、車室床面に配置の鉄板により接地した。
そして空席時において、ケーブルの端部Vから5Vの直流電圧を印加して、ケーブル途中の位置Vが規定電圧(3.3V)になるまでの時間Tを測定した(Rは470kΩとした)。そしてVが規定電圧に達したのち、各コンデンサの電荷を一旦放電して、同様の測定を繰り返した。そして得られた値を平均化したものを試料片の「空席時の静電容量」とした。同様に着座時において、Vが規定電圧(3.3V)になるまでの時間Tを測定して、試料片の「着座時の静電容量」とした。
試料片の「空席時の静電容量」と「着座時の静電容量」は、Vが規定電圧となる時間T(t,t)の時間差から算出した。
【0062】
(バッキング剤の塗布量)
(a)使用する布材の目付量(g/m)を測定するため予め、1m角を切り出して計測した。
(b)塗布して乾燥後、塗布前との密度が変わっていないことを確認した。塗布している部分においてランダムに5点、20cm角を切り出して目付量を計測した。
(c)塗布前と塗布後の目付量の差から塗布量を得た。
[塗布量(g/m)]=[塗布後目付量(g/m)]−[塗布前目付量(g/m)]
【0063】
[試験結果及び考察]
各試験の結果を、下記の[表1]に示す。
【表1】

【0064】
実施例1の布材は、「空席時の静電容量」と「着座時の静電容量」の絶対値と、それらの差が大きかった。このことから実施例1の布材(織物又は編物)は、静電容量の差によって乗員を判別可能であることがわかった。
【0065】
また実施例2の布材も、「空席時の静電容量」と「着座時の静電容量」の絶対値と、それらの差が大きかった。このことから実施例2の布材は、静電容量の差によって乗員を判別可能であることがわかった。
【0066】
そして実施例3及び4の布材も、「空席時の静電容量」と「着座時の静電容量」の絶対値と、それらの差が大きかった。このことから実施例3及び4の布材も、静電容量の差によって乗員を判別可能であることがわかった。
【0067】
本実施形態の布材は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その他各種の実施形態を取り得る。
(1)本実施形態では、専ら車両用シート2の表皮材4Sとして布材10を用いる構成を説明した。
本実施形態の布材は、例えば心電図を測定するための電極としても使用することができる(生体工学 44(1):177−183(2006)を参照)。
また本実施形態の布材は、静電容量結合方式によるタッチセンサとして使用することもでき、例えばシート位置調整を行うための制御として使用される。
【0068】
(2)また本実施形態では、シートクッション4の表皮材4Sとして布材10を使用する例を説明した。本実施形態の布材は、天板メイン部、天板サイド部、かまち部、背裏部、及びヘッドレスト部などの車両用シートの各種構成の表皮材として使用することができる。また車両用シートのほか、天井部、ドア部、コンソールボックスなどの車両内装品の表皮材(センサの電極、ヒータ)として使用することができる。
【0069】
(3)また本実施形態では、布材10に対して、複数の導電糸12を並列状に配置する例を説明した。複数の導電糸の配置関係は特に限定されるものではなく、例えばメッシュ状(交差状、格子状)に配置してもよく、同心円状に配置してもよい。
また本実施例では、複数の導電糸が互いに独立した例を説明した。これとは異なり、一本の導電糸をジグザグ状として布材に配置してもよい。
また導電糸12はそのままの状態で使用してもよく、細繊度の比較的弱い導電糸は、他の絶縁繊維で被覆して用いてもよい(カバリング糸として用いてもよい)。
【符号の説明】
【0070】
2 車両用シート
4 シートクッション
4P パッド部材
4C 溝部
4S 表皮材
6 シートバック
8 エアバッグ
9 表示ランプ
10 布材
12 導電糸
14 通電手段
14a 導電テープ
14b 樹脂層
15 電圧付与手段
16 ケーブル
16a 端子
18 測定回路
20 樹脂層
30 表材
40 パッド材
50 裏基布
第一コンデンサ
第二コンデンサ
F シートフレーム
H 乗員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表材とパッド材と裏基布がこの順で積層されてなる布材において、
静電容量式のセンサの電極又はヒータとして使用可能となるように、導電化手段によって前記裏基布が導電化された布材。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−131970(P2010−131970A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170051(P2009−170051)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】