説明

布移動式パイル織機におけるテリーモーション部材の駆動装置

【課題】 布移動式のパイル織機において、ファーストピックの筬打ち時に織前が受ける筬打ち力が、駆動手段と送出側のテリーモーション部材の支持部材とを連結する駆動伝達機構に対し作用することに伴って発生する問題は未然に防止する。
【解決手段】 布移動式パイル織機において、送出側又は巻取側の一方のテリーモーション部材を支持する支持部材と上記駆動軸とを連結する駆動伝達機構を、位置固定された軸に支持されて回動可能に設けられた第1の連結部材と、該第1の連結部材の前記支持部材側に連結された第2の連結部材とを含む2以上の連結部材で構成されたものとし、ファーストピックの筬打ち時に、第1の連結部材の支持軸と第2の連結部材の上記支持部材側の端部とを結ぶ直線上又はその近傍に第1の連結部材と第2の連結部材との連結部が位置する連結状態となるように前記第1及び第2の連結部材を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パイル織機、特に、駆動伝達機構を介して駆動手段の駆動軸に連結された送出側及び巻取側のテリーモーション部材を変位させることにより、織前を筬打ち位置に対し移動させてパイルを形成する布移動式パイル織機、におけるテリーモーション部材の駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記形式の布移動式のパイル織機の一例として、特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載のパイル織機では、送出側のテリーモーション部材である地織りテンションロールと巻取側のテリーモーション部材とが、それぞれに対応して設けられた駆動手段としてのカム機構及びこのカム機構によって揺動駆動される揺動レバー等を含む駆動伝達機構によって駆動される構成となっている。
【0003】
また、この特許文献1には、上記駆動手段について、カム機構に代えてサーボモータ等の電動機(モータ)を採用することが記載されており、また、モータを採用する場合において、上記揺動レバーをモータによって直接駆動することが記載されている。
【0004】
すなわち、図7に示すように、送出側のテリーモーション部材15’に対応する揺動レバー22’及び巻取側のテリーモーション部材16’に対応する揺動レバー32’は、それぞれがその一端で専用の駆動モータm1、m2の出力軸に取り付けられ、駆動モータm1、m2によって往復揺動駆動される。各揺動レバー22’、32’は、それぞれの他端が連結ロッド26’、36’を介し、送出側のテリーモーション部材15’を支持する支持レバー24’、巻取側のテリーモーション部材16’を支持する支持レバー34’に連結されている。そして、揺動レバー22’、32’の往復揺動運動に伴って、送出側のテリーモーション部材15’及び巻取側のテリーモーション部材16’が、図の実線で示す位置と一点鎖線で示す位置との間で往復運動し、これに伴い、織布Wの織前CFが、図の実線aで示す位置と一点鎖線bで示す位置との間で往復変位する。なお、図7では、地経糸GTのみを記載し、パイル経糸PTは省略してある。
【0005】
このような布移動式のパイル織機では、ファーストピックの筬打ち時(図7の実線で示す状態)に、筬5が織布Wの織前CFに緯糸を打ちつけるが、その際に織前CFに作用する力(厳密には、筬打ちに伴って上昇した地経糸GTの張力に相当する力)が、織前CFに繋がる地経糸GTを介し、送出側テリーモーション部材15’に作用する(以下では、このようなファーストピックの筬打ちに伴ってテリーモーション部材に作用する力を「筬打ち力」という)。その結果、支持レバー24’を介し、連結ロッド26’に対し矢印k1の方向の力が作用し、更に、この連結ロッド26’に作用する力は、揺動レバー22’を介し、駆動モータm1の出力軸に対し矢印k2の方向へ回転させる力として作用する。
【0006】
筬打ち時において、駆動モータm1、m2は、織前CFの位置を規定すべく、その出力軸の位相を電気的に保持している。しかし、上記のように、筬打ち力に相当する力がその回転方向に作用すると、駆動モータm1は、その出力軸の位相を保持することができず、筬打ちに伴って出力軸が回転してしまう。その結果、筬打ち時に織前CFが変位してしまい、緯糸の打ち込み力が弱くなると共に、形成されるパイルの高さが所望の高さよりも低いものとなり、織物の品質が損なわれるという問題が発生しする。
【0007】
なお、上記では、送出側及び巻取側のテリーモーション部材がそれぞれ専用の駆動モータで駆動される布移動式パイル織機について述べたが、上記のような問題は、この形式のものに限らず、特許文献1に従来技術として記載されているような、単一の駆動モータで送出側及び巻取側のテリーモーション部材を駆動するものについても同様に発生する。
【0008】
また、専用の駆動モータでテリーモーション部材を駆動する形式に限らず、織機の主軸を駆動源とするものにおいては、上記のテリーモーション部材に作用する筬打ち力が駆動手段等に好ましくない影響を及ぼすことがある。
【0009】
上記では、送出側のテリーモーション部材に対し筬打ち力が作用する場合について述べたが、上記筬打ち力は、巻取側のテリーモーション部材に対しても作用する。詳しくは、ファーストピックの筬打ちに伴って経糸の張力が上昇するが、その反力によって織布Wの張力も上昇し、それに伴ってその織布Wの張力上昇分に相当する力(筬打ち力)が布ガイドロール16’に作用する。
【0010】
そして、特許文献1に記載された主軸を駆動源としてカムを回転駆動し、それによって揺動レバーを揺動させる形式では、送出側及び巻取側のテリーモーション部材に上記筬打ち力が作用することに伴って揺動レバーに作用する力が、カムレバーを介し、カムに当接するカムボールをカムから離間させる方向に作用する。特許文献1に記載された形式のものでは、通常、カムレバーは、カムボールがカム面に常時当接するように、スプリング等によって付勢されている。これに対し上記の力が作用すると、カムボールがスプリング等の付勢力に抗してカム面から離間し、その後、スプリング等の付勢力によって再びカム面に打ちつけられるといった現象が発生する。そして、このようなカム面に対するカムボールの離間、衝突が筬打ち毎に繰り返される結果、駆動手段(カム、カムボール(カムレバー)等)や駆動伝達機構の早期の破損を招く。
【0011】
また、上記のカム機構に代え、上記の揺動レバーに作用する力が、カムボールをカム面に押圧する方向に作用するようにカム機構を構成した場合には、上記のようなカムボールのカム面に対する離間、衝突といった現象は発生しない。しかし、この場合、上記力が、カムレバーやカムレバーを支持する軸に対し、回転方向の負荷(曲げモーメント、ねじり応力等)として筬打ち毎に作用することとなり、これらの部材の早期破損を招く。このような負荷に伴う駆動機構の破損の問題は、クランク機構を採用した場合でも同様である。
【0012】
なお、巻取側のテリーモーション部材に関しては、上記筬打ち力が作用する結果、織前付近に配置された部材が破損するといった問題も生じる。すなわち、上記筬打ち力は、巻取側のテリーモーション部材を織前側へ変位させる方向へ作用する。図7に示すパイル織機において、この筬打ち力が巻取側のテリーモーション部材16’に作用すると、駆動モータm2の出力軸が回転し、巻取側のテリーモーション部材16’へ変位してしまう。その結果、巻取側のテリーモーション部材16’が、織前近傍に配置されたテンプルやテンプルブラケット等の部材に衝突し、これらの部材を破損させてしまうといった問題が発生するおそれがある。
【特許文献1】特開平11−172552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、布移動式のパイル織機において、ファーストピックの筬打ち時に織前に大きな力が作用し、それに伴ってテリーモーション部材に上記筬打ち力が作用する結果として発生する上記従来の技術による問題を未然に防止することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題のもとに、本発明は、送出側及び巻取側のテリーモーション部材がそれぞれに対応して設けられた駆動伝達機構を介して駆動手段の駆動軸と連結されており、前記駆動手段によって前記送出側及び巻取側のテリーモーション部材を変位させることにより、筬打ち位置に対する織前の位置を変化させてパイルを形成する布移動式パイル織機において、送出側又は巻取側の一方のテリーモーション部材を支持する支持部材と上記駆動軸とを連結する駆動伝達機構を、位置固定された軸に支持されて回動可能に設けられた第1の連結部材と、該第1の連結部材の前記支持部材側に連結された第2の連結部材とを含む2以上の連結部材で構成されたものとし、ファーストピックの筬打ち時に、第1の連結部材の支持軸と第2の連結部材の上記支持部材側の端部とを結ぶ直線上又はその近傍に第1の連結部材と第2の連結部材との連結部が位置する連結状態となるように前記第1及び第2の連結部材が設けられることを特徴とする。
【0015】
さらに本発明では、送出側又は巻取側の他方のテリーモーション部材を支持する支持部材と前記駆動軸とを連結する駆動伝達機構を、位置固定された軸に支持されて回動可能に設けられた第3の連結部材と、該第3の連結部材の前記支持部材側に連結された第4の連結部材とを含む2以上の連結部材で構成し、そして、ファーストピックの筬打ち時に、第3の連結部材の支持軸と第4の連結部材の上記支持部材側の端部とを結ぶ直線上又はその近傍に第3の連結部材と第4の連結部材との連結部が位置する連結状態となるように第3及び第4の連結部材が設けられるものとしてもよい。
【0016】
なお、上記連結部の位置は、ファーストピックの筬打ち時のテリーモーション部材の位置(=上記支持部材の第2(第4)の連結部材との連結位置)が決定されている状態において、第1(第3)の支持部材の上記支持軸と上記連結部との間の距離及び第2(第4)の支持部材の上記連結部と上記支持部材側端部との間の距離(レバー長さ)が決定されている場合は、第1(第3)の連結部材の支持軸の位置によって設定される。また、第1(第3)の連結部材の支持軸の位置が決定されている場合には、第1(第3)の支持部材の上記支持軸と上記連結部との間の距離及び第2(第4)の支持部材の上記連結部と上記支持部材側端部との間の距離によって設定される。従って、本発明では、ファーストピックの筬打ち時における上記連結部材の位置が、上記した位置となるように、第1(第3)の連結部材の支持軸の位置、あるいは第1(第3)の支持部材の上記支持軸と上記連結部との間の距離及び/又は第2(第4)の支持部材の上記連結部と上記支持部材側端部との間の距離を適宜に設定するものであり、上記における「・・・連結状態となるように前記第1(第3)及び第2(第4)の連結部材が設けられる」はこれらを意味する。
【発明の効果】
【0017】
上記の本発明によれば、ファーストピックの筬打ち時に、上記第1の連結部材と第2の連結部材との連結部の位置が、第1の連結部材の支持軸と第2の連結部材の支持部材側の端部とを結ぶ直線上に位置する。従って、ファーストピックの筬打ち時における第2の連結部材の支持部材側端部と上記連結部とを結ぶ直線の方向、すなわち、テリーモーション部材から第2の連結部材を介して上記連結部に作用する筬打ち力の方向が、上記連結部と上記支持軸とを結ぶ方向に一致した状態となる。これにより、ファーストピックの筬打ち時にテリーモーション部材を介して上記連結部に作用する筬打ち力が、第1の連結部材の上記連結部と上記支持軸との間の部分を、その支持軸へ押し付ける力としてのみ作用し、第1の連結部材を回動させる方向の力とはならない。その結果、上記連結部に作用する筬打ち力が、第1の連結部材を回動させる力として作用しないため、上述した従来の技術による問題は発生しない。
【0018】
また、本発明では、ファーストピックの筬打ち時における上記連結部の位置が、第1の連結部材の支持軸と第2の連結部材の支持部材側の端部とを結ぶ直線上に位置するものに限らず、その直線の近傍に上記連結部が位置する連結状態となるように両連結部材を配設するものも含む。
【0019】
なお、ここでいう「近傍」とは、送出側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構に本発明を採用する場合でいうと、上記第2の連結部材の支持部材側端部とその近傍位置とを結ぶ直線の方向(=上記連結部に作用する筬打ち力の方向)が、上記連結部と上記支持軸とを結ぶ方向とは異なるために、その方向で上記連結部に筬打ち力が作用した結果として第1の連結部材に対し回転方向の分力が作用するが、その分力が、第1の連結部材を回動させない(織前を変位させない)程度の小さい力であるか、あるいは、第1の連結部材を回動させる大きさの力であっても、それに伴う織前の変位量が、織物の品質に許容できない程の悪影響を及ぼすものでない程度にしか織前を変位させない大きさであるような位置をいう。なお、この「近傍」の位置は、織機の回転数(筬打ち力の強さ)、経糸本数や経糸張力等の製織条件、織物の種類、テリーモーション部材と駆動軸とを連結する駆動機構の構成、織機の仕様等によって様々な位置を取り得る。そしてこの場合でも、上述した従来の技術による問題は発生しないか、あるいはその従来の技術による問題を最小限に抑えることができる。
【0020】
また、巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構に本発明を採用する場合でいうと、上記分力が、上記と同様に、第1の連結部材を回動させない(巻取側のテリーモーション部材を変位させない)程度の小さい力であるか、あるいは、第1の連結部材を回動させる大きさの力であっても、それに伴う巻取側のテリーモーション部材の変位量が、織前付近に配設された他の部材に衝突しない程度にしか巻取側のテリーモーション部材を変位させない大きさであるような「近傍」の位置をいう。また、この場合の「近傍」の位置は、織機の回転数(筬打ち力の強さ)やファーストピックの筬打ち時の巻取側のテリーモーション部材の位置と織前付近に存在する部材との位置関係等によって様々な位置を取り得る。そしてこの場合でも、上述した従来の技術による問題は発生しないか、あるいはその従来の技術による問題を最小限に抑えることができる。
【0021】
なお、本発明を巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構に採用した場合において、駆動モータによるオーバーランによる巻取側のテリーモーション部材と織前付近に設けられた部材との衝突を防止するという効果も得られる。
【0022】
すなわち、図7に示すように、巻取側のテリーモーション部材を織機の駆動源(主軸)とは別の駆動モータで駆動する場合であってその駆動モータを往復反転駆動する場合において、巻取側のテリーモーション部材をルーズピックの筬打ち時の位置からファーストピックの筬打ち時の位置へ変位させる場合に、駆動モータが、その高速回転及びテリーモーション部材の重量等に伴う慣性により、反転位置で停止せずにオーバーランする場合がある。そして、その結果、巻取側のテリーモーション部材が、本来移動すべきファーストピックの筬打ち時の位置よりも織前側に移動してしまい、織前付近に設けられたテンプル等の部材に衝突するといった問題が発生する。
【0023】
これに対し、本発明を巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構に採用した場合、巻取側のテリーモーション部材が取り得る最も織前側の位置が、ファーストピックの筬打ち時の位置もしくはその近傍に制限されるため、上記のような問題の発生が有効に防止される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳述する。
【0025】
図1、2に示すのは本発明の一実施形態であって、図1に本発明が適用される布移動式パイル織機を示す。また、図2に示すのは、本発明の要部を線図で示した概略図であって、図2では、図1に示すパイル経糸PT、巻取側のテリーモーション機構及びその駆動モータ等は省略してある。
【0026】
図1に示すように、布移動式パイル織機1は、多数のパイル経糸PTがシート状に巻き付けられたパイル経糸用のワープビーム2(図面上側)と、多数の地経糸GTがシート状に巻き付けられた地経糸用のワープビーム3(図面下側)とを備える。パイル経糸PTは、ワープビーム2から送り出され、2つのガイドロール6、6と、その下流側に設けられたパイル経糸用のテンションロール7の外周に巻き掛けられて案内された後、綜絖8及び筬5を経て、織布Wの織前CFに導かれる。
【0027】
また、地経糸GTは、ワープビーム3から送り出された後、送出側のテリーモーション部材である地経糸用のテンションロール15の外周に巻き掛けられて案内された後、パイル経糸PTと同様に、綜絖8及び筬5を経て織前CFに導かれる。
【0028】
緯入れされた緯糸(図示せず)と共にパイル経糸PT及び地経糸GTによって形成された織布Wは、巻取側のテリーモーション部材である布ガイドロール16に案内された後、服巻ロール11及びガイドロール12、13を経て、最終的に布巻ロール14に巻き取られる。
【0029】
図示のパイル織機1は、送出側のテリーモーション部材(地経糸用のテンションロール15)と巻取側のテリーモーション部材(布ガイドロール16)とをそれぞれ専用の駆動モータ及び駆動機構で駆動するものである。
【0030】
詳しくは、地経糸用のテンションロール15は、織機の両サイドフレーム(図示せず)のそれぞれに揺動可能に支持された支持部材としての支持レバー24(図1にはその一方のみを図示)によってその両端で支持されており、この支持レバー24が、駆動伝達機構20を成す連結ロッド26及び揺動レバー22を介して駆動モータm1の出力軸m1sに連結されている。また、巻取側のテリーモーション部材である布ガイドロール16は、上記地経糸用のテンションロール15と同様に、一対の支持レバー34(支持部材)により織機の両サイドフレーム間で支持されており、この支持レバー34が、駆動伝達機構30を成す連結ロッド36及び揺動レバー32を介して駆動モータm2の出力軸m2sと連結されている。
【0031】
図示のパイル織機1では、送出側及び巻取側のテリーモーション部材がそれぞれ専用の駆動モータで駆動されるため、両テリーモーション部材を非同期的に運動させることができる。すなわち、両テリーモーション部材を、その移動開始・終了タイミング及び移動量が異なるように駆動することができ、例えば、テンションロール15については織機1サイクル中の地経糸張力の変動を緩和するような駆動態様とする等が考えられる。
【0032】
図1、2に示すように、テンションロール15を支持する支持レバー24と駆動軸である駆動モータm1の出力軸m1sとを連結する駆動伝達機構20は、揺動レバー22及び連結ロッド26で構成されており、この揺動レバー22及び連結ロッド23が連結部材として機能している。
【0033】
揺動レバー22は、機台に固定配置された駆動モータm1の出力軸m1sに取り付け固定されている。すなわち、揺動レバー22は、機台に位置固定された駆動モータm1の出力軸m1sに支持され、出力軸m1sの回転により揺動駆動されるものであって、本発明における第1の連結部材に相当する。また、駆動モータm1の出力軸m1sが、第1の連結部材を支持する支持軸に相当する。
【0034】
また、連結ロッド26は、その一端で第1の連結部材である揺動レバー22の支持レバー24側に連結されており、本発明における第2の連結部材に相当する。そして、連結ロッド26と揺動レバー22との連結部分CPが本発明における連結部に相当する。更に、連結ロッド26は、その他端26aで支持レバー24に対し揺動軸24aとは反対側の端部24bに連結されており、揺動レバー22の運動が連結ロッド26を介して伝達される。なお、連結ロッド26と揺動レバー22及び支持レバー24とは、互いに回動可能に連結されている。
【0035】
因みに、本発明では、第1の連結部材(本実施例では揺動レバー22)が固定軸に支持されて回動(揺動)するものであるため、この第1の連結部材に連結される第2の連結部材(本実施例では連結ロッド26)は固定軸に支持されたものとは成り得ない。従って、第2の連結部材は、図示の例のように、第1の連結部材に連結される側とは反対の端部も固定支軸を中心として回動(揺動)する部材と連結されるものであり、両回動部材(一方は第1の連結部材)を連結する部材として形成される。
【0036】
上記のように、揺動レバー22は、駆動モータm1の出力軸m1sに取り付け固定されており、駆動モータm1によって揺動駆動される。そして、駆動モータm1が揺動レバー22を往復揺動駆動することにより、連結ロッド26を介して支持レバー24が揺動軸24aを中心に揺動し、テンションロール15が前後方向へ往復運動する。
【0037】
布ガイドロール16を支持する支持レバー34と駆動モータm2の出力軸m2sとを連結する駆動伝達機構30についても同様の構成であって、揺動レバー32は、機台に固定配置された駆動モータm2の出力軸m2sに取り付け固定されて駆動モータm2により揺動駆動されるものであり、連結ロッド36は、揺動レバー32と支持レバー34とを連結し、揺動レバー32の運動を支持レバー34へ伝達する。従って、駆動モータm2が揺動レバー32を往復揺動駆動することにより、支持レバー34が揺動軸34aを中心に揺動し、布ガイドロール16が前後方向へ往復運動する。
【0038】
このようにしてテンションロール15及び布ガイドロール16が上記のように前後方向へ往復運動することにより、製織された織布W、延ては織前CFが前後方向へ往復変位する。図2では、この織前CFの変位の範囲を実線aと一点鎖線bとで示している。そして、所定の緯入れサイクル毎にこの織前CFの変位が繰り返されることにより、筬5の筬打ち位置との関係で織布Wにパイルが形成される。
【0039】
以上のような布移動式のパイル織機1において、本実施例では、送出側のテリーモーション部材であるテンションロール15に対応する駆動伝達機構20において、ファーストピックの筬打ち時、すなわち、緯入れされた緯糸が、それ以前に緯入れされて織前CFから離間した位置に置かれた数ピック分の緯糸と共に織布Wの織前CFへ筬打ちされる筬打ち時に、連結ロッド26の支持レバー24側の端部26a(より詳しくは、支持部材24との連結軸の軸心)と駆動モータm1の出力軸m1s(より詳しくは、出力軸m1sの軸心)とを結ぶ直線上に連結部CPが位置する連結状態となるように、揺動レバー22及び連結ロッド26が配設されている。なお、図2では、ファーストピックの筬打ち時における各部材の状態(位置)を実線で示してある。
【0040】
ファーストピックの筬打ち時には、筬5が織布Wの織前CFに緯糸を打ちつけるため、その大きな力が織前CFに作用する。織前CFに作用する力は、地経糸GTを介してテンションロール15に伝わり、テンションロール15を織前CF側へ引き寄せる力として作用する(厳密には、織前CFに上記力が作用する結果、地経糸GTの張力が上昇し、その張力上昇分に相当する力(筬打ち力)がテンションロール15を織前CF側へ引き寄せる力として作用する)。それに伴い、支持レバー24に対し、揺動軸24aを中心として揺動レバー24を織前CF側へ揺動させようとする力が作用する。そして、その力が、連結ロッド26を介し、連結ロッド26の延在方向である矢印k1の方向の力として連結部CPに作用する。
【0041】
しかし、本実施例では、ファーストピックの筬打ち時において、連結ロッド26の支持レバー24側の端部26aと揺動レバー22の支持軸(駆動モータm1の出力軸m1s)とを結ぶ直線上に連結部CPが位置し、連結ロッド26の姿勢と揺動レバー22の姿勢とが一致する連結状態(両部材の為す角度が180°)となるように、揺動レバー22と連結ロッド26とが設けられている。従って、ファーストピックの筬打ち時では、連結ロッド26の延在方向(=連結ロッド26の支持レバー24側の端部26aと連結部CPとを結ぶ直線の方向)すなわちテンションロール15を介して連結部CPへ作用する筬打ち力の方向が、連結部CPと揺動レバー22の支持軸である駆動モータm1の出力軸m1sとを結ぶ方向に一致した状態となる。これにより、連結部CPに作用する筬打ち力は、全て揺動レバー22の連結部CPと支持軸との間の部分の延在方向へ作用し、揺動レバー22を介して全て駆動モータm1の出力軸m1sに作用する。
【0042】
その結果、連結部CPに作用する筬打ち力は、揺動レバー22の連結部CPと揺動支点との間の部分を、その延在方向に向けて駆動モータm1の出力軸m1sへ押し付ける力としてし作用せず、揺動レバー22に対しこれを回動させる方向の力としては作用しない。よって、駆動モータm1の出力軸m1sを回転させる力が発生しないため、ファーストピックの筬打ち時にテリーモーション部材に作用する筬打ち力によって駆動モータm1の出力軸m1sが回転し、それにより織前CFが動いてしまうといった現象は回避でき、ファーストピックの筬打ち時に織前CFが動くことに伴う筬打ち力不足やパイル高さが低くなるといった問題の発生を回避することができる。
【0043】
なお、上記実施例では、ファーストピックの筬打ち時において、連結ロッド26の支持レバー24側の端部26aと駆動モータm1の出力軸m1sとを結ぶ直線上に連結部CPが位置するように、揺動レバー22及び連結ロッド26を設けるものとしたが、これに限定されず、ファーストピックの筬打ち時における連結部CPの位置が、上記直線の近傍に位置するように、揺動レバー22及び連結ロッド26を設けるものであってもよい。
【0044】
図3に示す例では、ファーストピックの筬打ち時において、連結部CPが、連結ロッド26の支持レバー24側の端部26aと駆動モータm1の出力軸m1sとを結ぶ直線Lの近傍であって直線Lから離間した位置となるように、揺動レバー22及び連結ロッド26が設けられている。
【0045】
この場合、2点鎖線での円Xで示す部分の拡大図からも分かるように、連結ロッド26を介して連結部CPに作用する筬打ち力Fは、揺動レバー22の延在方向とは異なる方向に作用する。そのため、揺動レバー22には、この筬打ち力Fの分力である揺動レバー22の延在方向の分力f2と揺動レバー22に直交する方向の分力f1とが作用する。そして、この分力f1が、揺動レバー22を回転させる方向へ作用する力となる。また、この分力f1は、連結ロッド26と揺動レバー22との間の狭角が小さいほど、すなわち、連結部CPの位置が直線Lから離間するほど大きくなる。
【0046】
この図3に示す実施例では、この分力f1が、第1の連結部材を回動させない程度の大きさの力であるか、あるいは、第1の連結部材を回動させる大きさの力であってもそれに伴う織前CFの変位量が織物の品質影響を及ぼさない程度にしか織前CFを変位させない大きさの力であるような範囲内に連結部CPが位置するように揺動レバー22及び連結ロッド26が設けられる。従って、この実施例の場合でも、ファーストピックの筬打ち時に連結部26に対し上記筬打ち力が作用しても、それに伴って織前CFが変位しないか、あるいは織物の品質に影響を与えない程度しか織前CFが変位しないため、織物の品質が損なわれるといった問題は発生しない。
【他の実施の形態】
【0047】
上記実施例では、本発明による駆動伝達機構の構成を、送出側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構20に採用した場合について述べたが、本発明はこれに限定されるものではなく、巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構30に採用してもよい。
【0048】
図4は、巻取側のテリーモーション部材である布ガイドロール16に対応して設けられた駆動伝達機構30に対し本願発明を採用した場合を示す。図4では、ファーストピックの筬打ち時の状態を実線で示している。そして、図示の例では、第1の連結部材に相当する揺動レバー32と第2の連結部材に相当する連結ロッド36との連結部CPが、揺動レバー32の支持軸である駆動モータm2の出力軸m2sと連結ロッド36の支持レバー34側の端部36aとを結ぶ直線上に位置するように、揺動レバー32及び連結ロッド36が設けられている。
【0049】
この構成によれば、ファーストピックの筬打ち時に布ガイドロール16に筬打ち力が作用しても、上記実施例と同様に、連結部CPに作用する筬打ち力の方向が揺動レバー32の延在方向と一致しているため、この力が揺動レバー32を回転させる方向として作用しない。しかも、図示の例では、支持レバー34の揺動に伴う布ガイドロール16の揺動領域の織前CF側の揺動限が、ファーストピックの筬打ち時の位置に制限される構成となっている。従って、布ガイドロール16が図示の位置から更に織前CF側へ変位することないため、布ガイドロール16と織前付近に配置されたテンプル等の部材とが衝突するといった問題は確実に防止される。
【0050】
また、連結部CPに作用する力が揺動レバー32を回転させる力として作用しないため、図4の例とは別に、駆動手段にカム機構等を採用した場合であっても、それらの機構や駆動伝達機構に回転方向の負荷が作用することがない。よって、このような回転方向の負荷が筬打ち毎に作用することによる駆動手段等の早期の破損も防止される。
【0051】
なお、巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構へ本発明を採用する場合においても、ファーストピックの筬打ち時における連結部CPの位置は、必ずしも第1の連結部材(揺動レバー32)の支持軸と第2の連結部材(連結ロッド36)の支持部材側端部とを結ぶ直線上に位置させる必要はなく、巻取側のテリーモーション部材の織前付近に配置された部材への衝突が発生しないものであれば、上記の連結部CPの位置は、上記直線の近傍であってもよい。
【0052】
以上の実施例では、本発明による駆動伝達機構の構成を、送出側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構20又は巻取側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構30のいずれか一方に採用する場合について述べたが、本発明はこれに限定されず、駆動伝達機構20、30の両方に同時に採用してもよい。なお、この場合、例えば、駆動伝達機構20における揺動レバー22が本発明でいう第1の連結部材に、連結ロッド26が第2の連結部材に相当するものとした場合、駆動伝達機構30における揺動レバー32は第3の連結部材に相当し、連結ロッド36は第4の連結部材に相当する。
【0053】
また、以上の実施例では、駆動伝達機構20、30を2つの連結部材(揺動レバー22、32及び連結ロッド26、36)で構成するものとしたが、本発明における駆動伝達機構はこれに限らず、3以上の連結部材で構成されるものとしてもよく、駆動伝達機構を構成する複数の連結部材中に、本発明でいうような第1(第3)及び第2(第4)の連結部材を含むものであればどのように構成するものであってもよい。また、連結部材は、レバーの形態、ロッドの形態等、どのような形態であってもよい。
【0054】
さらに、上記の実施例では、第1(第3)の連結部材を支持する支持軸を、機台に位置固定された駆動モータの出力軸(駆動軸)としたが、第2の連結部材は駆動軸に支持されるものに限らず、それ以外の機台に位置固定された軸に支持されるものであってもよい。例えば、図5に示すのがその一例であって、図5には、本発明による駆動伝達機構を送出側のテリーモーション部材に対応する駆動伝達機構に採用した場合についてその要部のみを示す。なお、図5では、上記実施例と共通する部材については上記と同じ符号が付してある。
【0055】
図5に示す例では、支持レバー24に連結された連結ロッド26と駆動モータm1の出力軸m1sに取り付けられた揺動レバー22との間に連結ロッド42及びL字形のクランクレバー44が設けられている。クランクレバー44は、機台に位置固定された支持軸44aに支持されて回動自在に設けられており、支持レバー24側の端部で連結ロッド26と連結されている。すなわち、このクランクレバー44が本発明における第1の連結部材として機能する。そして、このクランクレバー44の支持レバー24側に連結されている連結ロッド26が、前述の実施例と同様に第2の連結部材として機能し、クランクレバー44と連結ロッド26との連結部分が連結部CPとなる。
【0056】
また、クランクレバー44は、連結ロッド26が連結される端部とは反対側の端部で連結ロッド42を介して揺動レバー22と連結されている。なお、クランクレバー44と連結ロッド26及び連結ロッド42とは互いに回動自在に連結され、連結ロッド42と揺動レバー22とは互いに回動自在に連結されている。
【0057】
この図5に示す例でも、ファーストピックの筬打ち時(図の実線で示す状態)において、第1の連結部材であるクランクレバー44と第2の連結部材である連結ロッド26とが、連結部CPがクランクレバー44の支持軸44aと連結ロッド26の支持レバー24側の端部(支持レバー24との連結軸)26aとを結ぶ直線上に位置するような連結状態となるように設けられているため、ファーストピックの筬打ち時にクランクレバー44を回転させる力が発生せず、上記実施例と同様の効果が得られる。
【0058】
以上では、送出側及び巻取側のテリーモーション部材をそれぞれ専用の駆動モータで駆動する布移動式パイル織機の場合について述べたが、本発明が適用されるパイル織機はこれに限定されず、両テリーモーション部材が単一の駆動モータで駆動されるものおいても適用できる。両テリーモーション部材が単一の駆動モータで駆動される布移動式パイル織機においても、駆動モータの出力軸と送出側のテリーモーション部材を支持する支持部材とを連結する機構に上記実施例の構成を採用することにより、同様の作用効果が得られる。
【0059】
また、上記の実施例では、駆動伝達機構が、揺動レバーを駆動モータの出力軸に取り付けると共に、この揺動レバーと送出側のテリーモーション部材を支持する支持部材とをレバー及び/又はロッドで連結するリンク機構で構成されるものとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、図6に示すように、駆動軸46に取り付けられたカムCを有するカム機構を備え、カム機構によって揺動レバー22を揺動駆動するものにも採用できる。
【0060】
図示の例では、揺動レバー22は、機台に位置固定された支持軸22aを中心として回動可能に設けられたL字形のレバーとし、連結ロッド26と連結される端部とは反対側の端部にカムフォロア22bが配設されたものとして構成されている。また、この例の場合、カム機構を駆動する駆動軸46は、専用の駆動モータの出力軸もしくは専用の駆動モータで回転駆動される回転軸であってもよいし、織機の主軸によって回転駆動される回転軸であってもよい。
【0061】
なお、本発明は上記のいずれの実施形態にも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々に変更することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の布移動式パイル織機の一実施形態を示す側面図。
【図2】本発明の一実施形態の要部の概略を示す説明図。
【図3】本発明の一実施形態の要部の概略を示す一部拡大図を含む説明図。
【図4】本発明の他の実施形態の要部の概略を示す説明図。
【図5】本発明の他の実施形態の要部の概略を示す説明図。
【図6】本発明の他の実施形態の要部の概略を示す説明図。
【図7】従来の技術の示す説明図。
【符号の説明】
【0063】
1 布移動式パイル織機
2 パイル経糸用ワープビーム
3 地経糸用ワープビーム
5 筬
8 綜絖
15 地経糸用テンションロール(送出側テリーモーション部材)
16 布ガイドロール(巻取側テリーモーション部材)
22 揺動レバー(連結部材)
24 支持レバー(支持部材)
24a 揺動軸
26 連結ロッド(連結部材)
32 揺動レバー(連結部材)
34 支持レバー(支持部材)
34a 揺動軸
36 連結ロッド(連結部材)
44 クランクレバー(連結部材)
44a 支持軸
m1、m2 駆動モータ(駆動手段)
m1a、m2a 出力軸(駆動軸/支持軸)
GT 地経糸
PT パイル経糸
CF 織前
CP 連結部
W 織布

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送出側及び巻取側のテリーモーション部材がそれぞれに対応して設けられた駆動伝達機構を介して駆動手段の駆動軸と連結されており、前記駆動手段によって前記送出側及び巻取側のテリーモーション部材を変位させることにより、筬打ち位置に対する織前の位置を変化させてパイルを形成する布移動式パイル織機において、
前記送出側又は巻取側の一方のテリーモーション部材を支持する支持部材と前記駆動軸とを連結する前記駆動伝達機構が、位置固定された支持軸に支持されて回動可能に設けられた第1の連結部材と、該第1の連結部材の前記支持部材側に連結された第2の連結部材とを含む2以上の連結部材で構成されており、
ファーストピックの筬打ち時に、前記第1の連結部材の支持軸と前記第2の連結部材の前記支持部材側の端部とを結ぶ直線上又はその近傍に前記第1の連結部材と前記第2の連結部材との連結部が位置する連結状態となるように前記第1及び第2の連結部材が設けられている、ことを特徴とする布移動式パイル織機におけるテリーモーション部材の駆動装置。
【請求項2】
更に、前記送出側又は巻取側の他方のテリーモーション部材を支持する支持部材と前記駆動軸とを連結する前記駆動伝達機構が、位置固定された支持軸に支持されて回動可能に設けられた第3の連結部材と、該第3の連結部材の前記支持部材側に連結された第4の連結部材とを含む2以上の連結部材で構成されており、
ファーストピックの筬打ち時に、前記第3の連結部材の支持軸と前記第4の連結部材の前記支持部材側の端部とを結ぶ直線上又はその近傍に前記第3の連結部材と前記第4の連結部材との連結部が位置する連結状態となるように前記第3及び第4の連結部材が設けられている、ことを特徴とする請求項1に記載の布移動式パイル織機におけるテリーモーション部材の駆動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−291367(P2006−291367A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−109693(P2005−109693)
【出願日】平成17年4月6日(2005.4.6)
【出願人】(000215109)津田駒工業株式会社 (226)
【Fターム(参考)】