説明

希土類ハロゲン化物からなり、研磨した反応性表面を有する結晶質シンチレータ

本発明は、少なくとも50質量%の希土類ハロゲン化物と研磨された第1の面とを含む単結晶シンチレータ材料に関する。当該材料は、研磨された第1の面とは異なる面により当該材料に光学的に結合される受光器を含む電離放射線検出器に組み込まれる。当該材料は、良好なエネルギー分解能と大きな光度とをもたらす。研磨は、結晶のシンチレーション方位とは関係なく行うことができる。従って、その方位の結果としての材料の損失が解消される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低エネルギーのX線とガンマ線及び電離粒子を検出するために使用される、希土類ハロゲン化物を含むシンチレータの分野に関する。
【背景技術】
【0002】
電離放射線(電離粒子、例えば特にプロトン、中性子、電子、アルファ粒子、イオンなど、及びX線又はガンマ線を含む)は、入射放射線を光に変える単結晶シンチレータを使用し、それをその後光電子増倍管などの受光器を使って電気信号に変換して検出するのが通例である。用いられるシンチレータは特に、タリウムをドープしたヨウ化ナトリウム(以下ではNaI(Tl)と称される)、ナトリウムもしくはタリウムをドープしたヨウ化セシウム、又はプラセオジムもしくはセリウムをドープしたハロゲン化ランタンの単結晶であることができる。ハロゲン化ランタンに基づく結晶は、米国特許第7067815号明細書、米国特許第7067816号明細書、米国特許出願第05/188914号明細書、米国特許出願第06/104880号明細書、及び米国特許出願第07/241284号明細書で公表されているような最近の研究の対象になっている。これらの結晶は光度と分解能の点では見込みがあるが、吸湿性があるためそれらに対しては特別な注意を払わなくてはならない。
【0003】
X線、ガンマ線、及び低エネルギー粒子は、従来からシンチレータ結晶により検出されており、そのうちの最も広く使用されているのはNaI(Tl)である。分析しようとする放射(線又は粒子)の性質のために、物質に浅く入り込むだけであるので、結晶の表面の最初の数原子層が極めて重要なものである。これらの層は結晶格子を正確に再現しなくてはならず、そしてこれは表面の加工と矛盾するところがある。従って従来技術においては、結晶は、下にある結晶構造をそのまま保持する表面を生じさせるために劈開されている。その結果、劈開面が感度のある検出面として使用されている。NaI(Tl)の場合、劈開するのを別の方法と取り替えるのは不可能であり、その理由はこれが検出特性を非常に悪くする(劈開で得ることができるものと比べて、エネルギー分解能が十分でなく、シンチレータにより発生する光の量が少ない)ことになるからである。
【0004】
近年に至って、希土類ハロゲン化物をベースとした新しい世代のシンチレータが登場してきた。それらはとりわけ、米国特許第7067815号明細書、米国特許第7233006号明細書、米国特許第7067816号明細書、及び米国特許第7250609号明細書に記載されている。そのようなシンチレータは商業的に入手可能であり、放射線の受け取り面として劈開面を有する。希土類ハロゲン化物は300nmと530nmの間の波長範囲で放射する。Pr又はCeをドープしたランタンハロゲン化物は300nmと400nmの間で放射する。
【0005】
結晶は優先結晶面に沿って劈開し、そのため一方では劈開作業を行うため、他方では最終用途に関して性能を最適化するために、的確な方位に配向した結晶を選択しなければならない。この所要の配向は、不正確に配向した材料を使用することができないため収率を低下させる。劈開作業は失敗することもあり(小片や割れが生じることがある)、これもまた廃棄品をもたらす。
【0006】
米国特許第5013921号明細書には、約60keVのエネルギーを一般に必要とする放射線撮影用途において、研磨表面を有するシンチレータ材料を使用することが教示されている。非晶質の水素化したケイ素をベースとする光ダイオードが検出のために使用され、シンチレータの表面に直接配置される。これらの光ダイオードは550nmより有意に上の波長で感度を有する。
【0007】
ウクライナ国特許第80507号明細書には、研磨されたユーロピウムドープのアルカリハロゲン化物単結晶シンチレータが教示されている。
【0008】
国際公開第2009/129534号パンフレットには、研磨面を光検出器の方に向けられ、その結果非常に精密な研磨を必要としない結晶が教示されている。更に、この文献では、研磨面はサンドブラスト処理した又は粗い面と同じ平面に配置される。
【0009】
米国特許出願公開第2005/0104001号明細書には、PET(陽電子放出断層撮影)用途向けの研磨した結晶が教示されている。研磨の程度と研磨面を用いることは、説明されていない。PET用途では、入射放射線は511keVのエネルギーを有する。結晶の低エネルギー特性をPETにおけるその特性から推定することは可能でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第7067815号明細書
【特許文献2】米国特許第7067816号明細書
【特許文献3】米国特許出願第05/188914号明細書
【特許文献4】米国特許出願第06/104880号明細書
【特許文献5】米国特許出願第07/241284号明細書
【特許文献6】米国特許第7233006号明細書
【特許文献7】米国特許第7250609号明細書
【特許文献8】米国特許第5013921号明細書
【特許文献9】ウクライナ国特許第80507号明細書
【特許文献10】国際公開第2009/129534号パンフレット
【特許文献11】米国特許出願公開第2005/0104001号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
希土類ハロゲン化物をベースとする結晶の場合には、エネルギー分解能あるいはシンチレータにより発生させる光の量などの本質的な特性を低下させることなしに、劈開に代えて研磨を用いるのが可能であるということが分かった。その上、この研磨は結晶の結晶方位がどんなものでも行うことができる。結晶を配向させること(すなわち意図する放射線感受性面が劈開平面と一致するようそれを配置すること)は、もはや必要ない。この配向による材料の損失は回避される。研磨により得られる表面仕上げは、2つの結晶平面を分離するために衝撃を利用することを本領とする従来の劈開と比べて、はるかに再現性がよい。
【0012】
このように、本発明は第一に、少なくとも50wt%の希土類ハロゲン化物を含み、且つ「研磨した第1の面」と称される研磨面を含む、単結晶シンチレータ材料に関する。この研磨面は、唯一の研磨面であることができる。とは言え、単結晶の少なくとも1つの他の面が研磨されていてもよい。
【0013】
本発明による研磨された材料は、本発明が表面の下の小さい距離における優れた結晶特性を保持するので、良好な低エネルギー放射線測定性能を得るのを可能にする。低エネルギー放射線が結晶と相互作用するのが、この深さである。
【0014】
必要とされる性能パラメータは、エネルギー分解能(パルス波高分解能としてPHRと称される)と、電離放射源のピークの最高点で検出されるカウント数を放射源のピークと低チャンネル(放射源のピークの左側に向かう)に存在するノイズのピークとの間の最小のカウント数で割って得られる山/谷(P/V)比であり、P/V比が大きくなればなるほど信号対ノイズ比はより良好になる。エネルギー分解能PHRは、放射源の活性に相当するスペクトルをエネルギーの関数として記録することにより測定され、このスペクトルはエネルギーで除した全半値幅(最大ピークの横座標)が当該PHRを与えるピークを表し、PHRが小さくなればなるほどスペクトル分解能はより良好になる。
【0015】
単結晶のシンチレーション性能(PHRとP/V)は、PHRとP/V比を5.9keVのFe55源で測定して値を求めることができる。5.9keVのFe55源を使用したときに光放射特性が良好である場合、他の放射源での光放射特性も良好である(但しPHRとP/Vの値はたぶん異なる)。
【0016】
当業者は、5.9keVのFe55源の場合にはPHR≦50%及びP/V≧35という性能が満足できると考えよう。
【0017】
「低エネルギーのX線」及び「低エネルギーのガンマ線」という表現は、1〜100keVの範囲内、とりわけ1〜50keV、更にとりわけ1〜10keVの範囲内にある放射線を意味するものと理解される。本発明はまた、上記の範囲のエネルギーを有する放射線を検出するために本発明による検出器を使用することにも関する。本発明はまた、この種の放射線を、本発明による検出器を使用し、研磨した第1の面を電離放射線と相互作用するよう配置(すなわちそれが入射面となる)して検出する方法にも関する。
【0018】
本発明による結晶の研磨面(研磨した第1の面)は、シンチレータ材料の結晶方位がどんなであれ形成することができる。好適な研磨は、機械的又は化学的作用によって得ることができる。一般に、加工される厚さの大部分は機械加工、すなわち切削加工の間に、形成される表面から最初に除去される。結晶は目標の大きさに関して厚さの許容度を与えられる。切削加工後、まず表面を研磨布、例えば280グリットの研磨布(グリット=研磨粒子をフィルタにかける篩の平方インチ当たりの開口の数)を使って研削する。次に研磨を行う。本発明において使用する研磨は、単純な光学的結合が必要とされる(研磨面が受光器の方に向けられる)場合に使用されるものよりも複雑である。この研磨は、特に研磨の最後において、研磨粒子とアルコールとの混合物を使って行うのが有利である。このためには、例えばアルコールとアルミナとの混合物を用い、結晶をポリッシャに軽く押しつけてそれを磨くことが可能である。アルコールはエタノールが有利である。その後の研磨工程はより繊細な研磨作業からなり、すなわちアルコールとダイヤモンド粉末との混合物の助けを借りて、圧力を加えることなく、結晶をポリッシャの表面全体でかなり長く均一に磨くことからなる。この作業は、いずれの突出部、ひっかき傷、更になお微細なひっかき傷も、そしてとりわけいずれのゆず肌外観も、消えてなくなるまで継続される。最終研磨作業においては、今度は研磨はダイヤモンド粉末の量を減らして、とは言えなおもアルコール中のそれを用いて、行われる。ポリッシャは前もってアルコールで何回も洗浄する。アルコール中にごく少量存在する水(例えば臭化ランタン又は塩化ランタンをベースとする結晶についてはアルコール中に約0.1%の水)は、これらの結晶について当てはまる、材料が吸湿性である場合、それを非常にわずかに溶解するので、積極的な役割を果たすように思われる。好ましくは、アルコールは0.01〜1wt%の水を含有する。結晶は、一般に、ポリッシャの助けを借りて、ゆっくりと何回も磨かれる。有利には、研磨の最後に使用される研磨粒子(アルミナ、ダイヤモンド粉末、炭化ケイ素など)は、4μm以下の直径を有する(各研磨粒子が4μmの直径の球内に含まれることができる)。好ましくは、粒子の直径は3μm以下である(各研磨粒子が直径3μmの球内に含まれることができる)。研磨の最後に用いられる研磨粒子は少なくとも、0−2μmグレードの粒子程度に細かいことが更により好ましく、これは粒子の直径が2μm以下であること(各研磨粒子が直径2μの球内に含まれることができること)を意味する。好ましくは、研磨の最後に用いられる研磨粒子はダイヤモンドで作られる。一例として、まさに最後の研磨工程については、約20mgの0−2μmグレードダイヤモンド粉末を直径10cmのポリッシャについて使用することができる。
【0019】
「研磨した第1の面」の研磨の品質は、研磨した面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときのエネルギー分解能PHRと信号対ノイズ比を測定すること(P/V比は下記で図2を参照して説明するように測定される)により管理することができる。従って、研磨した第1の面は、その面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときに好ましくはPHRが55%未満、更には50%未満に至るまで、精密に研磨される(研磨粒子の大きさ、アルコール中の研磨粒子の量を漸次減少させ、及び研磨時間を漸次増加させることにより)。好ましくは、研磨は、この研磨した第1の面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときにP/V比が35%以上、更には40%以上、そして更には45%以上であるのに十分精密なものである。好ましくは、研磨した第1の面は、研磨した第1の面を劈開面(劈開面の性質はPHRに有意の影響を及ぼさないので、これはいずれの劈開面及びいずれの結晶方位であってもよい)と置き換えるのを除き、エネルギー分解能PHRが同一組成及び同一外観の単結晶で測定したエネルギー分解能の最大で107%に等しいのに十分なだけ精密に研磨される。
【0020】
一般に、全てのこれらの表面準備作業(機械加工後且つ最終研磨面が得られるまでの)は、材料の厚さの0.1〜1.5mmを除去する。
【0021】
全体作業は、湿分のない雰囲気で行われる。結晶の加工厚さを除去後に、研磨した第1の面は低エネルギー線又は粒子を検出できる状態にある。
【0022】
その後、結晶は検出器に組み入れられる。検出器は、シンチレータ結晶と受光器を含む。研磨した第1の面は電離放射線のための入口面である。この入口面と反対側の面が、例えば光電子増倍管又は光ダイオードなどの受光器の入口ウインドウ又は光導波路に光学的に結合され、この面は「結合面」と呼ばれることがある。一般に、研磨した第1の面は結合面に平行である。一般に、研磨した第1の面は結晶のうちの結合面の重心から一番遠く離れた点を包含する。結合面が円形面である場合、結合面の重心はこの円形面の中心である。一般に、結合面は平面状である。
【0023】
結晶の大きさに特に制限はない。一般には、格子の容積は25mm3と1000cm3の間である。結晶は、例えば平行六面体、円柱、角錐台、あるいは円錐台などの、任意の形状であることができる。放射線入口面(「研磨した第1の面」)は、シンチレータでの低エネルギー電離放射線の相互作用の質を向上させるように研磨される。この面は一般に平面状である。結晶のその他の表面の仕上げは、光学的な検討事項によって決定され、すなわちそれらは研磨されてもよく(これは光が全反射により案内されるのを可能にする)、あるいは粗くされてもよい(散乱光を生じさせるため)。それらが研磨される場合、それらの準備は、それらの研磨は同じ品質(又は精密さ)を必要とはしないので、上記の手順に従わなくてもよい。ここでは、研磨は、例えばアルコール/アルミナ混合物を用いての、単一工程であってもよい。研磨した第1の面以外の少なくとも1つの面のために使用する研磨粒子は、0−10μmグレードのアルミナであることができ、これはアルミナ粒子の直径が10μm以下(各研磨粒子が10μmの直径の球内に含まれることができる)であることを意味する。0−2μmグレードのアルミナを使用することも可能であり、これはアルミナ粒子の直径が2μm以下(各研磨粒子が2μmの直径の球内に含まれることができる)であることを意味する。
【0024】
結晶は、単純な組立品(放射線入口ウインドウ、結晶及びシンチレーション光を抽出するための光導波路)に組み入れてもよく、あるいはもっと複雑な組立品(放射線入口ウインドウ、研磨した結晶及び、電子部品が付属し又は付属しない受光器)に組み入れてもよい。
【0025】
結晶は単結晶である。それは、少なくとも50wt%の希土類ハロゲン化物を含むように希土類ハロゲン化物をベースとしている。
【0026】
詳しく言えば、結晶組成は式AnLnp(3p+n)に該当することができ、この式においてLnは希土類元素の1種以上、すなわちY、Sc及びLaからLuにかけてのランタニド系列から選ばれる元素を表し、XはCl、Br及びIから選ばれる1種以上のハロゲン原子を表し、AはLi、Na、K、Rb又はCsなどの1種以上のアルカリ金属を表し、n及びpは、nは0より大きいかそれと等しく3より小さいかそれと等してpは1より大きいかそれと等しいような数である。
【0027】
とりわけ、希土類ハロゲン化物は塩化物又は臭化物であることができる。希土類はランタンであることができる。希土類ハロゲン化物は、プラセオジム又はセリウムをドープした臭化ランタン又は塩化ランタンであることができる。
【0028】
本発明は特に、P63/m空間群の六方晶構造の結晶に関し、これには特にLaCl3、CeCl3、NdCl3、PrCl3、SmCl3、EnCl3、GdCl3、LaBr3、CeBr3、PrBr3、及びこれらのハロゲン化物のうちの少なくとも2つの混合物(特にLaCl3とLaBr3、この混合物は場合により例えばCe又はPrなどのドーパントをドープされる)が含まれ、これらのハロゲン化物は場合により例えばCe又はPrなどのドーパントをドープされる。
【0029】
本発明による結晶は、電離放射線を検出するためのシンチレーション材料の役目を果たす。それは、高い計数率を必要とする低エネルギー放射線の検出に特に有利である(希土類ハロゲン化物結晶の光パルス時間はNaI(Tl)などのその他のシンチレータ材料のそれより短くできるが、スペクトル分解能も良好(NaI(Tl)のそれに少なくとも相当)なので)。この結晶の可能性のある用途としては、X線蛍光分光計(物質の定量及び定性分析用)に組み込まれ物理的現象(シンクロトロンにより放出されるX線など)の検出及び/又は特性評価のために用いられる検出器を挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】シンチレータ結晶と光電子増倍管との組立品を示す図である。
【図2】劈開面を持つNaI結晶(従来技術)の場合の5.9keVのFe55源の典型的スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1は、希土類ハロゲン化物をベースとするシンチレータ結晶1と、光電子増倍管2との組立品を示している。結晶の上面3が、電離放射線を受け取る受光面である。この精密に研磨された表面が研磨された第1の面である。破線4は、結晶劈開面が無作為に位置しており、必ずしも面3の平面に一致していないことを示している。面5は光電子増倍管2に結合した面である。この組立品はその後、図示していないハウジング内に密封される。
【0032】
図2は、劈開面を持つNaI結晶(従来技術)の場合における5.9keVのFe55源の典型的なスペクトルを示している。y軸は計数器で測定されたカウント数を示し、x軸は受光器により送出された電圧の、マルチチャンネル分析器(MCA)を使って分析後の、チャンネルを示している。x軸のチャンネルユニットは、シンチレータ材料により放出された光レベルを直接表している。ピークの最大値がP/V比のP値を与える。谷がP/V比のV値を与える。山と谷との比P/Vはここでは73であり、エネルギー分解能(PHR)は35%である。
【実施例】
【0033】
NaI(Tl)とLaCl3(Ce)の結晶(後者はSaint−Gobain Crystals and DetectorsによりBrilLanCe 350の商標名で販売されている)を機械加工して、研磨しようとする面で0.25mmの厚さの許容度を含めて、直径30.0mm、高さ3.5mmのディスクにした。機械加工に際しては、結晶は無作為の配向を有し、
・感受性の放射線入口面を上で説明したようにして研磨し(研磨した第1の面)、
・光検出器(これは光電子増倍管であった)に結合した面もやはり研磨したが、但しもっと単純でそれほど複雑でないやり方で、すなわちアルコールで希釈したアルミナでの研削により行い、この研磨の作用は光学的なもののみであった。
【0034】
比較を目的として、感光面を劈開により得たことを除き、同じ結晶を製作した。比較のために、サンドブラスト処理し又はひっかき傷をつけた(紙やすりでこすった)試料も用意した。
【0035】
放射線入口面の反対の面をエポキシ樹脂で、光電子増倍管の光電陰極ウインドウに接着した。この組立品を図1に示す。この組立品を次に、ハウジング内に密封した。
【0036】
エネルギー分解能(PHR)と山と谷との比(P/V)の測定結果を、5.9keVで放射するFe55源について表1にまとめて示す。
【0037】
【表1】

【0038】
この表において、
・PHRはエネルギー分解能(パルス波高分解能)である。この測定は、放射源の活性をエネルギーの関数として表すスペクトルを記録するものであり、このスペクトルが、エネルギーで除した全半値幅(最大ピークの横座標)が当該PHRを与えるピークを示す。PHRが小さくなればなるほどスペクトル分解能はより良好になる。10個の試料の平均値を示している。
・P/Vは、放射源のピークの最高点で検出されるカウント数を放射源のピークと低チャンネル(5.9keVのピークの左側に向かう)に存在するノイズのピークとの間の最小のカウント数で割って得られる山/谷比を表しており、P/V比が大きくなればなるほど信号対ノイズ比がより良好になる。10個の試料の平均値を示している。
【0039】
当業者は、5.9keVのFe55源の場合にはPHR≦50%及びP/V≧35という性能が満足できるものと考えよう。
【0040】
研磨したNaI(Tl)の場合には、抽出される光の量が少ないので放射源のピークをノイズより多くは検出できず、これが表に「測定不能」と記載している理由である。更に、電離放射線と相互作用する面をサンドブラスト処理し又は紙やすりでこすった結晶は有効な信号を与えなかった。
【0041】
表中に提示した性能パラメータは、同一の光電子増倍管を使用し同じ捕捉装置を用いて、22℃の温度で測定したものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも50wt%の希土類ハロゲン化物を含む単結晶シンチレータ材料であって、5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときのエネルギー分解能PHRが55%未満であるのに十分精密に研磨された第1の面を含むことを特徴とする単結晶シンチレータ材料。
【請求項2】
前記希土類ハロゲン化物が塩化物又は臭化物であることを特徴とする、請求項1記載の材料。
【請求項3】
前記希土類がランタンであることを特徴とする、請求項1又は2記載の材料。
【請求項4】
前記希土類ハロゲン化物がプラセオジム又はセリウムをドープした臭化ランタン又は塩化ランタンであることを特徴とする、請求項1〜3の一つに記載の材料。
【請求項5】
前記研磨した第1の面が、研磨の最後に直径4μm以下の粒子で研磨されていることを特徴とする、請求項1〜4の一つに記載の材料。
【請求項6】
前記研磨した第1の面が、研磨の最後に直径3μm以下の粒子で研磨されていることを特徴とする、請求項5記載の材料。
【請求項7】
前記研磨した第1の面が、研磨の最後に直径2μm以下の粒子で研磨されていることを特徴とする、請求項6記載の材料。
【請求項8】
前記研磨された第1の面が、研磨の最後に研磨粒子とアルコールとの混合物で研磨されていることを特徴とする、請求項1〜7の一つに記載の材料。
【請求項9】
前記アルコールが0.01〜1wt%の水を含有していることを特徴とする、請求項8記載の材料。
【請求項10】
前記研磨された第1の面が、当該研磨した第1の面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときのエネルギー分解能PHRが50%未満であるのに十分精密に研磨されていることを特徴とする、請求項1〜9の一つに記載の材料。
【請求項11】
前記研磨した第1の面が、当該研磨した第1の面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときの山/谷比P/Vが35%以上であるのに十分精密に研磨されていることを特徴とする、請求項1〜10の一つに記載の材料。
【請求項12】
前記研磨した第1の面が、当該研磨した第1の面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときの山/谷比P/Vが40%以上であるのに十分精密に研磨されていることを特徴とする、請求項11記載の材料。
【請求項13】
前記研磨した第1の面が、当該研磨した第1の面を5.9keVのFe55源からの放射線に暴露したときの山/谷比P/Vが45%以上であるのに十分精密に研磨されていることを特徴とする、請求項12記載の材料。
【請求項14】
前記研磨した第1の面が、エネルギー分解能PHRが当該研磨した第1の面を劈開面と取り替えるのを除いて同一組成及び同一外観の単結晶で測定したエネルギー分解能の最大で107%に等しくなるのに十分精密に研磨されていることを特徴とする、請求項1〜13の一つに記載の材料。
【請求項15】
受光器と、少なくとも50wt%の希土類ハロゲン化物を含むとともに研磨された第1の面を含む単結晶シンチレータ材料とを含み、前記受光器が前記研磨された第1の面以外の、結合面と称される面を介して前記材料に光学的に結合されている、電離放射線検出器。
【請求項16】
前記シンチレータ材料が請求項1〜14の一つに記載されたそれであることを特徴とする、請求項15記載の検出器。
【請求項17】
前記研磨した第1の面が前記シンチレータ材料のうちの前記結合面の重心から一番遠く離れた点を包含することを特徴とする、請求項15又は16記載の検出器。
【請求項18】
1〜100keVの範囲内のエネルギーを有する放射線を検出することへの、請求項15〜17の一つに記載の検出器の利用。
【請求項19】
前記放射線が1〜50keVの範囲内のエネルギーを有することを特徴とする、請求項18記載の利用。
【請求項20】
前記放射線が1〜10keVの範囲内のエネルギーを有することを特徴とする、請求項19記載の利用。
【請求項21】
電離粒子を検出することへの、請求項15〜17の一つに記載の検出器の利用。
【請求項22】
1〜100keVの範囲内のエネルギーを有する放射線を検出する方法であって、前記放射線がシンチレータ材料の研磨した第1の面と相互作用し、受光器が前記シンチレータ材料の前記研磨した第1の面以外の面を介して当該材料に光学的に結合されていて、前記シンチレータ材料が入射放射線を光に変え、そしてそれを前記受光器を使って電気信号に変換することを特徴とする放射線検出方法。
【請求項23】
前記シンチレータ材料が請求項1〜14の一つに記載されたそれであることを特徴とする、請求項22記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−515829(P2013−515829A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546487(P2012−546487)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【国際出願番号】PCT/FR2010/052875
【国際公開番号】WO2011/080468
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(504455713)
【Fターム(参考)】