説明

希土類ボンド磁石

【課題】圧縮成形及び熱硬化により製造される希土類ボンド磁石であって、特に高温環境下での耐熱性、耐久性及び耐候性を備えること。
【解決手段】希土類磁石粉末、熱硬化性樹脂製樹脂バインダ、有機燐系化合物、及びカップリング剤を含むコンパウンドを圧縮成形及び熱硬化してなる希土類ボンド磁石であり、前記有機燐系化合物と前記カップリング剤が、以下の化学式(構造式)で例示されるものを含む。
【化12】


【化13】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁石粉末を主成分とし、希土類磁石粉末と結合樹脂(ボンド樹脂)との組み合わせによって得られる希土類ボンド磁石に関し、さらに詳細には、特に、高温環境下での耐熱性、耐久性、耐候性が求められ、かつ、圧縮成形プロセスにより作製、例えば、モータなどの回転機器に用いられる希土類ボンド磁石に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類永久磁石は、優れた磁気特性を有することから、モータなどの回転機器を代表とした、一般家電製品や音響機器、医療機器、一般産業機器など、幅広い分野で応用されている。そのうち、粉末からなる希土類磁石材料と結合を担う樹脂との組み合わせからなる希土類ボンド磁石は、形状自由度が高い特徴を活かし、上記のような応用例において、小型化や高性能化などに貢献している。希土類ボンド磁石の成形プロセスは、圧縮成形、射出成形、押出成形などに分類され、使用する樹脂は成形プロセスによって異なる。圧縮成形では熱硬化性樹脂が、射出成形、押出成形では熱可塑性樹脂が用いられ、永久磁石の用途に応じて使い分けられるのが一般である。中でも、熱硬化性樹脂を用いて圧縮成形プロセスによって作製される希土類ボンド磁石は、永久磁石内部における磁石粉末の含有量を多くすることができ、より高い磁気特性を発揮する永久磁石を得ることができる。
【0003】
また、上記に挙げた応用分野のほかに、車輌用途分野、より代表的には自動車用途分野が挙げられる。従来の自動車用途に向けた永久磁石材料は、耐熱性、耐久性、耐候性に優れたフェライト永久磁石が使用されていた。しかしながら、高出力化や小型化などによって、高い表面磁束をもつ永久磁石が必要とされており、優れた磁気特性をもつ磁石材料が求められることから、希土類永久磁石が使用される頻度が増えてきている。
【0004】
自動車用途分野は、上記に挙げた応用分野に比べて、使用する環境条件が過酷である。例えば、氷点下温度における使用やエンジンルーム近傍における使用など、想定される温度範囲は非常に幅広い。また、晴天や雨天に関わらず使用されるため、幅広い湿度範囲において対応しなくてはならない。そのため、自動車用途として使用される永久磁石材料には、幅広い温度・湿度環境に対して、十分な磁気特性が長時間にわたって保持されることが求められる。即ち、自動車用途として使用される永久磁石材料には、環境変化に対する減磁が少なく、耐熱性、耐久性、耐候性を有することが求められる。
【0005】
従来、自動車向けに使用されてきたフェライト永久磁石は、酸化物であるため化学的に安定な物質であり、高温状態において減磁しない特徴をもつ。
しかしながら、常温より低い状態では低温減磁と呼ばれる現象が発生し、低温環境で使用する場合、所望のモータ特性(例えば、回転トルク)を得ることが困難となる。一方、希土類永久磁石は、低温での減磁が発生しないものの、磁化と保磁力の温度依存性が大きいため、高温になるほど磁化は減少する。さらに長時間にわたって高温にさらされると、磁化に経時変化がみられ、いわゆる熱減磁が発生する。
【0006】
また、希土類磁石材料は合金(いわゆるメタル合金)であることから、磁石材料の表面に酸素が接触すると、酸化されやすい。永久磁石における熱減磁は、磁石材料そのものにおける酸化などの組織変化によって発生する永久減磁と、組織変化によらない不可逆減磁が存在する。例えば、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ほう素(B)などを主成分とする希土類永久磁石では、主相であるNdFe14Bや、主相結晶粒の周辺に存在する粒界相(Nd−rich相やB−rich相)が酸化しやすい特性をもつ。これらの相が酸化などで組織変化することにより、磁化や保磁力(HcJ)、減磁曲線の角型性(Hk/HcJ)といった磁気特性が低下する。これらの変化は、再び着磁することで再生されることはなく、モータなどの回転機器の特性(例えば、回転トルク)の低下に大きな影響を及ぼす。そのため、希土類永久磁石における磁石そのものの酸化防止の技術は、永久減磁を抑えることにつながり、磁石特性、ならびに、モータなどの回転機器の特性を決定する重大な要素である。
【0007】
希土類永久磁石における酸化劣化防止の代表的な手法として、磁石本体の表面をコーティングする方法が挙げられる。希土類ボンド磁石におけるコーティング方法には、電着塗装やスプレー塗装などを用いた、樹脂によるコーティングがある。磁石本体の表面を樹脂によってコーティングすることにより、外気に含まれる酸素や水分が希土類永久磁石の表面との接触や侵入を防ぐ効果が得られる。
【0008】
しかしながら、樹脂によるコーティング方法では、表面を完全に覆うことが困難であり、樹脂によるコーティング層には、塗装治具との接触痕などによる未塗装部分、いわゆるピンホールなどが存在する。ピンホールなどの箇所では、空気や水分が通過しやすく、その箇所から磁石材料の酸化劣化が始まるきっかけとなり、実用上十分な耐久性が得られない。また、磁石内部にも空孔が含まれる場合があり、その中にある酸素を含んだ空気などが磁石粉末と接触する虞がある。特に、圧縮成形によって作製される希土類ボンド磁石は、その内部において、磁石粉末と結合樹脂以外に空孔が10%以上存在する場合が多く、磁石粉末と酸素との接触する可能性は無視できない。
【0009】
このことから、磁石粉末と酸素、水分との接触を効率的に防ぐには、従来の方法と異なり、個々の磁石粉末を樹脂などでコーティングあるいは表面処理を行う必要がある。このような、磁石粉末をコーティングあるいは表面処理する方法として、例えば、以下の特許文献1乃至特許文献5に示すものがある。
【0010】
特許文献1には、表面処理された希土類系磁性粉及びその表面処理方法に関するもので、有機ホスホン酸の塩によって希土類磁石粉末の表面に酸化防止被膜を有する表面処理を行うことにより錆防止効果及び酸化防止効果を有する磁性粉の表面処理方法及びこの表面処理した磁性粉を樹脂と混合して射出成形機を用いてボンド磁石を作製することが提案されている。
また、特許文献2には、樹脂バインダに有機リン化合物を選択的に混合し、結合樹脂中に酸化劣化を抑制する効果をもたせて耐蝕性、機械的強度に優れ、長期にわたって高い信頼性を維持するボンド磁石が提案されている。
【0011】
また、特許文献3には、希土類−鉄−窒素系材料を用いた磁気特性及び耐酸化性に優れたボンド磁石として、希土類−鉄−窒素系磁性粉体と酸化防止剤と熱硬化性樹脂を混合し、酸化防止剤の一つが有機リン系化合物であることを特徴とすることにより、高温環境でも耐酸化性を得ることができるボンド磁石が提案されている。
【0012】
また、特許文献4には、結合樹脂として硬化反応型シリコーンゴムを用い、磁石粉末が無機燐酸系化合物とカップリング剤によって被覆されることにより、耐錆特性が向上されるボンド磁石が提案されている。
さらにまた、特許文献5には、希土類元素を含む鉄系磁石粉の表面に均一な燐酸塩被膜を形成させ、その燐酸塩被膜の機能・形態を最適化することにより耐候性が優れることを特徴とする、ボンド磁石が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2001−244106号公報
【特許文献2】特開平6−349617号公報
【特許文献3】特許第3139826号公報
【特許文献4】特開2003−86411号公報
【特許文献5】特許第3882545号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、各先行技術には、耐熱性、耐久性、耐候性に関し、以下のような課題がある。
特許文献1には、表面処理剤として有機ホスホン酸の塩を用いることが記載されており、空気中の水分によって有機ホスホン酸の塩が浸み出し、磁性粉を保護するとしている。この有機ホスホン酸の塩はキレート剤としての機能を有しており、金属表面を不動態傾向に促進させる働きがある。
しかしながら、ボンド磁石単体として酸化防止被膜を形成させるには有用であるが、回転機などで実際に使用する場合、空気中の水分によって有機ホスホン酸の塩が磁石外部へ浸み出す可能性が高い。染み出した有機ホスホン酸の塩は、他の部材、中でも金属材料に対してキレート能を発揮する場合、外部機器や部材への影響を避けられない問題が生ずる。
【0015】
また、特許文献2には、樹脂バインダに有機リン化合物を選択的に混合することにより、耐蝕性、機械的強度に優れたボンド磁石が得られることが記載されているが、高温環境での使用中における永久磁石の熱減磁についての効果については言及しておらず、また、腐食の原因が、エポキシ樹脂に含まれるハロゲンイオン、特に塩素イオンが空気中の水分と反応することで生成された塩素であるとしており、高温環境下での使用における永久磁石の熱減磁についてはなんら解決していない。
【0016】
また、特許文献3には、希土類−鉄−窒素系磁性粉体と酸化防止剤と熱硬化性樹脂を混合し、酸化防止剤の一つが有機リン系化合物であることを特徴とすることにより、高温環境でも耐酸化性を得ることができるボンド磁石が得られることが記載されているが、磁石材料が、希土類−鉄−窒素系磁性材料を用いた樹脂複合材料に関するものであって、任意の希土類磁石材料、特に、ネオジム(Nd)、鉄(Fe)、ホウ素(B)などを主成分とする希土類磁石材料における耐熱性の効果については記載していない。また、同文献には、工程処理中の磁粉の酸化劣化への解決手法が示されているが、高温環境での使用中における永久磁石の熱減磁について解決しておらず、高い温度環境での使用に伴う、磁化や保磁力(HJ)、減磁曲線の角型性(Hk/HcJ)といった磁気特性の低下を軽減させる効果は得られない。
【0017】
また、特許文献4には、磁石粉末が無機燐酸系化合物とカップリング剤によって被覆されており、結合樹脂として硬化反応型シリコーンゴムを用いており、耐錆特性が向上されることを特徴としている。
しかしながら、シリコーンゴム系バインダの添加量が、磁石粉末100重量部に対して10重量部から20重量部であり、高密度成形体を得ることが困難となる。その結果、所望の磁気特性が得られにくい問題が残る。
【0018】
また、特許文献5には、希土類元素を含む鉄系磁石粉の表面に均一な燐酸塩被膜を形成させ、その燐酸塩被膜の機能・形態を最適化することにより、耐候性に優れたボンド磁石であることを特徴としている。
しかしながら、記載されるバインダが熱可塑性樹脂であり、熱硬化性樹脂などの使用による効果は確認されていない。また、ポリアミドなどといった熱可塑性樹脂の大半は、連続使用できる大気中の温度が100℃程度しかなく、より高い温度環境での連続使用は困難である。
【0019】
また、上記のいずれの先行技術においても、角型比(Hk/HcJ)の減少について明確な説明されていない。希土類磁石が酸化などによって劣化したとき、保磁力が低下するとともに、角型性が劣化する。磁石材料単体では保磁力の低下に着目すればよいが、モータなどに設置し、磁気回路の一部として組み込んだ場合、角型比が大きく低下すると、磁石から発生する磁束が低くなる恐れがある。そのため、角型性の劣化を極力抑えることが求められる。
【0020】
本発明は、上記のような問題を鑑みて、代表的には、120℃から150℃程度(但し、この温度範囲には限定されない)の温度環境で連続的に使用できるモータ、特に自動車用モータについて使用する希土類ボンド磁石であり、亜リン酸エステル類とカップリング剤とエポキシ樹脂とを混合し、バインダとして使用することにより、より簡易な方法によって、耐熱性、耐久性、耐候性等が向上した希土類ボンド磁石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
(発明の態様)
以下、発明の態様を示し、それらについて説明する。なお、(1)項から(10)項が、請求項1から請求項10に対応する。
【0022】
(1) 希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂からなる樹脂バインダと、有機燐系化合物と、カップリング剤と、を含むコンパウンドを作製し、該コンパウンドを圧縮成形及び熱硬化してなる希土類ボンド磁石であって、
前記有機燐系化合物は次の一般式(1)
【化1】

・・・式(1)
(式中、R及びR2は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、R及びR2が2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)で表される有機燐酸エステル化合物で、
前記カップリング剤は次の一般式(2)で表される、
【化2】


・・・式(2)
(式中、R、R、Rは炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)
であることを特徴とする希土類ボンド磁石。
本項は、本発明に係る第1実施形態の希土類ボンド磁石である。
【0023】
(2)前記熱硬化性樹脂は、前記磁石粉末に対して0.5重量%から6重量%含有してなることを特徴とする(1)項に記載の希土類ボンド磁石。
(3)前記有機燐酸エステル化合物は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の希土類ボンド磁石。
(4)前記カップリング剤は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする(1)項から(3)項いずれか1項に記載の希土類ボンド磁石。
(5)前記コンパウンドにおける前記熱硬化性樹脂と前記有機燐酸エステル化合物と前記カップリング剤との合計が、0.6重量%から10重量%であることを特徴とする(1)項に記載の希土類ボンド磁石。
以上、(2)項から(5)項は、(1)項の構成要素(組成物)に関し、構成要素の重量%の範囲を例示するものである。
【0024】
(6)希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂からなる樹脂バインダと、有機燐系化合物と、カップリング剤と、を含むコンパウンドを作製し、該コンパウンドを圧縮成形及び熱硬化してなる希土類ボンド磁石であって、前記有機燐系化合物は次の一般式(3)
【化3】


・・・(3)
(式中、R及びR2は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、R及びR2が2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)で表される有機燐酸エステル化合物で、前記カップリング剤は次の一般式(4)で表される、
【化4】


・・・(4)
(式中、R、R)は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)であることを特徴とする希土類ボンド磁石。
本項は、本発明に係る第2実施形態の希土類ボンド磁石である。
【0025】
(7)前記熱硬化性樹脂は、前記磁石粉末に対して0.5重量%から6重量%含有してなることを特徴とする(6)項に記載の希土類ボンド磁石。
(8)前記有機燐酸エステル化合物は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする(6)項又は(7)項に記載の希土類ボンド磁石。
(9)前記カップリング剤は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする(6)項から(8)項いずれか1項に記載の希土類ボンド磁石。
(10)前記コンパウンドにおける前記熱硬化性樹脂と前記有機燐酸エステル化合物と前記カップリング剤との合計が、0.6重量%から10重量%であることを特徴とする(6)項に記載の希土類ボンド磁石。
以上、(7)項から(10)項は、(6)項の構成要素(組成物)の重量%の数値範囲をそれぞれ又は併せて例示するものである。
【0026】
(11)上記の希土類磁石粉末は、Nd−Fe−B磁石粉末からなることを特徴とする(1)項から(10)項のいずれか1項に記載の希土類ボンド磁石。
本項は、(1)項から(10)項のいずれか1項の希土類磁石粉末種を例示するものである。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、希土類磁石粉末と熱硬化性樹脂と亜燐酸エステル類とカップリング剤とからなることを特徴とする希土類ボンド磁石において、優れた耐熱性、耐久性、耐候性が得られ、従来に比して、高温環境下でも磁気特性が低下することなく使用できる希土類ボンド磁石を提供できる。中でも、減磁曲線における角型比の劣化を抑えることができ、特に高温環境下で使用されるモータへの搭載が好適な希土類ボンド磁石を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上述のように、本発明は、希土類磁石粉末に熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、カップリング剤とを加え、混合してなるコンパウンドを作製し、それを圧縮成形によって成形し、加熱工程によって熱硬化させ、さらに、必要に応じてコーティングすることで得られる希土類ボンド磁石である。以下、かかる希土類ボンド磁石の実施の形態(本発明に係る実施の形態。以下「本実施形態」という)について説明する。なお、本実施形態に係る希土類ボンド磁石は、二種のカップリング剤のいずれかを使用することで、第1実施形態および第2実施形態に分けられる。
【0029】
[本実施形態]
<磁石材料の準備> 本実施形態において使用される希土類磁石粉末は、異方性磁界(HA)が4000MA/m以上であれば制限されない。例えば、Nd−Fe−B系合金、Sm−Co系合金、Sm−Fe−N系合金などの磁性粉末が挙げられる。該磁石粉末の製造方法は、特に限定されない。しかし、最終製品の小型化(代表的には小型モータへの利用)を鑑みて総合的な磁気特性(特に最大エネルギー積を大きくして小型化を図ること)を考慮すると、Nd−Fe−B系合金の磁性粉末を用いることがより好ましい。
磁石粉末の平均粒径は、特に限定されないが、500μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがさらに好ましい。また、後述のような少量の結合樹脂で成形時の良好な成形性を得るために、磁石粉末の粒度分布は、例えば平均粒径が150μmの場合は、75μmから250μmといったように、ある程度、分散されているのが望ましい。
【0030】
<樹脂材料の準備> 本実施形態において使用される結合樹脂としては、熱硬化性樹脂が用いられる。使用し得る熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、シリコーン樹脂、ポリウレタンなどが挙げられる。これらのうちでも、圧縮成形による希土類ボンド磁石において、耐熱性に優れるという点から、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂が好ましく、エポキシ樹脂が最も好ましい。使用される熱硬化性樹脂化合物は、室温で固形(粉末状)、液状のいずれのものでも良く、固形がより好ましい。
【0031】
本実施形態で使用されるエポキシ樹脂の種類は、分子中に少なくとも1個のエポキシ基を有するものであれば、特に限定されるものではない。例えば、基本的な化学構造において、ビスフェノールAのグリシジルエーテル、ビスフェノールAのグリシジルエステル、芳香族のグリシジルエーテル、ノボラック樹脂のエポキシ化物、環状オレフィンのエポキシ化合物などが挙げられる。また、本実施形態で使用される、硬化剤、及び/又は、促進剤の種類は、特に限定されるものではない。例えば、アミン系硬化剤、ジシアンジアミドとその誘導体、フェノールとその誘導体、イソシアネート、ブロックイソシアネート、イミダゾールとその誘導体などが挙げられる。
【0032】
熱硬化性樹脂の磁石中での含有量は、形成する磁石粉末の重量に対して0.5重量%から6重量%程度であるのが好ましく、1重量%から4重量%程度であるのがより好ましい。熱硬化性樹脂の含有量が少なすぎると、本実施形態による希土類ボンド磁石として圧縮成形することが困難になる。また、含有量が多すぎると、希土類ボンド磁石の磁気特性が低下してしまう。
本実施形態において使用される亜リン酸エステル類は、以下の一般式(1)で示されるものであればよい(なお、一般式(1)で表される亜燐酸エステル類は、以下の一般式(1)で示されるものであればよい(なお、後述の第2実施例においてもこの式は使用される)。
【化5】

・・・(1)
(式中、R及びRは炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基である。R及びRが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一でも異なっていても良い。)
ここで、炭化水素基とは、炭素数2から18又は炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。一般式(1)に当てはまる化合物として、例えばジエチルハイドロゲンホスファイト、ジブチルハイドロゲンホスファイト、ジラウリルハイドロゲンホスファイト、ジフェニルハイドロゲンホスファイトなどを挙げることができる。
【0033】
これらの亜リン酸エステル類は、形成する磁石粉末の重量に対して0.01重量%から2重量%程度であるのが好ましく、0.2重量%から0.8重量%程度であるのがより好ましい。亜リン酸エステル類の含有量が少なすぎると、本発明で得られる耐熱性、耐久性、耐候性を得ることができない。また、含有量が多すぎると、希土類ボンド磁石における磁気特性が低下する。
【0034】
<カップリング剤の準備> 本発明に係る第1実施形態において使用されるカップリング剤は、下記の一般式(2)で示されるものであればいずれのものでもよい(すなわち、このカップリング剤を用いる本実施形態を「第1実施形態」とする)。
【化6】

・・・(2)
(式中、R、R、Rは炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基である。MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一でも異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。)ここで、炭化水素基とは、炭素数2から炭素数18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0035】
一方、本発明に係る第2実施形態において使用されるカップリング剤は、下記の一般式(4)で示されるものであればいずれのものでもよい(すなわち、このカップリング剤を用いる本実施形態を「第2実施形態」とする)。
【化7】

・・・(4)
(式中、R、R、Rは炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基である。MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一でも異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。)
ここで、炭化水素基とは、炭素数2から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであってもよい。
【0036】
カップリング剤は、Si、Al、TiまたはZrの金属元素のいずれかを必須成分として含み、その金属元素の結合手の少なくとも1個が加水分解性基を有するものでなければならない。例えば、シラン系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、ジルコネート系カップリング剤などを挙げることができる。これらのカップリング剤は、形成する磁石粉末の重量に対して0.01重量%から2重量%程度であるのが好ましく、0.5重量%から1重量%程度であるのがより好ましい。これらのカップリング剤は、必要に応じて希土類ボンド磁石に添加するが、含有量が多すぎると、希土類ボンド磁石の機械強度が低下する虞がある。
【0037】
従って、本実施形態のコンパウンドにおける熱硬化性樹脂と亜リン酸エステル類とカップリング剤との合計添加量は、0.6重量%から10重量%であるのが好ましく、1.7重量%から4.9重量%であるのがさらに好ましい。このような範囲とすることにより、優れた耐熱性、耐久性、耐候性を有する希土類ボンド磁石が得られる。
【0038】
<コンパウンドの製造> 本実施形態のコンパウンドは、前述した希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂と、亜燐酸エステル類と、カップリング剤等の添加剤との混合物を混合してなるものである。これらの混合は、一般的な公知の混合機等を用いて十分になされる。
【0039】
熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、カップリング剤とにおける希土類磁石粉末への添加の順序は、亜リン酸エステル類とカップリング剤とが、希土類磁石粉末の表面に付着させられれば、特に限定されることはない。
また、前記コンパウンドの混合は、使用する熱硬化性樹脂が室温で固形(粉末状)である場合、有機溶剤によって混合することが望ましい。使用する有機溶剤は、前記の熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、必要に応じて添加されるカップリング剤に対して、易溶性であれば、いずれのものでもよい。具体的には、アセトン、メチルエチルケトン、トルエン、キシレン等の有機溶剤を挙げることができる。コンパウンドの混合を有機溶剤によって行う場合、湿式状態において混合することができ、均一に混合が確認された後、添加した有機溶剤を揮発させることによって、コンパウンドにすることができる。有機溶剤の揮発は、室温から沸点(例えば、アセトンでは約56℃)の範囲で行うことが好ましく、さらに、使用する熱硬化性樹脂の硬化温度以下で行うことがより好ましい。
【0040】
コンパウンドの混合に使用する有機溶剤の混合量は、磁石粉末の重量に対して50重量%から200重量%程度であるのが好ましく、80重量%から120重量%程度であるのがより好ましい。有機溶剤の混合量が少なすぎると、前記の熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、必要に応じて添加されるカップリング剤を均一に混合することができず、本発明で得られる耐熱性、耐久性の効果は得られにくい。また、混合量が多すぎると、有機溶剤の揮発に時間がかかる。
また、コンパウンドの混合に有機溶剤を用いる場合、使用する有機溶剤に、熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、カップリング剤とを同時に溶解させても良い。
【0041】
また、混合したコンパウンドには、必要に応じ、例えば、可塑剤(例えば、ステアリン酸塩、脂肪酸)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸塩、脂肪酸、アルミナ、シリカ、チタニア)、その他成形助剤等の各種添加剤を添加することができる。
可塑剤の添加は、成形時の流動性を向上させるので、より少ない結合樹脂の添加量で同様の特性を得ることができ、また、より低い成形圧力で圧縮成形することができる。潤滑剤についても同様である。可塑剤の添加量は、0.01重量%から1.0重量%程度が好ましく、潤滑剤の添加量は、0.05重量%から0.5重量%程度であるのが望ましい。また、希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂と、亜リン酸エステル類と、カップリング剤等の添加剤とを混合した後に、添加することが好ましい。
【0042】
<圧縮成形> 次に、本実施形態に係る希土類ボンド磁石の製造方法について説明する。本実施形態に係る希土類ボンド磁石の製造方法は、前述のコンパウンドを製造し、圧縮成形プロセスによって任意の磁石形状に成形することで行われる。すなわち、製造したコンパウンドを、金型内に充填し圧縮成形する。この圧縮成形は、常温付近での成形、温間成形(ホットプレス)のいずれでもよい。とくに、常温付近での成形は、コンパウンドを金型に充填するとき、均一に充填することができるため、より好ましい。圧縮成形における成形圧は、0.1GPaから1.5GPaであることが好ましい。
【0043】
<熱硬化> 以上のようにして成形された成形体を、熱硬化性樹脂の硬化温度以上の温度に加熱して、熱硬化性樹脂を硬化させる。これにより、希土類ボンド磁石が完成する。熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂を用いる場合、その硬化は、例えば、150℃から190℃、10minから100min程度の条件で行われる。
【実施例】
【0044】
[実施例1−1、実施例1−2、比較例1−1から比較例1−7]
実施例1−1、実施例1−2は第1実施形態に対応するものでり、これらの実施例は、本発明における希土類ボンド磁石であって、熱硬化性樹脂と、一般式(1)に示す亜リン酸エステル類と、一般式(2)に示すカップリング剤とを添加してコンパウンドを作製し、コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化して製造される希土類ボンド磁石に関するものである。
【0045】
比較例1−1から比較例1−7は、実施例1−1及び実施例1−2と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、いずれも一般式(1)に示す亜リン酸エステル類と、一般式(2)に示すカップリング剤の少なくともいずれかを添加しないでコンパウンドを作製し、コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化して希土類ボンド磁石を得た。表1は、各実施例、各比較例にて共通に使用した等方性Nd−Fe−B系磁石粉末における磁気特性を示したものである。
【表1】

【0046】
<実施例1−1> 等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表2に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表2】

【0047】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、下記表2に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、亜リン酸エステル類としてジフェニルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
【0048】
作製したコンパウンドは、圧縮プレス機を用いて、直径:φ10mm、長さ:7mmの円柱形状と、外径:10mm、内径:8mm、長さ:4mmのリング形状に成形し、190℃、30minの熱硬化をもって、希土類ボンド磁石として作製した。希土類ボンド磁石の成形密度は、それぞれ5.9g/cmとした。
なお、この段落の作製したコンパウンドから希土類ボンド磁石を作製する方法は、以下のすべての実施例及び比較例において同様に行われた。そのため、この方法を「圧縮プレス工程」と称し、以下、適宜該当部分の記載を省略する。
【0049】
<実施例1−2> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表3に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表3】

【0050】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、下記表3に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、亜リン酸エステル類としてジブチルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0051】
<比較例1−1> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表4に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表4】

【0052】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、下記表4に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、亜リン酸エステル類としてトリフェニルホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0053】
<比較例1−2> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表5に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表5】

【0054】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表5に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてトリフェニルホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0055】
<比較例1−3> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表6に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表6】

樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表6に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてジブチルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0056】
<比較例1−4> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表7に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表7】

【0057】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表7に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてトリブチルホスフェートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0058】
<比較例1−5> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表8に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表8】

【0059】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表8に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてイソプロピルトリイソステアロイルチタネートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0060】
<比較例1−6> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表9に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表9】

【0061】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてアセトンを20g用意した。アセトンに、表9に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてジシアンジアミド、硬化促進剤として三級アミン、カップリング剤としてネオペンチル(ジアリル)オキシ−トリ(ジオクチル)ピロホスファトチタネートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、アセトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0062】
<比較例1−7> 実施例1−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表10に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表10】

【0063】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表10に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体を加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0064】
<評価内容>
(耐熱性) 各実施例及び各比較例の耐熱性を確認するため、得られた円柱形状の希土類ボンド磁石を3.1MA/mのパルス磁界で着磁した後、高温の大気中(180℃)に120時間放置する、加熱試験を加速度的に行った。加熱試験後は、3.1MA/mのパルス磁界で再び着磁し、試験の前後における総磁束の減少率を測定した。
(磁気特性) 各実施例及び各比較例の、試験前の着磁と試験後の再着磁後における磁気特性の変化を調べるため、加熱試験させた円柱形状の希土類ボンド磁石を、BHカーブトレーサによって保磁力(HcJ)の値を測定し、その減少率を算出し、さらに角型比(Hk/HcJ)の変化について測定した。
【0065】
(圧環強さ試験) 各実施例及び各比較例の機械強度を確認するため、得られたリング形状の希土類ボンド磁石を、径方向にたいして圧縮する、圧環強さ試験(JISZ2507準拠)を行った。
(耐湿試験) 各実施例及び各比較例の耐候性を確認するため、得られた円柱形状の希土類ボンド磁石において、高温高湿(85℃、95%R.H.)の雰囲気に200時間放置する、耐湿試験を行った。評価は、目視による錆の確認と、磁石粉末の酸化に伴う質量増加率の差の確認と、に基づき、◎、○、×の3段階のうちから選択した。
【0066】
上記の評価方法によって得られた結果を表11に示した。この表11を参照しながら、評価結果の考察を以下のように行った。
【表11】

【0067】
<評価結果の考察>
実施例1−1及び実施例1−2では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに、一般式(1)に準じた構造をもつ亜リン酸エステル類と一般式(2)に準じた構造をもつカップリング剤を添加したことによって、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が少なく、耐熱性、耐久性が高い希土類ボンド磁石が得られたことが確認される。また、機械強度は、いずれもモータに使用するに十分な強さが得られており、耐候性も十分であることがわかった。
【0068】
比較例1−1では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに、一般式(2)に準じた構造をもつカップリング剤を添加したが、亜リン酸エステル類は一般式(1)に準じた構造ではない。その結果、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性は実施例に比べて低いことがわかった。
【0069】
比較例1−2及び比較例1−3では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに亜燐酸エステル類のみを添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低く、高温環境下で使用されるモータに応用することは不可能である。
【0070】
比較例1−4では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに燐酸エステル類のみを添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低く、高温環境下で使用されるモータに応用することは不可能である。
比較例1−5では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに一般式(2)に準じた構造ではないチタネートカップリング剤のみを添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低い。また、耐候性も著しく劣化しており、高温環境下で使用されるモータに応用することは不可能である。
【0071】
比較例1−6では、リン酸基を含んだチタネートカップリング剤をコンパウンドに添加したが、高い耐熱性、耐久性が得られたものの、機械強度は低いものであった。カップリング剤を多量に添加したことに伴い、機械強度が減少したものと推測する。また、耐湿試験では、磁石表面に錆が発生しており、耐候性が低い。
【0072】
比較例1−7では、亜燐酸エステル類、あるいはカップリング剤を添加しないもので、機械強度は高い反面、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐候性は、実施例よりも低い。その効果を導く原因の詳細は判明しないが、磁粉表面が、5価の燐原子による亜燐酸エステル類の一部とエステル結合を含むカップリング剤とエポキシ樹脂との混合物によって被覆されることで、磁石表面とその近傍における酸素原子との接触を抑えることができるためと推測される。この耐熱性・耐候性の向上は、亜燐酸エステル類とエステル結合をもつカップリング剤のいずれかによって得られるものではなく、両者が混合された状態によって得られる。
【0073】
以上、実施例1−1及び実施例1−2によって、第1実施形態に係る希土類ボンド磁石が優れた耐熱性、耐久性、耐候性が得られ、従来に比して、幅広い温度環境において使用することができると確認された。
【0074】
[実施例2−1、実施例2−2、比較例2−1から比較例2−7]
実施例2−1、実施例2−2は第2実施形態に対応するものでり、これらの実施例は、本発明に係る希土類ボンド磁石であって、熱硬化性樹脂と、一般式(1)に示す亜リン酸エステル類(第1実施形態と同じもの)と、一般式(4)に示すカップリング剤とを添加してコンパウンドを作製し、コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化して得たものである(以下、出発材料の磁石粉の磁気特性は表1に示すものと同じであるためその内容の記載を省略する)。
【0075】
比較例2−1から比較例2−7は実施例2−1、2−2と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、いずれも亜リン酸エステル類とカップリング剤のいずれかを添加しないでコンパウンドを作製し、コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化して希土類ボンド磁石を得た。
【0076】
<実施例2−1> 等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表12に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表12】

【0077】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表12に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてイソプロピルトリ(ジオクチル)ピロホスファトチタネート、亜燐酸エステル類としてジブチルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0078】
<実施例2−2> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表13に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表13】

【0079】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表13に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてハイドロキシアセテートジ(ジオクチル)ピロホスファトチタネート、亜燐酸エステル類としてジブチルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0080】
<比較例2−1> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表14に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表14】

【0081】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表14に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてハイドロキシアセテートジ(ジオクチル)ピロホスファトチタネートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0082】
<比較例2−2> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表15に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表15】

【0083】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてアセトンを20g用意した。アセトンに、表15に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてジシアンジアミド、硬化促進剤として三級アミン、カップリング剤としてネオペンチル(ジアリル)オキシトリ(ジオクチル)ピロホスファトチタネートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、アセトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0084】
<比較例2−3> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表16に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表16】

【0085】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表16に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてトリフェニルホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0086】
<比較例2−4> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表17に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表17】

【0087】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表17に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてジブチルハイドロゲンホスファイトを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0088】
<比較例2−5> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表18に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表18】

【0089】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表18に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、亜リン酸エステル類としてトリブチルホスフェートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0090】
<比較例2−6> 実施例2−1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表19に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表19】

【0091】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、表19に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体、カップリング剤としてイソプロピルトリイソステアロイルチタネートを加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0092】
<比較例2−7> 実施例1と同じ等方性Nd−Fe−B系磁石粉末を使用し、表20に示す組成によって、コンパウンドを製造した。
【表20】

【0093】
樹脂バインダであるエポキシ樹脂と硬化剤が粉末状であるため、コンパウンドの混合には、有機溶剤としてメチルエチルケトン5gを用意した。メチルエチルケトンに、下記表21に示す組成のうち、エポキシ樹脂としてフェノールノボラック型エポキシ樹脂、硬化剤としてアミン系硬化剤、硬化促進剤としてイミダゾール誘導体を加え、溶解させた後、等方性Nd−Fe−B系磁石粉末に混合した。均一に混合されたのを確認した後、メチルエチルケトンを室温中にて揮発させながら乾燥させた。その後、解砕した混合物に、潤滑剤としてステアリン酸カルシウムを加え、コンパウンドを作製した。
この作製したコンパウンドを用いて、「圧縮プレス工程」により希土類ボンド磁石を作製した。
【0094】
<評価内容>
第1実施形態に係る実施例1−1及び実施例1−2、並びに、比較例1−1から比較例1−7について行った内容と同一の(耐熱性)、(磁気特性)、(圧環強さ試験)及び(耐湿試験)を、この第2実施形態に係る実施例2−1及び実施例2−2、並びに、比較例2−1から比較例2−7についても行った。そのため当該評価内容の説明をここでは省略する。
【0095】
<評価結果の考察>
上記の評価方法によって得られた結果を表21に示した。この表21を参照して結果の考察を行った。
【表21】

【0096】
実施例2−1及び実施例2−2では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに、一般式(3)に準じた構造をもつ亜燐酸エステル類と、一般式(4)に準じた構造をもつカップリング剤を添加したことによって、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が少なく、耐熱性、耐久性が高い希土類ボンド磁石が得られたことが確認される。また、機械強度は、いずれもモータに使用するに十分な強さが得られており、耐候性も十分であることがわかった。
【0097】
比較例2−1では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに、一般式(4)に準じた構造をもつカップリング剤のみ添加した結果、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性は実施例に比べて低いことがわかった。
比較例2−2では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに一般式(4)に準じた構造でないカップリング剤を添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率が少ないものの、角型比の減少率が大きく、機械強度はきわめて低い結果となった。カップリング剤を多量に添加したことに伴い、機械強度が減少したものと推測する。また、耐湿試験では、磁石表面に錆が発生しており、耐候性が低い。
【0098】
比較例2−3では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに一般式(3)に準じた構造でない亜燐酸エステル類を添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率がきわめて大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低く、高温環境下で使用されるモータに応用することは不可能である。
比較例2−4では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに一般式(3)に準じた構造をもつ亜燐酸エステル類のみを添加したが、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性は低い。高温環境下で使用されるモータに応用することは不可能である。
【0099】
比較例2−5では、希土類ボンド磁石を成形するコンパウンドに燐酸エステル類のみを添加したが、永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低い。
比較例2−6では、一般式(4)に準じた構造でないチタネートカップリング剤をコンパウンドに添加したが、高永久減磁率、保磁力の減少率、角型比の減少率がきわめて大きく、耐熱性、耐久性はきわめて低い。また、耐湿試験においても磁石表面に錆が発生しており、耐候性が低い。
【0100】
比較例2−7では、亜燐酸エステル類、あるいはカップリング剤を添加しないもので、機械強度は高い反面、永久減磁率、保磁力の減磁率、角型比の減少率が大きく、耐熱性、耐候性は、実施例よりも低い。
その効果を導く原因の詳細は判明しないが、磁粉表面が、5価の燐原子による亜燐酸エステル類の一部とエステル結合を含むカップリング剤とエポキシ樹脂との混合物によって被覆されることで、磁石表面とその近傍における酸素原子との接触を抑えることができるためと推測される。この耐熱性・耐候性の向上は、亜燐酸エステル類とエステル結合をもつカップリング剤のいずれかによって得られるものではなく、両者が混合された状態によって得られる。
【0101】
以上の実施例2−1及び実施例2−2によっても、本発明における希土類ボンド磁石が優れた耐熱性、耐久性、耐候性が得られ、従来に比して、幅広い温度環境において使用することができると確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂からなる樹脂バインダと、有機燐系化合物と、カップリング剤と、を含むコンパウンドを作製し、該コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化してなる希土類ボンド磁石であって、
前記有機燐系化合物は次の一般式
【化8】

(式中、R及びR2は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、R及びR2が2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)で表される有機燐酸エステル化合物で、
前記カップリング剤は次の一般式で表される、
【化9】

(式中、R、R、Rは炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)
であることを特徴とする希土類ボンド磁石。
【請求項2】
前記熱硬化性樹脂は、前記磁石粉末に対して0.5重量%から6重量%含有してなることを特徴とする請求項1項に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項3】
前記有機燐酸エステル化合物は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項4】
前記カップリング剤は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項5】
前記コンパウンドにおける前記熱硬化性樹脂と前記有機燐酸エステル化合物と前記カップリング剤との合計が、0.6重量%から10重量%であることを特徴とする請求項1項に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項6】
希土類磁石粉末と、熱硬化性樹脂からなる樹脂バインダと、有機燐系化合物と、カップリング剤と、を含むコンパウンドを作製し、該コンパウンドを圧縮成形して加熱、硬化してなる希土類ボンド磁石であって、
前記有機燐系化合物は次の一般式
【化10】


(式中、R及びR2は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、R及びR2が2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)で表される有機燐酸エステル化合物で、
前記カップリング剤は次の一般式で表される、
【化11】


(式中、R、R)は炭化水素基を有する1種又は2種以上の有機基で、MはSi、Al、TiまたはZrから選ばれるいずれかの金属元素である。R、Rが2種以上の有機基を含む場合、有機基は同一であっても異なっていても良い。nはMの結合手の数であって1から3の整数を示す。炭化水素基は、炭素数3から18のアルキル基、アリール基であり、これらは直鎖状、分岐状、環状のいずれであっても良い。)
であることを特徴とする希土類ボンド磁石。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂は、前記磁石粉末に対して0.5重量%から6重量%含有してなることを特徴とする請求項6に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項8】
前記有機燐酸エステル化合物は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする請求項6又は7に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項9】
前記カップリング剤は、前記磁石粉末に対して0.01重量%から2重量%含有してなることを特徴とする請求項6項から8のいずれか1項に記載の希土類ボンド磁石。
【請求項10】
前記コンパウンドにおける前記熱硬化性樹脂と前記有機燐酸エステル化合物と前記カップリング剤との合計が、0.6重量%から10重量%であることを特徴とする請求項6に記載の希土類ボンド磁石。

【公開番号】特開2010−232468(P2010−232468A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79104(P2009−79104)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】