説明

希土類焼結磁石の製造方法

【課題】AlやCuを添加された場合の保磁力と同等の保磁力を発揮しつつ、AlやCuを添加された場合よりも残留磁束密度を向上した希土類焼結磁石を提供する。
【解決手段】本発明による希土類焼結磁石の製造方法は、12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素(Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む)と、5.5原子%〜8.5原子%の硼素(B)と、残部の鉄(Fe)及び不可避的不純物とを含有する希土類磁石用合金粉末であって、潤滑剤が添加された合金粉末を用意する。脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する潤滑剤を合金粉末に添加した後、成形体の作製、焼結を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類焼結磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能永久磁石として代表的な希土類−鉄−硼素系の希土類焼結磁石は、正方晶化合物であるR2Fe14B型結晶相(主相)と粒界相とを含む組織を有し、優れた磁石特性を発揮する。ここで、Rは希土類元素及びイットリウムからなる群から選択された少なくとも1種の元素であり、主としてNd及び/又はPrを含む。Feは鉄、Bは硼素であり、これらの元素の一部は他の元素によって置換されていても良い。粒界相には、希土類元素Rの濃度が相対的に高いRリッチ相と、硼素の濃度が相対的に高いBリッチ相とが存在している。
【0003】
以下、希土類−鉄−硼素系の希土類焼結磁石を「R−T−B系焼結磁石」と称することとする。ここで、「T」は鉄を主成分とする遷移金属元素である。R−T−B系焼結磁石では、R214B相(主相)が磁化作用に寄与する強磁性相であり、粒界相に存在するRリッチ相は低融点の非磁性相である。
【0004】
R−T−B系焼結磁石は、R−T−B系焼結磁石用合金(母合金)の微粉末(平均粒径:数μm)をプレス装置で圧縮成形した後、焼結することによって製造される。焼結後、必要に応じて時効処理が施される。R−T−B系焼結磁石の製造に用いられる母合金は、金型鋳造によるインゴット法や冷却ロールを用いて合金溶湯を急冷するストリップキャスト法を用いて好適に作製される。
【0005】
保磁力の高いR−Fe−B系焼結磁石を製造するためには、希土類元素Rとして広く用いられているNdやPrの一部を、重希土類であるDy、Ho、及び/又はTbで置換することが行われている(例えば特許文献1)。Dy、Tb、Hoは、異方性磁界の高い希土類元素であるため、主相の希土類元素RのサイトでNdを置換することにより、保磁力を増大させる効果を発揮する。
【0006】
一方、保磁力発現のため、AlやCuを微量に添加することがR−T−B系焼結磁石の開発当初から行われてきた(例えば、特許文献2)。R−T−B系焼結磁石が開発された当時、不可避的不純物として原料合金中に混入していたAlやCuが、その後、R−T−B系焼結磁石の高い保磁力を実現する上で不可欠ともいえる添加元素であることがわかってきた。逆に、AlやCuを意図的に排除すると、R−T−B系焼結磁石の保磁力は極めて低い値しか示さず、実用には供しないこともわかっている。
【0007】
一方、磁界中で粉末の成形を行う場合における磁界配向度を向上させるため、ステアリン酸亜鉛やステアリン酸銅などの潤滑剤を成形工程前の磁石粉末に添加することが行われている(特許文献5、6)。
【特許文献1】特開昭60−32306号公報
【特許文献2】特開平5−234733号公報
【特許文献3】特開平4−217302号公報
【特許文献4】特開昭60−138056号公報
【特許文献5】特開平11−307330号公報
【特許文献6】特開平8−167515号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
Dy、Tb、Hoは、その添加量を増やすほど、保磁力が高く上昇するという効果が得られるが、Dy、Tb、Hoは稀少元素であるため、今後、電気自動車の実用化が進展し、電気自動車用モーターなどに用いられる高耐熱磁石の需要が拡大してゆくと、Dy資源が逼迫する結果、原料コストの増加が懸念される。このため、高保磁力磁石におけるDy使用量削減技術の開発が強く求められている。一方、AlやCuの添加は、保磁力を向上させるが、残留磁束密度の低下を招くという問題がある。
【0009】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、AlやCuを添加した場合の保磁力と同等の保磁力を発揮しつつ、AlやCuを添加した場合よりも残留磁束密度を向上させた希土類焼結磁石を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明による希土類焼結磁石の製造方法は、12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素(Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む)と、5.5原子%〜8.5原子%の硼素(B)と、残部の鉄(Fe)及び不可避的不純物とを含有する希土類磁石用合金粉末であって、潤滑剤が添加された合金粉末を用意する工程Aと、前記合金粉末の成形体を作製した後、前記成形体を焼結する工程Bとを含み、前記潤滑剤は、脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する。
【0011】
好ましい実施形態において、前記脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩の添加量は、希土類焼結磁石におけるAgの組成比率が0.005原子%〜0.20原子%となるように調節されている。
【0012】
好ましい実施形態において、前記合金粉末を用意する工程Aは、12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素(Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む)と、5.5原子%〜8.5原子%の硼素(B)と、残部の鉄(Fe)及び不可避的不純物とを含有する希土類磁石用合金を用意する工程a1と、前記合金の粗粉砕粉末を作製する工程a2と、前記合金の粗粉砕粉末から微粉砕粉末を作製する工程a3と、前記工程a2と工程a3の間、または前記工程a3の後に、前記潤滑剤を前記粉末に添加する工程a4とを含む。
【0013】
好ましい実施形態において、前記脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩の炭素数は6以上20以下である。
【0014】
この不可避的不純物はAlを含み、前記Alの含有量は0.4原子%以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明による希土類焼結磁石の製造方法は、希土類焼結磁石のための合金粉末に対して、脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する潤滑剤を添加する。この潤滑剤に含まれる銀(Ag)は、最終的に得られる焼結磁石に微量に取り込まれる。この微量添加されたAgの働きにより、CuやAlを添加した従来の希土類焼結磁石と同等の保磁力を発現するとともに、それらの磁石よりも高い残留磁束密度を示すことができる。
【0016】
本発明では、微量のAgを潤滑剤によって添加するため、粉末の潤滑性を向上させる効果を得ることができ、また、Agを添加するための特別の工程が不要になる利点もある。粉末の潤滑性が向上すると、磁場中で粉末成形を行うときに磁化容易軸の向きが磁界方向に揃いやすく、配向度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
従来、保磁力を高める目的で、種々の元素を添加する試みが行われてきた。しかしながら、比較の対象となるR−T−B系焼結磁石には、不可避的不純物とともに、当然の如くAlやCuが含有されていた。これらの元素を含有しない場合に得られる保磁力が余りに低かったためである。
【0018】
しかしながら、本発明者は、敢えてAlやCuの添加を行わないNd−Fe−B系焼結磁石の基本三元組成に対して、種々の元素を微量に添加したところ、微量のAgを添加した場合に、残留磁束密度を低下させることなく保磁力を大幅に向上させる効果が発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0019】
なお、従来、AgをR−T−B系焼結磁石に添加する試みが全く行われてこなかったわけではない。例えば特許文献2〜4には、添加の目的は異なるとはいえ、AgをR−T−B系焼結磁石に添加することが記載されている。しかしながら、添加の対象となるR−T−B系焼結磁石には、当然にAlやCuが(意図的又は不可避的に)添加されていたため、Ag添加による保磁力上昇効果は、AlやCuあるいはDyなどによる保磁力上昇効果に埋もれてしまって観察されなかった。しかも、後に詳しく説明するように、本願発明者が見出したAg添加効果は、その添加量を極めて低く、かつ狭い範囲に抑えることによって得られるものであり、特許文献2〜4などに教示されている添加量では、Ag添加効果を適切に得ることはできなかった。
【0020】
このように本発明は、基本的組成を有するR−T−B系焼結磁石を比較例として用い、しかも、極めて微量のAgを添加することによって初めてわかる新しい知見に基づいてなされたものである。
【0021】
本発明は、微量添加で効果を発揮するAgを原料合金そのものに添加しておくのではなく、潤滑剤の形態で合金粉末と混合する点に大きな特徴点を有している。本発明者は、脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する潤滑剤を添加する実験を行なうことにより、潤滑剤を構成する銀塩中のAgが焼結時に合金粉末の粒子中に拡散し、最終的に得られる焼結磁石の特性を向上させることを見出し、本発明を完成した。
【0022】
本願発明者の検討によると、添加したAgは、焼結磁石の粒界相中に存在するものと考えられる。R−T−B系焼結磁石では、その保磁力の発現に粒界相が重要な役割を担っていることが知られており、添加した微量のAgが粒界相中において保磁力を高める何らかの作用をしていると推定される。しかしながら、Ag添加による保磁力上昇メカニズムの詳細は、現在のところ不明であり、本願発明者は鋭意解明を試みつつある。
【0023】
以下、本発明による希土類焼結磁石の製造方法の好ましい実施形態を説明する。
【0024】
(実施形態)
[原料合金]
まず、12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素Rと、5.5原子%〜8.5原子%のBと、残部Fe及び不可避的不純物とを含有する原料合金を用意する。ここで、Rは、Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む。
【0025】
R、B、Feの組成比率が上記範囲から外れると、R−T−B系焼結磁石の基本的な組織構造が得られず、所望の磁石特性を発揮させることができない。
【0026】
なお、本発明の製造方法によって作製される焼結磁石は、不可避的不純物としてAlやCuを含有していてもよいが、Alの含有量が増加すると、残留磁束密度が低下するため、Alの含有量は0.4原子%以下に調節することが好ましい。
【0027】
本発明による焼結磁石の製造方法に用いられる母合金を作製するには、例えばインゴット鋳造法や急冷法(ストリップキャスティング法や遠心鋳造法など)を用いることができる。以下、ストリップキャスティング法を用いる場合を例にとり、原料合金の作製方法を説明する。
【0028】
まず、上記組成を有する合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶融し、合金溶湯を形成する。次に、この合金溶湯を1350℃に保持した後、単ロール法によって合金溶湯を急冷し、例えば厚さ約0.3〜10mmのフレーク状合金鋳塊を得る。このときの急冷条件は、例えばロール周速度約1m/秒、冷却速度500℃/秒、過冷却200℃とする。こうして作製した急冷合金は、R2Fe14B結晶相の周りに微細なRリッチ相が分散した組織構造を有している。この急冷合金を、次の水素粉砕前に1〜10mmの大きさのフレーク状に粉砕してもよい。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
【0029】
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された原料合金鋳片を水素炉の内部へ挿入する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」と称する場合がある)工程を行なう。水素粉砕後の粗粉砕合金粉末を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性が向上するからである。
【0030】
水素粉砕によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕後、脆化した原料合金をロータリクーラ等の冷却装置によって、より細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、ロータリクーラ等による冷却処理の時間を相対的に長くすれば良い。
【0031】
[潤滑剤添加工程]
水素粉砕後の粗粉砕粉に対して、所定量の脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する潤滑剤を添加し、混合する。最終的な焼結磁石に含まれるAg量が0.005原子%以上0.20原子%以下の範囲になるように脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩の量を調節する。
【0032】
銀塩を形成するカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸及びステアリン酸等の直鎖飽和脂肪酸や、安息香酸及びt−ブチル安息香酸などの芳香族カルボン酸が挙げられる。これらカルボン酸の銀塩は1種単独で使用することもできるが、2種以上を組み合わせて用いてもよいし、他の潤滑剤(銀を含まないもの)が添加されていてもよい。重要な点は、最終的に得られる焼結磁石中のAg量が上記の所定範囲内にあることである。このため、粗粉砕粉にステアリン酸亜鉛を加え、その後微粉砕後にステアリン酸銀を含む潤滑剤を加えてもよい。なお、炭素数が6未満の脂肪族カルボン酸塩銀、芳香族カルボン酸塩銀は、潤滑剤効果を充分に発揮しない可能性がある。一方、炭素数が20を超えると、炭素量の増加により、焼結密度不足や磁石特性の低下を引き起こす可能性がある。炭素による磁石特性の劣化を抑制するには、最終的に得られる焼結磁石中の炭素濃度が2000ppmを超えないように潤滑剤の添加量または残存量を調節することが好ましい。
【0033】
本発明では、最終的に得られる焼結磁石におけるAgの組成比率を0.005原子%〜0.20原子%の範囲に設定する必要があるが、そのために添加すべき潤滑剤の量は、潤滑剤を添加するタイミングによっても変化する。後述する微粉砕工程の前にステアリン酸銀を添加する場合は、合金粉末に対して例えば0.03〜1.23重量%程度のステアリン酸銀を添加すればよい。潤滑剤の添加量は、最終的に得られる焼結磁石のAg量を測定し、Agの組成比率を0.005原子%〜0.20原子%の範囲内になるように適宜調整することができる。
【0034】
なお、上記の潤滑剤は室温では固体であるため、粉末状態で混合されることになる。潤滑剤の粉末粒径は例えば1〜50μmの範囲に調整され得る。
【0035】
[微粉砕工程]
次に、潤滑剤が添加された粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、平均粒子径が1.5〜10μm程度の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。
【0036】
[プレス成形]
公知のプレス装置を用いて上記微粉砕工程を経て得られた微粉砕粉を配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1〜2テスラ(T)である。なお、微粉砕工程後に、上記の潤滑剤を追加的に加えてもよい。また、微粉砕工程前には潤滑剤を添加することなく、微粉砕工程後に上記の潤滑剤を加えるようにしてもよい。あるいは、微粉砕工程前には公知の潤滑剤のみを添加し、微粉砕工程後に脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含む潤滑剤を添加するようにしてもよい。
【0037】
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、650〜1000℃の範囲内の温度で10〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば1000〜1100℃)で焼結を更に進める工程とを順次行なうことが好ましい。焼結時、特に液相が生成されるとき(温度が650〜1000℃の範囲内にあるとき)、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結磁石が形成される。焼結後、必要に応じて、時効処理(500℃〜750℃)が行われる。
【0038】
上記の焼結工程を行なう前に、粉末成形体を水素雰囲気中において200〜500℃の温度で30〜300分程度保持する脱バインダ工程(水素中脱バインダ工程)を行なってもよい。このような工程により、潤滑剤中の炭素が水素と反応し、潤滑剤が炭化水素として取り除かれるため、潤滑剤に含まれている炭素が焼結磁石中に残存する量を低減することができる。水素中脱バインダ工程を行う場合は、添加する潤滑剤の量を多くすることが可能になる。
【0039】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0040】
(実施例1)
Nd:14.1原子%、B:6.1原子%、Al:0.05原子%、残部Feからなる合金を用意し、上述した実施形態における製造方法により、焼結磁石を作製した(実施例1)。潤滑剤としては、0.12〜0.3重量%のステアリン酸銀を添加した(実施例1)。一方、比較例1では、ステアリン酸銀に代えて、ステアリン酸亜鉛を添加した。
【0041】
プレス成形前における粉末の平均粒径は4.4±0.2μmであった。成形は、1.7Tの磁場中で行った。成形後、1000〜1100℃で4時間の焼結工程、及び500〜700℃で2時間の時効処理を行った。得られた焼結体は、20mm×50mm×12mmの直方体形状を有していた。
【0042】
図1は、Ag添加量と磁石特性との関係を示すグラフである。グラフの左側縦軸は保磁力HcJ(kA/m)であり、右側縦軸は残留磁束密度Br(T)である。保磁力の測定値は「◆」で示し、残留磁束密度Brの測定値は「□」で示している。
【0043】
図1からわかるように、僅か0.02原子%のAgを添加するだけで、比較例(Ag無添加)の保磁力HcJ(約340kA/m)に比べて2倍以上の値(約880kA/m)に増加することがわかる。図1には示されていないが、Ag添加量が0.2原子%を超えて大きくなると、磁石特性が劣化し、Ag添加の効果はほとんど得られなくなる。
【0044】
更に詳しい実験によると、Ag添加の効果は、Ag添加量が0.005原子%以上の場合に発現することがわかった。以上のことから、本発明では、Ag添加量を0.005原子%以上0.2原子%以下の範囲に設定している。本発明では、Ag添加量は、潤滑剤の添加量によって調節しており、Ag添加量を増加させると、必然的に潤滑剤に含まれる炭素量も増加する。炭素含有量が多くなると、焼結磁石の特性が劣化する可能性があるため、潤滑剤の添加量を増やす場合は、焼結前に潤滑剤を揮発させる工程を充分に行なうことが好ましい。前述した水素中脱バインダを行う場合、最終的なAg添加量が0.2原子%となるような潤滑剤を添加しても問題ない。
【0045】
(実施例2)
Nd:14.1原子%、B:6.1原子%、Al:0.02〜0.5原子%、残部Feからなる合金を用意して、上述した実施形態の製造方法によって焼結磁石を作製した(実施例2)。潤滑剤としては、0.12重量%のステアリン酸銀をジェットミルによる微粉砕工程前に粉末に添加した(実施例2)。最終的なAg添加量は焼結磁石の組成全体に対して0.02原子%になった。
【0046】
プレス成形前における粉末の平均粒径は4.4±0.2μmであった。成形は、1.7Tの磁場中で行った。成形後、1000〜1100℃で4時間の焼結工程、及び、500〜650℃で2時間の時効処理を行った。得られた焼結体は、20mm×50mm×12mmの直方体形状を有していた。
【0047】
図2は、残留磁束密度BrとAl添加量との関係を示すグラフである。Al添加量が0.40原子%を超えると、残留磁束密度Brが低くなり、Ag微量添加の効果が損なわれるおそれがあることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の希土類焼結磁石は、CuやAlが添加された従来のR−Fe−B系希土類焼結磁石と同等の保磁力を発現するとともに、それらの磁石よりも高い残留磁束密度を示す。このため、本発明の希土類焼結磁石は、保磁力及び残留磁束密度の両方が高い値を有することの求められる種々の用度に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】Ag添加量と磁石特性との関係を示すグラフである。グラフの左側縦軸は保磁力HcJ(kA/m)であり、右側縦軸は残留磁束密度Br(T)である。保磁力の測定値は「◆」で示し、残留磁束密度Brの測定値は「□」で示している。
【図2】残留磁束密度BrとAl添加量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素(Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む)と、5.5原子%〜8.5原子%の硼素(B)と、残部の鉄(Fe)及び不可避的不純物とを含有する希土類磁石用合金粉末であって、潤滑剤が添加された合金粉末を用意する工程Aと、
前記合金粉末の成形体を作製した後、前記成形体を焼結する工程Bと、
を含み、
前記潤滑剤は、脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩を含有する、希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項2】
前記脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩の添加量は、希土類焼結磁石におけるAgの組成比率が0.005原子%〜0.20原子%となるように調節されている請求項1に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項3】
前記合金粉末を用意する工程Aは、
12.0原子%〜15.0原子%の希土類元素(Nd、Pr、Gd、Tb、Dy、及びHoからなる群から選択された少なくとも一種の元素であり、Nd及び/又はPrを50%以上含む)と、5.5原子%〜8.5原子%の硼素(B)と、残部の鉄(Fe)及び不可避的不純物とを含有する希土類磁石用合金を用意する工程a1と、
前記合金の粗粉砕粉末を作製する工程a2と、
前記合金の粗粉砕粉末から微粉砕粉末を作製する工程a3と、
前記工程a2と工程a3の間、または前記工程a3の後に、前記潤滑剤を前記粉末に添加する工程a4と、
を含む、請求項1または2に記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項4】
前記脂肪族カルボン酸銀塩または芳香族カルボン酸銀塩の炭素数は6以上20以下である、請求項1から3のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。
【請求項5】
不可避的不純物はAlを含み、前記Alの含有量は0.4原子%以下である請求項1から4のいずれかに記載の希土類焼結磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−134417(P2007−134417A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324058(P2005−324058)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(000183417)株式会社NEOMAX (121)
【Fターム(参考)】