説明

希土類硫化物の焼結体からなる高誘電材料

特に、大容量コンデンサー材料として有用な、大きな誘電率を有する高誘電材料の提供。結晶構造が正方晶のβ型であり、化学組成がLn(ただし、Lnは希土類金属)で示され、周波数領域が0.5kHz〜1,000kHzの範囲で、室温における比誘電率の値が1,000を越える希土類硫化物の焼結体からなる高誘電材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、特に、大容量コンデンサー材料として有用な、大きな誘電率を有する、希土類硫化物の焼結体からなる高誘電材料に関する。
【背景技術】
以前から、大きな誘電率を持つ物質の探索研究が行なわれてきた。例えば、リラクサー(relaxor)と呼ばれる、鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)を含む拡散相を持つ、ペロブスカイト構造の強誘電体(非特許文献1、2)や、半導体のチタン酸バリウム又はチタン酸ストロンチウムを母体として、非常に薄い絶縁性の境界層を利用し、みかけの誘電率を大きくした焼結体(非特許文献3)等がある。
【非特許文献1】 S.E.Park,M.L.Mulvihill,G.Risch and T.R.Shrout,「The effect of Growth Conditions on the Dielectric Properties of Pb(Zn▲1/3▼Nb▲2/3▼)O▲3▼ Single Crystals」,Jpn.J.Appl.Phys.,36(1997)pp.1154−1158
【非特許文献2】 「誘電体材料の特性と測定・評価および応用技術」,技術情報協会,2001年,p292
【非特許文献3】 M.Fujimoto and W.D.Kingery,「Microstructure of SrTiO▲3▼ Internal Boundary Layer Capacitors During and After Processing and Resultant Electrical Properties」,J.Am.Cerm.Soc.,68(1985)169−173
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
大きな誘電率を持つ物質について、リラクサーでは、単結晶の形で研究されており、コンデンサーへの応用に関しては、形状と強度に問題がある。また、誘電率の温度依存性が大きく、強誘電体転移点近傍の温度では大きな誘電率を示すが、報告された誘電率の値は、室温付近で数千程度である。
境界層を利用した半導体コンデンサーの場合、境界層の厚さが非常に薄く、また均一性を欠いているため、耐電圧又は電気的なショックに対する耐性に問題がある。
ディスク型コンデンサーの容量F、は、誘電体の誘電率をε、電極方向の厚さをd、電極面積をS、としたとき F∝ε・S/dで表される。積層型セラミックコンデンサーでは、電極と誘電体を交互に積層させ、Sを大きくし、dを小さくすることでFの大きなコンデンサーを可能としている。
積層コンデンサーで利用されている誘電体は大きな誘電率を有するチタン酸バリウムが主であるが、この物質においても、リラクサーと同様、大きな誘電率を示すのは強誘電体転移点近傍の温度であり、その温度は、純粋な結晶では約120℃近傍である。大きな容量を有するコンデンサーを常温で利用するためには、このチタン酸バリウムに他の元素を添加する等、種々の加工を加えることで転移温度を下げており、そのため温度安定性、経時変化等に問題が生じている。
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、これまで、ランタン硫化物系焼結体が優れた熱電特性を有することを報告した(下記文献参照)。
▲1▼平井 伸治 他「α−Laの合成と熱電特性」,日本金属学会秋期(第125回)大会講演概要,1999年11月,p317
▲2▼平井 伸治 他「ランタノイド系二元系硫化物の合成と焼結」,金属,Vo.70,No.8,2000年,pp629−635
▲3▼平井 伸治 他「耐火材料や熱電材料として期待されるランタノイド二元系硫化物」,金属,Vo.70,No.11,2000年,pp960−965
▲4▼上村 揚一郎 他「Pdを添加したLa常圧焼結体の熱電特性」,日本物理学会2001年秋期大会講演概要集,第56巻,第2号,第4分冊,2001年,p530
▲5▼特開2001−335367号公報
ランタン硫化物は低温安定相である斜方晶のα相から、正方晶で電気的に絶縁体のβ相、さらにTh型の立方晶で半導体のγ相へと不可逆的に変態する。したがって、強度に優れた緻密性の焼結体を得るために行なう高温での焼結では、γ相が主体となり、誘電特性は得られない。一方、酸素濃度が0.9重量%を越える硫化ランタン原料を、1500℃の高温で焼結しても、γ相は現れず、β相のままで緻密な焼結体が得られる。
すなわち、本発明は、(1)結晶構造が正方晶のβ型であり、化学組成がLn(ただし、Lnは希土類金属)で示され、周波数領域が0.5kHz〜1,000kHzの範囲で、室温における比誘電率の値が1000を越える希土類硫化物の焼結体からなる高誘電材料である。
また、本発明は、(2)希土類が、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)の少なくとも1種であることを特徴とする上記(1)の高誘電材料である。
また、本発明は、(3)β型三二硫化物の結晶構造が、高温において、γ型に転移するのを阻害する白金が添加されたことを特徴とする上記(1)又は(2)の高誘電材料である。
また、本発明は、(4)上記(1)から(3)のいずれか一の高誘電材料を用いたことを特徴とするコンデンサー、である。
本発明のβ型構造をした誘電材料は、室温において、誘電率が100,000から1,000,000を超え、周波数範囲が0.5kHzから1,000kHzにおいては、その値の変化を一桁程度にとどめることが出来、tanδの値は0と2の間である。また、本誘電材料の誘電率の温度依存性は、周波数を1kHzとしたとき約200Kから約370Kの範囲で温度と共に増加するが、一桁以内にとどめることができる。
本発明では、大きな誘電率を有する希土類硫化物をバルク状の成形体として提供できることから、任意の形状をし、かつ機械的強度に優れた大きな容量のコンデンサーの作製が可能となる。また、大きな誘電率を持つ誘電体を得るのに特に不純物添加等の加工を必要としない。したがって、積層型コンデンサーの作製において、大きな誘電率を持つ誘電体を利用すれば、一層、大容量で、安定性の良いコンデンサーの作製が可能となる。
【図面の簡単な説明】
第1図は、実施例1のプラズマ焼結法で作製した硫化ランタン(La)焼結体の、印加周波数と比誘電率の関係を示すグラフである。第2図は、実施例2のホットプレス法で作製した白金添加硫化ランタン(La)焼結体の、印加周波数と比誘電率の関係を示すグラフである。第3図は、実施例2のホットプレス法で作製した白金添加硫化ランタン(La)焼結体の、印加周波数1kHzでの比誘電率と測定温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
本発明は、上記のとおりの構成からなる高誘電材料であるが、該材料は希土類硫化物(Ln)の粉末を原料とし、常圧焼結法、ホットプレス法、プラズマ焼結法等の方法で製造する。
希土類硫化物原料の酸素濃度を0.9重量%以上とすることで、1500℃以下の焼結温度では、焼結体の構造はβ型構造となる。希土類硫化物を構成する希土類元素のうち、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)の少なくとも1種が好ましいのは、それらが電気的に絶縁体である正方晶のβ型構造を有することから、大きな誘電率を持つからである。
また、β型構造の希土類硫化物に元素を添加した場合、無添加のものと比較して、γ型への転移を低温で可能にする元素と、逆に、高温まで、その転移を阻害する元素がある。この理由は、β型に含まれている酸素との反応性に依存すると考えられるが、正確なことはまだ不明である。白金はγ型への転移を阻害する元素であり、希土類硫化物のβ型構造を利用する本発明の誘電材料においては、有用な添加元素である。
例えば、希土類硫化物の原料粉末に、白金を添加したものを出発原料として焼結体を製造するには下記の方法を用いる。不純物としての酸素含有量が0.9質量%以上の組成式Ln(Lnは、La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luの群から選ばれる少なくとも1種)で表されるβ型ランタノイド三二硫化物粉末に白金粉末を混合し、成型後又は成型と同時に1300℃から1700℃の温度範囲で焼結する。白金粉末は平均粒径50μm以下で、混合量は1.5質量%以下が好ましい。
上記の誘電材料を用いてコンデンサーを製作するには、円板型に成形し、円板の上下を金属電極で挟めばよい。電極としての金属等の種類は、特に限定されない。また、より大きな容量のコンデンサーを得るには、電極と誘電材料を交互に積層した、積層型コンデンサーとする。
【実施例1】
プラズマ焼結法により、硫化ランタン(La)粉末(高純度化学(株)製、酸素濃度1重量%、粒径は、約0.1〜100μm、使用量は約4g)を、1500℃、30MPaで30分間保持することで、焼結した。得られた試料は円板で、直径が15.0mm、厚みが4.24mm、のディスク型コンデンサーの形状をしている。電極は直径10.0mmの金蒸着膜を使用した。この試料のコンデンサーとしての容量は、数10〜数100nFであった。また、この試料の結晶構造は正方晶であるβ型であり、室温での比誘電率(ε)は、第1図に示すように、1kHzの周波数で約1,000,000であり、tanδは約1.6であった。
【実施例2】
硫化ランタン(La)粉末に1.5重量%の白金粉末を加えた試料を、1500℃、20MPaで10分間保持するホットプレス法により、焼結した。得られた試料の形状は円板で、直径が15.0mm、厚みが約4mm、電極は上下全面に銀ペーストを塗布したものを使用した。この試料の構造は正方晶のβ型であった。この試料の室温での比誘電率(ε)は、第2図に示すように、1kHzで約40,000であり、周波数の増加とともに減少し、1,000kHzでは約4,000であった。第3図に、印加周波数1kHzでの比誘電率(ε)と測定温度(K)との関係を示す。比誘電率の値は約160Kでの約5,000から約370Kでの34,000まで温度上昇と共に増加した。
【実施例3】
プラズマ焼結法により、硫化プラセオジウム(Pr)粉末を、1500℃、30MPaで10分間保持することで、焼結した。得られた試料は結晶構造が正方晶であるβ型であった。この試料の誘電率は室温、70kHzの周波数で、約140,000であった。
比較例1
ランタノイド系列に属するサマリウムについて、プラズマ焼結法により、硫化サマリウム(Sm)粉末を、1250℃、30MPaで10分間保持することで、焼結した。得られた試料は結晶構造が立方晶であるγ型であった。この試料の誘電率は室温、1kHz〜10MHzの周波数範囲で約40であった。
【産業上の利用可能性】
大きな誘電率を有する物質は、電気回路の小型化に伴って、その必要性を増加させている。小型で大きな容量を持つコンデンサーを得るためには、大きな誘電率を持つ材料が必要となるが、本発明で提供する正方晶構造をした希土類硫化物は、非常に大きな誘電率を有するため、エレクトロニクス分野において利用される。大きな誘電率を持つ誘電体を提供することで、小型でありながら、大きな電気容量を有するコンデンサーを得ることが出来、微小回路設計が容易になる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶構造が正方晶のβ型であり、化学組成がLn(ただし、Lnは希土類金属)で示され、周波数領域が0.5kHz〜1,000kHzの範囲で、室温における比誘電率の値が1,000を越える希土類硫化物の焼結体からなる高誘電材料。
【請求項2】
希土類が、ランタン(La)、プラセオジウム(Pr)、セリウム(Ce)、ネオジウム(Nd)の少なくとも1種であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の高誘電材料。
【請求項3】
β型三二硫化物の結晶構造が、高温において、γ型に転移するのを阻害する白金が添加されたことを特徴とする上記(1)又は(2)の高誘電材料。
【請求項4】
請求の範囲第1項から請求の範囲第3項のいずれか一に記載の高誘電材料を用いたことを特徴とするコンデンサー。

【国際公開番号】WO2004/085339
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【発行日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−504044(P2005−504044)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003883
【国際出願日】平成16年3月22日(2004.3.22)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(503010243)
【Fターム(参考)】