説明

希少ガス回収装置用の安全装置

【課題】運転圧力に依存することなく安定して動作するとともに回収ガスの純度の維持が可能な安全器を提供する。
【解決手段】上筒部6と、上筒部6の下方に設けられた下筒部7とが、それぞれの内部空間6A,7Aが連通するとともに密閉状態となるように一体化されて設けられた外筒2と、上筒部6の内部空間6A内に設けられ、自重によって下筒部7の上端開口部7aと密着して上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとを遮断する弁子3と、ガスバッグの体積変化と連動して変位し、弁子3を上方向に付勢して下筒部7の上端開口部7aとの密着状態を解除する付勢手段4と、両端に開口部を有し、開口部の一端が、外筒2内の密閉状態を維持しつつ当該外筒2を貫通し、弁子3に密着して配設され、他端が外筒2の外側に開放され、内部空間に付勢手段4の一部を収納可能に設けられた内筒5と、を備える希少ガス回収装置用の安全装置1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希少ガス回収装置用の安全装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、超電導実験には、低温を保つために冷媒が必要であり、クライオスタットが用いられる。このような超電導実験用のクライオスタットに使用される液化ヘリウムは、希少且つ高価であるため、蒸発後のガスを可能な限り回収・再液化して再利用される場合が一般的である。
【0003】
冷媒として使用されたヘリウムの蒸発ガスを回収するには、クライオスタット内の液化ヘリウムの温度を上昇させないためにも可能な限り大気圧に近い圧力で行うことが好ましく、使用環境(回収配管の圧損の大小)に応じて回収圧力を調整する必要(例えば、回収配管の圧損が大きい場合は負圧、圧損が小さい場合は正圧)がある。
【0004】
このようなヘリウムガス回収装置としては、例えば特許文献1が知られている。特許文献1に記載のヘリウムガス回収装置は、ヘリウムガスを回収するための容積可変の容器であるガスバッグと、ガスバッグの重量をキャンセルし、回収圧力を調整するための分銅と、ガスバッグを破損から防ぐための安全器である排気弁とから概略構成されている。
【0005】
また、このようなガスバックの2次側には、ガスバッグ中のヘリウムを精製工程に送り出す前に回収したヘリウムガスをカードルに充填するための回収圧縮機が設けられている。そして、この回収圧縮機の発停は、ガスバックに取付けられたリミットスイッチにより行われるのが一般的である。
【0006】
具体的には、通常、ガスバックのHリミットまでの回収で圧縮機起動し、Lリミットで停止となる。しかしながら、なんらかの不具合(例えば、圧縮機の故障もしくはカードルが一杯等)により、ガスバックに回収したヘリウムガスを系外に出すことができなくなる場合がある。したがって、ヘリウムガス回収装置には、不具合が生じた場合にガスバックを保護するために機能する安全器が設けられていることが一般的である。
【0007】
ところで、安全器としては、例えば特許文献2が知られている。特許文献2には、液面式の安全器が開示されている。具体的には、上部に空間を残して水を貯留してある密閉タンクに、ガス導管から分岐した分岐管を分岐管出口が貯留水の水面下に入り込むように接続するとともに、分岐管内に入り込んでいる貯留水を、分岐管に導入したガスの圧力で排除して、設定圧力を超えるガスを分岐管出口から水面上に排出させ、ガス放出管を通して外部に放出する液面式の安全器である。また、当該安全器内の水位を調整することにより、当該安全器の作動圧力を簡単に調整が可能である。
【0008】
通常、ヘリウムガス回収装置は屋内に設置されており、安全器が作動した場合には屋内にヘリウムガスを放出することとなる。このため、換気設備が十分でない場合には、蒸発したヘリウムガスが室内に充満すると酸素欠乏の可能性があるので、安全器には十分な配慮が必要である。
【0009】
しかしながら、上記水封式安全器によれば、当該安全器の放出口に配管を接続する構造とすることが可能であるため、当該安全器の放出ガスを屋外へ排出することが可能となる。このように、安全性に配慮するとともに、放出配管の途中に流量計を設けることにより放出ガス量の管理も可能である。
【0010】
また、特許文献2に記載された水封式安全器では、水が蒸発することによって作動圧力が変動してしまうため、定期的に水を補充する必要があった。また、蒸発した水分で回収ガスが汚染される恐れもあった。そこで、水に変えて低飽和蒸気圧の液体、例えばロータリーポンプ油を用いた液面式安全器がよく用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−344802号公報
【特許文献2】特開2002−147741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、ロータリーポンプ油等を用いた液面式安全器では、ヘリウム回収装置の運転圧力がある一定の陰圧以下となると、ガスバック内に液面式安全器内の油が逆流してガスバック内を油で汚すとともに、回収したヘリウムの純度を著しく低下させることとなるおそれがあった。また、極端に正圧となっても、液面式安全器の二次側に油を排出することとなり、回収したヘリウムの純度を著しく低下させてしまうおそれがあった。
このように、従来の液面式安全器は、その構造は単純で作動圧力の調整が容易である反面、装置の運転圧(または、回収ガスの圧力)の管理に注意を要するという問題があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、運転圧力に依存することなく安定して動作するとともに回収ガスの純度の維持が可能な安全器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、希少ガスを回収するための容積可変のガスバッグを備えた希少ガス回収装置において、前記ガスバッグの破損を防止するための安全装置であって、
上筒部と、前記上筒部の下方に設けられた下筒部とが、それぞれの内部空間が連通するとともに密閉状態となるように一体化されて設けられた外筒と、
前記上筒部の内部空間内に設けられ、自重によって前記下筒部の上端開口部と密着して前記上筒部の内部空間と前記下筒部の内部空間とを遮断する弁子と、
前記ガスバッグの体積変化と連動して変位し、前記弁子を上方向に付勢して前記下筒部の上端開口部との密着状態を解除する付勢手段と、
両端に開口部を有し、前記開口部の一端が、前記外筒内の密閉状態を維持しつつ当該外筒を貫通し、前記弁子に密着して配設され、他端が前記外筒の外側に開放され、内部空間に前記付勢手段の一部を収納可能に設けられた内筒と、を備え、
前記ガスバッグの体積増加量が所定値を超えた場合に、前記付勢手段が連動して変位して前記弁子を上方向に付勢し、
前記弁子と前記下筒部の上端開口部との密着状態が解除されることにより、
前記上筒部の内部空間と前記下筒部の内部空間とが連通されることを特徴とする希少ガス回収装置用の安全装置である。
【0015】
請求項2に記載の発明は、希少ガスの導入経路と連通する導入口及び排出経路と連通する排出口のいずれか一方が前記上筒部に設けられ、他方が前記下筒部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の希少ガス回収装置用の安全装置である。
【0016】
請求項3に記載の発明は、前記弁子の外径寸法が、前記下筒部の前記上端開口部の径よりも大きく、前記上筒部の内径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の希少ガス回収装置用の安全装置である。
【0017】
請求項4に記載の発明は、前記付勢手段が、
前記ガスバッグの体積変化とワイヤを介して連動し、上下方向に変位する錘と、
一端側が前記錘と接触可能に設けられたアーム部材と、
前記アーム部材の他端側と前記弁子の上面との間を連結する連結部材と、を備え、
前記ガスバッグの体積が増加した際に、前記錘が下方に移動し、
前記ガスバッグの体積増加量が所定値を超えた場合に、前記錘が前記アーム部材の一端側を押し下げることにより、他端側が押し上げられ、
前記連結部材によって前記弁子が上方向に付勢されることにより、前記弁子と前記下筒部の上端開口部との密着状態が解除されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置用の安全装置である。
【0018】
請求項5に記載の発明は、前記内筒の開口部の他端が、外筒に設けられた開口部に接続され、
前記外筒内の気密状態を維持しつつ、当該外筒内における前記内筒の管長が伸縮自在に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置用の安全装置。
【0019】
請求項6に記載の発明は、前記希少ガス回収装置が、
希少ガスを回収するための容積可変のガスバッグと、
前記ガスバッグの重量をキャンセルし、回収圧力を調整するバランサーウェイトと、
前記ガスバッグと前記バランサーウェイトとを接続するワイヤと、
前記ワイヤの方向を変えるための滑車と、
前記滑車の支持となる架台と、
前記ガスバッグを破損から防ぐための安全装置と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置の安全装置である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の希少ガス回収装置用の安全装置によれば、ガスバッグの体積増加量が所定値を超えた場合に、付勢手段が連動して変位して弁子を上方向に付勢し、この弁子と下筒部の上端開口部との密着状態が解除されることにより、上筒部の内部空間と下筒部の内部空間とが連通される構成となっている。これにより、希少ガス回収装置の運転圧に依存することなく、安定して動作する機械式の安全装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を含むヘリウム循環システムを示す系統図である。
【図2】本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を示す立面図である。
【図3】本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を示す系統図である。
【図4】本発明の一実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
【図5】本発明の他の実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
【図6】本発明の他の実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
【図7】本発明の他の実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
【図8】本発明の他の実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を適用した一実施形態であるヘリウム回収装置用の安全装置について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を含むヘリウム循環システムを示す系統図である。
図1に示すように、ヘリウム循環システム100は、クライオスタット101から蒸発するヘリウムガスをヘリウム回収装置102で一旦留めた後、ヘリウム液化機103で液体ヘリウムに戻して、クライオスタット101に還流させるもので、ヘリウムガスを補給するサイクルを伸ばそうというものである。
【0024】
クライオスタット101は、液体ヘリウムを冷媒として保持し超電導機器等を冷却するための極低温クライオスタットである。クライオスタット101中に蓄えられた液体ヘリウムは、このクライオスタット101内の超電導機器と熱交換することによって蒸発する。蒸発したヘリウムは、従来は大気に捨てられていたが、ヘリウム排気管104を通じてヘリウム回収装置102に留める。なお、図示していないが、ヘリウム液化機103が運転停止中は、ヘリウム貯槽108で蒸発したヘリウムガスをヘリウム回収装置102に留める。
【0025】
ヘリウム回収装置102内に留められたヘリウムガスは、圧縮機105で加圧され、途中混入した水分や不純物ガスを、精製設備106を通じて除去し、純度の高いヘリウムガスに精製した後、貯蔵設備107に留められる。そして、精製後のヘリウムガスは、極低温冷凍機により冷却する再凝縮器を備えるヘリウム液化機103内で液体ヘリウム温度まで冷却・凝縮された後に、一旦液体ヘリウム貯槽108に留められる。一定量液体ヘリウムが留まった後、トランスファチューブ109を通じてクライオスタット101に移送される。また、ヘリウム循環システム100内のヘリウムをいずれかで損失した場合には、ガス供給手段110からヘリウムガスがヘリウム液化機103内に補充される。
なお、ヘリウム循環システム100には、複数のクライオスタット101,101’が接続されていても構わない。
【0026】
図2は、本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を示す立面図である。また、図3は、本発明の一実施形態である安全装置を備えたヘリウム回収装置を示す系統図である。
【0027】
図2に示すように、ヘリウム回収装置(希少ガス回収装置)102は、ヘリウム(希少ガス)を回収するための容積可変のガスバッグ121と、このガスバッグ121の重量をキャンセルし、回収圧力を調整するバランサーウェイト122と、ガスバッグ121とバランサーウェイト122とを接続するワイヤ123と、ワイヤの方向を変えるための滑車124と、滑車124の支持となる架台125と、ガスバッグ121を破損から防ぐための安全装置1と、を備えて概略構成されている。
【0028】
ガスバッグ121の下方には、ガス注入口121aとガス排気口121bとが設けられている。ガス注入口121aには、クライオスタット101のヘリウム排気管104が接続されている。一方、ガス排気口121bには、圧縮機105への供給管126が接続されている。また、ヘリウム排気管104及び供給管126には、弁127,128がそれぞれ設けられている。
【0029】
また、ガスバッグ121には、最下限リミットスイッチ129、下限リミットスイッチ130、上限リミットスイッチ131及び最上限リミットスイッチ132が設けられている。そして、ガスバッグ121の発停は、これらのリミットスイッチ129〜132によって行なわれる。
【0030】
具体的には、弁127,128は開状態で、クライオスタット101からの排気ヘリウムガスがヘリウム排気管104からガスバッグ121内に供給される。ガスバッグ121の上限リミットまで回収されると、圧縮機105の運転が開始され、ガスバッグ121内に回収されたヘリウムガスが供給管126から圧縮機105へと送気される。そして、ガスバッグ121の下限リミットに到達したときに、圧縮機105の運転が停止される。
【0031】
ここで、なんらかの不具合(圧縮機の故障もしくは貯蔵設備が一杯等)により、ガスバック121に回収したヘリウムガスを系外に出すことができず、最上限リミットに到達した場合には、ヘリウムガスは、排気管104から分岐する分岐管133に設けられた安全装置1が作動することにより、ヘリウムガスが排出管134を経て系外へと排出されることになる。
【0032】
図3に示すように、本実施形態の安全装置1は、ヘリウムガス(希少ガス)を回収するための容積可変のガスバッグ121を備えたヘリウム回収装置102において、ガスバッグ121の破損を防止するために、分岐管133と排出管134との間に設けられている。
【0033】
図4は、本発明の一実施形態である安全装置を示す断面模式図である。
図4に示すように、本実施形態の安全装置1は、密閉状態の外筒2と、外筒2内に設けられた弁子3と、弁子3を上方向に付勢する付勢手段4と、外筒2を貫通するように設けられた内筒5と、を備えて概略構成されている。以下、各構成について詳細に説明する。
【0034】
外筒2は、上筒部6と、この上筒部6の下方に設けられた下筒部7とが、一体化されて設けられた筒状の部材である。また、外筒2は、上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとが弁子3を介して連通あるいは遮断されるとともに、全体として密閉状態となるように設けられている。
【0035】
上筒部6は、樹脂又は金属材質からなる筒状の部材であり、外筒2の上部に設けられている。この上筒部6の上端にはフランジ8が、下端にはフランジ9がそれぞれ設けられている。フランジ8には、例えばシリコンゴムからなるOリング11を挟み込むようにして上蓋部材10が取り付けられている。この上蓋部材10によって上筒部6の上端開口部6aが閉塞されている。
【0036】
上筒部6の側面には、分岐管12の一端が接続されている。また、分岐管12の他端にはフランジ13が設けられており、ヘリウムガスの排出経路である排出管134と接続可能とされている。すなわち、分岐管12の他端側の開口部12aは、排出経路と連通する排出口とされている。これにより、排出ガスを安全装置1が設置されている屋内に排出することなく、排出経路へと導出させることができる。
すなわち、フランジ13に接続する排出管134を屋外へと配設することにより、排出ガスを屋内ではなく外部へと排出させることができる。また、排出経路の途中に流量計を設けることにより、ヘリウム循環システム100の系外に排出されたヘリウム量を把握でき、ガス供給手段110にガスを補充する際に活用することが可能となる(図1参照)。
【0037】
下筒部7は、樹脂又は金属材質からなる筒状の部材であり、上部筒6の下方に設けられて外筒2の下部を構成している。また、下部筒7の上端にはフランジ14が、下端にはフランジ15がそれぞれ設けられている。なお、下部筒7はL字状に曲げられていてもよい。
【0038】
フランジ14は、フランジ9に密着されて接続されている。このフランジ14の上面14aによって上筒部6の下端開口部6bが閉塞されるとともに、下筒部7の上端開口部7aと弁子3を介して上筒部6の内部空間6Aと下部筒7の内部空間7Aとが連通されている。
【0039】
フランジ15は、ヘリウムガスの導入経路である分岐管133と接続可能とされている。すなわち、下部筒7の下端開口部7bは、導入経路と連通する供給口とされている。
【0040】
以上のような構成により、外筒2は、上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとが弁子3を介して連通するとともに密閉状態となるように設けられている。
なお、本実施形態では、上筒部6と下筒部7とを二つの別部材としているが、一体成形したものを用いても良い。
また、本実施形態の外筒2では、上筒部6側に排気口を設け、下筒部7側に供給口を設ける構成としているが、これに限定されるものではない。すなわち、上筒部6側を供給口、下筒部7側を排出口としても良い。
【0041】
弁子3は、ヘリウム回収装置102の通常運転時において、下筒部7の上端開口部7aを閉塞するために設けられた封止部材である。この弁子3は、外筒2を構成する上筒部6の内部空間6A内に設けられており、下筒部7の上端開口部7aと密着して上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとを遮断している。具体的には、弁子3の下面3bとフランジ14の上面14aとの間に、シリコンゴム等からなるOリング16を挟み込むことにより、弁子3で下筒部7の上端開口部7aを閉塞している。
【0042】
弁子3の材質としては、気密状態が可能であれば、特に限定されるものではない。ただし、後述するように弁子3には所定の重量を有することが求められるため、比較的密度が大きい材質を用いることが好ましい。具体的には、SUS等の金属製であることが好ましい。
【0043】
弁子3の形状は、上筒部6の内部空間6A内を上下方向に移動可能であれば、特に円板状に限定されるものではないが、内部空間6Aの下端側の断面形状と相似形であることが好ましい。具体的には、内部空間6Aが円筒形状の場合には、下端側の断面形状が円形であることが好ましい。
【0044】
弁子3の外径寸法、特に底面3bの外径は、下筒部7の上端開口部7aの内径よりも大きく、上筒部6の下端側の内径よりも小さいことを要する。弁子3の底面3bの外径が下筒部7の上端開口部7aよりも小さいと、上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとを遮断することができない。一方、弁子3の外径が上筒部6の下端側の内径よりも大きいと、弁子3が上筒部6内を上方向に移動することができず、弁子3と下筒部7の上端開口部7aとの密着状態を解除することができない。
なお、安全装置1が作動する際に、外筒2内をスムーズにヘリウム排ガスが流れるようにするためには、上筒部6の内部空間の断面積から弁子3の断面積を差し引いた面積が、下筒部7の上端開口部7aの面積よりも大きくなるように設計することが望ましい。
【0045】
弁子3の重量は、少なくとも自重によって下筒部7の上端開口部7aを閉塞することができれば、特に限定されるものではない。
具体的には、以下の関係式(1)に応じて、弁子3の重量を選択することが好ましい。
(弁子3の重量)>(ヘリウム回収装置102の運転圧力)/(下筒部7の上端開口部7aの面積) ・・・(1)
すなわち、ガスバッグに回収したヘリウムガスの圧力は、回収圧力を調整するバランサーウェイト122により決定される運転圧力であるが、この運転圧力は本安全装置1の作動圧力でもある。したがって、ヘリウム回収装置102の運転圧力を下筒部7の上端開口部7aの面積で除した値より、弁子3の重量が常に大きくなるように選択することが好ましい。
【0046】
弁子3の上面3aには、筒状部材17の下端が固定されている。すなわち、筒状部材17の下端側は弁子3の上面3aによって閉塞されている。また、上面3aの筒状部材17の内側には、リング状の固定部材18が立設されている。
【0047】
弁子3の下面3bには、弁子3が上方向に移動した後、再び下方向に移動する際に、確実に元の位置に戻ることができるように、ガイド19が設けられている。ガイド19は、4枚の板状部材19aが90°間隔で弁子3の下面3bに下方向に立設されて構成されており、下筒部7の内部空間7A内に収納されている。
【0048】
板状部材19aはいずれも直角三角形であり、それぞれ一辺を弁子3の下面3bに固定し、4つの板状部材19aの頂点が一致するように立設されている。これにより、ガイド19の外径は、下方から上方に向かって漸次拡径されることとなり、弁子3の下面3bとの接続側において下筒部7の上端開口部7aの内径とほぼ等しくすることができる。したがって、安全装置1が作動して弁子3が上方に移動した場合、ガイド19を構成する板状部材19aの間からヘリウムガスが流れることができるため、排気ガスの流れを妨げることがない。一方、安全装置1が停止して弁子3が再び下方に移動した場合、ガイド19によって弁子3が確実に元の位置に復帰することができる。
【0049】
なお、ガイド19の形状及び構成については、弁子3が上方に移動した際に排ガスの流れを妨げるものでなく、弁子3が再び下方に移動した際に正しい位置に誘導できるものであれば、特に限定されるものではない。具体的には、ガイド19としてスリットや通気孔を設けた筒状部材を用いてもよく、また、複数の棒状部材を組み合わせて錐形状としてもよい。なお、板状部材19aの形状は四角形等、その他の形状であってもよいし、板状部材19aの枚数は限定されるものではない。
【0050】
付勢手段4は、ガスバッグ121の体積変化に連動して弁子3を上方向に付勢することにより、弁子3と下筒部7の上端開口部7aとの密着状態を解除するための部材である。
本実施形態の付勢手段4は、図4に示すように、ガスバッグ121の体積変化と連動して上下方向に変位する錘20と、この錘20と接触可能に設けられたアーム部材21と、アーム部材21と弁子3とを連結する連結部材22と、を備えて概略構成されている。
【0051】
錘20は、ワイヤ23を介してガスバッグ121と接続されており、ガスバッグ121の体積変化と連動して上下方向に変位可能に設けられている。具体的には、図2及び図3に示すように、ガスバッグ121の上方には滑車24が、ガスバッグ121の設置スペースの外側には滑車25がそれぞれ設けられている。ガスバッグ121の上端に設けられたフレーム(図示略)にワイヤ23の一端が固定され、滑車24,25によってガスバッグ121の外側に引き回された他端が錘20に固定されている。これにより、ガスバッグ121内にヘリウムガスが導入されて体積が増加すると、ガスバッグ121の上端の位置が上方に移動し、連動して錘20が下方に移動する。一方、ガスバッグ121内のヘリウムが排出されて体積が減少すると、ガスバッグ121の上端の位置が下方に移動し、連動して錘20が上方に移動する。
【0052】
また、図4に示すように、錘20は、ガイドパイプ26内に収納されることが好ましい。これにより、錘20の移動範囲を上下方向のみに制限することができる。ガイドパイプ26は、図2及び図3に示すように、ガスバッグ121の側方に位置する架台125に取り付けられている。
【0053】
また、錘20の重量は、特に限定されるものではないが、弁子3の重量より重くすることが好ましい。
【0054】
アーム部材21は、錘20の移動方向と逆方向に弁子3を移動させるための部材であり、錘20と弁子3との間に設けられている。アーム部材21の中央付近には支持部材27が回動自在に取り付けられている。そして、この支持部材27は、上蓋部材10の上面に固定されている。
支持部材27のアーム部材21への取り付け位置は、一端21aと他端21bとの中間であっても良いし、いずかれ側にずらして取り付けてもよい。
【0055】
アーム部材21の一端21a側は、ガイドパイプ26内に貫通されており、錘20と接触した際に下方向に移動可能とされている。また、アーム部材21の他端21b側には、ワイヤ止め部材28が設けられている。
【0056】
連結部材22は、アーム部材21と弁子3との間を連結する部材であり、材質は特に限定されるものではない。具体的には、ワイヤや連結棒を用いることができる。本実施形態では、連結部材22として、ワイヤを用いている。具体的には、連結部材22は、アーム部材21の他端21b側に設けられたワイヤ止め部材28と、弁子3の上面3aに設けられた固定部材18との間を連結するように設けられている。
【0057】
上記構成を有する付勢手段4は、ガスバッグ121の体積が増加した際に、ガスバッグ121の上方向への変位がワイヤ23及び滑車24,25によって錘20に伝達され、その移動の向きが変えられて錘20が下方に移動する。そして、ガスバッグ121の体積増加量が所定値を超えた場合に、錘20がアーム部材21の一端21a側を押し下げることにより、他端21b側が押し上げられる。そして、アーム部材21と弁子3とを接続する連結部材22によって弁子3が上方向に付勢される。これにより、弁子3と下筒部7の上端開口部7aとの密着状態が解除されることになる。
【0058】
内筒5は、付勢手段4が外筒2を構成する上筒部6内の雰囲気に接触することなく弁子3へアプローチするための管状の経路である。具体的には、図4に示すように、両端に開口部を有するベローズを用いることができる。
【0059】
ベローズの開口部の一端5aは、外筒2を構成する上筒部6内の密閉状態を維持しつつ当該上筒部6を貫通し、弁子3の上面3aに取り付けられた筒状部材17の上端と密着するように固定されている。なお、内筒5と弁子3とを密着して接続できれば筒状部材17を用いずに直接固定してもよいし、これに限定されるものではない。また、ベローズの開口部の他端5bは、上蓋部材10の上面から下面に向かって貫通する孔に取り付けられた筒状部材29の下端と密着するように接続されて固定されている。これにより、上筒部6内の気密状態を維持しつつ、この上筒部6内におけるベローズ(内筒5)の管長を伸縮自在とするこができる。また、ベローズ(内筒5)の他端5bが上筒部6の外側に開放されており、その内部空間に付勢手段4の一部であるワイヤ(連結部材)22が収納可能とされている。
【0060】
このような構成とすることにより、付勢手段4を、外筒2を構成する上筒部6内に収納されている弁子3に対して接触可能としつつ、上筒部6内の雰囲気が内筒5内へ流出することがない。すなわち、安全装置1が作動した際に、安全装置1からこの安全装置1が設置されている空間へ排気ヘリウムガスが流出することがない。
【0061】
次に、本実施形態の安全装置1の動作について説明する。
先ず、ヘリウム循環システム100及びヘリウム回収装置102が正常に作動している場合は、安全装置1では、弁子3によって下筒部7の上端開口部7aが閉塞されている。このため、安全装置1は作動せず、分岐管133から排出管134へと排気ヘリウムガスが流れることはない。
【0062】
これに対して、ヘリウム循環システム100あるいはヘリウム回収装置102のいずれかに不具合が生じ、最上限リミットスイッチ131が動作してもガスバッグ121への排気ヘリウムガスの供給が停止せず、あるいは、ガスバッグ121からの排気ヘリウムガスの排出が開始されない場合には、ガスバッグ121の体積の増加が生じることとなる。ガスバッグ121の体積増加量が所定値を超えた場合に、付勢手段4を構成する錘20が連動して下方向に変位してアーム部材21の一端21a側を押し下げる。これにより、他端21b側が押し上げられ、アーム部材21と弁子3とを接続する連結部材22によって弁子3が上方向に付勢される。そして、弁子3と下筒部7の上端開口部7aとの密着状態が解除されることにより、上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとが連通される。これにより、供給口7bから排気ヘリウムガスが外管2内に流入し、排出口12aから排出されることとなる。
【0063】
以上説明したように、本実施形態のヘリウムガス(希少ガス)回収装置102用の安全装置1によれば、ガスバッグ121の体積増加量が所定値を超えた場合に、付勢手段4が連動して変位して弁子3を上方向に付勢し、この弁子3と下筒部7の上端開口部7aとの密着状態が解除されることにより、上筒部6の内部空間6Aと下筒部7の内部空間7Aとが連通される構成となっている。これにより、ヘリウムガス回収装置102の運転圧に依存することなく、安定して動作する機械式の安全装置1を提供することができる。
【0064】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上記実施形態の安全装置1では、ヘリウムの場合について説明したが、希少ガスとして例えば、アルゴン、クリプトン、キセノン等の場合にも用いることができる。
【0065】
また、上記実施形態の安全装置1では、外筒2の上筒部6に分岐管12を接続する構成としているが、図5に示すように、さらに分岐管32を接続する構成としても良い。また、分岐管32の開口部32a側にフランジ33を設けて、このフランジ33に透明なアクリル板34を固定することにより、メンテナンス性が向上された安全装置31としても良い。
【0066】
また、上記実施形態の安全装置1では、付勢手段4が錘20とアーム部材21と連結部材22とからなる構成としているが、図6に示すように、錘20と滑車45,46とワイヤ47とから構成される付勢手段44としても良い。このような構成の付勢手段44によっても、ガスバッグ121の体積変化と連動して変位し、弁子3を上方向に持ち上げる(付勢する)ことができる。
【0067】
また、図7に示すように、弁子53を下側から押し上げる(付勢する)付勢手段54であっても良い。具体的には、ガスバッグ121とバランサーウェイト122とを連結するワイヤ123の、ガスバッグ121と滑車124との間の部分に、棒状の付勢手段54を固定する。
一方、上述した実施形態の安全装置1では、内筒5の開口部の一端を弁子3の上面3a側に固定して内筒5を上筒部6側に設ける構成であったが、この例の安全装置51では、内筒55を上筒部56側ではなく、下筒部57側に設ける構成となっている。具体的には、内筒55の上端開口部を弁子53の下面側に接続して固定する。そして、内筒55の下端開口部を下筒部57の底面に設けた開口部に接続して固定する。このように、内筒55を、外筒52を構成する下筒部57側から貫通させることにより、付勢手段54によって安全装置51の下側から弁子53を付勢することができる。この例の安全装置51では、錘20を用いる必要がなく、より簡便な構成とすることができる。
【0068】
また、上記実施形態の安全装置1では、内筒5として伸縮自在のベローズを用いる構成としているが、図8に示すように、シリンダ状の内筒65を用いる構成としても良い。この例では、内筒65の下端を筒状部材17に固定するが、上端は筒状部材29とは固定せず、外筒2を構成する上筒部6内を密閉状態に保ちつつ、筒状部材29の内側を上下にスライドできる構成とする。また、筒状部材17を用いずに、内筒65の下端を弁子3の上面3aに直接固定する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0069】
1,31,41,51,61…安全装置
2…外筒
3…弁子
4…付勢手段
5…内筒
6…上筒部
6A…内部空間
7…下筒部
7a…上端開口部
7A…内部空間
8,9,13,14,15…フランジ
10…上蓋部材
11,16…Oリング
12…分岐管
17,29…筒状部材
18…固定部材
19…ガイド
20…錘
21…アーム部材
22…連結部材
23…ワイヤ
24,25…滑車
26…ガイドパイプ
27…支持部材
28…ワイヤ止め部材
100…ヘリウム循環システム
101…クライオスタット
102…ヘリウム回収装置(希少ガス回収装置)
103…ヘリウム液化機
104…ヘリウム排気管
105…圧縮機
106…精製設備
107…貯蔵設備
108…液体ヘリウム貯槽
109…トランスファチューブ
110…ガス供給手段
121…ガスバッグ
122…バランサーウェイト
123…ワイヤ
124…滑車
125…架台
126…供給管
127,128…弁
129〜132…リミットスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
希少ガスを回収するための容積可変のガスバッグを備えた希少ガス回収装置において、前記ガスバッグの破損を防止するための安全装置であって、
上筒部と、前記上筒部の下方に設けられた下筒部とが、それぞれの内部空間が連通するとともに密閉状態となるように一体化されて設けられた外筒と、
前記上筒部の内部空間内に設けられ、自重によって前記下筒部の上端開口部と密着して前記上筒部の内部空間と前記下筒部の内部空間とを遮断する弁子と、
前記ガスバッグの体積変化と連動して変位し、前記弁子を上方向に付勢して前記下筒部の上端開口部との密着状態を解除する付勢手段と、
両端に開口部を有し、前記開口部の一端が、前記外筒内の密閉状態を維持しつつ当該外筒を貫通し、前記弁子に密着して配設され、他端が前記外筒の外側に開放され、内部空間に前記付勢手段の一部を収納可能に設けられた内筒と、を備え、
前記ガスバッグの体積増加量が所定値を超えた場合に、前記付勢手段が連動して変位して前記弁子を上方向に付勢し、
前記弁子と前記下筒部の上端開口部との密着状態が解除されることにより、
前記上筒部の内部空間と前記下筒部の内部空間とが連通されることを特徴とする希少ガス回収装置用の安全装置。
【請求項2】
希少ガスの導入経路と連通する導入口及び排出経路と連通する排出口のいずれか一方が前記上筒部に設けられ、他方が前記下筒部に設けられることを特徴とする請求項1に記載の希少ガス回収装置用の安全装置。
【請求項3】
前記弁子の外径寸法が、前記下筒部の前記上端開口部の径よりも大きく、前記上筒部の内径よりも小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の希少ガス回収装置用の安全装置。
【請求項4】
前記付勢手段が、
前記ガスバッグの体積変化とワイヤを介して連動し、上下方向に変位する錘と、
一端側が前記錘と接触可能に設けられたアーム部材と、
前記アーム部材の他端側と前記弁子の上面との間を連結する連結部材と、を備え、
前記ガスバッグの体積が増加した際に、前記錘が下方に移動し、
前記ガスバッグの体積増加量が所定値を超えた場合に、前記錘が前記アーム部材の一端側を押し下げることにより、他端側が押し上げられ、
前記連結部材によって前記弁子が上方向に付勢されることにより、前記弁子と前記下筒部の上端開口部との密着状態が解除されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置用の安全装置。
【請求項5】
前記内筒の開口部の他端が、前記外筒に設けられた開口部に接続され、
前記外筒内の気密状態を維持しつつ、当該外筒内における前記内筒の管長が伸縮自在に設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置用の安全装置。
【請求項6】
前記希少ガス回収装置が、
希少ガスを回収するための容積可変のガスバッグと、
前記ガスバッグの重量をキャンセルし、回収圧力を調整するバランサーウェイトと、
前記ガスバッグと前記バランサーウェイトとを接続するワイヤと、
前記ワイヤの方向を変えるための滑車と、
前記滑車の支持となる架台と、
前記ガスバッグを破損から防ぐための安全装置と、
を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の希少ガス回収装置の安全装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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