説明

帯電ロールの製造方法及びそれにより得られた帯電ロール

【課題】芯金の外周面上に一体的に形成されてなる柔軟性基層の両端部に、軸直角方向外方に向かう跳ね上がり部を有さない帯電ロールを有利に製造し得る方法を提供すること。
【解決手段】1)芯金の外周面上における両端からそれぞれ所定距離内にある部位を除く部位に、接着層を設け、2)未加硫ゴム組成物を用いて、芯金上の接着層を少なくとも覆うベース層を押出成形によって形成せしめ、3)芯金を第一のチャック部材にて挟持すると共に、第二のチャック部材にて、ベース層の両端部における接着層が直下に存在しない部位を把持し、その状態で、第二のチャック部材を、相対的に回転させつつ芯金の軸方向外方に向かって引っ張ることにより、ベース層両端部の一部を除去し、4)両端部の一部が除去されたベース層を加硫し、5)芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層における両端部の一部を除去することにより柔軟性基層として、帯電ロールとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置において、電子写真感光体や静電記録誘電体等からなる像担持体を帯電せしめるために用いられる帯電ロールを、有利に製造し得る方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子写真方式を利用した複写機やプリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置においては、感光体(ドラム)等の像担持体を、帯電ロールの外周面に接触せしめて、それら像担持体と帯電ロールとを相互に回転させるようにすることによって、かかる像担持体の表面を帯電させる、所謂ロール帯電方式が採用されてきている。
【0003】
また、そのような接触帯電方式に係るロール帯電方式に用いられる帯電ロールには、一般に、導電性の軸体(芯金)の周りに、導電性の弾性体乃至は発泡体からなる柔軟性基層が所定の厚さで設けられ、そして、この柔軟性基層の外周面上には、必要に応じて、軟化剤移行防止層や抵抗調整層等が、順次、積層形成され、更に表面には、最外層としての保護層が形成せしめられてなる構造のものが採用されている。
【0004】
ところで、かかる構造を呈する帯電ロールは、従来より様々な製造方法に従って製造されている。具体的には、所謂パイプ金型を用いて、かかる金型内に芯金となる軸体を配置せしめた状態にて所定の導電性ゴム組成物を注入し、金型内にて加硫成形することにより、芯金上に柔軟性基層を一体的に形成せしめる方法(パイプ金型成形法)や、プレス金型を用いた加硫成形によって柔軟性基層を形成せしめた後、その表面を研磨する方法(プレス金型成形法)等が、従来より広く採用されている。しかしながら、パイプ金型成形法やプレス金型成形法には多数の金型面数が必要とされるところ、その金型面数を減らすと生産性が低下するという問題があり、また、プレス金型成形法は、加硫成形後の研磨工程に起因して製造コストが嵩むという問題をも内在しているため、近年では、押出成形による製造方法が採用されるようになってきている。
【0005】
ここで、押出成形による帯電ロールの製造方法とは、具体的に、1)押出装置を用いて、未加硫ゴム組成物からなるチューブ(円筒体)を押出成形せしめる一方、このチューブの内孔内に軸体(芯金)を配置し、その状態にて加硫操作を行なうことにより、或いは、2)軸体(芯金)上に、所定厚さの未加硫ゴム組成物の層(ベース層)を、押出装置にて一体形成せしめ、そのゴム組成物層を加硫せしめることにより、目的とする、芯金上に柔軟性基層が一体的に形成されてなる帯電ロールを得る方法である。
【0006】
そのような押出成形による帯電ロールの製造方法にあっては、パイプ金型成形法やプレス金型成形法において必要とされる金型が不要であり、生産性も高いため、低コストにて帯電ロールを製造することが可能である。その一方で、押出成形によって得られた未加硫ゴム組成物層(ベース)中には、その押出方向への応力が残留し、かかる応力は加硫によって得られた柔軟性基層中にも残留することとなるため、最終的に軸方向に所定幅の柔軟性基層を有する帯電ロールとすべく、柔軟性基層における両端の一部を切断する(正寸カットする)と、柔軟性基層中に残留する応力と柔軟性基層自らが収縮する力とが相俟って、柔軟性基層両端の切断面付近が、軸直角方向外方に向かって跳ね上がるという別の問題を内在している。
【0007】
上述した正寸カット後の柔軟性基層両端に生ずる跳ね上がり部は、帯電ロールと感光体(ドラム)等の像担持体との接触性に悪影響を与え、像担持体における帯電ムラを生ずる原因となったり、また、電圧を印加した帯電ロールと像担持体とを接触せしめると、柔軟性基層両端の跳ね上がり部と像担持体との接触部近辺、より詳細には、柔軟性基層両端における跳ね上がり部より軸方向内側に生じた凹所と、かかる凹所と対応する像担持体表面上の所定の部位との間において、集中的に電流が流れ(放電が起こり)、その結果、像担持体表面における跳ね上がり部との接触部近辺が、他の接触部分と比較して、大きく削られるという問題があった。
【0008】
そのような問題を解決すべく、従来より様々な手法が提案されているが、かかる手法としては、柔軟性基層両端に生じた跳ね上がり部上に高抵抗層又は絶縁層を形成せしめる手法や(特許文献1を参照)、その跳ね上がり部を切除する手法等がある。
【0009】
しかしながら、それら従来の手法は、何れも上記問題を解決し得るものではあるものの、帯電ロールを経済的に(低コストにて)製造することが要求されている現在では、柔軟性基層の両端に上述の如き跳ね上がり部を有しない帯電ロールの製造方法が、望まれているのである。
【0010】
【特許文献1】特開平7−104557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、芯金の外周面上に一体的に形成されてなる柔軟性基層の両端部に、軸直角方向外方に向かう跳ね上がり部を有さない帯電ロールを有利に製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そして、本発明は、そのような課題を解決すべく、所定長さの軸体からなる芯金と、かかる芯金の外周面上に一体的に形成されてなる柔軟性基層とを有する帯電ロールの製造方法にして、1)前記芯金の外周面上における、両端からそれぞれ所定距離内にある部位を除く部位に、接着層を設ける工程と、2)未加硫ゴム組成物を用いて、該芯金上の該接着層を少なくとも覆うベース層を押出成形によって形成する工程と、3)該芯金を第一のチャック部材にて挟持すると共に、第二のチャック部材にて、該ベース層の両端部における前記接着層が直下に存在しない部位を把持し、かかる状態にて、該第二のチャック部材を、相対的に回転させつつ該芯金の軸方向外方に向かって引っ張ることにより、該ベース層の両端部の一部を除去する工程と、4)両端部の一部が除去された該ベース層を加硫する工程と、5)該芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、その両端部の一部を除去することにより、柔軟性基層とする工程とを、含むことを特徴とする帯電ロールの製造方法を、その要旨とするものである。
【0013】
なお、かかる本発明に従う帯電ロールの製造方法においては、好ましくは、前記接着層を、前記芯金の外周面上における、両端からそれぞれ距離:A[mm]以内にある部位を除く部位に設け、また、前記第二のチャック部材を、その軸方向内側端部が該芯金の端部から軸方向内方に距離:B[mm]離れたところに位置するように、前記ベース層の両端部上に配置せしめ、更に、該芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、該芯金の外周面上におけるそれぞれの端部から距離:C[mm]以内の部位に存在するものを除去することにより、柔軟性基層とし、前記A、B及びCが下記条件式(1)〜(3)を満たすものとされる。
A>C≧0・・・(1)
C≧B・・・(2)
2(A−C)≧(C−B)≧0・・・(3)
【0014】
一方、本発明は、上述した製造方法に従って製造された帯電ロールをも、その要旨とするものである。
【発明の効果】
【0015】
このように、本発明に従う帯電ロールの製造方法にあっては、芯金の外周面上における両端の所定部位を除いた部位に接着層を設け、かかる接着層を少なくとも覆うようなベース層を、未加硫ゴム組成物を用いて押出成形により形成し、その後、芯金を第一のチャック部材にて挟持すると共に、第二のチャック部材にて、ベース層の両端部における接着層が直下に存在しない部位を把持し、かかる状態にて、第二のチャック部材を、相対的に回転させつつ芯金の軸方向外方に向かって引っ張ることにより、ベース層の両端部の一部を除去する。そして、そのようにして両端部の一部が除去されたベース層を加硫し、更に、芯金上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、その両端部の一部を除去することによって柔軟性基層とし、目的とする帯電ロールとするものであるところから、得られる帯電ロールにおける柔軟性基層の両端においては、軸直角方向外方に向かう跳ね上がり部の発生が効果的に抑制されるばかりではなく、その軸直角方向外側端部が、適度なR形状(目的とするR形状であって、従来の型成形法では脱型性の点から作製が困難であった程度のもの)を呈するものとなる。即ち、本発明の製造方法に従えば、従来は必要とされていた跳ね上がり部の切除工程や、柔軟性基層の両端部を所望とするR形状とするための研磨工程等は不要となるのである。
【0016】
そのような本発明に係る帯電ロールの製造方法においては、特に、a)接着層を、芯金の外周面上における、両端からそれぞれ距離:A[mm]以内にある部位を除く部位に設け、また、b)第二のチャック部材を、その軸方向内側の端部が芯金の端部から軸方向内方に距離:B[mm]離れたところに位置するように、ベース層の両端部上に配置せしめ、更に、c)芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、該芯金の外周面上におけるそれぞれの端部から距離:C[mm]以内の部位に存在するものを除去することにより、柔軟性基層とし、それらA、B及びCが下記条件式(1)〜(3)を満たすようにすることにより、上述した効果をより有利に享受することが出来る。
A>C≧0・・・(1)
C≧B・・・(2)
2(A−C)≧(C−B)≧0・・・(3)
【0017】
一方、かかる製造方法に従って得られた帯電ロールにあっては、その柔軟性基層の両端における軸直角方向外側端部がR形状を呈するものであることから、感光体(ドラム)等の像担持体との接触性に優れ、画像異常の発生も有利に防止することが出来る。また、柔軟性基層上に、更に所定の表層形成用材料を塗布することによって表層を形成せしめる際に、その塗工性に優れるという利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に従う帯電ロールの製造方法を、適宜図面を参酌しながら詳細に説明する。
【0019】
図1及び図3は、本発明の製造方法に従って帯電ロールを製造する際の工程を、概略的に示すものである。そこにおいて示されているように、先ず、所定長さの軸体からなる芯金10の外周面上における、両端からそれぞれ距離:A[mm]以内にある部位を除く部位を覆うようにして、接着層12が設けられる(図1(a)参照)。なお、図1乃至図3においては、説明の都合上、接着層12が誇張して描かれており、また、接着層12は、一般に、ベース層18を加硫せしめた後は、加硫後のベース層18と一体となって見分けがつかなくなるものであるが、本発明の理解を容易にするために、加硫後の工程を示す説明図(図3(c)及び(d))においても意図的に表わしている。
【0020】
ここで、かかる距離:A[mm]は、所望とする帯電ロール(14)における柔軟性基層(16)の軸方向長さに対応して、換言すれば、後述する正寸カット位置に応じて決定される距離:C[mm](図2及び図3(c)参照)に対応して、適宜に決定されることとなる。本発明においては、更に、後述する(加硫前の)ベース層(18)両端部の一部を除去する工程において(図3(a)参照)、かかる(加硫前の)ベース層(18)両端部の一部が効果的に除去され得るように(図3(b)参照)、下記式(1)の条件を満たすA[mm]が、より好ましくは、下記式(4)の条件を満たすA[mm]が設定される。
A>C≧0・・・(1)
2[mm]≧(A−C)≧0.5[mm]・・・(4)
【0021】
また、芯金10は、従来の帯電ロールにおいて用いられる芯金と同様、ステンレス等からなる金属製の丸棒状乃至はパイプ状の導電性軸体であって、所望とする帯電ロールのロール長に対応した長さを有するものである。なお、図1乃至図3には図示していないが、かかる芯金10の両端面には、それぞれ、後述する第一のチャック部材20の係合凸部に対応する係合凹部が、中心軸上に所定深さにて設けられている。
【0022】
さらに、接着層12は、従来より公知の各種導電性接着剤の中から適宜に選択したものを用いて、従来より公知の手法に従って、形成せしめられる。
【0023】
次いで、未加硫ゴム組成物を用いて、図1(b)に示されている如く、芯金10上の所定部位に設けられた接着層12を少なくとも覆うように、円筒形状を呈するベース層18が押出成形によって形成される。
【0024】
そのようなベース層18を形成せしめる手法としては、例えば、クロスヘッド押出装置を用いて、予め接着層12が設けられてなる芯金10上に、直接、未加硫ゴム組成物を押し出す手法や、押出成形操作によって未加硫ゴム組成物からなるチューブを成形した後、かかるチューブの内孔内に、予め接着層12が設けられてなる芯金10を挿入する手法等を、例示することが出来る。
【0025】
なお、押出成形に供される未加硫ゴム組成物は、従来の帯電ロールにおける柔軟性基層を形成せしめる際に用いられるものと同様のものであって、ゴム材料に各種添加剤が配合されて、調製されたものである。かかるゴム材料は、特に限定されるものはなく、押出成形によって成形可能なゴム材料であれば如何なるものであっても用いることが可能である。具体的には、エピクロルヒドリン系ゴム(エピクロルヒドリン単独重合体、エピクロルヒドリン−エチレンオキシド共重合体、エピクロルヒドリン-エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル三元共重合体等)、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体(EPDM)、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体(NBR)、水素化ニトリルゴム(H−NBR)、ミラブル型ウレタンゴム(U)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、シリコーンゴム(Q)等を例示することが出来、これらが単独で、若しくは二種以上が混合されて、用いられる。
【0026】
また、未加硫ゴム組成物に配合される各種添加剤としては、従来よりゴム組成物に配合されるゴム用添加剤であって、本発明の目的を阻害しないものであれば、如何なるものも配合可能である。ゴム用添加剤としては、加硫剤、加硫助剤、加硫促進剤、導電剤、補強剤、充填剤、老化防止剤及び加工助剤等を例示することが出来、それらの所定量が、必要に応じてゴム組成物に配合される。なお、ベース層18を設ける際の押出成形性を良好なものとし、後述するベース層18における両端部の一部除去を容易なものとするために、本発明において用いられる未加硫ゴム組成物は、一般に、ムーニー粘度が30〜50程度となるように調製される。
【0027】
以上のようにして、芯金10上の接着剤層12を少なくとも覆うようなベース層18を形成せしめた後、図1(c)に示されているように、芯金10を第一のチャック部材20にて挟持すると共に、ベース層18を第二のチャック部材22a、22bにて把持する。
【0028】
具体的には、第一のチャック部材20を用いて、その係合凸部(図示せず)を芯金10の両端面上に開口する係合凹部(図示せず)内に挿入し、かかる状態にて、芯金10を位置固定に挟持する一方、ベース層18の両端部における接着層12が直下に存在しない部位を、第二のチャック部材22a、22bにて、軸直角方向内方への所定の押圧力をもって把持する(部分拡大図である図2を参照)のである。なお、かかる第二のチャック部材22a、22bの内側面(ベース層18と接する面)は、ベース層18との接触部分が均一に押圧せしめられ得るように、円筒形状を呈するベース層18の外周面に対応した円弧面とされている(図示せず)。
【0029】
ここで、ベース層18の両端部における、第二のチャック部材22a、22bによって把持する部位は、接着層12が直下に存在しない部位であれば本発明の効果を享受することが出来るが、好ましくは、第二のチャック部材22a(22b)は、その軸方向内側端部が芯金10の端部から軸方向内方に距離:B[mm]離れた箇所に位置するように、配置せしめられ、且つ、その距離:B[mm]は、前述した、正寸カット位置に応じて決定される距離:C[mm]と、距離:A[mm]との間において、下記式 (2)及び(3)の条件を満たすものである(図2参照)。距離:B[mm]がそのような条件を満たすことにより、後述する(加硫前の)ベース層(18)両端部の一部を除去する工程において(図3(a)参照)、(加硫前の)ベース層(18)両端部の一部が効果的に除去され得ることとなる(図3(b)参照)。
C≧B・・・(2)
2(A−C)≧(C−B)≧0・・・(3)
なお、上述したように、ベース層18の両端部における、第二のチャック部材22a、22bによって把持する部位は、接着層12が直下に存在しない部位であればよいのであり、例えば、ベース層18が、図1乃至図3に示されている如く、芯金10の両端よりはみ出して形成されている場合に、かかるベース層18上における芯金10の端面より軸方向外側にはみ出している部位上に、第二のチャック部材22a(22b)の軸方向内側端部が位置するように配置せしめることも可能である。そのような場合、芯金10の端部と第二のチャック部材22a(22b)における軸方向内側端部との間の距離:B’[mm]を、−B’=Bとして、上記条件式(2)及び(3)を適用する。
【0030】
なお、第二のチャック部材22a、22bにてベース層18を把持する際の押圧力は、ベース層18の粘弾性等に応じて適宜に決定されるが、一般に、0.2〜2.0(kgf)程度とされる。
【0031】
その後、第一のチャック部材20にて芯金10を位置固定に挟持し、また、ベース層18の両端部における所定部位を、それぞれ、第二のチャック部材22a、22bにて所定の押圧力をもって把持した状態にて、図3(a)に示すように、第二のチャック部材22a、22bを相対的に回転させながら芯金10の軸方向外方に向かって引っ張ることにより、図3(b)に示されている如き、両端の一部がそれぞれ除去されたベース層18を形成せしめるのである。
【0032】
すなわち、未加硫ゴム組成物からなるベース層18の両端部における所定部位を、第二のチャック部材22a、22bにより所定の押圧力をもって把持した状態にて、かかる第二のチャック部材22a、22bを、相対的に回転させながら、それぞれ芯金10の軸方向外方に向かって引っ張ると、ベース層18における第二のチャック部材22a、22bにより押圧されている部位は、かかる第二のチャック部材22a、22bの移動に伴って塑性変形し、それが限界に達すると、ベース層18の一部(未加硫ゴム組成物)が破断し、除去される一方、芯金10上に残存するベース層18は、図3(b)に示されている如く、端に向かうにつれてその径が小さくなる先細り形状を呈する円筒体となるのである。
【0033】
なお、ベース層18の両端部の一部を除去するに際して、第二のチャック部材22a、22bの回転力、回転速度、軸方向外方への引張力及び引張り速度は、ベース層18の硬度や、目的とする帯電ロール(14)の柔軟性基層における端部形状(軸直角方向外側の端部形状)等に応じて、種々の条件が採用され得るが、一般に、回転力は0.5〜1.5[kgf・cm]程度に、回転速度は5.0〜20.0[rpm]程度に、引張力は1.5〜2.5[kgf]程度、好ましくは1.8〜2.3[kgf]程度に、また引張り速度は1.0〜3.0[mm/s]程度に、それぞれが設定されて、ベース層18の両端部の一部が除去される。
【0034】
かかる後、従来より公知の手法に従って、芯金10上におけるベース層18の加硫を実施し、ベース層18を硬化せしめると共に、芯金10と(加硫後の)ベース層18とを一体化せしめる。なお、加硫する際の諸条件(加熱温度、加熱時間等)は、(加硫前の)ベース層18を構成するゴム材料の種類等に応じて、適宜に設定されることとなる。
【0035】
そして、加硫によって得られた、芯金10の外周面上に一体的形成された加硫後のベース層18のうち、その両端部の一部を除去することにより、芯金10の外周面上に残存するものを柔軟性基層16として、以て、目的とする帯電ロール14が得られるのである。
【0036】
すなわち、加硫前のベース層18は、図3(b)に示すように、両端に向かうにつれてその径が小さくなる先細り形状を呈するものであるところ、かかる形状のベース層18を加硫してなる加硫後のベース層18にあっても、加硫前のものと比較すると全体的に多少の収縮は認められるものの、加硫前と略同様な先細り形状を呈するものとなる。そのような特徴的な形状を呈する加硫後のベース層18について、その両端部の一部を(切断)除去すると、かかる除去後に芯金10上に残存する加硫後のベース層18は、従来と同様に、切断端がそれぞれ軸方向内方に向かって収縮するが、先に述べたように、(切断)除去前の両端部はそれぞれ端に向かうにつれて径が細くなっていることから、得られる柔軟性基層16の両端部には、軸直角方向外方に向かう跳ね上がり部は発生せず、更に、軸直角方向外側端部は適度なR形状を呈することとなるのである(図3(d)参照)。
【0037】
ここで、そのような優れた帯電ロール14を有利に製造するためには、図3(c)に示されているように、芯金10の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層18のうち、芯金10の外周面上におけるそれぞれの端部から距離:C[mm]以内の部位に存在するものが除去される。帯電ロールの設計上、ロール長(全長:芯金10の軸方向長さ)及び柔軟性基層(16)の軸方向長さが最初に決定されることから、本発明に係る製造方法に従って帯電ロールを有利に製造すべく、上記した条件式(1)〜(3)(より有利には条件式(1)〜(4))を満たすような各々の数値(A〜C)を決定するに際しては、先ず、所望とする柔軟性基層(16)の軸方向長さに対応するCが決定された後、上記した条件式を満たすようなA及びBが決定されることとなる。
【0038】
なお、従来より、加硫後のベース層18における両端部の一部を切断すると、その二つの端部のうち、押出成形の際の押出先端側であった端部の方がより大きな跳ね上がり部を生ずることが知られている。これは、押出後端側の端部においては、押出成形時に作用する力と正寸カット時に作用する力が逆向きとなり、それらが相殺されて端部の収縮が緩和されるのに対して、押出先端側の端部では、押出成形時に作用する力と正寸カット時に作用する力が同一方向となるため、端部の収縮が大きくなり、その結果、生ずる跳ね上がり部が、押出後端側のものと比較して大きくなるのである。本発明に係る帯電ロールの製造方法に従えば、柔軟性基層(16)における押出先端側の端部においても、跳ね上がり部の発生を効果的抑制することが出来、また、その軸直角方向外側端部が適度なR形状を呈するものとなる。
【0039】
また、そのようにして作製された帯電ロール14の表面(柔軟性基層16の外周面)上には、更に必要に応じて、保護層が形成される。この保護層は、ロール表面にトナー等が付着、堆積等することを抑制するために設けられるものであり、例えば、フッ素変性アクリレート樹脂等のフッ素系樹脂を含む樹脂組成物材料や、N−メトキシメチル化ナイロン等のナイロン系材料等に、カーボンブラックや金属酸化物等の導電剤が配合されて、その体積抵抗率が、一般に1×105 〜1×1013Ω・cm程度となるように形成される。なお、このような保護層の作製は、例えばディッピング等の公知のコーティング手法に従って行なわれ、その厚さは、導電性ロールの大きさ(直径、長さ)に応じて適宜に設定されることとなるが、通常、1〜20μm程度とされる。
【0040】
さらに、柔軟性基層16と上記保護層との間に、帯電ロール全体の電気抵抗を制御して、耐電圧性(耐リーク性)を高めることを目的とする抵抗調整層や、柔軟性基層16上にその他の各種の層を、1層或いはそれ以上、形成することも可能である。
【0041】
以上のようにして得られた帯電ロール14は、その柔軟性基層16の両端における軸直角方向外側端部がR形状を呈するものであることから、感光体(ドラム)等の像担持体との接触性に優れ、画像異常の発生も有利に防止することが可能ならしめられるのである。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0043】
先ず、エピクロルヒドリンゴム(エピクロルヒドリン−エチレンオキシド−アリルグリシジルエーテル共重合体、ダイソー株式会社製、エチレンオキシド含有量:56mol%):80重量部、固体ニトリルゴム(固体NBR、JSR株式会社製、商品名:JSR N220S ):20重量部、液状ニトリルゴム(液状NBR、JSR株式会社製、商品名:JSR N280):5重量部、湿式シリカ(東ソーシリカ株式会社製、商品名:ニプシールNA):30重量部、炭酸カルシウム(白石カルシウム株式会社製、商品名:白艶華A):50重量部、加硫助剤A(酸化亜鉛、三井金属工業株式会社製):5重量部、加硫助剤B(ハイドロタルサイト、協和化学株式会社製、商品名:DHT4A ):5重量部、加工助剤(滑剤)たるステアリン酸(エスアンドエスジャパン社製):0.5重量部、導電剤たる4級アンモニウム塩(トリメチルオクタデシルアンモニウムパークロレート):2重量部、加硫促進剤A(ジベンゾチアジルジスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、商品名:ノクセラーDM-P):1重量部、加硫促進剤B(ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド、大内新興化学工業株式会社製、商品名:ノクセラーTRA ):1重量部、及び、加硫剤たる硫黄(鶴見化学工業株式会社製):0.5重量部を、それぞれ配合して、未加硫ゴム組成物を調製した。
【0044】
先ず、得られた未加硫ゴム組成物を押出成形材料として、クロスヘッド押出装置を用いて、本発明に係る製造方法に従い、芯金(直径:8mm)の外周面上に柔軟性基層(厚さ:1.5mm)が一体的に形成されてなる帯電ロールを作製した。
【0045】
かかる作製に際しては、芯金として、予め、その外周面上における両端から距離:A[mm]以内にある部位を除く部位に、所定の導電性接着剤を用いて、接着層を設けたものを用いた。また、加硫前のベース層を把持する第二のチャック部材を、その軸方向内側端部が芯金の端部から軸方向内方に距離:B[mm]離れた位置となるように、ベース層の両端部上に配置した後、ベース層を押圧せしめた。更に、加硫後のベース層のうち、芯金の外周面上におけるそれぞれの端部からの距離:C[mm]以内の部位に存在するものを、除去した。それらA、B及びCとして、下記表1に示した各数値を採用して、7種類の帯電ロールを得た。
【0046】
更に、得られた各帯電ロールの柔軟性基層表面上に所定の表層形成用材料を塗布して、表層を形成せしめて、試験用帯電ロール(本発明例1〜7)とした。
【0047】
その一方、未加硫ゴム組成物を押出成形材料として用いて、従来の製造方法に従って、先ず、上記した表層形成前の帯電ロールと同サイズの帯電ロール(比較例)を作製した。具体的には、芯金の外周面上における両端からそれぞれ14[mm]以内にある部位を除く部位に、所定の導電性接着剤を用いて接着層を形成し、かかる接着層が設けられた芯金上に、クロスヘッド押出装置を用いて、未加硫ゴム組成物を押出成形することにより、少なくとも芯金上の接着層を覆うベース層を形成した。かかる押出成形の後、ベース層を加硫せしめ、それにより得られた加硫後のベース層のうち、芯金の外周面上におけるそれぞれの端部からの距離が13mm以下(C=13[mm])である部位に存在するものを除去して、柔軟性基層とした。得られた帯電ロールの柔軟性基層表面上に、所定の表層形成用材料を塗布し、表層を形成せしめて、試験用帯電ロール(比較例)とした。
【0048】
一方、直径:30[mm]の感光ドラム(市販品)を複数、準備し、その両端部の凹み量(真直度)を、真円度測定器(株式会社東京精密製、商品名:ロンコム60A )を用いて測定した。
【0049】
測定に際しては、先ず、感光ドラムと試験用帯電ロールとを、後述する通電耐久試験の際の位置関係と同様となるように当接せしめ、その状態における、感光ドラム外周面上の試験用帯電ロール両端部との接触位置を、基準位置と定め、それぞれの基準位置から軸方向内方側に存在し基準位置からの距離が8.5[mm]以内である感光ドラム表面上の部位、及び、基準位置から軸方向外方側に存在し基準位置からの距離が1.5[mm]以内である感光ドラム表面上の部位を、測定部位とした。また、かかる測定部位の外側端部(基準位置から軸方向外方側に存在し、基準位置からの距離が1.5[mm]である部位)における測定値を基準として(基準測定値)、かかる基準測定値と、測定部位内での測定により得られた最小測定値との差を、感光ドラムの凹み量(真直度)とした。後述する通電耐久試験においてそれぞれの試験用帯電ロールと組み合わせて用いる感光ドラムの凹み量(真直度)を、「耐久前」として下記表1に示す。
【0050】
なお、感光ドラムの凹み量(真直度)の絶対値が大きいほど、感光ドラム表面が凹んでいることを意味することとなる。また、下記表1における「押出先端(後端)部」とは、感光ドラム表面上の2つの測定部位のうち、後述する通電耐久試験の際に、試験用帯電ロールの柔軟性基層(加硫後のベース層)における一の端部であって、ベース層を押出成形した際の押出先端(後端)側の端部と接触する(した)部位を、意味するものである。
【0051】
かかる測定の後、試験用帯電ロールを、15℃×10%RHの環境下において、感光ドラムに対して軸平行の状態で接触せしめ、そして、試験用帯電ロールの両端の芯金部分にそれぞれ500[gf]の荷重をかけて、感光ドラムに対して押しつけた状態において、その感光ドラムを30rpmで回転させながら(試験用帯電ロールは連れ回りする)、−700[V]のDC電圧に、ピーク間電圧(Vp−p):2500[V]、周波数:3[kHz]のAC電圧が重畳された帯電バイアスを、4時間、印加させることにより、通電耐久試験を行なった。
【0052】
かかる通電耐久試験終了後、感光体ドラム両端部の凹み量(真直度)を、上述した手法と同様の手法に従い、同様の測定部位について測定した。その結果を、「耐久後」として下記表1に併せて示す。
【0053】
【表1】

【0054】
かかる表1の結果からも明らかなように、本発明に係る製造方法に従って製造された帯電ロール(本発明例1〜7)にあっては、通電耐久試験の前後における感光ドラム凹み量にほとんど差がないことから、それら各帯電ロールの柔軟性基層は、両端において跳ね上がり部が生じておらず、適度なR形状を呈する両端部を有しており、感光ドラムとの接触性に優れていることが認められたのである。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に従う帯電ロールの製造方法の、前半の工程を示す工程説明図であって、(a)、(b)及び(c)は、それぞれ各工程における一形態を示す説明図である。
【図2】本発明に従う帯電ロールの製造方法における、接着層、第二のチャック部材及び正寸カット位置の位置関係を示す部分拡大説明図である。
【図3】本発明に従う帯電ロールの製造方法の、後半の工程を示す工程説明図であって、(a)、(b)、(c)及び(d)は、それぞれ、その工程における一形態を示す説明図である。
【符号の説明】
【0056】
10 芯金 12 接着層
14 帯電ロール 16 柔軟性基層
18 ベース層 20 第一のチャック部材
22a、b 第二のチャック部材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定長さの軸体からなる芯金と、かかる芯金の外周面上に一体的に形成されてなる柔軟性基層とを有する帯電ロールの製造方法にして、
前記芯金の外周面上における、両端からそれぞれ所定距離内にある部位を除く部位に、接着層を設ける工程と、
未加硫ゴム組成物を用いて、該芯金上の該接着層を少なくとも覆うベース層を押出成形によって形成する工程と、
該芯金を第一のチャック部材にて挟持すると共に、第二のチャック部材にて、該ベース層の両端部における前記接着層が直下に存在しない部位を把持し、かかる状態にて、該第二のチャック部材を、相対的に回転させつつ該芯金の軸方向外方に向かって引っ張ることにより、該ベース層の両端部の一部を除去する工程と、
両端部の一部が除去された該ベース層を加硫する工程と、
該芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、その両端部の一部を除去することにより、柔軟性基層とする工程とを、
含むことを特徴とする帯電ロールの製造方法。
【請求項2】
前記接着層を、前記芯金の外周面上における、両端からそれぞれ距離:A[mm]以内にある部位を除く部位に設け、また、前記第二のチャック部材を、その軸方向内側端部が該芯金の端部から軸方向内方に距離:B[mm]離れたところに位置するように、前記ベース層の両端部上に配置せしめ、更に、該芯金の外周面上に一体的に形成された加硫後のベース層のうち、該芯金の外周面上におけるそれぞれの端部から距離:C[mm]以内の部位に存在するものを除去することにより、柔軟性基層とし、前記A、B及びCが下記条件式(1)〜(3)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の帯電ロールの製造方法。
A>C≧0・・・(1)
C≧B・・・(2)
2(A−C)≧(C−B)≧0・・・(3)
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の製造方法に従って製造された帯電ロール。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2008−262067(P2008−262067A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−105397(P2007−105397)
【出願日】平成19年4月13日(2007.4.13)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】