説明

帯電防止積層シート

【課題】帯電防止性能の即効性および安定性に優れ、合成高分子および天然高分子の何れに対しても、安定した接着性と剥離性を有する積層シートを提供する。
【解決手段】天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなるシート状に加工された支持体と、支持体の片面に形成された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子からなる熱可塑性合成高分子層とが積層され、積層シートが、分子量が1000未満である低分子型帯電防止剤として、少なくとも飽和脂肪酸モノグリセリド、アルキルジエタノールアミンおよびアルコールを含有し、さらに分子量が1000以上である高分子型帯電防止剤として、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットとを持つブロック共重合体が、支持体もしくは熱可塑性合成高分子層もしくはその両方の層に含有されていることを特徴とする積層シートを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然高分子や合成高分子に接着することによって、包装材や保護材として使用される積層シートに関するものである。さらに詳しくは、チップ型の電子部品の搬送時などに該電子部品等を包装する包装材用として使用されたり、光起電力を利用して電力を出力する装置や液晶ディスプレイなどの表示体の表面もしくは裏面を保護する保護材用として使用されたりする積層シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
チップ型の電子部品は、天然高分子や合成高分子で作られたテープ状の包装基材上に作製された凹部に挿入され、その上からテープ状に加工した積層シートを熱接着して封入し、リール状に巻き取られ搬送される。そして、回路基板などにチップ電子部品を取り付ける工程において、積層シートを剥離し、チップ型の電子部品をノズルに吸着して、基板上に実装するシステムが主流となっている。また、光起電力を利用して電力を出力する装置は、電力を出力する部品を合成高分子で封止し、その上側もしくは下側もしくは両側に積層シートを熱接着することによって、該装置の耐候性を向上させる手法が用いられている。加えて、液晶ディスプレイなどの表示体の表面保護層として、帯電防止積層シートが使用されている。そのため、積層シートには支持体に積層された熱可塑性の合成高分子が、加熱もしくは加圧もしくはその両方によって、天然高分子もしくは合成高分子の界面に対して安定した接着性を発現することが要求されている。
【0003】
一般的に合成高分子を用いた材料の多くは絶縁体であり、2種類以上の物体が接触、摩擦、剥離という現象の少なくとも一つを少なくとも一回経験したことで帯電による電荷(静電気)が発生する。積層シートがチップ型電子部品の搬送用包装材として使用される場合には、包装基材から積層シートを剥離する際に発生した静電気によって、該電子部品の破壊や凹部内での該電子部品の回転、凹部からの該電子部品の飛び出しが発生し、製造工程の歩留まりを低下させるなどの問題が生じている。
【0004】
この問題を解決するために、特許文献1および特許文献2では、積層シートがチップ型電子部品の搬送用包装材として、支持体に積層された熱可塑性の合成高分子に低分子型帯電防止剤もしくは高分子型帯電防止剤を含む積層シートが提案されているが、低分子型帯電防止剤のみを使用して帯電防止機能を付与した積層シートは、低分子型帯電防止剤に含まれる化合物がブリードアウト現象により積層シートの表面に移動することで帯電防止効果を発現するため、表面に移動した化合物の多少により、天然高分子や合成高分子に対する接着力がばらつくという問題があった。また、低分子型帯電防止剤を含む合成高分子の結晶性および積層シート表面近傍における水分子の濃度によって、帯電防止成分の積層シート表面における濃度分布や速度がばらつくため、帯電防止性能や即効性が安定しないという問題があった。この問題を解決するためには、低分子型帯電防止剤の濃度を高くする手法が用いられている。しかしながら、帯電防止剤の濃度を高くすると過剰な帯電防止成分の積層シート表面への移動により、積層シートが白化して透明性が低下するという現象が起こる。その結果、光起電力を利用して電力を出力する装置や液晶ディスプレイなどの表示体の表面もしくは裏面を保護する保護材用として使用されたりする場合に、表示能力の低下や電力を出力する効率が低下するだけでなく、小型化したチップ型電子部品を包装された状態で光学顕微鏡などを用いて、該部品のチップ欠けや印字の状態を検査する工程を阻害するという問題もあった。
【0005】
一方、高分子型帯電防止剤のみを使用して帯電防止機能を付与した積層シートは、植物繊維やその他の繊維を膠着させて製造したものに接着した場合、剥離した際に植物繊維やその他の繊維を剥離もしくは脱落させるという現象が起きる。そのため、チップ型電子部品の包装材として、紙製の包装基材に接着して使用する際に、基板にチップ型の電子部品を取り付ける工程での歩留まりを低下させることが懸念される。また、高分子型帯電防止剤のみで高い帯電防止効果を得るためには、高分子型帯電防止剤を多量に添加する必要があり、経済的に不利になる問題もあった。
【0006】
帯電防止積層シートが光起電力を利用して電力を出力する装置や液晶ディスプレイなどの表示体の表面もしくは裏面を保護する保護材用として使用されたりする場合、該装置を電圧印加による破損から保護する為に起電部位の発電容量によって、部分放電電圧700V〜1000Vの耐性が必要である。この問題を解決するために、特許文献3では耐部分放電電圧を向上させる方法として電気絶縁性を有するフィルムや発泡層を含む提案がなされているが、高分子フィルムの耐部分放電電圧はフィルムの厚さに依存することによって、フィルムの厚さを厚くする必要があるため、断裁時の作業性悪化と共に材料費が高くなるという問題がある。
【0007】
なお、チップ型の電子部品の搬送時などに該電子部品等を包装する包装材用として使用されたり、光起電力を利用して電力を出力する装置や液晶ディスプレイなどの表示体の表面もしくは裏面を保護する保護材用として使用されたりする積層シートでは、帯電防止性を有する面の表面抵抗率は1013Ω/□未満であることが好ましく、特に部分放電電圧の向上効果を得る為には、好ましくは、1×107Ω/□から1×1012Ω/□、より好ましくは、1×107Ω/□以上1×1010Ω/□以下であることが知られている。また、帯電防止層非形成面の表面抵抗値は、2×1013以上であることが好ましく、より好ましくは、1×1013以上であり、帯電防止層非形成面の表面抵抗値が、2×1013未満の場合は、部分放電電圧向上効果は低減する場合があることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−191991号公報
【特許文献2】特許第4198163号公報
【特許文献3】特開2006−253264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、合成高分子と天然高分子の両方に安定した接着性および安定した剥離性を長期にわたり維持するとともに、即効性のある帯電防止性能を持ち、帯電防止効果と共に、例えば、植物繊維やその他の繊維を膠着させて製造したものに接着する場合に剥離時に接着した基材表面から植物繊維やその他の繊維を剥離もしくは脱落させることなく剥離できる特性、透明性を長期にわたり維持することができる積層シートを提供することにある。ひいては、包装材としてチップ型電子部品を基板に取り付ける工程の歩留まりを向上し、保護材として光起電力を利用して電力を出力する装置の発電能力や耐候性を維持し、液晶ディスプレイなどの表示体の静電気による集塵現象を防止する特性を維持することが期待できる積層シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討した結果、シート状に加工された天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類を支持体とし、その支持体の片面に少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子が積層されている積層シートであって、分子量が1000未満である低分子型帯電防止剤として、少なくとも飽和脂肪酸モノグリセリド、アルキルジエタノールアミンおよびアルコールが含まれ、さらに分子量が1000以上である高分子型帯電防止剤として、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットを持つブロック共重合体を支持体もしくは支持体に積層された熱可塑性の合成高分子もしくはその両方に含有することで、合成高分子と天然高分子の両方に対して安定した接着性および安定した剥離性を長期にわたり維持するとともに、即効性のある帯電防止性能を持ち、帯電防止効果と、特に植物繊維やその他の繊維に膠着させて製造したものに接着する場合に剥離時に接着した基材表面から植物繊維やその他の繊維を剥離もしくは脱落させることなく剥離できる特性を長期にわたり維持することの何れをも充足できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明にかかる積層シートは、天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなるシート状に加工された支持体(I)と、該支持体(I)の片面に形成された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子からなる熱可塑性合成高分子層(II)とが積層されている積層シートであって、該積層シートが、分子量が1000未満である低分子型帯電防止剤(A)として、少なくとも飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)、アルキルジエタノールアミン(a2)およびアルコール(a3)を含有し、さらに分子量が1000以上である高分子型帯電防止剤(B)として、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットとを持つブロック共重合体(b)が、該支持体(I)もしくは該熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層に含有されていることを特徴とする。
好ましくは、前記支持体(I)もしくは前記熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層が、熱可塑性合成高分子層(II)中の熱可塑性の高分子100重量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)を0.1重量部以上0.5重量部以下、アルキルジエタノールアミン(a2)を0.05重量部以上0.3重量部以下、アルコール(a3)を0.05重量部以上0.3重量部以下、及びポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットを持つブロック共重合体(b)を0.1重量部以上30重量部以下含有する。
また好ましくは、低分子型帯電防止剤(A)および/又は高分子型帯電防止剤(B)が含まれる層の表面抵抗率が1.0×1012Ω/□未満である。
さらに好ましくは、前記支持体(I)上に形成された前記熱可塑性合成高分子層(II)を、支持体(I)側からの加熱もしくは加圧もしくはその両方によって、天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなる成形体に接着した場合の、該成形体から熱可塑性合成高分子層(II)を剥離した際に生じる剥離帯電圧の絶対値が500V以下である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の積層シートによれば、合成高分子と天然高分子のいずれに対しても安定した接着性および安定した剥離性を長期にわたり維持するとともに、即効性及び安定性のある帯電防止性能を持ち、帯電防止効果と、特に植物繊維やその他の繊維に膠着させて製造したものに接着する場合に剥離時に接着した基材表面から植物繊維やその他の繊維を剥離もしくは脱落させることなく剥離できる特性を長期にわたり維持することの何れをも充足できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の積層シートは、天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなるシート状に加工された支持体(I)と、該支持体(I)の片面に形成された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子からなる熱可塑性合成高分子層(II)とが積層されている積層シートであって、該積層シートが、分子量が1000未満である低分子型帯電防止剤(A)として、少なくとも飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)、アルキルジエタノールアミン(a2)およびアルコール(a3)を含有し、さらに分子量が1000以上である高分子型帯電防止剤(B)として、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットとを持つブロック共重合体(b)が、該支持体(I)もしくは該熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層に含有されている。
【0015】
<支持体(I)>
本発明の積層シートにおける支持体(I)としては、厚さ自己支持性を有する天然高分子や合成高分子が好適に使用することができ、例えば、和紙、薄葉紙、クレープ紙、混抄紙、複合紙などの紙類;不織布;布;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンテレフタラート等のポリエステルフィルム、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、芳香族ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリアミドイミド等のプラスチックフィルム又はシート;銅、アルミニウム、ニッケル、金、銀などの金属で構成された箔又は薄板;これらの積層体などが挙げられる。なかでも、ポリエステルフィルムが好ましい。
【0016】
支持体の厚さは例えば10〜500μmであり、積層する熱可塑性の合成高分子の種類、接着する天然高分子や合成高分子の種類および積層シートの用途によって、選択することができる。
【0017】
<熱可塑性合成高分子層(II)>
本発明の積層シートにおける支持体(I)の片面に形成された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子からなる熱可塑性合成高分子層(II)を構成する熱可塑性の合成高分子の主剤としては、公知の熱可塑性の合成高分子が使用でき、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン共重合体などが挙げられる。なかでも、エチレン共重合体が好ましい。
【0018】
熱可塑性合成高分子層(II)の厚さは、例えば10〜500μmであり、支持体の種類、接着する天然高分子や合成高分子の種類、積層シートの用途によって選択することができる。
【0019】
<低分子型帯電防止剤(A)>
本発明の積層シートに含有される低分子型帯電防止剤(A)は、分子量が1000未満であり、基剤として飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)を含み、膜形成剤としてアルキルジエタノールアミン(a2)を含み、ブリード促進剤としてアルコール(a3)を少なくとも含む。低分子型帯電防止剤(A)は、好ましくは、支持体(I)もしくは熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層に含有されている。低分子型帯電防止剤(A)の分子量は、200以上1000未満が好ましい。また、アルコール(a3)は、直鎖アルキルアルコールであることが好ましい。前記化合物(a1)の飽和脂肪酸部位の炭素数、(a2)、(a3)のアルキル部位の炭素数は、同一または異なって、15以上(例えば15〜22)であることが好ましく、さらに好ましくは炭素数18である。飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)としては、ステアリン酸モノグリセリドが特に好ましく、アルキルジエタノールアミン(a2)としては、ステアリルジエタノールアミンが特に好ましく、アルコール(a3)としては、ステアリルアルコールが特に好ましい。
【0020】
飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)、アルキルジエタノールアミン(a2)、アルコール(a3)の含有量は、熱可塑性合成高分子層(II)を形成する熱可塑性の高分子100重量部に対して、それぞれ、0.1重量部以上0.5重量部以下、0.05重量部以上0.3重量部以下、0.05重量部以上0.3重量部以下が好ましい。さらに、(a1)〜(a3)の合計量が、熱可塑性合成高分子層(II)を形成する熱可塑性の高分子100重量部に対して、0.2重量部以上1.0重量部未満であることが好ましい。
【0021】
また、前記低分子型帯電防止剤(A)に加えて、ブリードアウト現象によって、絶縁体の界面に移動し、導電性の膜を形成することによって、静電気などで発生した電荷を漏洩させる公知の両親媒性分子や、イオン伝導機構によって帯電防止効果を発現する公知のイオン液体を使用することができる。例えば、脂肪酸ナトリウム塩、脂肪酸カリウム塩、脂肪酸モノエタノールアミン塩、脂肪酸トリエタノールアミン塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、α−スルフォ脂肪酸エステル、α−オレフィンスルホン酸塩、モノアルキルリン酸エステル塩、アルカンスルホン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルジメチルベンジルアンモニウム塩、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルカルボキシベタイン、アルキルアミンオキシド、アルキルグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸ジアルカノールアミド、イミダゾリウム塩、ピリジニウム塩、ピラゾリウム塩などが挙げられる。
【0022】
<高分子型帯電防止剤(B)>
本発明の積層シートにおいて、支持体(I)もしくは該熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層に含有される高分子型帯電防止剤(B)は、分子量が1000以上であり、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットとを持つブロック共重合体(b)を含有している。高分子型帯電防止剤(B)の分子量は、1000以上2000以下であることが好ましい。前記ブロック共重合体(b)は、1mol当たり0.1mol以上0.3mol以下のポリエチレングリコールユニットを含み、1mol当たり0.1mol以上0.3mol以下のポリテトラエチレングリコールユニットを含むことが好ましい。
【0023】
ポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットを持つブロック共重合体(b)の含有量は、熱可塑性合成高分子層(II)を形成する熱可塑性の高分子100重量部に対して、0.1重量部以上30重量部以下が好ましく、さらに好ましくは10重量部以上30重量部以下、特に好ましくは20重量部超30重量部以下である。
【0024】
また、前記高分子型帯電防止剤に加えて、導電性の化学構造を持つことで混合された絶縁体中で導電性の機能を持つ層状もしくは筋状もしくは網目状の構造を形成することによって、静電気などで発生した電荷を漏洩させる機能を持つ公知の高分子を使用することができる。例えば、ポリスチレンスルホン酸、ポリエーテルアミドイミド、ポリエチレングリコールメタクリレート共重合体、ポリアクリレート四級アンモニウム塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、アイオノマーなどが挙げられる。
【0025】
<接着力制御樹脂>
本発明の積層シートでは、熱可塑性の高分子層を構成する熱可塑性高分子に接着力制御樹脂を加えてもよい。接着力制御樹脂を添加することにより、熱シール作業性が向上し、既設の熱シール機によって良好且つ安定した接着性が得られる。接着力制御樹脂としては、脂肪族石油樹脂、芳香族石油樹脂、ロジン系樹脂、テルペン樹脂、スチレン樹脂、クマロン・インデン樹脂などの炭化水素樹脂が挙げられる。なかでも、接着性の経時変動が少なく、酸化に対する安定性が高いことから、ロジン系樹脂などが好ましい。
【0026】
接着力制御樹脂は、支持体に積層された熱可塑性の合成高分子100重量部に対して、0.1重量部以上、50重量部以下、好ましくは1重量部以上、30重量部以下、さらに好ましくは3重量部以上、15重量部以下含むことで接着力を制御することができる。接着力制御樹脂は単独で又は2種以上混合して使用できる。
【0027】
<他の成分>
本発明の積層シートには、支持体もしくは支持体上に積層された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子もしくはその両方に、公知の紫外線吸収剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、可塑剤、着色剤、発泡剤、難燃剤などを配合することができる。
【0028】
<中間層>
本発明の積層シートは、中間層を有していてもよい。中間層は、例えばオレフィン系樹脂で構成できる。このオレフィン系樹脂として、例えば、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体などが例示できる。中間層としては、ポリエチレンが好ましく使用できる。中間層の厚みは、積層シートの取扱性などが損なわれない範囲で適当に選択でき、例えば0〜40μm程度である。なお、中間層は必ずしも設ける必要はない。
【0029】
<低分子型帯電防止剤(A)および/又は高分子型帯電防止剤(B)が含まれる層の表面抵抗率>
本発明の積層シートにおける低分子型帯電防止剤(A)および/又は高分子型帯電防止剤(B)が含まれる層(帯電防止性を有する面)の表面抵抗率は、1×1012Ω/□未満(例えば、1×107Ω/□以上1×1012Ω/□未満)であることが好ましい。より好ましくは、1×107Ω/□以上1×1010Ω/□以下である。表面抵抗率が1×1012Ω/□以上であると、チップ型の電子部品の搬送時などに該電子部品等を包装する包装材用として、また、光起電力を利用して電力を出力する装置や液晶ディスプレイなどの表示体の表面もしくは裏面を保護する保護材用として帯電防止効果が不十分である。特に表面抵抗率が1×107Ω/□以上1×1012Ω/□以下であると、部分放電電圧の向上効果を得ることができる。
【0030】
好ましくは、上記表面抵抗率は、積層シートの成形直後のみならず、積層シート成形後4時間後、成形後24時間経過後および40℃設定の乾燥機内で1ヶ月保存後においても、維持される。好ましくは、積層シート成形後4時間後、24時間後および40℃設定の乾燥機内で1ヶ月保存後の積層シートの表面抵抗率の、積層シートの成形直後の表面抵抗率からの変化は、±5%以内であり、1ヶ月保存後でも、積層シートの表面抵抗率はほとんど変化しない(積層シート成形直後に対し、例えば、変化率5%以下)。
【0031】
また、帯電防止層非形成面(低分子型帯電防止剤(A)および高分子型帯電防止剤(B)等の帯電防止剤が含まれていない層)の表面抵抗値は、2×1013Ω/□以上であることが好ましく、より好ましくは、1×1013Ω/□以上である。帯電防止層非形成面の表面抵抗値が、2×1013Ω/□未満の場合は、部分放電電圧向上効果が低減する場合がある。
【0032】
<剥離帯電圧>
本発明の積層シートでは、支持体(I)上に形成された前記熱可塑性合成高分子層(II)を、支持体(I)側からの加熱もしくは加圧もしくはその両方によって、天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなる成形体に接着した場合、該成形体から熱可塑性合成高分子層(II)を剥離した際に生じる剥離帯電圧の絶対値が500V以下であることが好ましく、より好ましくは200V未満、さらに好ましくは40V未満である。
【0033】
成形体を構成する天然高分子もしくは合成高分子としては、支持体として前記例示のものが挙げられる。天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなる成形体としては、例えば、植物繊維やその他の繊維を膠着させて製造したものが挙げられ、紙類が好ましく、チップ型電子部品包装基材用厚紙が特に好ましい。
【0034】
具体的には、剥離帯電圧の絶対値は、積層シートをテープ状に加工し、同じくテープ状に加工されたチップ型電子部品包装基材用厚紙をテーピングマシンによって、圧着温度170℃の条件で接着して試験片を作製し、この試験片からテープ状に加工した積層シートを室温23℃、相対湿度50%の室内で、剥離試験機を用いて、5000mm/minの速度で100mm剥離し、剥離した部分の静電気発生量を、表面電位測定器を用いて、表面電位測定用プローブの高さを試験片から約5mmとして測定できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0036】
(実施例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井デュポン・ポリケミカル(株)製:商品名「エバフレックス EV150」)100重量部に対して、低分子型帯電防止剤としてステアリン酸モノグリセリド0.3重量部、ステアリルジエタノールアミン0.15重量部、ステアリルアルコール0.1重量部、高分子型帯電防止剤としてポリプロピレン・ポリエチレングリコールブロック共重合体(三洋化成工業(株)製:商品名「ペレスタットLA120」)25重量部、ロジン系樹脂(荒川化学工業(株)製:商品名「アルコンP−125」)10重量部を2軸混練機にて、溶融混合した。支持体として、厚み25μmのポリエステルフィルム(PETフィルム)を用い、その上に押出ラミネート加工により、ポリエチレン((株)プライムポリマー モアテック0248Z)からなる厚さ15μmの中間層を設け、さらにこの中間層の上に上記溶融混合物を同様の加工により、20μmの層として積層することにより、積層シートを得た。
【0037】
(比較例1)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポンポリケミカル(株)製:商品名「エバフレックス EV150」)100重量部に対して、高分子型帯電防止剤としてポリエーテルエステルアミド(三洋化成工業(株)製:商品名「ペレスタット230」)25重量部:ロジン系樹脂(荒川化学工業(株)製:商品名「アルコンP−125」)10重量部を2軸混練機にて、溶融混合した。支持体として、厚み25μmのポリエステルフィルムを用い、その上に押出ラミネート加工により、ポリエチレン((株)プライムポリマー モアテック0248Z)からなる厚さ15μmからなる中間層を設け、さらにこの中間層の上に上記溶融混合物を同様の加工により、20μmの層として積層することにより、積層シートを得た。
【0038】
(比較例2)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポンポリケミカル(株)製:商品名「エバフレックス EV150」)100重量部に対して、低分子型帯電防止剤としてステアリルジエタノールアミン0.8重量部:ロジン系樹脂(荒川化学工業(株)製:商品名「アルコンP−125」)10重量部を2軸混練機にて、溶融混合した。支持体として、厚み25μmのポリエステルフィルムを用い、その上に押出ラミネート加工により、ポリエチレン((株)プライムポリマー モアテック0248Z)からなる厚さ15μmからなる中間層を設け、さらにこの中間層の上に上記溶融混合物を同様の加工により、20μmの層として積層することにより、積層シートを得た。
【0039】
(比較例3)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポンポリケミカル(株)製:商品名「CMPS V−70」)100重量部に対して、高分子型帯電防止剤としてイオン性液体(三光化成工業(株)製:商品名「サンコノールTBX−310」)20重量部を2軸混練機にて、溶融混合した。支持体として、厚み25μmのポリエステルフィルムを用い、その上に押出ラミネート加工により、ポリエチレン((株)プライムポリマー モアテック0248Z)からなる厚さ15μmからなる中間層を設け、さらにこの中間層の上に上記溶融混合物を同様の加工により、20μmの層として積層することにより、積層シートを得た。
【0040】
(比較例4)
エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)(三井・デュポンポリケミカル(株)製:商品名「エバフレックス EV150」)100重量部に対して、低分子型帯電防止剤としてステアリルジエタノールアミン10重量部:ロジン系樹脂(荒川化学工業(株)製:商品名「アルコンP−125」)10重量部を2軸混練機にて、溶融混合した。支持体として、厚み25μmのポリエステルフィルムを用い、その上に押出ラミネート加工により、ポリエチレン((株)プライムポリマー モアテック0248Z)からなる厚さ15μmからなる中間層を設け、さらにこの中間層の上に上記溶融混合物を同様の加工により、20μmの層として積層することにより、積層シートを得た。
【0041】
(評価方法)
実施例及び比較例で得られた各積層シートに対して、下記の試験を行った。
【0042】
〔150℃接着力〕
チップ型電子部品包装基材用厚紙(北越製紙(株)製:商品名「HOCTO60」)およびEVAフィルムの表面に、幅5.25mm、長さ250mmの小片にした各積層シートをヒートシール試験機(熊谷理機工業(株)製:商品名「ヒートシール試験機」)を用いて150℃の温度で加熱および0.3MPaの力で加圧することによって接着し、接着直後および室温40℃、相対湿度92%の室内において1ヶ月間保存した後の接着力を測定した。尚、接着力の測定は、剥離試験機を用いて、剥離速度300mm/minおよび剥離角度180°の条件で行った。実施例1および比較例1、2、3、4で得られたシートについての結果を表1に示す。
【0043】
〔180℃接着力〕
チップ型電子部品包装基材用厚紙(北越製紙(株)製:商品名「HOCTO60」)およびEVAフィルムの表面に幅5.25mm、長さ250mmの小片にした各積層シートをヒートシール試験機(熊谷理機工業(株)製:商品名「ヒートシール試験機」)を用いて180℃の温度で加熱および0.3MPaの力で加圧することによって接着し、接着直後および室温40℃、相対湿度92%の室内において1ヶ月間保存した後の接着力を測定した。尚、接着力の測定は、剥離試験機を用いて、剥離速度300mm/minおよび剥離角度180°の条件で行った。実施例1および比較例1、2、3、4で得られたシートについての結果を表1に示す。
【0044】
〔剥離性〕
チップ型電子部品包装基材用厚紙(北越製紙(株)製:商品名「HOCTO60」)の表面に、幅5.25mm、長さ250mmの小片にした各積層シートをヒートシール試験機(熊谷理機工業(株)製:商品名「ヒートシール試験機」)を用いて180℃の温度で加熱および0.3MPaの力で加圧することによって接着した。この試験片を室温25℃、相対湿度65%の室内で24時間以上保存した後に、引き剥がした際に積層シートの剥離面に付着した紙繊維の状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
◎:紙繊維の付着は確認されなかった。
○:0.1mm以上、0.5mm未満の紙繊維の付着が確認された。
△:0.5mm以上、1mm未満の紙繊維の付着が確認された。
×:1mm以上の紙繊維の付着が確認された。
実施例1および比較例1、2、3、4で得られたシートについての結果を表1に示す。
【0045】
〔表面抵抗率〕
各積層シートにつき、成形直後、成形後4時間後、成形後24時間経過後および40℃設定の乾燥機内で1ヶ月保存後の帯電防止剤を含む層の表面抵抗率を、高抵抗率計((株)三菱化学アナリテック製:商品名「ハイレスターUP」で測定した。
実施例1および比較例1、2、3、4で得られたシートについての結果を表2に示す。なお、表面抵抗率は以下の基準で評価した。
成形直後、および40℃設定の乾燥機内で1ヶ月保存後の帯電防止剤を含む層の表面抵抗率が、共に、
◎:1×1010Ω/□以下
○:1×1010Ω/□超1×1012Ω/□未満
×:1×1012Ω/□以上
【0046】
〔剥離帯電圧〕
各積層シートを幅5.25mm、長さ250mmのテープ状に加工し、同じく幅5.25mm、長さ250mmのテープ状に加工されたチップ型電子部品包装基材用厚紙(北越製紙(株)製:商品名「HOCTO40」、北越製紙(株)製:商品名「HOCTO60」、東京製紙(株)製:商品名「TK−43」)を、テーピングマシン((株)東京ウェルズ製:商品名「TWA−6000」、(株)東京ウェルズ製:商品名「TWA−6600」)を用いて、圧着温度170℃の条件で接着して試験片を作製した。この試験片からテープ状に加工した積層シートを室温23℃、相対湿度50%の室内で、剥離試験機を用いて、5000mm/minの速度で100mm剥離し、剥離した部分の静電気発生量(剥離帯電圧(V))を、表面電位測定器(トレック・ジャパン(株)製:商品名「ELECTROSTATIC VOLTMETER」)を用いて測定した。表面電位測定用プローブの高さは、試験片から約5mmとした。実施例1および比較例2、3、4で得られたシートについての結果を表3に示す。なお、剥離帯電圧は以下の基準で評価した。
剥離帯電圧の測定値のうち、いずれか1つの絶対値が、
◎:50V以下
○:50V超100V未満
△:100V以上500V以下
×:500V超
【0047】
〔曇度〕
ヘイズメーター(日本電色工業社製:商品名「NDH2000」)を用いて、幅100mm、長さ100mmの小片にした成形直後と成形後室温にて1ヶ月間保存した後の各積層シートに対して、支持体に積層した熱可塑性の合成高分子側から光を照射して、試験片を通過する透過光のうち、前方散乱によって、入射光から0.044rad以上それた透過光の百分率を測定した。実施例1および比較例4で得られたシートについての結果を表4に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
【表4】

【符号の説明】
【0052】
1:支持体(I)
2:熱可塑性合成高分子層(II)
3:積層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなるシート状に加工された支持体(I)と、該支持体(I)の片面に形成された少なくとも1種類の熱可塑性の合成高分子からなる熱可塑性合成高分子層(II)とが積層されている積層シートであって、該積層シートが、分子量が1000未満である低分子型帯電防止剤(A)として、少なくとも飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)、アルキルジエタノールアミン(a2)およびアルコール(a3)を含有し、さらに分子量が1000以上である高分子型帯電防止剤(B)として、少なくともポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットとを持つブロック共重合体(b)が、該支持体(I)もしくは該熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層に含有されていることを特徴とする積層シート。
【請求項2】
前記支持体(I)もしくは前記熱可塑性合成高分子層(II)もしくはその両方の層が、熱可塑性合成高分子層(II)中の熱可塑性の高分子100重量部に対して、飽和脂肪酸モノグリセリド(a1)を0.1重量部以上0.5重量部以下、アルキルジエタノールアミン(a2)を0.05重量部以上0.3重量部以下、アルコール(a3)を0.05重量部以上0.3重量部以下、及びポリエチレングリコールユニットとポリプロピレンユニットを持つブロック共重合体(b)を0.1重量部以上30重量部以下含有する、請求項1記載の積層シート。
【請求項3】
低分子型帯電防止剤(A)および/又は高分子型帯電防止剤(B)が含まれる層の表面抵抗率が1.0×1012Ω/□未満である、請求項1又は2に記載の積層シート。
【請求項4】
前記支持体(I)上に形成された前記熱可塑性合成高分子層(II)を、支持体(I)側からの加熱もしくは加圧もしくはその両方によって、天然高分子もしくは合成高分子のうち少なくとも1種類の高分子からなる成形体に接着した場合の、該成形体から熱可塑性合成高分子層(II)を剥離した際に生じる剥離帯電圧の絶対値が500V以下である、請求項1〜3の何れかの項に記載の積層シート。

【図1】
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【公開番号】特開2011−173248(P2011−173248A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−36868(P2010−36868)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】