説明

帯電電極機構

【課題】溶融樹脂の流れが乱れたとしても、溶融樹脂に巻き込まれた放電電極が冷却ロールの表面を傷つけてしまうことがない帯電電極機構を提供すること。
【解決手段】放電電極13が、ダイ4から供給される溶融樹脂の供給方向を横切る幅方向にテンションを保って一対の保持体間にかけ渡され、この放電電極13からの放電で、ダイ4から供給された溶融樹脂5を帯電させて、この溶融樹脂5を冷却ロール4に帯電密着させる機構を前提とし、上記ダイ4から供給される溶融樹脂5の少なくとも幅wの範囲で光を出力する投光部と、投光部の光を検出する光センサ18とを備え、上記投光部から出力される光は、上記放電電極よりも溶融樹脂の供給方向下流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路Lを保ち、上記放電電極13が溶融樹脂5の供給方向下流側に振れて上記光の走行経路Lを遮断したとき、光センサ18がその遮断を検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂製の薄膜を形成する成膜工程で、ダイから供給された溶融樹脂を冷却ロールに帯電密着させるための帯電電極機構に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶融樹脂を回転する冷却ロール上に供給して、薄膜化する成膜工程において、溶融樹脂を帯電させ、冷却ロールに帯電密着させる成膜装置が知られている。
このような成膜装置では、ダイから供給された溶融樹脂に高電圧を印加した放電電極を近接させ、この放電電極と冷却ロール間での放電によって溶融樹脂を帯電させるものである。
上記放電電極としては、例えば、冷却ロール上に供給された溶融樹脂の幅方向に渡したワイヤー状の電極が使われている。
【0003】
上記ワイヤー状の放電電極は、細いものが用いられることが多く、溶融樹脂の幅方向にかけ渡す際に、大きなテンションをかけると切れてしまう。そのため、テンションを保って設けることが難しい。もし、ワイヤー状の放電電極に所定のテンションをかけることができなければ、ワイヤー状の放電電極が弛んだ状態で溶融樹脂に対向することになる。このように、放電電電極が弛んでいると、放電電極と冷却ロールとの間の距離が溶融樹脂の幅方向で不均一になり、溶融樹脂の幅方向での帯電が不均一になってしまう。結果として、溶融樹脂の幅方向の密着性が一定にならずに、均質な薄膜を形成できないという問題が発生する。
そこで、ある程度の大きさのテンションをかけても切れることがない太いワイヤーや帯状の放電電極を用いることが考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−174632号公報
【特許文献2】特開2007−015188号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように、大きなテンションをかけても切れにくい放電電極を用いた場合には、新たに、次のような問題が発生する。
例えば、溶融樹脂温度が不均一になったり、樹脂が気泡を内包していたり、装置全体が振動したり、供給圧力が変動したりなどが原因で、ダイから供給される溶融樹脂の流れが乱れて、放電電極が要求樹脂に巻き込まれてしまうことがある。このように放電電極が溶融樹脂に巻き込まれてしまった場合、細いワイヤー状の放電電極は直ちに切れてしまうが、切れにくい放電電極は溶融樹脂に引っ張られて冷却ロールの表面を傷つけてしまう。もともと、放電電極と冷却ロール表面とは数ミリメートルしか離れていないものが多く、樹脂によって少し引っ張られただけでも、放電電極が冷却ロールの表面に接触する。そして、回転している冷却ロールに接触した放電電極は冷却ロールの回転方向にわたって傷をつけることになる。
【0006】
一方、上記冷却ロールは熱溶融した樹脂を冷却するだけでなく、樹脂製薄膜の膜厚や表面性を均一に保つため、その表面性を厳密に管理された高価な部品である。そのため、冷却ロールを傷つけてしまうことは、製造される樹脂製薄膜の品質を落とすことになるうえ、高価な部品の交換が必要となり、大損害となる。
この発明の目的は、溶融樹脂の流れが乱れたとしても、溶融樹脂に巻き込まれた放電電極が冷却ロールの表面を傷つけてしまうことがない帯電電極機構を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1〜第6の発明は、放電電極が、ダイから供給される溶融樹脂の供給方向を横切る幅方向にテンションを保って一対の保持体間にかけ渡される構成にし、上記放電電極に高電圧を印加してこの放電電極からの放電で、ダイから供給された溶融樹脂を帯電させて、この溶融樹脂を冷却ロールに帯電密着させる帯電電極機構を前提とする。
【0008】
上記帯電電極機構を前提とし、第1の発明は、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する投光部と、投光部の光を検出する光センサとを備え、上記投光部から出力される光は、上記放電電極よりも溶融樹脂の供給方向下流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、上記放電電極が溶融樹脂の供給方向下流側に振れて上記光の走行経路を遮断したとき、光センサがその遮断を検出すること特徴とする。
【0009】
第2の発明は、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する投光部と、投光部の光を検出する光センサとを備え、上記投光部から出力される光は、上記放電電極よりも溶融樹脂の供給方向上流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、ダイから供給された溶融樹脂が上記光の走行経路を遮断したとき、光センサがその遮断を検出することを特徴とする。
なお、上記第1、第2の発明の「放電電極に沿った・・・」とは、光の走行経路が放電電極から大きく離れない位置を保って並んでいることである。
【0010】
第3の発明は、上記第1または2の発明を前提とし、上記一対の保持体とともに放電電極を、上記冷却ロールから離れる方向に退避させる退避機構と、上記光センサに接続した制御システムとを備え、この制御システムは、上記光センサが、上記光の走行経路が遮断されたことを検出したとき、上記退避機構を制御して放電電極を上記冷却ロールから離れる方向に退避させることを特徴とする。
【0011】
第4の発明は、上記第1〜第3の発明を前提とし、上記投光部から出力された光を、プリズムを介して上記走行経路に導く構成にしたことを特徴とする。
【0012】
第5の発明は、上記第1〜第4の発明を前提とし、上記走行経路を通過した光を、プリズムを介して上記光センサに導く構成にしたことを特徴とする。
【0013】
第6の発明は、上記第1,3,4,5の発明を前提とし、上記第1の発明の投光部を第1投光部とし、第1の発明の光センサを第1光センサとするとともに、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する第2投光部と、この第2投光部の光を検出する第2光センサとを備え、上記第2投光部から出力される光は、溶融樹脂の供給方向上流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、ダイから供給された溶融樹脂が上記光の走行経路を遮断したとき、第2光センサがその遮断を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
第1の発明によれば、光センサが、放電電極より溶融樹脂の供給方向下流側であって放電電極に沿った光の走行経路を放電電極が遮断したことを検出できる。つまり、光センサは、放電電極が溶融樹脂の供給方向下流側へ振れて冷却ロール表面へ近づいたことを検出できる。
そこで、光センサが光の走行経路が遮断されたことを検出したときに、放電電極を冷却ロールの表面から離すようにすれば、振れた放電電極が冷却ロール表面を傷つけることを防止することができる。
【0015】
また、例えば、放電電極が、ダイから供給される要求樹脂に巻き込まれて振れた場合に、冷却ロールを移動させなくても、光センサが光の走行経路の遮断を検出した時点で溶融樹脂の供給及び冷却ロールの回転を停止すれば、樹脂に巻き込まれた放電電極が下流側へそれ以上引っ張られることを止めることができ、冷却ロール表面に放電電極が接触することを防止できる。
【0016】
さらに、この発明のように光センサを用いた検出方法では、放電電極が実際に冷却ロール側に近づいたことを検出できるため、例えば、テンションセンサによって放電電極のテンションの大小だけで異常を検出する場合と比べて、正確な判定ができる。
テンションセンサによって、放電電極のテンションを監視していると、放電電極に外力が作用してテンションが大きくなったり、放電電極が切れてテンションがゼロになったりするような異常を検出することができるが、テンションの大小だけでは放電電極がどちら側へ振れているのかということまではわからない。そのため、放電電極が冷却ロールを傷つける危険がなくても、テンションが変化しただけで警報を発したり、装置を止めたりしてしまう可能性があるが、この発明ではそのような問題は起こらない。
【0017】
第2の発明では、光センサが、放電電極より溶融樹脂の供給方向上流側であって放電電極に沿った光の走行経路を溶融樹脂が遮断したことを検出できる。つまり、光センサは、溶融樹脂の流れが乱れて上流側から放電電極に近づいてきたことを検出できる。
そこで、上記光センサが光の走行経路が遮断されたことを検出したときに、溶融樹脂の供給及び冷却ロールの回転を停止したり、放電電極を冷却ロールから離したりすることで、放電電極が溶融樹脂に巻き込まれことを防ぐことができ、その結果、樹脂に巻き込まれた放電電極が冷却ロール表面を傷つけることを防止することができる。
【0018】
第3の発明によれば、光の走行経路が放電電極あるいは樹脂によって遮断されたことを光センサが検知したとき、制御システムが退避機構を制御して放電電極を冷却ロールから離れる方向に退避させることができる。
従って、放電電極が冷却ロールの表面を傷つけることはない。
【0019】
第4の発明によれば、投光部と放電電極に沿った光の走行経路との間にプリズムを介在させることによって、投光部を、放電電極に沿った走行経路から外れた位置に設置することができ、投光部の設置位置の自由度が上がる。
第5の発明によれば、光センサと放電電極に沿った光の走行経路との間にプリズムを介在させることによって、光センサを、放電電極に沿った走行経路から外れた位置に設置することができ、光センサの設置位置の自由度が上がる。
しかも、光の方向を変更するためにプリズムを利用したので、鏡などの反射部材を用いる場合と比べて、光の入射面の角度をラフに設定できる。
【0020】
第6の発明では、放電電極を境に、溶融樹脂の供給方向下流側と、供給方向上流側との両側に光の走行経路を設けている。供給方向上流側では、第2の光センサが光の走行経路を溶融樹脂が遮断したことを検出でき、供給方向下流側では、第1の光センサが光の走行経路を放電電極が遮断したことを検出できる。
そのため、第2の光センサの検出に基づいて溶融樹脂が放電電極を巻き込むことを防止でき、第1の光センサの検出に基づいて放電電極が冷却ロールに接触することを防止できる。
また、第2の光センサの検出に基づいた対策によって放電電極が溶融樹脂に巻き込まれることを防止し損なうようなことがあっても、溶融樹脂の供給方向下流側の第1の光センサの検出に基づいて放電電極の振れを検出できるので、その検出に基づいて、放電電極が冷却ロールを傷つけないようにすることができる。つまり、二重のチェックによって、より確実に冷却ロールの損傷を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は第1実施形態の成膜装置の帯電密着工程の概略図である。
【図2】図2は第1実施形態の電極ユニットの正面図である。
【図3】図3は図2のIII-III線断面図である。
【図4】図4は第1実施形態の光の走行経路を示した模式図である。
【図5】図5は第1実施形態の溶融樹脂と光の走行経路との位置関係を示す模式図である。
【図6】図6は図1のVI-VI線断面図である。
【図7】図7は第2実施形態の溶融樹脂と光の走行経路との位置関係を示す模式図である。
【図8】図8は上記実施形態とは異なる光の経路を示した模式図である。
【図9】図9は上記実施形態とは異なる光の経路を示した模式図である。
【図10】図10は上記実施形態とは異なる光の経路を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1〜図6に、この発明の第1実施形態を示す。
図1は、この発明の帯電電極機構を用いた成膜装置の概略図で一対のフレーム1,2間に金属製の冷却ロール3を設けている。この冷却ロール3は図示しない支持機構によって回転可能に支持され、図示しない駆動機構によって回転するようにしている。
また、上記冷却ロール3上方には図示しない支持機構によって支持され、冷却ロール3上に溶融樹脂を供給するダイ4を設けている。このダイ4から供給された溶融樹脂5が冷却ロール3で冷却されながら搬送され、後工程へ供給される。
【0023】
さらに、上記一対のフレーム1,2上には、一対のXYガイドユニット6,7が設けられている。
XYガイドユニット6,7については後で詳しく説明するが、これらXYガイドユニット6,7は全く同じ構成で、それぞれフレーム1,2に固定したX軸8と、このX軸8上でx方向に移動するY軸9とで構成されている。このY軸9においてy方向に移動する取り付け台9aに取り付け部材10を介して電極ユニット11,12を取り付けている。
【0024】
これら電極ユニット11,12は、冷却ロール3の上に供給された溶融樹脂5の幅方向wの両脇に位置し、その間に帯状の放電電極13を、所定のテンションを保って保持している。
上記電極ユニット11,12がこの発明の放電電極を保持する一対の保持部を構成し、上記放電電極13に高電圧を印加することによって溶融樹脂5をアースした冷却ロール3に帯電密着させるようにしている。
【0025】
図2は、上記一対の電極ユニット11,12の前面カバーを除いた状態の正面図であるが、一方の電極ユニット11は、ボックス状の内部に、帯状の放電電極13を巻きつけた繰り出しロール11aと、ガイドロール11b、11c及びテンションロール11dを備え、上記繰り出しロール11aから繰り出した放電電極13を、上記ガイドロール11b、11c及びテンションロール11dを経由して電極ユニット11外へ送り出している。
【0026】
他方の電極ユニット12は、その内部に、上記放電電極13を巻き取る巻き取りロール12aと、ガイドロール12b,12c及び電極ロール12dを備え、これらガイドロール12b,12c,電極ロール12dを介して巻き取りロール12aに放電電極13を案内している。
そして、上記電極ロール12dを図示しない外部の高圧電源に接続し、この電極ロール12dを介して放電電極13に高電圧を印加する。上記高圧電源からの電源配線はこの電極ユニット12の背面に接続している。
【0027】
なお、上記一方の電極ユニット11の背面外側には上記繰り出しロール11aに連結した図示しない繰り出しモーターを設け、上記他方の電極ユニット12の背面外側には上記巻き取りロール12aに連結した巻き取りモーターM(図1参照)を設けている。これら繰り出しモーター及び巻き取りモーターMを制御することによって、放電電極13を長さ方向に移動させ、溶融樹脂に新しい放電電極13を対向させることができるようにしている。放電電極13は長期にわたって使用するとその表面が劣化して放電効率が落ちてしまうので、交換が必要になるが、この第1実施形態のように繰り出しロール11a及び巻き取りロール12aを用いれば、電極ユニット11,12を所定の位置にセットしたままで放電電極の交換ができるようになる。但し、上記ロール11a,12aを備えずに、必要長さ分の放電電極を取り換えるようにしてもよい。
【0028】
また、上記繰り出しモーター及び巻き取りモーターMの回転を制御することによって、電極ユニット11,12間の放電電極13のテンションを制御することもできる。
さらに、一方の電極ユニット11内のテンションロール11dにはこのテンションロール11dに作用する荷重に基づいて放電電極13のテンションを検出するテンションセンサ11eを取り付け、放電電極13のテンションが適正範囲にあるかどうかを監視することもできる。
【0029】
さらにまた、上記電極ユニット11,12には、互いが対向する側面側に、樹脂製の筒状の電極カバー14,15を取り付けて放電電極13の両端側を覆っている。これら樹脂製の電極カバー14,15から露出した部分を、上記溶融樹脂5の幅wとほぼ一致させている。このような電極カバー14,15を設けたのは、次の理由による。
もし、上記電極カバー14,15を設けなければ、溶融樹脂5の幅wの外側部分で、上記放電電極13と露出した金属製の冷却ロール3とが直接対向することになる。このように上記放電電極13と金属製の冷却ロール3とが直接対向した部分は、溶融樹脂5を介して放電電極13と冷却ロール3とが対向している部分よりも、優先的に放電が起こる。そうなれば、溶融樹脂5の帯電効率が落ちてしまうと同時に、放電により冷却ロール3に傷も発生する。それを防止するため上記電極カバー14、15を設けているのである。
【0030】
なお、上記電極カバー14、15は、その基端側を上記各電極ユニット11,12に対しネジ結合するとともに、そのねじ込み長さによって各電極ユニット11,12からの突出長さを調整可能にしている。これにより、放電電極13において電極カバー14,15から露出した部分の長さを溶融樹脂5の供給幅wに合わせることができる。
【0031】
上記のようにした一対の電極ユニット11,12にはそれぞれプリズムホルダー16,17を設け、この間に光線Lを走行させている。
なお、図2中、左右のプリズムホルダー16,17は全く同じ構造なので、ここでは図3に示す電極ユニット11側についてのみ説明する。
図3に示すように、電極ユニット11の背面部材11fには、五角形のプリズムホルダー16を固定している。このプリズムホルダー16は中央に保持孔16aを備え、その内部にペンタプリズムp1を挿入し、固定部材16bをネジ止めすることによってこのペンタプリズムp1を固定している。
【0032】
また、上記プリズムホルダー16には、上記ペンタプリズムp1に対する入射光及び出射光を通過させるための通孔16c、16dを備えている。
そして、通孔16cを上記電極ユニット12側に開口させ、通孔16dを背面部材11fに設けた取り付け孔11gに接続し、この取り付け孔11g内には光センサ18を取り付けている。
これにより、上記通孔16cから入射した光線Lはペンタプリズムp1によって90°方向を変えて光センサ18に受光される。光センサ18には、信号ケーブル19を接続し、これを図示しないこの発明の制御システムである制御装置に接続し、この制御装置に上記光センサ18の検出信号を入力するようにしている。
【0033】
そして、もう一方の電極ユニット12に設けられたプリズムホルダー17は、上記プリズムホルダー16と同様の構成である。但し、電極ユニット12側のプリズムホルダー17は、両ユニット11,12の中心を通り放電電極13に直交する直線に対し上記プリズムホルダー16と線対称に設けられ、このプリズムホルダー17には上記ペンタプリズムp1と線対称に配置されたペンタプリズムp2が固定され、このペンタプリズムp2と上記ペンタプリズムp1とでは、光の入射面と出射面とが反対になっている。
【0034】
また、電極ホルダー12側のプリズムホルダー背面部材12eには、光センサ18ではなく、光を発する投光部20を設け、この投光部20が出力する光が光線Lとなるようにしている。
図4は上記一対のペンタプリズムp1、p2と光線Lとの関係を示した模式図である。
このようにして、投光部20から出力された光は、電極ユニット12から電極ユニット11までの間で、図2おける帯状の放電電極13の近傍で帯状電極に沿った走行経路を通過する光線Lとなる。
【0035】
上記のようにした一対の電極ユニット11,12は、上記したように一対のY軸9,9に固定されるが、そのとき、上記放電電極13と光線Lの位置は図5に示すようになる。すなわち、放電電極13は、上記ダイ4から供給される溶融樹脂の供給開始部に近い箇所において、その厚み部分を溶融樹脂5に対向する傾きを保持している。このように、帯状の放電電極13の幅方向ではなく、厚み方向を溶融樹脂5に対向させたのは、より放電しやすいエッジ部分を溶融樹脂5に近づけるためである。そして、放電電極13の傾きを保持するためには、上記電極ユニット11,12をXYガイドユニット6,7に対する傾きを調整している。
また、放電電極13に沿った光線Lは、上記放電電極13の近傍であって溶融樹脂の供給方向下流側で、上記放電電極13と溶融樹脂5とで挟まれた個所に位置するよう、XYガイドユニット6,7を制御してその位置を調整している。
【0036】
次に、上記XYガイドユニット6,7について説明する。
これらXYガイドユニット6,7は同じ構成なので、図6を用いて一方のXYガイドユニット6について説明する。
図6に示すように、X軸8は、U字状のガイドレール8a内に、ガイドレール8aの長手方向に平行なボールスクリュー8bを設けるとともに、このボールスクリュー8bにかみ合うとともに、上記ガイドレール8aに沿って移動する移動体8cを備えている。上記ボールスクリュー8bの一端にはモーターm1を接続し、このモーターm1を図示しない上記制御装置に接続している(図1参照)。従って、この制御装置がモーターm1を駆動すれば、上記移動体8cがx方向に移動する。
【0037】
また、上記移動体8cには、ガイドレール8aの両脇に突出するとともに、上面中央にガイドレール8aの長さ方向の凹部8eを設けた取り付け台8dを設けている。この取り付け台8dに、Y軸9に固定した取り付け部材21の固定部21aを固定している。
また、上記凹部8eと上記固定部21aとの間には、ガイドレール8aと同等の長さを有するカバー8fを設け、その両端をガイドレール8aに固定して、上記ボールスクリュー8bを覆っている。
【0038】
一方、Y軸9は、上記X軸と同様の構成である。その詳細は、省略するが、上記取付部材21にU字状のガイドレールを固定し、その内部にボールスクリュー及び移動体を設け、X軸8の取り付け台8dに相当する取り付け台9aをガイドレール及びカバーから突出させている。この取り付け台9aに、上記取付部材10を介して上記電極ユニット11を取り付けている。
そして、Y軸9のスクリューシャフトの一端には上記制御装置に接続したモーターm2を連結している。従って、制御装置がモーターm2を駆動すれば、上記図示しない移動体がy方向に移動する。
【0039】
上記したXYガイドユニット6の構成は、もう一方のXYガイドユニット7と全く同じである。そこで、対応する部材には、同じ符号を用い、詳細な説明は省略する。但し、XYガイドユニット7には、取り付け部材10を介して上記電極ユニット12を取り付けている。
そして、上記制御装置は、上記一対のX軸8,8のモーターm1,m1を同期して制御するようにしている。また、一対のY軸9,9のモーターm2,m2を制御する際も、同期させるようにしている。
従って、上記制御装置が、一対のモーターm1、m1を駆動して、一対の電極ホルダー11,12とともに放電電極13がx方向へ移動させ、一対のモーターm2,m2を駆動して、一対の電極ホルダー11,12とともに放電電極13をy方向へ移動させることができる。
【0040】
上記のようにしたこの第1実施形態の作用を説明する。
まず、図5に示すように、放電電極13及び光線Lの位置を調整した状態で、成膜装置を運転しているとき、ダイ4から供給される溶融樹脂の流れが何らかの影響で乱れて放電電極13に溶融樹脂が絡み付いてしまったとする。
溶融樹脂は、冷却ロール3の回転によって方向へ移動搬送されるので、樹脂に巻き込まれた放電電極13は樹脂によって溶融樹脂の供給方向回転方向、すなわち冷却ロール3の回転方向へ引っ張られることになる。
【0041】
放電電極13は、初期状態で所定のテンションを保って設けられているが、溶融樹脂によって引っ張られると、わずかに伸びて樹脂の供給方向下流側へ振れる。この振れ幅はわずかであるが、上記光線Lは放電電極13の近傍に位置しているので、振れた放電電極13によって、光線Lが遮断される。
わかりやすくするため、図5では、全体の寸法バランスを実際とは違うバランスで表しているが、帯状の放電電極13は、幅が数[mm]、厚さが数百[mm]以下であり、小さな外力でも撓んで、光線Lを遮断する。
【0042】
光線Lが遮断されると、図3の光センサ18が、光線Lが遮断されたことを検出する。光センサ18の検出信号は上記制御装置に入力されるようにしているので、制御装置はこの遮断信号をトリガとし、上記XYガイドユニット6,7を制御して放電電極13を冷却ロール3から離れる方向に退避させることができる。具体的には、上記電極ユニット11,12がダイ4及び冷却ロール3の表面から離れるよう、一対のX軸8,8のモーターm1、m1を駆動して、放電電極13をx1方向に移動させる(図5参照)。
【0043】
もし、放電電極13が、溶融樹脂に巻き込まれて供給方向に引っ張られたままにしていると、溶融樹脂とともに冷却ロール3の表面に接触して、冷却ロール3を傷つけてしまうことになるが、この第1実施形態によれば、放電電極が光線Lを遮断した時点で、放電電極13を冷却ロール3から退避させることができるので、冷却ロール3の表面を傷つけることを防止できる。
なお、この第1実施形態では、上記XYガイドユニット6,7がこの発明の退避機構であり、これらに設けたモーターm1、m2を制御する制御装置がこの発明の制御システムである。
そして、上記図示しない制御装置と、上記一対のフレーム1,2上に固定した部分とで、この発明の帯電電極機構を構成している。
【0044】
なお、この第1実施形態では、上記電極ユニット11にテンションセンサ11eを設けて、帯状の放電電極13のテンションを監視することができるようにしている。そのため、テンションの検出値のよって放電電極13が溶融樹脂5によって引っ張られているか否かを検出することが考えられる。しかし、テンションセンサ11eが検出するテンションの大小だけでは、放電電極13の振れ方向まではわからないので、放電電極が冷却ロールを傷つける危険がなくても、テンションが変化しただけで警報を発したり、放電電極13を退避させたりしてしまう可能性があるが、光センサ18を用いればそのようなことはない。
【0045】
図7に示す第2実施形態は、上記一対の電極ユニット11,12に設けた、上記投光部20及び光センサ18とは別の、第2の投光部及び第2の光センサを設けた帯電電極構造である。他の構成は、上記第1実施形態と同じである。第1実施形態と同じ構成要素は、第1実施形態と同じ符号を用いて説明する。但し、この第2実施形態では、上記第1実施形態と同じ投光部及び光センサを第1の投光部20、第1の光センサ18ということにする。
【0046】
そして、上記第2の投光部から出力された光は、上記溶融樹脂の幅の範囲で、上記放電電極13の近傍であって供給樹脂の供給方向上流側で、放電電極13に沿った走行経路を保っている。この第2の投光部から出力された光の走行経路を図7において光線L2とし、上記第1の投光部20から出力された光の走行経路を光線L1として示している。
【0047】
図7に示すように、溶融樹脂の供給方向を基準に、放電電極13の前後に、放電電極13に沿った光線L1,L2が位置している。
そして、上記光線L1は第1実施形態と同様に、放電電極13より溶融樹脂の供給方向下流側において、放電電極13と冷却ロール3上の溶融樹脂5とで挟まれる位置を保持し、もう一方の光線L2は放電電極13より溶融樹脂の供給方向上流側において、放電電極13と上記ダイ4からの溶融樹脂の供給開始位置とで挟まれる位置を保持している。
これら放電電極13、光線L1,L2、及び溶融樹脂5の位置関係を上記したように保持するため、上記XYガイドユニット6,7を調整している。
【0048】
このような第2実施形態の成膜装置を運転しているとき、ダイ4から供給される溶融樹脂5の流れが何らかの影響で乱れて放電電極13側に膨らんだとする。
そして、膨らんだ溶融樹脂5が上記第2の投光部から出力された光線L2を遮断すると、第2の光センサがそれを検出する。この第2の光センサからの遮断検出信号が、上記制御装置に入力されると、上記制御装置はXYガイドユニット6,7のモーターm1,m1を制御して上記電極ユニット11,12とともに放電電極13を上記冷却ロール3から離れる方向、例えば矢印x1方向へ退避させることができる。
【0049】
このように、放電電極13より溶融樹脂の供給方向上流側の光線L2を溶融樹脂5が遮断したことを第2の光センサで検出し、放電電極13を退避させるようにすれば、放電電極13に樹脂が絡み付いて冷却ロール3側へ引っ張られることを防止できるので、放電電極13が冷却ロール3を傷つけてしまうことを防止できる。
また、第2の光センサによる検出がうまくできなかったり、退避のタイミングがずれてしまったりしたときには、放電電極13が溶融樹脂に巻き込まれて溶融樹脂の供給方向へ引っ張られてしまうことになる。しかし、この場合には、上記第1実施形態と同様に、第1の光センサ18が光線L1の遮断を検出して、放電電極13を退避させることができる。
【0050】
つまり、第2実施形態では、放電電極13の両側に光の走行経路を設け、別々に遮断を検出するようにしたため、放電電極13が冷却ロール3に接触することをより確実に防止できる。
但し、上記第2の光線L2のみを設け、溶融樹脂5の乱れを検出することによって放電電極13が冷却ロール3に接触することを防止するようにしてもよい。
なお、上記第1、2実施形態では、制御装置が、光の走行経路が遮断されたことを検出した光センサからの検出信号に基づいて、上記XYガイドユニット6,7を制御するようにしているが、制御装置は、光センサからの信号に基づいてXYガイドユニット6,7を制御するのではなく、警報を発するだけでも良い。この場合、上記XYガイドユニットのような退避機構はなくてもよい。
【0051】
なお、上記第1、第2実施形態では、XYガイドユニット6,7のモーターm1、m1を駆動して、放電電極13を矢印x1方向へ退避させる例を説明しているが、退避方向はこれに限らない。Y軸9に設けたモーターm2を駆動して、放電電極13をy方向へ退避させることもできるし、両モーターm1,m2を組み合わせて退避させることもできる。
【0052】
また、上記第1、第2実施形態では、投光部20と放電電極13の沿った光の走行経路との間にペンタプリズムp2を設けているので、投光部20を光線Lと一直線上に設ける必要がなく、電極ユニット12の幅を小さくすることができる。
但し、投光部20は電極ユニット12外に設けてもよい。いずれにしてもプリズムを用いて光の走行経路を曲げるようにすれば、投光部20の設置位置を自由に選択できる。
また、放電電極13に沿った光線Lをペンタプリズムp1で、光センサ18に導くようにしているため、上記投光部20と同様に、光センサ18の設置位置を光線Lと同一線状に設ける必要がない。この光センサ18も、プリズムを用いることによって設置位置を選択できることになるが、上記光線Lを受光できればどこに設けてもよい。
【0053】
上記のように、投光部20から出力された光は、少なくとも、溶融樹脂の幅の範囲で、放電電極13に沿った幅方向の走行経路を保ってから、光センサ18で受光される構成であれば、投光部20や光センサ18の位置は特に限定されない。
例えば、図8に示すように、図4に示す第1実施形態における投光部20側のペンタプリズムp2を省略して、放電電極13に沿った走行経路を通過後に、ペンタプリズムp1を介して光線18に光線を導くようにすることもできる。
このように、一方にのみプリズムを設ける実施形態として、図4においてペンタプリズムp1の位置に光センサ18を設け、投光部20側にだけにペンタプリズムp2を設けてもよい。
また、上記ペンタプリズムp1、p2はプリズムに限らない。
【0054】
さらに、図9に示す構成は、プリズムの代わりに、反射ミラー22によって投光部20から出力された光を反射して、光センサ18に受光させるようにしたものである。このように構成すれば、投光部20と光センサ18とを上記溶融樹脂5の幅方向の一方の側にまとめて設けることができる。
【0055】
そして、上記反射ミラー22への入射光と反射光のどちらを、上記放電電極13に沿った走行経路になるように設定しても構わない。
さらに、反射ミラー22に対する入射角を変更すれば、光センサ18の位置を自由に選択することもできる。
但し、反射ミラー22を用いる場合、光の反射角が入射角に依存するので、入射角の設定がラフにできるプリズムと比べてその設定に手間がかかる。
また、図10に示すように、投光部20と光センサ18とを同一直線上に設けるように構成してもよいことは当然である。
【0056】
また、上記実施形態では、帯状の放電電極13を用いているが、所定のテンションを保持して溶融樹脂の幅方向にかけ渡すことができれば、放電電極は帯状でなくてもよい。但し、断面が円形のワイヤー状電極は、その直径が大きくなると効率な放電が難しくなるので、溶融樹脂を帯電させるためには帯状などエッジ部を有する形状が好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
この発明は、樹脂の薄膜を形成する成膜工程で有用な帯電電極機構である。
【符号の説明】
【0058】
3 冷却ロール
4 ダイ
5 溶融樹脂
6,7 (退避機構である)XYガイドユニット
8 X軸
9 Y軸
11,12 (保持部である)電極ユニット
13 放電電極
16,17 プリズムホルダー
p1、p2 ペンタプリズム
w (溶融樹脂の)幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電電極が、ダイから供給される溶融樹脂の供給方向を横切る幅方向にテンションを保って一対の保持体間にかけ渡される構成にし、上記放電電極に高電圧を印加してこの放電電極からの放電で、ダイから供給された溶融樹脂を帯電させて、この溶融樹脂を冷却ロールに帯電密着させる帯電電極機構において、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する投光部と、投光部の光を検出する光センサとを備え、上記投光部から出力される光は、上記放電電極よりも溶融樹脂の供給方向下流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、上記放電電極が溶融樹脂の供給方向下流側に振れて上記光の走行経路を遮断したとき、光センサがその遮断を検出する帯電電極機構。
【請求項2】
放電電極が、ダイから供給される溶融樹脂の供給方向を横切る幅方向にテンションを保って一対の保持体間にかけ渡される構成にし、上記放電電極に高電圧を印加してこの放電電極からの放電で、ダイから供給された溶融樹脂を帯電させて、この溶融樹脂を冷却ロールに帯電密着させる帯電電極機構において、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する投光部と、投光部の光を検出する光センサとを備え、上記投光部から出力される光は、上記放電電極よりも溶融樹脂の供給方向上流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、ダイから供給された溶融樹脂が上記光の走行経路を遮断したとき、光センサがその遮断を検出する帯電電極機構。
【請求項3】
上記一対の保持体とともに放電電極を、上記冷却ロールから離れる方向に退避させる退避機構と、上記光センサに接続した制御システムとを備え、この制御システムは、上記光センサが、上記光の走行経路が遮断されたことを検出したとき、上記退避機構を制御して放電電極を上記冷却ロールから離れる方向に退避させる構成にした請求項1または2に記載の帯電電極機構。
【請求項4】
上記投光部から出力された光を、プリズムを介して上記走行経路に導く構成にした請求項1〜3のいずれか1に記載の帯電電極機構。
【請求項5】
上記走行経路を通過した光を、プリズムを介して上記光センサに導く構成にした請求項1〜4のいずれか1に記載の帯電電極機構。
【請求項6】
請求項1の投光部を第1投光部とし、請求項1の光センサを第1光センサとするとともに、上記ダイから供給される溶融樹脂の少なくとも幅の範囲で光を出力する第2投光部と、この第2投光部の光を検出する第2光センサとを備え、上記第2投光部から出力される光は、溶融樹脂の供給方向上流側であって放電電極に沿った上記幅方向の走行経路を保ち、ダイから供給された溶融樹脂が上記光の走行経路を遮断したとき、第2光センサがその遮断を検出する請求項1,3,4,5のいずれか1に記載の帯電電極機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−10301(P2013−10301A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145460(P2011−145460)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000183738)春日電機株式会社 (54)
【Fターム(参考)】