説明

常圧カチオン可染性共重合ポリエステル及び繊維

【課題】本発明の課題は、常圧下でのカチオン染色が可能で、色相が良好で、且つ高重合度の常圧カチオン可染性ポリエステルを提供することである。
【解決手段】主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、スルホイソフタル酸金属塩とスルホイソフタル酸アンモニウム塩又はホスホニウム塩が特定の数式を満たすように共重合され、チタン化合物と特定のリン化合物の反応生成物、アンチモン元素、アルカリ土類金属元素が特定の数式を満たすように含有されている共重合ポリエステルにより上記課題を解決することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧下でカチオン染料に可染性である常圧カチオン可染性ポリエステル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートを代表とするポリエステル繊維は、その化学的特性から分散染料、アゾイック染料でしか染色できないため、鮮明且つ深みのある色相が得られにくいという欠点があった。かかる欠点を解消する方法として、ポリエステルにスルホイソフタル酸の金属塩を2〜3モル%共重合する方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照。)。
【0003】
しかしながら、かかる方法によって得られるポリエステル繊維は、高温・高圧下でしか染色することができず、天然繊維やウレタン繊維などと交編、交織した後に染色すると、天然繊維、ウレタン繊維が脆化するという問題があった。これを常圧、100℃付近の温度で十分に染色しようとすれば、スルホイソフタル酸の金属塩を多量にポリエステルに対して共重合されることが必要となるが、この場合、スルホネート基による増粘効果から、ポリエステルの重合度を高くすることができず、溶融紡糸にて得られるポリエステル繊維の強度が著しく低下し、さらに紡糸操業性が著しく悪化するという問題があった。
【0004】
一方、このような問題を解決するため、イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーを共重合する技術が開示されている(例えば、特許文献3、4参照。)。イオン結合性分子間力の小さいカチオン可染性モノマーとしては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネートなどが例示されているが、これらのカチオン可染性モノマー共重合ポリエステルは熱安定性が悪く、常圧カチオン可染化させるため、共重合量を増加させようとしても、重合反応途中で熱分解が進行し、高分子量化させることが困難であった。さらに溶融紡糸する際の熱履歴による分解が大きく、結果として得られる糸の強度が弱くなるという欠点を有していた。また、使用する5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホネートは非常に高価であり、結果として得られるカチオン可染性ポリエステルのコストが大幅に増大するという問題があった。
【0005】
かかる問題を解決する方法として、耐光性の低下が少なく、且つ常圧可染性を出す方法としてアジピン酸、セバシン酸のような直鎖炭化水素のジカルボン酸、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分、また、平均分子量が400〜1000のポリアルキレングリコールをスルホイソフタル酸の金属塩と共重合する方法が提案されている(例えば、特許文献5、6参照。)。
【0006】
これらの方法は、共重合成分によりポリエステルのガラス転移温度を低下させることにより、100℃以下の温度におけるポリエステル中への染料の拡散速度を上げることで、常圧でのカチオン可染を可能にしている。しかしながら、いずれの方法でも得られたポリエステルを溶融紡糸して得られる常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の強度が低くなり、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下する、ガラス転移温度が低くなるために熱セット性が悪化し、仮撚捲縮加工性が悪く風合いが硬くなる、更には染色堅牢度が低いなどの問題があった。
【0007】
かかる問題を解決する方法として、スルホイソフタル酸の金属塩に加え、分子量が2000以上のポリエチレングリコールを共重合する方法、アジピン酸、セバシン酸などの直鎖炭化水素のジカルボン酸を共重合する方法、あるいはジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノールのようなグリコール成分を共重合する方法が提案されている(例えば特許文献5、6参照。)。
【0008】
しかしながら、これらいずれの方法でも得られたポリエステルを溶融紡糸して得られる常圧カチオン可染性ポリエステル繊維の強度が低くなり、強いては得られる布帛の引き裂き強度が低下する、更には染色堅牢度が低いなどの問題があった。
【0009】
また、5−ナトリウムスルホイソフタル酸を共重合したポリエステルを鞘部に、95モル%以上がエチレンテレフタレートの繰返し単位からなるポリエステルを芯部に配した複合繊維が提案されている(例えば特許文献7参照。)。しかしながら、鞘部を構成する共重合ポリエステル中のスルホイソフタル酸成分の共重合量には、前述と同様の理由で限界があり、十分な染着性を得ることが困難であること、並びに複合繊維とすることで紡糸工程での加工コストが増加、又は繊維断面形状などに制約が生じるなどの課題があった。
【0010】
【特許文献1】特公昭34−10497号公報
【特許文献2】特開昭62−89725号公報
【特許文献3】特開平1−162822号公報
【特許文献4】特開2006−176628号公報
【特許文献5】特開2002−284863号公報
【特許文献6】特開2006−200064号公報
【特許文献7】特開平7−126920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するものであり、常圧下でのカチオン染色が可能で、色相が良好で、且つ高重合度の常圧カチオン可染性ポリエステルを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み本発明者らは鋭意検討を行った結果、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合された共重合ポリエステルであり、
3.0≦A+B≦5.0 ・・・(1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
チタン化合物と下記化学式(II)で表されるリン化合物
【化2】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に9個未満の炭素原子を有するアルキル基、又は水素原子を表す。]
との反応生成物、原子量50以下のアルカリ土類金属元素及びアンチモン元素を、下記数式(3)〜(6)を同時に満足するように含有することを特徴とする共重合ポリエステルであり、当該発明により上記課題を解決することができる。
5≦MALK≦50 ・・・(3)
10≦MSb≦50 ・・・(4)
10≦MTi≦50 ・・・(5)
20≦(MSb+MTi)≦90 ・・・(6)
[上記数式中、MALK,MSb,MTiはそれぞれ、前記共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量に対するアルカリ金属元素、アンチモン元素、上記のポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素の量を示し、単位はミリモル%である。]
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、常圧下でのカチオン染料を用いた染色操作による染着性が良好で、且つ色相が良好で、繊維強度の高いポリエステル繊維を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に使用される共重合ポリエステルとは、テレフタル酸又はそのエステル形成性誘導体と、エチレングリコール成分とを重縮合反応せしめて得られるエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、共重合成分としてスルホイソフタル酸の金属塩(A)、及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、下記数式(1)及び(2)を同時に満足する状態で含有する共重合ポリエステルである。
【0015】
【化3】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
3.0≦A+B≦5.0 (1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 (2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
【0016】
(共重合ポリエステルについて)
本発明における共重合ポリエステルとはエチレンテレフタレートを主たる繰返し単位とするポリエステルであり、主たる繰り返し単位とは共重合ポリエステルを構成する全繰り返し単位あたり80モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることを指している。他の20モル%以下の範囲内で他の成分が共重合されていても良い。好ましくは90モル%以上がエチレンテレフタレート単位であることである。その他の共重合成分としては、ジカルボン酸成分としてイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、4,4’−ジフェニルメタンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルスルホンジカルボン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸を挙げる事ができ、グリコール成分として1,2−プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ビス(トリメチレングリコール)、ビス(テトラメチレングリコール)、トリエチレングリコール、1,4−ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4−シクロヘキサンジメタノールを挙げる事ができ、これらの1種以上のジカルボン酸と1種以上のグリコール成分を反応させて得られる成分を繰り返し単位として共重合されていても良い。
【0017】
(化合物(A)について)
本発明で使用されるスルホイソフタル酸の金属塩(A)としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)が例示される。必要に応じてこれら化合物のマグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩を併用しても良い。また、これらのエステル形成性誘導体も好ましく例示される。エステル形成性誘導体としてはジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロピルエステル、ジブチルエステル、ジヘキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステル若しくはジフェニルエステル、又は5−スルホイソフタル酸金属塩のジハロゲン化物を挙げる事ができるが、これらの中でもジメチルエステルが好ましい。これらの化合物群の中では、熱安定性、コストなどの面から、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩が好ましく例示され、特に5−ナトリウムスルホイソフタル酸又はそのジメチルエステルである5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチルが特に好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0018】
(化合物(B)について)
また、上記式(I)で表される化合物(B)としては、5−スルホイソフタル酸又はその低級アルキルエステルの4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩である。4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩としては、リン元素又は窒素元素にアルキル基、ベンジル基又はフェニル基が結合した4級ホスホニウム塩、4級アンモニウム塩が好ましく、特に4級ホスホニウム塩であることが好ましい。また、4つある置換基は同一であっても異なっていても良い。上記式(I)で表される化合物の具体例としては、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸エチルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸フェニルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ブチルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩、あるいはこれらイソフタル酸誘導体のジメチルエステル、ジエチルエステル、ジプロプルエステル、ジブチルエステル、ジへキシルエステル、ジオクチルエステル、ジデシルエステルが好ましく例示される。これらのイソフタル酸誘導体の中でも、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルテトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ジメチルベンジルトリメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリブチルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラフェニルホスホニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラメチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラエチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸テトラブチルアンモニウム塩、5−スルホイソフタル酸ベンジルトリメチルアンモニウム塩がより好ましく例示される。これらの条件を満たす化合物である場合に、ポリエステル繊維とした場合の充分なカチオン可染性と充分な繊維強度の両立が可能となる。
【0019】
(数式(1)について)
本発明において、ポリエステルに共重合させる上記のスルホイソフタル酸の金属塩(A)と上記の化合物(B)の合計は共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準として、(A)成分と(B)成分の和A+Bが3.0〜5.0モル%の範囲である必要がある。3.0モル%より少ないと、常圧下でのカチオン染色では十分な染着を得ることができない。一方、5.0モル%より多くなると、得られるポリエステル糸の強度が低下するため実用に適さない。さらに染料を過剰に消費するため、コスト面でも不利である。このA+Bの値は好ましくは3.2〜4.8モル%であり、より好ましくは3.3〜4.7モル%である。
【0020】
(数式(2)について)
また、スルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)の成分比は上記のモル%の値にて、B/(A+B)が0.2〜0.7の範囲にある必要がある。0.2以下、つまり成分Aの割合が多い状態では、スルホイソフタル酸金属塩による増粘効果により、得られる共重合ポリエステルの重合度を上げることが困難になる。一方、0.7以上、つまり化合物(B)の割合が多い状態では、重縮合反応が遅くなり、さらに化合物(B)の比率が多くなると熱分解反応が進むため重合度を上げることが困難となる。さらに、化合物(B)の比率多くなると共重合ポリエステルの熱安定性が悪化し、溶融紡糸段階で再溶融した際の熱分解反応による分子量の低下が大きくなるため、得られるポリエステル糸の強度が低下するため、好ましくない。このB/(A+B)の値は好ましくは0.23〜0.65であり、より好ましくは0.25〜0.60である。
【0021】
スルホイソフタル酸の金属塩(A)をポリエステルに共重合することによりカチオン可染性は付与する事ができるが、スルホン酸金属塩基間のイオン結合に由来すると思われる共重合ポリエステルの溶融粘度の増粘効果のため共重合ポリエステルを高重合度化することが困難であった。そのため十分に高い重合度、高い固有粘度を有する共重合ポリエステルが得られず、その高い固有粘度でない共重合ポリエステルから得られるポリエステル繊維は、繊維強度が著しく低下する問題があった。一方その問題を解消するためにスルホイソフタル酸のテトラアルキルアンモニウム塩又はスルホイソフタル酸のテトラアルキルホスホニウム塩、即ち化合物(B)をポリエステルに共重合することが開示されているが、当該化合物は重合反応中に熱分解を起こしやすいため、共重合量を上げようとすると熱分解反応が進みやすい問題があり、繊維強度を高い値にすることが依然として困難であった。本発明の共重合ポリエステルにおいては、これらのスルホイソフタル酸の金属塩(A)と化合物(B)を併用し、双方の化合物の共重合量、共重合比率、共重合ポリエステルの他の特性を、特定の範囲に設定することによって、充分なカチオン染料による染色性と高い繊維強度を両立させ、更には色相まで良好になる事を見出し本発明に至ったものである。
【0022】
(チタン化合物とリン化合物の反応生成物について)
本発明の共重合ポリエステルには、チタン化合物と後述の化学式(II)で表されるリン化合物との反応生成物、原子量50以下のアルカリ土類金属元素及びアンチモン元素をそれぞれ所定の数式を満たすように含んでいる必要がある。その中でチタン化合物と後述の化学式(II)で表されるリン化合物との反応生成物、アンチモン元素はポリエステル製造用触媒として共重合ポリエステル中に含有されていることが好ましい。この反応生成物は後述するチタン化合物とリン化合物を混合し、化学反応させる方法により得た化合物をチタン触媒として用いることが好ましい。以下、このようにして得たチタン化合物と化学式(II)で表されるリン化合物との反応生成物を「チタン触媒」と称する。このチタン触媒を得る場合、そのチタン化合物とリン化合物の配合比、反応方法、反応条件などの製造方法が適切でないと、十分に反応が起こらず、多くの未反応のチタン化合物や未反応のリン化合物が存在してしまう。
【0023】
以下、本発明に好ましく用いられるチタン触媒をチタン化合物とリン化合物を効率よく反応させることにより、高い含有率のものを得るための製造方法と、原子量50以下のアルカリ土類金属の使用方法について説明する。
【0024】
そのチタン触媒の合成に用いるチタン化合物としては、チタンテトラアルコキシド及びその縮合体、並びにその他の有機チタン錯体化合物を好ましく挙げる事ができる。具体的にはチタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトラブトキシド、チタンテトラフェノラート、ヘキサメチルジチタネート、オクタメチルトリチタネート、ヘキサエチルジチタネート、オクタエチルトリチタネート、ヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネート、ヘキサフェニルジチタネート、オクタフェニルトリチタネート、チタンテトラキスアセチルアセトナート錯体、チタンテトラキス(2,4−ヘキサンジオナト)錯体、チタンテトラキス(3,5−ヘプタンジオナト)錯体、チタンジメトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジエトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジイソプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジノルマルプロポキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジブトキシビスアセチルアセトナート錯体、チタンジヒドロキシビスグリコレート、チタンジヒドロキシビスラクテート、チタンジヒドロキシビス(2−ヒドロキシプロピオネート)、乳酸チタン、チタンオクタンジオレート、チタンジメトキシビストリエタノールアミネート、チタンジエトキシビストリエタノールアミネート、チタンジブトキシビストリエタノールアミネートなどが好ましく挙げられる。これらの中でリン化合物と反応させ本発明のチタン触媒となる化合物を調製する際に生じるアルコールが重合反応槽内に濃縮される恐れが小さく、かつ安価で経済的に有利なことからチタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド及びそれらの縮合体、すなわちヘキサイソプロピルジチタネート、オクタイソプロピルトリチタネート、ヘキサノルマルプロピルジチタネート、オクタノルマルプロピルトリチタネート、ヘキサブチルジチタネート、オクタブチルトリチタネートがより好ましい。
【0025】
さらに本発明に好ましく用いられるチタン触媒においては、このチタン化合物に対し、下記一般式(II)で表されるリン化合物を反応させる必要がある。
【0026】
【化4】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に9個未満の炭素原子を有するアルキル基、又は水素原子を表す。]
【0027】
つまり具体的には、上記一般式(II)で表わされるモノアルキルホスフェート、ジアルキルホスフェート、モノアリールホスフェート、ジアリールホスフェート又はモノアルキルモノアリールホスフェートが好ましい。具体的にはモノメチルホスフェート、モノエチルホスフェート、モノイソプロピルホスフェート、モノノルマルプロピルホスフェート、モノブチルホスフェート、モノペンチルホスフェート、モノヘキシルホスフェート、モノヘプチルホスフェート、モノオクチルホスフェート、モノフェニルホスフェート、モノベンジルホスフェート、モノ(メチルフェニル)ホスフェート、モノ(ジメチルフェニル)ホスフェート、ジメチルホスフェート、ジエチルホスフェート、ジイソプロピルホスフェート、ジノルマルプロピルホスフェート、ジブチルホスフェート、ジペンチルホスフェート、ジヘキシルホスフェート、ジヘプチルホスフェート、ジオクチルホスフェート、ジフェニルホスフェート、ジベンジルホスフェート、ジ(メチルフェニル)ホスフェート又はビス(ジメチルフェニル)ホスフェートを挙げる事ができる。
【0028】
これらは、単一種で用いても混合物で用いてもよく、例えばモノアルキルホスフェートとジアルキルホスフェート、モノアルキルホスフェートとモノアリールホスフェート、モノアルキルホスフェートとジアリールホスフェート、ジアルキルホスフェートとモノアリールホスフェート、ジアルキルホスフェートとジアリールホスフェート、モノアリールホスフェートとジアリールホスフェートの混合物の組合せをあげることができる。実際には経済性、安定性などからモノブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、モノブチルホスフェートとジブチルホスフェートとの混合物が特に好ましい。
【0029】
又、本発明に用い得るチタン触媒は、上記のチタン化合物とリン化合物とをグリコールを媒体として加熱することにより製造することが好ましいが、その場合反応生成物はグリコール中に懸濁物として得られる。ここでのグリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノールを例示することができる。触媒の製造に用いるグリコールには、そのチタン触媒を用いて製造するポリエステルの原料として用いるグリコールと同じグリコールを使用することが好ましい。
【0030】
チタン触媒を製造する際の反応温度は、常温では反応が不十分であったり、反応に過大に時間を要する問題があるため、通常50℃〜200℃の温度で反応させることが好ましく、反応時間は、1分〜4時間で完結させるのが好ましい。例えば、グリコールとしてエチレングリコールを用いる場合50℃〜150℃が好ましく、ヘキサメチレングリコールを用いる場合100℃〜200℃が好ましい範囲であり、又、反応時間は、30分〜2時間がより好ましい範囲となる。反応温度が高すぎたり、時間が長すぎると、触媒の劣化が起こるため好ましくない。
【0031】
又、チタン化合物を反応させるに当り、リン化合物との配合割合が、チタン元素に対するリン元素のモル比率(P/Ti)として1.5以上3.0以下であることが好ましく、更に好ましくは、1.8以上2.5以下である。1.5未満では、未反応チタン化合物が多量存在し、ポリマーの大幅な色相悪化などの問題が起こり、逆に3.0を超えると、過剰な未反応のリン化合物の存在が多く存在し重合活性の低下がおきる。
【0032】
更に特にチタン化合物と上記化学式(II)で表されるリン化合物[特にR又はRのいずれかが水素原子で他方がアルキル基であるモノアルキルホスフェートの場合]を、チタン元素に対するリン元素のモル比率として2.0に近い比率で反応させた場合には、得られた反応生成物は下記式(III)で表される化学構造を有するチタン触媒となりうる。
【0033】
【化5】

[上記式中、Rは対応する化学式(II)で表されるリン化合物の官能基R又はRを表す。]
【0034】
(アルカリ土類金属触媒について)
本発明の共重合ポリエステル中に含有されている原子量50以下のアルカリ土類金属元素としては、マグネシウム元素又はカルシウム元素が含有されていることが好ましい。更に詳細には、その要件を満たすアルカリ土類金属の有機酸及び/又はその水和物、それらの化合物の残留物として含有されていることが好ましく、特に好ましくは、マグネシウム化合物の有機酸及び/又はその水和物として添加され含有されていることである。これらの条件を満たす具体的な化合物として、マグネシウム化合物としては、例えば、酢酸マグネシウム、酪酸マグネシウムなどの有機酸及びその水和物が挙げられるが、特に酢酸マグネシウムの水和物が安価に入手でき、グリコールに対する溶解性も高く、触媒調製などの取扱いが容易であるため、好ましい。これらアルカリ土類金属元素を含む化合物は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
(数式(3)〜(6)について)
本発明におけるアンチモン元素からなる触媒及び上記のチタン触媒の添加量は、下記式(4)〜(6)を同時に満足する必要がある。
5≦MALK≦50 ・・・(3)
10≦MSb≦50 ・・・(4)
10≦MTi≦50 ・・・(5)
20≦(MSb+MTi)≦90 ・・・(6)
[上記数式中、MALK,MSb,MTiはそれぞれ、前記共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量に対するアルカリ金属元素、アンチモン元素、上記のポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素の量を示し、単位はミリモル%である。]
【0036】
(数式(3)について)
本発明におけるアルカリ土類金属元素の含有量は、共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量を基準として、5〜50ミリモル%の範囲にあることが必要である。5ミリモル%未満の場合、溶融重合反応速度が不十分であり、所望の重合度に到達させるためには非常に長時間を要し、その結果として共重合ポリエステルの色相が大幅に悪化するという問題がある。また、50ミルモル%よりも多い場合、溶融重合での反応速度は速くなるものの、副反応や分解反応も進行するために得られる共重合ポリエステルの色相が大幅に悪化し、さらに耐熱性が低下し、紡糸工程での再溶融時の分子量低下が大きくなるため、得られる繊維の強度が低くなるなどの問題がある。アルカリ土類金属元素の添加量は、望ましくは6〜30ミリモル%の範囲であり、更に好ましくは7〜20ミリモル%の範囲である。
【0037】
(数式(4)について)
本発明におけるアンチモン元素の含有量は、共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル数を基準として、10〜50ミリモル%の範囲にあることが必要である。上述のようポリエステル製造用の触媒として添加されることが通常である。その含有量が10ミリモル%未満の場合は溶融重合反応性が不足し、所定の重合度に到達させることが困難である。50ミリモル%より多い場合、溶融重合反応性は良好であるが、反応段階でアンチモン触媒(主に三酸化二アンチモン[Sb]、必要ならば四酸化アンチモン[Sb]、五酸化アンチモン[Sb]が使われる)が還元され、金属アンチモンとして析出することによる影響が大であり、得られるポリマーの色相が黒くなる。さらに紡糸工程では析出した金属アンチモンが口金部の異物となり、曳糸性が悪化するなどの問題があるため好ましくない。好ましくは含有量が12〜30ミリモル%の範囲であることである。
【0038】
(数式(5)について)
また、前述のチタン触媒の添加量は、共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量を基準として、10〜50ミリモル%の範囲にあることが必要である。10ミリモル%未満の場合は溶融重合反応性が不足し、所定の重合度に到達させることが困難である。50ミリモル%より多い場合、溶融重合反応性は良好であるが、高温での耐熱性が低下し、重合後半での着色が大であり、さらに溶融紡糸工程での分子量低下が大きくなるため、得られる繊維の強度が低くなるなどの問題があり好ましくない。好ましくは含有量が25〜45ミリモル%の範囲であることである。
【0039】
(数式(6)について)
上記のアンチモン元素からなる触媒並びにチタン触媒は、いずれの場合も重合反応性を所望のレベルまで到達させるためには添加量を増加させる必要がある。一方単独で添加量を増加させると、前述の通り得られる共重合ポリエステルの色相悪化、異物増加などの問題が発生し好ましくない。そこで本発明の共重合ポリエステルでは、アンチモン元素と、チタン化合物と下記化学式(II)で表されるリン化合物の反応生成物由来として含まれるチタン元素の含有量の合計を、共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量を基準として20〜90ミリモル%の範囲にする必要がある。20ミリモル%未満の場合は溶融重合反応性が不足し、所望の重合度のポリエステルを得る事ができない。一方、90ミリモル%を越える場合は得られる共重合ポリエステルの色相が悪化、異物量が増大するなどの問題が発生し好ましくない。
【0040】
「チタン化合物と下記化学式(II)で表されるリン化合物の反応生成物由来として含まれるチタン元素」、「ポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素」とはポリエステル製造工程において、触媒として用いる化合物に由来するチタン元素の事を指し、例えば艶消し用途等のためにポリエステルに添加される二酸化チタンや他の無機チタン化合物は除くということである。これらは、例えば以下のような手法により、「ポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素」に該当しないチタン元素を含むチタン化合物と分離することができる。すなわちポリエステルサンプルを、ポリエステルを溶解可能なオルトクロロフェノール等に溶解した後、例えば0.5規定塩酸で抽出操作を行う。この抽出操作後、遠心分離などにより固液分離操作を行い、0.5規定塩酸に抽出され溶解しているチタン元素を「ポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素」等と称することができる。一方0.5規定塩酸中に溶解せず、沈殿となっている成分に含まれているチタン元素は、「ポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素」に該当しない。
【0041】
(触媒添加方法について)
上記チタン化合物とリン化合物との反応生成物と、原子量50以下のアルカリ土類金属元素を含む化合物は、重縮合反応時に存在していればよい。このため触媒の添加は、原料スラリー調製工程、エステル化工程又はエステル交換工程、液相重縮合工程等のいずれの工程で行ってもよい。また、触媒全量を一括添加しても、複数回に分けて添加してもよい。更に、反応生成物とアルカリ土類金属も同時に添加しても、別々に添加しても良い。またアンチモン元素を含む化合物は主に重縮合触媒、その他の目的をも果たすので、重縮合反応終了時までに添加・存在していれば良い。
【0042】
(固有粘度について)
本発明の共重合ポリエステルの固有粘度(溶媒:オルトクロロフェノール、測定温度:35℃)は0.55〜1.00dL/gの範囲であることが好ましい。固有粘度が0.55dL/g以下である場合、得られるポリエステル繊維の強度が不足し、一方、1.00dL/g以上とする場合、溶融粘度が高くなりすぎて溶融成形が困難になるため好ましくなく、また、溶融重合法に引続いて固相重合法により共重合ポリエステルの重縮合工程での生産コストが大幅に増大するため好ましくない。常圧カチオン可染性ポリエステルの固有粘度としては、0.60〜0.90dL/gの範囲が更に好ましい。共重合ポリエステルの固有粘度を0.55〜1.00dL/gの範囲するためには、溶融重合を行う際の最終の重合温度、重合時間を調整したり、溶融重合法のみでは困難な場合には固相重合を行って適宜調整することができる。本発明においては、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を上記数式(1)及び(2)を満たすようにポリエチレンテレフタレートに対して共重合を行うことで上述のような手法により固有粘度を0.55〜1.00dL/gにすることが可能となる。
【0043】
(ジエチレングリコール[DEG]の含有量について)
本発明における共重合ポリエステル中に含有されるジエチレングリコールは、2.5重量%以下であることが好ましい。より好ましくは2.2重量%以下、更により好ましくは1.85〜2.2重量%である。一般にカチオン可染性ポリエステルを初めとする共重合ポリエステルを製造する際には、ポリエステルの製造工程において副生するジエチレングリコール(DEG)量を抑制するために、DEG抑制剤として少量のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、水酸化テトラアルキルホスホニウム、水酸化テトラアルキルアンモニウム、トリアルキルアミンなどの少なくとも1種類を、使用するカチオン可染性モノマー(本発明の場合はスルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の全モル量)に対して、1〜20モル%程度を添加することが好ましい。この添加量及び重縮合反応の温度、真空度(減圧度)、重縮合時間等を適宜設定する事で上記の含有量にすることができる。
【0044】
(共重合ポリエステルの製造方法について)
本発明における共重合ポリエステルの製造は特に限定されず、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)を請求項1に記載の条件を満たすように使用することに留意する他は、通常知られているポリエステルの製造方法が用いられる。すなわち、テレフタル酸とエチレングリコールの直接エステル化反応させる、あるいはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸のエステル形成性誘導体とエチレングリコールとをエステル交換反応させて低重合体を製造する。次いでこの反応生成物を重縮合触媒の存在下で減圧加熱して所定の重合度になるまで重縮合反応させることにより製造される。スルホイソフタル酸を含有する芳香族ジカルボン酸及び/又はそのエステル誘導体(スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B))を共重合する方法についても通常知られている製造方法を用いる事ができる。これらの化合物の反応工程への添加時期は、エステル交換反応又はエステル化反応の開始当初から重縮合反応の開始までの任意の時期に添加することができる。他に本発明の共重合ポリエステルの製造に用いるチタン触媒、アルカリ土類金属元素を含む化合物、アンチモン元素を含む化合物の添加時期等については既に説明したとおりである。このような操作を行うことによって本発明の共重合ポリエステルを製造することができる。
【0045】
(その他添加剤について)
また、本発明における共重合ポリエステルは、必要に応じて少量の添加剤、例えば酸化防止剤、蛍光増白剤、帯電防止剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、遮光剤又は艶消し剤などを含んでいても良い。特に酸化防止剤、艶消し剤などは特に好ましく添加される。
【0046】
(溶融紡糸について)
本発明における共重合ポリエステルの製糸方法は、特に制限は無く、従来公知の方法が採用される。すなわち、乾燥した共重合ポリエステルを270℃〜300℃の範囲で溶融紡糸して製造することが好ましく、溶融紡糸の引取り速度は400〜5000m/分で紡糸することが好ましい。紡糸速度がこの範囲にあると、得られるポリエステル繊維の強度も十分なものであると共に、安定して巻取りを行うこともできる。さらに、上述の方法で得られた未延伸糸若しくは部分延伸糸を、延伸工程にて1.2倍〜6.0倍程度の範囲で延伸することが好ましい。この延伸は未延伸ポリエステル繊維を一旦巻き取ってから行ってもよく、一旦巻き取ることなく連続的に行ってもよい。また、紡糸時に使用する口金の形状についても特に制限は無く、円形、三角形・四角形等の多角形、3以上の多葉形、C型断面、H型断面、X型断面、又はこれらの断面形状に更に中空を有する断面のいずれであってもよい。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、実施例中の分析項目などは、下記記載の方法により測定した。
【0048】
(ア)触媒、ポリエステル中のアルカリ土類金属元素、リン元素、硫黄元素、チタン元素、アンチモン元素の濃度(含有量):
乾燥したポリエステルサンプルを走査型電子顕微鏡(日立計測器サービス株式会社製S570型)にセットし、これに連結したエネルギー分散型X線マイクロアナライザー(XMA、株式会社堀場製作所製EMAX−7000)を用いてポリエステル中の各元素の濃度を求めた。
【0049】
(イ)固有粘度:
共重合ポリエステル試料を100℃、60分間でオルトクロロフェノールに溶解した希薄溶液を、35℃でウベローデ型粘度計を用いて測定した値から求めた。
【0050】
(ウ)チップカラー(Col−L,b)
粒状のポリマーサンプルを160℃×90分乾燥機中で熱処理し、結晶化させた後、カラーマシン社製CM−7500型カラーマシンで測定した。Col−Lは70以上を可、Col−bは15以下を可とした。
【0051】
(エ)スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び化合物(B)の共重合量
ポリマーサンプルをトリフルオロ酢酸/重水素化クロロホルム=1/1混合溶媒に溶解後、日本電子(株)製JEOL A−600 超伝導FT−NMRを用いて核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)を測定して、そのスペクトルパターンから常法に従って、各プロトン量により定量した。特にイソフタル酸骨格由来の水素原子に着目した。また上記のエネルギー分散型X線マイクロアナライザーを用いた測定による硫黄元素含有量、リン元素含有量も参考にした。
【0052】
(オ)ジエチレングリコール(DEG)含有量:
ヒドラジンヒドラート(抱水ヒドラジン)を用いてポリエステル試料チップを分解し、この分解生成物中のジエチレングリコールの含有量をガスクロマトグラフィー(ヒューレットパッカード社製(HP6850型))を用いて測定した。
【0053】
(カ)カチオン可染性:
得られたポリエステル繊維を常法に従い丸編みの編み物を作成し、この編み物をCATHILON BLUE CD−FRLH)0.2g/L、CD−FBLH0.2g/L(いずれも保土ヶ谷化学株式会社製のカチオン可染性染料)、硫酸ナトリウム3g/L、酢酸0.3g/Lの染色液中にて100℃で1時間、浴比1:50で染色を行い、次式により染着率を求めた。
染着率=(OD−OD)/OD
OD:染色前の染液の576nmの吸光度
OD:染色後の染液の576nmの吸光度
本発明の実施例では、染着率98%以上のものを可染性良好と判断した。
【0054】
[参考例:チタン触媒の合成方法]
エチレングリコール525.6重量部とモノブチルホスフェート4.4重量部を入れて混合攪拌した中に、チタンテトラブトキシドのエチレングリコール溶液68.4重量部(チタン元素の濃度で1重量%、酢酸を溶液重量に対して1重量%添加)をゆっくり添加し、徐々に昇温して120℃の温度で1時間攪拌保持したのち、得られた懸濁液を室温まで放冷した(この溶液中でリンとチタンのモル比は2.0であった。以下、この溶液を「TM2触媒液」と略す)。この液100mLを100mLメスシリンダーに採取し24時間静置しても、液中に触媒粒子は浮遊、分散したままで、底部に沈殿・凝結はしなかった。以下、このチタン/リン反応生成物を含む溶液をTM2触媒液と称する。
【0055】
[実施例1]
テレフタル酸ジメチル100重量部、5−ナトリウムスルホイソフタル酸ジメチル3.0重量部とエチレングリコール60重量部の混合物に、酢酸ナトリウム三水和物0.12重量部、酢酸マグネシウム0.01重量部を攪拌機、精留塔等を備えたエステル交換反応槽に添加し、140℃から240℃まで徐々に昇温しつつ、反応の結果生成するメタノールをエステル交換反応槽外に留出させながらエステル交換反応を行った。所定量のメタノールを留出した時点でエステル交換反応を終了させた。
【0056】
その後、エステル交換反応の反応生成物に三酸化アンチモン0.02重量部と上述のTM2溶液6.5重量部5−スルホイソフタル酸テトラブトキシホスホネート5.2重量部を添加して重合容器に移し、285℃まで昇温し、30Pa以下の高真空にて重縮合反応を行い、重合槽の攪拌機電力が所定電力に到達、若しくは所定時間を経過した段階で反応を終了させ、常法に従いチップ化して共重合ポリエステルを得た。得られたポリエステルの反応条件、品質結果を表1に示す。
【0057】
このようにして得られたポリエステルチップを140℃、5時間乾燥後、紡糸温度285℃巻取り速度400m/minで330dtex/36フィラメントの原糸を作り、次いで常法により4.0倍に延伸して83dtex/36フィラメントの延伸糸を得た。共重合ポリエステルの製造条件と、カチオン可染性の評価結果の詳細を表1、表2に示した。
【0058】
[実施例2〜5、比較例1〜6]
実施例1において、各触媒組成などを表1の通り変更して共重合ポリエステルを得た。結果を表1に示す。実施例3では酢酸マグネシウムの代わりに酢酸カルシウムを用い、比較例1においてはアルカリ土類金属化合物を用いず、酢酸ナトリウム三水和物のみでエステル交換反応を行った。比較例1、2、5については、反応時間が240分経過しても所定攪拌電力に到達しなかったため反応性不良と判断して反応を打ち切り、実施例1と同様にチップ化し、更に溶融紡糸を行いポリエステル繊維も製造した。結果を表1、表2に示した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、常圧下でのカチオン染色による染着性が良好で、且つ従来のカチオン可染性ポリエステルよりも強度の高く、色相も良好なポリエステル繊維を提供することができる。その産業上の意義はきわめて大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主たる繰返し単位がエチレンテレフタレートより構成される共重合ポリエステルであり、該共重合ポリエステルを構成する酸成分中に、スルホイソフタル酸の金属塩(A)及び下記化学式(I)で表される化合物(B)を、
【化1】

[上記式中、Rは水素又は炭素数1〜10個のアルキル基を表し、Xは4級ホスホニウム塩又は4級アンモニウム塩を表す。]
下記数式(1)及び(2)を同時に満足するように共重合された共重合ポリエステルであり、
3.0≦A+B≦5.0 ・・・(1)
0.2≦B/(A+B)≦0.7 ・・・(2)
[上記数式中、Aは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とするスルホイソフタル酸の金属塩の共重合量(モル%)、Bは共重合ポリエステルを構成する全酸成分を基準とする上記化学式(I)で表される化合物(B)の共重合量(モル%)を表す。]
チタン化合物と下記化学式(II)で表されるリン化合物
【化2】

[上記式中、R及びRはそれぞれ独立に9個未満の炭素原子を有するアルキル基、又は水素原子を表す。]
との反応生成物、原子量50以下のアルカリ土類金属元素及びアンチモン元素を、下記数式(3)〜(6)を同時に満足するように含有することを特徴とする共重合ポリエステル。
5≦MALK≦50 ・・・(3)
10≦MSb≦50 ・・・(4)
10≦MTi≦50 ・・・(5)
20≦(MSb+MTi)≦90 ・・・(6)
[上記数式中、MALK,MSb,MTiはそれぞれ、前記共重合ポリエステルを構成する全酸成分の総モル量に対するアルカリ金属元素、アンチモン元素、上記のポリエステル製造用触媒として用いるチタン元素の量を示し、単位はミリモル%である。]
【請求項2】
アルカリ土類金属がマグネシウム、カルシウムであることを特徴とする請求項1記載の共重合ポリエステル。
【請求項3】
チタン化合物がチタンテトラアルコキシドであることを特徴とする請求項1〜2のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項4】
チタン化合物とリン化合物とのモル比(P/Ti)が1.5〜3.0の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項5】
該共重合ポリエステルの固有粘度が0.55〜1.00dL/gの範囲である請求項1〜4のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項6】
該共重合ポリエステル中のジエチレングリコール含有量が2.5重量%以下である請求項1〜5のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項7】
スルホイソフタル酸の金属塩が、5−ナトリウムスルホイソフタル酸である請求項1〜6のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項8】
上記化合物(B)が、5−スルホイソフタル酸テトラブチルホスホニウム塩である請求項1〜7のいずれか1項記載の共重合ポリエステル。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項記載の共重合ポリエステルを溶融紡糸して得られる共重合ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2010−95621(P2010−95621A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−267346(P2008−267346)
【出願日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】