説明

常温・常圧の大気からプラズマジェットを放出する装置およびその装置の利用

本発明は、陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に放電を発生させることができる電界発生装置(2)を備える常圧・常温プラズマジェット(10)放射装置であって、陰極アセンブリは、陰極内誘電空間を画定するように成形されており、該陰極内空間は、陰極アセンブリ内で、該陰極アセンブリの少なくとも1つの陰極面に対向して広がり、陰極内空間の外に開いた陰極開口部(5)を少なくとも1つ有しており、該陰極開口部(5)は、陰極表面の少なくとも1つの活性稜部(7)によって画定され、該活性稜部(7)は、陰極開口面(8)内に延びており、陽極アセンブリは、陰極内空間の外に向けて、陰極アセンブリの陰極開口部(5)に対して側方かつ深さ方向に配置された尖端部を少なくとも1つ備える装置において、尖端部が、陰極開口面(8)まで延びるように、かつ陰極内空間の外に向けて所定の方向に沿って自発的に放射されるプラズマジェット(10)の放出を引き起こすことができるように、配置されることを特徴とする装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常圧・常温の大気からプラズマジェットを放出する装置であって、自己放射式のプラズマジェット、すなわち、その放射のためにガスフローを発生する特定の手段を追加する必要のないプラズマジェットの形成に適合する装置に関する。
【0002】
このようなプラズマジェット放出装置は、特に、プラズマによる表面処理が必要とされるナノテクノロジーの分野で、プラズマによる局所治療、とりわけ血液凝固もしくは外科的処置の対象部位における無菌化の確立や維持の目的のため生物医学の分野で、および/または、汚染除去、生物学的除染もしくは滅菌を目的のため表面処理の分野で、その用途を見出すことができる。
【背景技術】
【0003】
絶縁材料で被覆された2つの電極の間で誘電体バリア放電(DBD)による「低温」(すなわち、常温・常圧)プラズマを発生させ、両電極間にガスフロー(例えば、ヘリウム、アルゴン、窒素)を流すことができる装置は、すでに様々なものが知られている。
【0004】
第1タイプの既知の解決方法(例えば、Laroussi他(2005年)、Applied Physics Letters、87、986−987、『Room−temperature atmospheric pressure plasma plume for biomedical applications』)では、かかる装置は、2つの電極を備え、該電極には電位差が与えられ、推定移動速度8m/sでアルゴンフローが通り抜ける。このような解決方法では、加圧アルゴンの貯蔵手段および両電極間を流れるアルゴンフローの導入手段が予め前提とされる。特に、かかる解決方法には、圧縮ガスの使用に伴う実務的な問題がある上に、常圧・常温で自己放射される大気プラズマを生成することもできない。
【0005】
第2タイプの既知の解決方法は、前記解決方法と似通っているが、絶縁ガス量によって隔離された2つの同軸電極間に「コロナプラズマ」型プラズマを形成するものである。
【0006】
Pointu他(2005年)の文書(Pointu A.M.,Ricard A.,Dodet B.,Odic E.,Larbre J.et Petchu M.G.,(2005),J.Phys.D Appl.Phys.38,1905−1909;《Production of active species in N−O flowing post−discharges at atmospheric pressure for sterilization》)には、あらかじめ形成した窒素と酸素のガスフローを2つの電極間に発生する10kHzのパルス状コロナ放電によって処理する際に生成される低温プラズマによる滅菌法が記載されている。かかる滅菌法には、ガスフロー形成のための外部手段が必要である。また、大気圧の大気から自己放射プラズマを形成することもできない。
【0007】
米国特許第7,229,589号は、あらかじめ圧力下で条件づけられた窒素分子フローをパルス状放電にさらし、不連続放電によってガスフローが処理されるようにする表面の除染方法を記載している。かかる除染方法は、高純度の窒素分子の調製手段および加圧手段を除染処理に先立って必要とし、大気圧の大気から自己放射プラズマジェットを発生させることもできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第7,229,589号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Laroussi他(2005年)、Applied Physics Letters、87、986−987、『Room−temperature atmospheric pressure plasma plume for biomedical applications』
【非特許文献2】Pointu他(2005年)、(Pointu A.M.,Ricard A.,Dodet B.,Odic E.,Larbre J.et Petchu M.G.,(2005),J.Phys.D Appl.Phys.38,1905−1909;《Production of active species in N2−O2 flowing post−discharges at atmospheric pressure for sterilization》
【発明の概要】
【0010】
本発明は、特にコロナ放電により、低温プラズマジェットを放出するように適合し、電極間のガスフローを用意するための特定の追加器具を必要としない装置を提案することによって、上述の欠点を補うことを目的とする。
【0011】
特に、本発明は、大気圧内で使用できるように適合し、電極間空間の真空引きや加圧のための手段を一切必要としないような装置を提案することを目的とする。
【0012】
本発明は、さらに、放電から離れて(すなわちポスト放電に近い形で)、したがって、励起イオン種をほとんど含まない一方、中性種、放射種および/または準安定種、特にラジカル種である励起種を豊富に含む低温プラズマジェットを放出するように適合された装置を提案することを目的とする。
【0013】
本発明は、とりわけ、常温・常圧の大気から低温プラズマジェットを形成することができるような装置を提案することを目的とする。
【0014】
本発明は、さらに、原価が安いと同時に、普及品で廉価な手段−とりわけ電子的および電気的構成要素−によって実施される低温プラズマジェット放出装置を提案することによって、これらすべての目的を低コストで達成することを目的とする。
【0015】
本発明は、さらに、表面処理の分野での、本発明による装置の利用を目的とする。
【0016】
本発明は、また、特に表面処理のために適合するような装置、および本発明による装置を利用する方法における処理すべき表面の処理方法を提案し、この方法はその使用が簡単で、少なくとも既知の方法に匹敵する効果がある。
【0017】
本発明は、より詳細には、その使用が利用者に危険を与えることのないような装置およびその利用を提案することを目的とする。
【0018】
本発明は、さらに、効率が高く環境を重視した、処理表面の処理をするような装置およびその利用を提案することを目的とする。
【0019】
本発明は、それらに加え、従事者の作業慣習を変えることなく、これらの目的を達成することを目的とする。本発明は、とりわけ、利用が簡単で、その使用のためにわずかな操作しか必要としないような装置を提案することを目的とする。
【0020】
そこで、本発明は、陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に放電を発生させることができる電界発生装置を備える常圧・常温プラズマジェット放射装置であって、
− 陰極アセンブリは、陰極内空間と呼ぶ誘電空間を画定するように成形されており、該陰極内空間は、
・ 陰極アセンブリ内で、該陰極アセンブリの少なくとも1つの陰極面に対向して広がり、かつ、
・ 陰極内空間の外に向かって開いた陰極開口部を少なくとも1つ有しており、
・ 該陰極開口部は、活性稜部と呼ぶ陰極表面の稜部の少なくとも1つによって画定され、該活性稜部は、陰極開口面と呼ぶ平面内に延びており、
− 陽極アセンブリは、陰極内空間の外に向けて、陰極アセンブリの陰極開口部に対して側方かつ深さ方向に配置された部位であって、最小曲率半径を持つ尖端部と呼ぶ部位を少なくとも1つ備え、
該装置は、陽極アセンブリの尖端部が、陰極開口面まで延びるように、かつ陰極内空間の外に向けて所定の方向に沿って自発的に放射されるプラズマジェットの放出を引き起こすことができるように、配置されることを特徴とする。
【0021】
電界発生装置は、プラズマジェットを発生させることができる電界を生成するように陽極アセンブリおよび陰極アセンブリに接続される。そのためには、この電界の電位は、陽極アセンブリレベルでより高く、陰極アセンブリレベルではより低い値でなければならない。この電位条件が満たされれば、プラズマジェットが放出される。
【0022】
交番またはパルス状などの可変的な電界を用意することを阻害せず、ジェットの放出もまた、電界の変化の周波数で断続的に行われる。好ましくは、電界発生装置は、陽極アセンブリおよび陰極アセンブリに所定の一定値(連続またはパルス状)の電位を与えるように適合される。換言すれば、電界は極性が不変であり、特に交番ではない。
【0023】
本明細書全体を通して、「陽極」または「陽極アセンブリ」とは、(連続またはパルス状)電界発生装置によって発生する電界において、最も高い電位に置かれる電極または電極アセンブリをそれぞれ意味する。「陰極」または「陰極アセンブリ」とは、電界発生装置によって発生する電界において最も低い電位であって、とりわけ接地電位(通常は大地の電位)に相当する電位に置かれる電極または電極アセンブリをそれぞれ意味する。
【0024】
有利には、電圧発生装置は、連続電圧発生装置およびパルス電圧発生装置、とりわけ1kHz〜100kHzの範囲の周波数のパルス電界を形成する電圧発生装置からなる群から選択される。
【0025】
有利には、電圧発生装置は、陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に、0.5kV〜20kVの範囲の電圧を与えるように適合される。
【0026】
陰極内空間は、陰極アセンブリの導体材料からなる陰極表面部位(隔壁)の間に広がる空洞である。陰極内空間は、陰極アセンブリ内部に収まっており、該陰極アセンブリは陰極開口部を通して陰極内空間の外に向かって開く。陰極内空間は、常圧常温の大気などの物質によって満たされる。しかしながら、陰極内空間は、その他のあらゆる気体もしくは誘電性の気体組成物、または固体誘電体で占められてもよい。
【0027】
変形形態として、本発明による装置が、陰極アセンブリの陰極内空間に気体組成物を導入するための手段をさらに備えることを阻害しない。しかしながら、このような手段は、自己放射低温プラズマジェットの形成および放出に必要ではない。しかし、このような手段は、大気の気体種以外の気体種から得られる励起種を含む自己放射プラズマジェットを実施可能にし得る。しかしながら、この変形形態では、プラズマジェットの生成は、前記気体組成物の導入のみによっては果たされない。
【0028】
陽極アセンブリの尖端部は、自己放射低温プラズマジェットが、陰極開口部を抜けて陰極内空間の外へ、陽極アセンブリに対向して広がる空間に形成されるように、陰極内空間の外に向けられる。陽極アセンブリの尖端部の最小曲率半径は、陰極アセンブリの陰極表面の方向に向けられるのではなく、陰極表面と交わらない方向、とりわけ陰極アセンブリの陰極開口部によって画定される平面とほぼ垂直な方向に沿って向けられる。
【0029】
陽極アセンブリの尖端部は、回転対称形の単純な先端、すなわち正真正銘の先端の形であり得る。陽極アセンブリの尖端部は、1つの平面でのみ断面が最小曲率半径を持ち、それ以外の平面では曲率が異なる非回転対称形でもあり得る。本明細書全体では、「尖端部」という表現は、陽極アセンブリの尖端部が、長い、短い、直線的、曲線的に関わらず、陽極アセンブリの表面に長手方向に延びて、その横断面には陰極内空間の外に向けられた最小曲率半径を持つ単純な稜部である実施形態も包含していると理解されなければならない。
【0030】
本願発明者は、陰極開口部に対して上述のように配置された最小曲率半径を持つ尖端部を備える陽極アセンブリに対して正の高電圧を印加すると、常圧・常温で大気から活性種が発生することによって放電を形成できるだけでなく、陰極内空間でガスフロー生成のための専用の外部手段を一切用いることなく、陰極内空間の外に向かう自己放射低温プラズマジェットを形成できることを、驚きをもって確認した。
【0031】
本発明による装置では、陰極内空間の外に向かう自己放射低温プラズマジェットの形成が、確かに、放電−とりわけコロナ放電−を形成するように適合された陽極アセンブリおよび陰極アセンブリの存在下で、(励起種−したがってほぼ非イオン種−が生成される)陽極アセンブリの尖端部と対向して、陰極内空間の外に向かって、陰極開口面とほぼ垂直の方向に起こる。
【0032】
本発明による装置では、(先行技術の装置のように)−陽極アセンブリと陰極アセンブリの間での−電弧の形成による自己放射低温プラズマジェットの形成は起こらず、形成されるイオン種は陰極アセンブリに引き寄せられる。
【0033】
有利には、自己放射低温プラズマジェットは、陽極アセンブリの尖端部から、該尖端部の最小曲率半径とほぼ平行をなす方向に生成される。
【0034】
本願発明者は、本発明による装置の陽極アセンブリに高電圧を加えたとき、陽極アセンブリの尖端部から陰極内空間の外に向けて、装置の陽極アセンブリと陰極アセンブリを隔てる距離と同程度の規模にわたって延びる光暈が形成されるのを観察した。
【0035】
本願発明者は、この光暈は、励起されて放射状態の分子種が形成され、その脱励起の遷移過程が光子の放出を伴うものであり、励起された該分子種が陰極内空間の外に放射されていることを示すものであると考える。この自己放射プラズマ気体物質のジェットは、荷電粒子の混合物によって構成され、陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に形成される電界によって動きを与えられ、加速されることによって形成されるイオン粒子風に由来するもので、その一部が弾性衝突の際にその運動量を中性粒子に伝え、それが常圧・常温での大気からの自己放射プラズマジェットの放出へとつながっていることになるだろう。
【0036】
光暈より数センチメートル先の距離まで延びるこのプラズマ物質のジェットの自発生成は、風速計を用いて観察され、測定された。
【0037】
このような装置は、装置の陰極内空間の外に向けて、陰極内空間外に自己放射プラズマジェットを形成する電界を、陽極アセンブリの尖端部から、およびその直近に形成することができる。
【0038】
有利には、本発明による装置では、陰極内空間の外に向かう自己放射低温プラズマジェットの形成のために、陰極内空間の中に気体組成物のフローを生成させる専用の外部器具を追加する必要がない。
【0039】
有利には、好ましくは、本発明によれば、陽極アセンブリの尖端部は、陰極開口面まで、ただしそれを超えない(陰極開口面に接する)ところまで延びるように配置される。
【0040】
有利には、本発明によれば、陰極開口面は陽極アセンブリの尖端部に接して延びる。有利には、陰極開口面は、陽極アセンブリの尖端部に接して、かつ該尖端部の曲率半径と垂直に延びる。そのため、本発明による装置では、プラズマジェットは、陰極開口面とほぼ垂直をなす方向に、陽極アセンブリの該尖端部から陰極内空間の外に向けて自発放射される。実際、最良の結果が得られるのはこの位置である。
【0041】
本発明によるこのような装置では、プラズマジェットは、陰極アセンブリ表面の方向ではなく、陰極内空間の外に向けて自発的に−すなわち、陰極内空間内で形成される、または陰極内空間内を流れるガスフローを用いることなく−放射される。
【0042】
有利には、本発明によれば、電圧発生装置は、陽極アセンブリと陰極アセンブリの間にコロナ放電を発生させることができる。有利には、電圧発生装置は、陰極アセンブリの内部に広がる陰極内空間であって、陽極アセンブリの尖端部を備える陰極内空間の中にコロナ放電を発生させることができる。有利には、電圧発生装置は、陰極アセンブリの内部に広がる陰極内空間の中で、陽極アセンブリの尖端部からコロナ放電を発生させることができる。
【0043】
本発明によるかかる装置は、大気から常圧・常温で活性種−特に非イオン活性種−を発生させて陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に正極性のコロナ放電を形成し、それによって、ガスフロー発生のための外部手段を一切用いることなく、陰極開口面と垂直の方向に沿って軸端の前記尖端部と対向する陰極内空間の外に自己放射プラズマジェットが形成されるように、構成される。とりわけ、かかる装置は、高温でイオン種および解離種を生成する電弧が形成されないように適合される。
【0044】
有利には、本発明によれば、陰極開口部は、活性稜部と呼ぶ陰極表面の稜部の少なくとも1つによって画定され、該活性稜部は陰極開口面内に延びる。陰極開口面は陰極アセンブリに対する仮想的な切断面である。
【0045】
これにより、陽極アセンブリおよび陰極アセンブリは、陰極内空間から先に陰極開口面によって画定される半空間が空けられるように適合される。ただし、変形形態では、陽極アセンブリ(および尖端部)は、部分的に陰極開口面を超えて陰極内空間の外側へ、または逆に陰極内空間の内側へ、ある一定の距離延びることもできる。低温プラズマジェットは、陽極アセンブリの尖端部から、陽極アセンブリの該尖端部に対向して延びる空間内に自己放射される。
【0046】
有利には、自己放射低温プラズマジェットは、陽極アセンブリの尖端部から、該尖端部の最小曲率半径とほぼ平行をなす方向に生成される。また、自己放射低温プラズマジェットは、陽極アセンブリの尖端部から、陰極アセンブリの活性稜部とほぼ直交する方向に生成される。
【0047】
有利には、本発明によれば、陽極アセンブリは、軸方向の周りの回転体(針状)である円柱状陽極を少なくとも1つ備え、尖端部は該円柱状陽極の軸端尖端部であり、該軸端部は、前記軸方向を含む少なくとも1つの軸方向面内に、発生装置によって形成される電界の作用によってその軸端尖端部から放電を形成できるように適合された値の最小曲率半径を持つ断面を有する。
【0048】
有利には、本発明によれば、活性稜部は陰極アセンブリの陰極の稜部であり、該稜部は、その陰極と組み合わされる陽極アセンブリの円柱状陽極の軸端部を取り囲む。
【0049】
有利には、本発明によれば、陰極の活性稜部は、該陰極の陰極開口面に垂直な少なくとも1つの対称面を有し、前記陰極開口面は、その陰極が組み合わされて、低温プラズマジェットを自発的に陰極開口面と垂直の方向に向かわせるように適合する相手である各々の円柱状陽極の軸端部を含む。
【0050】
本発明による装置の1つの変形形態によれば、陰極(または複数の陰極)は、二等辺三角形−特に正三角形−の頂点の位置を占めるように配置された活性稜部を有し、円柱状陽極の軸端尖端部は、該三角形の重心を占めるように配置される。
【0051】
有利には、本発明によれば、陰極アセンブリの活性稜部は、陰極開口面と垂直な面の少なくとも1つであって、円柱状陽極の軸端尖端部を含む該垂直な面内で、その陰極アセンブリと組み合わされる該軸端尖端部に対して対称をなす断面形状を持つ。そのため、本発明による装置では、陰極アセンブリは、円柱状陽極の軸端尖端部に対して対称に陰極開口面内に延びる少なくとも2つの活性稜部を有しており、低温プラズマジェットを自発的に陰極開口面に対して垂直に向かわせるように適合される。
【0052】
有利には、本発明による1つの変形実施形態では、陰極アセンブリは、前記陰極開口面に垂直なそれぞれの面内で、陰極アセンブリに組み合わされる各々の円柱状陽極の前記軸端尖端部に対して対称をなす断面形状を持つ活性稜部を有する。陰極アセンブリの活性稜部は、陰極開口面内に延びる連続的な活性稜部であり、陽極アセンブリの円柱状陽極の軸端尖端部に対して点対称をなす。
【0053】
有利には、本発明によれば、陰極アセンブリの活性稜部は、円形または対称中心を持つ多角形−特に六角形、八角形、平行四辺形、好ましくは正方形−の形をなす。
【0054】
このような装置は、大気から常圧・常温で活性種を発生させて陽極アセンブリと陰極アセンブリの間に正極性のコロナ放電を形成し、それによって、ガスフロー生成のための外部手段を一切用いることなく、前記軸端尖端部に対向する陰極内空間の外に、陰極開口面と垂直の方向に自己放射プラズマジェットが形成されるようにすることができる。
【0055】
有利には、本発明によるもう1つの変形実施形態によれば、陰極アセンブリは、それぞれが直線的活性稜部を有する2つの陰極プレートを備え、2つの陰極プレートの該直線的活性稜部は、同一平面上にあって互いに平行であり、陽極アセンブリの尖端部を含む中心面に対して互いに対称形をなす。陽極アセンブリは、複数の円柱状陽極によって形成されることができ、それぞれの円柱状陽極の最小曲率半径の軸端尖端部は、前記中心面内および陰極開口面内に延びる。
【0056】
有利には、本発明によれば、陽極アセンブリの尖端部の最小曲率半径は、500μm未満であり、特に1μmから500μmまでの範囲であり、とりわけ10μmから100μmまでの範囲である。好ましくは、陽極アセンブリの尖端部の最小曲率半径は、20μm程度である。
【0057】
有利には、本発明によれば、陽極アセンブリの尖端部は、タングステン、タングステンカーバイド、アルミニウムおよびそれらの合金からなる群から選択される導体材料によって形成される。
【0058】
有利には、本発明によれば、陰極アセンブリの陰極開口面は、円柱状陽極の軸方向とほぼ垂直をなす。プラズマジェットは、円柱状陽極の軸端尖端部から、陰極開口面と垂直な方向に、かつ円柱状陽極の軸方向と平行に自己放射される。
【0059】
しかし、もう1つの変形形態では、陰極アセンブリの陰極開口面は、円柱状陽極の軸方向に対して傾斜したものであってよい。本発明による装置のこの変形形態においては、プラズマジェットは、円柱状陽極の軸端部から、陰極開口面と垂直な方向であって、円柱状陽極の軸方向と平行でない方向に自己放射される。
【0060】
有利には、本発明によれば、陰極アセンブリの活性稜部は、真鍮、銅およびそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1つの導体材料によって形成される。
【0061】
有利には、本発明によれば、円柱状陽極のそれぞれは、その軸方向と垂直な横断面に、直径が0.5mmから3mmまでの範囲であり、とりわけ1mm程度である、ほぼ円盤の形を持つ。本発明による装置は、そのため、円柱状陽極を少なくとも1つ備え、それぞれの円柱状陽極は、先端が前記円柱状陽極の長手方向軸にほぼ沿った向きの尖端形をなす。
【0062】
有利には、それぞれの円柱状陽極の軸端尖端部は、陰極アセンブリの陰極開口面内にほぼ延びる最小曲率半径を持つ。有利には、陽極アセンブリのそれぞれの円柱状陽極と陰極アセンブリのそれぞれの陰極は、協働して、それぞれの円柱状陽極の最小曲率半径の軸端部とそれら円柱状陽極に組み合わされる陰極アセンブリとの間にコロナ放電を発生させるように適合される。
【0063】
有利には、本発明による装置は、プラズマジェットを常圧・常温で、1m毎秒から10m毎秒程度の速度(風速計で測定したプラズマジェットのガスフロー速度)で生成するように適合される。
【0064】
有利には、本発明による装置は、ユーザー1人で保持し、運搬し、操作することができるように適合された大きさを持つ。
【0065】
有利には、好ましい実施形態では、本発明による装置は、1つまたは複数の部品によるそれぞれ単一の陰極および陽極からなる陰極アセンブリ1つと陽極アセンブリ1つとを備え、陰極の活性稜部が単一の陽極の軸端部を取り囲む。
【0066】
本発明は、かかる装置を表面処理のために−特に該表面の微生物除染のために−利用することも目的とし、その処理の際、該表面は自己放射プラズマジェット内に配置される。
【0067】
実際、本願発明者は、固体表面に付着した大腸菌を、該固体表面から数ミリメートルの距離に置いた本発明による装置で発生させた低温プラズマジェットにさらすことで、陰極内空間の外に向けてガスフローを形成する自明の専用手段を用いる必要なく、細菌叢の低減を得ること、とりわけ、10分の処理で初期細菌数が1000分の1に減少することを確認した。
【0068】
そのため、有利には、本発明によれば、本発明による自己放射低温プラズマ放出装置を、表面の除染のため、とりわけその表面の生物静力学的処理および/または殺生物処理のために利用する。
【0069】
有利には、処理表面をプラズマ発生装置の電極間に挟み込むのではなく、本発明による装置から放出される自己放射低温プラズマジェットに装置外でさらすようにして、本発明による装置を、表面の処理に利用する。
【0070】
有利には、本発明によれば、本発明による自己放射プラズマジェット放出装置を、血液凝固および無菌状態のために利用する。
【0071】
有利には、本発明によれば、本発明による自己放射プラズマジェット放出装置を、血液凝固または無菌化および/もしくは無菌状態維持の処置を実施するために利用する。
【0072】
本発明は、また、前述または後述の特徴のすべてまたは一部が組み合わされることを特徴とする装置、かかる装置の利用、および方法に関する。
【0073】
本発明のその他の目的、特徴および利点は、もっぱら非限定的な例としてのみ示す本発明の好ましい実施形態を表した添付の図面を参照して行う以下の説明を読むことで、明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明による装置の斜視図であって、一部を取った、実際の比率によらない図である。
【図2】本発明による装置の概略断面図である。
【図3】本発明による装置の第1変形形態の図であって、一部を取った、実際の比率によらない図である。
【図4】本発明による装置の第2変形形態の斜視図であって、一部を取った図である。
【図5a】5.6kVの電圧を加えたときに本発明による装置で得られるコロナ放電の電流の時間的変化を示すグラフである。
【図5b】9.1kVの電圧を加えたときに本発明による装置で得られるコロナ放電の電流の時間的変化を示す図である。
【図6a】本発明による装置で得られるコロナ放電のスペクトル図である。
【図6b】本発明による装置で得られる自己放射プラズマジェットのスペクトル図である。
【図7】本発明による装置の第3変形形態の概略図である。
【図8】本発明による装置の第4変形形態の概略図である。
【図9】本発明による装置の第5変形形態の概略図である。
【図10】本発明による装置の第6変形形態の概略図である。
【図11】本発明による装置の第7変形形態の概略図である。
【図12】本発明による装置の第8変形形態の概略図である。
【図13】図2に示した本発明による装置の変形形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0075】
図1に示す本発明による常圧・常温自己放射プラズマジェット放出装置1は、絶縁体材料製の部品18によって支えられた円筒形回転断面の管片によって形成される導体陰極14を備える。陰極14は導体材料からなり、とりわけ、銅、真鍮またはそれら金属を含む導体合金からなる群から選択された導体金属からなる。陰極14は、管片内側の放射状稜部からなる連続した活性稜部7を備え、該稜部7は、円柱状陽極11の軸端尖端部13と対向して陰極14の陰極開口面8内に延びる。さらに、円柱状陽極11の軸端尖端部13は、円柱状陽極11の軸端尖端部13に対向して陰極14の陰極開口面8内に延びる前記陰極14の連続した活性稜部7の対称中心をなす。陰極14を形成する管片は、5mmから20mmまでの範囲の内径を持つ。とりわけ、管片は、5mm、10mm、13mm、14mmまたは20mmの内径を持つことができる。この場合、円柱状陽極11の軸端尖端部13と陰極14の活性稜部7とを隔てる距離は、それぞれ2.5mm、5mm、6.5mm、7mmまたは10mmである。あくまでも参考として記せば、陰極14を形成する管片の外径は30mmである。この値は、本発明による装置1の実施に影響しない。
【0076】
本発明による自己放射プラズマジェットのこの放出装置1では、陰極14は、横断面に対称中心を持ち、該対称中心は円柱状陽極11の軸方向12に沿った伸長軸に属する。ただし、陰極14の活性稜部7だけが対称中心を定め得る横断面を持つことも可能である。その場合、陰極14を形成する管片の内側稜部によって形成される前記陰極14の活性稜部7が、円柱状陽極11の軸端尖端部13によって形成される対象中心を定めることができれば、陰極14は、任意の形状を持つことができる。そのため、陰極14は円形の横断面を持つことができる。したがって、円柱状陽極11の軸端尖端部13に対向する陰極14の活性稜部7は、横断面において円形の陰極開口面8内にある。
【0077】
本発明による自己放射プラズマジェット放出装置1では、陰極14の活性稜部7は、対称中心を有する多角形、とりわけ、正方形、長方形、六角形、八角形、十角形を、陰極開口面8内の横断面に持つことができる。陰極の連続的な活性稜部7は、偶数の辺を有する多角形を、陰極開口面8内の横断面に持つ。陰極14の連続的な活性稜部7は、奇数の辺を有する多角形であって、陰極開口面8に垂直な対称面を少なくとも1つ定めることができる多角形を、陰極開口面8内の横断面に持つこともでき、その場合、前記対称面は、その陰極14と組み合わされる円柱状陽極11の軸端尖端部13を含む。
【0078】
図1に示す自己放射プラズマジェット放出装置1では、円柱状陽極11は、導体材料からなる中空ではない円柱によって形成されることができる。円柱状陽極11の外面層だけが高電圧発生装置に接続された導体材料からなり、前記円柱状陽極11の軸端尖端部13が、その円柱状陽極11と組み合わされる陰極14の活性稜部7によって画定される陰極開口面8と垂直な方向にほぼ沿った向きに、最小曲率半径を持つこともできる。その場合、前記円柱状陽極11の軸端尖端部13が、円柱状陽極11の軸方向12にほぼ沿った向きに最小曲率半径を持つことができる。
【0079】
本発明による装置1では、絶縁固体材料の一部が、陰極内空間9の外に向かって陰極14の活性稜部7の周囲に延びる前記陰極14の一部を覆う一方、円柱状陽極11の軸端尖端部13を覆い隠さないようにすることができる。
【0080】
図2および図13に図示した自己放射プラズマジェット10の放出装置1では、導体陰極14は、電流測定用抵抗器19を介して接地される。本発明によるこの特定の実施形態では、電流測定のために設けられた測定用抵抗器19の値は50Ωである。本発明によるプラズマジェット10の放出装置1は、陰極14を形成する中空円柱の軸に沿って延びる導体円柱であって、電弧形成時に電流を制限するための25MΩの負荷抵抗器20を介して高電圧発生装置2に電気的に接続される導体円柱からなる、円柱状陽極11をさらに備える。高電圧発生装置2は、連続的またはパルス状電圧を供給するように適合された発生装置2であり得る。高電圧発生装置2は、円柱状陽極11に15kVまでの高電圧を与えるように適合される。
【0081】
本発明による自己放射プラズマジェット10の放出装置1において、円柱状陽極11の軸端尖端部13と該軸端尖端部13に対向する陰極14の活性稜部7とを隔てる距離は、装置1の構造に応じて変化し得る。しかし、本発明によるかかる装置1においては、自己放射プラズマジェット10を発生する正極性のコロナ放電を、より離れた電極間で得るためには、円柱状陽極11に対するより高い値の高電圧の印加か、または円柱状陽極11と陰極14の間の大きな電位差が必要となる。
【0082】
さらに、本発明による自己放射プラズマジェット10の放出装置1では、円柱状陽極11と陰極14の間に、陰極14および円柱状陽極11の端子間の電圧および/または電流を測定するための器具20、とりわけオシロスコープ20を、電気的に接続することが可能である。
【0083】
円柱状陽極11および陰極14は、一体となってそれらを保持するガラス、石英、アルミナ、ポリマー、セラミックからなる群から選択される絶縁材料の部品18を用いて、安定した位置に保持される。円柱状陽極11の軸端尖端部13は、好ましくは、陰極14の陰極開口部5によって画定される陰極開口面8内に延びる。円柱状陽極11の最小曲率半径の軸端尖端部13は、軸方向に陽極14の陰極開口面8の外に、特に数ミリメートルの距離で、とりわけ陰極14の陰極開口面8から1〜2ミリメートル先まで、または手前まで延びることもできる。
【0084】
本発明による装置1においては、絶縁材料の部品18によって、円柱状陽極11の最小曲率半径の軸端部13と陰極14の活性稜部7との間に自由空間が作り出されればよい。
【0085】
図13に示す本発明による装置1においては、導体陰極14が該陰極14の各軸方向面内の断面に四角形の断面を持つ。そのため、本発明による装置では、陰極アセンブリの陰極14は陰極内空間9の縁を形成しない。この場合、コロナ放電は、陰極14の活性稜部7と円柱状陽極11の軸端部13の間に直接生成され、プラズマジェットは、前記軸端部13から、陰極開口面8と垂直かつ円柱状陽極11の軸方向と平行な方向に形成される。
【0086】
図3に示す第1変形形態では、プラズマジェット10の放出装置1は、絶縁材料からなる部品18によって支えられた薄層構造の2つの陰極プレート22によって形成される陰極アセンブリ4を備える。2つの薄層構造の陰極プレート22は、それぞれ前記陰極アセンブリ4の活性稜部7を有しており、陰極プレート22の2つの活性稜部7は、互いに平行で、陰極開口面8を画定する。かかる装置は、さらに、それぞれが最小曲率半径の軸端尖端部13を有し、陰極アセンブリ4の2つの活性稜部7に対向して延びて陽極アセンブリ3を形成する、複数の円柱状陽極11を備える。円柱状陽極11の軸端部13は、2つの陰極プレート22の平行な2つの活性稜部7によって画定される中心面内、および陰極アセンブリ4の陰極開口面8内に延びる。本発明に基づく第1変形形態による装置1の実施により正極性のコロナ放電を実現したとき、本願発明者は、円柱状陽極11の軸端部13から、陰極アセンブリの2つの陰極プレート22の平行な2つの活性稜部7の中心面内に延びるカーテン状のプラズマジェット10の形成を観察した。本発明による装置のこの変形形態では、複数の円柱状陽極11の円柱状陽極11のそれぞれに印加される電圧はほぼ同じである。
【0087】
有利には、2つの陰極プレート22は同一平面上にあり、陽極アセンブリ3の円柱状陽極11の軸端部13は、陰極14を形成する陰極プレート22の2つの活性稜部7によって画定される中心面内に延びる。特に、絶縁材料の部品18によって支えられ、陰極14を形成する2つの平面陰極プレート22はほぼ長方形をなし、円柱状陽極11の軸端部13に対向する陰極14のそれぞれの長方形陰極プレート22の活性稜部7は、互いにほぼ平行である。
【0088】
図4に示す第2変形形態では、プラズマジェット10の放出装置1は、同心円をなす筒形外陰極23および円柱状内陰極24によって形成される陰極アセンブリ4を備える。筒形外陰極23は、該筒形外陰極23を形成する筒の内側稜部であって、装置1の陰極アセンブリ4の陰極開口面8内に延びる筒の内側稜部である、内向活性稜部25を有する。円柱状内陰極24は、該円柱状内陰極24の円柱の長手方向平面端によって画定される稜部であって、陰極開口面8内に延びる稜部からなる、外向活性稜部26をさらに備える。筒形外陰極23および円柱状内陰極24の活性稜部25、26は、導体の金属または金属合金からなる。図4に示すプラズマジェット10の放出装置1は、少なくとも1つの軸方向面内の断面に正極性のコロナ放電を形成できるように適合された最小曲率半径を持つ軸端尖端部13を、それぞれの軸方向に沿って有する複数の円柱状陽極11からなる陽極アセンブリ3をさらに備える。とりわけ、それぞれの円柱状陽極11の軸端尖端部13は、陰極アセンブリ4の陰極開口面8内に延びる。陽極アセンブリ3のそれぞれの円柱状陽極11は、それぞれの円柱状陽極11の軸端部13と、外陰極23の内向活性稜部25と、内陰極24の外向活性稜部26とが、装置1の陰極開口面8内でほぼ一直線になるように、さらに、それぞれの円柱状陽極11の軸端尖端部13が、外陰極23の内向活性稜部25および内陰極24の外向活性稜部26とそれぞれ等距離になるように配置される。
【0089】
図7に模式的に示す第3変形形態では、本発明による装置1は、セグメントの形の連続する直線的な活性稜部7をそれぞれ有する2つの陰極プレート22からなる陰極アセンブリ4を備え、陰極アセンブリ4を形成する2つの陰極プレート22の前記活性セグメント7は、同一平面上にあって平行ではない。有利には、2つの陰極プレート22の活性セグメント7は、互いに鋭角をなすとともに、2つの陰極プレート22の2つの活性セグメント7によって画定される中心面17に対して対称形をなし、該中心面は、陰極アセンブリ4の陰極プレート22に組み合わされる前記円柱状陽極11の軸端部13を含む。本発明による装置のこの変形形態では、2つの陰極プレート22に対向する活性セグメント7を隔てる最小距離は可変で、陰極内空間9を挟んでそれら陰極プレート22に組み合わされる各円柱状陽極11の各軸端部13を隔てる距離も可変である。そのため、各円柱状陽極11に印加される電圧は異なる。この印加電圧は、活性セグメント7に最も近い円柱状陽極11の場合に最も低く、活性セグメント7から最も離れた円柱状陽極の場合に最も高くなる。
【0090】
図8に模式的に示す本発明による装置1の第4変形形態では、陰極14の活性稜部7は、該陰極14に組み合わされる円柱状陽極11の軸端尖端部13に対向する複数の活性稜部セグメント7によって形成される連続した活性稜部7である。本発明による装置1のこの変形形態では、活性稜部セグメント7は、正六角形をなし、陰極14の陰極開口面8内に延びるとともに、その陰極開口面8内で、その陰極14に組み合わされる円柱状陽極11の軸端尖端部13に対して活性稜部セグメント7が2つずつ対で点対称になれるように配される。
【0091】
また、自己放射プラズマジェット10の放出装置1において、陰極14の活性稜部7が陰極開口面8内に延びる正多面体の辺および/または頂点をなし、陽極アセンブリ3の軸端尖端部13も同様に、ほぼ陰極開口面8内に延びて、正多面体に外接する円の中心をなすこともできる。とりわけ、その正多面体は、正三角形、正方形、正五角形、正六角形、正七角形、正八角形、ならびに辺および頂点の数がそれよりも多いその他のあらゆる正多面体であり得る。
【0092】
図9に模式的に示す本発明による装置の第5変形形態では、陰極14の活性稜部7は、陰極アセンブリ4の陰極開口面8内に広がる複数の不連続な活性セグメントから形成される。さらに、活性セグメント7は、陰極14の陰極開口面8内に、その陰極14に組み合わされる円柱状陽極11の軸端尖端部13に対して活性セグメント7が2つずつ対で点対称になれるように配される。また、活性セグメント7の配分は、陰極14に組み合わされる円柱状陽極11の軸端尖端部13からなる対称中心を形成することもできる。
【0093】
図10に模式的に示す本発明による装置1の第6変形形態では、陰極アセンブリ4は、接地された複数の陰極14からなる。それぞれの陰極14は、陰極アセンブリ4の陰極開口面内に延びる活性稜部7を有し、該陰極開口面は、円柱状陽極11の軸端尖端部13を含む。
【0094】
図11に模式的に示す第7変形形態では、本発明による装置1は、同一平面上の2つの導体線28からなる陰極アセンブリ4を備え、それぞれが陰極アセンブリ4の活性稜部7をなす同一平面上の2つの導体線28は、少なくとも1つの円柱状陽極11の軸端尖端部13に対向して延び、それぞれの円柱状陽極11の軸端部13は、同一平面上の導体線28の活性稜部7によって形成される陰極開口面8内に延び、さらに、その陽極アセンブリ3に組み合わされる前記活性稜部7の中心面17内に延びる。
【0095】
図12に模式的に示す第8変形形態では、本発明による装置1は、それぞれが活性稜部7を持つ2つの陰極プレート22からなる陰極アセンブリ4であって、2つの活性稜部が同一平面上にあって互いに平行である陰極アセンブリ4と、2つの陰極プレート22の間を長手方向に延びる陽極アセンブリ3であって、2つの陰極プレート22の活性稜部7の中心面内を長手方向に延び、さらに、陰極アセンブリ4の陰極開口面8内を、誘電陰極内空間の外に延びる尖端部6を有する陽極アセンブリ3とを備える。
【0096】
本発明による装置1の図示されていない1つの変形形態では、陰極14は、薄い、とりわけ厚さ数ミリメートルの、中心部が中空の円盤であって、絶縁材料の部品18によって支えられた円盤の形をなすことができ、陰極14の前記中空の中心部によって、円柱状陽極11の軸端尖端部13が部分的に占有する空間が用意される。この構成では、特に、陰極14の活性稜部7が、放射方向の各面の断面でその円柱状陽極11の前記軸端尖端部13に対して対称形をなし、前記中心部が中空の円盤の厚さによって形成される陰極14の活性稜部7が、円柱状陽極11の軸端尖端部13に対向する。
【0097】
本発明による図示されていないもう1つの変形形態では、装置は、軸端部13が同一平面上にある複数の陽極によって形成される陽極アセンブリ3と、同一平面上にある活性稜部7を有する複数の陰極14によって形成される陰極アセンブリ4とを備え、陰極アセンブリ4の陰極開口面8が陽極の軸端部13を含み、陰極14の前記活性稜部7が、陽極の軸端部13の周囲に規則的に配分されて、平面格子、とりわけ六角形型、正方形型または三角形型の格子を形成する。
【実施例1】
【0098】
自己吐出しプラズマジェット放出装置
横断面直径が約1mmのタングステン製円柱によって導体陽極が形成される本発明によるプラズマ装置を実施する。前記陽極端部の軸部の最小曲率半径は20μmである。陰極は、内径13mm、外径30mmの横断面を持つ銅製の中空円柱によって形成される。円柱状陰極は、厚さ8mmのセラミック(アルミナ)製絶縁中空円柱によって支えられるが、その円柱は、導体陽極を軸方向の所定位置に保持するように適合される。かかる装置を、陽極の軸端が陰極の開口面内に位置づけられるように実施する。
【0099】
この構成では、陽極と陰極は、常圧で常温の大気、すなわち22℃前後の大気と接触している。電圧を徐々に高めながら最高15kVまでの電圧を陽極に印加する。本願発明者は、2.6kVの電圧閾値を超えたところから、反復的でなく、陽極の軸端直近の狭い範囲を占めるだけのコロナ放電の形成を観察した。そのコロナ放電によって発生し、オシロスコープで測定された最大瞬間電流は0.9mAである。反復的でないこのコロナ放電は、電圧値が5.3kVとなるところまで観察された。この5.3kVの閾値を超えると、陽極の長手軸に沿って、該陽極の軸端の先に10mmほどの長さにわたって大気中に延びる、直径3mm程度の青みを帯びたプラズマからなるコロナ発光が現れて、数kHz程度の繰返し周波数を持つ反復的なコロナ放電が明らかになる。
【0100】
このプラズマジェットは、5.3kVから9.1kVまでの範囲の電圧で安定的であり、電圧が高くなると、それに比例して光度が強まる。電圧が9.1kVを超えると、陽極と陰極の間の電極間空間にスパークが現れるが、これは、本件の動作形態では望ましくないアーク型の放電の発生に相当する。
【0101】
本願発明者は、陽極の軸端正面の、陽極の該軸端から10cm以上離れた自由空間に手をかざすことで、陽極の軸方向に沿って電極間空間の外に向かうガスフローの放出を感じ取った。その移動速度は、ミリメートル級のプロペラ式風速計を用いて、毎秒1mから毎秒10mの範囲であるものと評価された。
【0102】
プラズマジェットの温度は、コロナ発光の遠方端、すなわち、陽極の最小曲率半径の軸端部から約10mmの距離で約27°Cと評価された。これは周囲温度よりもわずかに高い温度である。
【実施例2】
【0103】
コロナ放電によって発生する瞬間電流の特性分析
コロナ放電によって生じる電流の変化を、オシロスコープを用いて測定する。図5aおよび5bに、それぞれ5.6kV(図5a)と9.1kV(図5b)の電圧を印加したときの瞬間電流の経時変化の様子を示す。コロナ放電によって発生する最大瞬間電流は、印加電圧が5.6kVのときが2.4mA、印加電圧が9.1kVのときが16mAである。上記条件のもとでのかかるコロナ放電の自然繰返し周波数は約20kHzである。
【実施例3】
【0104】
自己吐出しプラズマジェットのスペクトル特性分析
図6aおよび6bに示すスペクトル解析は、軸方向に陽極尖端周囲の放電ゾーンを見た場合と、プラズマジェットの約10mm上方のプラズマジェット頂部を見た場合について、可視波長域で行われた。それぞれのスペクトルは、コロナ放電内(図6a)、およびそれより陽極から離れたプラズマジェット内(図6b)のそれぞれに存在する励起種を特徴づけるものである。図6aのスペクトル図は、Π窒素などの励起放射種の特徴的な帯域の存在を示しており、特に目立つのは、第2正帯(SPSと記す。N(CΠ,ν)→N(BΠ,ν’)+hν)および第1負帯(FNSと記す。N(BΣ,ν)→N(XΣ,ν’)+hν)の遷移スペクトル帯域である。コロナ放電のスペクトル(図6aおよび図6aの枠内)には、N(BΣ,ν)イオンの脱励起にかかわるFNSスペクトル帯域が存在する一方、プラズマジェットのスペクトルにはそれがないことがわかる(図6bおよび図6bの枠内)。
【実施例4】
【0105】
陽極の軸端の最小曲率半径がコロナ放電によって発生する最大瞬間電流に及ぼす影響
外径30mm、内径10mmの導体円柱によって陰極が形成され、横断面直径が約1mmのタングステン製円柱によって導体陽極が形成される本発明によるプラズマ装置を実施する。大気中に常圧でコロナ放電を発生させるように適合された陽極に直流電圧を印加するが、その際、その値は、測定する様々な最小曲率半径の間でほとんど変わらないようにする。コロナ放電によって発生した最大瞬間電流を、下の表1に示す。さらに、コロナ放電によって発生し、大気中に放射されるプラズマジェットのうち、外部ノイズ光のないところで、とりわけ暗闇で、肉眼で見ることのできる部分の長さ(mm)を測定する。
【0106】
【表1】

【0107】
最小曲率半径が大きくなると、放電の最大瞬間電流は増大することがわかる。測定したプラズマジェットの長さには、陽極先端の最小曲率半径の値による顕著な変化は見られない。本願発明者は、また、コロナ放電によって発生し、大気中に放射されるプラズマジェットの可視部分の幅は、曲率半径の値が大きくなると増大することを確認した。プラズマジェットの元となるコロナ放電は、20kHz前後の自然繰返し周波数で尖端頂部に発生する。
【実施例5】
【0108】
陰極の内径(Φint)の値が陽極に印加される電圧、コロナ放電の形成、および得られるプラズマジェットの長さに及ぼす影響
外径30mmの導体円柱によって陰極が形成され、横断面直径が約1mmで、先端の最小曲率半径が10μmのタングステン製円柱によって導体陽極が形成される本発明によるプラズマ装置を実施する。大気中に常圧でコロナ放電を発生させるように適合された陽極に、直流電圧を印加する。コロナ放電の発生に必要な電圧の値およびそのコロナ放電によって発生した最大瞬間電流を、下の表2に示す。さらに、コロナ放電によって発生し、大気中に放射されるプラズマジェットのうち、外部ノイズ光のないところで、とりわけ暗闇で、肉眼で見ることのできる部分の長さ(mm)を測定する。
【0109】
【表2】

【0110】
瞬間電流は陰極の内径(Φint)の値によって変わらないこと、コロナ放電を得るために陽極に印加すべき電圧は、陰極と陽極先端部とを隔てる距離が大きくなると増大すること、コロナ放電によって発生し、大気中に放射されるプラズマジェットのうち、外部ノイズ光のないところで、とりわけ暗闇で、肉眼で見ることのできる部分の長さ(mm)は、前記距離とともに増大することがわかる。
【実施例6】
【0111】
滅菌処理および/または静菌処理
固体培地の表面で大腸菌の培養を実施し、そうして培養したものを、本発明による自己放射プラズマジェットにさらす。大腸菌を培養した表面から数ミリメートル離したところに、プラズマジェット放出装置を置く。汚染された表面をおよそ10分にわたって本発明による自己放射プラズマジェットにさらした後、生育可能な細菌数が3log程度減少(当初の細菌数の1000分の1)していることを確認した。この結果は、減圧下でマイクロ波により発生させたフローを伴うポスト放電などを利用したその他の型のプラズマ反応器によってすでに得られているものに匹敵する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極アセンブリ(3)と陰極アセンブリ(4)の間に放電を発生させることができる電界発生装置(2)を備える常圧・常温プラズマジェット(10)放射装置(1)であって、
− 陰極アセンブリ(4)は、陰極内空間(9)と呼ぶ誘電空間を画定するように成形されており、陰極内空間(9)は、
・ 陰極アセンブリ(4)内で、陰極アセンブリ(4)の少なくとも1つの陰極面に対向して広がり、かつ、
・ 陰極内空間(9)の外に開いた陰極開口部(5)を少なくとも1つ有しており、
・ 陰極開口部(5)は、活性稜部(7)と呼ぶ陰極表面の稜部の少なくとも1つによって画定され、活性稜部(7)は、陰極開口面(8)と呼ぶ平面内に延びており、
− 陽極アセンブリ(3)は、陰極内空間(9)の外に向けて、陰極アセンブリ(4)の陰極開口部(5)に対して側方かつ深さ方向に配置された部位であって、最小曲率半径を持つ尖端部(6)と呼ぶ部位を少なくとも1つ備える装置(1)において、
陽極アセンブリ(3)の尖端部(6)が、陰極開口面(8)まで延びるように、かつ陰極内空間(9)の外に向けて所定の方向に沿って自発的に放射されるプラズマジェット(10)の放出を引き起こすことができるように、配置されることを特徴とする装置(1)。
【請求項2】
陰極開口面(8)が陽極アセンブリ(3)の尖端部(6)に接して延びることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
電界発生装置(2)がコロナ放電を発生させることができることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
陽極アセンブリ(3)が、軸方向(12)の周りの回転体である円柱状陽極(11)を少なくとも1つ備えること、および、尖端部(6)が円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)であり、軸端尖端部(13)は、少なくとも軸方向(12)を含む1つの軸方向面内に、発生装置(2)によって形成される電界の作用によってその軸端尖端部(13)から放電を形成できるように適合された値の最小曲率半径を持つ断面を有することを特徴とする、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
活性稜部(7)が陰極アセンブリ(4)の陰極(14)の稜部であり、稜部は、その陰極(14)と組み合わされる陽極アセンブリ(3)の円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)を取り囲むことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
陰極(14)の活性稜部(7)が、陰極(14)の陰極開口面(8)に垂直な少なくとも1つの対称面を有し、陰極開口面(8)が、その陰極(14)が組み合わされて、低温プラズマジェット(10)を自発的に陰極開口面(8)と垂直の方向に向かわせるように適合される相手である各々の円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)を含むことを特徴とする、請求項5に記載の装置。
【請求項7】
陰極アセンブリ(4)の活性稜部(7)が、陰極開口面(8)と垂直な面の少なくとも1つであって、円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)を含む垂直な面内で、その陰極アセンブリ(4)と組み合わされる円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)に対して対称をなす断面形状を持つことを特徴とする、請求項4ないし6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
陰極アセンブリ(4)が、陰極開口面(8)に垂直なそれぞれの面内で、陰極アセンブリ(4)に組み合わされる各々の円柱状陽極(11)の軸端尖端部(13)に対して対称をなす断面形状を持つ活性稜部(7)を有することを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
陰極アセンブリ(4)の活性稜部(7)が、円形または対称中心を持つ多角形−特に六角形、八角形、平行四辺形、または正方形−の形をなすことを特徴とする、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
陰極アセンブリ(4)が、それぞれが直線的活性稜部(7)を有する2つの陰極プレート(22)を備え、2つの陰極プレート(22)の直線的活性稜部(7)は、同一平面上にあって互いに平行であり、2つの陰極プレート(22)の直線的活性稜部(7)の中心面(17)に対して互いに対称形をなし、中心面(17)は、陽極アセンブリ(3)の尖端部(6)を含むことを特徴とする、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の装置。
【請求項11】
陽極アセンブリ(3)の尖端部(6)の最小曲率半径が、500μm未満であり、特に1μmから500μmまでの範囲であり、とりわけ10μmから100μmまでの範囲であることを特徴とする、請求項1ないし10のいずれか一項に記載の装置。
【請求項12】
陽極アセンブリ(3)の尖端部(3)が、タングステン、タングステンカーバイド、アルミニウムおよびそれらの合金からなる群から選択される導体材料によって形成されることを特徴とする、請求項1ないし11のいずれか一項に記載の装置。
【請求項13】
陰極アセンブリ(4)の陰極開口面(8)が、円柱状陽極(11)の軸方向(12)とほぼ垂直をなすことを特徴とする、請求項4ないし12のいずれか一項に記載の装置。
【請求項14】
陰極アセンブリ(4)の活性稜部(7)が、真鍮、銅およびそれらの合金からなる群から選択される少なくとも1つの導体材料によって形成されることを特徴とする、請求項1ないし13のいずれか一項に記載の装置。
【請求項15】
円柱状陽極(11)のそれぞれが、その軸方向(12)と垂直な横断面に、直径が0.5mmから3mmまでの範囲であり、とりわけ1mm程度である、ほぼ円盤の形を持つことを特徴とする、請求項4ないし14のいずれか一項に記載の装置。
【請求項16】
表面処理のための利用であって、処理において表面が自己放射プラズマジェット(10)内に配置される請求項1ないし15のいずれか一項に記載の装置の利用。
【請求項17】
表面の除染のための、とりわけ表面の生物静力学的処理および/または殺生物処理のための利用であって、請求項1ないし15のいずれか一項に記載の装置の請求項16に記載の利用。
【請求項18】
血液凝固および無菌化のための利用であって、請求項1ないし15のいずれか一項に記載の装置の請求項16および17に記載の利用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公表番号】特表2012−531699(P2012−531699A)
【公表日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516824(P2012−516824)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051285
【国際公開番号】WO2011/001070
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(510139564)ユニヴェルシテ ポール サバティエ トゥールーズ トロワ (5)
【出願人】(509016944)セントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック(シー.エヌ.アール.エス.) (5)
【Fターム(参考)】