説明

常温保存性食品の製造方法

【課題】本発明は、高水分含量の液状物に接した形態で、該液状物よりも水分含量の低い澱粉質食品を容器に収容してなる常温保存性食品において、該液状物から該澱粉質食品への水分移行を抑制し、該食品の食感及び外観を良好なものとすることを目的とする。
【解決手段】本発明は、澱粉質食品を加熱殺菌した後、クリーンルーム内で、別途加熱殺菌した調味液とともに容器に密封し、その後冷蔵処理することを含み、澱粉質食品が米飯類、パスタ類、麺類およびもち類からなる群より選ばれることを特徴とする常温保存性食品の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米飯、麺類等の澱粉質食品と、スープ、ソース等の液状物とを組み合せた、食感及び外観が良好な常温保存性食品の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、常温保存性食品としては、例えば、レトルト処理した澱粉質食品(例えば米飯等)が、常温で保存可能であることや電子レンジで加温するだけで食することができるとして広く利用されている。また、これらの澱粉質食品を含む製品は、適宜嗜好に合わせて、カレーソース等の高水分含量の液状物及び/又は具材を該澱粉質食品に接触した形態で容器に充填することが望まれる場合が多い。このような製品の例としては、カレーライスやハヤシライス、各種丼物等が挙げられる。
しかしながら、このような製品を常温で保存する場合、米飯等の澱粉質食品が、高水分含量液状物よりも水分含量が低いために、該高水分含量液状物から澱粉質食品への水分移行が生じる。その結果、澱粉質食品は水分を吸収するため、ふやけが生じ、保存性食品としての食感及び外観が望ましくないものとなる。また、高水分含量液状物中の水分が減少し、製品中のソースと澱粉質食品の割合がアンバランスとなり、製品として望ましくない外観となる。例えば、澱粉質食品が米飯である場合、上述したような水分移行の結果、ほぐれ難く、また米飯粒には弾力性がなくなり、喫食適性水分を超えてベチャベチャになり、粥状となり、望ましくないものとなる。
一方、上述したようなカレーライスやハヤシライス等は、その保存性を考慮して、冷凍保存性食品として流通する手段がとられることが多い。しかしながら、このような冷凍保存性食品は、その製造工程と流通段階において冷凍手段が必要となるためにコスト高となる傾向にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、高水分含量の液状物に接した形態で、該液状物よりも水分含量の低い澱粉質食品を容器に収容してなる常温保存性食品において、該液状物から該澱粉質食品への水分移行を抑制し、該食品の食感及び外観を良好なものとすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、澱粉質食品を常温で流通させるにあたって、澱粉質食品を加熱処理した後、冷蔵処理を施すことにより、上記課題を効率的に解決することができるとの知見に基づくものである。
即ち、本発明は、高水分含量の液状物に接した形態で、該液状物よりも水分含量の低い澱粉質食品を容器に収容してなる常温保存性食品の製造方法であって、澱粉質食品を加熱処理した後、冷蔵処理を施すことを特徴とする該製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、上記構成を採用することにより、澱粉質食品を、これより高水分含量の液状物と接した形態で含む常温保存性食品において、該高水分含量液状物から該澱粉質食品への水分移行が抑制され、その結果、澱粉質食品がふやけず、保存性食品としての食感及び外観が望ましいものとなる。例えば、澱粉質食品が米飯である場合、上述したような水分移行の結果、ほぐれやすくなり、また米飯粒に弾力性があり、全体としての食感が望ましいものとなる。また、上記水分移行が抑制されるため、液状物中の水分が保持され、従って、澱粉質食品と液状物の割合を所望のバランスに保持することができる。更に、澱粉質食品からの澱粉の溶出がなくなるので、液状物の濁りも解消される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
まず、本発明において、常温保存性食品とは、所定の容器に収容され、一般的に常温と認識されている温度域(好適には15〜40℃、更には20〜30℃)で保存可能であり、市場に流通され得る食品をいう。このような食品は、例えば、加熱調理(例えば、電子レンジでの加熱調理や容器を熱水に浸すことによる加熱調理)するだけで喫食可能な製品とすることができる。
また、澱粉質食品とは、加熱処理時にα化し得る澱粉を主成分とする食品であればよく、例えば、米飯、麺類、団子類等が挙げられ、その主原料としては、穀類、穀類粉、生又は加工澱粉等を用いればよい。穀類としては、例えば、米、小麦、とうもろこし、馬鈴薯及び甘藷等を挙げることができ、穀類粉としては、米粉、小麦粉、とうもろこし粉、片栗粉及び白玉粉等を挙げることができる。澱粉としては、小麦粉澱粉、とうもろこし澱粉、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉及びタピオカ澱粉等の澱粉又はこれらの化工澱粉を挙げることができる。
【0007】
本発明における高水分含量の液状物とは、前記澱粉質食品よりも水分含量の高い液状物をいい、例えば、水分含量が1質量%以上高いものであればよい。尚、本発明では、10〜40質量%高いもの等の非常に高い水分含量の液状物を用いても、澱粉質食品の食感、外観を維持することができ、この点で顕著な効果を奏する。本発明においては、この高水分含量の液状物を、前記澱粉質食品に接した形態で容器に収容する。この液状物の添加工程は、任意の段階で行うことができる。例えば、澱粉質食品の冷蔵処理前に行っても、冷蔵処理後に行ってもよいが、液状物の品温が低くかつ澱粉質食品との温度差が小さい方がより好ましい。尚、高水分含量液状物を澱粉質食品に添加する際、両者の品温が0〜10℃であるのが好ましい。
この高水分含量の液状物の具体例としては、カレーソース、パスタソース、ハヤシソース等のソース類、雑炊、丼物の調味液、ラーメン、うどん等のだし又はスープあるいは汁粉の液状部分等が挙げられる。尚、上記液状物には、にんじん、ごぼう、大根、じゃがいも、さつまいも、インゲン豆、えんどう豆、肉類、卵、たけのこ、こんにゃく、しいたけ、魚介類等の固形物を具材として添加してもよい。尚、カレーソースのようにソース中に澱粉を含む液状物を用いる場合には、乳化剤又は増粘剤を液状物に配合することが好ましい。これにより、ソース自体が分離するのを防止すると共に、液状物中の澱粉が放出した水分が、澱粉質食品に移行するのをより確実に防止することができ、食感、外観の良好な常温保存食品が得られる。また、これらの液状物や具材の加熱殺菌は、前記澱粉質食品とは別に行うことが好ましい。尚、本発明においては、これらの液状物の水分含量が、澱粉質食品の水分含量より高いことを前提として、例えば、液状物の水分含量が70〜100質量%で、澱粉質食品の水分含量が、50〜70質量%の範囲となるように組み合せて用いてもよい。
【0008】
以下、本発明の製造方法について説明する。本発明では、上記澱粉質食品に加熱処理を施す。この加熱処理によって、澱粉質食品中の澱粉をα化させる。加熱処理は、蒸煮、熱水浸漬等の公知の加熱手段により行えばよく、澱粉質食品の加熱調理又は加熱殺菌処理として行うことができる。加熱調理としては、例えば、米の炊飯、麺類の茹で処理、団子類及び米飯類の蒸し処理等が挙げられる。また、加熱殺菌処理としては、例えば、レトルト殺菌等の密閉系殺菌処理、澱粉質食品に水蒸気等の熱媒を直接接触させる開放系殺菌処理等が挙げられる。加熱殺菌処理条件は、澱粉質食品に殺菌価(具材を含む場合には当該具材の殺菌価)がF=4以上を達成するように設定することができる。澱粉質食品がF=4以上を達成し得る加熱殺菌条件としては、110〜135℃で10秒間〜40分間が好適である。開放系殺菌を施し容器を密封する際、ヘッドスペースに窒素等の不活性ガスを注入することが好ましい。これにより、澱粉質食品を加熱処理し、容器に充填密封し、冷蔵した際、容器内の結露により容器内が減圧するのを防止して、この減圧を原因とする容器の変形、蓋体の剥離等の問題を防止することができる。また、常温保存中の澱粉質食品、液状物の酸化を抑制し、風味を良好に維持することができる。また、高水分含量液状物のみを加熱殺菌する場合、その条件はF=4以上を達成するように設定すればよいが、高温短時間の殺菌条件を採用することが好ましい。例えば、120〜145℃で1秒〜5分間とすることが好ましい。これにより、液状物の風味を良好に維持することができる。
【0009】
本発明の製造方法においては、澱粉質食品の加熱処理終了後、冷蔵処理する工程を行う。冷蔵処理は、例えば、澱粉質食品を冷蔵庫内等の低温雰囲気で保持すること、又は冷媒に接触させることにより行うことができる。この冷蔵処理条件は、処理する澱粉質食品の種類、量、大きさ、形態等を考慮して適宜決定することができるが、澱粉質食品を冷蔵庫内で保持する冷蔵処理の場合、澱粉質食品の品温を、例えば、0〜10℃で12時間以上、更には1〜5℃で12時間〜14日間保持するのが好ましい。この冷蔵処理は、加熱処理終了後、できるだけ短時間に開始するのがよい。例えば、加熱処理終了後、120分以内、より好ましくは60分以内に冷蔵処理を開始するのがよい。また、この低温保持時間は、澱粉質食品を急速冷却した後に冷蔵処理する場合には、より短時間とすることができる。
【0010】
冷蔵処理後の澱粉質食品は、冷蔵処理雰囲気からそのまま常温雰囲気で保持することができ、少なくとも高水分含量液状物の殺菌価がF=4以上、更に好ましくは、加熱殺菌処理された澱粉質食品の殺菌価もF=4以上とすればよい。
【0011】
本発明によれば、以下に例示する常温保存性食品を製造することができる。即ち、カレーライス、ハヤシライス、ドリア、雑炊等の米飯類、親子丼、カツ丼などの丼物、スパゲッティ、マカロニ等のパスタ類、うどん、そば、中華麺等の麺類、団子、もち等のもち類を含むぜんざい又は汁粉等が挙げられる。尚、本発明が対象とする常温保存性食品は、本発明の効果が得られる限り、これらに限定されないことは言うまでもない。
【0012】
次に、本発明の製造方法の態様を、用いる澱粉質食品の種類別に説明するが、本発明がこれらに限定される訳ではない。
(1)米飯類
次の3態様が挙げられる。
a)常法により炊飯した米飯と、高水分含量液状物とを別々に加熱殺菌した後、高水分含量液状物を米飯に接する形態で無菌的に添加し、冷蔵処理する態様。
b)殺菌済みの米飯に冷蔵処理を施した後、加熱殺菌済み高水分含量液状物を米飯に接する形態で無菌的に添加する態様。
c)浸漬米に、加熱殺菌処理中に熱水を注加して炊飯するか又は加熱殺菌後に炊飯し、高水分含量液状物を添加し、冷蔵処理する態様。尚、加熱殺菌処理の際、熱水を加えて炊飯することにより、殺菌時間を短縮することもできる。
また、雑炊のように調味液と米飯を一体にする場合、この調味液は米飯の加熱殺菌後に混合することが好適であり、米飯と調味液の混合時の品温は常温以下、好ましくは10℃以下であることが好適である。
(2)麺類
次の2態様が挙げられる。
a)常法により茹でた麺と、高水分含量液状物とを別々に加熱殺菌した後、高水分含量液状物を麺に接する形態で無菌的に添加し、冷蔵処理する態様。尚、加熱殺菌済みの麺として、茹で処理前の麺を加熱殺菌した後、茹で処理を行ったものを用いてもよい。
b)加熱殺菌済みの茹でた麺を冷蔵処理した後、加熱殺菌した高水分含量液状物を麺に接する形態で無菌的に添加する態様。尚、加熱殺菌済みの麺として、茹で処理前の麺を加熱殺菌した後、茹で処理を行ったものを用いてもよい。
尚、高水分含量液状物の加熱殺菌済み麺類への添加は、両者の品温が常温以下であるときに行うのが好ましい。
(3)もち類
次の2態様が挙げられる。
a)もち類と、高水分含量液状物を別々に加熱殺菌した後、もち類に接する形態で高水分含量液状物を無菌的に添加し、冷蔵処理する態様。尚、加熱殺菌済みのもち類として、加熱殺菌前又は後に常法により蒸し工程を施したものを用いてもよい。
b)加熱殺菌済みのもち類を冷蔵処理した後、加熱殺菌した高水分含量液状物をもち類に接する形態で無菌的に添加する態様。尚、加熱殺菌済みのもち類として、加熱殺菌前又は後に常法により蒸し工程を施したものを用いてもよい。
尚、高水分含量液状物と加熱殺菌済みもち類との混合は、両者の品温が常温以下であるときに行うのが好ましい。
【実施例】
【0013】
実施例1
25℃の水に2時間浸漬して得られた浸漬米100質量部に70質量部の水を加え、100℃の蒸気下で30分間炊飯を行い、170質量部の米飯を得、これを上方に開口を有する有底円筒形の合成樹脂製成形容器に充填し、120℃、6分間の条件で加熱殺菌処理を施した。
これとは別に、カレーソース100質量部をチューブ式殺菌器を用いて135℃、10秒間の条件で加熱殺菌処理した。
次に、上記米飯を容器ごと無菌雰囲気(100℃の蒸気雰囲気)に移送し、当該雰囲気において100質量部のカレーソース(水分含量:約85質量%)を米飯(水分含量:約65質量%)の上に充填してカレーライスとし、その後容器開口部を蓋材で密封した。次に上記容器入りカレーライスを1℃の低温雰囲気に投入し、ここで7日間保持して冷蔵処理を施し、容器入りカレーライスを得た。
その後、上記容器入りカレーライスを30℃の恒温室内で2ヶ月保存した後開封し、カレーソース及び米飯の状態を確認したところ、上層のカレーソース部と下層の米飯部が明確に分離した状態が維持されていた。また、米飯粒にふやけは少なく、カレーソースの容量も殆ど減少していなかった。
次に、上記容器入りカレーライスを600Wの電子レンジで3分間加熱して食した。
その結果、白飯は非常にほぐれやすく、また米飯粒には弾力性があり、全体として良好な食感を有するものであった。
【0014】
実施例2
25℃の水に2時間浸漬して得られた浸漬米(うるち米)100質量部と、水70質量部を混合し、これを100℃の蒸気雰囲気下で保持して炊飯し、170質量部の米飯を得た。次いで、この米飯170質量部を、有底開口の耐熱性容器に充填し、120℃、6分間の加熱殺菌処理を施し、加熱殺菌済み米飯170質量部を得た。
これとは別に、水198質量部と食塩2質量部を含む調味液を調製した。この調味液を、チューブ式殺菌器により、135℃、10秒間の条件で高温短時間加熱殺菌処理を施し、殺菌済み調味液200質量部を得た。
次いで、加熱殺菌済み調味液200質量部と、加熱殺菌済み米飯170質量部を、それぞれの品温が10℃にまで低下した時点で、無菌エアーで満たされたクリーンルーム内で予め殺菌処理された合成樹脂製容器に充填し、密封シールし、容器入り雑炊370質量部を得た。
次に、上記混合物を1℃の低温雰囲気で、7日間保持して冷蔵処理し、これによって容器入り保存性雑炊370質量部を得た。
この容器入り保存性雑炊を、30℃の恒温室内で5ヶ月保存した後、容器を密封して、容器内の米飯粒の崩れ及び調味液の白濁の有無を確認した。その結果、特に崩れのある米飯粒はなく、調味液は濁りがなかった。
また、上記容器入り保存性雑炊を600Wの電子レンジで加熱してから喫食したところ、米飯粒は弾力性を維持しており、雑炊全体としての食感は良好に維持されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉質食品を加熱殺菌した後、クリーンルーム内で、別途加熱殺菌した調味液とともに容器に密封し、その後冷蔵処理することを含み、澱粉質食品が米飯類、パスタ類、麺類およびもち類からなる群より選ばれることを特徴とする常温保存性食品の製造方法。

【公開番号】特開2006−197950(P2006−197950A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−125263(P2006−125263)
【出願日】平成18年4月28日(2006.4.28)
【分割の表示】特願2000−174693(P2000−174693)の分割
【原出願日】平成12年6月12日(2000.6.12)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】