説明

干渉信号抑圧方法及び装置、リピータ装置

【課題】干渉信号を精度良く抑圧する干渉信号抑圧装置を提供する。
【解決手段】遅延器37a,37b,37cで、干渉信号が混入した対象信号から派生する複数のリファレンス信号を取り込み、これらにそれぞれ異なる遅延時間を付加して複数の遅延リファレンス信号を出力する。相関積分器36a,36b,36cは、各遅延リファレンス信号と受信信号との相関演算を行うことにより、干渉信号及びその干渉信号の遅延時間候補を検出する。CPU40は、検出した干渉信号から抑圧信号を生成し、この抑圧信号を、検出した遅延時間候補だけ遅延させて受信信号に加算し、干渉信号を抑圧した状態で、当該抑圧信号の遅延時間を検出した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数が最大となるときの遅延時間を検出し、この遅延時間を遅延時間候補に置き換える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば受信信号と同じ周波数で送信信号を輻射する場合に生じる、受信アンテナへの回り込みによる干渉信号を抑圧する干渉信号抑圧技術及び干渉信号抑圧機能を有するリピータ装置に関する。リピータ装置は、無線通信の中継に用いられる通信装置であり、中継装置あるいは無線中継ブースタと呼ばれる場合もある。
【背景技術】
【0002】
無線基地局の電波の届きにくいビル内部、トンネル内部、山岳地帯等での電波状況を改善するために、リピータ装置が用いられている。リピータ装置では、受信信号を所定利得で増幅した上で送信するため、無線基地局のように専用回線を敷設する必要もなく、設備面でコストを低減できるというメリットがある。しかし、受信信号と送信信号とが同一周波数となるため、送信信号の一部が受信アンテナに回り込むと、この信号が干渉信号となり、増幅器の利得(再送利得と呼ばれる)が大きい場合には発振を引き起こすという問題がある。
【0003】
この場合、送信アンテナと受信アンテナとを物理的に隔離してアンテナ間の結合量を小さくする方法も考えられるが、この方法では、リピータ装置の設置規模が大きくなって、実施しにくい場合があり、汎用性の面で問題がある。
【0004】
この問題を解決する従来技術として、干渉信号が混入した受信信号からその干渉信号の残差成分を検出しておき、検出した残差成分に基づいて、干渉信号と同振幅、逆位相、同遅延時間となる抑圧信号を生成し、この抑圧信号を受信信号に加算することにより干渉信号を打ち消す技術が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載された技術では、少なくとも干渉信号の遅延時間を事前に精度よく測定しておくことが必要となる。
【0005】
干渉信号の遅延時間を検出する従来技術として、送信信号と同じ振幅で逆位相の遅延リファレンス信号を生成し、この遅延リファレンス信号の遅延時間を1ステップずつ変化させ、変化させる毎に干渉信号が混入した受信信号との相関演算を行ない、干渉信号の遅延時間を検出する技術がある(特許文献2)。
【特許文献1】特開2001−196994
【特許文献2】特開2005−086448
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、受信信号に複数の干渉信号が混入している場合は、遅延時間を検出する際に誤差が生じる場合がある。例えば、真に抑圧したい干渉信号の近傍に、相関演算の結果に影響を与える他の干渉信号が存在する場合に、真に抑圧したい干渉信号の遅延時間の検出結果に誤差を生じることがある。そのため、干渉信号の抑圧精度が劣化し、場合によってはリピータ装置が発振してしまうという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、回路規模を増やすことなく、干渉信号を抑圧する際の遅延時間の検出精度を高めることができる干渉信号抑圧方法を提供することにある。
本発明の他の課題は、上記の干渉信号抑圧方法の実施に適した干渉信号抑圧装置及びリピータ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の干渉信号抑圧方法は、送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号から前記干渉信号を抑圧する方法であって、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ信号成分を含む複数のリファレンス信号を取り込み、取り込んだ各リファレンス信号にそれぞれ異なる遅延時間を付加することにより複数の遅延リファレンス信号を出力する段階と、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行うことにより、前記受信信号及び前記対象信号に含まれる前記干渉信号及びその干渉信号の遅延時間候補を検出する段階と、検出した干渉信号から、この干渉信号と振幅及び遅延時間が同じで、逆位相の抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記検出した遅延時間候補だけ遅延させて前記受信信号に加算し、前記干渉信号を抑圧した状態で、当該抑圧信号の遅延時間を前記検出した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する前記相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を検出する段階と、前記抑圧信号を前記検出した遅延時間で前記受信信号に加算する段階とを有する方法である。
【0009】
この方法によれば、遅延時間候補によって干渉信号を抑圧した状態で、正しい遅延時間を検出するので、例えば遅延時間が近接する2つの干渉信号が受信信号に混入した結果、相関演算の結果に誤差が生じ、真に抑圧したい干渉信号の遅延時間が、他の干渉信号の影響を受けてずれる場合であっても、他の干渉信号の影響を受けず、真に抑圧したい干渉信号の遅延時間を正しく検出することができる。
【0010】
ある実施の態様では、前記受信信号、前記リファレンス信号及び前記抑圧信号は、それぞれディジタル処理により得られるディジタル信号であり、前記抑圧係数を求める際に、前記抑圧信号を遅延時間候補を中心として、その前後にわたり、前記ディジタル処理の動作クロックの周波数の逆数である単位時間幅の整数倍だけ変化させる。
前記動作クロックの周波数は、好ましくは、前記ディジタル処理に用いるサンプリング周波数とする。これにより、信号生成及び遅延時間の検出に関わるすべてのディジタル処理が同期するため、動作の信頼性を高めることができる。
【0011】
本発明が提供する干渉信号抑圧装置は、送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号から前記干渉信号を抑圧する装置であって、送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅及び位相の複数のリファレンス信号を取り込む取込手段と、この取込手段で取り込んだ複数のリファレンス信号を、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力する遅延付加手段と、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関度合いを表す相関演算値をすべての遅延リファレンス信号について並行して算定する相関演算手段と、この相関演算手段により算定された相関演算値の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に適合する信号として特定するとともに、この遅延リファレンス信号を出力した前記遅延付加時間に設定されている遅延時間を遅延時間候補として特定し、特定した前記干渉信号に適合する信号と同振幅で逆位相となる抑圧信号を生成する抑圧信号生成手段と、生成された抑圧信号を前記特定した遅延時間候補だけ遅延させて前記受信信号と加算することにより、前記干渉信号を抑圧する抑圧手段と、前記干渉信号を抑圧した状態で、前記抑圧信号を加算するときの遅延時間を前記特定した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する前記相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を前記遅延時間候補に置き換える制御手段と、を有することを特徴とする。
【0012】
ある実施の態様では、前記遅延付加手段は、それぞれ前記複数のリファレンス信号を入力とする複数の遅延器を含んでおり、前記相関演算手段は、前記複数の遅延器と1対1に対応付けられた前記遅延器と同数の相関演算器を含み、これらの相関演算器で、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を同時期に行う。これにより、相関演算に要する時間を短縮することができる。
【0013】
他の実施の態様では、前記抑圧信号生成手段は、すべての前記遅延リファレンスについての相関演算の結果である相関値を比較し、この相関値が最も大きくなる遅延リファレンス信号を出力した遅延器の遅延時間を前記遅延時間候補とし、その遅延時間候補において出現する信号成分を前記干渉信号として検出する。
【0014】
他の実施の態様では、前記受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、ディジタル信号を前記送信信号に変換するD/A変換器とを備えており、前記制御手段は、前記抑圧信号を加算するときの遅延時間を、前記遅延時間候補を中心として、前記A/D変換器及び前記D/A変換器のサンプリング周波数の逆数である単位時間の整数倍だけ前後に変化させる。これにより、信号生成及び遅延時間の検出に関わるディジタル処理が同期するため、動作の信頼性を高めることができる。
【0015】
本発明のリピータ装置は、送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置であって、前記取込手段、前記相関演算手段、前記抑圧信号生成手段、前記抑圧手段、及び前記制御手段を備えるものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、干渉信号を抑圧した状態で、抑圧信号の遅延時間を遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を検出し、この検出した遅延時間で抑圧信号を受信信号に加算するので、干渉信号を抑圧する際の遅延時間の検出精度を高めることができるという特有の効果がある。また、そのための専用の電子回路を付加する必要がないので、回路規模を増やすことなく、上記効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。
図1は本発明が適用される通信システムの概要図である。この通信システムは、基地局11、リピータ装置12、移動局14を含んで構成される。リピータ装置12は、ビル13その他の建造物や自然物が濫立するなど、電波状態が好ましくない場所に設置される。
【0018】
本実施形態のリピータ装置12は、受信アンテナで受信した電波(受信信号)と同一の周波数で送信アンテナを介して放射するものとする。このようなリピータ装置12では、送信アンテナから送信された電波(送信信号)は、そのすべてが移動局14に回り込んで到達するわけではなく、その一部は、送信アンテナから直接受信アンテナに到来し、一部は、建造物13で反射された後、受信アンテナに到来し、これらの信号が干渉信号となる。干渉信号は、図示のようにその伝播経路によって受信アンテナへの到来時間が異なる。そのため、干渉信号は、ある時間幅、例えば1[μs]程度の時間幅を持った複数の信号群として観測される。
【0019】
一般に、干渉信号を抑圧する場合には、受信信号から干渉信号の遅延時間や振幅を検出し、検出した干渉信号と逆位相で、かつ、同じ振幅の抑圧信号を、干渉信号と同じ遅延量で受信信号と合成することにより、その干渉信号を打ち消すことができる。しかし、例えば受信信号の通過フィルタをアナログ回路で構成した場合、回路内で生じる使用周波数帯域内での位相変動と、それに併存する遅延時間の発生とによって、信号成分に波形歪みが生じる。本実施形態によるリピータ装置12では、このようにアナログ回路による信号成分に波形歪みが生じる場合でも干渉信号を確実に抑圧する機能を有するものである。
【0020】
リピータ装置12は、具体的には、図2に示すように、基地局向けアンテナ21、アンテナ共用器22、移動局向けアンテナ23のほか、下り回線及び上り回線用の各構成要素、すなわち、低雑音増幅器24a、24bと、周波数変換器25a、25b、27a、27bと、干渉信号抑圧装置26a、26bと、高出力増幅器28a、28bを備えて構成される。
【0021】
基地局向けアンテナ21は、基地局11との間で無線信号の送受信を行うためのアンテナであり、移動局向けアンテナ23は、移動局14との間で無線信号の送受信を行うためのアンテナである。それぞれ、送信時には送信アンテナとして機能し、受信時には受信アンテナとして機能する。
【0022】
アンテナ共用器22は、基地局11から基地局向けアンテナ21を介して受信したアナログの受信信号を下り回線に供給するとともに、基地局11に対して送信する上り回線からのアナログの送信信号を基地局向けアンテナ21に供給する。また、移動局14から移動局向けアンテナ23を介して受信した受信信号を上り回線に供給するとともに、移動局14に対して送信する下り回線からの送信信号を移動局向けアンテナ23に供給する。
【0023】
低雑音増幅器24a、24bは、基地局向けアンテナ21または移動局向けアンテナ23を介して受信した微弱な電波を増幅する低雑音高利得の増幅器である。本実施形態では、受信信号は800[MHz]又は2[GHz]帯の高周波を使用するので、この受信信号を周波数変換器25a、27aで中間周波数に周波数変換し、さらに直交変換して、IQ(In-Phase Quadrature Phase)ベースバンド信号を生成する。
【0024】
送信時は、上記と逆の処理を行って、IQベースバンド信号を直交変調し、周波数変換器25b、27bで、高周波に周波数変換して、高出力増幅器28a、28bに出力する。高出力増幅器28a、28bは、送信波を増幅する高利得の増幅器である。
【0025】
干渉信号抑圧装置26a、26bは、両者同一のものであり、例えば図3のように構成される。すなわち、干渉信号抑圧装置26a、26bは、A/D変換器31と、チップ遅延器32と、D/A変換器33と、加算器34と、それぞれ干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する複数の位相振幅制御器35a、35b、35cと、複数の相関積分器36a、36b、36c及び複数の遅延器37a、37b、37cと、監視制御回路38とを備えている。
【0026】
位相振幅制御器35a、35b、35c、相関積分器36a、36b、36c及び遅延器37a、37b、37cは、それぞれ1個ずつが組になって、当該遅延時間で出現する干渉信号を抑圧するための抑圧信号を生成する。すなわち、位相振幅制御器35a、35b、35c、相関積分器36a、36b、36c及び遅延器37a、37b、37cは、それぞれ1個ずつが組になって抑圧回路を構成している。
【0027】
A/D変換器31は、前段から送られたアナログ信号を所定のサンプリング周波数によりディジタル信号に変換する変換器である。以後の説明では、ディジタル変換された信号を、便宜上、「ディジタル受信信号」と称する。このディジタル受信信号は、所望信号と干渉信号とが合成された信号である。ディジタル受信信号は、加算器34を経てチップ遅延器32に入力されるとともに、複数コピーされて、それぞれ相関積分器36a、36b、36cに分配される。
D/A変換器33は、A/D変換器31と逆の作用をする変換器であって、チップ遅延器32で処理されたディジタル信号をアナログ信号に変換して次段へ供給する。
【0028】
チップ遅延器32は、所望の信号成分を持つディジタル受信信号と、送信アンテナから受信アンテナに回り込む干渉信号との相関を減らす為に、再送時にCDMA信号の1チップ以上の遅延を付加するディジタル信号処理デバイス(遅延回路)である。チップ遅延器32から出力される信号は、D/A変換器33に入力されるが、同じ振幅及び位相の複数の信号が、それぞれディジタル受信信号の信号成分(振幅、位相の成分)を含むリファレンス信号として、遅延器37a、37b、37cに取り込まれる。
【0029】
遅延器37a、37b、37cは、それぞれ取り込まれたリファレンス信号を、CPU40により自己に設定された時間分遅延させて出力する(以下、遅延されたリファレンス信号を、通常のリファレンス信号と特に区別する必要がある場合は「遅延リファレンス信号」と称する)。遅延させるための設定時間は、各遅延器37a、37b、37cとも、適宜、更新することができる。
【0030】
相関積分器36a、36b、36cは、それぞれ遅延リファレンス信号とディジタル受信信号との相関積分を他の相関積分器と並行して行う。なお、このとき、個々の相関積分器36a、36b、36cの相関積分における遅延量(遅延時間)は異なっている。こうすることによって、検出対象である干渉信号の遅延に合わせた遅延時間で相関演算が行なわれる。相関積分の結果は干渉信号との相関度合いを表す相関積分値であり、この値が大きいほど、その遅延リファレンス信号は干渉信号により適合する、すなわち、干渉信号である可能性が高いものとして扱う。これにより、ディジタル受信信号に干渉信号が混入しているときは、強い相関が得られ(例えば、信号強度が大きくなる)、干渉信号が無いときは相関が得られないという性質を利用し、相関積分値の大きい遅延リファレンス信号を干渉信号に相当する信号として検出することができる。
【0031】
ただし、相関演算を有効に機能させるために、あらかじめ干渉信号の遅延時間を知っておく必要があるため、各相関積分器36a、36b、36c及び位相振幅制御器35a、35b、35cに、対応する遅延器37a、37b、37cが設けられている。上記の遅延させるための設定時間は、干渉信号の遅延時間に相当する時間である。遅延時間の検出方法としては、ディジタル信号処理時のサンプリング周波数の逆数である単位時間ごとに遅延時間を異ならせて相関演算を行ない、干渉信号がある遅延時間では相関が得られ、干渉信号が無い遅延時間では相関が得られないことを利用して、干渉信号の遅延時間を検出する。
【0032】
位相振幅制御器35a、35b、35cは、干渉信号に相当する遅延リファレンス信号と1対1に対応して、当該遅延リファレンス信号の振幅に所定係数を乗じた振幅で、逆位相となる抑圧信号を生成し、生成した抑圧信号を、対応する遅延リファレンス信号の出現時点(相関積分により検出された時点)と同じタイミングで出力する。このタイミングは、実際には遅延時間で表される。加算器34は、位相振幅制御器35a、35b、35cのそれぞれ又はいずれかで生成された抑圧信号を、ディジタル受信信号と加算する。
【0033】
監視制御回路38は、相関積分器36a、36b、36c、遅延器37a、37b、37c及びCPU40から構成され、干渉信号抑圧装置26a,26bの一部を兼ねる。CPU40は、所定のメモリ領域にインストールされた監視制御用プログラムを実行することにより、干渉信号抑圧のための種々の監視制御を行う。
【0034】
なお、遅延器37a、37b、37cと、相関積分器36a、36b、36cと、位相振幅制御器35a、35b、35cは、図示しないクロック発生器から供給される動作クロックの周波数に同期して動作する。この動作クロックは、A/D変換器31に入力されてサンプリングクロックとしても機能する。つまり、ディジタル変換の際のサンプリング周波数は、動作クロックの周波数と同じとなる。
【0035】
[リピータ装置の動作]
次に、リピータ装置12の動作を、干渉信号抑圧装置26aの機能を中心に説明する。
図2を参照し、受信アンテナで受信された受信信号、例えば基地局11から受信した高周波信号は、低雑音増幅器24aで増幅され、周波数変換器25aで周波数変換された後、干渉信号抑圧装置26aに入力される。
【0036】
図3を参照し、干渉信号抑圧装置26aでは、周波数変換器25aで周波数変換されたアナログ信号をA/D変換器31でディジタル受信信号に変換する。ディジタル受信信号は、複数コピーされて、それぞれの相関積分器36a、36b、36cに同時期に分配される。ディジタル受信信号は、また、チップ遅延器32を経た後、リファレンス信号として、それぞれ、D/A変換器33及び遅延器37a、37b、37cに入力される。
【0037】
各遅延器37a、37b、37cは、入力されたリファレンス信号を、それぞれ予め設定された時間だけ遅延させ、遅延リファレンス信号として、それぞれ対応する相関積分器36a、36b、36cに入力する。このとき、相関積分器36a、36b、36cに入力される遅延リファレンス信号の遅延時間はそれぞれ異なっている。こうすることによって、検出対象となる干渉信号の遅延に合わせた遅延時間で相関積分が行われるようになる。
【0038】
各相関積分器36a、36b、36cは、分配されたディジタル受信信号と遅延リファレンス信号との相関積分を行う。そして、相関積分値を、それぞれ相関積分器36a、36b、36cは位相振幅制御器35a、35b、35cに入力する。
位相振幅制御器35a、35b、35cは、遅延リファレンス信号を、相関積分器36a、36b、36cからの相関積分値に基づいて振幅及び位相調整を行うことにより抑圧信号を生成し、この抑圧信号を加算器34に入力する。
【0039】
図4は、干渉信号抑圧装置26aによる干渉信号抑圧の処理手順図である。干渉信号抑圧装置26aは、監視制御回路38による干渉信号の検出を契機として干渉信号抑圧の処理を開始する。
【0040】
すなわち、監視制御回路38内のCPU40は、遅延時間範囲を設定する(ステップS101)。この遅延時間範囲の設定は任意であるが、あまり長くすると全体の演算時間がかかりすぎるので、例えば10[μs]程度に設定される。CPU40は、干渉信号抑圧に使用できる抑圧回路数、すなわち位相振幅制御器35a、35b、35c、相関積分器36a、36b、36c及び遅延器37a、37b、37cの組のうち、現在使用されていない組の数を取得した後(ステップS102)、未使用の抑圧回路の1つを回路番号n(nは自然数)=1として設定し(ステップS103)、さらに、初期遅延時間(通常は遅延時間範囲の最小の遅延時間とする)を設定する(ステップS104)。
【0041】
CPU40は、n番目の抑圧回路の遅延器37a、37b、37cに初期遅延時間を設定した後(ステップS105)、遅延時間を1ステップ遅らせる(ステップS106)。ここで、1ステップは、例えば、リピータ装置が受信信号をアナログ信号からディジタル信号に変換し、あるいは送信信号をディジタル信号からアナログ信号に変換する際のA/D変換器31、D/A変換器33のサンプリング周波数の逆数である単位時間である。
【0042】
CPU40は、ステップS106において設定された遅延時間が、ステップS101で設定された遅延時間範囲内であるかどうかを判定し(ステップS107)、判定が肯定されればステップS108に進み、判定が否定されればステップS113に進む。
【0043】
ステップS108では、上述の回路番号nに1を加算する。その後、CPU40は、ステップS108で設定された回路番号nがステップS102で取得された未使用の抑圧回路数以内であるかどうかを判定する。判定が否定されればステップS110に進み、判定が肯定されればステップS105に戻る。
【0044】
ステップS110では、相関積分器36a、36b、36cは分配されたディジタル受信信号と遅延リファレンス信号との相関積分を行い、干渉信号を検出する。CPU40は、相関演算結果を、図示しないメモリ内に記憶する(ステップS111)。その後、全ての抑圧回路を未使用に設定する。その後、CPU40は、未使用の抑圧回路の1つを回路番号n(nは自然数)を「1」に設定し(ステップS112)、ステップS105の処理に戻る。
【0045】
一方、ステップS113では、相関積分器36a、36b、36cは、分配されたディジタル受信信号と遅延リファレンス信号との相関積分を行い、干渉信号を検出する。CPU40は、相関演算結果を、図示しないメモリ内に記憶する(ステップS114)。その後、全ての抑圧回路を未使用に設定する。
【0046】
CPU40は、上述のメモリから相関演算値が最大になるときの遅延時間を読み出し(ステップS115)、これを、遅延時間候補とする。未使用の抑圧回路の遅延器37a、37b、37cの一つ、例えば遅延器37cにこの遅延時間(遅延時間候補)を設定する(ステップS116)。そして、ステップS116で設定時間を設定した遅延器37cの対となる位相振幅制御器35cを起動し、これを抑圧回路として動作させる(ステップS117)。
【0047】
CPU40は、位相振幅制御器35cを抑圧回路として動作させた状態で、ステップS116で設定された遅延器37cの遅延時間を、ステップS115で読み出した遅延時間候補を中心としてその前後数ステップ変化させ、相関積分器36cの相関値に重み付けをして累積加算した値を求める。この値を、検出した干渉信号の成分を抑圧(打ち消す)するための「抑圧係数」とする。CPU40は、この抑圧係数が最大値になるときの遅延時間を検出し、検出した遅延時間を、重み付け後の新たな遅延時間として、遅延時間候補に代えて、再設定する(ステップS118)。これにより、真に抑圧したい干渉信号を正しく抑圧できるようになる。
【0048】
このことを、図5を参照して具体的に説明する。
図5は、真に抑圧したい干渉信号#1のほかに、干渉信号#1とは異なる他の干渉信号#2が近接して存在するときの遅延時間と相関値との関係を示した図である。
干渉信号#1のみであれば、相関積分により得られる相関値が最大になるときの遅延時間Tmoが真の遅延時間として検出される。しかし、干渉信号#2が図5のように近接した状態でステップS116までの処理を実行すると、ある時間幅で遅延時間を掃引したときに相関値が最も高いとされる遅延時間Tmは、図5に破線で示すように、干渉信号#1の遅延時間Tmoよりも、干渉信号#2の影響を受けて干渉信号#2の方にずれてしまうことがある。
これは、掃引した時間幅で相関積分を行う結果、干渉信号#1だけのときよりも、干渉信号#2の相関積分の結果が存在する分、干渉信号#1と干渉信号#2との間の方が相関値が高いと誤って判断されてしまうためである。
本実施形態では、このような問題を解消すべく、まず、ステップS115で読み出した遅延時間を遅延時間候補とし(この時間がTmとなる)、その後、ステップS117で、位相振幅制御器35cを抑圧回路として動作させた状態で、相関値に重み付けして累積加算した抑圧係数により干渉信号#1の変化を監視することにより、干渉信号#2の影響を受けず、真に抑圧したい干渉信号#1の遅延時間Tmoを正しく検出することができる。
【0049】
このように、本実施形態では、位相振幅制御器35cを抑圧回路として動作させた状態で、遅延器37cの遅延時間を、遅延時間候補を中心としてその前後数ステップ変化させ、相関積分器36cの相関値に重み付けをして累積加算した抑圧係数を比較し、抑圧係数が最大値になるときの遅延時間を、重み付け後の遅延時間として、遅延時間候補と置き換えるようにしたので、それぞれ信号強度の影響を無視できない複数の干渉信号が近接して混在する場合であっても、真に抑圧したい干渉信号とその遅延時間を精度良く検出することができる。
【0050】
本発明の実施形態は、以上の通りであるが、本発明は、上述した形態例に限定されない。例えば、本実施形態では、相関演算手段として複数の相関積分器を用いた場合の例を示したが、本発明は、ディジタル受信信号と遅延リファレンス信号との相関の高さを導出できれば良いので、相関積分器に代わる他の相関演算器、例えば類似度演算器等を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を適用したリピータ装置を含む通信システムの概念図。
【図2】本実施形態によるリピータ装置の構成図。
【図3】干渉信号抑圧装置の詳細構成図。
【図4】干渉信号抑圧の手順を示した手順説明図。
【図5】2つの干渉信号#1,#2が近接して存在するときの遅延時間と相関値との関係を示した図。
【符号の説明】
【0052】
11・・・基地局、12・・・リピータ装置、13・・・ビル等の建造物、14・・・移動局、21・・・基地局向けアンテナ、22・・・アンテナ共用器、23・・・移動局向けアンテナ、24a、24b・・・低雑音増幅器、25a、25b、27a、27b・・・周波数変換器、26a、26b・・・干渉信号抑圧装置、28a、28b・・・高出力増幅器、31・・・A/D変換器、32・・・チップ遅延器、33・・・D/A変換器、34・・・加算器、35a、35b、35c・・・位相振幅制御器、36a、36b、36c・・・相関積分器、37a、37b、37c・・・遅延器、38・・・監視制御回路、40・・・CPU。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号から前記干渉信号を抑圧する方法であって、
送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ信号成分を含む複数のリファレンス信号を取り込み、取り込んだ各リファレンス信号にそれぞれ異なる遅延時間を付加することにより複数の遅延リファレンス信号を出力する段階と、
各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を行うことにより、前記受信信号及び前記対象信号に含まれる前記干渉信号及びその干渉信号の遅延時間候補を検出する段階と、
検出した干渉信号から、この干渉信号と振幅及び遅延時間が同じで、逆位相の抑圧信号を生成し、この抑圧信号を前記検出した遅延時間候補だけ遅延させて前記受信信号に加算し、前記干渉信号を抑圧した状態で、当該抑圧信号の遅延時間を前記検出した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する前記相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を検出する段階と、
前記抑圧信号を前記検出した遅延時間で前記受信信号に加算する段階とを有する、
干渉信号抑圧方法。
【請求項2】
前記受信信号、前記リファレンス信号及び前記抑圧信号は、それぞれディジタル処理により得られるディジタル信号であり、
前記抑圧係数を求める際に、前記抑圧信号を遅延時間候補を中心として、その前後にわたり、前記ディジタル処理の動作クロックの周波数の逆数である単位時間幅の整数倍だけ変化させる、
請求項1記載の干渉信号抑圧方法。
【請求項3】
送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号から前記干渉信号を抑圧する装置であって、
送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅及び位相の複数のリファレンス信号を取り込む取込手段と、
この取込手段で取り込んだ複数のリファレンス信号を、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力する遅延付加手段と、
各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関度合いを表す相関演算値をすべての遅延リファレンス信号について並行して算定する相関演算手段と、
この相関演算手段により算定された相関演算値の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に適合する信号として特定するとともに、この遅延リファレンス信号を出力した前記遅延付加時間に設定されている遅延時間を遅延時間候補として特定し、特定した前記干渉信号に適合する信号と同振幅で逆位相となる抑圧信号を生成する抑圧信号生成手段と、
生成された抑圧信号を前記特定した遅延時間候補だけ遅延させて前記受信信号と加算することにより、前記干渉信号を抑圧する抑圧手段と、
前記干渉信号を抑圧した状態で、前記抑圧信号を加算するときの遅延時間を前記特定した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する前記相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を前記遅延時間候補に置き換える制御手段と、
を有する干渉信号抑圧装置。
【請求項4】
前記遅延付加手段は、それぞれ前記複数のリファレンス信号を入力とする複数の遅延器を含んでおり、
前記相関演算手段は、前記複数の遅延器と1対1に対応付けられた前記遅延器と同数の相関演算器を含み、これらの相関演算器で、各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関演算を同時期に行う、
請求項3記載の干渉信号抑圧装置。
【請求項5】
前記抑圧信号生成手段は、すべての前記遅延リファレンスについての相関演算の結果である相関値を比較し、この相関値が最も大きくなる遅延リファレンス信号を出力した遅延器の遅延時間を前記遅延時間候補とし、その遅延時間候補において出現する信号成分を前記干渉信号として検出する、
請求項3又は4記載の干渉信号抑圧装置。
【請求項6】
前記受信信号をディジタル信号に変換するA/D変換器と、
ディジタル信号を前記送信信号に変換するD/A変換器とを備えており、
前記制御手段は、前記抑圧信号を加算するときの遅延時間を、前記遅延時間候補を中心として、前記A/D変換器及び前記D/A変換器のサンプリング周波数の逆数である単位時間の整数倍だけ前後に変化させる、
請求項3、4又は5記載の干渉信号抑圧装置。
【請求項7】
送信信号の一部が干渉信号として混入した受信信号を受信するリピータ装置であって、
送信対象となる対象信号から当該対象信号と同じ振幅及び位相の複数のリファレンス信号を取り込む取込手段と、
この取込手段で取り込んだ複数のリファレンス信号を、それぞれ異なる設定時間の遅延を生じさせることにより、複数の遅延リファレンス信号として出力する遅延付加手段と、
各遅延リファレンス信号と前記受信信号との相関度合いを表す相関演算値をすべての遅延リファレンス信号について並行して算定する相関演算手段と、
この相関演算手段により算定された相関演算値の大きさに応じていずれか一つの遅延リファレンス信号を前記干渉信号に適合する信号として特定するとともに、この遅延リファレンス信号を出力した前記遅延付加時間に設定されている遅延時間を遅延時間候補として特定し、特定した前記干渉信号に適合する信号と同振幅で逆位相となる抑圧信号を生成する抑圧信号生成手段と、
生成された抑圧信号を前記特定した遅延時間候補だけ遅延させて前記受信信号と加算することにより、前記干渉信号を抑圧する抑圧手段と、
前記干渉信号を抑圧した状態で、前記抑圧信号を加算するときの遅延時間を前記特定した遅延時間候補の前後にわたって変化させ、これにより変化する前記相関演算の結果に重み付けをして累積加算した値を抑圧係数とし、この抑圧係数が最大となるときの遅延時間を前記遅延時間候補に置き換える制御手段と、
を有するリピータ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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