説明

平坦な表面によって反射する光の測定により分子相互作用を測定するための方法

リガンドのレセプターとの相互作用の結合定数を決定する方法であって、:疎水性アモルファスポリマーからなり、屈折率が1.32〜1.35である透明な固体材料の平坦な表面を、レセプター分子または試薬を含有する溶液に接触させる工程と;一連の公知である体積のリガンド水溶液を溶液に追加する工程と;固体材料と水溶液との間の界面から反射する光強度値を追加ごとに測定する工程と;測定した値をリガンド追加の関数としてフレネル式でフィットさせ、付着した質量を得るとともに、ラングミュア式でフィットさせ、平衡時のリガンド−レセプター親和性定数を得る工程とを含む方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射光強度を直接的に測定することにより、固体材料の表面に吸着または固定化されたレセプターとリガンドとの相互作用を定量的に決定するための簡易かつ効率的な方法に関する。
【0002】
より具体的には、本発明は、屈折率が1.32〜1.35である材料の平坦な表面を使用し、レセプターとリガンドとの相互作用を定量的に決定するための方法に言及する。
【0003】
先行技術では、化学的、生化学的または生物学的関連のリガンドとレセプターとの間の相互作用、換言すれば、リガンド−レセプター可逆系の結合親和性を決定するためのいくつかの方法が報告されている。Angew.Chem.Int.Ed.1998、37、2785ページにリストが報告されている。公知の方法は、一般的に、好適な平らな表面にレセプターを固定化し、リガンドが表面に接触した後における一定の表面特性、例として光学的なものの変動を直接的または間接的に測定することを含む。変動は、リガンド/レセプター対の形成によるものである。
【0004】
これらの方法の一つの分類では、溶液中のリガンドの標識化、換言すれば、蛍光、発光または放射性種によるリガンドの共有結合修飾が必要となる(例として、米国特許出願第2004/0014060 A1号を参照されたい)。しかし、リガンドの修飾は、非常に複雑で時間がかかり、種々の異なるリガンドを使用するスクリーニングテストでの使用が困難であることに注意すべきである。さらに、この方法では、レセプターと相互作用せず、測定に干渉する遊離リガンドを洗浄によって除去するための追加的な操作が必要となる。前記方法のさらなる欠点として、リガンド−レセプター相互作用が、標識化のためのリガンドの化学的修飾に影響されることができる。
【0005】
リガンド−レセプター相互作用(例として、セルメンブレン表面上で起こるもの)をより効果的に模擬したもう一つの分類の方法では、標識化物質でリガンドを修飾することなく、リガンド−レセプター対の連結形成によって表面上で引き起こされる変動を直接的に利用する。この方法の例は、GE Healthcare(スウェーデン国ウプサラ)によって市販されているバイオセンサーBIAcoreを使用するものである。例として、米国特許第5,313,264号および米国特許第5,374,563号を参照されたい。このバイオセンサーでは、表面プラズモン共鳴(SPR)の原理を使用し(Jiri Homola、Sinclair S.Yee、Gunter Gauglitz、Surface plasmon resonance sensors: review,Sensors and Actuators B、vol.54(1999)、3〜15ページを参照されたい)、エバネセント光学的波が導電材料、例えば銀または金の薄い層(50nm)の表面プラズモンと対になり、特定の角度で共鳴現象が発生する。これにより、金属上に固定化された材料、例としてリガンド−レセプター対の層の屈折率の変動を決定することができる。この変動から、リガンドとレセプターとの間の結合定数が得られる。
【0006】
この方法は、実際に非常に使用されるが、かなり煩雑かつ高価であり、結合定数の決定において必ずしも正確というわけではない。例として、Peter Schuckによる刊行物「Use of surface plasmon resonance to probe the equilibrium and dynamic aspects of interactions between biological macromolecules」、Annu.Rev.Biophys.Biomol.Struct.、1997、26、541〜566ページを参照されたい。事実、前記方法は、レーザービームのカップリング角度を決定するプラズモンの伝播速度に対する効果により、吸着された質量を間接的に検出することに基づく。
【0007】
結合定数を決定するためのBIAcore方法の使用に関係する問題は、主に方法の複雑さに依存する:
− 測定される信号は、先験的に公知ではないパラメーターを含む複雑な関数的依存性を通じ、五つの異なる材料の物理的特性に依存する。挙げられる五つの材料は、ガラス支持体または類似の生成品、支持体に堆積した導体の薄い層、金属性表面を官能基化させることができる重合体層、相互作用によって付着する分子および水溶液である;
− 測定の感度および正確さは、センサーを形成する導体層の厚さおよび表面品質に強く依存する(H.Neffらによる刊行物「Optical properties and instrumental performances of thin gold films near the surface plasmon resonance」、Thin solid films、2006、496、688〜697ページを参照されたい);
− 測定は、さまざまな角度における光強度の検出に基づき、これは、高い分解能での角度走査の能力がある装置を必要とし、したがって、高い精度の可動部分または好適な空間分解能の光検出器マトリクスから成り立つ(L.S.Jungらによる論文「Quantitative interpretation of the response of surface plasmon resonance sensors to adsorbed films」、Langmuir、1998、14、5636〜5648ページを参照されたい)。
前記問題から以下が生起される:
− 結合反応速度論を通して決定される親和性定数値と熱力学的平衡で得られるものとが不一致となる;
− 信号がこれまで公知でなかったパラメーターに依存するため、リガンド/レセプター対が表面に形成されるときに発生する信号の強度を予測することができない。
【0008】
そのため、リガンド−レセプター相互作用によって表面上で引き起こされる変動を直接的に利用し、リガンドの標識化操作を避け、熱力学的平衡条件下で親和性定数値を決定することができ、したがって、間接的な方法、例えば、例としてBIAcoreの欠点を避け、生物学的および薬理学的関連のリガンドの多くが複数の結合部位を有することから、多価リガンドの研究でも方法を使用することができる、リガンドとレセプターとの間の相互作用を決定するための簡易な方法を提供することが要望されている。とりわけ、信号について、構築が簡易な計装によって検出可能であり、これまでに公知のパラメーターを通して定量的に解釈可能であって、このようにして先行技術の欠点を克服する、高い感度の方法が要望されている。
【0009】
現在のところ、予想外にも、驚くべきことに、本明細書において記載する方法により、相互作用する分子種の結合親和性およびその濃度を決定することができる定量的な光学的方法で前記欠点を克服することが可能であることが確認されている。
【0010】
本発明の目的は、反射光の強度の測定を使用することにより、二つの相互作用する分子種の結合定数および/または溶液中のリガンドの濃度を決定するための方法であって、:
a)疎水性アモルファスポリマーから構成され、屈折率が1.3200〜1.3500、好ましくは1.3300〜1.3350である透明な固体材料の平らまたは粗い平坦な表面を、レセプターまたは試薬の機能を持つ分子、例えば抗体、他のタンパク質性もしくはペプチド性複合体、核酸、脂質あるいはレセプターもしくは試薬で終結された両親媒性の界面活性剤またはブロックポリマーを1ナノグラム/ml〜10ミリグラム/mlの濃度で含有し、場合により、レセプター機能を有さない他の分子(スペーサー)に混合される混合物の水溶液または非水溶液に接触させ、場合により、水溶液と前記固体材料との間の界面から反射する光強度を追加ごとに測定し、時間の関数または次第に追加されるレセプター濃度の関数として、測定した値を図表に報告し、場合により、前記分子の他の水溶液または非水溶液に表面を接触させることにより、この手順を繰り返す工程と;
b)一連の公知である体積のリガンド水溶液を工程(a)で得られた溶液に追加し、水溶液と重合体材料との間の界面から反射する光強度を追加ごとに測定し、時間の関数または次第に追加されるリガンド濃度[T]の関数として、測定した値を関係する図表に報告し、反射光強度データIをリガンド追加の関数として式:
【数1】


でフィットさせ、ここで、
は、表面に入射する光の強度を表し、
cは、表面粗さを考慮した因数であり、粗さのない表面の場合にのみ1に等しい値を有し、
は、界面がないときに検出器によって測定される光強度であり、
φは、入射平面での光偏光の方向によって形成される角度であり、
およびRは、入射平面にそれぞれ垂直および平行に偏光する場合に薄い層についてフレネル式から導かれる反射係数であり、界面に吸着されたレセプターとあらゆる瞬間において接触しているリガンドの量に依存する、
工程とを含む方法である。前記フィットから、表面上のレセプターと相互作用するリガンドの濃度[T]と、場合により、ラングミュア吸収式によってレセプター−リガンド結合のK定数とを得る。
【0011】
薄い層のためのフレネル式は、例として、Frank L.PedrottiとLeno S.Pedrotti、「Introduction to Optics‐Second Edition」、Prentice Hall、Upper Saddle River、New Jersey、1993、392〜396ページに記載されているものである。
【0012】
リガンド追加の関数として平衡条件でレセプターに結合するリガンドの量は、レセプター濃度および結合定数とも言われる親和性定数に依存する「ラングミュア等温線」として公知の関数によって表現することができる。ラングミュア等温線については、例として、Paul C. Hiemenez、「Principles of Colloid and Surface Chemistry」、Marcel Dekker、New York、1997、287〜298ページを参照されたい。
【0013】
反射強度データのフィットは、薄い層の反射に関するフレネル式に対し、表面に吸着または固定化されたレセプターおよびリガンドの体積を挿入することで実施する。これにより、レセプターおよびリガンド表面濃度ならびに親和性定数だけでなく、水、重合体材料および表面上の材料の屈折率に依存する関数が生起される。他のパラメーターは、一般的に、公知または測定可能であるため、フィットから、レセプターと相互作用するリガンドの濃度および親和性定数を得ることが可能である。
【0014】
本発明の方法は、式(1)に示す関係によって、透明または混濁および/もしくは吸収性溶液に適用可能である。そのうえ、本発明の方法は、任意の入射角度および任意の光偏光に適用可能である。
【0015】
表面上の連続した分子層の形成による光強度の変動と工程(a)または工程(b)の前に測定したバックグラウンド光強度との比率を変動させ、入射角度および/または光収集角度を修正するか、入射する光の偏光の変更および/または検出した光の偏光変動の測定を行うことにより、方法の感度を改善することができる。
【0016】
例として、光入射角度が45°であり、偏光が入射平面に対して垂直であり(Φ=90°)、水溶液の屈折率と重合体基質の屈折率との差Δnが0.012以下であり、吸着または固定化されたレセプターおよび相互作用するリガンドの分子層の厚さが15ナノメートル未満である場合、レセプターおよびリガンド分子の屈折率が等しく、かつ、値nを有すると仮定すると、平らな平滑表面から反射する強度Iは、完全方程式(1)に関して1%未満の誤差で近似された次の式(2)によって表現することができる:
【数2】


ここで、
、[T]、Δnは、先に定義したとおりであり、
[T]は、表面に付着したレセプターの濃度であり、
とmは、それぞれレセプターおよびリガンドの分子量であり、
ρとρは、それぞれレセプターおよびリガンドの密度を表し、
Vは、水溶液の体積であり、
Aは、レセプターとリガンドとの相互作用が生じる固体材料表面の面積であり、
λは、入射する光の波長であり、
は、アボガドロ数であり、
は、水溶液の屈折率であり、および
は、レセプターを追加する前(工程(a)の前)に測定した強度である。
【0017】
熱力学的平衡の状態で表面に付着するリガンドの濃度[T]は、ラングミュア吸着式(3)で表現することができる:
【数3】


ここで、
[T]は、先に定義したとおりであり、
[S]は、リガンド−レセプター結合部位のモル濃度であり、および
Kは、親和性定数(結合定数とも言われる)である。
【0018】
他のパラメーターが公知であることは、測定可能またはすでに公知であることを意味し、方程式(2)を反射強度の測定値にフィットさせることにより、表面に吸着または固定化されたレセプターの濃度[S]およびリガンド−レセプター相互作用の親和性定数Kが得られる。
【0019】
疎水性アモルファスポリマーは、例として、パーフルオロポリマーであることができる。アモルファス重合体材料の表面は、流動なしで測定を行うためのセルに含めることができ、または溶液を流動させる可能性を有する測定セルに含めることができ、または浸漬プローブに含めることができる。重合体材料の表面は、異なる形状、例えば、例としてプリズムまたはプリズムの錐台の形状、平行または非平行の面を持つ板の形状、好ましくは1ミクロンを超える厚さを持つ薄い膜の形状を有することができる重合体製品の部分であることができる。重合体製品は、公知の手法、例えば成形、押出、鋳込による膜形成、スピンコーティングによって得ることができる。膜の表面粗さは、膜形成中、例として溶媒および蒸発温度を選択し、アニーリングを行うことによって制御することができる。すでに形成された表面上の表面粗さを制御するための他の方法は、溶媒、ラップ仕上げおよびインプリンティング操作の使用から成る。
【0020】
重合体表面は、平滑であるか、または表面粗さの深さおよび幅として10ナノメートル〜3ミリメートルという特徴的なサイズを有する、規則的もしくは不規則な粗さを呈することができる。ポリマーの表面粗さは、拡散光の要素を生起させることができるが、表面を被覆する分子層に比例し、同じように反射光に比例するので、本方法にとって不都合ではない。この場合、幾何学的な反射と異なる方向でも光強度を測定することが可能である。
【0021】
レセプターの機能を持つ分子または分子的複合体としては、固体表面上に吸着もしくは固定化される単分子層を発生させるものを使用する。吸着は、レセプター分子と固体表面との間の疎水性または静電相互作用によることができる。固定化は、レセプター分子の直接的な吸着に加え、例としてコーティングまたは堆積手法を通じ、レセプター分子と固体表面を構成するアモルファスポリマーとの間の化学的連結または固体表面に吸着もしくは固定化された異なる化合物との化学的連結が形成されることによることができる。レセプターの機能を持つ分子または分子的複合体は、公知の技術による方法、例えば化学的方法または電磁波照射もしくはプラズマ処理方法を通じ、固定化および/または化学的に修飾することができる。
【0022】
リガンドの機能を持つ分子または分子的複合体は、レセプターとの相互作用を通して表面上に固定化された後、それらと相互作用する他の分子または分子的複合体のためのレセプターとしての機能を果たすことができる。
【0023】
前記のように、レセプターとしては、界面活性剤、例として固体表面上に自己組織化した単分子層を発生させる非イオン性両親媒性のものを使用することができる。前記単分子層の形成は、本方法の工程(a)を実行し、次第に追加されるレセプター濃度の関数として平衡時に測定される光強度の漸近値の達成を観察することによって検証することができる。
【0024】
レセプター分子は、前記のように、レセプター機能を有さないスペーサー分子との混合剤に使用することができる。一般的に、後者は、界面活性剤およびタンパク質から選択することができる。そのうえ、スペーサーとして使用する分子は、特定の相互作用を有していてはならない。前記相互作用がないことは、スペーサー分子のみを使用して本発明による方法の工程(a)を実行し、その後、工程(b)を実行して反射光強度の変動がないことを検証することによって決定することができる。
【0025】
レセプター機能をもたらす、またはスペーサー分子として使用される界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、例として糖脂質、オリゴオキシエチレン、オリゴオキシプロピレンもしくはアルキルグリコシドまたはイオン性界面活性剤、例としてアニオン性、例えばビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸ナトリウム(AOT)もしくはカチオン性、例えばジドデシルジメチルアンモニウムブロミド(DDAB)から選択することができる。
【0026】
レセプターで終結する界面活性剤は、先行技術の公知プロセスによってレセプターと先に記載の界面活性剤とを反応させることによって調製する。
【0027】
リガンド−レセプター対は、分子の対、例としてタンパク質、核酸、糖タンパク質、炭水化物、おおよそ安定した連結を形成する能力がある親和性を有するホルモンとして定義される。とりわけ、抗体/抗原、酵素/インヒビター、炭水化物/炭水化物、タンパク質/DNA、DNA/DNA、ペプチド/ペプチドを挙げることができる。
【0028】
本発明による方法の工程(a)および(b)では、反射光強度の測定は、おおよそ規則的な時間間隔、例として1秒以上で、反射光の強度を一定値に到達するまで検出することによって実行する。熱力学的平衡に到達するために必要な時間は、特定の種類のレセプター−リガンド対に依存することが確認されている。そのため、測定を実施することにより、吸着−脱着反応速度論を評価することができる。
【0029】
本発明の方法では、溶液中の最低濃度に関する固有の限界がなく、1mm2の表面上で100ピコグラムのリガンドを検出することができ、これは、先行技術の最も精度の高い手法程度の感度限界に相当する。測定表面面積は、レセプターが吸着または固定化された表面として定義される。このような面積を数十ミクロンの特徴的な直径を有するように縮小させ、したがって、数ピコグラムのリガンドの検出ができる。測定表面全体は、異なるレセプターが吸着または固定化される、より小さい異なる表面から成り立つことができる。
【0030】
本発明の方法により、反射光強度の測定を通じてレセプターとリガンドとの間の相互作用を直接的に同定および測定するうえで、光の反射が有効であることが明らかになったことは、驚くべきことであり、予想外である。
【0031】
本発明を限定することなく例証するため、いくつかの実施例を次に挙げる。
【0032】
実施例
実施例1
ビオチンと共役したタンパク質ウシ血清アルブミン(ビオチン化BSA、リガンド)とアビジン(レセプター)との間の結合定数の測定。
【0033】
工程(a)
ラップ仕上げによって機械的に加工された一辺1cmの平滑表面を有する、60モル%のパーフルオロジオキソールTTDを含有するTFEコポリマーの直角プリズムを1.5ミリリットルの水に浸漬する。
【0034】
5ミリワットHe−Neレーザーから出る光ビームを、水溶液に接触していない直角プリズム面に垂直に衝突させる。プリズムのより長い側とそれに接触する水溶液との間の界面で反射が生じる。反射したビームは、プリズムの第二のより小さい側から出て、反射光強度を電気信号に変換する増幅されたフォトダイオードによって検出される。
【0035】
タンパク質アビジン(Aldrichによって製品化されており、CAS番号は1405−69−2)の5マイクロモル水溶液を10マイクロリットルずつ合計80マイクロリットルまで水に追加する。溶液は、常に攪拌下に維持する。
【0036】
各追加後、プリズム面から反射する光の強度を安定値に到達するまで測定する。平衡時に測定した強度値(図1内の四角)をセル内のアビジン濃度の関数として図表に報告し、mg/mlで表現し、本明細書の図1に報告する曲線を得る。
【0037】
フォトダイオードによって測定される光強度の変動から、追加したタンパク質により、溶液に浸漬した面が次第に被覆されることが観察可能である。
【0038】
完全な被覆は、測定される光強度の漸近値の達成によって明確に示される。
【0039】
工程(b)
プリズムを浸漬する工程(a)で得た溶液に対し、漸近値に到達したところで、ビオチンと共役したウシ血清アルブミン(Pierceによって市販されており、製造番号は29130)の5マイクロモル水溶液を10マイクロリットルずつ追加する。溶液は、常に攪拌下に維持する。各追加後、工程(a)のように反射光強度を測定する。
【0040】
測定した強度の値(図1内の点)を、得られたタンパク質濃度の関数として図表に報告し、工程(a)で図表化した曲線に追加する。
【0041】
BSA−ビオチン−アビジン連結の形成は、漸近値に到達し、アビジンのビオチン結合部位の飽和が示唆されるまでに測定される光強度の増加から検出される。
【0042】
BSA−ビオチンの追加の関数として反射光強度データにラングミュア吸着式をフィットさせることにより、レセプター−リガンド結合定数を得る。得られた結合定数は、2.6×10リットル×モル−1である。
【0043】
実施例2
薄い膜による、アビジン(レセプター)と、ビオチンと共役したウシ血清アルブミン(ビオチン化BSA、リガンド)との間の結合定数の測定。
【0044】
プリズムを、17マイクロメートルの厚さを有する、実施例1で使用したものと同じコポリマーの薄い膜に置き換え、実施例1を繰り返す。前記膜は、外部側が1.4cm、内部側が0.4cmであり、保持機能を有する四角形のプレキシグラス枠に取り付ける。
【0045】
実施例1のように、膜表面に対して45°の角度でレーザー光ビームを前記膜に衝突させる。レーザーから出るビームの方向に対して90°に設置した、増幅されたフォトダイオードにより、光強度を電気信号に変換する。
【0046】
その後、実施例1に記載するすべての操作を繰り返し、3.7×10リットル×モル−1の結合定数を得る。
【0047】
実施例3
吸光係数が高い溶液中における、アビジン(レセプター)と、ビオチンと共役したウシ血清Abumin(ビオチン化BSA、リガンド)との間の相互作用の検出。
【0048】
TFEコポリマーで作製され、水に浸漬された直角プリズム、He−Neレーザーおよびフォトダイオードを実施例1のように設置して構成される、実施例1に記載の測定系を使用した。
【0049】
10マイクログラムのタンパク質アビジンを含有する、体積が10マイクロリットルの水溶液を追加した1.5ミリリットルの水にプリズムを浸漬する。溶液は、常に攪拌下に維持する。
【0050】
プリズム面によって反射する光の強度を2分間の規則的な間隔で測定し、安定値に到達するまでに測定した強度値(図2内の四角形)を時間の関数として図表に報告する。
【0051】
常に攪拌下に維持された溶液に対し、0.1%(vol/vol)のサブミクロンサイズの酸化鉄粒子を含有する、体積が100マイクロリットルのコロイド懸濁液を追加すると、5cm-1の吸光係数を与え、633nmの波長で全血について文献に報告されているものよりも高い値となる。
【0052】
フォトダイオードによって測定される反射光の強度は、微粒子の追加後に水溶液の屈折率が増加するため、急速に50%近く増加する。
【0053】
2分後、ビオチンと共役したタンパク質ウシ血清アルブミン(Pierceによって市販されており、製品番号は29130)を10マイクログラム含有する、体積が10マイクロリットルの水溶液を追加する。
【0054】
プリズム面によって反射する光の強度を2分間の規則的な間隔で測定し、安定値に到達するまでに測定した強度値(図2内の点)を時間の関数として図表に報告する。
【0055】
実施例1において微粒子のない透明な水溶液中で測定したものと比較して、BSA−ビオチンの追加により、フォトダイオードの出力電圧について約0.5ボルトの上昇が得られる。これは、吸収性および分散性媒体が存在したしても、溶液中における吸着されたアビジンとBSA−ビオチンとの間の相互作用の検出が有意に制限されないことを示す。
【0056】
実施例4
抗マウスIgG抗体との相互作用による流動セル内でのマウスIgG抗体の検出。
【0057】
図3に報告するように、サイズが2cm×2cm×3cmで平行に管を通したプレキシグラスから、内部体積が約100マイクロリットルの流動セルを得た。セル側には、60モル%のパーフルオロジオキソールTTD(図3内の陰の要素)を含有するTFEコポリマーで作製された窓がある。セルのインターンに面する窓表面は、外部表面に対して5°の角度を形成する。セルは、直径が1mmである二つの管により、エクスターンに接続する。
【0058】
パーフルオロ化材料の窓の外部面に対し、5ミリワットHe−Neレーザーから光ビームを垂直に衝突させる。水溶液とパーフルオロポリマーとの間の界面から出る反射光は、外部表面の垂線に対して約5°の角度を形成する方向を有し、反射光強度を電気信号に変換する増倍されたフォロダイオードによって検出される。
【0059】
工程(a)
マウスIgG抗体を5マイクロモルの濃度で含有する水溶液を20マイクロリットル/分でセル内に流動させる。流動中、水溶液とパーフルオロポリマーとの間の界面から反射する光の強度を2分間の間隔で測定する。漸近値に到達するまでに測定した強度値(図4内の塗りつぶしの点)を時間の関数として図表に報告する。
【0060】
工程(b)
ヤギで作製した抗マウスIgG抗体を5マイクロモルの濃度で含有する水溶液を20マイクロリットル/分でセル内において流動させる。反射光の強度を工程(a)のように検出し、値を時間の関数として図表に報告する(図4内の塗りつぶしの四角形)。20分後、工程(a)の終結時に測定した値に対し、100%近い反射光強度の上昇が得られる。
【0061】
実施例5
ヒトIgG抗体と抗マウスIgG抗体との間に特定の相互作用がないことを検出するためのコントロール実験。
【0062】
実施例4に記載する流動セルを、1モルの水酸化ナトリウムを含有する水溶液を3時間にわたって継続的に流動させることによって清掃する。この操作の後、反射光の強度の測定値が実施例4の工程(a)の前に測定したものと等しいことを確認する。
【0063】
工程(a)
実施例4の工程(a)に記載する手順を、マウスIgG抗体の代わりにヒトIgG抗体を使用して繰り返す。実施例4の工程(a)のように反射光強度を検出し、値を時間の関数として図表に報告する(図4内の白抜きの点)。
【0064】
工程(b)
その後、実施例4の工程(b)に記載する手順を、ヤギで作製した抗マウスIgG抗体を使用して同様に繰り返す。実施例4の工程(b)のように反射光の強度を測定し、値を時間の関数として図表に報告する(図4内の白抜きの点)。20分後、反射光の強度は、工程(a)の終結時に測定した値と比較して約20%増加する。得られた上昇は、実施例4の工程(b)の終結時に得られたものよりもはるかに低く、これは、工程(a)中に表面に吸着された抗マウスIgG抗体とヒトIgG抗体との間の不特定な相互作用に起因する。
【0065】
実施例6
ビオチンと共役し、アビジンで固定化された抗ヒトIgG抗体との相互作用によるヒトIgG抗体の検出。
【0066】
実施例4に記載するものと同一の流動セルに100マイクロリットルの水を充填する。セルに対し、タンパク質アビジンを1.5マイクロモルの濃度で含有する水溶液を合計で20マイクロリットルの体積にわたって流動させる。流動の終結時に、フォトダイオードによって検出される反射光の強度を測定し、時間の関数として図表化する(図5の白抜き点)。
【0067】
反射強度が安定値に到達したところで、50分間にわたって20マイクロリットル/分の水の流動を適用することから成る洗浄手順により、タンパク質の任意の可能な残留物含有量を除外し、流動中、フォトダイオードによって検出される反射光強度を測定し、時間の関数として図表化する(図5内の破線)。
【0068】
洗浄手順の後、セルに対し、マウスで作製され、ビオチンと共役した抗ヒトIgG抗体を3マイクロモルの濃度で含有する水溶液を合計で20マイクロリットルの体積にわたって流動させる。流動の終結時に、フォトダイオードによって検出される反射光強度を安定値に到達するまで測定し、時間の関数として図表化する(図5の白抜きの四角形)。フォトダイオードによって検出される反射光強度の増加は、ビオチンで共役した抗体がアビジンで被覆された表面に付着することに起因する。
【0069】
反射強度が安定値に到達したところで、先に記載した洗浄手順により、抗体の任意の可能な残留物含有量を除外し、フォトダイオードによって検出される反射光強度の値を測定し、時間の関数として図表化する(図5内の破線)。
【0070】
洗浄手順の後、セルに対し、濃度が2マイクロモルであるヒトIgG抗体の水溶液を合計で10マイクロリットルの体積にわたって流動させる。流動の終結時に、フォトダイオードによって検出される反射光強度の値を安定値に到達するまで測定し、時間の関数として図表化する(図5の塗りつぶされた四角形)。フォトダイオードによって検出される反射光強度の増加は、抗ヒトIgG抗体で被覆された表面にヒトIgG抗体が付着することに起因する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】実施例1の図表である。
【図2】実施例3の図表である。
【図3】流動セルである。
【図4】実施例5の図表である。
【図5】実施例6の図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
反射光の強度の測定を使用することにより、二つの相互作用する分子種の結合定数および/または溶液中のリガンドの濃度を決定するための方法であって、:
a)疎水性アモルファスポリマーから構成され、屈折率が1.3200〜1.3500、好ましくは1.3300〜1.3350である透明な固体材料の平らまたは粗い平坦な表面を、レセプターまたは試薬の機能を持つ分子、例えば抗体、他のタンパク質性もしくはペプチド性複合体、核酸、脂質あるいはレセプターもしくは試薬で終結された両親媒性の界面活性剤またはブロックポリマーを1ナノグラム/ml〜10ミリグラム/mlの濃度で含有し、場合によりレセプター機能を有さない他の分子(スペーサー)に混合される、混合物の水溶液または非水溶液に接触させ、場合により、水溶液と前記固体材料との間の界面から反射する光強度を追加ごとに測定し、時間の関数または次第に追加されるレセプター濃度の関数として、測定した値を図表に報告し、場合により、前記分子の他の水溶液または非水溶液に表面を接触させることにより、この手順を繰り返す工程と;
b)一連の公知である体積のリガンド水溶液を工程(a)で得られた溶液に追加し、水溶液と重合体材料との間の界面から反射する光強度を追加ごとに測定し、時間の関数または次第に追加されるリガンド濃度[T]の関数として、測定した値を図表に報告し、反射光強度データIをリガンド追加の関数として、薄い膜の反射に関するフレネル式でフィットさせて付着した質量を得るとともに、吸着に関するラングミュア式でフィットさせて平衡時のリガンド−レセプター親和性定数を得る工程と
を含む方法。
【請求項2】
両親媒性の非イオン性またはイオン性界面活性剤が、重合体表面上に単分子層(自己組織化した単分子層)を生起させる界面活性剤である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
リガンド−レセプター対が、タンパク質、核酸、糖タンパク質、炭水化物、ホルモンから選択される、請求項1〜2のいずれか1項記載の方法。
【請求項4】
分子のリガンド−レセプター対が、抗体/抗原、酵素/インヒビター、炭水化物/炭水化物、タンパク質/DNA、DNA/DNA、ペプチド/ペプチドから選択される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
レセプターが、公知の技術による方法、例えば化学的方法または電磁波照射もしくはプラズマ処理方法を通じ、固定化および/または化学的に修飾される、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
固体材料の表面に接触し、レセプターおよび/またはリガンドの機能を有する分子または分子的複合体を含有する溶液が、場合により、透明または混濁および/もしくは吸収性である、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
固体材料の表面が、表面粗さの深さおよび幅として10ナノメートル〜3ミリメートルという特徴的なサイズを有する、規則的もしくは不規則な粗さを呈し、リガンド−レセプター相互作用の存在下に表面から放出される光の強度が、幾何学的な反射の方向のみならず、幾何学的な反射と異なる方向でも測定される、請求項1〜6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
リガンド−レセプター相互作用の存在下における反射光の信号と、光の反射および分散によるバックグラウンドノイズとの比率が最適化されるように、入射する光の入射角度および偏光が選ばれる、請求項1〜7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
リガンド−レセプター相互作用の存在下における反射光の信号と光の反射および分散によるバックグラウンドノイズとの比率が最適化されるように、配向が選択される偏光子によって反射光がフィルタリングされる、請求項8記載の方法。
【請求項10】
重合体アモルファス材料の表面が、流動なしで測定を行うためのセルに組み込まれ、または流動セルに組み込まれ、または浸漬プルーブに組み込まれる、請求項1〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
重合体材料の表面が、異なるレセプターを吸着または固定化する、より小さい面積に分割される、請求項1〜10のいずれか1項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−530600(P2009−530600A)
【公表日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−558935(P2008−558935)
【出願日】平成19年3月14日(2007.3.14)
【国際出願番号】PCT/IB2007/000618
【国際公開番号】WO2007/105081
【国際公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【出願人】(503047641)ウニヴェルシタ’ デリ ストゥディ ディ ミラノ (6)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITA’ DEGLI STUDI DI MILANO
【Fターム(参考)】